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2022/08/27

🇪🇹子宮下垂、子宮脱

子宮が下垂して腟の中外に脱出した状態

子宮下垂および子宮脱とは、子宮の位置の異常のこと。子宮が正常な位置よりやや下降して、腟(ちつ)内にとどまっている状態を子宮下垂といい、下垂がさらに進行して、子宮の一部または全部が腟から脱出してくる状態を子宮脱といいます。

子宮下垂や子宮脱があると、子宮の前方にある膀胱(ぼうこう)や後方にある直腸も、膣の壁と一緒に膣外に脱出する膀胱脱、直腸脱を合併することが多くあります。

子宮は骨盤内のほぼ中央にあり、前後左右に靭帯(じんたい)で支えられ、また骨盤底の支持組織と筋肉によって位置が保たれています。これらの子宮を支える靭帯や骨盤底の筋肉が弾力を失い、弱くなると発症します。

靭帯や筋肉が弱くなる原因としては、加齢のほか、妊娠や出産による影響も大きく、お産の回数が多かった人、難産だった人、出産の後あまり休まないで働いていた人、長年立ち仕事や肉体重労働を続けていた人などに多くみられます。特に、更年期以降、エストロゲンの分泌が低下してくると、膣や骨盤底の筋肉の緊張が緩んでくるために起こりやすくなります。先天的に骨盤底の筋肉や支持組織が弱い人は、1回の出産だけで起こることもあります。

疾患自体は健康に差し支えることは少なく、治療も必要ありません。ただ、脱出の程度が強くなると、子宮を指で押し戻すことができなかったり、外陰部に出た子宮が体や下着に接触して不快に感じたり、歩行の障害になることもあります。脱出部分の粘膜のただれや炎症のために、出血などの症状がみられることもあります。

また、膀胱脱では残尿が多くなって、腹圧性尿失禁の大きな原因の1つになります。下垂がひどくなると、逆に尿が出にくくなったり、頻尿になったりします。さらにひどくなると、尿が出なくなってしまい、しばしば膀胱炎の原因や腎臓の働きに障害を来すこともあります。

子宮下垂、子宮脱の検査と診断と治療

子宮の下垂感や脱出感があって日常生活に支障を来す場合には、婦人科、産婦人科を受診します。

医師の側は、立位や寝た状態での視診や内診によって、容易に診断できます。さらに、腹圧を加えることにより、子宮下垂と子宮脱の程度が増悪するので、明確に診断できます。

子宮下垂や子宮脱があるといっても、腟の中程まで落ち込んでいる程度で特に症状がなければ、治療は行いません。炎症、出血、尿漏れなどの症状があれば、治療が行われます。

保存的治療としては、硬質プラスチック製のペッサリーを腟内へ挿入し、下から子宮を支えて位置を矯正する方法があります。ペッサリーにはリング状、ドーナツ型、円錐型などがあり、日本では長期連続装着型のリング・ペッサリーが多く用いられていて、必要に応じて2個用いる場合もあります。適切な大きさのものを装着すれば、異物感もなく、性交渉にも問題はありません。ただ、長期に使うと下り物が増えたり、炎症を起こすことがあります。

手術療法では、程度や症状、年齢、持病の有無など全身状態、そして発症者自身の希望によって、さまざまな方法が行われます。

基本的には、骨盤内の臓器を支える筋肉や靭帯を腟のほうから修復する、腟式骨盤底修復術が行われます。状態に応じて、下垂した子宮を丸ごと摘出する子宮全摘術や、膀胱脱などで膨らんだ腟の壁を修復する手術などが、単独あるいは併用して行われます。

子宮全摘術の代わりに、子宮頸部(けいぶ)を切断して子宮を短くし、靭帯で固定するマンチェスター手術も行われます。また、妊娠を望む若い女性には、妊娠能力を残して臓器を固定する手術も行われます。逆に、高齢の女性には体への負担が軽いという意味で、腟を閉鎖する手術が行われることもあります。

子宮下垂、子宮脱の予防には、出産の後は十分に休養すること、骨盤底の部分の筋肉である肛門(こうもん)や尿道、膣口の回りの筋肉を収縮させる運動をすることが役立ちます。

🇪🇹子宮がん

女性性器のがんで、子宮頸がんと子宮体がんの別

子宮がんとは、胎児を宿す子宮に発生するがん。女性性器のがんの中で、最も多いものです。

がんの発生する部位によって、子宮頸(けい)がんと子宮体がんの2つに分けられます。

【子宮頸がんは40、50歳代に多く、若年層にも増加傾向】

子宮頸がんとは、子宮頸部の上皮から発生するがんのことをいいます。子宮頸部は、膣(ちつ)から子宮への入り口部分で、とっくりを逆さにしたような形をしている子宮の細い部分に当たり、その先端が腟の側に突き出ています。

先端の部分と内方の部分では、上皮の組織が異なっています。腟の側に突き出ている先端部分は、皮膚と同じく、数層の平ベったい細胞が重なった扁平(へんぺい)上皮で覆われています。これに対して、子宮体部の側の内方部分は、粘液を分泌する一層の細胞である腺(せん)上皮(円柱上皮)で覆われています。

一般にいう子宮頸がんは、約85パーセントが扁平上皮の細胞から発生する子宮頸部扁平上皮がんで、性成熟期に多く発症します。一方、腺上皮の細胞から発生する子宮頸部腺がんは、閉経後に多く発症します。子宮頸部扁平上皮がんは子宮膣部がん、子宮頸部腺がんは子宮頸管がんとも呼びます。

