2022/08/15

🇲🇹糖尿病

血糖値が高い状態が持続する疾患

糖尿病とは、主に血液中のブドウ糖の量を調節するインシュリン(インスリン)が不足するために、血糖値が異常に高くなることで起きる疾患。

2006年に厚生労働省が実施した調査によると、糖尿病患者やその予備軍と推定される人数は1870万人。調査は20歳以上の成人の血液検査において、血液中のブドウ糖濃度である血糖値の傾向を測る「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」の数値で判定したもので、6.1パーセント以上の「糖尿病が強く疑われる人」は約820万人、5.6パーセント以上6.1パーセント未満の「可能性が否定できない人」約1050万人と合わせると、計1870万人。

02年の調査の1620万人に比べると250万人、1997年の調査の1370万人に比べると500万人増えました。特に40歳以上の人では、その10人に1人以上が糖尿病であると見なされ、糖尿病は国民病化しています。

糖尿病でない人では、食後、食物に由来するブドウ糖やアミノ酸が体に吸収されると、膵(すい)臓からホルモンのインシュリンが分泌されます。このインシュリンの働きにより、食物から吸収されて血液に入ったブドウ糖が筋肉組織などへ取り込まれ、血糖が一定値以上に上昇しないようになっています。このインシュリンによる血糖低下作用が弱くなると、糖尿病になります。

糖尿病の人では、インシュリン作用の低下のため、食事として摂取したブドウ糖が筋肉などの細胞に入っていきにくくなるため、細胞内でエネルギー不足を来すとともに、ブドウ糖はそのまま血液中にとどまって血糖値が高くなり、尿の中に糖があふれ出るようになります。

また、ブドウ糖などの糖質だけでなく、蛋白(たんぱく)質や脂質の利用まで障害されるために、高血糖や、血液中の脂肪が異常に増加する高脂血症となり、それらにより血管や神経が障害されて、いろいろな合併症が出現します。

糖尿病は、1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)という2つのタイプに大別されます。

1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島の中にあるβ(ベータ)細胞が破壊され、インシュリン分泌がほぼゼロになってしまうことで発症するタイプ。原因としは、ウイルス感染、自己免疫性、特発性(原因不明)などがあります。

インシュリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであり、そのホルモンが体内で作られないわけですから、外からインシュリンを補充しなければ、血糖値はどんどん上昇してしまいます。従って、1型糖尿病の人は、生存のために毎日のインシュリン注射が絶対に必要になります。発症は小児や若い人に多くみられますが、中高年にも認められることがあります。

2型糖尿病は、インシュリン分泌が低下しやすく糖尿病になりやすい体質を持っている人に、過食、運動不足、肥満、ストレス、加齢のほか、発熱、過労、手術、薬の服用、ほかの疾患の影響、妊娠など、インシュリンの作用を妨害するような引き金が加わって発症するタイプ。

日本人の糖尿病の約9割がこのタイプに当てはまり、生活習慣病の一つとされています。この2型糖尿病では、親や兄弟にも糖尿病にかかっている人がいることが多く、遺伝的要素が強く関係していると見なされています。

過食など発症の引き金となる複数の因子の中では、とりわけ肥満が深く関係しています。調査によると、2型糖尿病患者の約3分の2は、現在肥満であるか、過去に肥満を経験しています。実際、肥満者ではインシュリンの血糖低下作用が弱まっていることも、明らかにされています。

脂肪を蓄積する細胞である脂肪細胞からは、インシュリンの作用を妨害する遊離脂肪酸やTNFと呼ばれる物質などが分泌されていますので、肥満して脂肪細胞が増えると、せっかく分泌されたインシュリンがうまく働くことができなくなり、血糖値が上昇するようになるのです。 中年以降の発症例の多くは、2型糖尿病です。

糖尿病の症状は気付きにくく、血糖値が多少高いくらいでは、全く自覚症状のない人がほとんど。徐々に悪化し、血糖値がかなり高くなってくると初めて、のどが渇く、トイレが近くなる、尿の匂いが気になる、できものができやすい、傷が治りにくい、足がつる、また細胞のエネルギー不足によって体がだるい、疲れやすい、食べてもやせるといった症状が現れてきます。血糖値が極めて高い状態では、昏睡(こんすい)に陥ることもあります。

自覚症状がないからと糖尿病を放置していると、高血糖が全身のさまざまな臓器に障害をもたらします。特に、眼の網膜、腎(じん)臓、神経は障害を受けやすく、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害は糖尿病の三大合併症(余病)と呼ばれています。

網膜症が起こっても最初は自覚症状はありませんが、血糖値の悪化に伴い、視力障害が現れ、失明に至ることがあります。

腎症も最初は少量の蛋白(たんぱく)尿が出るだけですが、徐々に体内に水分や毒素がたまるようになり、むくみ、尿毒症が現れ、最終的には人工透析によって血液をきれいにしたり、水分量等を調節したりしないと生きていけなくなります。

神経障害が起きると、手足のしびれ、痛み、感覚鈍麻(どんま)、発汗異常、勃起(ぼっき)障害、便秘、下痢などが起こります。

一般的に、糖尿病になってから5~6年で神経障害が、7~10年で網膜症が、15年程度で腎症が出現します。

同時に、高血糖によって動脈硬化が進むため、狭心症、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞が起こる率が高まります。足の血管の閉塞(へいそく)や壊疽(えそ)により、足を切断しなければならないケースも起こります。

