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2022/08/26

🇵🇪重症高血圧

血圧が急激に上昇するとともに症状が生じ、直ちに、あるいは数日以内に血圧を下げる必要がある病態

重症高血圧とは、第3度高血圧であり、かつ急激な血圧上昇により症状を示している病態。

その重症度により、急性の臓器障害を伴い重篤な症状を来す高血圧緊急症(高血圧性緊急症、高血圧性クリーゼ)と、急性の臓器障害を伴わない高血圧切迫症(高血圧急迫症、高血圧性準緊急症)に分類されます。

高血圧緊急症は、著しく血圧が上昇するとともに、脳、腎臓(じんぞう)、心臓、網膜などの心血管系臓器に高血圧による急性障害が生じ、進行している状態です。放置すれば、不可逆的な臓器障害のため致命的であることから、極めて危険な状態であり、直ちに血圧を下げる必要があります。

症状として、まずは血圧が急激に上昇します。通常、収縮期血圧(最大血圧)で180mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)で120mmHg以上を超えます。このような高い数値が出た場合には、念のために、数分間待ってからもう一度血圧を測定し直すべきです。

血圧の急激な上昇の際に、激しい頭痛、強い不安感、息切れ、鼻出血、吐き気、嘔吐(おうと)といった症状が現れるのは、危険な兆候です。

これらの症状が現れた場合、または2回目に測定した収縮期血圧(最大血圧)が依然として180mmHg以上の場合、血圧が自然に下がるのを待つことなく、速やかに救急受診するべきです。それができない場合は、救急車を呼ぶか、誰(だれ)かに救急医療施設に連れていってもらうべきです。

放置しておくと、肺に水がたまったり、脳出血を起こしたり、脳がむくんできたり、心臓から出る太い血管である大動脈が破裂したりする危険性もあります。

一方、高血圧切迫症は、著しく血圧が上昇し、収縮期血圧(最大血圧)で180mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)で120mmHg以上を超えるのが認められる場合でも、急性の臓器障害を伴わない状態です。症状として、吐き気、嘔吐などを示す程度で、重篤な症状や進行性の臓器障害はありません。

しかし、放置して血圧を下げないでいると、重度の臓器障害が起こり予後が極めて不良になることに変わりはなく、積極的かつ厳重な血圧管理が求められます。

重症高血圧の検査と診断と治療

内科や循環器科の医師による診断では、拡張期血圧(最小血圧)が130mmHg以上、眼底うっ血乳頭による出血、腎機能の進行性の悪化、意識障害・頭痛・悪心・嘔吐・局所神経症状の4項目中、2項目以上が認められれば高血圧緊急症と判断します。

また、高血圧緊急症を引き起こす障害として、高血圧性脳症、脳血管障害、肺水腫(はいすいしゅ)を伴う急性心不全・急性冠症候群、妊娠中毒症・子癇(しかん)、高血圧を伴う解離性大動脈瘤(りゅう)、悪性高血圧、褐色細胞腫などの疾患や病態があるため、これらを評価します。

一方、著しく血圧が上昇しているにもかかわらず、比較的軽症で急性の臓器障害を伴わず、眼底うっ血乳頭がない場合は、高血圧切迫症と判断します。

内科や循環器科の医師による高血圧緊急症の治療では、状態が持続すると障害がどんどん悪化してしまうため、速やかに降圧を行います。降圧に使用される薬剤は、短時間作用型の調整可能な静注薬です。

しかし、急激な降圧や血圧の下げすぎは、脳などの血流を低下させてしまうため、好ましくありません。拡張期血圧(最小血圧)を100~110mmHg程度にするのが、治療の目標となります。

高血圧緊急症は1時間以内に血圧を下げる必要のある状態ですが、その緊急度は原因となる疾患、合併症の状況により異なり、個々の患者の状態により判断します。

例えば、高血圧緊急症を引き起こす原因が褐色細胞腫だという診断がついた場合、手術によって副腎の髄質にできた腫瘍(しゅよう)を摘出することで完全に治り、その後、高血圧緊急症を起こすことはありません。

内科や循環器科の医師による高血圧切迫症の治療では、経口降圧薬で治療して、数時間~数日以内に収縮期血圧(最大血圧)を160mmHg、拡張期血圧(最小血圧)を100mmHgぐらいまで下げることを目指します。

🇵🇪対称性壊疽

手足の指が変色し、しびれや痛みを感じる疾患

対称性壊疽(えそ)とは、寒冷刺激や精神的ストレスに反応して、手や足の指が真っ白になったり、青紫色になったりし、しびれ、冷感、痛みなどの症状を伴う疾患。レイノー病とも呼ばれます。

虚弱体質で比較的若い女性に多くみられ、左右対称に現れるのが特徴です。

冷たい水に触る、冷気に触れるなどの寒冷刺激、精神的ストレスなどを受けると、指の先の細い動脈が過敏に反応、収縮して血液が滞るために起こります。なぜ細い動脈に過敏な発作が生じるのかは不明ですが、交感神経や副交感神経中枢の異常によると考えられています。

こういうレイノー症状が、膠原(こうげん)病の人や、振動工具を使って作業をした人に起きることもあります。こちらはレイノー症候群といって、原因となる基礎疾患を持たない対称性壊疽と区別しています。

対称性壊疽の症状は秋から冬に多くみられ、突発的に手の指が真っ白になり、次いでチアノーゼのように青紫色に変色し、通常10〜30分の経過で肌色に戻って正常に回復します。中には、白い変色のみを示したり、しびれ、冷感、痛みを左右の手に示す場合もあります。進行すると、足の指や口唇などにも症状が現れるようになります。

重症な場合、指先の潰瘍(かいよう)や変形、組織が死ぬ壊疽を起こすことがまれにあります。

対称性壊疽の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、症状から対称性壊疽(レイノー病)を考えます。次いで、血液検査や血管造影により、膠原病や血管疾患などの基礎疾患を除外するための検査を行います。冷水に手を入れる冷水誘発試験や指尖(しせん)容積脈波・サーモグラフィーを行うこともあります。皮膚の色調変化が左右対称に突然生じ、ほかに原因と考えられる疾患がない時に、対称性壊疽と確定します。

内科の医師による治療では、細い動脈に過敏な発作が生じる原因がわからないので、根本的な治療法はありません。薬物療法としては、さまざま種類の血管拡張剤を用います。重症の場合には、交感神経切除術が行われます。β(ベータ)遮断薬や経口避妊薬の使用は避けます。

発作時以外には臨床的な問題はありませんが、症状の繰り返しを避けて悪化させないようにするには、手袋や靴下などで手足の保温を心掛け、寒冷刺激を避けます。また、たばこ、香辛料、コーヒー、紅茶などの刺激物も控えます。精神的ストレスをためない注意も必要です。

一般的に予後は良好ながら、医師と相談しながら経過を追っていくことも必要です。当初は原因となる基礎疾患が不明であっても、数年後に膠原病などの疾患が明らかになることもあるからです。

2022/08/25

🇨🇴重症不整脈

放置すると短時間で意識を失い、突然死に至る危険もある不整脈

重症不整脈とは、放置したままでいると短時間で意識消失から突然死に至る危険性が高く、緊急な治療を必要とする不整脈。心臓の拍動が異常に速くなる頻脈性不整脈のうち、心室頻拍や心室細動が重症不整脈に相当します。

重症頻脈性不整脈、致死性不整脈とも呼ばれます。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出すことができるのです。このリズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。この電気刺激が何らかの原因で正常に働かなくなることによって、拍動のリズムに乱れが生じてしまいます。

>不整脈は、拍動が不規則になる期外収縮、拍動が速くなる頻脈性不整脈、拍動がゆっくりになる徐脈性不整脈の3つに分類されます。

頻脈性不整脈は、1分間当たりの拍動が100回を大きく上回る症状をみせます。人間の血液量は一定なので拍動する回数が多くなると、1回の拍動で送り出される血液量が少なくなり、血圧の低下を招きます。

頻脈性不整脈のうちの心室頻拍は、心室から発生した異所性刺激によって、1分間当たりの拍動が100~200回という非常に速い発作性の頻脈を示します。血液の送り出しが阻害されて血圧も低下し、さらには心室細動に移行する可能性のある危険な病態です。

頻脈性不整脈のうちの心室細動は、心室の無秩序な興奮により異常な刺激を受け、1分間当たりの拍動が300~600回と極端に速くなる病態です。心室が小刻みに不規則に震える細動を伴って、電気刺激に心臓の反応が追い付かなくなり、拍動が弱まって血液の送り出しが不能な状態となり、血圧はゼロに下がります。胸痛や不快感が起き、血液が脳や体全体に届かなくなって、細動が10秒前後続くと意識を消失、さらに10分続くと脳死に至るともいわれています。

心臓突然死の多くは心室細動が原因で、即座に心臓マッサージを開始するか、公的機関やスポーツ施設を中心に配備されている自動体外式除細動器(AED)などを用いて細動を取り除かなければ、循環停止から呼吸停止に陥り死亡します。

心室細動は、もともと心臓の筋肉が弱っている人に多く起き、拡張型心筋症やブルガダ症候群と呼ばれる珍しい心臓病を持つ人にも起きます。また、遺伝的に重症不整脈を起こしやすいタイプもあり、若者が睡眠中などの安静時や運動中に、心室細動を起こすこともあります。

若者の場合、持病がなければ心室頻拍や心室細動などの重症不整脈の兆候も現れにくく、たとえ不整脈で倒れても軽度で回復して、それに気付かない場合があって予知が難しく、突然死の原因になりやすいという特徴があります。

心室細動は活動時よりも安静時、特に睡眠時に起こりやすく、睡眠中に心室細動発作を繰り返していても本人には自覚されないこともあります。同居者がいた場合、夜間に突然もだえてうなり声を上げたり、体を突っ張ったり、失禁したりする全身症状を指摘され、初めて発作があったことがわかることもあります。睡眠時などの安静時の発作は、再発率が高くなっています。

日本国内では心臓が原因の突然死が年間7万人を超え、そのうち最も重大な直接原因が重症不整脈と考えられています。

重症不整脈は、命にかかわるものなので、まずは毎年の健康診断をきちんと受けること、そして健診で異常が見付かったり、胸の自覚症状があった際には循環器科、循環器内科、もしくは不整脈専門の不整脈科、不整脈内科を受診することが勧められます。

重症不整脈の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による診断では、検査によって症状を特定します。普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電図、運動負荷検査、心臓超音波検査などを行います。いずれの検査も、痛みは伴いません。

ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、狭心症は出ていないかなどがわかります。とりわけ、日中に発作が起こりにくい不整脈を発見するのに効果を発揮します。

運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、狭心症が出るかどうかをチェックします。

心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による内科治療では、抗不整脈薬という拍動を正常化する働きのある薬を中心に行います。ただし、不整脈そのものを緩和、停止、予防する抗不整脈薬での治療は、症状を悪化させたり、別の不整脈を誘発したりする場合があり、慎重を要する治療法であるといえます。抗不整脈薬のほかに、抗血栓薬など不整脈の合併症を予防する薬なども用います。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による外科治療では、頻脈性不整脈に対して、体内に挿入したカテーテル(細い管)の先端から高周波を流し、心臓の過電流になっている部位を焼き切って正常化する、カテーテル・アブレーション法という新しい治療法が行われています。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。

薬物療法に応じず、血行動態の急激な悪化を伴い心室頻拍、心室細動、心房粗細動などを生じる重症不整脈に対しては、直流通電(DCショック)を行います。また、慢性的に重症心室頻拍、心室細動の危険が持続する症状に対しては、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術も考慮されます。植え込み型除細動器は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置です。

治療に関しては、疾患自体の原因がはっきりしていないため対症療法に頼るしかなく、現在のところ根治療法はありません。心室細動発作を起こした際は、自動体外式除細動器(AED)、または手術で体内に固定した植え込み型除細動器(ICD)などの電気ショックで回復します。

心室細動発作を起こしたことが心電図などで確認されていたり、原因不明の心停止で心肺蘇生(そせい)を受けたことがある人では、植え込み型除細動器(ICD)の適応が勧められます。このような発症者は今後、同様の発作を繰り返すことが多く、そのぶん、植え込み型除細動器(ICD)の効果は絶大といえます。また、診断に際して行う検査においてリスクが高いと判断された場合にも、植え込みが強く勧められます。

といっても、植え込み型除細動器(ICD)の植え込みはあくまで対症療法であり、発作による突然死を減らすことはできても、発作回数自体を減らすことはできないところに限界があるといわざるを得ません。

植え込み型除細動器(ICD)は通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。治療には500万円ほどかかりますが、健康保険が利き、高額療養費の手続きをすれば、自己負担は所定の限度額ですみます。手術後は、入浴や運動もできます。

ただし、電磁波によって誤作動の危険性もあり、社会的な環境保全が待たれます。電子調理器、盗難防止用電子ゲート、大型のジェネレーター(発電機)などが、誤作動を誘発する恐れがあります。

万一、発作が起きた際の用心のため、高所など危険な場所での仕事は避けたほうがよく、車の運転も手術後の半年は原則禁止。電池取り替えのため、個人差もありますが、5〜8年ごとの再手術も必要です。確率は低いものの、手術時にリード線が肺や血管を破ってしまう気胸、血胸なども報告されています。

