十二指腸の粘膜が傷付く疾患
十二指腸潰瘍(かいよう)とは、胃とつながる小腸の一部である十二指腸において、入り口に当たる球部の壁の上皮組織が傷付き、深くえぐられた疾患です。通常、より深層の組織も、症例ごとにさまざまな深さで損傷を起こしています。
主な原因は、精神的なストレスなどによる胃酸過多。ストレスは胃液の分泌を高進するため、食物を消化するために強力な胃酸が含まれている胃液と、この胃液から十二指腸壁を守るために分泌している粘液との不均衡が生じ、十二指腸の粘膜が侵されて、潰瘍が生じるのです。胃酸と同じ胃液の成分で、蛋白(たんぱく)質分解酵素のペプシンなどの働きの過剰も関与しています。
性別では、男性に圧倒的に多く、年齢的には、20~30代の比較的若い人に多くみられます。また、最近では、胃の粘液の中に生息しているヘリコバクター・ピロリという細菌が、十二指腸潰瘍の発症や再発に深く関係していることが明白になりました。
症状としては、みぞおちの痛み、重苦しさなどが、空腹時に起こります。食事をすると、一時的に症状が軽くなります。その他、悪心、嘔吐(おうと)、上腹部不快感、食欲低下、背部痛などもみられます。傷が深かったり、血管が表面に出てくると、潰瘍から出血が起こり、大量の血を吐く吐血や、真っ黒な便が出る下血が起こることもあります。
病気が重症になり、十二指腸壁の組織に穴が開くと、気の遠くなるような強い腹痛が出現し、その後、ショック状態となります。これを十二指腸の穿孔(せんこう)と呼び、このような症状が現れた場合は、緊急に手術が必要です。高齢になると痛みを伴わない場合もあり、注意が必要です。
十二指腸潰瘍の治療は薬物療法が基本
十二指腸潰瘍の診断では、X線検査、内視鏡検査、組織検査、血液検査が行われます。
X線検査では、造影剤のバリウムを使用し、潰瘍の状態や十二指腸の変形などを確認します。内視鏡検査では、胃カメラで十二指腸潰瘍部を直接観察します。組織検査では、内視鏡検査時に粘膜の組織片を採取し、組織診断をします。同時にヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無を検査します。血液検査では、内視鏡検査の前にC型肝炎、B型肝炎、梅毒などの感染症の有無を調べた上、赤血球数、血色素、白血球数、ヘマトクリットなどを測定します。
十二指腸潰瘍の治療においては、薬物療法が基本となります。出血に対しては内視鏡的治療、穿孔などに対しては外科的治療、食事療法が行われるほか、精神的肉体的安静が求められます。
薬物療法では、潰瘍の状態によって医師が判断し、H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬などの胃酸の分泌を抑える薬、十二指腸粘膜の組織を保護し回復させる薬、血流を高める薬などが処方されます。
薬を飲み始めると、すぐに痛みなどの症状はとれてきますが、すぐに潰瘍が治るわけではありません。症状がとれたからといって、薬を飲まなくなると、いつまでたっても潰瘍は治りません。潰瘍が完全に治るまで、薬を続けることが大切です。薬をきっちり服用すれば、約6週間でほとんどの十二指腸潰瘍は治ります。
ヘリコバクター・ピロリ菌の存在が確認できた場合は、除菌剤が処方されます。除菌すれば、ピロリ菌による潰瘍はかなり治りますが、定期的に検査を受けて、再発を繰り返さないようチェックをすることも必要です。
食事療法としては、急性期にはコーヒー、濃い茶、炭酸飲料、香辛料など、十二指腸粘膜を傷付けやすい食品を避け、牛乳、豆腐、野菜スープなどの消化しやすい食品を取るように指導されます。
普段の食生活の中では、バランスが整い、十分なカロリーのある食事を規則正しく取ることが重要です。睡眠を十分に取ることや、タバコをやめることも大切です。
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