静脈が血液の固まりで栓をしたように詰まる状態
静脈血栓症とは、静脈が血液の固まりで栓をしたように詰まる状態。皮膚の浅い部分にある皮(ひ)静脈(表在性静脈)に起こる血栓性静脈炎と、体の深い組織内にある深部静脈に起こる深部静脈血栓症の2つがあります。
原因としては、流れる血液自体に変化が起きて固まりやすくなったか、血流がゆっくりになったか、静脈壁に変化が起きたかの3つです。同じように静脈に血の固まりである血栓ができても、皮静脈に起こる血栓性静脈炎と深部静脈に起こる深部静脈血栓症とでは、症状の出方は全く違います。血栓性静脈炎は軽くてすむのに対して、深部静脈血栓症は重症化しやすくなります。
皮静脈に血栓ができる血栓性静脈炎では、静脈のある部分の皮膚が赤くなり、軽い痛みを伴ったり、下肢にしこりができたりします。自然に起きる場合もありますが、最も起こりやすいのは、繰り返し静脈注射を行った場合です。針や薬の刺激で、静脈の壁に損傷や変化が起きて、この部分の血液が固まり、血栓を作ります。がんや血液疾患などの合併症として起きる場合は、基礎疾患によっていろいろな症状が現われます。
深部静脈に血栓ができる深部静脈血栓症では、骨盤内の静脈や下腿(かたい)静脈、大腿(だいたい)静脈で詰まることが多く、その末梢(まっしょう)部の静脈に、うっ血が起こるので、足がひどくむくんだり、チアノーゼを起こして青紫色に変色したりします。うっ血が高度になると、強い痛みを伴うことがあります。男性よりも女性にやや多く、40歳代後半から50歳代に起きやすいと見なされています。欧米ほど高頻度ではありませんが、日本でも増加の傾向にあります。
近年では、この深部静脈血栓症は、長時間の飛行機搭乗によるエコノミークラス症候群、あるいは旅行者血栓症、ロングフライト症候群としても注目を集めています。長時間、座ったままの同じ姿勢でいると、血液の流れが徐々に悪くなり、脚や腕などの静脈に血栓が生じやすくなります。この血栓が血流に乗って肺へ流れ、肺動脈が詰まると、肺塞栓(そくせん)症となります。肺動脈が詰まると、その先の肺胞には血液が流れずガス交換ができなくなる結果、換気血流に不均衡が生じ、動脈血中の酸素分圧が急激に低下、呼吸困難を起こします。また、肺の血管抵抗が上昇して、全身の血液循環に支障を起こし、最悪の場合は死亡します。
また、深部静脈血栓症は急性期に適切な治療がなされないと、慢性期に静脈血栓後症候群に悩まされることとなります。静脈高血圧のために皮静脈に静脈瘤(りゅう)ができたり、下肢の倦怠(けんたい)感、むくみが生じたり、栄養不足のために色素が沈着したり、皮膚炎や湿疹(しっしん)を起こしやすくなったり、治りにくい潰瘍(かいよう)ができたりすることもあります。
静脈血栓症の検査と診断と治療
急性期の血栓性静脈炎は、下肢のはれ、色調、皮膚温、皮静脈の拡張など、視診や触診で診断が可能です。また、下肢の血栓の最も有効な検査法は、超音波ドプラー法であり、現在最も頻用されています。時には静脈造影を用いて、血栓の局在や圧の上昇を測定することもあります。慢性期になると、皮膚や皮下組織が厚くなるリンパ浮腫との区別が難しく、リンパ管造影や静脈造影が必要になる場合もあります。一方、深部静脈血栓症に対しては、血栓性静脈炎などの紛らわしい疾患と区別するため、静脈造影、超音波ドプラー法、造影CT、MRA(核磁気共鳴検査)、血流シンチなどが行われます。また、原因となる血液凝固異常の有無や、血栓を生じたことを確認するために、血液検査も行われます。
血栓性静脈炎の治療においては、がんや血液疾患などの合併症がある場合は基礎疾患の治療が優先されます。それ以外の急性期は、局所の安静と湿布、弾性包帯などを用いると、数週間で治ることがほとんどです。難治性のものには、抗凝固剤や血栓溶解剤を使って血栓の治療と予防を行います。痛みがある場合には、対症療法として炎症鎮痛剤などを使います。症状がひどいい場合のみ、外科的手術による血栓の除去、静脈の切除、バイパス形成を行います。
深部静脈血栓症の急性期の治療においては、血栓の遊離による肺塞栓を予防するため、むくみや痛みが軽減するまで安静を保ち、下肢を高く上げておくことが必要です。痛みに対しては非ステロイド抗炎症薬を使い、血栓の治療と予防には抗凝固剤や血栓溶解剤を使います。下肢のチアノーゼがひどい場合や、症状が重く急を要する場合には、カテーテル治療や血栓摘除術によって直接血栓を除去します。将来、肺塞栓などの重症な疾患に発展したり、静脈血栓後症候群が生じる危険もあり、治療には十分な注意が必要とされます。
静脈血栓症の予防には、運動、マッサージ、弾性ストッキングの使用などによって、血栓の形成を防ぐことが重要。寝る時には少し下肢を高くすれば、うっ血の予防になります。なお、エコノミークラス症候群の予防には、飛行中の十分な水分摂取、足を上下に動かしたり通路を歩くなどの適度な運動が有効です。
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