移植により、生まれ付き子宮のない女性らの出産に道を開く臨床研究が本格化します。慶応大の阪埜(ばんの)浩司准教授(産婦人科学)のチームは24日、親族からの子宮移植の計画を学内の倫理委員会に申請しました。審査で承認されれば、国内初の移植手術が実施されます。
子宮移植を巡っては、スウェーデンやアメリカなど海外では2022年11月時点で約100件の実績があり、約50人の赤ちゃんが誕生しています。倫理委員会の審査が順調に進めば、チームは2023年度にも移植手術をします。
計画によると、3例の手術を予定しています。生まれ付き子宮のない「ロキタンスキー症候群」だったり、がんなどで子宮を摘出したりした20歳代から30歳代の女性が対象。夫がいることが条件で、子宮を提供するドナーは女性の母親や姉妹など親族に限る方針です。
女性は子宮がなくても卵巣に問題がなければ、正常な卵子を得られます。臨床研究では、まず女性の卵子とパートナーの精子で体外受精させた受精卵を凍結保存し、子宮移植に進みます。周期的な生理が起きるなど子宮が機能するようになれば「移植手術の成功」と評価します。
その後、子宮に受精卵を移植し妊娠、出産ができるかを確かめます。移植だけでなく妊娠も成功すれば、2024年度にも国内で初めて子宮移植によって出産する可能性があります。2人目以降の出産を希望しない限り、出産後は子宮を摘出します。
費用は1件当たり数千万円かかります。一部は患者側が支払い、残りは慶応大が負担する見込みといいます。
チームはこれまで、カニクイザルの子宮を別のサルに移植し、妊娠と出産をさせることに成功するなど基礎研究に取り組んできました。チームの木須(きす)伊織助教(産婦人科学)は、「動物実験などを通じ、技術的には問題はないと考えている。ようやく日本でも子宮のない女性の希望をかなえられる段階にきた」と話しています。
国内ではロキタンスキー症候群だったり、がんなどで子宮を摘出したりした女性は20歳代から30歳代で5万人から6万人いると推計されているものの、移植の例はありません。子宮移植はドナーや手術を受ける女性にリスクがあるにもかかわらず、生命の維持が目的ではないため、倫理面の懸念を指摘する声もありました。
そこで、日本医学会の倫理検討委員会が議論し、心身の負担が大きいドナーの十分な意思確認をすることや、関連学会が移植実施状況を監視することなどを条件に、移植を容認する報告書を2021年7月にまとめました。この委員会は、慶応大の臨床研究を念頭に置いた判断をしていました。
2022年11月25日(金)
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