🇳🇮出血性貧血

出血により血液が失われ、血色素や赤血球の産生が追い付かない場合に生じる貧血

出血性貧血とは、急性あるいは慢性の出血により血液が失われ、これに対して骨髄での血色素、あるいは赤血球の産生が追い付かない場合に生じる貧血のこと。失血性貧血とも呼ばれます。

貧血とは、血液の単位容積当たりの血色素量、あるいは赤血球数のいずれかが正常以下に低下した状態と定義されています。どのくらいの値で貧血か否かの線を引くかは、医師によって意見が違いますが、血色素量なら血液100ミリリットル当たり12グラム以下、赤血球数で1マイクロリットル当たり350以下ならば、貧血と呼んで間違いないでしょう。

貧血の場合、血液の酸素を運搬する能力が低下するため、いろいろな臓器で酸素が足りず、心臓が余分に働かなければならなくなり、心拍数が増加し、呼吸数も増加します。

貧血の中では鉄欠乏症貧血が最も多く、それに次いで出血性貧血が多くみられます。

急性の出血性貧血は、大けがや出産、手術などによって、あるいは疾患による消化器や呼吸器からの喀血(かっけつ)、吐血、下血によって、大量に出血した時に起こります。出血後しばらくの間は、血液の単位容積当たりの血色素量や赤血球数は減少しませんが、出血によって全身を駆け巡っている循環血液の総量が減少します。それが高度になると、血管内の血液が少ないために循環不全を生じ、体温の下降、急激な脈拍増加、不正な虚脱状態が起こります。そのうちに、単位容積当たりの血色素量や赤血球も減少します。

急速な出血の場合には、循環血液量の3分の1を失うと脳などの重要器官に酸素が供給されず、生命に危険があるとされています。例えば体重50キログラムの成人の場合、循環血液量は約4リットルであり、500ミリリットルから1リットルの出血でめまいや手足など末端部分が冷たくなります。さらに、1リットルから1・5リットルの出血で顔面が蒼白(そうはく)状態になって血圧が急激に低下し、1・5リットル以上の出血では意識がもうろうとします。

一方、慢性の出血性貧血は、出血が持続したり、繰り返し出血したりして起こります。例えば、胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍、胃がん、大腸がん、潰瘍性大腸炎、痔(じ)などで、少量ながら継続的な出血があると起こります。女性では、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮内膜症、月経多血症のほか、毎月の月経や出産時の出血でも起こります。

貧血が起こると、血液の酸素運搬能力の低下を代償するために、動悸(どうき)や息切れ、さらに全身倦怠(けんたい)感や食欲不振の症状が出ます。進行すると、爪(つめ)が反り返るスプーンネイルになったり、物を飲み込めなくなる嚥下(えんか)障害が出ることもあります。

急性出血性貧血の治療法としては、まず止血処置を行い、一方で輸血を行います。理想的なのは輸血ですが、すぐに輸血用の血液が間に合わない時には循環血液量の少ないのを補うために、血液製剤や血液代用剤が用いられます。

このような緊急処置で危機を脱した後に輸血を中止し、鉄剤を点滴したり服用すると貧血は回復しますが、回復後もなお当分は鉄剤を投与して貯蔵鉄の回復を図ります。貧血の症状に対する治療とともに、出血個所そのものに対する治療も行います。

慢性出血性貧血の場合は、胃潰瘍や月経多血症などの疾患部の治療を行いながら、同時に鉄剤を投与して治療してゆきます。

食事療法で貧血の改善を図るのも、有効な手段です。食事療法は基本的に鉄欠乏性貧血と同じく、肉や魚などの動物性食品に含まれているヘム鉄と、野菜や海藻などの植物性食品に含まれている非ヘム鉄をほかのビタミンやミネラル、蛋白(たんぱく)質とともに摂取して、よりよく鉄分を吸収するのがポイントです。しかし、胃潰瘍など消化器疾患による慢性出血性貧血の場合には、胃や腸に負担を掛けない食事にすることが大切です。

なお、血友病や白血病、血小板減少症などといった血が止まりにくい疾患を患っている人の場合、普通の人がかすり傷程度で終わってしまう外傷でも大出血を起こし、急性出血性貧血になる可能性もありますので、できるだけけがをしないように日ごろから気を付けることも大切です。

🇸🇮房室回帰性頻拍

発作があると危険な頻脈性の不整脈

房室回帰性頻拍とは、脈拍が速くなる頻脈性の不整脈を生じる疾患の一つ。WPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)とも呼ばれます。

不整脈は、一定感覚で行われている心臓の拍動のリズムに、何らかの原因によって乱れが生じる疾患です。

1915年ころから房室回帰性頻拍の存在が知られ始め、1930年に多くの症例についての詳しい報告がなされ、世に知られるようになりました。この際の3人の研究者であるウォルフ、パーキンソン、ホワイト各博士の頭文字から、WPW症候群とも名付けられました。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、筋肉でできている心臓は絶え間なく全身に血液を送り出すことができるのです。このリズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。この電気刺激が正常に働かなくことによって、拍動のリズムが乱れる不整脈が生じます。

房室回帰性頻拍の多くの原因としては、右心房と右心室、左心房と左心室の間にケント(Kent)束と呼ばれるバイパス(副伝導路)が存在することによって、電気刺激の旋回(空回り、リエントリー)が起こることが挙げられます。

通常は洞結節から発した電気信号は心房を経由して心室へと伝達されますが、この疾患では電気信号が通常のルートのほかケント束を経由する2つのバイパスを伝わるため、一度心室に伝わった電気刺激がバイパスを伝わって再び心房に戻ってしまう時に頻拍が起こります。電気刺激が回路を旋回し続けてしまい、心房と心室が絶え間なく拍動し、頻脈性の不整脈となってしまいます。

主な症状は、脈が突然速くなったり、動悸(どうき)が突然生じたり消えたりします。さらに、胸部に違和感があります。頻拍が長時間続くと、心機能が低下してうっ血性心不全になる場合もあります。

しかし、バイパスがあっても症状が出る人は一部で、多くは健康診断などで発見されるまで、自覚症状がないため気付かずにいます。

従来は危険性のそれほどない疾患として高血圧、高脂血症、肥満、喫煙等の生活習慣をコントロールすることで改善されることがあるとだけされてきましたが、1980年代からの研究により、心房細動から心室細動に移行したケースがあることが判明し、危険な不整脈であると位置づけられたため、発作がみられた場合は即座に循環器科、内科循環器科、内科などの医師に診察してもらう必要があります。

房室回帰性頻拍の検査と診断と治療

循環器科、内科循環器科、内科などの医師による診断では、心電図検査で房室回帰性頻拍が見付かり、危険度の高いタイプかどうかもわかります。

循環器科、内科循環器科、内科などの医師による治療では、動悸がない場合は、治療は必要ありません。

脈拍数が150回以上で、突然始まって突然止まる動悸、あるいは全く不規則に脈が打つ動悸がある危険度の高い場合は、不整脈を抑える薬を飲み続けて発作を抑えます。カテーテル焼灼法(カテーテルアブレーション)といって、鼠径(そけい)部などから管を挿入し、バイパス部分を焼いてしまう根治療法も行われています。

危険度の高いタイプでなければ、経過をみていけばいいのですが、禁煙と肥満解消を心掛け、食事などによる高血圧や高脂血症の予防と改善が大切です。過激な運動、過労や睡眠不足、不摂生、強いストレスなどは発作の引き金になるので注意が必要です。

🇷🇴症候性貧血

造血器以外の疾患の症状として、続発性にみられる貧血

症候性貧血とは、造血器疾患以外の他の疾患の症状として、続発性にみられる貧血。二次性性貧血、続発性貧血と呼ばれることもあります。

主な原因としては、慢性感染症、膠原(こうげん)病などの慢性炎症、悪性腫瘍(しゅよう)、腎(じん)疾患、肝疾患、内分泌疾患などがあります。特に、慢性感染症、膠原病などの慢性炎症、悪性腫瘍による貧血は病態が共通しているため、慢性疾患による貧血とも呼ばれています。 白血病に随伴する貧血も、通常、この症候性貧血の一種です。

症候性貧血の症状は、他の何らかの疾患に基づいて徐々に進行するため、初期段階では自覚されにくいという特徴があります。進行すると、動悸(どうき)や息切れ、立ちくらみなどの貧血特有の症状が現れます。

また、高齢者でみられる軽度から中等度の貧血は、大部分が症候性貧血で、陰に消化器系の悪性腫瘍が潜んでいることがあるので注意が必要です。

結核、感染性心内膜炎、肝膿瘍(のうよう)などの慢性的な感染症のほか、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの膠原病に伴う慢性炎症、悪性腫瘍があると、鉄分を摂取しても治らない貧血が起こることがあります。その原因は、免疫にかかわる組織が活発になり、鉄が組織に取り込まれて鉄欠乏の状態になることにあります。

次に、腎疾患が悪化して腎臓の機能が失われ腎不全に陥ると、造血を促すホルモンであるエリスロポエチン(赤血球生成促進因子)が産生されにくくなるために、症候性貧血が起こります。そのほかにも、腎臓の排出機能の低下によって体内にたまる尿毒症性物質による造血抑制や、溶血の高進、低栄養、透析に伴う失血など、さまざまな原因が関係して起こります。

さらに、肝硬変や慢性肝炎などの肝疾患がある場合にも、肝臓が体内の一大化学工場のような臓器であるため、さまざまな物質の代謝機能が低下し、症候性貧血が起こります。甲状腺(せん)機能低下症、下垂体機能低下症、副腎皮質機能低下症などの内分泌疾患がある場合も、赤血球の産生能力が低下するため、症候性貧血が起こります。

原因となる基礎疾患がわかっている場合は、それぞれの疾患の専門医の診察を受けます。基礎疾患がわからない症候性貧血の場合は、血液疾患と鑑別するために血液内科の専門医の診察を受けます。

症候性貧血の検査と診断と治療

医師による診断では、血液一般検査で貧血の有無がわかります。症候性貧血の治療では、原因となっている疾患を治療すれば貧血も回復しますが、原因がはっきりせず診断に時間が掛かることもあります。

腎疾患による場合は、造血を促すホルモンであるエリスロポエチンが不足するため、静脈内注射ないし皮下注射によるエリスロポエチンの投与や、造血に必要となるビタミンB12、葉酸などのビタミン剤の投与が行われます。ただし、エリスロポエチンの投与で血圧上昇、高血圧性脳症、脳梗塞(こうそく)を来すこともあるので、あまり急速に貧血を改善させないほうが安全です。エリスロポエチンの投与でも貧血が改善しない場合は、ほかの原因を調べる必要があります。

内分泌疾患による場合も、不足したホルモンの補充などが行われます。重度の貧血症の場合には、赤血球を輸血するなどの治療を行うこともあります。

なお、徐々に症候性貧血になると、体がそれに慣れて、かなり重症でも自覚症状があまり出ない場合があるので、定期的に検査を受けることが大切です。

2022/08/24

🇲🇹静脈血栓症

静脈が血液の固まりで栓をしたように詰まる状態

静脈血栓症とは、静脈が血液の固まりで栓をしたように詰まる状態。皮膚の浅い部分にある皮(ひ)静脈(表在性静脈)に起こる血栓性静脈炎と、体の深い組織内にある深部静脈に起こる深部静脈血栓症の2つがあります。

原因としては、流れる血液自体に変化が起きて固まりやすくなったか、血流がゆっくりになったか、静脈壁に変化が起きたかの3つです。同じように静脈に血の固まりである血栓ができても、皮静脈に起こる血栓性静脈炎と深部静脈に起こる深部静脈血栓症とでは、症状の出方は全く違います。血栓性静脈炎は軽くてすむのに対して、深部静脈血栓症は重症化しやすくなります。

皮静脈に血栓ができる血栓性静脈炎では、静脈のある部分の皮膚が赤くなり、軽い痛みを伴ったり、下肢にしこりができたりします。自然に起きる場合もありますが、最も起こりやすいのは、繰り返し静脈注射を行った場合です。針や薬の刺激で、静脈の壁に損傷や変化が起きて、この部分の血液が固まり、血栓を作ります。がんや血液疾患などの合併症として起きる場合は、基礎疾患によっていろいろな症状が現われます。

深部静脈に血栓ができる深部静脈血栓症では、骨盤内の静脈や下腿(かたい)静脈、大腿(だいたい)静脈で詰まることが多く、その末梢(まっしょう)部の静脈に、うっ血が起こるので、足がひどくむくんだり、チアノーゼを起こして青紫色に変色したりします。うっ血が高度になると、強い痛みを伴うことがあります。男性よりも女性にやや多く、40歳代後半から50歳代に起きやすいと見なされています。欧米ほど高頻度ではありませんが、日本でも増加の傾向にあります。

近年では、この深部静脈血栓症は、長時間の飛行機搭乗によるエコノミークラス症候群、あるいは旅行者血栓症、ロングフライト症候群としても注目を集めています。長時間、座ったままの同じ姿勢でいると、血液の流れが徐々に悪くなり、脚や腕などの静脈に血栓が生じやすくなります。この血栓が血流に乗って肺へ流れ、肺動脈が詰まると、肺塞栓(そくせん)症となります。肺動脈が詰まると、その先の肺胞には血液が流れずガス交換ができなくなる結果、換気血流に不均衡が生じ、動脈血中の酸素分圧が急激に低下、呼吸困難を起こします。また、肺の血管抵抗が上昇して、全身の血液循環に支障を起こし、最悪の場合は死亡します。