糖尿病の本当の怖さは、この合併症なのです。しかし、 放置せずに、しっかり治療して、状態を良好にコントロールすれば、糖尿病でない人と同じ健康な生活が送れます。

糖尿病の検査と診断と治療

医師による糖尿病の診断は、主に血液検査で血糖値を調べることで、血糖値が正常である「正常型」なのか、糖尿病である「糖尿病型」なのか、その中間の「境界型(耐糖能異常)」であるのか、型の区分を判定します。はっきりしない場合には、75gの糖分を含む飲料を飲んで、型の区分を判定することもあります。これは、75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)と呼ばれる検査です。

 型の区分には、以下の(1)~(5)の判定基準が用いられます。

(1)早朝空腹時血糖値126mg/dl以上

(2)75gOGTTの2時間値が200mg/dl以上

(3)随時血糖値200mg/dl以上(随時とは、食後の任意の時間のことをいいます。食前でもかまいません。)

(4)早朝空腹時血糖値110mg/dl未満

(5)75gOGTTの2時間値が140mg/dl未満

(1)~(3)のいずれかの血糖値が確認された場合には、「糖尿病型」と判定します。(4)および(5)の血糖値が確認された場合には、「正常型」と判定します。「糖尿病型」と「正常型」のいずれにも属さない場合には、「境界型」と判定します。

別の日に行った検査で「糖尿病型」が再確認された場合には、糖尿病と診断します。ただし、次の(1)~(4)のいずれかがある場合は、1回の検査で「糖尿病型」であれば、糖尿病と診断していいことになっています。

(1)糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在

(2)HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6.5パーセント以上(HbA1cとは、過去1~2カ月間の平均血糖値を示す指標。赤血球に存在し、酸素を運搬する役割を持つヘモグロビンの中で、ブドウ糖が結合しているものの割合を意味します。正常値は4.3~5.8パーセントで血糖値が高いほど、HbA1cは高くなります。)

(3)確実な糖尿病性網膜症の存在

(4)過去に「糖尿病型」を示した資料がある場合

糖尿病治療の第一の目標は、血糖値を正常に保つようにコントロールして合併症を予防することで、食前血糖80-120 mg/dl、食後血糖100-160mg/dl、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)5.8パーセント以下程度と考えられます。

血糖値を正常に近付ければ近付けるほど、合併症が出る心配が少なくなります。また、特に2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、高血圧症や脂質異常、肥満を合併しやすいので、これらの治療も必要です。

糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法があります。食事療法、運動療法が治療の基本ですが、これらだけで血糖値が下がらない場合に薬物療法を併用します。

 食事療法

性別、年齢、肥満度、活動量、血糖値、合併症の有無などを考慮し、1日のエネルギー摂取量を決めます。決められたエネルギー摂取量内で炭水化物、蛋白質、脂質のバランスを取り、適量のビタミン、ミネラルも摂取して、いずれの栄養素も過不足ない状態にします。

とりわけ、肥満はインシュリンの作用を妨害するため糖尿病にとっては大敵ですので、栄養素をバランスよく取りながら標準体重を維持するために、食事療法が必要となります。また、弱まったインシュリンの働きに合わせた食事の量にすることも必要です。そうすれば、食物は体内でほぼ完全に利用され、余分なブドウ糖が血液中にあふれ出ることはありません。

 運動療法

運動療法も、ブドウ糖をよく利用する筋肉を増やし、インシュリンの作用を妨害する脂肪を減らし、また肥満を是正するなどの利点があり、糖尿病の治療には重要なものです。

中程度の全身運動、すなわち50歳代であれば脈拍が1分間に110程度になるような運動を、毎日30分以上行うと効果があります。1回15~30分間、1日2回で、計1日7000歩程度の歩行運動が、中程度の全身運動に相当します。

血糖コントロールが極端に悪い場合、網膜症の状態が悪い場合、腎不全のある場合、心臓や肺などの機能に障害のある場合などは、運動療法を制限したほうがいいため、個々の人に適した運動療法をすることが必要です。

 薬物療法

1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)の人は、体内でインシュリンがほとんど分泌されないので、インシュリンを注射で投与する必要があります。

また、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、食事療法および運動療法で血糖値が十分に正常化しない場合、飲み薬やインシュリンの注射が必要になります。

飲み薬には、経口血糖降下薬、SU薬(スルホニル尿素薬)、 速効性インスリン分泌促進薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、インスリン抵抗改善薬があります。

インシュリンには、速効型インシュリン、超速効型インシュリン、中間型インシュリン、持効型インシュリン、さらに、速効型インシュリンや超速効型インシュリンと中間型インシュリンがいろいろな比率で混ざっている混合型インシュリンがあります。

一般的に、食後に分泌されるインシュリンを補充するためには、速効型インシュリンや超速効型インシュリンを毎食前に使用します。また、人の膵臓からは食事と関係なく一定のスピードでインシュリンが分泌されているのですが、このインシュリンを補充するためには、中間型インシュリンや持効型インシュリンを使用します。

発症者の生活上の注意

血糖値をできるだけ正常値に近付けることで、高血糖によって起こる恐ろしい、さまざまなな合併症を防ぐことができますので、早期に糖尿病を発見し、治療することが大切となります。

