排尿をした後、すぐに尿意を感じ、排尿回数が多くなる状態
頻尿とは、排尿をした後、一定の時間の経過を待たず、すぐに尿意を感じ、排尿回数が異常に多くなる状態。1日で、起床時に10回以上の排尿、就寝時に2回以上の排尿があることが、頻尿の目安となります。
水分を大量に摂取した場合に排尿回数が多くなるのは、体内に急激に増えた水分を排出しようとする一時的、生理的な反応で、頻尿には相当しません。尿崩症や糖尿病などで1日の尿量が3~15 リットル近くにもなるなどの内分泌異常や、慢性腎不全(じんふぜん)などの疾患によって尿量自体が増え、排尿回数も多くなるのは、頻尿ではなく1日の尿量が多い多尿に相当します。
成人の膀胱(ぼうこう)容量は500ミリリットルほどで、普通は300ミリリットルほどの尿がたまると尿意を感じることになります。そして、成人の1日の排尿量は通常、1〜2リットルであり、起床時に排尿をする回数は7回程度です。就寝時の場合、若い時には一度も排尿はありませんが、高齢者になると腎臓の尿濃縮力の低下により一回ぐらいはあるようになります。
頻尿には、膀胱が敏感になり、尿がほんの少したまると不快感を覚えて尿をしたくなるケースや、疾患などが原因となって膀胱そのものの容量が普通より小さくなり、すぐに尿をしたくなるケース、医学的に認められる疾患がないのに心理的要因によって症状だけが出るケースがあります。
膀胱が敏感になり、尿が少したまるとすぐに尿意を催すケースの大部分は、膀胱炎によるものです。膀胱の粘膜が炎症を起こすために、その部分の神経が過敏になり、尿が少したまるだけで尿意を感じます。多くは排尿時の痛みを伴い、尿が濁っています。また、排尿後もまだ尿が残っているようで、不快感を覚えます。
膀胱炎は女性に多く、原因の大部分は細菌感染で、大腸菌が最も多く、ブドウ球菌、連鎖(状)球菌などによることもあります。膀胱は細菌に対して抵抗力があるので、単に細菌が侵入してきただけでは炎症は起こりにくいのですが、体力の低下、尿の停滞、排尿の我慢のしすぎ、便秘、不潔な性交、妊娠、冷えなどが誘因になって発症します。
同じような症状で男性に多いのは、尿道炎と前立腺(ぜんりつせん)炎です。
膀胱の容量が小さくなり、すぐに尿意を催すケースは、60歳以上の男性に起こる前立腺肥大症でよく起こります。尿道付近の前立腺組織が肥大して尿道が圧迫されることにより、最初の症状として夜間の排尿回数が多くなります。これは、排尿しても全部が出切らずに、50〜150ミリリットルほど残るために、相対的に膀胱容量が小さくなったのと同じになって頻尿が起こってくるものです。
同様の症状はこのほか、前立腺がん、慢性腎不全、膀胱が尿道に移行する部分の筋肉が硬くなる膀胱頸部(けいぶ)硬化症、あるいは、膀胱結核や間質性膀胱炎、膀胱の治療のための放射線照射などにより膀胱の筋層が繊維化して、膀胱の容量が小さくなる委縮膀胱でもみられます。
女性の場合、妊娠すると膀胱が子宮によって圧迫されるので、頻尿となります。同様に、進行した子宮がんでも、頻尿を起こします。
そのほかに、内分泌膀胱症というのがあります。この疾患は、女性の膀胱頸部の刺激によって、頻尿と排尿不快感を起こすものです。月経に関係があり、月経が始まる1〜2週間前から症状が起こり、月経が終わると症状はなくなります。
さらに、やせた若い女性にしばしば認められる遊走腎(ゆうそうじん)というのがあります。この疾患は、腎臓が下がることから、腰痛とともに頻尿を起こすものです。
尿意は神経系によって起こされるので、脳腫瘍(しゅよう)や脳梗塞(こうそく)、脳出血などの脳血管障害、脊髄(せきずい)損傷や多発性硬化症などの脊髄の障害、パーキンソン病などの脳の障害で排尿を調節している神経系が障害された場合にも、頻尿を起こします。これら神経系の障害で膀胱の活動性が過剰になり、尿意切迫感を主症状として、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁を伴うこともある排尿障害は、神経因性膀胱、あるいは神経因性過活動膀胱と呼ばれます。
医学的に認められる疾患がないのに、心理的要因によって頻尿の症状だけが出るケースは、膀胱神経症(神経性頻尿、過敏性膀胱)で起こります。夜間は排尿の回数が多いわけではないのに、昼間は頻繁に尿意を催すという場合は、膀胱神経症が疑われます。この場合は、排尿痛も残尿感もなく、また尿の検査をしても何の異常も認められません。
一般に、女性に多くみられます。神経質で几帳面(きちょうめん)、強迫的傾向にある人によくみられ、何かに熱中していれば、尿のことが気にならず、尿意も起こりません。なお、膀胱は精神的な影響を受けやすい器官ですので、軽い膀胱炎にかかった後も、少しの精神的刺激によって、尿意をたびたび感じるようになることがあります。
頻尿など排尿に関係した症状などで日常生活に支障がある場合は、不安がらずにまず泌尿器科などを受診します。
頻尿の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による診断では、一般的には問診、直腸診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、頻尿の原因を探ります。
泌尿器科の医師による治療は、頻尿の原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。