また、深部静脈血栓症は急性期に適切な治療がなされないと、慢性期に静脈血栓後症候群に悩まされることとなります。静脈高血圧のために皮静脈に静脈瘤(りゅう)ができたり、下肢の倦怠(けんたい)感、むくみが生じたり、栄養不足のために色素が沈着したり、皮膚炎や湿疹(しっしん)を起こしやすくなったり、治りにくい潰瘍(かいよう)ができたりすることもあります。

静脈血栓症の検査と診断と治療

急性期の血栓性静脈炎は、下肢のはれ、色調、皮膚温、皮静脈の拡張など、視診や触診で診断が可能です。また、下肢の血栓の最も有効な検査法は、超音波ドプラー法であり、現在最も頻用されています。時には静脈造影を用いて、血栓の局在や圧の上昇を測定することもあります。慢性期になると、皮膚や皮下組織が厚くなるリンパ浮腫との区別が難しく、リンパ管造影や静脈造影が必要になる場合もあります。

一方、深部静脈血栓症に対しては、血栓性静脈炎などの紛らわしい疾患と区別するため、静脈造影、超音波ドプラー法、造影CT、MRA(核磁気共鳴検査)、血流シンチなどが行われます。また、原因となる血液凝固異常の有無や、血栓を生じたことを確認するために、血液検査も行われます。

血栓性静脈炎の治療においては、がんや血液疾患などの合併症がある場合は基礎疾患の治療が優先されます。それ以外の急性期は、局所の安静と湿布、弾性包帯などを用いると、数週間で治ることがほとんどです。難治性のものには、抗凝固剤や血栓溶解剤を使って血栓の治療と予防を行います。痛みがある場合には、対症療法として炎症鎮痛剤などを使います。症状がひどいい場合のみ、外科的手術による血栓の除去、静脈の切除、バイパス形成を行います。

深部静脈血栓症の急性期の治療においては、血栓の遊離による肺塞栓を予防するため、むくみや痛みが軽減するまで安静を保ち、下肢を高く上げておくことが必要です。痛みに対しては非ステロイド抗炎症薬を使い、血栓の治療と予防には抗凝固剤や血栓溶解剤を使います。下肢のチアノーゼがひどい場合や、症状が重く急を要する場合には、カテーテル治療や血栓摘除術によって直接血栓を除去します。将来、肺塞栓などの重症な疾患に発展したり、静脈血栓後症候群が生じる危険もあり、治療には十分な注意が必要とされます。

静脈血栓症の予防には、運動、マッサージ、弾性ストッキングの使用などによって、血栓の形成を防ぐことが重要。寝る時には少し下肢を高くすれば、うっ血の予防になります。なお、エコノミークラス症候群の予防には、飛行中の十分な水分摂取、足を上下に動かしたり通路を歩くなどの適度な運動が有効です。

🇬🇷静脈瘤(りゅう)

主に下肢の静脈が拡張し、血液が滞ることで発症

静脈瘤(りゅう)とは、静脈、特に下肢の表面にたくさんある表在静脈が拡張し、曲がりくねって青く浮き出た状態。血液が滞ることで起き、下肢の静脈だけでなく食道、上肢、腹壁、肛門周囲の静脈にも現れることがあります。

静脈弁の機能不全による一次性静脈瘤と、生まれ付き静脈が拡張している先天性静脈拡張症や深部静脈血栓症などによる二次性静脈瘤に分けられます。

最も多くみられる、静脈弁の機能不全によって起こる一次性の静脈瘤は、男性よりも女性に発生しやすいという特徴があり、一般的には高齢の女性や妊婦の足に発生していることが多いものです。販売員、美容師、調理師といったいわゆる立ち仕事の多い女性にも発生しやすく、その場合には症状の進行も早くなります。

初期には静脈が膨れ上がるだけで、夕方に目立っても、一晩寝ると朝には消失していることがほとんどです。下肢を高く上げておく、すなわち挙上することによって、膨れ上がりはより改善します。症状が進むと、立位での下肢のだるさや、うっ血感、重量感、疼痛(とうつう)、浮腫(ふしゅ)、こむら返りなどが出現し、静脈瘤部の知覚異常やかゆみ、かくことによる慢性湿疹(しっしん)様皮膚炎なども現れてきます。

慢性期になると、浮腫、出血、皮膚の色素沈着、血栓性静脈炎の急性症状、うっ滞性皮膚炎などが出現し、時に難治性の静脈瘤性下腿潰瘍(かたいかいよう)となることもあります。

一次性の静脈瘤の正確な原因はわかっていませんが、加齢、妊娠、立ち仕事、肥満といった要素よりも、下肢の皮膚表面にある表在静脈の壁がもともと弱いのが主な原因と考えられています。年齢を重ねるに従って、もともと弱い静脈は弾力性がだんだんなくなっていきます。その結果、静脈は伸びて長く広くなり、正常な時と同じ空間に収まるためには、伸びたぶんを巻き込まなくてはなりません。これは、皮膚の下にヘビがとぐろを巻いているように見えます。こういった静脈瘤は妊娠中に起こりやすいものですが、出産すればいつの間にか消えてしまいます。ただし、下肢の皮膚表面にある静脈の壁の弱さは、遺伝してしまうともいわれています。

静脈の拡張は延長よりも重大な問題で、血液の逆流を防ぐために心臓に向かって付着する静脈弁を引き離す原因となります。静脈弁が引き離された状態では、きちんと閉じることができず、起立時に重力の作用によって起こる血液の逆流を止めることができなくなります。その結果、血液が逆流して静脈内に急速にたまります。血液の逆流は、壁が薄くなって蛇行している静脈をさらに拡張させます。

正常なら表在静脈から深部静脈へ血液を送る連結静脈の一部も、拡張することがあります。連結静脈が拡張すればその弁も引き離され、筋肉が深部静脈を圧迫するたびに血液が逆に表在静脈内へ噴出して、表在静脈はさらに伸びてしまいます。

静脈瘤がある女性の多くには、毛細血管が拡張するくも状静脈もみられます。くも状静脈は静脈瘤内の血液による圧迫が原因となっている可能性もありますが、一般にまだ解明されていないホルモンが原因と考えられます。

静脈瘤の検査と診断と治療

静脈瘤は残念ながら、完治することはありません。一晩寝て翌日には消える程度のものならば様子をみてもかまいませんが、翌朝もむくみがとれない場合は、全身の疾患のチェックも含めて、一度内科医の診察を受けることが必要です。

立位での下肢の静脈瘤の悪化と挙上による改善で、一次性静脈瘤が診断されます。すなわち、静脈瘤が立位により著しくなり、足の挙上によって消える場合には一次性静脈瘤と考えられます。なお、静脈瘤は普通、皮膚の下の膨らみとして見えますが、症状は静脈が見えるようになる前から現れます。静脈瘤が肉眼で見えなくても、熟練した医師は足を触診して、静脈の拡張範囲を確認できます。

最近では、超音波断層法や静脈造影によって、より詳しい静脈瘤の部位と程度の診断が可能です。通常、このような検査が必要となるのは、皮膚の変化や足首のむくみによって深部静脈の機能不全が疑われる場合に限られます。足首のむくみは皮膚の下の組織に体液がたまるのが原因で、浮腫と呼ばれています。静脈瘤だけでは、浮腫は起こりません。

初期の軽度のものでは、長時間の立位を避けて、弾性ストッキングを着用し、夜間に下肢を高く挙げおくことによって、症状は改善します。弾性ストッキングは静脈を圧迫することにより、静脈が伸びたり傷付いたりするのを防ぎます。妊娠中に出現する静脈瘤は、出産後2〜3週間で消えるのが普通で、この時期には治療する必要はありません。

症状が強く大きな静脈瘤があるもの、うっ血が著しくて下肢を高く挙げておいても改善しないもの、慢性の静脈血行不全があるもの、血栓性静脈炎を繰り返すものなどに対しては、表在静脈の皮下抜去(ストリッピング)、流入静脈の高位結紮(けっさつ)、局所の静脈瘤の切除、硬化薬注入による治療などが行われます。

しかしながら、手術や硬化薬注入によって、静脈瘤を切除したりすべて排除しても、この疾患は治りません。治療は主に症状を軽減して外観を改善し、合併症を防ぐために行います。どの治療法においても再発や、別の静脈瘤が出てくる場合がありますが、不適切な治療では6カ月から1年以内に再発します。

また、現在ではレーザーやパルスレーザーによる静脈内膜の焼却も行われています。レーザー療法は、高度に集束した強い光を連続的に使用して、組織を切除したり破壊するものです。パルスレーザー療法は、くも状静脈の治療に適用できます。光の当て方が瞬間的であることを除けば、レーザー療法とほとんど変わりません。

🇲🇨食道静脈瘤

食道粘膜の下にある静脈が拡張し、食道にこぶ状の隆起が発生

食道静脈瘤(りゅう)とは、食道粘膜の下にある細い食道静脈に血液が流れ込んで拡張し、食道にこぶ状の隆起ができる疾患。静脈瘤が破裂した場合には、吐血や下血などが起こります 。

腹部臓器の血液は、門脈〜肝臓〜肝静脈〜上大静脈〜心臓という経路で流れていますが、門脈、肝臓、肝静脈の血流路に異常があって流れが停滞すると、血液は別の道を通って心臓に戻ろうとします。その別の道となるのが食道静脈です。

食道静脈瘤は、突然に起こる疾患ではありません。肝硬変や慢性肝炎、腹部臓器の血液を肝臓に運ぶ門脈の疾患が基礎にあって、起こります。肝硬変によるものが最も多く、そのほかでは、門脈血栓症、特発性門脈高圧症、肝静脈閉塞(へいそく)などが基礎の疾患に挙げられます。

食道静脈瘤があっても全く自覚症状はありませんが、原因となる肝硬変の症状である、手のひらが赤くなる、胸の辺りに血管が浮き出る、疲労感、倦怠(けんたい)感、黄疸(おうだん)などが出ます。

食道静脈瘤はいくら大きくても、飲食物を飲み下すのに支障はありません。肝硬変や肝炎になっても、気が付かずに経過している人も多数います。しかし、大きく膨らんだ血管のこぶは表面が薄く、刺激も受けやすく、その部分の血液の流れが悪くなることもあって、静脈瘤が高度になるとついには破れて出血し、突然の吐血で初めて気付くことになります。時には、下血によるタール便が続いて、出血に気付くこともあります。大量の血を吐くと、ショック状態に陥り、きわめて危険な状態になります。

食道静脈瘤の検査と診断と治療

血液検査など肝機能異常やウイルス性肝炎の既往が発見されたら、内視鏡検査を受ける必要があります。出血の危険性が高ければ、内視鏡的治療を受けることが勧められます。

医師は、内視鏡検査とX線検査を主に、超音波検査(エコー検査)、CT検査、超音波内視鏡検査、血液検査などで診断します。内視鏡検査は、危険もなく出血の予測もできるので、欠かせない検査です。内視鏡検査の結果、出血する恐れがなければ、基礎になっている疾患の治療だけを行います。

出血をしたことがあるか、あるいは出血が予測される時は、急いで治療する必要があります。

出血時には、バルーンという袋つきのゴム管による圧迫止血をしたり、静脈瘤を作っている血管のもとをふさいだり、内視鏡で見ながら静脈瘤内、および周囲に血液凝固物質や硬化剤を注入したり、静脈瘤を輪ゴムで結紮(けっさつ)して止血を図ります。これらの方法で多くは止血可能ですが、出血が続く場合は手術も行われます。

内視鏡を用いての治療は、出血が予測される場合に予防的処置としても広く行われています。また、門脈の圧を低下させる薬の内服もあります。

肝硬変の発症者の90パーセント以上は、程度の差こそあれ、食道静脈瘤を抱えています。吐血するまでは全く自覚症状がないので、食道静脈瘤は見逃されがちです。従って、定期的に食道内視鏡検査を受けて、出血の可能性を判定することが大切です。基礎になっている肝臓病の治療と養生に努めることは当然です。

🇧🇪徐脈頻脈症候群

頻脈と徐脈が交互にみられ、動悸やめまいなどの症状が出る疾患

徐脈頻脈症候群とは、脈が速くなったり、脈が遅くなったりを繰り返し、それに応じて動悸(どうき)やめまいなどの症状が出る疾患。洞不全(どうふぜん)症候群の一つのタイプです。

右心房の上部にあって、心臓が鼓動するリズムを作っている洞結節と右心房の機能低下に加え、心房細動や心房粗動、発作性上室性頻拍などの脈が速くなる頻脈性不整脈が出現し、右心房が自発的に興奮して、その刺激が洞結節に進入することで、洞結節の自発的興奮を一時的に強く抑えてしまうため、頻脈が自然停止した直後に、洞結節が高度の洞停止を生じ、脈が遅くなる徐脈を起こします。

