消化管にポリープが多数できるとともに、全身の臓器にも異常を伴う消化管ポリポーシスのうち、遺伝性を示す疾患群
遺伝性消化管ポリポーシスとは、ポリープが大腸の全体に多数できるとともに、大腸以外の消化管や全身の臓器にも異常を伴いやすい消化管ポリポーシスのうち、遺伝性を示す疾患群。
遺伝性消化管ポリポーシスには、家族性大腸腺腫(せんしゅ)症(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群)、ターコット症候群、ポイツ・イェガース症候群、若年性ポリポーシス、コーデン病、結節性硬化症が含まれます。
家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群)
家族性大腸腺腫症は、遺伝子の変異が原因で、10歳代の半ばごろから、大量のポリープが大腸にできる疾患。
ポリープと呼ばれるいぼのようなものの中でも、良性のものは腺腫と呼ばれますが、大腸に数百個から数千個という多数のポリープができるのが特徴です。
2分の1の確率で親から子に常染色体優性遺伝し、5番目の染色体にあるAPC遺伝子の異常が原因で起こります。しかし、一部はAPC遺伝子以外のMUTYH遺伝子の異常によって起こり、常染色体劣性遺伝を示します。
ポリープの発生は多くの場合学童期に始まりますが、ポリープの数が数十個と少ない人や、成人以後にポリープが多発する人もいます。
ポリープが大きくなり、1センチ以上になると、3、4個に1個はがん化します。
この家族性大腸腺腫症では、20歳代ごろから大腸がんになる人が出始め、40歳までに半数、60歳までには90パーセントが大腸がんになるとされます。
症状としては、ポリープが多発するために、血便が出たり、貧血になったりすることがあります。また、下痢や便秘などの便通異常になることもあります。大腸以外にも、胃、十二指腸、小腸、骨、軟部組織、目など全身の臓器に、ポリープあるいは腫瘍状病変ができることがあり、それぞれの症状を現すことがあります。
大腸にポリープが一般に100個以上ある人は、家族性大腸腺腫症が疑われます。ポリープの数が100個以下でも、近親者に大腸ポリープが多発している人がいる場合、家族性大腸腺腫症が疑われます。
大腸切除を行わなければ、将来ほぼ100パーセント大腸がんができます。血便などが現れた場合は、消化器科、消化器外科、外科、あるいは肛門(こうもん)科の医師を受診します。
ターコット症候群
ターコット症候群は、ポリープが大腸の全体に多数できるとともに、脳など中枢神経系の腫瘍を伴う遺伝性の疾患。家族性大腸腺腫症とは別の疾患と考えられています。
大腸にできるポリープの数は、家族性大腸腺腫症に比べて少ない傾向にあるものの、比較的大きな腺腫が認められ、10歳代から20歳代でがんが高率に合併するとされています。
ポイツ・イェガース症候群
ポイツ・イェガース症候群と、消化管に過誤腫性ポリポーシス、つまり過剰に発育した良性腫瘍が多数できるとともに、皮膚粘膜の色素沈着を伴う遺伝性の疾患。
10万人に1人が発症するとされる常染色体性優性遺伝性疾患であり、LKB1遺伝子と呼ばれている19番染色体において異常が認められています。
ポリープは、食道を除く胃から大腸までの消化管全体に発生します。特に、小腸が好発部位で、しばしば上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)を伴い、イレウス( 腸閉塞〔へいそく〕)症状や腹痛を起こします。血便、ポリープの肛門脱出を認めることがあります。消化管のほか、膵(すい)臓、卵巣、子宮、肺など多臓器にわたってがんが高率に合併します。
色素沈着は、口唇や口腔(こうくう)粘膜、四肢末端部に、2~3ミリの小さな黒褐色の色素斑(はん)として認められます。口唇の色素斑は、縦方向に長い形状となります。手の色素斑は、指紋に一致した方向に長い形状となります。
これらの色素沈着は、ポリープの発生よりも早く、生後数カ月ころから幼児期までに出現し、思春期にかけて数を増すものの、その後は徐々に軽快することが多いといわれています。
血便、ポリープの肛門脱出などが現れた場合は、消化器科、消化器外科、外科、あるいは肛門科の医師を受診します。
若年性ポリポーシス
若年性ポリポーシスは、消化管に過誤腫性ポリポーシスが多数できる遺伝性の疾患。ポリープの分布によって、大腸限局型、胃限局型、全消化管型の3型に分けられます。
血便やポリープの肛門脱出が主な症状で、ポリープの一部に腺腫やがんを合併することもあります。
コーデン病
コーデン病は、消化管に過誤腫性ポリポーシスが多数できるとともに、皮膚の病変が伴う遺伝性の疾患。コーデン症候群、カウデン病、カウデン症候群、多発性過誤腫症候群とも呼ばれます。
2分の1の確率で親から子に常染色体優性遺伝し、PTEN遺伝子と呼ばれている10番染色体にある遺伝子の異常が原因で起こります。しかし、遺伝性が認められずに起こることもあります。