しかし、治療によって一時的に血糖値が下がったとしても、血糖値が上がりやすいという遺伝的な体質や、一度破壊されたβ細胞の機能は正常に戻るわけではありませんので、治療を中断するとすぐに血糖値は高くなってしまいます。

そのためにも、定期的に受診して、一生治療を続けながら生活をしていくことが大切です。糖尿病のコントロール状態を知るため、発症者本人が体重測定、尿糖測定、場合によっては血糖測定をする必要もあります。

定期的な受診でも、血糖、検尿、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)などの検査をします。このうち、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)では、採血前の1カ月間の平均的な血糖の状態がわかります。このほか、高脂血症やいろいろな合併症に関する検査も、定期的に受ける必要があります。

🇲🇹糖尿病性昏睡

糖尿病の急性合併症で、血糖値が著しく上昇して意識を失う状態

糖尿病性昏睡(こんすい)とは、糖尿病の急性合併症で、血糖値が著しく上昇して500mg/dl以上になり意識を失う状態。

昏睡に陥る切っ掛けは、糖尿病の治療を放置した状態にある人に感染が加わったり、ストレスや疲労、暴飲暴食によって血糖値が上昇したり、インシュリンの注射を中止したり、インシュリンの注射の量が適切でなかったりと、いろいろなケースがあります。

病態によって、主に糖尿病性ケトアシドーシス(ケトン性糖尿病性昏睡、ケトン性昏睡)と、高血糖性高浸透圧状態(非ケトン性高浸透圧性昏睡)に分類されます。

糖尿病性ケトアシドーシスは、インシュリンの絶対的不足に伴って細胞内の糖が欠乏し、慌てて脂肪酸からエネルギーを取り出そうとするために、副産物として生じる弱酸性のケトン体が全身性の代謝性ケトアシドーシスを引き起こし、血液が酸性に傾いて起こります。口の渇き、低体温、多尿、脱力感に続いて、腹痛、嘔吐(おうと)が2〜3日あり、次第に意識が消失していきます。統計的には、1型糖尿病の患者に多くみられます。

一方、高血糖性高浸透圧状態は、高血糖に脱水が加わって起こります。尿中の糖が多くなると、糖の濃度を薄める方向に血液中から水が流れ込みます。その結果として、細胞内脱水が起こります。 意識障害が主症状で、高齢者はそもそも脱水状態になりやすいので、この病態にもなりやすい傾向があります。統計的には、高齢の2型糖尿病の患者に多くみられます。

上記2つの高血糖による意識障害のほか、糖尿病患者は治療薬の副作用によって低血糖による意識障害や、乳酸アシドーシスを呈する場合もあります。

糖尿病性昏睡は早く治療を開始しないと死亡するため、糖尿病の悪化症状がある時は、すぐに医師に連絡をとる必要があります。

予防するためには、糖尿病に体する正しい知識を身に着け、常に糖尿病をよいコントロールの状態に置いておくことです 。

🇲🇹糖尿病性神経障害

糖尿病の3大合併症の一つ

糖尿病性神経障害とは、網膜症、腎症と並んで、高血糖の状態が長く続くことによって起こる糖尿病の3大合併症の一つです。

高血糖によって、体の隅々に広がっている「末梢神経」の働きが低下してきます。末梢神経には、痛みなどを感じる「知覚神経」、筋肉を動かす「運動神経」、内臓の働きを整えたり、体温を調節したりする「自律神経」の3つがあります。この3つの神経の働きが低下してくるために、全身に様々な症状が現れてきます。

3大合併症の中で神経障害だけは、手足のしびれなどの自覚症状が初期の頃から現れてきます。症状が軽いからといって放置していると悪化の一途をたどってしまいますが、重症でない限りしっかりとした血糖コントロールを続ければ、症状を改善することが可能な合併症です。

糖尿病性神経障害を含む、糖尿病における合併症は、以下のように分類することができます。

【糖尿病の合併症】

 分類 

 合併症

     特 徴

急性合併症

糖尿病性

昏睡(こ

んすい)

糖尿病性

ケトアシ

ドーシス

性昏睡

Ⅰ型糖尿病が発症した時やインスリン治療を中断した時にインスリンが不足することによって、血液が酸性(ケトアシドーシス)になり、のどが渇いて水分を多量に飲み、尿の量が多くなります。脱水症状がみられ、さらに進行すると、血圧が下がるとともに意識障害が出て、最終的には昏睡に至ります。

発症しやすいⅠ型糖尿病の患者さんは、要注意です。

高浸透圧

性非ケト

ン性昏睡

Ⅱ型糖尿病患者が感染症や脳血管障害、あるいは外科手術などをきっかけに、血糖の上昇と水分の補給不足を起こして、脱水状態となります。さらに進行すると、意識障害も起こります。

発症しやすい高齢のⅡ型糖尿病の患者さんは、要注意です。

低血糖

血糖値が低くなりすぎた状態で、糖尿病の治療薬の副作用として起こります。発汗、いらいら感などがみられ、さらにひどくなると腹痛や吐き気、けいれんや意識を失うこともあります。