出現する頻脈性不整脈の90%以上は、心房細動が占めます。洞不全症候群では、心房自体の機能低下もあるため、心房性頻脈が発生しやすくなります。そのほかの頻脈性不整脈としては、心房粗動、発作性上室性頻拍があります。いずれにしろ、頻脈性不整脈が自然停止した後に、洞停止が続いてしまいます。

典型的には、まず先行する動悸が生じ、それが止まったと思ったら、続いてめまい、意識障害、眼前暗黒感、顔面蒼白(そうはく)、けいれんなどの脳の虚血症状を自覚します。洞停止が長引けば、心停止または徐脈に伴って脳への血液の供給が急激に減少したり停止して、失神、呼吸困難、呼吸停止が起こります。

夜間睡眠中に脳虚血症状が現れる場合は無症状で経過することもありますが、日中に現れる脳虚血症状により転倒した場合には時に、重大な頭部外傷をもたらす危険もあり、心停止から拍動が回復しない場合は突然死することもあります。

徐脈頻脈症候群の原因として最も多いのは、加齢による洞結節または周辺の右心房筋の線維化による伝導障害です。そのほかに、心筋梗塞(こうそく)や冠状動脈硬化などの虚血性心疾患、高血圧症、先天性心疾患、心筋症、心筋炎などが原因になりますが、慢性腎機能障害による電解質異常や甲状腺(こうじょうせん)疾患によって起こることもあります。

また、洞結節の刺激の発生数を低下させる迷走神経の緊張高進、高カリウム血症のほか、高血圧治療薬や虚血性心疾患治療薬、抗不整脈薬、精神疾患治療薬などの薬剤投与によって引き起こされる場合もあります。

脳虚血症状などが長引く場合、繰り返すような場合には、循環器専門医の診察を受けてください。

徐脈頻脈症候群の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、24時間ホルター心電図による検査を行います。心房細動などの頻脈性不整脈が先行し、それが停止した時に洞停止が記録でき、その時に脳の虚血症状があれば診断が確定されます。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による治療では、頻脈の発生を予防する薬剤の投与により、洞停止時間が以前にも増して延長する可能性があります。一方、徐脈の治療のための脈拍を速くする薬剤の投与により、頻脈時の脈拍数が以前より増加する可能性があります。

このジレンマのため、薬剤による治療はうまくいかないことが多いので、症状が強ければ徐脈治療のために恒久型ペースメーカーを植え込んだ後で、頻脈治療を行います。

恒久型ペースメーカーは、徐脈が現れた時のみ電気刺激を出して心臓を刺激することにより心拍数を正常にし、高度な徐脈、心停止による失神などを予防します。手術で、ライターほどの大きさの恒久型ペースメーカーを鎖骨の下に植え込み、脈の状態は心臓の中に留置したリード線を通して察知します。

一般的な徐脈頻脈症候群の予防には、高血圧や心筋虚血も原因になり得るので、日ごろから血圧、コレステロール、血糖値の管理をしっかり行い、喫煙や過度の飲酒を控えることが大切です。規則正しい生活とバランスのとれた食事を心掛け、ストレスの低減、睡眠不足を避けることも大切です。

また、加齢による洞結節や右心房筋の機能低下も原因の一つとして考えられているため、定期的な健康診断を受診し、疾患の早期発見、治療を行うことが大切です。

2022/08/23

🇫🇮心筋炎

心臓の筋肉組織に炎症が起き、収縮機能が低下

心筋炎とは、心膜と心内膜の間にある筋肉組織である心筋に、炎症が起きた状態。心筋は心臓を収縮させる最も大切な部位に相当しますので、心筋自体の破壊が生じる結果として心臓の収縮機能が低下して、全身に必要な血液を送ることが不可能になり、他の臓器にいろいろな障害が生じる場合もあります。

心筋炎を起こす原因は、いろいろです。まず、感染性の心筋炎では、ウイルス、細菌、リケッチア、真菌などが原因となります。最も多いのはウイルスで、心筋に親和性の強いコクサッキーウイルスや、アデノ・ウイルス、エコー・ウイルス、インフルエンザウイルスが代表的で、これらのウイルスの多くは風邪ウイルスの一種です。

ジフテリア心筋炎は最近でほとんどみられなくなりましたが、ジフテリア菌の毒素で心筋に壊死(えし)が起こるために、炎症反応が出ます。また、マラリア、トキソプラズマなどの原虫によって起こる心筋炎、薬剤や異種血清に対する生体の過剰反応として起こる非感染性の心筋炎などもあります。ほかに、全身性エリテマトーデス、リウマチ熱、関節リウマチ、強皮症、サルコイドーシスなどから生じる非感染性の心筋炎もあります。

症状の出方も原因によって、症状が全く出ないものから、心不全や不整脈を起こすものまでさまざま。

例えば風邪のウイルスといった、ウイルスや細菌などによって起きた急性の心筋炎では、全身の倦怠(けんたい)感、動悸(どうき)、頻脈、不整脈などが起こる場合もありますが、多くは一過性などの見逃されやすいものです。とりわけ軽症の場合は、ほとんど症状が出ないため心電図の変化を追わなければ診断つかず、見逃されたまま自然に治るケースも多くあります。

しかし、急性のウイルス性心筋炎ではかなりまれながら、命を落とすこともあり、注意が必要です。急性ウイルス性心筋炎は心臓の専門医以外からは風邪として見過ごされやすい疾患の一つで、体温と比例しない頻脈、胃腸症状、倦怠感を伴う呼吸困難、低血圧が起こります。また、疾患が長引くと、心臓が拡大し、心臓の動きが低下する拡張型心筋症のような慢性の心筋障害を残す例もあります。

ジフテリア心筋炎では、心臓の中で脈を作り出す特殊刺激伝導系が侵されやすくなります。リウマチ性の心筋炎では、発熱、咽頭(いんとう)痛、せきなど、風邪と同じような症状で発病し、疾患が進むと不整脈や心不全が起こります。

粟(あわ)粒大の結節が全身のあちこちにできるサルコイドーシスから生じる心筋炎では、肺のほかに心筋の線維も同時に侵されるため、肺高血圧症と不整脈、心不全が起こってきます。

心筋炎の検査と診断と治療

心電図検査で不整脈や波形の変化の有無を調べ、胸部レントゲン検査で心臓の拡大や肺うっ血の有無を調べる以外に、血液検査でウイルスの感染の有無を調べます。また、心エコー(心臓超音波検査)で心臓のポンプ機能が弱まっていないかどうか、心室が拡大していないかどうかなどを調べます。

治療法は原因になっている疾患によって異なりますが、一般的には、心筋炎の症状が消えるまで、安静を守ることです。重症の心筋炎の場合は、生命の危険性があるので、入院も含めた治療と慎重な観察が必要です。現在の医療技術では、心筋炎を起こすウイルスを殺したり排除できる薬剤はないため、心不全などの合併症を防止する対症治療が中心となります。

心臓の病変の状態に応じて、利尿剤、強心薬のジギタリスなどを使い、酸素吸入、食塩制限も行います。原因になっている疾患の治療のために、抗生物質や副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を使うこともあります。

なお、心筋炎の発症1週間程度の急性期に、鎮痛解熱剤(非ステロイド系消炎剤)を使用すると心筋の破壊を悪化させる可能性があり、現在では使用を避けたほうがよいといわれています。従って、風邪と自己診断し、むやみに鎮痛解熱剤を含んでいる風邪薬を服用することは、非常に危険なこととなります。

🇫🇮心筋梗塞

■冠動脈の途絶で心筋が壊死■

心筋梗塞(こうそく)とは、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈に動脈硬化が起こり、血が固まった血栓などで、冠動脈のある部分の血管が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死(えし)してしまう疾患です。

壊死とは、体の組織の一部が破壊されて生命力を失うことで、心臓の筋肉である心筋を養っている冠動脈の血流が途絶えて、栄養不足、酸素不足に陥るために起こります

60歳以上の男性に多くみられ、発病の前兆として狭心症発作が起こるケースもあれば、何の前触れもなく突然、起こるケースもあります。起きやすいのは、朝、活動して一息ついた際や、一日の活動を終えて、くつろいだ際など。朝方に、胸が苦しくて目が覚めた時も、要注意です。

心筋梗塞の症状としては、前胸部の中央に突然、激しい痛みが起こり、悪心、吐き気、冷汗が現れ、ショック状態に陥ることもあります。痛みを感じる場所は前胸部の中央がほとんどですが、左胸部や前胸部全体、あるいは、みぞおちなどが痛むことがあり、左肩や左腕、首や下あご、右肩などに痛みが放散する場合もあります。

この発作は数十分から数時間続いて、いったん治まっても断続的に繰り返すこともあり、数時間から数日間で死亡するケースが、しばしばみられます。激しい胸痛があったら、一刻も早く病院へ行き、CCU(心臓疾患集中治療室)ですぐ治療を受ければ、助かる可能性が高まります。

ただし、高齢者ではこのような痛みのほとんどない無痛性心筋梗塞が多くなり、呼吸困難、ショック状態、意識障害などで見付かるケースが増えますので、十分な注意が必要です。

■CCUのある病院での集中治療■

心筋梗塞が起こった時はもちろん、心筋梗塞の疑いがある時も、我慢したり、自宅で家庭療法をしたりしてはいけません。ためらうことなく直ちに、心臓病専門の集中監視と治療体制を備えたCCUのある病院に入院することが、大切です。

早ければ早いほど、集中治療を受けることによる急性心筋梗塞の救命率は、ずっと上がります。最初の1週間が非常に危険な時期で、特に数時間から3日以内に致命的な事態が起こって死亡することが多いため、専門施設での集中管理による適切な処置や看護が初期に必要なのです。

心筋梗塞急性期の治療として、入院後すぐに冠動脈造影が行われ、その状態によって、経皮的冠動脈形成術、経皮的冠動脈拡張術というカテーテル的治療か、血栓溶解療法が行われます。病院によっては、冠動脈バイパスグラフト術という外科的治療も行われます。

一般に、発症してから1週間以内の急性期は、心身ともに安静にすることが必要で、特に最初の数日間は絶対安静が必要です。痛みや苦痛に対しては、モルヒネなどの鎮痛剤や鎮静剤が用いられます。同時に、致命的となる危険な不整脈や心不全、心原性ショックなどの合併症の予防、治療も行われます。

急性期を乗り越えれば、回復期から慢性期のかなり安定した状態になります。病状にもよりますが、経過が順調ならば2~4週で退院できます。

🇸🇪心筋症

心臓の筋肉の伸び縮みがうまくできなくなった状態で、症状は千差万別

心筋症とは、心臓の内側を覆う心内膜と心臓の外側を包んでいる心膜との間にある心臓の筋肉、つまり心筋の伸び縮みがうまくできなくなった状態。

心臓は全身に血液を送り出すポンプとして一日中、休むことなく働いています。この働きの重要な担い手が、心筋です。

心筋は手足の筋肉と同様、伸びたり縮んだりして長さや太さが変わり、伸びた状態で心臓の上側の右心房と左心房で血液を受け取り、縮むことで心臓の下側の右心室と左心室から全身に血液を送り出しますが、心筋の伸び縮みがうまくできなくなると心筋症となり、心臓の機能の低下を起こします。

心筋症にはいろいろなタイプがあって、原因がはっきりする場合もありますが、大半は原因不明で特発性心筋症と呼ばれています。特発性とは、いろいろ調べても原因が特定できないという意味です。

一般に心筋症といえば、特発性心筋症を指します。原因不明といえども、最近では、遺伝子の異常に加え、免疫異常、ウイルス感染や環境要因がかかわっていることが明らかになってきました。

現在の医療でも、治療で心筋の状態を完全に正常に戻すことは困難とされていますので、決して侮ることはできません。ただし、心筋症の人すべてに心筋の機能低下が起こり、息切れや呼吸困難などの症状が出るわけではなく、全く症状のないまま生涯を全うする人も数多くいます。心筋の機能低下を食い止め、症状の出現を抑える治療も次々開発されてきましたので、心筋症といわれても決して落ち込むことはありません。

特発性心筋症は、大きく5つに分類されています。

正常な心臓と比べ、心筋が厚くなるのが、肥大型心筋症であり、閉塞(へいそく)性と非閉塞性とがあります。心筋が薄くなり心臓全体が拡張するのが、拡張型心筋症です。このほか、心筋が硬くなる拘束型心筋症、心臓の中でも右心室が拡大し、そこから不整脈が頻繁に起こる不整脈源性右室心筋症、さらに、これらに分類できない分類不能型心筋症があります。

肥大型心筋症は、文字通り心筋が厚くなる疾患。心筋の中でも左心室の出口に当たる左室中隔という部分の肥大がはっきりしてくると、心筋が収縮した時に血液の流れが妨げられ、運動した時などに息切れや胸の痛みが出現するようになります。このように血液の流れが妨げられる場合が、閉塞性の肥大型心筋症に相当します。

そうでない場合が、非閉塞性の肥大型心筋症に相当します。この非閉塞性は自覚症状がないまま、健康診断の際に心電図異常などで見付かることが、しばしばあります。非閉塞性の中でも、心臓の先端部分にだけ肥大を認めるタイプの心尖(しんせん)部肥大型心筋症の場合は、生涯にわたって何ら問題なく過ごすことが多いようです。