発生したがんは初め、扁平上皮、あるいは腺上皮の中にとどまっていますが、次第に子宮の筋肉に浸潤。さらに、腟や子宮の周りの組織に及んだり、骨盤内のリンパ節に転移したりします。ひどく進行すると、膀胱(ぼうこう)、直腸を侵したり、肺、肝臓、骨などに転移したりします。

子宮がん全体の中では、子宮頸がんは60~70パーセントを占めています。30歳代で増え始め、40、50歳代で最も多くみられますが、20歳代の人や80歳以上の人にもみられます。とりわけ、性交開始が低年齢化するとともに若年者の発症が多くなっているために、平成16年4月の厚生労働省の通達で、子宮頸がん検診の開始年齢を20歳に引き下げました。

死亡数は、激減しています。前がん病変での早期発見、早期治療のケースが増加し、がんになる前に治療がされるようになったことと、がんになったとしても、がんの進み具合を表す臨床進行期で0(ゼロ)期~Ia期に当たる早期がんのうちに、約65パーセントが発見され、ほぼ100パーセント治癒するようになったためです。

しかしながら、発生率は少なくなっていません。子宮頸部腺がんでは、検診で比較的発見されにくく、進行してから発見される場合もあります。放射線治療や化学療法が効きにくいなど、扁平上皮がんと比べると子宮頸部腺がんの予後は、悪い傾向にあります。

【子宮頸がんはヒトパピローマウイルスの感染が誘因に】

直接、発がんと結び付く原因はまだわかっていませんが、いくつかの疑わしい因子はわかっています。以前から、多産婦に多いことが統計学的に証明されているほか、高リスクの因子として、初めての性交年齢の若い人、性行為の相手が複数いる人、喫煙歴のある人などが挙げられています。

近年、注目されている高リスク因子は、性行為によって感染するヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス:HPV)。ほとんどの子宮頸がんで、このウイルスが組織中から検出されるため、がんの発生の引き金となると考えられています。

ヒトパピローマウイルスは、いぼを作るウイルスの一種で、男性性器の分泌物などに含まれています。70種類以上あるタイプの中のいくつかのものが、前がん病変の形成や頸がんの発生に関与。一般に、ウイルスを持った男性との性交渉によって、外陰部、腟、子宮頸部などの細胞に感染します。

外陰がんや腟がんは非常にまれにしか生じないのに対して、子宮頸がんは比較的多く発生します。とはいっても、実際に子宮頸がんになる人は、ヒトパピローマウイルスに感染した人の中の一部にすぎません。

前がん病変が形成されても、軽度の場合は経過観察しているうちに、約70パーセントが自然に消失することも知られています。発がんには、ウイルスに感染した人の体質、すなわち遺伝子の不安定性や免疫なども関係しているようです。

初期の子宮頸がんではほとんどが無症状ですが、子宮がん検診で行う子宮頸部細胞診により発見することができます。

進行した際の自覚症状としては、月経以外の出血である不正性器出血が最も多く、特に性交時に出血しやすくなります。膿(うみ)のような下り物が増えることもあります。下腹部痛、腰痛、下肢痛や血尿、排尿障害、血便、下痢などが現れることもあります。

【子宮体がんは子宮体部の内膜に発生するがん】

子宮体がんとは、子宮体部の粘膜にできる悪性腫瘍(しゅよう)。子宮頸部(けいぶ)に悪性腫瘍ができる子宮頸がんと合わせて、子宮がんと呼ばれていますが、子宮体がんと子宮頸がんの二つは、発生部位はもとより、好発年齢、発生原因、症状が異なるため 、区別して扱う疾患です。

子宮体部は、子宮の奥の赤ちゃんを育てる部分。外側は筋肉に覆われており、内側は子宮内膜という粘膜でできています。その内膜にがんができるのが、子宮体がんです。

主に閉経後の50歳以上の人に好発し、若い人では、不妊症の人や卵巣機能に障害がある人に起こります。

初期の症状としては、何らかの不正出血、下り物がみられます。閉経前では、月経が長引いたり、周期が乱れるという形で不正出血があります。閉経後では、少量の出血が長く続く場合には注意が必要です。

下り物は黄色、褐色から始まり、次第に血性、肉汁様になって、進行すると膿(のう)性になり、悪臭を放つようになります。高齢者では、子宮の入り口が狭くなって詰まってしまい、子宮の中に出血や分泌物が貯留することもあります。

さらに進行すると、子宮体部の内膜に発生したがんは、徐々に子宮体部壁に広がっていきます。広がりが深くなると、骨盤リンパ節や腹部動脈節に転移が起こり、卵巣、卵管、子宮頸部、腹膜へも進展します。さらに、肺、肝臓などの遠隔臓器へも転移します。

一般に、子宮体がんの進行は、子宮頸がんより遅いといわれています。以前は子宮頸がんが子宮がんの大半を占めていましたが、最近では食生活及び生活習慣の欧米化や、高齢化などにより、子宮体がんが増える傾向にあります。今後はさらに増加するものと予測されます。

発生や進行には、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)が影響を与えています。エストロゲンは内膜を増殖させる作用があり、一方、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)は、増殖を抑制する作用があります。更年期には、月経があっても排卵が起こっていないことが多く、排卵後に分泌されるプロゲステロンが十分に出ないため、内膜が過剰に増殖して子宮内膜症になり、さらに、子宮体がんに進展する可能性があります。

子供がいないか少ない人や、不妊、卵巣機能不全、肥満、高脂血症、糖尿病などを抱えている人も、エストロゲンが子宮内膜に働いている時間が長くなるため、子宮体がんのリスクを高めるといわれています。

