慶応大学の研究チームは全身の筋肉が徐々に衰える筋委縮性側索硬化症(ALS)について、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った研究で見付けた治療薬候補を患者に投与した臨床試験(治験)の結果をまとめました。病気の進行を約7カ月遅らせる効果などを確認しました。2024年にも規模を拡大した最終段階の治験を始め、治療薬として実用化を目指します。iPS創薬による治療薬の実用化は、世界初となる見通しといいます。
アメリカの科学誌「セル・ステム・セル」に2日、治験の結果が掲載されました。慶大の岡野栄之教授らはALS患者のiPS細胞から病気の神経細胞を再現し、既存の薬剤の中からパーキンソン病の薬「ロピニロール塩酸塩」を治療薬の候補として見出しました。20人の患者が参加した医師主導治験で、運動機能の低下など病気の進行を推定約7カ月遅らせる効果があることや安全性を確認しました。
治験に参加した患者全員のiPS細胞を使い、細胞実験でもロピニロール塩酸塩の効果を調べました。細胞実験で高い効果がみられた患者は、実際の治験でも効果が高い傾向がありました。iPS細胞を活用して、ロピニロール塩酸塩の効果を事前に予測できる可能性があるといいます。
慶大発スタートアップのケイファーマ(東京都港区)が中心となり、最終段階となる第3相治験を2024年にも始めます。より多くの患者が参加する治験で有効性などを調べ、ALSの治療薬としての承認申請を目指す方針です。岡野教授は「確実性の高い治験を計画して1回で決着させたい」と話しました。
ALSは運動神経の障害で筋肉が徐々に衰える進行性の難病で、国内の患者数は約1万人。歩行困難や言語障害などの症状が出て、生活やコミュニケーションが非常に難しくなります。、根本的な治療薬はなく、個人差はあるものの、発症から数年で呼吸器の装着が必要になるか、亡くなります。病気の進行を遅らせることが、生活の質を保つために重要となっています。
2023年6月4日(日)
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