ただし、肥大型心筋症では年齢とともに心筋の肥大が進んだり、心筋の収縮機能が低下したりする場合もあるため、確かな診断と定期的な検査が必要になります。特に激しい運動をすると、危険な不整脈が出現して心臓突然死につながってしまう場合もあります。どの程度の運動までしてよいのか医師に相談することが大切で、閉塞性の肥大型心筋症の場合や、血縁者に突然死した人がいる場合には、激しい運動を控えることが必要です。

肥大型心筋症の頻度は約500人に1人で、発症者の2人に1人に同じ心筋症の家族歴があるといわれています。

拡張型心筋症は、30~40歳代と中年期の男性に起こりやすく、心筋の収縮機能が低下して、心臓の内腔(ないくう)が次第に拡張し、十分な血液を全身に送れなくなる疾患。十分な血液を送れなくなると、それを補うため心臓は容積を大きくして、1回の収縮で送り出す血液の量を増やそうとします。しかし、この状態が長く続くと、心臓の中に血液が滞って心臓はさらに拡張し、心筋は引き伸ばされて薄くなっていきます。これによって心臓にかかる負担はむしろ大きくなってしまう悪循環を招きます。

心臓の収縮機能が低下して全身に十分な血液がゆき渡らなくなると、脳から心臓に強く働くよう指令が出る一方、腎臓(じんぞう)では尿として排出される量が減り、そのぶん、体内の水分(体液)の量が増え、心臓にかかる負担はさらに増えます。

この悪循環が心不全といわれる状態で、拡張型心筋症の人は心不全の発症をいかに抑制するか、心不全になった場合はどのようにして悪循環から脱出するかが重要になります。

拘束型心筋症は、心筋の内側の心内膜が厚くなり、心筋が拘束されたように硬くなって広がりにくくなる疾患。

不整脈源性右室心筋症は、右心室全体のびまん性拡張と収縮低下を来す疾患。心室性頻拍症や右心不全で急死することが多く、特に西欧では若年者や運動選手の突然死に多く認められることで注目されています。しばしば家族内発症がみられ、優性遺伝形式をとる場合が多い傾向にあります。

原因不明の特発性心筋症以外の、原因がわかっていて二次的に心筋症が起こるものは、二次性心筋症です。

心筋の働きが悪くなる原因で最も多いのは、心臓に栄養を与えている血管(冠動脈)が動脈硬化によって狭くなり、心筋に十分な酸素や栄養がゆき渡らなくなって起こる心筋梗塞(こうそく)や狭心症です。一時的にでも完全に血流が途絶えると、心筋の機能が低下した状態が続くことになり、この状態を虚血性心筋症と呼びます。

これ以外に、全身のリンパ節に原因不明の炎症が生じるサルコイドーシスという疾患では、心筋にも炎症が起こり、心サルコイドーシスと呼ばれています。また、アミロイドといわれる異常な蛋白(たんぱく)質が全身で増えるアミロイドーシスという病気でも、心筋にアミロイドが沈着して心アミロイドーシスが起こります。心房細動と呼ばれる不整脈などで心拍数の高い状態が続き、心筋の伸び縮みがうまくいかなくなると頻脈誘発性心筋症が起こります。

さらに、甲状腺(せん)ホルモンの異常やビタミンの欠乏、アルコールの過量摂取、先天的な代謝異常などでも、心筋の機能低下が起こります。

心筋症の症状としては、主に体が要求する血液を送り出せないために起こる症状と、血液が体に滞るうっ血による症状とがあり、心筋症のタイプによって症状は異なります。

非閉塞性の肥大型心筋症では、若いうちは自覚症状がないのがほとんどですが、中高年以降に動悸(どうき)や、運動、作業をした時の息切れなどの症状があり、心房細動などの不整脈を切っ掛けに心不全を発症することがあります。

閉塞性の肥大型心筋症では、年齢にかかわらず、心臓から送り出す血液の量が不十分になるので、息切れ、呼吸困難、胸痛といった症状のほか、むくみ、失神などの症状が出ることもあります。

一方、拡張型心筋症や、肥大型心筋症のうち心筋の収縮機能が低下する拡張相肥大型心筋症では、体が要求する血液を十分に送り出せなくなるので、坂道や階段での息切れ、日中の尿量や尿の回数の減少、手足の冷たい感じ、全身倦怠(けんたい)感、さらに体重増加、むくみ、食欲不振、満腹感、夜間の呼吸困難や咳(せき)などの症状が出ます。

心筋症の自己チェック

心筋症で心不全になると、全身に水分(体液)が過剰にたまり、心臓にかかる負担が増えます。この状態を簡単に自分で確かめるには、体重を測定することです。

心不全と同じように息切れする疾患に、肺や気管支など呼吸器の疾患がありますが、ふつう体重は増えません。一方、心筋症による心不全では、体重が増えます。心筋症や心不全といわれたら、日々の体重測定が欠かせません。

毎日朝食前など同じ条件で体重測定した場合、前日にどれほど食べすぎたとしても、体脂肪の増加によって1日1キログラム上、1週間で3キログラム以上体重が増えることはまずありません。この数値以上に体重が増えた場合、水分が体内にたまり始めたと気付くべきです。

体重のほか、自分で確かめることができるものに、血圧と脈拍があります。心筋症で心臓から送り出す血液の量が減ると、それを補うため収縮回数が増え、頻脈が現れます。手首で15秒間に何回、脈が触れるかを測り、その数を4倍すれば1分間の心拍数を計算できます。自動血圧計を使えば、より簡単に心拍数をチェックできます。

心拍数が安静にしていても1分間に100回を超えている時や、脈が乱れている時は、心臓に異常が起きている疑いがあります。

血圧を測る時、血圧が基準より高いか低いかがよく問題になりますが、最高血圧(収縮期血圧)から最低血圧(拡張期血圧)を引いた数値として得られる脈圧も重要です。通常の脈圧は40・60㎜Hgで、最高血圧の4分の1以上とされていますが、心筋症で心臓が送り出す血液が減ると、それ未満になることがよくあります。ただし、脱水などでも同じようなことが起こるので注意が必要です。

むくみも、自分で簡単にチェックできます。むくみは足に起こりやすく、脛(すね) の部分を親指で押して、へこみが残るようであれば、体に過剰な水分がたまっている可能性が高くなります。ただし、腎臓病や血液中の蛋白質の量が減っている時も、むくみが出る場合もあります。

心筋症は症状が出にくく、症状が出た時は病状がすでに進んでいる場合が多いので、まずは毎年の健康診断をきちんと受けることが重要です。健康診断で異常が見付かったり、胸の自覚症状があった際には循環器科、循環器内科を受診することが勧められます。

心筋症の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科の医師による診断では、 肥大型心筋症の場合には、聴診や心電図検査で疾患の有無がわかります。心臓超音波検査を受ければ、疾患の状態もよくわかります。

拡張型心筋症の場合は、心臓超音波検査や心臓カテーテル検査が必要になります。

循環器科、循環器内科の医師による治療では、原因不明の特発性心筋症の場合は、症状が進まないようにするための食事指導、症状を抑えるための薬物療法を主に行います。どのタイプの心筋症であるかは関係なく、激しい運動や仕事を避け、精神的ストレスがかからないように注意します。

原因がはっきりする二次性心筋症の場合は、原因となっている病気を治療することが心筋の機能回復につながります。頻脈誘発性心筋症では、心拍数を低下させるか、不整脈を治療することで、心筋の働きを回復させられます。

🇱🇹神経循環無力症

心臓病にみられる胸痛などの症状を示しているにもかかわらず、心臓の異常が見付からない疾患

神経循環無力症とは、心臓病によくみられる胸痛、動悸(どうき)、息切れ、呼吸困難、めまいなどの循環器症状を示しているにもかかわらず、心臓を検査しても器質的、機能的な異常が何も見付からない疾患。心臓神経症とも呼ばれます。

その際、胸痛などの症状のほかに、手足のしびれ、疲れやすい、頭痛、不眠、不安など、多彩な症状を伴うのが普通です。心臓病というよりはむしろ、心の病というほうが正しいといえます。

なお、心臓に何らかの病変がある場合は、器質的心臓病といいます。相当するのは、心筋梗塞(こうそく)や弁膜症、先天性心臓病など。また、器質的な病変はないが、心臓の働きに異常があって症状が出る場合は、機能的心臓病といいます。相当するのは、多くの不整脈や貧血に由来するものなど。

神経循環無力症の症状として、ほとんどの人が胸痛を訴えます。胸の痛みは一見、狭心症や急性心筋梗塞の症状と似ていますが、よく調べると、多くの点で性質に違いがあることがわかります。

神経循環無力症で感じる胸痛は、「ズキズキ」とか「チクチク」と表現されるようなもので、左胸の狭い範囲に痛む部分が限られていて、手で圧迫すると痛みが強くなるという点が特徴です。この痛みは、運動したり、興奮したりしている時ではなく、一人で静かにしている時におおかた現れます。持続時間が長いのも特徴の一つで、長い時は1日中続くこともあります。狭心症で使う硝酸薬も効きません。

神経循環無力症で感じる息切れも、心不全の場合と違って、「息が詰まる」、「息が十分に吸えない」、「ため息が出る」などの症状が、運動時よりもむしろ安静時に生じます。

神経循環無力症の呼吸症状の中で、過換気症候群を伴う場合もあります。若い女性に多く、浅くて速い過呼吸のために、急性呼吸性アルカローシスを起こして、血液中の炭酸ガス(二酸化炭素)が少なくなるために、しびれやめまい、失神を生じるものです。

感じる動悸は、心臓のリズムが増加する洞性頻脈がほとんどで、不安や心配などの精神的緊張によって起こります。頻脈を強く意識し、心配すると、余計に脈は速くなるという悪循環に陥ります。多少の不整脈(期外収縮)、まれに発作性上室性頻拍を伴った時も、同じことです。

この神経循環無力症は、神経症的な素因や体質を持っている人、とりわけ無力性体質の人に、起こりやすいと見なされています。人間の体は神経系の働きによって、うまく平衡が保たれ、恒常性を維持するとともに、運動、発熱などにうまく対応していますが、無力性体質の人は神経系の働きが十分でなく、わずかな体の変化や周囲の変化についてゆけず、易疲労感や動悸、息切れなどの症状が現れます。

また、子供から手が離れ、暇な時間ができたために自分の体の状態が気になるようになった女性、親しい人を心臓病で亡くして、心臓病や突然死に対して恐れや不安を抱いている人などにも、よく起こります。

発症の原因としては、心臓病に対する極度の不安感、心身の過労、ストレス、精神的葛藤(かっとう)などが考えられます。不安感、過労などは心臓の働きを活発にする交感神経を刺激しますので、心拍数が増え、動悸を強く感じたりします。一度こうした症状を感じると、その不安が徐々に大きくなるにつれて、胸痛、呼吸困難、めまいなど、より大きな症状を感じるようになってしまうのです。

心電図検査で、ささいで意味のない変化や、心配する必要のない不整脈を指摘されたことがきっかけとなる場合も、少なくありません。

神経循環無力症の検査と診断と治療

内科、神経内科などの医師による治療においては、まず一般的な心臓病の検査を行い、心臓の病気の有無を判断します。さらに、胸膜の病気や食道けいれんなど胸痛の原因となる病気の有無について調べ、それらが除外されて初めて神経循環無力症と診断されます。

胸痛発作を強く訴える人で、狭心症との区別が難しい場合には、ニトログリセリン舌下錠を処方して、胸痛発作が起きた時に服用してもらい、その時の薬の効き具合をみることで診断する場合もあります。

神経循環無力症の原因は心の問題なので、症状が起こる仕組みをよく説明して納得してもらうと同時に、症状を引き起こしている原因が何であるのかを調べ、それに対するアドバイスをします。

症状が強い場合には、心臓の働きを抑えるβ(ベータ)遮断薬や精神安定薬を処方することもあります。

これらの治療を行っても症状が続く場合には、心療内科や精神神経科の医師の診察が必要になります。

🇦🇲心室細動

心臓で血液を送り出している心室がけいれんを起こし、血液を全身に送り出せなくなった状態

心室細動とは、不整脈の一種で、心臓で血液を送り出している心室が小刻みに不規則に震える細動を伴って、血液を全身に送り出せなくなった状態。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、心臓は絶え間なく血液を全身に送り出すことができるのです。リズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。

この電気刺激が何らかの原因で正常に働かなくなることによって、心臓の拍動のリズムに乱れが生じるのが不整脈で、心室細動は不整脈の中でも死亡に至る確率が高い危険な状態です。

心室の無秩序な興奮により異常な刺激を受け、1分間当たりの拍動が300~600回と極端に速くなって血液の送り出しが不能な状態となり、血圧はゼロに下がります。胸痛や不快感が起き、血液が脳や体全体に届かなくなって、細動が10秒前後続くと意識を消失、さらに10分続くと脳死に至るともいわれ、やがて心臓が完全に停止し死に至ります。

心臓突然死の多くは心室細動が原因で、即座に心臓マッサージを開始するか、公的機関やスポーツ施設を中心に配備されている自動体外式除細動器(AED)などを用いて細動を取り除かなければ、心臓停止から呼吸停止に陥ります。