急性膀胱炎の場合には、原因菌に有効な抗生物質、抗菌剤が投与されます。一般に女性では、合併症が起こっていなければ、2~3日で症状は軽快します。感染が長引く際には、抗生物質を7~10日間服用します。男性では投与期間が短いと再発を繰り返すため、一般に抗生物質を10~14日間服用します。
男女とも、水分の摂取を多くして尿量を増やし、細菌を洗い流すほか、尿の刺激性を低下させて症状を和らげます。症状の強い際は、十分な休息、睡眠を確保するようにします。
慢性膀胱炎の場合には、症状は比較的軽く、ほとんど自覚しないこともあります。尿検査で偶然に発見されることが、普通です。膀胱に腫瘍、結石があったり、結核、前立腺、腎臓の病気などが膀胱炎の陰に隠れている際に、慢性化しやすいものです。
慢性膀胱炎の治療では、抗生物質や抗菌剤が2~4週間、使用されます。原因疾患がある際には、そちらを治療しない限り、完治しません。特に原因疾患もなく、症状のほとんどない際は、経過観察となることもあります。
細菌性の尿道炎の治療では、抗生物質が有効ですが、短期間で治らず、しばしば慢性化します。慢性化しても、それほど強い症状は続きません。強い症状はなくても、ぐずぐずして治りにくいのが、慢性尿道炎の特徴です。
強い痛みや不快症状がある急性(細菌性)前立腺炎は、入院して鎮痛剤で痛みや不快症状を抑え、同時に感染菌に効く強力な抗生物質による治療を行います。前立腺は薬物移行が悪いため、治療効果が得られるまでに時間がかかることも多く、敗血症に移行することもあるので注意が必要です。また、再発を繰り返すと慢性化してしまうので、医師の指示通り、服薬や治療を継続しなければなりません。
逆に、慢性前立腺炎は大事に至ることはありません。慢性(細菌性)前立腺炎では、抗菌剤を4~12週間程度服用します。また、前立腺のマッサージで、分泌腺内にたまっている膿性分泌物を排出させます。
慢性(非細菌性)前立腺炎でも、細菌感染の可能性もある場合には、抗菌剤を4〜8週間程度服用します。細菌の可能性がない場合や、前立腺痛では、筋弛緩(しかん)剤、温座浴などの温熱治療、漢方薬が用いられます。さらに、精神科医との連携も必要な場合があります。
前立腺肥大症が頻尿の原因の場合は、症状が軽い場合は薬物療法から始め、症状がひどい場合や合併症を引き起こしている場合は手術療法が行われます。
前立腺肥大症の薬物療法は、近年では薬の開発もかなり進んでおり、効果があることが確認されています。治療に使用される薬には、α1受容遮断薬(α1ブロッカー)、抗男性ホルモン薬(抗アンドロゲン剤)、生薬・漢方薬の3種類があります。
α1受容遮断薬は、交感神経の指令を届けにくくし、筋肉の収縮を抑えて尿道を開き排尿をしやすくする薬で、ミニプレスが代表です。抗男性ホルモン薬は、男性ホルモンの働きを抑制する薬で、プロスタール、パーセリンなどが一般的です。その効果は服用してから3カ月程かかり、前立腺を20~30パーセントぐらい縮小させることができます。生薬・漢方薬は、植物の有効成分のエキスを抽出したもので、むくみを取ったり、抗炎症作用などの効果があります。
前立腺肥大症の手術療法には、経尿道的前立腺切除術(TURP)、レーザー治療、温熱療法などがあります。
経尿道的前立腺切除術は、先端に電気メスを装着した内視鏡を尿道から挿入し、患部をみながら肥大した前立腺を尿道内から削り取ります。レーザー治療は、尿道に内視鏡を挿入し、内視鏡からレーザー光線を照射します。そして、肥大結節を焼いて壊死を起こさせ、縮小させます。温熱療法は、尿道や直腸からカテーテルを入れ、RF波やマイクロ波を前立腺に当てて加熱し、肥大を小さくして尿道を開かせます。
委縮膀胱が頻尿の原因の場合は、委縮した膀胱を大きくするために、膀胱を切り取って腸管を利用した膀胱拡大術が行います。内分泌膀胱症が頻尿の原因の場合は、男性ホルモンを用いて治療します。
遊走腎が頻尿の原因の場合は、症状が軽ければ治療を行わず、そのまま経過観察します。症状の強い場合には、腹帯、コルセットなどを使用して腹壁筋の緊張を保持します。同時に、腹筋、背筋を強化するための運動療法を行うこともあります。やせている人は、腎臓の周囲の脂肪を増加させ、腎臓の支持、補強を行うために体重を増加させます。
神経因性膀胱(神経因性過活動膀胱)が頻尿の原因の場合は、基礎疾患に対する治療が可能ならばまずそれを行いますが、神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、薬物療法、手や腹圧による膀胱訓練、カテーテルによる自己導尿、さらに神経ブロックや手術などを行うことになります。
膀胱神経症(神経性頻尿、過敏性膀胱)が頻尿の原因の場合は、膀胱の過敏性を和らげ、余分な収縮を抑える抗コリン薬を服用したり、心因的な要素が強い時には抗不安薬や自律神経調整薬などを服用することもあります。
抗コリン薬の服用期間中には、排尿記録を基に目標を決めて、排尿間隔を開け、一回量を増やすような生活を心掛けます。服薬を中止することによる頻尿の再発を心配することはありません。精神面が大きく作用する膀胱神経症の場合、数週間の服用で頻尿の習慣が消え、服薬を中止しても大丈夫な人が多いものです。改善したら、予防法など考えず、排尿回数に無関心になることが最大の予防法といえるでしょう。
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