微生物のクラミジア・トラコマーティスにより引き起こされる結膜炎
顆粒(かりゅう)性結膜炎とは、細菌よりさらに微細なクラミジア・トラコマーティスという微生物によって引き起こされる結膜炎。英語に基づいてトラコーマ、ドイツ語に基づいてトラホーム、元々はエジプトの風土病であったことに基づいてエジプト眼炎とも呼ばれます。
上下のまぶたの裏側と、眼球の表面から黒目の周囲までを覆う結膜の急性、もしくは亜急性の炎症で始まり、ついには黒目の表面を覆う角膜が混濁して、失明の原因となることもあります。
衛生環境のよい日本では現在、顆粒性結膜炎の発症は非常に少なくなりました。かつては世界で一番大きな失明原因の一つでしたが、2020年までに顆粒性結膜炎を地球から排除する計画を進めている世界保健機関(WHO)の報告によると、顆粒性結膜炎の全世界における患者数は1985年の3億6千万人から、2006年には8000万人へと減少がみられています。
地理的には、北アフリカ、中東、インド周辺、東南アジアなど、空気が乾燥して気温が高く、上水道設備が整っていない地域で、今も多く発症しています。
日本では日清戦争時に、兵士が顆粒性結膜炎に感染して帰国してから流行したといわれており、1910年代には日本の顆粒性結膜炎の罹患(りかん)率は20パーセントを超えていました。衛生環境がよくなるにつれ、1975年以降は激減しました。
なお、クラミジア・トラコマーティスによる結膜炎には、クラミジア・トラコマーティス血清型D〜Kによって起こる封入体結膜炎もあります。こちらは現在、性(行為)感染症によるクラミジア結膜炎として増加しています。
クラミジア・トラコマーティス血清型A、B、Ba、Cによって起こる顆粒性結膜炎の発症は、年齢的には10歳未満の小児や子供に多くみられます。これより年上の子供や成人では、免疫力が高まり衛生面にも気を配るので、発症することは少なくなります。
疾患の初期に感染力が高く、目と手の接触、クラミジア・トラコマーティスの付着したタオルやハンカチの共用、目元に塗る化粧品の共用、特定の種類のハエによる媒介などによって伝染します。
潜伏期間は5~12日で、普通は両目に発症します。まぶた(眼瞼(がんけん))がはれ、まぶたの内側の結膜である眼瞼結膜が充血してむくみ、大量の目やにが出ます。かゆみや痛みが生じ、涙が多く出ます。まぶたの裏は赤くはれて、多数の小さなぶつぶつ、すなわち顆粒が現れます。光に対しても過敏になります。
治療を行わないと慢性化して、症状の軽快と悪化を繰り返し、後期には、小さなぶつぶつが大きくなり、血管が徐々に発達して結膜から角膜の上にまで侵入する新血管形成が現れて、視界を妨げます。
結膜や角膜に瘢痕(はんこん、ひきつれ)ができて荒れた粘膜となり、まつげの向きが乱れて、内側に向いてしまう逆さまつげになる場合もあります。あるいは、まぶた全体が眼球側にまくれ込む眼瞼内反になる場合もあります。
こうした状態になると、まばたきをするたびにまつげが角膜をこするので、細菌の感染、角膜の潰瘍(かいよう)や混濁など、回復不能の損傷が生じやすくなります。顆粒性結膜炎にかかった人のうち約5パーセントが、視力障害や失明に至ります。
顆粒性結膜炎の検査と診断と治療
眼科の医師による診断では、目の観察所見と症状の持続期間が、顆粒性結膜炎(トラコーマ)を疑う手掛かりになります。目からサンプルを採取して、検査室で感染源のクラミジア・トラコマーティスを特定することで、診断が確定します。
眼科の医師による治療では、エリスロマイシンやアジスロマイシンなどのマクロライド系、ドキシサイクリンやミノサイクリンなどのテトラサイクリン系の抗生物質(抗生剤、抗菌剤)を3~5週間服用します。アジスロマイシンの場合は、週に1回、1~3週間の服用ですみます。抗生物質を含む軟こうも効果がありますが、4~6週間使用する必要があります。
まぶたや結膜、角膜が損傷を受けている場合は、手術が必要です。逆さまつ毛に対する手術も行われます。
顆粒性結膜炎は感染症であることから、再感染もしばしばみられます。人から人へと感染することもあります。子供から子供への感染がよくみられますが、家庭内においては、子供から母親への感染もよくみられます。発症者の目の分泌物の中の病原体によると考えられます。目の分泌物が付着する可能性のあるタオル、ハンカチなどの貸し借りはやめるべきです。
目の分泌物をエサとして、子供の目にたかるハエもいます。分泌物に触れたハエが、人から人へと病原体を運搬する可能性もあります。ハエは駆除し、毎日、手や顔をきれいに洗うことを習慣付けることにより、感染の広がりを防げます。
顆粒性結膜炎の発症者が多く出ている地域では、しばしば近隣の全住民に抗生物質が処方されています。
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