厚生労働省などは4日、遺伝子を効率よく改変できるゲノム編集技術で作製した受精卵を人の子宮に戻すことを禁止し、違反した場合は罰則を設ける方針を示した。ゲノム編集を施した子「ゲノム編集ベビー」の誕生を規制する新法の制定を検討する。
厚労省と文部科学省、こども家庭庁は同日、ゲノム編集技術を使った受精卵について具体的に議論する合同会議を立ち上げた。2019〜2024年に各省庁の審議会で議論した内容を整理した。
規制内容としてゲノム編集を施した受精卵の子宮移植を禁止し、違反した場合は、10年以下の拘禁刑、または1000万円以下の罰金を科すことを検討する。こうした受精卵を扱う際には計画書の提出を求める規制内容を示した。今後、法制化に向けて検討を進める。法案を取りまとめて早ければ2026年の通常国会に提出する。
受精卵は「生命の萌芽(ほうが)」と国の考え方で位置付けられており、慎重な取り扱いが求められる。ゲノム編集した受精卵を子宮に移植して出産すれば、生まれた子供は遺伝子を人工的に改変したゲノム編集ベビーになる。
ゲノム編集ベビーは安全性や倫理面に大きな課題がある。ゲノム編集技術は遺伝性の病気の発症予防に生かせる可能性がある一方、別の遺伝子を誤って改変してしまうと、病気になるリスクもある。遺伝子の改変は将来世代にも影響が続く。狙った容姿や能力を持つ子を誕生させようとする試みにつながれば、優生思想や差別を助長する恐れがあると指摘されている。
ゲノム編集技術を巡っては2012年、遺伝子操作が簡便な技術「クリスパー・キャス9」が開発されて関連研究が急速に発展した。中国の大学の研究者が2018年、エイズウイルスに感染しにくいようにゲノム編集した受精卵から双子の女児を誕生させたと公表し、国際的な非難が殺到した。米欧や中国、韓国はゲノム編集した受精卵の作製を禁止し、違反した場合の罰則を設ける。
日本も2019年、政府が法規制に乗り出す考えを示し議論を続けていた。現状は政府が示した倫理指針に基づいた規制はされているが、破られた場合の罰則がない。厚労省の担当者は「国内大学でも実験動物のマウスを使った関連研究がされるなど、技術が近年発展している」とみており、早期の法制化を急ぐ。
4日の3省庁による別の審議会では、人のiPS細胞などの万能細胞から受精卵を作製する研究の指針も議論する。細胞から精子と卵子を作って、受精卵を作製する研究は従来認められていなかったが、技術の発展を受けて、内閣府の生命倫理専門調査会は8月、研究を認める方針に転換した。
生殖目的ではなく、科学的に合理性のある研究目的に限り受精卵の作製などを認める。培養期間を14日までとして、人の子宮への移植を禁じる。内閣府の方針を基に、各省庁は関連する研究指針を改正する。
2025年12月4日(木)
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