中枢神経系の脳、脊髄、髄膜や眼球の中に悪性リンパ腫ができる疾患
中枢神経系原発リンパ腫(しゅ)とは、中枢神経系の脳、脊髄(せきずい)、脳の外側を覆っている髄膜、眼球などの中に悪性リンパ腫ができる疾患。
リンパ腫は、リンパ系に悪性腫瘍、すなわちがんが発生する疾患です。リンパ系は免疫系の一部で、リンパ液、リンパ管、リンパ節、脾臓(ひぞう)、胸腺(きょうせん)、扁桃(へんとう)、骨髄から構成されています。このリンパ系は、蛋白(たんぱく)質を豊富に含むリンパ液の流れを体に循環させ、バクテリア、ウイルス、老廃物などを集めます。これらをリンパ管を通して、リンパ節に運び、リンパ節の中のリンパ球という感染と戦う細胞でろ過して取り除きます。リンパ液は静脈の毛細血管に吸収され、老廃物などは最終的には体から排出されます。
リンパ球の集団の一部の細胞が悪性化し、それが中枢神経系の内部でリンパ腫を引き起こすものと考えられています。しかし、リンパ節のような組織の存在しない中枢神経系や眼球内に、悪性リンパ腫が発生する原因は、わかっていません。
中枢神経系原発リンパ腫は、脳、脊髄、髄膜のいずれかより発生します。また、その位置が脳に非常に近いことから、眼球からも中枢神経系原発リンパ腫が発生することがあり、これは眼内リンパ腫と呼ばれます。
この中枢神経系原発リンパ腫にかかる危険因子としては、膠原(こうげん)病、免疫不全疾患、臓器移植、加齢などによる免疫不全、ヘルペスウイルスの仲間であるエプスタイン・バーウイルス感染などがあります。
脳に中枢神経系原発リンパ腫、すなわち脳リンパ腫が前頭葉、後頭葉、脳深部、脳幹などに生じると、脳腫瘍によって、頭蓋(とうがい)内の圧力が高まるために起こる頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)などの症状が起こります。
脳腫瘍ができた部位によっても症状が異なり、前頭葉に腫瘍があると知能低下(認知症)や失語症、性格変化、尿失禁など、後頭葉に腫瘍があると視野障害など、脳幹に腫瘍があると運動まひ、眼球運動障害などが生じます。
数日から何週間単位で進行する亜急性を示すものが多く、一度症状が出たら悪化するのは早いと考えなければなりません。
眼球内に中枢神経系原発リンパ腫、すなわち眼内リンパ腫が生じると、視野の中に虫が飛んでいるように見える飛蚊(ひぶん)症や、視界に霧がかかったように見える霧視、光をまぶしく感じる羞明(しゅうめい)感、視力の低下、眼痛、充血など自覚症状が起こります。
眼内リンパ腫が生じた場合には、中枢神経系にも生じていることもあり、中枢神経系の症状が先に出てくる場合と、目の症状が先に出てくる場合とがあります。目の症状が先行した場合は、8割近くが数年以内に中枢神経系にもリンパ腫を生じ、多彩な神経症状を生じます。
脊髄に中枢神経系原発リンパ腫が生じると、首や背中や下肢の痛み、骨格筋が委縮して筋力が低下するミオパチー、膀胱(ぼうこう)直腸障害などが起こります。
中枢神経系原発リンパ腫の検査と診断と治療
脳神経外科、脳腫瘍外科などの医師による脳リンパ腫の診断では、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うと、腫瘍を形成する白っぽい病変として描出され、造影剤を用いると多くの場合、はっきりわかります。
腫瘍を形成する病変は、前頭葉、側頭葉、小脳、脳深部に多く認められ、脳の中に2個以上のリンパ腫が同時にできる多発例もしばしば認められます。
脳にだけリンパ腫ができたのか、脳ではない体のどこかに発生したリンパ腫が脳に転移したのかを区別するのは、困難です。
検査が終わってリンパ腫が疑われた場合は、すぐに定位脳手術という方法で腫瘍の一部分を切り取り、顕微鏡で調べる検査である生検を行います。
一方、眼科などの医師による眼内リンパ腫の診断では、まず、一般的な眼科の検査を行います。検査をすると、眼球の内容の大部分を占めるゼリー状の透明な組織である硝子体(しょうしたい)の混濁が認められたり、網膜の下の眼底に腫瘍の塊が生じているのが認められたり、両者が混在して認められたりします。
硝子体の混濁が認められた時は、硝子体手術という方法で硝子体を切除することによって、眼内のリンパ腫細胞を採取し、これを病理検査することによって眼内リンパと確定します。いわゆる細胞診と呼ばれる診断法ですが、眼内の混濁がなくなることで視力の向上も期待できます。
硝子体の混濁が認められず、網膜の下の眼底に腫瘍の塊が生じているような場合には、硝子体手術によって網膜下の組織を採取し、これを病理検査することによって眼内リンパと確定します。
また、中枢神経系の病変の有無を調べるために、CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を併用して行います。これらの検査を行い、脳のリンパ腫である中枢神経系原発悪性リンパ腫が疑わしい場合は、血液内科、脳神経外科などの医師と連携して診断を確定します。
脳神経外科、脳腫瘍外科などの医師による脳リンパ腫の治療では、メトトレキセートという抗がん剤を投与した後に、脳全体に放射線を照射する方法を行います。この方法が最も良い治療成績を示し、平均的な生存期間は3年以上になると報告されていますが、集中管理できる施設でしか行うことができません。
脳腫瘍ができた部位によりますが、腫瘍の切除手術は行いません。脳リンパ腫の場合、周囲組織との境目が明確でないため完全切除は難しく、大きく切除すると脳機能に多大な影響を与えかねないためです。
残念ながら、いずれの治療法を選択しても再発率や死亡率は高いものです。
一方、眼科などの医師による眼内リンパ腫の治療では、眼内リンパ腫に対する局所的な治療を行うとともに、中枢神経系原発悪性リンパ腫や全身性の悪性リンパ腫に対する治療も考慮します。
局所的な治療としては、放射線を眼部に照射する方法と、メトトレキサートを眼内に注射する方法があります。前者の放射線療法は、連日の照射治療を2週間程度続けることになります。後者の注射による薬物療法は、週に1、2回、その後は月に1回のペースで半年から1年間程度続けることになります。
いずれも治療方法として有効といわれていますが、どちらがよいかということは判断が分かれており、また、副作用も比較的重くなっています。
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