子宮がんの検査と診断と治療

【進行度で異なる子宮頸がんの治療法】

不正性器出血があったら、婦人科で検査を受けるのがよいでしょう。症状がなくても、年に1回程度は子宮がん検診を受けることが最善です。

子宮頸がんの検査では、子宮頸部を綿棒などでこすって、細胞診用の検体を採取します。細胞診で異型細胞が認められた場合には、コルポスコープと呼ぶ膣拡大鏡で5~25倍に拡大して観察しながら、疑わしい部分の組織を組織診用に採取し、病理学的に検査して診断を確定します。

進行がんの場合は肉眼で見ただけでわかりますが、確定のために細胞診と組織診が行われます。さらに、内診、直腸診で腫瘍(しゅよう)の大きさや広がりを調べます。

子宮頸がんの診断が付いた場合は、胸部X線検査、経静脈性尿路造影、膀胱鏡、直腸鏡検査を行い、臨床進行期が決定されます。腹部超音波検査、CT、MRIによって病変の広がりを調べることも、治療法の選択に当たって重要視されます。

子宮頸がんの主な治療法は、手術療法または放射線療法。年齢、全身状態、病変の進行期を考慮して、治療法が選択されます。治療成績は手術、放射線ともほぼ同じですが、日本では手術が可能な進行期までは、手術療法が選ばれる傾向にあります。

早期がんである0期に対しては、子宮頸部だけを円錐(えんすい)形に切り取る円錐切除術を行うことで、術後に妊娠の可能性を残すことができます。また、レーザーによる治療を行うこともあります。レーザー治療では、子宮頸部をほぼ原形のまま残し、術中まったく出血することなく、痛みもないので無麻酔下で行える利点があり、治療成績も良好です。妊娠の希望がない場合は、単純子宮全摘術を行うこともあります。

進行期の中で浸潤が浅いIa 期の場合は、単純子宮全摘術が標準的ですが、妊娠を強く希望される人の場合は、円錐切除術のみが行われることがあります。

明らかな浸潤がんのIa2期や、子宮の周囲にがんが広がるII期の場合は、広汎(こうはん)子宮全摘術が一般的です。広汎子宮全摘術では、子宮だけでなく、子宮の周りの組織や腟を広い範囲で切除し、通常は卵巣も切除します。40歳未満の場合は、卵巣を温存することもあります。摘出物の病理診断でリンパ節転移や切除断端にがんがあった場合は、術後に放射線療法を追加します。

がんの浸潤が深く、広い範囲に及んで手術ができないIII~IV期の進行がんの場合や、高齢者、全身状態の悪い人の場合は、手術の負担が大きいため放射線療法を行います。

放射線療法は通常、子宮を中心とした骨盤内の臓器におなかの外側から照射する外部照射と、子宮、腟の内側から細い器具を入れて照射する腔内照射を組み合わせて行われます。外部照射ではリニアックというX線を用い、腔内照射ではラジウムに替わってイリジュウムが使われるようになっています。

さらに近年、新しく有効な抗がん薬の開発が進み、主治療の手術や放射線療法を行う前に、原発病巣の縮小と遠隔転移の制御を目的にして、主治療前補助化学療法(NAC)も行われるようになりました。点滴で薬を投与するのが一般的な投与法ですが、子宮動脈へ動注する方法もあります。

IIb期やIIIa期でも、先に化学療法を行ってがんを小さくしてから、手術することもあります。IIIb~IVa期などの本来は手術ができない進行期のがんも、NACを行った後に、手術ができることもあります。NAC併用後に手術ができた場合、放射線療法単独の場合よりも治療効果が高いことが報告されており、最近ではNACを行うことが標準的になっています。

【早期の発見、治療が大切な子宮体がん】

子宮がんでは、早期発見、早期治療が重要です。子宮体がんは子宮頸がんと同様、初期には自覚症状がない場合が多いので、早期発見のために、年に一度は定期検診を受けましょう。50歳前後に発症が多く、最近は閉経後の子宮体がんが増加していますから、閉経後も検診が必要です。

不正出血は大きな手掛かりで、がんになる前の状態の子宮内膜増殖症の段階でも、不正出血が出ることがあります。症状が出てから検診しても、進行がんとは限らないわけです。逆に、進行がんの段階になっても、不正出血のない人もいますので、やはり定期的な検診が大切なのです。

ふだんから自分の体の健康状態に気を付け、不正出血や下り物の異常、性交時の出血、下腹部痛などいつもと違う兆候があったら、ためらわず婦人科を受診することも大切です。

なお、子宮がんの検査を受けた場合でも、実際には子宮頸がんの検査だけを行っている場合もありますから、注意して確認してください。子宮体がんは子宮の奥にできるので、頸がんの検査では発見できません。

検査はまず、細胞診でチェックします。細いチューブを腟から子宮の中に入れて子宮内膜の細胞を吸引採取したり、挿入したブラシでかき取った細胞を、調べます。多少痛みがあります。

細胞診で疑わしい兆候があった場合、あるいは子宮体がんの疑いが強い場合は、最初から組織診が行われることもあります。キューレットと呼ばれる細い金属棒の先に小さな爪のある道具で、子宮体部の組織をかき取り、顕微鏡で検査する方法が中心になっています。少し痛みがあり、出血が数日続くこともあります。

子宮体がんの治療では、手術、放射線、抗がん剤に加え、ホルモン療法が有効な場合もあります。基本は、やはり手術です。

主な手術には、単純子宮全摘術と附属器の切除、広汎子宮全摘術があります。前者の手術は、腹部を切開して子宮と卵巣、卵管を切除する手術です。進行の程度により、周囲のリンパ節の切除も加えます。後者の手術は、子宮と卵巣、卵管、腟、さらに子宮周囲の組織を広く切除する手術で、周囲のリンパ節も一緒に切除します。

