2024/06/25

🟧国立ハンセン病療養所での旧陸軍の薬剤臨床試験、入所者2人の死亡と因果関係の疑い 

 熊本県合志市にある国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園(けいふうえん)は24日、太平洋戦争中から終戦直後にかけて旧日本陸軍などが入所者に対し、「虹波(こうは) 」と呼ばれる薬剤の臨床試験を行い、試験中に死亡した9人のうち2人について投薬との因果関係が疑われるとする報告書を公表しました。投与対象者は少なくとも472人に上ります。国の報告書などで虹波の存在自体は知られているものの、被害の詳細をまとめたのは初めて。

 入所者自治会の要請を受け、2023年度に園の歴史資料館が収蔵する関連資料56点を精査しました。報告書では、死亡例や激しい苦痛を伴う副作用が確認されても臨床試験は中断されなかったとして、「当時の医師らの医療倫理の在り方に疑問が持たれる」と指摘しました。

 報告書によると、虹波は写真の感光剤を合成した薬剤で、熊本医科大(現熊本大医学部)の波多野輔久医師が陸軍の嘱託で開発しました。体質改善や結核のほか、ハンセン病の治療への活用も期待されたものの、効果は上がらなかったとされます。

 臨床試験は陸軍が指揮し、当時の宮崎松記園長の監督の下で行われ、1942年12月から1947年6月まで続いたといいます。対象と確認できた472人には6歳児も含まれていました。ほかに370人が参加した可能性があります。

 臨床試験中に死亡した9人のうち、7人の死因は肺結核や急性肺炎などでしたが、残る2人は虹波が原因と疑われるといいます。

 報告書では、「被験者は臨床試験への参加を拒否できなかった」と指摘。園内での安寧な生活を得るために、従順な態度を取らざるを得なかったと結論付けました。園は今後も調査を続け、薬剤の医学的な効果などを考察する方針。報告書は近く歴史資料館のホームページで公開する予定。

 医学史に詳しい京都大医学部の吉中丈志臨床教授は、「ハンセン病は死に至ることが少ない慢性疾患で、死者が出た薬を使い続けるのは医療倫理以前に、常識としておかしなことだ」と批判しました。

 虹波に関しては、国が設置した有識者らによるハンセン病問題の検証会議が、2005年にまとめた最終報告書で触れており、他の薬物とともに「副作用ばかりが目立つ」「試用は全くの人体実験だった」と指摘しています。

 厚生労働省は、恵楓園による今後の調査を注視するとしています。

 菊池恵楓園は1909(明治42)年、当時の法律に基づいて全国5カ所に設置されたハンセン病の患者を収容する療養所の1つ「九州らい療養所」として現在の熊本県合志市に開設されました。その後「らい予防法」の制定などによってハンセン病の患者が強制的に収容されるようになり、入所者は1958年のピーク時で1734人でしたが、現在は6月1日の時点で126人となっています。

 また、入所者の平均年齢は87・5歳と高齢化が進んでいます。

 菊池恵楓園には国の隔離政策の一環として、全国で唯一のハンセン病患者専門の刑務所が設けられていましたが、現在は取り壊され、跡地には3年前、小中一貫の公立学校が開校しました。

 園内には、入所者の無断外出を防ぐために設けられた「隔離の壁」など、差別の歴史を今に伝える施設が残っていて、厚労省は、これらの施設をハンセン病問題の啓発のために歴史的建造物として保存することにしています。

 2024年6月25日(火)

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