足の壊死(えし)など短時間で急速な状態悪化を招き、「人食いバクテリア」とも呼ばれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の患者報告が昨年、過去最多となりました。今年に入ってからも、多数の患者が確認されており、警戒が高まっています。
国立感染症研究所の公表データによると、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者は2014年に268人となって以降、増加が続き、2019年には800人を超えました。
新型コロナウイルス禍となった2020~2022年はやや減少したものの、2023年は941人(暫定値)と、それまで最も多かった2019年の894人を上回り、現在の方法で統計を取り始めた1999年以降で最多となりました。今年に入っても1月21日時点で139人の患者報告があります。
主な病原体は「A群溶血性レンサ球菌」という細菌。感染経路は飛沫(ひまつ)や接触とされ、通常は体内に入っても咽頭炎などを患う程度ですみます。だがまれに、血液などに菌が侵入して重篤な事態を招くのが劇症型です。60歳代以上の大人に多いとされます。
国内では現在、A群溶血性レンサ球菌による子供の咽頭炎が増加。ヨーロッパで流行が報告されている病原性や感染力の高いタイプの株も確認されている状況にあります。
厚生労働省は1月17日、劇症型の患者から採取した検体の解析を進めるよう自治体に依頼。武見敬三厚労相は同19日の閣議後会見で、今後の感染動向を「注視していく必要がある」と述べました。
劇症型の初期症状は発熱や悪寒、手足の痛みや、はれなど。ただ、短時間で細菌が増殖して急激な状態悪化に見舞われます。筋肉周辺組織の壊死や多臓器不全などで発症後数十時間で死に至ることもあり、致死率は約3割とされます。
東京女子医科大病院の菊池賢教授(感染症科)は、「例えば、朝までは、『先が少しはれている程度』だった足がみるみるうちに真っ黒になっていき、昼ごろには膝ぐらいまで壊死が進んでしまうこともある」と、状態悪化の急速さを説明。
こうした状態で病院搬送されてきた患者の場合、抗菌薬の投与だけでは救命が間に合わず「すぐに股関節当たりから足を切断しなければ、命を助けられないとの緊迫感の中で、対応を進める必要が出てくる」とも明かします。
菊池教授は、手洗いやアルコール消毒、マスク着用など基本的感染対策に加え、「足の清潔」を気にかけてほしいと話しています。
菊池教授がこれまで診てきた劇症型の患者の多くは高齢者で、転倒して足を打撲した後に容体急変に見舞われるなど「足の傷口」からの感染が疑われるケースが目立ち、傷口がある状態で屋外を素足で歩き回れば、傷口から細菌が入り込む恐れが高まり、靴擦れや水虫といった足の状態もリスクになり得るといいます。
ただ、患者側にとっては判断の難しさもありそうです。微熱、軽い足の痛みなどの症状段階で医療機関に行くべきかを悩む人もいるかもしれないものの、菊池教授は「はれが増して高熱が出るなど強い症状があれば迷うことなく、入院設備の整った病院を受診してほしい」と呼び掛けています。
2024年2月5日(月)
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