手術によって、リンパ節転移が発見されたり、がんが子宮の壁に深く食い込んでいることがわかった場合に、手術後に放射線療法を行うこともあります。抗がん剤を投与して腫瘍を小さくしてから、手術を行うこともあります。

手術が難しい場合は、抗がん剤や放射線による治療を行うことになります。抗がん剤の場合は副作用を抑える薬などが併用され、放射線治療の場合も重い放射線障害が起こらない範囲で治療が行われています。それでも、ある程度の副作用があることは、やむを得ないところです。

また、子宮体がんは女性ホルモンと関係が深いので、ホルモン療法が有効なことがあり、注目されています。基本的には、プロゲステロン(黄体ホルモン)の働きをする薬を飲みます。

【予防の基本は生活習慣と食生活の改善】

子宮がんの予防の基本は、体や局部を清潔に保つことです。また、日常の生活習慣や食生活と子宮がんは、密接な関係にあるといわれています。

改善できる生活習慣では禁煙があり、お酒を飲みすぎない、バランスのとれた食事をし、決して食べすぎず、適切な運動と休養をとり、ストレスをためない工夫を心掛けることです。

特に、食べ物では、高塩分、高コレステ ロール食は避け、繊維質、緑黄色野菜、魚類や、がんを抑える作用があるといわれる大豆食品をたくさん摂取するようにします。

また、がんの発生要因とされている活性酸素を抑える物質を多く含む食品を取ることも、有効ながん予防策。活性酸素を消去する物質としては、体内で作り出される抗酸化酵素と、食事等から摂取する抗酸化力のあるビタミンA(β―カロチン)、C、E、B群やポリフェノール、カロ チノイド、大豆イソフラボンなどがあります。

🇪🇹子宮筋腫

女性の病気の中でも、特に多い病気

子宮筋腫(きんしゅ)とは、子宮の筋肉にできる良性腫瘍(しゅよう)で、こぶのように硬い球形の腫瘍です。その90~95パーセントが子宮の体部に発生し、残りの5~10パーセントが子宮の頸部(けいぶ)に発生すると見なされ、子宮筋の内側にできる場合と外側に張り出してくる場合とがあります。

女性の病気の中でも特に多く、35歳以上の女性では約20パーセントに認められることが知られています。年代的には40歳代に最も多く、ほとんどの場合30~50歳に発見されますが、ごく小さな米粒ぐらいの筋腫まで含めれば、過半数の人が持っていると考えられます。つまり、子宮筋腫があることに気付かないまま、過ごしている人も少なくないのです。

子宮の壁は、平滑筋という筋肉でできています。妊娠によって子宮が大きくなったり、出産の時に陣痛が起こるのも、筋肉が伸縮するからです。この筋肉層にできる腫瘍が子宮筋腫で、平滑筋の細胞が異常に増殖するものです。

なぜ、細胞が異常な増殖を始めるのか、その原因はよくわかっていません。しかし、初経(初潮)が始まった後に子宮筋腫ができてくることから、生まれ付き持っている素因に、エストロゲンなど女性ホルモンの影響が加わり、筋腫が成長していくのではないか、と考えられています。

卵巣からの女性ホルモンの分泌が止まる閉経後では、子宮の縮小に伴って筋腫も退縮し、小さくなっていきます。

筋腫がどの方向に育っていくかによって、子宮筋腫は3種類に分けられます。その種類によって、症状の現れ方にも違いがあります。

一番多いのが、子宮の筋肉の中で筋腫が大きくなっていく筋層内筋腫、次が子宮の外側に向かって成長する漿(しょう)膜下筋腫、そして、数は少ないのですが症状が一番強く現れやすいのが子宮の内側に向かって発育していく粘膜下筋腫。

一般的には、子宮筋腫は月経がダラダラ続く、月経時の出血量が多い、貧血がある、月経痛がひどいなど、月経に関連した症状で気付くことが多いようです。月経が10日以上も続いたり、出血量が多くなって貧血を起こしたり、動悸(どうき)や息切れを起こす人もいます。

3種類の筋腫で違いがある症状

症状が一番強く現れやすいのが、粘膜下筋腫です。筋腫が子宮の内側に向かって発育するため、出血しやすく、まだ筋腫が小さいうちから出血がダラダラ続いたり、月経時の出血量が多いといった症状が現れやすいのです。逆に、内側に筋腫ができるので、外からは触れにくいのも特徴です。

子宮筋腫があると妊娠しにくくなるといわれますが、粘膜下筋腫は胎児が宿る子宮の内腔(ないくう)に突き出てくるため、とりわけ妊娠しにくくなります。また、粘膜下筋腫が大きくなり、茎を持ってぶらさがるように子宮の中で発育すると、まれには腟(ちつ)の中に筋腫が顔を出すこともあります。

こうした状態を筋腫分娩(ぶんべん)と呼びます。不正出血が続いたり、筋腫を伝わって腟の中から子宮の中に細菌感染が起こり、危険な状態になることもあります。実際、不妊症の検査で筋腫が発見される人も、大勢います。

筋腫がかなり大きくなるまで症状が現れにくいのが、筋腫が子宮の外に向かって成長していくタイプ、すなわち漿膜下筋腫です。ふつう子宮は60~70gほどの重さですが、中には1kg、まれには2kgもの筋腫を抱えるようになる人もいます。

外からしこりに触れるような大きさになっても、月経に関連したつらい症状がほとんどないことが多く、そのために見過ごされてしまうことも多いのが、漿膜下筋腫の特徴です。

筋肉の中で筋腫が成長する筋層内筋腫の場合は、大きくなるにつれて、子宮の内側を覆う子宮内膜が引き伸ばされていきます。そのため、月経痛や月経時の出血が多くなり、下腹部を触るとしこりがわかるようになります。

