腸炎ビブリオに汚染された魚介類を食べることで発生
腸炎ビブリオ食中毒とは、腸炎ビブリオに汚染された魚介類、あるいはその加工品を食べることが原因となって発生する食中毒。特に夏期に多くみられます。
日本で起きる食中毒の原因菌の中で、腸炎ビブリオは常に上位の地位を占めています。約3パーセントの塩分を好む細菌で、生息しているのは沿岸の海水中。海水温が低い冬場は海底の砂や泥の中にいますが、海水温が15℃を超えると海水中に出てきて増殖します。
その腸炎ビブリオの多くは人に食中毒を起こしませんが、TDH/TRHと呼ばれる病原因子産生能を持つごく一部の菌が魚介類に付いて、調理場まで運ばれてきた場合に、食中毒を起こすことになります。 発育の適温である35~38℃では他の細菌に比べて増殖が速く、食品から調理器具類、調理器具類から食品といった具合に、二次汚染により次々と広がってゆきます。その多くは、刺身など生の魚介類が原因となっています。
原因食を食べてから5〜24時間、平均10時間前後の潜伏期間を経て発症します。初めは上腹部の不快感とともに上腹部の痛みを覚え、次いで吐き気、嘔吐(おうと)、下痢を伴います。下痢は水様便のことが多く、しばしば粘血が混じる場合があります。また、この時期に37〜38度の発熱をみることが少なくありません。
一般には、経過は順調で、症状は24時間後には軽快し、大部分は3日以内に治まります。
ただし、潜伏期間や現れる症状は、摂取した菌の量や発症者の健康状態、年齢によって変化します。幼児ではわずかな菌量でも発症し、場合によっては激しい下痢、強い腹痛、血便などの重い症状を示すこともあります。
下痢、嘔吐などの回数が多くなると、特に幼児や高齢者では、脱水症状が強くなることがしばしばあります。脱水症状とは、体内の水分が不足するために全身のバランスが崩れ、心臓などの循環器、腎臓(じんぞう)、肝臓の働きが悪くなることで、ひどくなったまま放置すればショック状態となり、死に至ることもあります。
腸炎ビブリオ食中毒の検査と診断と治療
腸炎ビブリオ食中毒の症状が生じ、疑わしい食事に心当たりがあったら、医療機関を受診するのが原則です。下痢、嘔吐、発熱はいずれも体の水分を失うことになるので、市販のスポーツ飲料などで水分の補給を心掛け、脱水症に陥るのを防ぎます。体力のない幼児や高齢者では、間違って嘔吐物を気管に吸い込む誤嚥(ごえん)にも注意します。
医師は急性の中毒症状から感染を疑いますが、腸炎ビブリオ食中毒と確定するには、実際に糞便(ふんべん)などから原因となっている菌を分離することが必要です。時には、分離された菌がTDH/TRHの産生能を持っているかどうかを調べます。
感染初期や軽症の場合は、ブドウ糖液やリンゲル液などの電解質液の点滴、吐き気や嘔吐を止める鎮吐剤の投与、あるいは整腸剤の投与による対症療法を行います。重症化した場合は、抗菌剤の投与による治療を行います。抗菌剤は原因菌に有効な種類を使用することが原則ですが、原因菌の分離には24〜48時間かかるので、急を要する場合には症状、原因食、季節、年齢などから推定して治療を始めます。
ほとんどの場合は点滴や抗菌剤などで、数日で快方に向かいますが、まれに幼児や高齢者、あるいは胃切除の手術を受けた人では死亡することもあるので、十分な注意が必要です。
腸炎ビブリオの弱点は熱、真水、低温ですので、食中毒を予防するためには以下のことを心掛けます。
1、60℃15分の加熱で菌は死滅するため、調理の際、加熱を十分に行います。 2、菌は真水に弱いため、魚介類は水道水でよく洗います。 3、菌は5℃以下では増殖しないため、低温で食品を保管して菌の増殖を抑えます。 4、魚介類を調理したまな板などからの二次的な汚染を防ぐため、調理器具類は使用後に十分な洗浄、殺菌を行い、乾燥させます。
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