心室細動は、心筋梗塞(こうそく)や狭心症、心不全、心臓弁膜症などの心臓病の進行に伴って心臓の筋肉が弱っている人に多く起き、拡張型心筋症やブルガダ症候群と呼ばれる珍しい心臓病を持つ人にも起きるほか、脱水や栄養障害や腎(じん)機能障害などによって血液中のミネラルバランスが崩れて起こす人もいます。

また、胸部にボールなどが当たった刺激や感電によるショックで、心室細動を起こす人もいます。さらに、QT延長症候群と呼ばれる先天性の遺伝子異常を持つために心室細動を起こしやすいタイプもあり、若者が睡眠中などの安静時や運動中に、心室細動発作を起こすこともあります。

若者の場合、持病がなければ心室細動の兆候も現れにくく、たとえ不整脈で倒れても軽度で回復して、それに気付かない場合があって予知が難しく、別の機会に突然死する原因になりやすいという特徴があります。

心室細動は活動時よりも安静時、特に睡眠時に起こりやすく、睡眠中に心室細動発作を繰り返していても本人には自覚されないこともあります。同居者がいた場合、夜間に突然もだえてうなり声を上げたり、体を突っ張ったり、失禁したりする全身症状を指摘され、初めて発作があったことがわかることもあります。睡眠時などの安静時の発作は、再発率が高くなっています。

心室細動は、命にかかわるものなので、まずは毎年の健康診断をきちんと受けること、そして健診で異常が見付かったり、胸の自覚症状があった際には循環器科、循環器内科、もしくは不整脈専門の不整脈科、不整脈内科を受診することが勧められます。

心室細動の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による診断では、検査によって症状を特定します。普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電図、運動負荷検査、心臓超音波検査などを行います。いずれの検査も、痛みは伴いません。

心電図検査は、数分で終わります。症状がない人でも、心電図検査で心室細動のリスクが高いブルガダ症候群やQT延長症候群などの疾患が見付かるケースもあります。

ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、狭心症は出ていないかなどがわかります。とりわけ、日中に発作が起こりにくい不整脈を発見するのに効果を発揮します。

運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、狭心症が出るかどうかをチェックします。

心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による内科治療では、抗不整脈薬という拍動を正常化する働きのある薬を中心に行います。ただし、不整脈そのものを緩和、停止、予防する抗不整脈薬での治療は、症状を悪化させたり、別の不整脈を誘発したりする場合があり、慎重を要する治療法であるといえます。抗不整脈薬のほかに、抗血栓薬など不整脈の合併症を予防する薬なども用います。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による外科治療では、1分間当たりの拍動が100回を大きく上回る症状を示す頻脈性不整脈に対して、体内に挿入したカテーテル(細い管)の先端から高周波を流し、心臓の動きにかかわる電流に過電流を起こす部位を焼き切って正常化する、カテーテル・アブレーション法という新しい治療法が行われています。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。

薬物療法に応じず、血行動態の急激な悪化を伴って生じる心室細動に対しては、直流通電(DCショック)を行います。また、慢性的に心室細動の危険が持続する症状に対しては、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術も考慮されます。植え込み型除細動器は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置です。

治療に関しては、疾患自体の原因がはっきりしていないため対症療法に頼るしかなく、現在のところ根治療法はありません。心室細動発作を起こした際は、自動体外式除細動器(AED)、または手術で体内に固定した植え込み型除細動器(ICD)などの電気ショックで回復します。

心室細動発作を起こしたことが心電図などで確認されていたり、原因不明の心停止で心肺蘇生(そせい)を受けたことがある人では、植え込み型除細動器(ICD)の適応が勧められます。このような発症者は今後、同様の発作を繰り返すことが多く、そのぶん、植え込み型除細動器(ICD)の効果は絶大といえます。また、診断に際して行う検査においてリスクが高いと判断された場合にも、植え込みが強く勧められます。

といっても、植え込み型除細動器(ICD)の植え込みはあくまで対症療法であり、発作による突然死を減らすことはできても、発作回数自体を減らすことはできないところに限界があるといわざるを得ません。

植え込み型除細動器(ICD)は通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。治療には500万円ほどかかりますが、健康保険が利き、高額療養費の手続きをすれば、自己負担は所定の限度額ですみます。手術後は、入浴や運動もできます。

ただし、電磁波によって誤作動の危険性もあり、社会的な環境保全が待たれます。電子調理器、盗難防止用電子ゲート、大型のジェネレーター(発電機)などが、誤作動を誘発する恐れがあります。

万一、発作が起きた際の用心のため、高所など危険な場所での仕事は避けたほうがよく、車の運転も手術後の半年は原則禁止。電池取り替えのため、個人差もありますが、5〜8年ごとの再手術も必要です。確率は低いものの、手術時にリード線が肺や血管を破ってしまう気胸、血胸なども報告されています。

🇦🇿心室性不整脈

心室性不整脈は、心室由来の不整脈

心室性不整脈とは、心臓内部の下半分である右心室、左心室に由来する不整脈。

この心室性不整脈には、心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動があり、命にかかわる不整脈が多いのが特徴です。

心室性期外収縮は、心室で発生した異常な電気刺激によって、心臓が早期に収縮する不整脈

心室性期外収縮は、心室内で発生した異常な電気刺激によって心臓が本来の拍動のリズムを外れて、不規則に少し早く収縮する不整脈の一つ。

不整脈は、一定間隔で行われている心臓の拍動のリズムに、何らかの原因によって乱れが生じる疾患の総称。この不整脈は、脈が正常よりも速くなり、1分間当たりの心拍数が100回を大きく上回る症状をみせる頻脈性不整脈、脈が正常よりも遅くなり、1分間当たりの心拍数が60回未満まで下回る症状をみせる徐脈性不整脈、そして、普段規則正しく打っている脈が不規則なリズムになる期外収縮の3つに分類されます。

期外収縮は、不整脈の中で一番多く起こります。健康な人でもみられ、年齢を重ねていくにつれてみられる頻度も高くなっていきます。

脈が不規則になり、「トン、トン、トン」と規則正しく打っている脈の中に時々「トトン」と早く打つ脈が現れたり、急に心臓の1拍動が欠け、1秒飛んで2秒後に拍動するといったリズムの乱れを伴います。心室性期外収縮と、より良性の心房(上室)性期外収縮に分かれますが、いずれの場合も心臓がドキンとしたり、心臓が一時止まったように感じたりします。

心臓は全身に血液を送り出すために、規則正しいリズムで収縮と拡張を繰り返しています。心臓の右心房にある洞結節(どうけっせつ)という部位で電気刺激が発生し、電気刺激は房室結節を通って心室へと伝えられます。期外収縮は洞結節以外の部位で電気刺激が発生し、心臓に伝えられるものです。心臓内部の上半分である心房で電気刺激が発生した場合が心房(上室)性期外収縮、心臓内部の下半分である心室で電気刺激が発生した場合が心室性期外収縮に相当します。

通常の洞結節から発生する電気刺激よりも、早いタイミングで心臓に伝えられるため、脈をとった時に「早いタイミングで打つ」、「リズムが不規則になる」、「脈拍として触れることができず、脈が一拍飛ぶ」ように感じます。胸の違和感や痛み、喉(のど)の詰まった感じなどの症状が出ることもあります。

心室内での電気刺激は、心室内の筋肉が興奮を始めて収縮しやすい状況にある時に発生しやすく、具体的には血液の中のカリウムの濃度が低くなりすぎている状況や、興奮してアドレナリンが活発に分泌されている状況、また、興奮の一番始めに働くイオンチャネルのナトリウムチャネルの興奮性が高まっている状況が考えられます。

心室性期外収縮は健康な人でも自分の年齢数くらいは認めることがあり、何の症状もなく生活している人が大半ですが、命の危険にかかわる心臓の疾患の前兆として発生している場合もあります。突然死の原因にもなる心筋梗塞(こうそく)や、心機能の低下を来すこともある心筋症、心臓に負担がかかる弁膜症などです。

心室性期外収縮の回数があまりにも多く、連続して発生すると、血圧の低下や動悸(どうき)、めまいなどが生じることもあります。この場合は、心房細動、心室頻拍、心室細動などの危険な不整脈へと移行することがあるので注意が必要です。

健康診断などの検査で心室性期外収縮を指摘されたり、自分で脈をとった時に脈が飛ぶなどして心室性期外収縮だと感じたりした場合は、1日に起こる回数や頻度などを確認してみるといいでしょう。頻繁に起こるような場合は、医療機関で検査を受けて確認してみるといいでしょう。

心室頻拍は、心室の一部から連続して起こる電気刺激によって頻脈が現れる病態

心室頻拍は、心室内で電気刺激が連続して発生したり、電気刺激が回る回路ができたりすることによって、心臓の拍動が異常に速くなる頻脈を起こす不整脈の一種。

正常な心臓では、右心房付近にある洞結節(どうけっせつ)から1分間に60~100回の電気刺激が発生して、心臓内部の上半分である右心房、左心房、心臓内部の下半分である右心室、左心室を規則正しく収縮させることで拍動を起こし、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出しています。驚いた時などには一時的に拍動数は跳ね上がりますが、高くても1分間に140〜160回くらいの数値からゆっくりと下がっていき、正常値に収まっていくのが普通の状態です。

心室頻拍は、1分間当たりの拍動が100~250回という非常に速い発作性の頻脈を示します。

発作性の頻脈の持続時間が30秒以内か否かで、非持続性心室頻拍と持続性心室頻拍とに分類されます。もともと心臓に疾患がなく、30秒以内に自然停止する非持続性心室頻拍なら、心配ないこともあります。

しかし、心臓に疾患があったり、30秒以上持続する場合は、頻脈が遅ければ症状が少ないこともある一方で、頻脈が速いと送り出される血液量が少なくなって血圧の低下を招き、さまざまな症状が現れます。また、心室頻拍からさらに悪性度が高く、1分間当たりの拍動が300~600回と極端に速くなる心室細動に移行することもあります。

心室頻拍には、もともと心臓疾患があって起こる場合と、心臓にはっきりした疾患がなくても起こる場合とがあります。心室頻拍を引き起こす可能性のある代表的な心臓病としては、心筋梗塞(こうそく)、拡張型心筋症、催不整脈性右室心筋症、QT延長症候群(家族性突然死症候群)、心臓サルコイドーシスなどがあります。一方、はっきりした心臓の疾患がないのに起こる心室頻拍のことを、特に特発(突発)性心室頻拍といいます。

心室の筋肉が変性し、異常に速い電気刺激が連続して発生するようになったり、心室の筋肉内に電気刺激が比較的大きく旋回する異常な電気回路ができたりすることが、心室頻拍が起こる仕組みです。

非持続性心室頻拍の代表的な症状は、脈が飛ぶような感じや、脈が早いタイミングで打つような感じなどです。持続性心室頻拍では、心臓がドキドキする動悸(どうき)感などの症状を自覚します。動悸は突然始まり、停止する時も突然なことが特徴です。動悸とともに、胸痛や胸部不快感を感じることもあります。

持続性心室頻拍で頻脈が速いと、送り出される血液量が少なくなって血圧が低下するため、めまい、ふらつき、失神などの脳虚血症状が現れます。極端に血圧が低下するとショックの状態に陥り、心臓突然死に至る確率が高くなるので、救急外来を受診し、緊急の治療を受けるべきです。

心室頻拍は命にかかわるものなので、まずは毎年の健康診断をきちんと受けること、そして健康診断の心電図などで、無症状あるいは軽度の症状の非持続性心室頻拍を指摘されたり、胸の自覚症状があった際には、悪性度の判定のため専門医の診察を受けることが勧められます。

心室細動は、心臓で血液を送り出している心室がけいれんを起こし、血液を全身に送り出せなくなった状態

心室細動は、不整脈の一種で、心臓で血液を送り出している心室が小刻みに不規則に震える細動を伴って、血液を全身に送り出せなくなった状態。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、心臓は絶え間なく血液を全身に送り出すことができるのです。リズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。

この電気刺激が何らかの原因で正常に働かなくなることによって、心臓の拍動のリズムに乱れが生じるのが不整脈で、心室細動は不整脈の中でも死亡に至る確率が高い危険な状態です。

心室の無秩序な興奮により異常な刺激を受け、1分間当たりの拍動が300~600回と極端に速くなって血液の送り出しが不能な状態となり、血圧はゼロに下がります。胸痛や不快感が起き、血液が脳や体全体に届かなくなって、細動が10秒前後続くと意識を消失、さらに10分続くと脳死に至るともいわれ、やがて心臓が完全に停止し死に至ります。

心臓突然死の多くは心室細動が原因で、即座に心臓マッサージを開始するか、公的機関やスポーツ施設を中心に配備されている自動体外式除細動器(AED)などを用いて細動を取り除かなければ、心臓停止から呼吸停止に陥ります。

心室細動は、心筋梗塞(こうそく)や狭心症、心不全、心臓弁膜症などの心臓病の進行に伴って心臓の筋肉が弱っている人に多く起き、拡張型心筋症やブルガダ症候群と呼ばれる珍しい心臓病を持つ人にも起きるほか、脱水や栄養障害や腎(じん)機能障害などによって血液中のミネラルバランスが崩れて起こす人もいます。