しかしながら、筋腫がゆっくりと大きくなっていくと、自覚しにくいこともあります。「下腹部のしこりは、最近太ったからだろう」、「月経血が多いのは、自分の体質のせい」と、勝手に解釈していることも少なくありません。

検査と診断と治療

病気は、ふつう治療するものです。しかし、子宮筋腫の場合は、どうなれば治療をするというはっきりした基準がありません。基本的には、自覚症状がどのくらいつらいかが、治療を受けるかどうかの判断基準になります。

過多月経、不正出血などの出血傾向が強くて、次第に貧血がひどくなる場合、鎮痛薬が効かないような強い月経痛がある場合には、治療の対象になります。筋腫が不妊や習慣性流産、早産の原因になると考えられる場合も、対象になります。

筋腫の大きさがこぶし大以上になった場合も、治療を考えるべきでしょう。筋腫が大きくなると、周囲の臓器を圧迫し、便秘になる、尿が近い、下腹部が張る、月経時以外にも下腹部痛や腰痛などに悩まされる、といったことも起こります。さらに筋腫が巨大になると、尿管を圧迫して腎(じん)臓から膀胱(ぼうこう)に尿が流れにくくなり、腎臓を悪くする水腎症になることもあります。

子宮筋腫自体は良性の腫瘍なので、命にかかわることはありませんが、急激に大きくなったものや下腹部がいっぱいになるほど大きなものは、まれに肉腫などの悪性腫瘍の場合もあります。

今は、MRI(磁気共鳴画像診断装置)など画像診断機器が進歩しているので、子宮筋腫の有無は触診と超音波検査でほぼわかります。筋腫の中でもどの種類なのか、とりわけ子宮の内側に発育した粘膜下筋腫は診断が付きにくかったのですが、子宮内部の様子を外から観察し、診断をすることが可能になりました。

治療には薬物療法と摘出手術という2つの方法がありますが、根本的な治療は手術になります。

薬物療法は、ホルモン剤によって、女性ホルモンのエストロゲンの分泌を一時的に停止させる方法です。Gn-RH製剤と呼ばれる薬が使われ、月1回注射を打つ方法、1日に2~3回、鼻に噴霧する方法などがあります。これによって、筋腫の重さを半分から3分の2くらいまで縮小させることができます。

しかしながら、この方法では人工的に閉経したのと同じような状態を作るため、更年期障害が現れ、骨粗鬆(こつそしょう)症のリスクも高めることになります。Gn-RH製剤を使うのは、半年が限度とされています。その後、半年治療を中断すれば、骨も元に戻り、骨粗鬆症のリスクも低下しますが、筋腫もまた元の大きさ近くに戻りますので、根本的な治療にはなりません。

最近は、閉経が間近な人や、手術の前に月経を止めて貧血を治したり、筋腫を小さくさせる必要のある人などに対して、補助的な意味合いで使われることも多いようです。

また、子宮に栄養を供給する子宮動脈を人工的に詰まらせ、筋腫を栄養不足にすることで小さくする、子宮動脈塞栓(そくせん)術という治療法があります。X線でモニターしながら、大腿(だいたい)部の動脈から子宮動脈まで細い管を挿入し、詰め物で血管に栓をします。まだ一般的な治療ではなく、一部の施設で試みられている段階です。

手術で筋腫を摘出する場合は、筋腫のみを摘出して子宮を残す方法と、子宮ごと筋腫を摘出する方法とがあります。どの方法を選ぶかは、年齢や妊娠の希望の有無、筋腫の状態、症状の程度などによって決定されます。

手術の方法も、おなかにメスを入れる開腹手術だけではなく、腟から子宮を取る手術や、腹腔鏡など内視鏡によって開腹せずに行う手術もあります。

開腹手術によって腹部からメスを入れる方法は、大きな筋腫も摘出できるのが長所。半面、傷跡も多少目立ちます。

子宮が握りこぶし大より小さくて癒着がなく、悪性腫瘍や卵巣嚢腫(のうしゅ)などの合併もなく、腟からの分娩を経験したことのある人ならば、腟のほうからメスを入れて子宮の摘出を行う腟式手術を行うこともできます。

近年、急速に広まっている内視鏡による手術は、傷跡が小さいかほとんどなく、回復が早いのが長所です。

子宮を残して筋腫だけを摘出する場合、子宮の内側に筋腫ができた粘膜下筋腫ならば、子宮鏡が使われます。腟から子宮の中に子宮鏡を入れ、電気メスで筋腫を少しずつ 削り取っていきます。筋腫はあまり大きくない4~6cm以下、筋腫が内側に飛び出していることなど、いくつかの条件があります。

一方、腹部にいくつか穴を開けて細い管を挿入し、電気メスなどを操作して子宮筋腫を切除するのが、腹腔鏡手術です。子宮を丸ごと摘出することも、筋腫だけを摘出することも可能で、適応になるのは筋層内筋腫や漿膜下筋腫。

なお、開腹手術でも内視鏡による手術でも、子宮を残せば、子宮筋腫の再発の可能性があります。特に20代、30代で手術をした人は、その後の長い年月、エストロゲンにさらされますので、筋腫が再発してまた大きくなる危険性があります。複数の筋腫があった人も、再発の危険性が高くなります。

再手術になると、筋腫だけを取ることは難しいので、子宮の全摘手術を受けることになります。

🇸🇸子宮頸管炎

女性の半数以上が経験する炎症

子宮頸管(けいかん)炎とは、子宮の下部にある頸管粘膜が病原菌に感染して、炎症が起きる病気。単独で起こることはまれで、多くみられるのは腟(ちつ)炎から菌が上ってきて、炎症を起こすケースです。

