冬季に乳幼児の間で流行し、白っぽい水様便が続く腸炎
白色便性下痢症とは、冬季に乳幼児の間で流行し、白っぽい水様便が続く腸炎。ロタウイルス腸炎、ロタウイルス下痢症、乳児嘔吐(おうと)下痢症、仮性小児コレラなどとも呼ばれます。
オーストラリアのビショップが1975年に発見したロタウイルスの感染が原因となって、11〜3月ごろまでの乾燥して気温が5℃以下になる寒い時期に、乳幼児が発症します。生後6カ月から2歳までが好発年齢であり、発症すると重症化しやすくなります。
発展途上国では乳児死亡の主な原因の一つに挙げられていて、医療が発達した先進国でも1歳未満の乳児には恐ろしい疾患です。保育所、幼稚園、学校などで集団発生することもありますが、多くは感染経路が明らかではありません。
3カ月未満では母親からの免疫で守られ、3歳以上の年齢層では発病しても一般には軽症です。
症状としては、1日に数回から十数回の下痢が5~7日続き、酸っぱい臭いの、白っぽい水様便が出ることが特徴です。便が白っぽくなるのは、ロタウイルスが感染して胆汁が十分に分泌されなくなるためです。時には、白くならずに黄色っぽい便のままのこともあります。
発病初期には吐き気、嘔吐を伴うのが普通ですが、通常、半日から1日で落ち着きます。軽い発熱と、せきを認めることもあります。
下痢の回数が多いと、脱水症状が現れます。その兆候としては、ぐったりしている、機嫌が悪い、顔色が悪く目がくぼんでいる、皮膚の張りがない、唇が乾燥しているなどが挙げられます。まれですが、けいれん、脳症、上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)、腎(じん)不全を伴うことがあります。
脱水症状の兆候が認められたり、けいれんなどほかの症状が認められたら、できるだけ速やかに小児科、ないし内科の医師を受診することが、体力のない乳幼児にとって大切なことです。
白色便性下痢症の検査と診断と治療
小児科、ないし内科の医師の診断は、症状と便中のロタウイルスの検出により確定します。イムノクロマト法を利用した迅速診断検査薬で、10分以内にロタウイルスを検出できます。
人に感染するロタウイルスにはA、B、C群があり、A群以外は頻度は少ないものの、一般の検査試薬では検出できません。しかし、B群は以前に中国で流行したものの日本ではみられませんし、C群による腸炎は主に3歳以上の年長児や成人にみられ、A群のような大規模な流行はほとんどなく、流行散発例あるだけです。C群は、最も感度が高い電子顕微鏡検査で検出します。
脱水の状態は、排尿があれば尿中のアセトン体の有無および量で推定します。血液中の電解質を調べることもあります。
白色便性下痢症には、特効薬はありません。小児科、ないし内科の医師による治療では、嘔吐を伴う時期には絶食、絶飲が行われます。嘔吐に対しては、鎮吐(ちんと)剤を使用することもあります。
嘔吐、吐き気が治まると、下痢による脱水症状を改善するための対症療法が行われます。まず、経口補水液をこまめに与えます。すぐに嘔吐するようであれば、入院して点滴をしなければなりません。また、外来で点滴だけを受けることもできます。
嘔吐がなければ、経口補水液の量を増やしていきます。動物性蛋白(たんぱく)質、脂肪に富むミルクや牛乳をこの時期に与えると、ウイルスの攻撃を受けて弱っている腸に負担がかかって吐きやすい上、下痢が長引く恐れがありますので控えます。母乳の蛋白質、脂肪はミルクや牛乳のそれよりも吸収されやすいため、少しずつなら与えても差し支えありません。
さらに野菜スープを与えることへと進め、経口摂食が可能であれば、少量で回数を多くした食事を与えます。腸にかかる負担が最も少ないのは、重湯、おかゆ、うどん、パンなどのでんぷん類です。年齢的にミルクが主たる栄養源で、離乳が進んでいなくて下痢が著しい時には、ミルクを薄めたり、大豆から作ったミルクや牛乳の蛋白質を加水分解したミルクを勧めることもあります。
止痢(しり)剤は原則として使わず、ラックBやビオフェルミンなどの生菌製剤を用います。ロタウイルスの再感染は多く、免疫は生涯できませんが、多くは重症にならずに済みます。
乳幼児の世話をする人は、便とオムツの取り扱いに注意が必要です。ロタウイルスは感染力が強く、下痢便中に大量に排出されるウイルスなので、便に触った手から口に感染することがほとんどのため、せっけんを使って十分に手洗いをし、漂白剤や70パーセントアルコールの消毒液で、オムツ交換の場所や周辺をふきましょう。オムツ交換の場所に、おねしょパッドやバスタオルを敷いておくと、布団までを汚さずに済みます。
予防のためには、予防接種が最も良い対抗手段となります。日本でも2011年11月よりロタウイルスワクチンが認可されましたので、乳児には接種を受けることが勧められます。予防ワクチンには、ロタリックス、ロタテックの2種類があり、生後6週から接種できますが、ヒブや小児用肺炎球菌など他のワクチンとの同時接種を考えて、生後2カ月からが最適です。
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