消化管のポリープは、食道から大腸までのすべての消化管に、大きさ数ミリまでのものが多数できます。皮膚の病変には通常、顔面や首の多発性丘疹(きゅうしん)、四肢末端の角化性小丘疹、口腔粘膜の乳頭腫があり、20歳代後半までに出現します。
消化管のポリープ自体が問題になることはあまりないものの、ほかの臓器の乳房、甲状腺(せん)、子宮内膜、腎臓(じんぞう)、前立腺、肺などに良性腫瘍ないし悪性腫瘍を合併します。とりわけ、乳房、甲状腺、子宮内膜には、悪性腫瘍を高率で合併します。
そのほか、小脳にレルミット・デュクロス病(小脳異形成神経節細胞腫)と呼ばれる腫瘍を合併したり、巨頭症、精神発達遅滞を合併することもあります。
結節性硬化症
結節性硬化症は、消化管に過誤腫性ポリポーシスができるとともに、顔面の血管線維腫、脳内多発結節性病変、精神遅滞、腎血管筋脂肪腫を伴う遺伝性の疾患。ポリープは、大腸と胃に多発します。がんを合併することは、まれです。
遺伝性消化管ポリポーシスの検査と診断と治療
家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群)
消化器科などの医師による診断では、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れてX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査を行います。大腸内視鏡検査は、挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。
内視鏡検査で直接大腸の内側を観察し、ポリープを採取して組織検査を行い、多数の腺腫が確認されれば、家族性大腸腺腫症と確定できます。できれば遺伝子検査まで行って、APC遺伝子の異常を確認しておくと、治療法の選択や近親者の早期診断に役立ちます。
また、胃・十二指腸のX線および内視鏡検査、骨X線検査、眼底検査などを行い、大腸以外の病変をチェックしておく必要があります。
消化器科などの医師による治療では、大腸がん合併の有無を問わず、大腸を切除し、小腸を肛門につなげる手術を基本とします。直腸を温存する場合は、残った直腸にがんができないかどうか、大腸内視鏡で定期的に観察しなければなりません。
近親者の調査によって無症状で発見された場合、大腸の予防的手術は遅くても20歳代前半までに行うべきとされています。
一方、大腸以外の腫瘍状病変に対しては、がん化の危険性は極めて低いので、予防的手術の必要はありません。
ターコット症候群
消化器科などの医師による治療は、家族性大腸腺腫症と同じです。
ポイツ・イェガース症候群
消化器科などの医師による診断では、口や手足の先の色素沈着で気が付くことがあります。このポイツ・イェガース症候群を疑い、胃や腸の内視鏡検査やX線検査、生検などを行うことで確定します。
消化器科などの医師による治療は、消化管の大きなポリープに対して、内視鏡下で切除する内視鏡的ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)を行います。内視鏡を挿入した後、スネアとよばれる金属でできた輪でポリープの根元を引っ掛けて絞扼(こうやく)し、高周波電流を流して焼き切る方法(スネアリング)が一般的で、開腹など外科的手術に比べて患者の負担が少ないというメリットがあります。
小腸ポリープについては、従来は開腹下で切除していましたが、最近では小腸内視鏡で切除することが多くなっています。しかし、腸重積を伴う場合は、即時に手術を行います。
全身の臓器にわたってがんが高率に合併するため、定期的な検査を受ける必要もあります。
なお、口唇や皮膚の色素沈着が美容的な観点から問題になる時は、皮膚科あるいは形成外科で診療の上、レーザーで治療します。
若年性ポリポーシス
消化器科などの医師による治療は、ポリープに対して、内視鏡下で切除する内視鏡的ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)を行います。
コーデン病
消化器科などの医師による診断では、皮膚の病変に、消化管のポリープを伴えば、ほぼ確定します。遺伝子検査を行うこともあります。
消化器科などの医師による治療では、確立した治療法がないため、対症療法を行います。その後は、全身の臓器にわたってがんが高率に合併することを予測して、乳がんの検診や甲状腺の超音波検査など定期的な検査を行っていきます。
結節性硬化症
消化器科などの医師による治療は、消化管ポリポーシスに対しては内視鏡的切除の適応とはなりませんが、定期的な検査を受ける必要があります。
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