また、胸部にボールなどが当たった刺激や感電によるショックで、心室細動を起こす人もいます。さらに、QT延長症候群と呼ばれる先天性の遺伝子異常を持つために心室細動を起こしやすいタイプもあり、若者が睡眠中などの安静時や運動中に、心室細動発作を起こすこともあります。

若者の場合、持病がなければ心室細動の兆候も現れにくく、たとえ不整脈で倒れても軽度で回復して、それに気付かない場合があって予知が難しく、別の機会に突然死する原因になりやすいという特徴があります。

心室細動は活動時よりも安静時、特に睡眠時に起こりやすく、睡眠中に心室細動発作を繰り返していても本人には自覚されないこともあります。同居者がいた場合、夜間に突然もだえてうなり声を上げたり、体を突っ張ったり、失禁したりする全身症状を指摘され、初めて発作があったことがわかることもあります。睡眠時などの安静時の発作は、再発率が高くなっています。

心室細動は、命にかかわるものなので、まずは毎年の健康診断をきちんと受けること、そして健診で異常が見付かったり、胸の自覚症状があった際には循環器科、循環器内科、もしくは不整脈専門の不整脈科、不整脈内科を受診することが勧められます。

心室性期外収縮の検査と診断と治療

内科、循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心室性期外収縮の診断では、心電図検査が基本となります。

一般的に通常の検査は限られた時間の中で情報を集めますが、詳しく検査する場合はホルター心電計を利用します。これは胸に電極をつけて24時間にわたる心電図を記録する携帯式の小型の装置で、運動中や食事中、就寝中などでの心室性期外収縮の出現頻度と出現形態を確認できます。

また、基礎心疾患の有無や運動前後での心室性期外収縮の出現頻度をみる目的で、心臓超音波検査や運動負荷心電図などを行います。

内科、循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心室性期外収縮の治療では、健常な人でも自分の年齢数くらいは心室性期外収縮が現れてもおかしくないので、単発で無症状であれば、日常生活に制限を設けません。定期的な心電図検査を行い、期外収縮の出現頻度が変わっていないか、ほかの不整脈を伴っていないか経過観察します。

動悸などの症状が強い時には、まず抗不安薬を投与します。それでも症状がある場合には、ナトリウムチャネル遮断薬や、アドレナリンを阻害するβ(ベータ)遮断薬などの抗不整脈薬を使うことになります。薬物治療を行う場合には、副作用のリスクを考慮して、十分に検討した上で慎重に行います。

運動をすると心室性期外収縮が頻発する場合には、期外収縮の連続による頻脈(頻拍)や持続性の頻脈が生じる可能性があるので、運動を控えるよう制限を設けます。逆に、運動によって心室性期外収縮がなくなる場合には、運動制限を設ける必要はありません。

心室性期外収縮自体の予後は、良好です。しかし、心室性期外収縮が引き金になって致死的な頻脈が生じることがあります。このような場合は治療が必要で、鼠径(そけい)部などから挿入した細いカテーテルにより、心臓の心室性期外収縮の原因組織を高周波電流で焼灼(しょうしゃく)するカテーテルアブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)を行うことがあります。

一般的な心室性期外収縮の予防には、規則正しい生活とバランスのとれた食事を心掛け、ストレスの低減、睡眠不足を避けることなどが大切です。喫煙や過度の飲酒も控えます。

心室頻拍の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心室頻拍の診断では、定期的に心電図をとって経過を観察するだけでよい心室頻拍から、厳重な緊急治療を要する心室頻拍まで幅広いので、検査によってその悪性度を特定し、治療の必要性を決定します。

普通の心電図検査を中心に、胸部X線検査、血液検査、さらにホルター心電図、運動負荷検査、心臓超音波検査などを行い、場合によっては心臓カテーテル検査や心臓電気生理学検査を行います。

ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、狭心症は出ていないかなどがわかります。とりわけ、日中に発作が起こりにくい不整脈を発見するのに効果を発揮します。

運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、心臓疾患が出るかどうかをチェックします。

心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心室頻拍の内科治療では、自然停止しない持続性心室頻拍に対して、抗不整脈薬という拍動を正常化する働きのある薬を中心に行います。ただし、不整脈そのものを緩和、停止、予防する抗不整脈薬での治療は、症状を悪化させたり、別の不整脈を誘発したりする場合があり、慎重を要する治療法であるといえます。

抗不整脈薬のほかに、抗血栓薬など不整脈の合併症を予防する薬なども用います。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心室頻拍の外科治療では、自然停止しない持続性心室頻拍や、原因となるはっきりした心臓疾患のない特発(突発)性心室頻拍に対して、体内に挿入したカテーテル(細い管)の先端から高周波を流し、心臓の過電流になっている部位を焼灼(しょうしゃく)して正常化する、カテーテル・アブレーション法(経皮的カテーテル心筋焼灼術)という新しい治療法を行います。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。

薬物療法に応じず、血行動態の急激な悪化を伴う持続性心室頻拍に対しては、直流通電(DCショック)を行います。また、慢性的に重症心室頻拍の危険が持続する症状に対しては、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術も考慮されます。植え込み型除細動器は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置です。

原因となる心臓疾患がある場合は、それに対する根本的な治療も行います。

一般的な心室頻拍の予防には、規則正しい生活とバランスのとれた食事を心掛け、ストレスの低減、睡眠不足を避けることなどが大切です。喫煙や過度の飲酒も控えます。

心室細動の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による心室細動の診断では、検査によって症状を特定します。普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電図、運動負荷検査、心臓超音波検査などを行います。いずれの検査も、痛みは伴いません。

心電図検査は、数分で終わります。症状がない人でも、心電図検査で心室細動のリスクが高いブルガダ症候群やQT延長症候群などの疾患が見付かるケースもあります。

ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、狭心症は出ていないかなどがわかります。とりわけ、日中に発作が起こりにくい不整脈を発見するのに効果を発揮します。

運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、狭心症が出るかどうかをチェックします。

心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による心室細動の内科治療では、抗不整脈薬という拍動を正常化する働きのある薬を中心に行います。ただし、不整脈そのものを緩和、停止、予防する抗不整脈薬での治療は、症状を悪化させたり、別の不整脈を誘発したりする場合があり、慎重を要する治療法であるといえます。抗不整脈薬のほかに、抗血栓薬など不整脈の合併症を予防する薬なども用います。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による心室細動の外科治療では、1分間当たりの拍動が100回を大きく上回る症状を示す頻脈性不整脈に対して、体内に挿入したカテーテル(細い管)の先端から高周波を流し、心臓の動きにかかわる電流に過電流を起こす部位を焼き切って正常化する、カテーテル・アブレーション法という新しい治療法が行われています。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。

薬物療法に応じず、血行動態の急激な悪化を伴って生じる心室細動に対しては、直流通電(DCショック)を行います。また、慢性的に心室細動の危険が持続する症状に対しては、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術も考慮されます。植え込み型除細動器は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置です。

治療に関しては、疾患自体の原因がはっきりしていないため対症療法に頼るしかなく、現在のところ根治療法はありません。心室細動発作を起こした際は、自動体外式除細動器(AED)、または手術で体内に固定した植え込み型除細動器(ICD)などの電気ショックで回復します。

心室細動発作を起こしたことが心電図などで確認されていたり、原因不明の心停止で心肺蘇生(そせい)を受けたことがある人では、植え込み型除細動器(ICD)の適応が勧められます。このような発症者は今後、同様の発作を繰り返すことが多く、そのぶん、植え込み型除細動器(ICD)の効果は絶大といえます。また、診断に際して行う検査においてリスクが高いと判断された場合にも、植え込みが強く勧められます。

といっても、植え込み型除細動器(ICD)の植え込みはあくまで対症療法であり、発作による突然死を減らすことはできても、発作回数自体を減らすことはできないところに限界があるといわざるを得ません。

植え込み型除細動器(ICD)は通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。治療には500万円ほどかかりますが、健康保険が利き、高額療養費の手続きをすれば、自己負担は所定の限度額ですみます。手術後は、入浴や運動もできます。

ただし、電磁波によって誤作動の危険性もあり、社会的な環境保全が待たれます。電子調理器、盗難防止用電子ゲート、大型のジェネレーター(発電機)などが、誤作動を誘発する恐れがあります。

万一、発作が起きた際の用心のため、高所など危険な場所での仕事は避けたほうがよく、車の運転も手術後の半年は原則禁止。電池取り替えのため、個人差もありますが、5〜8年ごとの再手術も必要です。確率は低いものの、手術時にリード線が肺や血管を破ってしまう気胸、血胸なども報告されています。

🇦🇿心室早期興奮症候群

発作があると危険な頻脈性の不整脈

心室早期興奮症候群とは、脈拍が速くなる頻脈性の不整脈を生じる疾患の一つ。副伝導路症候群、ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群、WPW症候群とも呼ばれます。

不整脈とは、一定間隔で行われている心臓の拍動のリズムに、何らかの原因によって乱れが生じる疾患です。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、筋肉でできている心臓は絶え間なく全身に血液を送り出すことができるのです。このリズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。この電気刺激が正常に働かなくことによって、拍動のリズムが乱れる不整脈が生じます。

心室早期興奮症候群の多くの原因としては、ケント(Kent)束と呼ばれるバイパス(副伝導路)が存在することによって、電気信号の旋回(空回り、リエントリー)が起こることが挙げられます。通常は洞結節から発した電気信号は心房を経由して心室へと伝達されますが、この疾患では信号が通常のルートのほかケント束を経由する2つのバイパスを伝わるため、発作が起きるとより早期に心室の興奮を生じ、拍動のリズムを乱してしまいます。発作時の脈拍が240回以上にも達する場合もあり、救急隊員が驚くことがあります。

しかし、バイパスがあっても症状が出る人は一部で、多くは健康診断などで発見されるまで、自覚症状がないため気付かずにいます。多くは放置しても自然に治まりますが、長時間続く場合は投薬により抑えます。

従来は危険性のそれほどない一種の先天性疾患として高血圧、高脂血症、肥満、喫煙等の生活習慣をコントロールすることで改善されることがあるとだけされてきましたが、1980年代からの研究により、心房細動から心室細動に移行したケースがあることが判明し、危険な不整脈であると位置付けられたため、突然、脈拍が速くなる頻脈性の不整脈発作がみられた場合は即座に循環器科、内科循環器科、内科などの医師に診察してもらう必要があります。

心室早期興奮症候群の検査と診断と治療

循環器科、内科循環器科、内科などの医師による診断では、心電図検査で特異的な波形を示す心室早期興奮症候群が見付かり、危険度の高いタイプかどうかもわかります。

循環器科、内科循環器科、内科などの医師による治療では、動悸(どうき)がない場合、処置は必要ありません。脈拍数が150回以上で、突然始まって突然止まる動悸、あるいは全く不規則に脈が打つ動悸がある危険度の高い場合は、不整脈を抑える薬を飲み続けて発作を抑えます。

カテーテル焼灼(しょうしゃく)法(カテーテルアブレーション)といって、鼠径(そけい)部などから管を挿入し、バイパス部分を焼いてしまう根治療法も行われています。

>危険グループでなければ、経過をみていけばいいのですが、禁煙と肥満解消を心掛け、食事などによる高血圧や高脂血症の予防と改善が大切です。過激な運動、過労や睡眠不足、不摂生、強いストレスなどは不整脈発作の引き金になるので注意します。

🇹🇲心室中隔欠損症

新生児で最も頻度の高い先天性心臓病

心室中隔欠損症とは、右心室と左心室の間にある心室中隔に欠損口がある疾患。新生児においては、最も頻度の高い先天性心臓病です。

生まれ付き心臓に何らかの異常を伴う先天性心臓病は、およそ100人に1人の割合で起こると見なされています。その先天性心臓病の約20パーセントを占めているのが心室中隔欠損症で、心室中隔欠損単独の異常の場合もあれば、ほかの先天性心臓病を合併している場合もあります。

ほかの先天性心臓病を合併しているケースや、心室中隔の欠損口の大きいケースでは死亡することが多く、成人では心房中隔欠損症に次ぐ頻度になります。欠損口は、0・5センチ平方ほどの小さいものから、数センチ平方の大きなものまでいろいろです。

新生児で小さな欠損口の場合には、症状はないかあっても軽度で、体重増加や授乳にも影響なく経過します。中等大の欠損口を持つ新生児では、脈や呼吸が速い、寝汗をかく、手足が冷たい、ミルクを飲むのが大変そうといった症状が生後1、2カ月で出始め、その後も身長は正常範囲でも体重増加が落ちてきます。より大きな欠損口を持つ新生児では、そのような症状がさらに重症化したり、また肺高血圧を生じて、チアノ-ゼ(低酸素血症)が出現することがあります。

心室中隔に欠損があると、心臓が収縮する時に、血圧が高い左心室内の血液の一部が血圧が低い右心室内へと流れ込むことになります。この血液は肺と左右両心室を空回りすることになるため、両心室の負担が増え、さらに肺血管の血流量増加のために肺高血圧が生じるのです。肺高血圧は右心室の負担をさらに強め、右心室圧が高くなり、右心室内から逆に左心室内へと血液が流れ込むこともあります。