慢性合併症

糖尿病性

神経障害 

身体の隅々まで伸びている末梢神経が障害されるため、手足のしびれや痛み、感覚の鈍化、下痢や便秘、顔面神経麻痺など全身に種々の症状が出てきます。

糖尿病性

網膜症

網膜の細い血管に障害が起こり、視力が低下していきます。最悪の場合は、失明することもあります。

糖尿病性

腎症

腎臓の機能が障害されるため、尿中に蛋白が混じってきます。さらに腎機能が悪化して腎不全になると、人工透析が必要になります。

動脈硬化

血糖が高い状態にして置くと、血管が固くなるとともに、詰まりやすい状態(動脈硬化)になるため、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくなります。糖尿病における最大の死亡原因は、この脳卒中や心筋梗塞です。  

糖尿病性神経障害の症状は

血糖の高い状態が続いていると、まず手や足先の神経から障害が起こります。症状としては、手足のしびれや痛み、足先の異常な冷え、足底部が皮をかぶった感じ、砂利の上を歩いているような感じといったものがあります。

これらの症状は比較的軽いため放置したり、市販薬で治療する患者さんもいますが、この段階で適切な治療を受けないと、症状はどんどん悪化して、全身の筋肉の委縮、顔面神経麻痺、便秘や排尿障害、立ちくらみ、インポテンツといった症状が起こってきます。

さらに進行すると、症状はますます重くなり、手足のしびれや痛みのために夜眠れない、火傷(やけど)や靴ずれに気が付かず放置していたために細菌感染を起こし、その部分の組織が一部死んでしまう状態の壊疽(えそ)にまで発展することもあります。ひどくなれば、足を切断することにもなります。

こういった状態にならないために、症状が軽いうちから治療を始めることが必要となります。

【糖尿病性神経障害の分類】

分類

      原 因  

      症 状 

多発性神経障害

(知覚・運動神経の障害) 神経細胞内にソルビトールという物質が蓄積されることで、神経障害が起こるとされています。 

しびれ、冷感、神経痛、感覚麻痺、こむらがえりなど

自律神経障害

上記と同じ

発汗異常、立ちくらみ、便秘、下痢、胆のう収縮能低下、尿意を感じない、インポテンツなど

単一性神経障害

細い血管が詰まって、神経に血液が通わなくなることで、神経障害が起こるとされています。

顔面神経、外眼筋・聴神経の麻痺や四肢の神経障害など 

検査と診断

糖尿病で神経障害を合併しないためには定期的に検査を受け、予防することが大切です。自覚症状が現れた時には、その症状が神経障害によるものなのか、別の病気によるものなのかを決めるために、詳しい検査を受けることになります。

また、医師の側は問診の時に自覚症状を詳しく聞き、下記の検査を適時実施して総合的に診断を行います。

【神経障害を調べるための検査】      

    検査項目

       特  徴 

末梢神経伝導速度

末梢神経による刺激の伝わる速度を測定する検査。

神経障害になると、刺激の伝わり方が遅くなります。腕にある正中神経の運動神経伝導速度が50m/秒以下、感覚神経伝導速度が45m/秒以下の場合は、自覚症状が出ていなくても神経障害が始まっていると判断できます。 

振動覚閾値(しんどうかくいきち)

物が振動していることを感じる神経の働きを調べる検査。

アキレス腱反射

神経による刺激の伝達能力を確かめる検査。

神経障害が起こると、アキレス腱反射がなくなります。神経障害を調べる検査中、最も簡単にできるものです。

呼吸心拍変動係数

自律神経の働きを調べる検査。

安静時と深呼吸をした時の心電図を比較して、脈拍に変動があるかを調べます。正常な人は深呼吸をした時に脈拍の変動が大きくなりますが、自律神経に障害が起きると、この変動が少なくなります。

治療の基本は血糖コントロール

糖尿病性神経障害の治療の基本は、血糖コントロールを良好に保つことです。食事療法・運動療法・薬物療法により血糖コントロールを厳格に行わなければ、神経障害に対する薬物治療を行なっても、満足のいく効果は期待できません。

症状が軽い初期の頃ならば、血糖コントロールを正常化するだけで、神経障害の諸症状を改善することができることもあります。また、神経障害の治療には、神経障害を起こしている原因物質とされるソルビトールの産生を抑えるアルドース還元酵素阻害薬があります。

これらの治療を始めると、一時的に痛みが悪化することもあります。治療後神経障害といわれるものですが、この詳しい原因はまだわかっていません。治療の途中で一時的に症状が悪化することがあるということを理解し、痛みがひどくなったからといって自己判断で治療を中止することなく、治療を続けるようにしましょう。

【糖尿病性神経障害の諸症状改善に使われる代表的な薬】

    分 類

       特  徴 

アルドース還元酵素阻害薬

神経障害を起こすとされている原因物質(ソルビトール)の産生を抑えることで、疼痛やしびれ感などを改善します。

整腸薬

自律神経障害によって起こる下痢や便秘の症状を緩和します。

鎮痛薬  

知覚神経障害によって起こる痛みを緩和します。しかし、鎮痛剤を服用しても痛みが緩和されない場合は、抗けいれん薬の投与が行われています。

ソルビトールとアルドース還元酵素

ソルビトールは、リンゴ、ナシなどの果物や海藻類など含まれている糖アルコールと呼ばれる物質で、虫歯になりにくい甘味料としても利用されています。一方、アルドース還元酵素は、体内に存在している酵素で、ふだんはあまり働かない酵素なのですが、血糖値が高くなると、突然働き出し、体内にある余分なブドウ糖に作用して、ソルビトールを作り出します。

