アメリカ食品医薬品局(FDA)は8日、遺伝性の血液疾患「鎌状赤血球貧血症」に対応するゲノム編集技術を利用した世界初の治療を承認しました。同治療に利用するクリスパー・キャス9という手法は、2012年に開発されてから10年強で実用化されました。
がんやエイズウイルス(HIV)などの治療にも応用できる可能性があるとされ、2020年にはノーベル化学賞も受賞しました。
アメリカのバイオ企業「バーテックス・ファーマシューティカルズ」とスイス拠点の「クリスパー・セラピューティクス」が共同開発しました。承認された治療は鎌状赤血球貧血症の患者で、血管閉塞性危機が定期的に起こる12歳以上の人が対象となります。
治療では、患者から採取した造血幹細胞をゲノム編集技術で遺伝子改変して、それを注射で体内に戻します。事前に抗がん剤を投与(化学療法)して、元々持っていた造血幹細胞を除去します。
鎌状赤血球貧血症は本来、円盤状の赤血球が三日月のように変形する病気です。変形した赤血球が血管に詰まり、激しい痛みや臓器損傷が生じます。FDAによると、鎌状赤血球貧血症の患者はアメリカ国内に約10万人おり、主に黒人の患者が多くなっています。
バーテックス社の治療は、イギリスの医薬品・医療製品規制庁(MHRA)も11月に承認しました。これまで鎌状赤血球貧血症の患者には造血幹細胞を白血球の型である「HLA型」が一致するドナー(提供者)から受ける以外に、治療の選択肢がありませんでした。
今回の承認でゲノム編集に対する関心がさらに高まりそうです。現在、同技術を利用したHIVやがん、希少疾患などの治療の開発が進んでいます。
FDAは、「今回の承認は遺伝子治療の分野で革新的な進歩があったことを示している」としています。
アメリカのホワイトハウスは承認を受けて、「この医学的進歩には、さらなる命を救う治療の開発の可能性が秘められている。他の希少疾患とともに生きる何百万人ものアメリカ人に希望を与えるものだ」と歓迎する声明を出しました。
2023年12月9日(土)
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