皮膚のすべての部位にできる色素斑の中で、一番小さい型
ほくろ(黒子)とは、皮膚に生じる小さな増殖性の変化で、色素性母斑(ぼはん)の一番小さい型。黒子(こくし)と呼ばれることもあります。
色素性母斑は、皮膚のすべての部位にできる黒色から褐色、あるいは青黒色の色素斑で、母斑細胞性母斑とも呼ばれます。この一番小さい型であるほくろも、 メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出す皮膚細胞(メラニン細胞、メラノサイト)から生じ、通常は濃い色をしています。
色はふつう濃い黒色か褐色ですが、中には皮膚と同色や、黄色みを帯びた褐色のものもあります。最初は赤く、やがて色が濃くなる場合もあります。ほくろの大きさは、小さい点程度から直径が約2・5センチメートルを超えるものまでさまざまです。ほくろの表面は、平らなもの、盛り上がったもの、滑らかなもの、ザラザラしていぼのようなものなどさまざまで、毛が生えていることもあります。
ほとんどの人には顔や全身に、いくつかはほくろがあり、たくさんある人も珍しくありません。多くの人では小児期から思春期にかけてよくできますが、中には一生増え続ける人もいます。女性の場合、ほくろはホルモン量に対応して変化するので、妊娠中はほくろができる、大きくなる、色が濃くなるなどの変化がみられます。一度できたほくろは、自然には消えません。皮膚の色が薄い人では、ほくろは主に日光にさらされる部分にできます。
かゆみや痛みを伴うことはなく、ほとんどは無害で切除の必要はありません。見た目や位置によっては、ほくろは魅力的だと見なされることさえあります。
しかし、比較的大きく、通常と異なる外観を有する異形成ほくろ(異形成母斑)が少数でも生じている場合は、皮膚がんの一種で、メラニン細胞ががん化してできるメラノーマ(悪性黒色腫〔しゅ〕)に発展することがあります。この異形成ほくろは、さまざまな色で、全体の形も縁も不規則でゆがんでいます。もし血縁者の中にメラノーマにかかった人がいる場合、リスクは非常に高くなります。異形成ほくろができる体質は、遺伝します。
異形成ほくろがある人は、メラノーマに転じる兆候がないかどうかを留意して観察しなくてはなりません。最低でも年に1回は、ほくろの色や形に変化がないかどうかを検査するために皮膚科を受診すべきです。変化が生じた異形成ほくろは、切除して顕微鏡で調べなくてはなりません。
ほくろが大きくなる、色が濃くなる、炎症を起こす、色むらができる、出血する、その部分の皮膚が損傷を受ける、かゆみがある、痛むなどの変化がみられる場合は、メラノーマの可能性もあるので、早めに受診します。
ほくろの検査と診断と治療
ほくろを含む色素性母斑は、それ自体は全く良性であり、心配することはありません。一般的には、治療の対象にならず、放置しておいてもかまわないものです。
医師による診断は、特徴的な色素斑なので、ほとんどは見ただけで診断はつきます。ただし、ほくろを含む色素性母斑自体は良性ですが、異形成ほくろ(異形成母斑)は皮膚がんの中でも悪性度が高いメラノーマ(悪性黒色腫)と見分けがつきにくいものもあります。メラノーマの確定診断は、切除したほくろを顕微鏡を用いて病理組織検査することでつきます。
放置しておいてもかまわない色素性母斑であっても、顔などに大きなものがあり、本人が非常に気にしたり、他人に悪印象を与える時などは、皮膚科、形成外科での手術で除去することになります。非常に小さなほくろであっても、本人が悪性化を気にする時、衣服でこすれてヒリヒリする部位にできている時などには、局所麻酔による手術で切除することもあります。
手術では、病変部の皮膚をメスで全部切り取った後、皮膚の欠損部を縫い合わせるか、植皮術を行います。最近では、顔の小さいほくろの場合に、メスの代わりに炭酸ガスレーザーで切除した後、縫い合わせないで自然に治るのを待つ、くり抜き療法も行われています。
いずれにして、多少の傷跡は残ります。特に、植皮術で植皮した皮膚は、周囲の皮膚とは細かい性状が異なり、完全にはなじみません。従って、手術の跡と、ほくろやあざとどちらが目立つかを考えてから、手術をする必要があります。手術をしなくても、カバー・マークを利用して、色を隠せばよいからです。
なお、炭酸ガスレーザーを用いる、くり抜き療法は顔面ではあまり傷跡が目立たないことが多いようですが、他の部位ではくり抜いたところの傷跡が目立つ場合もあります。また、レーザー治療では多くの場合、病変部を焼き飛ばすため、病理組織検査を行えません。メラノーマと見分けがつきにくい場合もあるので、レーザー治療を選択する場合には、担当する医師の十分な診断力が必要とされます。
異形成ほくろがメラノーマに発展した場合は、医師による治療は原則的に、メラノーマの部位を外科手術によって円形に切除することになります。手術が成功するかどうかは、皮膚のどの程度の深さにまでメラノーマが侵入しているかによって決まります。初期段階で最も浅いメラノーマであれば、ほぼ100パーセントは手術で治りますので、周囲の皮膚を腫瘍(しゅよう)の縁から最低でも約1センチメートルは一緒に切除します。
皮膚の中に約0・8ミリメートル以上侵入しているメラノーマの場合、リンパ管と血管を通じて転移する可能性が非常に高くなります。転移したメラノーマは致死的なものになることがしばしばあるものの、抗がん剤による化学療法、インターフェロンによる免疫療法、および放射線療法などいろいろな手段を組み合わせた集学的治療が行うことで、健康を保って何年も生存する人もいます。
日光の紫外線は、異形成ほくろの発生や性状の変化を助長します。子供のころに普通に日に当たるだけでも、数十年後にメラノーマが発症するリスクが高まります。ですから、生まれ付き皮膚の色が白い人や異形成ほくろがある人は、日光に当たるのを避けるべきです。
メラノーマを始め、その他の皮膚がんの発生数も年々増加傾向にあり、今まで紫外線に対する防御対策をしてこなかったことが増加の一因であると考えられます。海水浴やスポーツ、仕事などで長時間、過度の紫外線を浴びる場合は、皮膚を紫外線から防御することが非常に大切です。日焼け止めクリームの使用、帽子や日傘の使用、長袖(ながそで)で腕を覆うなどの予防策があります。
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