脳のどこにでもできる悪性リンパ腫
脳リンパ腫(しゅ)とは、前頭葉、後頭葉、脳深部、脳幹など、脳のどこにでもできる悪性リンパ腫。正式名称は、中枢神経系原発悪性リンパ腫です。
全身に広がっているリンパ組織のうち、リンパ節ではなく、脊髄(せきずい)や眼球などに発生するリンパ腫を中枢神経系原発リンパ腫といい、その中でも脳に発生したものが脳リンパ腫に相当します。
脳腫瘍(しゅよう)の約3パーセントを占めるとされていますが、近年、発生率が増加傾向を示しています。中高年者に多くみられ、50歳以上が80パーセントを占めます。
リンパ系組織がない脳に悪性リンパ腫が発生する要因は、解明されていません。炎症などで脳内に浸潤してきたリンパ球が腫瘍化するという説や、ほかで発生したリンパ腫が免疫学的に保護されている脳内にだけ残ったという説などがあります。
悪性リンパ腫はホジキンリンパ腫と、それ以外の非ホジキンリンパ腫に大別されますが、脳リンパ腫のほとんどが非ホジキンリンパ腫の一種のB細胞由来のびまん性大型B細胞リンパ腫であり、悪性のBリンパ球が脳の中で勢いよく増えます。
この脳リンパ腫にかかる危険因子としては、膠原(こうげん)病、免疫不全疾患、臓器移植、加齢などによる免疫不全、ヘルペスウイルスの仲間であるエプスタイン・バーウイルス感染などがあります。
主な症状は、脳腫瘍によって、頭蓋(とうがい)内の圧力が高まるために起こる頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)など。
脳腫瘍ができた部位によっても症状が異なり、前頭葉に腫瘍があると知能低下(認知症)や失語症、性格変化、尿失禁など、後頭葉に腫瘍があると視野障害など、脳幹に腫瘍があると運動まひ、眼球運動障害などが生じます。
数日から何週間単位で進行する亜急性を示すものが多く、一度症状が出たら悪化するのは早いと考えなければなりません。
脳リンパ腫の検査と診断と治療
脳神経外科、脳腫瘍外科などの医師による診断では、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うと、腫瘍を形成する白っぽい病変として描出され、造影剤を用いると多くの場合、はっきりわかります。
腫瘍を形成する病変は、前頭葉、側頭葉、小脳、脳深部に多く認められ、脳の中に2個以上のリンパ腫が同時にできる多発例もしばしば認められます。
脳にだけリンパ腫ができたのか、脳ではない体のどこかに発生したリンパ腫が脳に転移したのかを区別するのは、困難です。
検査が終わってリンパ腫が疑われた場合は、すぐに定位脳手術という方法で腫瘍の一部分を切り取り、顕微鏡で調べる検査である生検を行います。
脳神経外科、脳腫瘍外科などの医師による治療では、メトトレキセートという抗がん剤を投与した後に、全脳に放射線を照射する方法を行います。この方法が最も良い治療成績を示し、平均的な生存期間は3年以上になると報告されていますが、集中管理できる施設でしか行うことができません。
脳腫瘍ができた部位によりますが、腫瘍の切除手術は行いません。脳リンパ腫の場合、周囲組織との境目が明確でないため完全切除は難しく、大きく切除すると脳機能に多大な影響を与えかねないためです。
残念ながら、いずれの治療法を選択しても再発率や死亡率は高いものです。
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