筋肉など体の軟部組織に発生する悪性腫瘍
悪性軟部腫瘍(しゅよう)とは、体の軟部組織から発生する悪性の腫瘍。軟部肉腫とも呼ばれます。
軟部組織あるいは軟部は、体の肺や肝臓などの実質臓器と支柱である骨や皮膚を除く、筋肉、脂肪、腱(けん)、血管、リンパ管、関節、神経などを含んでいます。悪性軟部腫瘍は、四肢、体幹、後腹膜、頭頸(とうけい)部など、体のいろいろな部位の軟部組織に発生します。
日本での発生率は10万人に2人くらいで、まれな腫瘍です。種類は多く、30種類以上あります。頻度の高い順に悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫、線維肉腫、悪性神経鞘(しょう)腫、血管肉腫などがあります。
好発年齢は、悪性線維性組織球腫と平滑筋肉腫は高齢者に、脂肪肉腫と線維肉腫は多少中年に傾き、滑膜肉腫と悪性神経鞘腫は若年者に多いようです。小児の悪性軟部腫瘍の大部分は、横紋筋肉腫が占めています。男女別では、男女同数または男性にやや多い腫瘍が多数を占めていますが、平滑筋肉腫、滑膜肉腫などは女性に多いようです。
腫瘍の種類により、発生部位に違いがみられます。脂肪肉腫と悪性線維性組織球腫は特に大腿(だいたい)に多く、滑膜肉腫は大きな関節の近くに発生します。平滑筋肉腫は後腹膜や腸間膜に発生することが圧倒的に多く、横紋筋肉腫は頭頸部や膀胱(ぼうこう)の周囲に多く発生します。線維肉腫はいろいろな部位に発生しますが、比較的体幹に多くみられます。
症状としては、多くの場合、上肢、下肢の皮下や筋肉の中にしこりを触れます。これがピンポン玉大から握りこぶし大にもなったら要注意。ふつう痛みはありませんが、しこりの部分には熱感があります。
大腿など筋肉の厚い部位で、骨に近く深い部分に発生すると、しこりを触れることが難しく、大腿全体が大きくはれたようになっていることもあります。手足に発生した腫瘍が大きくなると、はれてきて関節が曲がらなくなったり、座れなくなったりすることもあります。
一部にはしこり自体に痛みがあったり、しこりが大きくなり神経を圧迫して痛みを伴うこともあります。また、皮膚に色が付いたり、潰瘍(かいよう)ができることもあります。
また、悪性軟部腫瘍には転移しやすいという特徴があり、転移の大部分は肺で、種類によってはリンパ節に起こります。
悪性軟部腫瘍の検査と診断と治療
悪性軟部腫瘍は難治性の腫瘍の一つであり、最初の治療の成否により予後に大きな差が出てきますので、疑わしい症状に気付いたら多少の地理的な不便があっても、がん専門病院の整形外科を受診します。
医師による診断では、まず視診と触診を行います。皮膚に治りにくい潰瘍ができているもの、腫瘍が深い部位に発生し硬いもの、腫瘍が5センチを超えるものは、悪性軟部腫瘍の可能性があります。その場合は、針を刺して組織の一部を取り出して調べる針生検を行ったり、CTやMRI、超音波、血管造影などの検査を行います。
肺の転移を調べるためには肺の断層撮影やCT、リンパ節転移やその他の転移を調べるためにはアイソトープを使った腫瘍シンチグラフィー(RI)などの検査を行います。同時に、1センチ角の組織を切開して病理組織学的に調べ、腫瘍の種類を判断します。
現在、悪性軟部腫瘍の治療の主体は、外科療法です。腫瘍を広範囲に切除すれば完全に除去できるため、上肢や下肢を切断する必要は少なくなっています。近年、腫瘍を大きく切除した後、別の部位の皮膚、筋肉、骨などを移植して再建したり、顕微鏡下で血管をつないだり、人工血管を移植したりする技術が進歩してきたためです。しかし、腫瘍が大きくなり血管や神経が侵された場合は、切断することもあります。
悪性度の高い腫瘍では、手術だけではなく、抗がん剤を用いる化学療法や、腫瘍を小さくする放射線療法、さらには電磁波を当てて温める温熱療法など、さまざまな治療を組み合わせて集学的治療を行います。従来、化学療法は副作用が強く、つらい治療の一つでしたが、最近は副作用を軽減する新しい薬剤や、いろいろな支援療法が行われています。
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