メタノールを飲んだり、吸い込んで引き起こされる食中毒
メタノール中毒とは、酒(エタノール)と間違えるなどしてメタノールを誤って飲んだり、管理の悪い工場や事故などで高濃度のメタノールの蒸気を吸い込んで、引き起こされる食中毒。
メタノールはアルコールの一種で、別名としてメチルアルコール 、木精、カルビノールメチールとも呼ばれます。
このメタノールは、アルコールランプなどの燃料、自動車のフロントガラス用などの洗浄剤、溶剤として、またフェノール樹脂、接着剤、酢酸、ホルマリンなど各種の化学薬品、医薬品の原料として広く用いられています。そのために、誤飲する機会も多く、工場などで急性、慢性に吸入することも多くあります。
エタノールと同様に、メタノールも体に入ると酔いをもたらします。ただし、エタノールが体内で比較的害の少ないアセトアルデヒドから無害の酢酸に分解されるのに対して、メタノールは有害なホルムアルデヒドから有害な蟻酸(ぎさん)に分解されます。
この蟻酸がたまることにより、視神経を傷付けて、視力障害さらには失明を引き起こします。それ以外に、急性下痢、吐き気、嘔吐(おうと)、腹痛、出血性胃炎、急性膵(すい)炎、頭痛、めまいなど、さまざまな症状を引き起こします。
急性中毒の場合、メタノールを故意に、あるいは間違って飲んだり、吸い込んだりしてから半日〜1日程度は、エタノールを飲んだ時と同じような酔いが起こるだけで、ほかには特に症状は出ません。ただし、吸い込んだ場合には、目や鼻の刺激を覚えることがあります。
翌日から吐き気、嘔吐、頭痛、めまいのほか、目がかすんだり、物が二重に見えたりし始めます。また、血液が酸性になる代謝性アシドーシスも生じます。1週間以内に、視神経委縮と視野狭窄(きょうさく)のため著しい視力障害が起こり、しばしば症状が進んで失明します。
多量に摂取した場合は、けいれん、循環障害、呼吸まひを起こし、死ぬこともあります。慢性中毒の場合は、視力障害が起こります。
メタノール中毒の検査と診断と治療
メタノール中毒に気付いたら、まずできるだけ吐かせ、次に酒(エタノール)をたくさん飲ませて、症状がなくても必ず救急病院に搬送します。
医師による急性中毒の診断では、発症者の話をよく聞いて、飲んだり吸い込んだりしたものがメタノールであることを知ることが大切です。それが困難な場合は、尿中にメタノールを検出することが役立ちます。さらに、目などの症状と代謝性アシドーシスが診断の手掛かりになります。視力障害がみられる時は、視神経の委縮と視野の狭窄の有無を調べます。慢性中毒の場合は、目の所見と尿中のメタノールの量を調べます。
急性中毒の治療では、エタノールを経口または点滴で多量に与えることが最も有効な治療になります。メタノールもエタノールもアルコール脱水素酵素などの同じ酵素で分解されるので、エタノールがたくさんあるとメタノールの分解が阻害されて遅くなり、有毒な蟻酸などができにくくなるためです。また、必要に応じて胃洗浄を行ったり、下剤を投与して、メタノールを排出させるようにします。
重症の場合には、人工透析を行って血液中のメタノールを取り除く場合もあります。そのほか、代謝性アシドーシスに対して炭酸水素ナトリウム(メイロン)を投与するなどの対症療法も行います。
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