iPS細胞(人工多能性幹細胞)から心臓の筋肉の細胞を作ってシート状にした「心筋細胞シート」を心臓病の患者に移植する手術を行ったと、九州大学と大阪大学の研究チームが発表しました。
心筋細胞シートを開発した大阪大学以外で手術が行われるのは2カ所目で、安全性と有効性を確認し、保険が適用される治療法としての承認を目指すとしています。
これは14日、九州大学と大阪大学が記者会見で発表しました。それによりますと、九州大学では1月中旬、iPS細胞から心臓の筋肉の細胞を作ってシート状に培養した心筋細胞シートを、虚血性心筋症という重い心臓病の50歳代の男性の心臓の表面に貼り付けて移植する手術を行ったということです。
心筋細胞シートは大阪大学などの研究チームが開発したもので、大阪府にある施設で作り、新幹線で九州大学に運んだということです。
患者の手術後の経過は順調で、14日退院したということです。
九州大学の塩瀬明教授(心臓血管外科)は、「地域の心臓病治療の拠点となっている九州大学でも手術が安全に実施できることが確認できてよかった」と話していました。
また、治験を主導する大阪大学の澤芳樹特任教授は、「安全性や有効性の確認を進め、多くの患者に届けられるように努めたい」と話していました。
澤特任教授によると、九州大学より前に大阪大学と順天堂大学で手術を受けた5人の経過はいずれも順調で、懸念されていた腫瘍(しゅよう)化も確認されていません。近日中に予定する8例目の手術で治験は終了し、6カ月の経過観察の後、安全性と有効性のデータをまとめて薬事承認の審査を申請するといいます。
心筋細胞シートは、iPS細胞から心臓の筋肉である心筋の細胞を作製し、厚さ0・1ミリのシート状に培養したものです。シートは直径数センチの大きさで、1回の移植に使う3枚には心筋細胞が約1億個含まれています。
シートの状態でも心臓と同じように拍動していて、手術ではこのシートを3枚、全身に血液を送り出す役割を担う「左心室」の辺りに直接、貼り付けて移植します。
今回、九州大学でiPS細胞から作った心筋細胞シートの移植手術を受けたのは、山口県内に住む50歳代の男性です。
男性は17年前、心筋梗塞になり、その後、心臓の血管の血流が悪くなって全身に血液をうまく送り出せなくなる虚血性心筋症と診断されました。
これまで手術や薬による治療を受けてきましたが、症状は改善しなかったということです。そうした中、今回の治験があることを知り、参加を決めたということです。
男性は「手術の前は不安がなかったわけではありませんが、治験に参加することで同じ病気で悩む患者の未来にもつながっていくのではないかと考えています。手術を終え、今は参加してよかったと思っています」と話していました。
2023年2月16日(木)
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