ボツリヌス菌の作る毒素によって起こる食中毒
ボツリヌス菌食中毒とは、強力な毒素を産生するボツリヌス菌によって引き起こされる食中毒。
ボツリヌス菌は土壌や海、湖、川などの泥砂中に分布している嫌気性菌で、熱に強い芽胞を形成します。この菌による食中毒は、欧米では古くからハム、ソーセージなどによる腸詰め中毒として恐れられていて、ハム、ソーセージに発色剤として添加される硝酸塩は発色作用よりも、ボツリヌス菌の繁殖を抑える目的で使用されています。
酸素がなくて水分や栄養分があるなど一定の発育条件がそろった食品中で、猛毒の神経毒素であるボツリヌス毒素を産生。食品とともに摂取された毒素は、主に小腸上部で吸収され、リンパ管をへて血液中に入り、末梢(まっしょう)性の神経まひ症状を起こします。現在知られているものでは最強の毒力があるといわれ、テロリストによって生物兵器として使われるのではないかと心配されています。
菌は毒素の抗原性の違いによりA~Gまでの型に7分類され、人に対する中毒はA、B、E、F型で起こります。A、B型は芽胞の形で土壌中に分布し、E、F型は海底や湖沼に分布します。
日本では、缶詰、ビン詰、容器包装詰低酸性食品(レトルト食品類似食品)、自家製の飯鮨(いずし)などによる食中毒がみられます。海外では、キャビア、野菜などの自家製ビン詰や缶詰、ハム、ソーセージによる食中毒がみられます。
日本では、北海道や東北地方の特産である魚の発酵食品、飯鮨(いずし)による食中毒が数多く知られています。飯鮨は生魚、飯、酢、食塩、砂糖などを混ぜた自家製の保存食品で、調理に加熱工程がないことや、海底にボツリヌスE型菌が分布していることなどが、発生原因とされています。
しかし、1998年と1999年に連続して、容器包装詰低酸性食品を原因とするA型およびB型毒素による食中毒が発生して以降、ボツリヌス菌食中毒の発生はありません。
潜伏期間は平均1〜2日で、吐き気、嘔吐(おうと)、腹痛、下痢などの腹部症状に続いて、物が二重に見える複視、発語困難、舌のもつれ、口渇、物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害などの神経まひ症状が現れます。さらに症状が進むと、便秘、尿閉、四肢のまひが現れ、次第に呼吸困難に陥ります。
10日以上経過すれば死亡を免れますが、それ以前に呼吸筋のまひによる呼吸不全などで死亡することも少なくありません。
ボツリヌス菌食中毒の検査と診断と治療
ボツリヌス菌食中毒は極めて致死率が高いため、医師による検査および診断は、迅速な対応が求められます。診断は中毒の原因と推定された食品、発症者の糞便(ふんべん)、血液、胃内容、吐物などから毒素の証明をし、菌を分離することで行われます。
近年では、糖とボツリヌス毒素を結合させ、毒素遺伝子を迅速かつ特異的にレーザーで検出する遺伝子増幅法が普及しています。区別が必要な疾患には、脳卒中、急性球まひ、メタノール中毒などがあります。
治療では、抗毒素を注射で投与するとともに、輸液によりブドウ糖液、リンゲル液などの電解質液、あるいは水を補充して症状の改善を待ちます。さらに症状の経過に応じて、 人工呼吸器による呼吸の補助など、さまざまな対症療法も行われます。日本では1962年に抗毒素療法が導入された結果、致命率は著しく低下しました。
このボツリヌス菌食中毒のほとんどは、自家製食品によって起こっています。菌の食品汚染は、原材料に由来するとされています。食中毒を防ぐためには、以下のことを心掛けます。
新鮮な原材料を用いて十分に洗浄する。低温下で素早く調理する。飯鮨などの魚肉発酵食品には、酢酸を添加する。食肉製品や魚のスモークは十分に加熱する。自家製の缶詰、真空パック、びん詰を製造後は、冷蔵あるいは冷凍下で保存する。製造後あるいは保存中に異臭がする食品や、容器包装詰低酸性食品の食べ残しなどは廃棄する。
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