子宮頸管は、女性性器の中で膣と同様、最も感染を受けやすいところです。腟を介して外界と直接通じていること、出産時や人工妊娠中絶時に頸管損傷を生じやすいこと、さらに感染に比較的弱い子宮腟部びらんが頸管の入り口に存在することなどが、その理由となっています。

女性の半数以上は、この子宮頸管炎にかかった経験を持っているとされます。とりわけ、出産したことのある女性の場合では、六割以上に認められるとされているところです。

原因となる菌として、従来は淋(りん)菌によるものが多かったのですが、最近では大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌などの膣に存在する膣内常在菌と、性行為により感染するクラミジアによるものが多くなってきています。ほかに、結核菌による感染、出産や人工妊娠中絶などの子宮内操作に続発する細菌感染もあります。

特に、クラミジアの感染による頸管炎は、比較的自覚症状が少ないことや、ピル(経口避妊薬)や避妊リングの普及、性の自由化と関連して、日本を含めた先進諸国で隠れた大流行があるといわれています。慢性化して不妊の原因になる場合もあります。

急性、慢性別の症状と、抗生物質による治療

子宮頸管炎は経過により、急性と慢性に分けられます。急性の場合の症状としては、子宮頸管部の入り口に細菌感染が起こると、頸管腺(せん)からの粘液分泌が増量し、しばしば膿(のう)性の下り物がみられます。頸管腺から分泌される粘液は本来、腟からの細菌感染を防ぐ一方、排卵期には、はしごの役割をなして、精子の貫通性をよくする働きをしているものです。

また、頸管の粘膜が炎症でただれているので、セックスなどの後に出血することがあります。

急性で炎症が激しい場合には、周囲にも炎症が及んで尿道炎、子宮内膜炎、骨盤腹膜炎を併発すると、排尿痛、下腹部痛、腰痛、発熱なども現れることもあります。急性の経過をとる代表的なものは、淋菌による頸管炎。

慢性の場合には、炎症の持続的刺激により頸管腺の分泌が増し、頸管腺の組織も増殖し、子宮頸部も肥大してきます。そのため、ネバネバした濃い黄白色の下り物が頑固に続きます。時には、慢性的に炎症が周囲に及ぶため、腰痛や性交痛を生ずることもあります。

医師による治療では、炎症を起こしている原因菌を突き止め、症状に応じて抗生物質の内服、点滴、腟内投与が行われます。実際は、抗生物質を内服してもなかなか薬剤が頸管部まで到達しないことが多く、直接、膣の中に抗生物質を含んだ座薬を入れることになります。

炎症が軽く、下り物もあまり多くなければ、放置しておいてもかまいません。クラミジア感染による場合は、パートナーも一緒に治療を受けることが必要となります。

🇸🇸子宮頸がん

40、50歳代に多く、若年層にも増加傾向

子宮頸(けい)がんとは、子宮頸部の上皮から発生するがんのことをいいます。子宮頸部は、膣(ちつ)から子宮への入り口部分で、とっくりを逆さにしたような形をしている子宮の細い部分に当たり、その先端が腟の側に突き出ています。

先端の部分と内方の部分では、上皮の組織が異なっています。腟の側に突き出ている先端部分は、皮膚と同じく、数層の平ベったい細胞が重なった扁平(へんぺい)上皮で覆われています。これに対して、子宮体部の側の内方部分は、粘液を分泌する一層の細胞である腺(せん)上皮(円柱上皮)で覆われています。

一般にいう子宮頸がんは、約85パーセントが扁平上皮の細胞から発生する子宮頸部扁平上皮がんで、性成熟期に多く発症します。一方、腺上皮の細胞から発生する子宮頸部腺がんは、閉経後に多く発症します。子宮頸部扁平上皮がんは子宮膣部がん、子宮頸部腺がんは子宮頸管がんとも呼びます。

発生したがんは初め、扁平上皮、あるいは腺上皮の中にとどまっていますが、次第に子宮の筋肉に浸潤。さらに、腟や子宮の周りの組織に及んだり、骨盤内のリンパ節に転移したりします。ひどく進行すると、膀胱(ぼうこう)、直腸を侵したり、肺、肝臓、骨などに転移したりします。

子宮がん全体の中では、子宮頸がんは60~70パーセントを占めています。30歳代で増え始め、40、50歳代で最も多くみられますが、20歳代の人や80歳以上の人にもみられます。とりわけ、性交開始が低年齢化するとともに若年者の発症が多くなっているために、平成16年4月の厚生労働省の通達で、子宮頸がん検診の開始年齢を20歳に引き下げました。

死亡数は、激減しています。前がん病変での早期発見、早期治療のケースが増加し、がんになる前に治療がされるようになったことと、がんになったとしても、がんの進み具合を表す臨床進行期で0(ゼロ)期~Ia期に当たる早期がんのうちに、約65パーセントが発見され、ほぼ100パーセント治癒するようになったためです。

しかしながら、発生率は少なくなっていません。子宮頸部腺がんでは、検診で比較的発見されにくく、進行してから発見される場合もあります。放射線治療や化学療法が効きにくいなど、扁平上皮がんと比べると子宮頸部腺がんの予後は、悪い傾向にあります。

ヒトパピローマウイルスの感染が誘因に

直接、発がんと結び付く原因はまだわかっていませんが、いくつかの疑わしい因子はわかっています。以前から、多産婦に多いことが統計学的に証明されているほか、高リスクの因子として、初めての性交年齢の若い人、性行為の相手が複数いる人、喫煙歴のある人などが挙げられています。

