1)最近、寝付きが悪い。夜明けに目が覚めてしまい、眠れない。
2)午前中が特に気分が沈んで、何もする気がしない。
……朝刊に目を通すのも、おっくうだ。
3)食欲がない。食べ物が砂を噛むようで、美味しく感じない。
4)体重が減ってきた。
5)いつも疲れた感じで、ぐったりしている。
6)異性に魅力(性欲)を感じない。
……恋愛とかセックスなど煩わしくて、やる気が起きない。
7)何をするのも面倒くさいのに、じっとしていると不安でイライラする。
8)このまま消えてしまえればどんなに楽だろう、と思う。
質問に3つ以上も「ハイ」があるようでしたら、あなたはうつ病の候補者かもしれません。
ただ、うつ病の自己診断をしてもらおうというので、このような質問を並べたわけではありません。うつ病というのがどういう病気なのかをわかっていただくために、その特徴的な病状を列挙したのです。
●「うつ病」は決して「怠け病」ではない
人間は本来、誰しも「面白いことがあればやってみたい」「お金を稼いでいい思いをしたい」「きれいなものを見たい」「美味しいものを食べたい」といった「欲」や「好奇心」をもっています。これが人間の生きる意欲・バイタリティというものです。
うつ病は、このバイタリティの電圧が下がってしまい、「見たい、やりたい、稼ぎたい」というのがおっくうで、どうでもよくなってしまう病気なのです。
なぜそんなことになるのかは、十分にわかっていませんが、脳内の神経伝達の一部が、一時的に悪くなって、情報(刺激)の伝わり方が部分的に悪くなっているのではないか、と考えられています。
ですから、うつ病の人がやる気をなくしてぐったりしているのは、決して怠けているわけではないのです。脳、あるいは神経という臓器が一時的に不調になっている「体」の病と考えた方が分かりやすいかもしれません。
よく、うつ病の人に「頑張れ! 立ち上がれ!」といった励ましをするのは逆効果だというのは、そのためです。病人自体が人一倍「頑張ってなんとか立ち直らなければ」と思っているのですが、どうしても体が、気持ちが、ついていかないのです。それを励まされたらますます追いつめられてしまいます。
風邪で高熱を出して伸びてしまっている人に「頑張れ、立ち上がれ、働け!」とは普通いわないでしょう。それと同じことです。
●うつ病で一番の危険は「自殺」してしまうこと
うつ病の病状の特徴をはじめに列挙しました。この8項目の7番目までは、本人にとってつらい症状ではありますが、すぐさま命に関わるようなものではありません。
しかし、8番目の「このまま消えてしまえればどんなに楽だろう、と思う。」というのだけは、非常に危険な症状です。これが一歩進めば、消えるための自殺に簡単につながるからです。
一般には、自殺などという行為は、よほどの悩みや苦しみに追いつめられた末の一大決心がないとできないこと、と思われがちですが、うつ病の自殺は違います。うつ病の患者さんにとっては、自殺が一番楽な救いの道なのです。うつ病から治った人に、その頃のことを聞くと「自殺がとてもすてきな、甘美なものに思えた」といいます。
しかも困るのは、自殺は、病気が重い状態の時はあまり起こりません。そんな時は、ぐったりしてしまって自殺という行動を起こす意欲もなくなっているからです。むしろ、病いの初期の頃とか、治りきる直前とかに、突然起こるのです。
「あんなに元気になっていたのに、何故!」というような場合が多いのです。
ともかく、うつ病で最も注意しなければいけないのは、この突発的な自殺です。これを防止するために医師だけでなく、家族や周囲の人々も十分に気をつけなければいけません。
●「うつ病」になりやすい人、なるきっかけは?
現代社会は、うつ病を引き起こすストレスに満ちあふれています。しかしながら、誰も彼もがうつ病になるわけではありません。やはり、なりやすいタイプの人、なりにくい人があります。なりやすい人とはどんなタイプでしょう。
・几帳面な人
・何事もこだわりがあって、いい加減にできない完全主義者
・他人に不義理ができない「気配り」の人
・責任感、義務感の強い人
いわば、現代のサラリーマン社会、組織社会では優秀で「いい人」のタイプです。こういう人は当然組織の中で信頼され責任あるポストに昇進するでしょう。そして、そのまかされた仕事が自分のこだわりや「完全主義」でこなせている間は「いい人」であり「有能な人」で有り続けます。しかし、いつかは仕事が溢れ、手に負えなくなり、どうしようもなくなる時がきます。
その時、適当にやりすごせればいいのですが、几帳面な性格だとそうはできず、破綻の重圧に押しつぶされることになってしまいます。いわゆる「燃え尽き症候群」といえるものです。
しかし、うつ病はそういう「重圧」のようなものだけでなく、仕事が一段落してヒマになったとか、昇進したとか、引っ越し、新居を建てた、息子や娘の進学、就職、自立、といったおめでたいはずのことがきっかけで起こることもあります。要するに人生の節目、生活の大きな変化で起こる場合もあるのです。
●うつ病の治療はどうするか
うつ病においては、励ますとか、いろいろ身近で親切に面倒を見てあげるといった心理的な介助は、かえって本人の負担になってこじらせてしまう場合もあります。
対処法の第一は、専門医(精神神経科)にかかって、抗ウツ薬による治療を始めることです。現在では、脳神経の減退した情報伝達を回復させるいい薬剤が何種類も開発されていて、うつ病治療は格段に進んでいます。
また、患者をストレスから解き放って、休養させることも大切です。サラリーマンの場合には、怠け病という偏見を解き、本人の不利にならぬように休養をとれるよう周囲が手配りする必要があります。主婦などの場合は、案外身近な姑との確執とか近所への気兼ねがストレス要因になっていることもあります。
自殺の危険が大きい場合、昼間独りでいなければいけないといった生活状況の場合などには、いっそ入院させた方がいいかもしれません。
●数カ月かかるが、必ず治る病気
――うつ病の治療は――
・薬剤・休養・自殺防止の3つがポイントです。これを守って経過を見ていけば必ず治る病気です。
ただ、3ヶ月から場合によると6ヶ月くらいの時間がかかります。薬を飲んだからといって、風邪の熱が解熱剤で翌日には下がった、というような治り方はしません。一進一退で、時には少し悪くなったんじゃないかと思える日もあれば、今日はいやに調子がいい、という日もあり、そんな状態を繰り返しながら次第に軽快していき、ある日気付いてみたら、全く元通りの健康な状態になっていた、というような経過をたどります。
ですから、途中で焦っていらいらしたり、絶望的になって治療を放棄してはいけません。経過の途中には、時にはいらいらや不安がつのって、いてもたってもいられないような状態(パニック)に陥ったり、不眠や不安が強くなったりする場合もあるかもしれません。そういう症状にはそれぞれ対処する薬剤を処方することもできますので、医師に相談して下さい。
●おわりに
うつ病は、働き盛りの責任ある立場の男性とか、一家の中心になっている主婦などがかかりやすい病気ともいえます。しかし、数ヶ月で必ず治りますし、治ったあとは以前と同じ活動的な姿に戻れるのですから、この病気によって職場や家族関係などに回復できない破綻を作ってしまうことは避けなければなりません。
そのためには、家族や職場など、周囲の人々もこの病気の特徴をよく理解して、適切に対処していただきたいと思います。
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