ソルビトールは、元来体内にも存在しているので、少ない量では人の健康に害を与えることはありません。高血糖が続き、細胞内に貯まっているブドウ糖を減少させようとアルドース還元酵素が働き始めると、ソルビトールが多量に作り出されるため、細胞内にソルビトールが蓄積され、障害が起こるとされています。

アルドース還元酵素は、末梢神経、網膜、水晶体、脳、肝臓、すい臓、赤血球、副腎などで多く存在することが認められています。つまり、このような細胞(臓器)は糖尿病の合併症が出やすいところであり、アルドース還元酵素の存在するところと一致しています。

【アルドース還元酵素阻害薬の作用】

アルドース還元酵素阻害薬は、ブドウ糖からソルビトールを作り出すアルドース還元酵素の働きを妨げることによって、細胞内でのソルビトールの生成を抑制します。これによって、細胞内へのソルビトールの蓄積が抑えられ、糖尿病性神経障害における自覚症状や神経機能の異常を改善するとされています。

糖尿病性神経障害と診断されたら

1. 主治医の先生と相談して、症状にあった治療を早めに受けましょう。

2. 低血糖・高血糖になりやすいので、血糖値をこまめに測定し、良好な状態に保つように心掛けましょう。

3. 毎日、足をまめにチェックして、壊疽(えそ)を起こさないように注意しましょう。

4. 立ちくらみを防止するために、 寝ている姿勢から一気に起きあがらないようにしましょう。また、長風呂は避けるようにしましょう。

5. アルコールは神経障害を悪化させます。禁酒に心掛けましょう。

6. たばこは血流を悪化させるため、 心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。禁煙に心掛けましょう。

🇦🇱糖尿病性腎症

糖尿病によって腎臓の機能が悪化する疾患

糖尿病性腎症(じんしょう)とは、糖尿病によって腎臓の糸球体(しきゅうたい)が細小血管障害のため硬化して、数を減じていく疾患。糖尿病性神経障害、及び糖尿病性網膜症とともに、糖尿病に特有な3大合併症の一つです。

3大合併症はいずれも細い血管障害が主体となっているので、糖尿病性細小血管症と総称されることもあります。ちなみに、糖尿病の他の合併症では、糖尿病性大血管症としての動脈硬化症が重要です。動脈硬化症が進行すると、脳血管障害、虚血性心疾患、壊疽(えそ)などの重症の疾患に結び付きます。

糖尿病性腎症が進行した場合は、腎機能が低下するため、現在では透析療法を受ける人の原因疾患の第1位を占めています。糖尿病になって10年以上経過してから、徐々に蛋白(たんぱく)尿が現れ、やがてネフローゼ症候群となって、むくみを来し、腎機能が悪化してくるのが典型的です。

根本的な原因は、糖尿病による高血糖で、腎臓の糸球体の毛細血管が傷むことにあります。この糸球体は、非常にたくさんの毛細血管が糸を巻いた毬(まり)のように寄り集まっている腎臓中の主要構成組織であり、また、血液中の不要な老廃物を尿に濾過(ろか)して排泄(はいせつ)するという腎臓の最大の機能の担い手です。糸球体の毛細血管は、糖尿病で血糖が高い状態が続くと、次第に硬化して、数を減じてきます。そのために、本来は体外に排泄されるはずの老廃物が、体内にとどまってしまいます。

かなり進行してからでないと、糖尿病性腎症の自覚症状は現れません。従って、むくみなどの自覚症状が出現した場合は、かなり進行していることになります。腎機能が悪化し腎不全になると、体内への尿毒症物質の蓄積による尿毒症が出現して、頭痛、吐き気、立ちくらみなどを生じます。

糖尿病性腎症の病期分類は、5期に分かれています。蛋白尿と腎機能が指標になっており、第2期以降を臨床的に糖尿病性腎症と呼んでいます。

第1期(腎症前期)

症状はありません。医学的な異常所見も見当たりません。糖尿病を発症した時点で、第1期と解釈することができます。

第2期(早期腎症)

第1期から5~15年で発症します。自覚症状はありません。

第3期(非代償性腎不全)

第3期A

尿検査用試験紙で、尿蛋白が陽性となります。自覚症状は通常ありません。

第3期B

続発性ネフローゼ症候群を呈します。低アルブミン血症によるむくみや、うっ血性心不全を生じます。

第4期(腎不全期)

むくみに加え、倦怠(けんたい)感、悪心、精神的不安定、掻痒(そうよう)感などの尿毒症症状が生じ始めます。インシュリンは腎臓で一部代謝、排泄されるため、この病期に至ると腎機能低下に伴い、体内にインシュリンが蓄積し、血糖コントロールに内服薬やインシュリンが不要になることもあります。

また、一部の血糖降下薬は活性代謝物がたまり、遷延(せんえん)性の低血糖を起こしやすくなるため注意が必要です。

第5期(透析療法期)

腎機能が廃絶するため、透析療法を行わないと尿毒症症状が容易に生じて、死に至ります。

糖尿病性腎症の検査と診断と治療

糖尿病を発症しても、なかなか治療に専念しない人も多く見受けられます。血糖値が高くても、糖尿病自体の自覚症状はないことが多いためです。しかし、高血糖や高血圧を放置しておくと、いつの間にか糖尿病性腎症を始めとする糖尿病合併症にかかっていることもあり、治療に苦慮する場合も少なくありません。