近年、注目されている高リスク因子は、性行為によって感染するヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス:HPV)。ほとんどの子宮頸がんで、このウイルスが組織中から検出されるため、がんの発生の引き金となると考えられています。

ヒトパピローマウイルスは、いぼを作るウイルスの一種で、男性性器の分泌物などに含まれています。70種類以上あるタイプの中のいくつかのものが、前がん病変の形成や頸がんの発生に関与。一般に、ウイルスを持った男性との性交渉によって、外陰部、腟、子宮頸部などの細胞に感染します。

外陰がんや腟がんは非常にまれにしか生じないのに対して、子宮頸がんは比較的多く発生します。とはいっても、実際に子宮頸がんになる人は、ヒトパピローマウイルスに感染した人の中の一部にすぎません。

前がん病変が形成されても、軽度の場合は経過観察しているうちに、約70パーセントが自然に消失することも知られています。発がんには、ウイルスに感染した人の体質、すなわち遺伝子の不安定性や免疫なども関係しているようです。

初期の子宮頸がんではほとんどが無症状ですが、子宮がん検診で行う子宮頸部細胞診により発見することができます。

進行した際の自覚症状としては、月経以外の出血である不正性器出血が最も多く、特に性交時に出血しやすくなります。膿(うみ)のような下り物が増えることもあります。下腹部痛、腰痛、下肢痛や血尿、排尿障害、血便、下痢などが現れることもあります。

がんの進行度で異なる治療法

不正性器出血があったら、婦人科で検査を受けるのがよいでしょう。症状がなくても、年に1回程度は子宮がん検診を受けることが最善です。

子宮頸がんの検査では、子宮頸部を綿棒などでこすって、細胞診用の検体を採取します。細胞診で異型細胞が認められた場合には、コルポスコープと呼ぶ膣拡大鏡で5~25倍に拡大して観察しながら、疑わしい部分の組織を組織診用に採取し、病理学的に検査して診断を確定します。

進行がんの場合は肉眼で見ただけでわかりますが、確定のために細胞診と組織診が行われます。さらに、内診、直腸診で腫瘍(しゅよう)の大きさや広がりを調べます。

子宮頸がんの診断が付いた場合は、胸部X線検査、経静脈性尿路造影、膀胱鏡、直腸鏡検査を行い、臨床進行期が決定されます。腹部超音波検査、CT、MRIによって病変の広がりを調べることも、治療法の選択に当たって重要視されます。

子宮頸がんの主な治療法は、手術療法または放射線療法。年齢、全身状態、病変の進行期を考慮して、治療法が選択されます。治療成績は手術、放射線ともほぼ同じですが、日本では手術が可能な進行期までは、手術療法が選ばれる傾向にあります。

早期がんである0期に対しては、子宮頸部だけを円錐(えんすい)形に切り取る円錐切除術を行うことで、術後に妊娠の可能性を残すことができます。また、レーザーによる治療を行うこともあります。レーザー治療では、子宮頸部をほぼ原形のまま残し、術中まったく出血することなく、痛みもないので無麻酔下で行える利点があり、治療成績も良好です。妊娠の希望がない場合は、単純子宮全摘術を行うこともあります。

進行期の中で浸潤が浅いIa期の場合は、単純子宮全摘術が標準的ですが、妊娠を強く希望される人の場合は、円錐切除術のみが行われることがあります。

明らかな浸潤がんのIa2期や、子宮の周囲にがんが広がるII期の場合は、広汎(こうはん)子宮全摘術が一般的です。広汎子宮全摘術では、子宮だけでなく、子宮の周りの組織や腟を広い範囲で切除し、通常は卵巣も切除します。40歳未満の場合は、卵巣を温存することもあります。摘出物の病理診断でリンパ節転移や切除断端にがんがあった場合は、術後に放射線療法を追加します。

がんの浸潤が深く、広い範囲に及んで手術ができないIII~IV期の進行がんの場合や、高齢者、全身状態の悪い人の場合は、手術の負担が大きいため放射線療法を行います。

放射線療法は通常、子宮を中心とした骨盤内の臓器におなかの外側から照射する外部照射と、子宮、腟の内側から細い器具を入れて照射する腔内照射を組み合わせて行われます。外部照射ではリニアックというX線を用い、腔内照射ではラジウムに替わってイリジュウムが使われるようになっています。

さらに近年、新しく有効な抗がん薬の開発が進み、主治療の手術や放射線療法を行う前に、原発病巣の縮小と遠隔転移の制御を目的にして、主治療前補助化学療法(NAC)も行われるようになりました。点滴で薬を投与するのが一般的な投与法ですが、子宮動脈へ動注する方法もあります。

IIb期やIIIa期でも、先に化学療法を行ってがんを小さくしてから、手術することもあります。IIIb~IVa期などの本来は手術ができない進行期のがんも、NACを行った後に、手術ができることもあります。NAC併用後に手術ができた場合、放射線療法単独の場合よりも治療効果が高いことが報告されており、最近ではNACを行うことが標準的になっています。

🇸🇸子宮後屈

通常は前方に傾いている子宮が後方に傾いている状態

子宮後屈とは、通常は前方に傾いている子宮が後方に傾いている状態。子宮の後屈と呼ぶこともあります。

子宮は骨盤のほぼ中央に位置し、通常は前方、すなわち恥骨側に前傾前屈の位置をとっていますが、時として後方に後傾後屈の位置をとる状態が子宮後屈であり、正常女性の約20パーセントに認められるといわれています。

特に障害を伴わない場合は、疾患とは見なしません。かなり以前には病的と考えられて、不妊症や流産、腰痛を起こす原因になるとされ、手術が行われていた時代もありましたが、現在では治療の対象とは考えられていません。