肺高血圧が進行すると、チアノーゼなどの症状も強くなり、易疲労感、胸痛、失神、喀血(かっけつ)といった症状も現れて、アイゼンメンジャー症候群と呼ばれます。

心室中隔欠損症の検査と診断と治療

健康診断で通常行われる聴診所見、胸部X線検査、心電図といった検査で心室中隔欠損症が疑われた場合、循環器を専門にしている医療機関で心臓超音波検査を受ければ確定診断がつきます。超音波検査だけでも治療の必要性の判断は可能ですが、合併している心臓病の有無や、肺高血圧の程度を調べるために、心臓カテーテル検査が必要となる場合もあります。

欠損口が小さく、血液の漏れが少ない新生児では、特に手術治療も、内服治療もなしで、通常の発育が見込まれます。軽症例では症状はなく、肺高血圧を生じることもなく、時に自然閉鎖をするケースもみられます。ただし、この場合でも、歯科治療や心臓以外の疾患で何か手術を受ける際、大きなけがをした際には、感染性心内膜炎を予防するために、抗生物質の投与が必要です。

感染性心内膜炎というのは、心室中隔欠損症のように欠損口を通る血液の乱流があると、血液中に細菌が流れてくる菌血症の状態になった時に、心臓の内側の壁である心内膜に細菌が巣を作って起きる疾患。一度、細菌が巣を作って固まりになると抗生物質が効きにくく、重症化して敗血症になる場合もあります。

中等大の欠損口を持つ新生児は、一般的にまず利尿剤、強心剤といった薬で心不全症状の緩和をします。薬を飲んでも心不全症状が強い、呼吸器感染を繰り返す、あるいは肺高血圧の進行が疑われる場合には、手術が勧められます。

より大きな欠損口を持つ重症例では、幼児より心不全、気管支炎、肺炎を起こすことが多く、できるだけ早期に手術を行うことが大切となります。肺への負担が大きい場合、時間がたつと肺高血圧によって肺の血管が痛んだ状態になり、場合によっては手術ができないようになることもあります。また、欠損口の場所によっては、大動脈弁の変形や、閉鎖不全を起こすこともあり、血液の漏れの量にかかわらず手術になることもあります。

手術では、人工心肺という装置を用いて心停止下に、欠損部の直接縫合、あるいは、パッチ(合成繊維の布)縫合によって、欠損口をふさぎます。しかし、大変重症で人工心肺の使用が危険な場合や、欠損口が心臓の筋肉の入り組んだところにたくさんあって非常にふさぎにくいことが予想される場合には、欠損口をふさがずに、肺動脈をしばって肺に流れる血液を制限する手術をすることもあります。

欠損部の直接縫合、パッチ縫合による手術の場合は、成績は良好。パッチ縫合によって欠損口をふさいだ後は、周りの筋肉が発達するので新生児が成長してもパッチの取替えをする必要はありません。学童期以後になっても欠損口がまだあるケースでは、細菌が付着する感染性心内膜炎になることもありますので、多くは手術が勧められます。

心室中隔欠損症の手術後の予後は、一般的に非常に良好です。通常、ほかの子供たちと同様に生活していけると見なされています。

🇹🇲心室頻拍

心室の一部から連続して起こる電気刺激によって頻脈が現れる病態

心室頻拍とは、心室内で電気刺激が連続して発生したり、電気刺激が回る回路ができたりすることによって、心臓の拍動が異常に速くなる頻脈を起こす不整脈の一種。

正常な心臓では、右心房付近にある洞結節(どうけっせつ)から1分間に60~100回の電気刺激が発生して、心臓内部の上半分である右心房、左心房、心臓内部の下半分である右心室、左心室を規則正しく収縮させることで拍動を起こし、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出しています。驚いた時などには一時的に拍動数は跳ね上がりますが、高くても1分間に140〜160回くらいの数値からゆっくりと下がっていき、正常値に収まっていくのが普通の状態です。

心室頻拍は、1分間当たりの拍動が100~250回という非常に速い発作性の頻脈を示します。

発作性の頻脈の持続時間が30秒以内か否かで、非持続性心室頻拍と持続性心室頻拍とに分類されます。もともと心臓に疾患がなく、30秒以内に自然停止する非持続性心室頻拍なら、心配ないこともあります。

しかし、心臓に疾患があったり、30秒以上持続する場合は、頻脈が遅ければ症状が少ないこともある一方で、頻脈が速いと送り出される血液量が少なくなって血圧の低下を招き、さまざまな症状が現れます。また、心室頻拍からさらに悪性度が高く、1分間当たりの拍動が300~600回と極端に速くなる心室細動に移行することもあります。

心室頻拍には、もともと心臓疾患があって起こる場合と、心臓にはっきりした疾患がなくても起こる場合とがあります。心室頻拍を引き起こす可能性のある代表的な心臓病としては、心筋梗塞(こうそく)、拡張型心筋症、催不整脈性右室心筋症、QT延長症候群(家族性突然死症候群)、心臓サルコイドーシスなどがあります。一方、はっきりした心臓の疾患がないのに起こる心室頻拍のことを、特に特発(突発)性心室頻拍といいます。

心室の筋肉が変性し、異常に速い電気刺激が連続して発生するようになったり、心室の筋肉内に電気刺激が比較的大きく旋回する異常な電気回路ができたりすることが、心室頻拍が起こる仕組みです。

非持続性心室頻拍の代表的な症状は、脈が飛ぶような感じや、脈が早いタイミングで打つような感じなどです。持続性心室頻拍では、心臓がドキドキする動悸(どうき)感などの症状を自覚します。動悸は突然始まり、停止する時も突然なことが特徴です。動悸とともに、胸痛や胸部不快感を感じることもあります。

 持続性心室頻拍で頻脈が速いと、送り出される血液量が少なくなって血圧が低下するため、めまい、ふらつき、失神などの脳虚血症状が現れます。極端に血圧が低下するとショックの状態に陥り、心臓突然死に至る確率が高くなるので、救急外来を受診し、緊急の治療を受けるべきです。

心室頻拍は命にかかわるものなので、まずは毎年の健康診断をきちんと受けること、そして健康診断の心電図などで、無症状あるいは軽度の症状の非持続性心室頻拍を指摘されたり、胸の自覚症状があった際には、悪性度の判定のため専門医の診察を受けることが勧められます。

心室頻拍の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、定期的に心電図をとって経過を観察するだけでよい心室頻拍から、厳重な緊急治療を要する心室頻拍まで幅広いので、検査によってその悪性度を特定し、治療の必要性を決定します。

普通の心電図検査を中心に、胸部X線検査、血液検査、さらにホルター心電図、運動負荷検査、心臓超音波検査などを行い、場合によっては心臓カテーテル検査や心臓電気生理学検査を行います。

ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、狭心症は出ていないかなどがわかります。とりわけ、日中に発作が起こりにくい不整脈を発見するのに効果を発揮します。

運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、心臓疾患が出るかどうかをチェックします。

心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による内科治療では、自然停止しない持続性心室頻拍に対して、抗不整脈薬という拍動を正常化する働きのある薬を中心に行います。ただし、不整脈そのものを緩和、停止、予防する抗不整脈薬での治療は、症状を悪化させたり、別の不整脈を誘発したりする場合があり、慎重を要する治療法であるといえます。

抗不整脈薬のほかに、抗血栓薬など不整脈の合併症を予防する薬なども用います。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による外科治療では、自然停止しない持続性心室頻拍や、原因となるはっきりした心臓疾患のない特発(突発)性心室頻拍に対して、体内に挿入したカテーテル(細い管)の先端から高周波を流し、心臓の過電流になっている部位を焼灼(しょうしゃく)して正常化する、カテーテル・アブレーション法(経皮的カテーテル心筋焼灼術)という新しい治療法を行います。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。

薬物療法に応じず、血行動態の急激な悪化を伴う持続性心室頻拍に対しては、直流通電(DCショック)を行います。また、慢性的に重症心室頻拍の危険が持続する症状に対しては、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術も考慮されます。植え込み型除細動器は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置です。

原因となる心臓疾患がある場合は、それに対する根本的な治療も行います。

一般的な心室頻拍の予防には、規則正しい生活とバランスのとれた食事を心掛け、ストレスの低減、睡眠不足を避けることなどが大切です。喫煙や過度の飲酒も控えます。

🇰🇵精索静脈瘤

精巣の上の精索部にできる静脈の拡張

精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)とは、精巣の上の精索部の静脈が拡張し、静脈瘤ができた状態。後天性の男性不妊症の主要な原因となっています。

静脈には、血液の逆流を防ぐ弁があります。精索内の静脈弁に障害があると、腎(じん)静脈から内精索静脈へ血液が逆流することにより、陰嚢(いんのう)上部にある精索の静脈(蔓〈つる〉状静脈叢〈そう〉)が蛇行して、こぶ状に拡張し、うっ血します。その程度が強い場合は、陰嚢内に腫瘤(しゅりゅう)を形成します。

この精索静脈瘤の大部分は、左側に生じます。左側の精索静脈は右に比べて長く、左の腎静脈へと合流していますが、還流障害が生じて静脈血が停滞、逆流する原因としては、静脈弁の先天性不全や、左腎静脈が上腸間膜動脈により圧迫されることが考えられています。精索静脈のうっ血により、陰嚢内の温度が上昇して、体温より2度ほど低い温度でよく機能する精巣の発育不全、委縮、機能低下、精子の形成不全、男性ホルモンを作るライディッヒ細胞の機能の低下などを引き起こして生殖機能が損なわれることで、男性不妊症の原因になります。

精索静脈瘤は、一般の健康な青年男性の10〜15パーセントに認められるのに対し、男性不妊症の人では20~40パーセントと高率に認められます。思春期以降に多くみられますが、小児にもみられます。大抵は無症状です。時には、陰嚢や鼠径(そけい)部の痛みや突っ張り感などの不快な症状を生じる場合もあります。

精索静脈瘤の検査と診断と治療

一般には、視診と触診にて診断されます。精巣の上部に腫瘤を触れたり、陰嚢や鼠径部の痛みを認めることもあります。数分間立位して腹圧をかけると、静脈の拡張がはっきりします。立位で容易に静脈瘤が触知できたり、陰嚢皮膚ごしに静脈瘤が見えることもあります。 片側の精巣サイズが小さいこともあります。アイソトープを使った診断法もありますが、通常は視診、触診と超音波検査で十分診断できます。

治療は、外科手術によります。精索静脈瘤のある不妊男性は、以下の4つの項目すべてを満たす場合に手術適応とされます。1、夫婦が不妊症を認識している。2、妻の妊娠機能が正常、または妻の不妊原因が治療可能な場合。3、精索静脈瘤が触知される、または触知が疑われ超音波検査で確認できた場合。4、精液所見が悪い場合。

また、精液所見が悪く精索静脈瘤のある成人男性でいずれ子供が欲しいと考えている場合や、精索静脈瘤があり陰嚢や鼠径部の痛みや違和感がある場合も、手術が考慮されます。 思春期の男性でも、片側の精巣サイズが小さくなっている場合には、将来の不妊を予防するため手術が考慮されます。片側の精巣サイズが小さくなっていない場合は、年1回の診察と精液検査を行います。

精索静脈瘤の外科手術では、病変のある静脈を縛る結紮(けっさつ)が行われます。具体的には、精索静脈高位結紮術、腹腔(ふくくう)鏡下精索静脈結紮術、顕微鏡下精索静脈低位結紮術などがありますが、精索静脈高位結紮術と顕微鏡下精索静脈低位結紮術が一般的に行われています。

精索静脈高位結紮術は最も多く行われている手術法で、腹部横切開で後腹膜腔に達し、精索静脈を結紮します。精索静脈が1〜2本と少なく、手技が簡単です。精索動脈やリンパ管の一部も同時に結紮しますが、動脈は下のほうにもあるので問題はありません。再発の可能性は少ないながら存在し、これは外精索静脈の逆流があるまれな場合です。時に、陰嚢水腫を合併しますが、リンパ管の結紮の影響の可能性があります。高位の精索動脈やリンパ管を温存する手術方法もあります。麻酔は全身麻酔あるいは下半身麻酔で、3泊4日程度の入院で行われます。退院後の事務仕事程度ならすぐに可能ですが、腹筋の間を入って手術するので腹筋を使う運動は3週間できません。

顕微鏡下精索静脈低位結紮術は、手術用顕微鏡とドプラ血流計を使用して、陰嚢上部または鼠径部横を切開し、精索静脈を結紮します。精索静脈が下方にあるため枝分かれが多く、結紮すべき静脈の数が多くなります。麻酔は局所麻酔で、手術時間は約2時間のため、日帰り手術も可能。手術直後は痛みのために歩きにくくても、翌日から事務仕事程度ならすぐに可能で、痛みは通常数日で軽くなります。傷跡は小さく、特に陰嚢上部切開ではほとんど傷跡が目立ちません。1週間は陰嚢がはれる場合があっても、陰嚢水腫の合併はほとんどありません。

精索静脈瘤手術により、精液所見は60~70パーセントで改善し、30~50パーセントでパートナーの妊娠が得られるといわれています。手術後の精液検査は、3カ月後に行われます。精子の作り始めから精子として射出されるまで、約3カ月かかるためです。

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