つまり、糖尿病合併症にならないような予防的な考え方で、糖尿病自体を治療する必要があります。もし糖尿病性腎症になったとしても、やはり血糖値を安定させ血圧も安定させることが、最も大切になります。そして、できる限りの早期発見、早期治療が、腎機能の悪化を防ぎます。

医師による糖尿病性腎症の診断は、尿中アルブミン排泄量の検査で行います。アルブミンは蛋白質の一つですが、一般的に使われている検査法である試験紙法で尿蛋白が陰性であっても、精密に測定すると尿中にアルブミンが出てきていることがあります。

具体的には、随時、尿でアルブミン(mg/dl)とクレアチニン(g/dl)の測定を行い、その比(アルブミン/クレアチニン)が30~300mg/g・Crの範囲にあることを微量アルブミン尿と呼んでいて、病期では第2期(早期腎症)に相当します。

また、腎機能はクレアチニンクリアランスで表され、正常では80~110ml/分で、腎機能が低下すると数値が低くなります。

検査には、腎臓生体針検査(病理検査)、腎臓超音波検査もあります。

基本的な治療法は、まず血糖値の正常化と血圧の正常化です。この血糖コントロールと血圧コントロールは、どの病期でも行われる治療法です。

血糖コントロール

食事療法と運動療法が基本となり、必要に応じて糖尿病薬を使用します。第4期(腎不全期)以降では、原則として経口薬は使用せず、インシュリン注射を使用します。また、運動療法は、第3期(非代償性腎不全)B以降は制限が必要です。

血糖コントロールの目標は、食前血糖値120mg/dl未満、食後2時間血糖値180mg/dl未満、HbA1c6・5%未満です。

血圧コントロール

糸球体の肥厚や硬化を防ぐために、糸球体内圧を下げるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗(きっこう)薬を用いることが推奨されていますが、全身の血圧も十分降圧する必要もあり、カルシウム拮抗薬などとの併用療法が必要になることも多いのが現状です。

血圧コントロールの目標は130/80mmHg未満ですが、可能ならば120/70mmHg未満を目標にします。

蛋白質摂取

食事中の蛋白質摂取量に関しては、第3期(非代償性腎不全)~第4期(腎不全期)にかけては制限したほうがよいと考えられています。具体的には、標準体重1kg当たり通常は1・0~1・2g/日のところを、0・8~1・0g/日あるいは0・6~0・8g/日まで段階的に制限していく方法が一般的です。

塩分摂取

塩分に関しては、高血圧が存在する場合は、第1期(腎症前期)から7~8g/日の制限が必要です。第3期(非代償性腎不全)以降は高血圧の有無にかかわらず、5~6g/日の制限が推奨されています。/P>

食塩の取りすぎは、むくみを誘発し、血圧にもよくありません。水の飲みすぎにも、注意しなければなりません。

🇦🇱糖尿病性ニューロパチー

糖尿病が原因となって、体中に分布する末梢神経に障害が起こった状態

糖尿病性ニューロパチーとは、糖尿病が原因となって、体の隅々に広がっている末梢(まっしょう)神経に障害が起こった状態。糖尿病性末梢神経障害とも呼ばれます。

末梢神経には、痛みなどを感じる知覚神経(感覚神経)、筋肉を動かす運動神経、内臓の働きを整えたり、体温を調節したりする自律神経の3つがあります。この3つの神経が障害され、働きが低下してくるために、全身にさまざまな症状が現れてきます。

糖尿病の経過年数が長いほど、また疾患のコントロールが悪いほど、血糖の高い状態が続くため、まず手や足先の神経から障害が起こります。症状としては、手足のしびれや痛み、足先の異常な冷え、足底部の感覚低下といったものがあります。

これらの症状は比較的軽いため放置したり、市販薬で治療する人もいますが、この段階で適切な治療を受けないと、症状はどんどん悪化して、全身の筋肉の委縮、顔面神経まひ、便秘や排尿障害、立ちくらみ、インポテンツといった症状が起こってきます。

さらに進行すると、症状はますます重くなり、手足のしびれや痛みのために夜眠れなくなったり、やけどや靴擦れに気が付かず放置していたために細菌感染を起こし、その部分の組織が一部死んでしまう状態の壊疽(えそ)にまで発展することもあります。ひどくなれば、下肢を切断することにもなります。

糖尿病で糖尿病性ニューロパチーを合併しないためには、定期的に検査を受け、予防することが大切です。疾患のコントロールが悪く、糖尿病性ニューロパチーの自覚症状が現れた時には、軽いうちから内科、ないし神経内科の専門医を受診し、治療を始めることが必要となります。

糖尿病性ニューロパチーの検査と診断と治療

内科、ないし神経内科の医師による診断では、問診で自覚症状を詳しく聞き、その症状が糖尿病性ニューロパチーによるものなのか、別の疾患によるものなのかを決めるために、詳しい検査を行います。

検査には、末梢神経による刺激の伝わる速度を測定する末梢神経伝導速度検査、物が振動していることを感じる神経の働きを調べる振動覚閾値(いきち)検査、神経による刺激の伝達能力を確かめるアキレス腱反射検査、自律神経の働きを調べる呼吸心拍変動係数検査などがあります。

内科、ないし神経内科の医師による治療の基本は、血糖コントロールを良好に保つことです。食事療法、運動療法、薬物療法により血糖コントロールを厳格に行わなければ、末梢神経障害に対する薬物治療を行っても、満足のいく効果は期待できません。

症状が軽い初期ならば、血糖コントロールを正常化するだけで、末梢神経障害の諸症状を改善することができることもあります。また、末梢神経障害の治療には、神経障害を起こしている原因物質とされるソルビトール(糖アルコール)の産生を抑えるアルドース還元酵素阻害薬(キネダック)があります。

これらの治療を始めると、一時的に痛みが悪化することもありますが、この詳しい原因はまだわかっていません。治療の途中で一時的に症状が悪化することがあるということを理解し、痛みがひどくなったからといって自己判断で治療を中止することなく、治療を続けるようにします。 

また、自律神経障害によって起こる下痢や便秘の症状を緩和するために整腸薬、知覚神経障害によって起こる痛みを緩和するために鎮痛薬が投与されます。鎮痛剤を服用しても痛みが緩和されない場合は、抗けいれん薬が投与がされます。末梢神経障害を進行させないよう、ビタミン剤や血液の流れを改善する末梢血管拡張剤が投与されることもあります。

糖尿病性ニューロパチーと診断されたら、

1. 医師と相談して、症状に合った治療を早めに受けましょう。 

2. 低血糖、高血糖になりやすいので、血糖値をこまめに測定し、良好な状態に保つように心掛けましょう。

3. 毎日、足をまめにチェックして、壊疽を起こさないように注意しましょう。

4. 立ちくらみを防止するために、 寝ている姿勢から一気に起き上がらないようにしましょう。また、長風呂は避けるようにしましょう。

5. アルコールは末梢神経障害を悪化させます。禁酒に心掛けましょう。

6. たばこは血流を悪化させるため、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞を起こしやすくなります。禁煙に心掛けましょう。

🇦🇱糖尿病性網膜症

糖尿病のために網膜の血管が障害される疾患

糖尿病性網膜症とは、糖尿病によって目の網膜などに各種の変化を来し、視力低下を認める疾患。糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症(じんしょう)と並んで、糖尿病の3大合併症の一つに数えられます。

かつては日本人の中途失明の原因として最多でしたが、平成18年に緑内障に次ぐ第2位となりました。しかし、糖尿病性網膜症による失明人数は年間約3000人で、毎年増加していますし、緑内障の原因の一部には糖尿病性新生血管(血管新生)緑内障も含まれています。

糖尿病性網膜症は通常、糖尿病を発症して5年以後に出現する合併症ですが、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)では発症がいつかはっきりしないこともあり、糖尿病と初めて診断された時点で、すでに30~40パーセントの人に網膜症の合併を認めるとする報告もあります。従って、2型糖尿病では、糖尿病の初診断時から網膜症のチェックが必要と考えられます。

糖尿病のコントロールが悪いと、糖尿病の罹患(りかん)期間が長くなるとともに網膜症も進行します。糖尿病の発症後20年では、1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)の100パーセント、2型糖尿病の60パーセントの人に網膜症の合併を認めるとする報告もあります。

網膜とは、眼球の底に当たる眼底を覆っている膜です。視神経が集中し、また栄養を運ぶために多くの毛細血管が張り巡らされているため、高血糖状態が長く続くと血管障害を引き起こしやすくなります。

血管障害によって酸素欠乏状態になった網膜からは、血管を自分のほうへ伸ばすホルモンが放出されます。その結果、病的な血管である新生血管が新しくできます。この新生血管は非常にもろいため出血しやすく、それによって目の機能に障害が起きます。

通常、三つの病期に相当する単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症と徐々に進行することが多いのですが、突然進行し、悪化することもあります。

単純網膜症では、眼底の所々に出血が見られたり、血管が閉塞(へいそく)して、こぶができたりします。前増殖網膜症では、眼底の随所に出血が見られ、新生血管が出現します。増殖網膜症では、新生血管が網膜だけでなく硝子体(しょうしたい)にまで増殖し、硝子体出血や網膜剥離(はくり)が生じる場合があります。

初期の頃は、多くは無症状で経過します。徐々に、眼底出血や、網膜の中央に位置する黄斑(おうはん)に浮腫(ふしゅ)が生じて、視力低下や、物がゆがんで見える変視症を自覚するようになります。

硝子体出血や広範囲な眼底出血を伴うと、飛蚊(ひぶん)症や急激な視力低下を示します。二次的に増殖膜が形成され、それが網膜を引っ張って牽引(けんいん)性網膜剥離に陥ると、永続的な視力低下や失明に至ることがあります。新生血管緑内障に陥ると、眼痛、不可逆的失明、眼球委縮を示すことがあります。

また、白内障が標準より早く進行します。糖尿病性腎症の悪化に伴い、腎性網膜症を併発し、目の症状が悪化して著しい視力低下を認めることもあります。

糖尿病性網膜症の検査と診断と治療

糖尿病性網膜症の予防、及び進行防止を図るには、糖尿病をきちんと管理し、血糖値を正常範囲に保つようコントロールすることが、最も有効です。

糖尿病の人は、網膜症になっても早期に発見して治療を始められるように、定期的に目の検査を受けるべきです。視力障害の程度は、糖尿病を発症してからの期間や、血糖値のコントロールがどの程度きちんとできているかに左右されます。

医師が糖尿病性網膜症を診断するには、基本となる眼底検査とともに、蛍光眼底造影検査も必ず行います。単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症と進む病期を見極め、どの病期であれ現れる黄斑症を的確に把握するには、蛍光眼底造影検査が不可欠です。

眼底検査と蛍光眼底造影検査は、主に間接眼底鏡を用いて、肉眼的に眼底の状態を診察します。通常、眼底が外部からよく見えるようにするために、瞳(ひとみ)を開く点眼薬を用いて散瞳(さんどう)を行います。散瞳中はピント調節能力が低下するため、自動車の運転は困難となりますので、受診の際の交通手段には注意を要します。

治療法としては、レーザー光凝固術という方法があり、レーザー光線を網膜に照射して、主に網膜の酸素不足を解消し、新生血管の発生を予防したり、すでに出現してしまった新生血管を減らしたりすることを目的として行います。網膜症の進行具合によって、レーザーの照射数や照射範囲が異なります。

このレーザー光凝固術は、すべての網膜が共倒れにならないように正常な網膜の一部を犠牲にして、今以上の網膜症の悪化を防ぐための治療であって、決して元の状態に戻すための治療ではありません。まれに網膜全体のむくみが軽くなるといったような理由で、視力が上がることもありますが、多くの場合、治療後の視力は不変かむしろ低下します。

早い時期であれば、レーザー光凝固術はかなり有効で、将来の失明予防のために大切な治療です。通常は通院で行い、必要に応じて繰り返し行います。

レーザー治療で網膜症の進行を予防できなかった場合や、すでに網膜症が進行して網膜剥離が起こっている場合、傷付いた網膜血管からの大量の出血が続いている場合は、硝子体切除術という治療が必要になることもあります。

眼球に3つの穴を開けて細い手術器具を挿入し、目の中の出血や増殖組織を取り除いたり、剥離した網膜を元に戻したりするものです。顕微鏡下での細かい操作を要し、眼科領域では高度なレベルの手術となります。この手術により、硝子体出血では多くのケースで視力の回復がみられ、網膜剥離でも視力が回復することがあります。

なお、薬物治療もありますが、進行した網膜症にはあまり効果が期待できません。

糖尿病性網膜症がある人では、急激な血糖コントロール、妊娠、腎症の進行、人工血液透析の導入などの際に症状が進行することがあるので、注意して下さい。

🇷🇸頭部脊柱管狭窄症

頭部の脊柱管が狭くなり、中の脊髄や神経根が圧迫される疾患

頭部脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症とは、頸椎(けいつい)を上下に貫いている頭部(頸部)脊柱管が狭くなり、脳から続く脊髄などが圧迫を受け、腕のしびれなどの症状がみられる疾患。頸部脊柱管狭窄症とも呼ばれます。

頭部脊柱管狭窄症は、加齢に伴って起きるため高齢者に多いのが特徴です。頸椎の老化や酷使、炎症、外傷などのために頸椎のクッションの役割を果たしている椎間板が傷んだり、頸椎の骨自体が変形したり、脊柱管の周りにある靱帯(じんたい)が肥厚したりするために脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から枝分かれしていく神経根が圧迫を受けます。また、生まれ付き脊柱管が狭い人の場合、加齢に伴う圧迫が容易に起こるため、30~40歳代で発症することもあります。

症状は、四肢のしびれや痛み、筋力低下などで、脊髄が圧迫されることによるまひが強い場合は、はしがうまく使えないなどの指先での細かい動作の障害、階段の上り下りが不安定などの歩行障害が顕著になります。 悪化すると、排尿障害、排便障害、知覚障害を起こす可能性があります。

症状に心当たりがある場合は、正確な状態を把握をするために整形外科の専門医を受診し、検査をしてもらうことが大切です。

医師による診断では、頸椎の動きや状態、歩き方などを見ます。また、X線、CT、MRIなどの画像による検査で、狭窄している部位の特定などを行います。

軽いしびれなど症状が軽い場合は、安静、薬剤の投与、神経ブロック注射、コルセットの装着、首の牽引(けんいん)療法などにより、症状の改善を図ります。

四肢のまひのため日常生活に障害がある場合、神経のまひ症状が重篤で排尿・排便困難を伴う場合は、手術を行って脊髄、神経根を圧迫している原因を取り除き、症状の軽快や進行予防を図ります。脊柱管狭窄を生じている頸椎はすでに変形しているわけで、これを元の健常な状態に戻すいかなる方法もありません。

手術後は脊髄、神経根のはれを抑えるため、短期間、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を点滴します。一般的には、手術後約3週間で、頸椎装具を装着して歩行が可能になり、頸椎装具は約3カ月間装着します。状態がよければ、手術後できるだけ早くリハビリなどで機能訓練を行います。

後遺症として、脊柱管の狭窄による脊髄や神経根の圧迫がひどく、一部回復できなくなっているような場合は、しびれ、まひが残ります。そのほか、手術により持病の悪化、高齢者の場合は認知症(痴呆〔ちほう〕症)の出現や増悪、肺炎や膀胱(ぼうこう)炎などの併発、床擦れなどが生じる場合もあります。

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