原因には、先天的なものと、子宮内膜症や骨盤内の炎症などの疾患によるものがあります。

症状は、下腹部のだるさ、頻尿、排尿困難など。子宮の位置に問題があっても、特に症状がないことも多く、産婦人科の検査によって指摘され、初めて知るというケースも少なくありません。

子宮内膜症などが原因で、子宮と直腸、あるいは子宮と骨盤腹膜とが癒着し、非可動性の子宮後屈になっている場合には、原因疾患による症状が現れることはあります。

子宮後屈の検査と診断と治療

子宮の位置が後屈であると、妊娠しにくい場合もあるので、不妊の症状があれば婦人科、産婦人科の専門医を受診し、相談するようにします。一般的には、子宮後屈で不妊になることは少なくなっています。

医師の側では、内診や超音波検査により診断します。

特に問題がなければ、治療の必要はありません。後屈は自然に治ったり、妊娠を切っ掛けに治ることもあります。しかし、後屈が子宮内膜症によって生じた場合は、ホルモン療法や手術を行います。ホルモン療法では、ホルモン剤を内服したり、鼻から噴霧することで治療します。手術は子宮内膜症の原因によって癒着がひどくなったり、卵巣がはれた場合に行われますが、根治手術、準根治手術、保存手術の別があります。

また、出産により周辺の靭帯(じんたい)が緩み、子宮が後屈して軽い症状が見られる場合には、靭帯を鍛える運動を行うことで改善を図ります。

2022/08/26

🇸🇩子宮体がん

子宮体部の内膜に発生するがん

子宮体がんとは、子宮体部の粘膜にできる悪性腫瘍(しゅよう)。子宮頸部(けいぶ)に悪性腫瘍ができる子宮頸がんと合わせて、子宮がんと呼ばれていますが、子宮体がんと子宮頸がんの二つは、発生部位はもとより、好発年齢、発生原因、症状が異なるため 、区別して扱う疾患です。

子宮体部は、子宮の奥の赤ちゃんを育てる部分。外側は筋肉に覆われており、内側は子宮内膜という粘膜でできています。その内膜にがんができるのが、子宮体がんです。

主に閉経後の50歳以上の人に好発し、若い人では、不妊症の人や卵巣機能に障害がある人に起こります。

初期の症状としては、何らかの不正出血、下り物がみられます。閉経前では、月経が長引いたり、周期が乱れるという形で不正出血があります。閉経後では、少量の出血が長く続く場合には注意が必要です。

下り物は黄色、褐色から始まり、次第に血性、肉汁様になって、進行すると膿(のう)性になり、悪臭を放つようになります。高齢者では、子宮の入り口が狭くなって詰まってしまい、子宮の中に出血や分泌物が貯留することもあります。

さらに進行すると、子宮体部の内膜に発生したがんは、徐々に子宮体部壁に広がっていきます。広がりが深くなると、骨盤リンパ節や腹部動脈節に転移が起こり、卵巣、卵管、子宮頸部、腹膜へも進展します。さらに、肺、肝臓などの遠隔臓器へも転移します。

一般に、子宮体がんの進行は、子宮頸がんより遅いといわれています。以前は子宮頸がんが子宮がんの大半を占めていましたが、最近では食生活及び生活習慣の欧米化や、高齢化などにより、子宮体がんが増える傾向にあります。今後はさらに増加するものと予測されます。

発生や進行には、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)が影響を与えています。エストロゲンは内膜を増殖させる作用があり、一方、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)は、増殖を抑制する作用があります。更年期には、月経があっても排卵が起こっていないことが多く、排卵後に分泌されるプロゲステロンが十分に出ないため、内膜が過剰に増殖して子宮内膜症になり、さらに、子宮体がんに進展する可能性があります。

子供がいないか少ない人や、不妊、卵巣機能不全、肥満、高脂血症、糖尿病などを抱えている人も、エストロゲンが子宮内膜に働いている時間が長くなるため、子宮体がんのリスクを高めるといわれています。

早期の発見、治療が大切

子宮がんでは、早期発見、早期治療が重要です。子宮体がんは子宮頸がんと同様、初期には自覚症状がない場合が多いので、早期発見のために、年に一度は定期検診を受けましょう。50歳前後に発症が多く、最近は閉経後の子宮体がんが増加していますから、閉経後も検診が必要です。

不正出血は大きな手掛かりで、がんになる前の状態の子宮内膜増殖症の段階でも、不正出血が出ることがあります。症状が出てから検診しても、進行がんとは限らないわけです。逆に、進行がんの段階になっても、不正出血のない人もいますので、やはり定期的な検診が大切なのです。

ふだんから自分の体の健康状態に気を付け、不正出血や下り物の異常、性交時の出血、下腹部痛などいつもと違う兆候があったら、ためらわず婦人科を受診することも大切です。

なお、子宮がんの検査を受けた場合でも、実際には子宮頸がんの検査だけを行っている場合もありますから、注意して確認してください。子宮体がんは子宮の奥にできるので、頸がんの検査では発見できません。

検査はまず、細胞診でチェックします。細いチューブを腟から子宮の中に入れて子宮内膜の細胞を吸引採取したり、挿入したブラシでかき取った細胞を、調べます。多少痛みがあります。

細胞診で疑わしい兆候があった場合、あるいは子宮体がんの疑いが強い場合は、最初から組織診が行われることもあります。キューレットと呼ばれる細い金属棒の先に小さな爪のある道具で、子宮体部の組織をかき取り、顕微鏡で検査する方法が中心になっています。少し痛みがあり、出血が数日続くこともあります。

子宮体がんの治療では、手術、放射線、抗がん剤に加え、ホルモン療法が有効な場合もあります。基本は、やはり手術です。

主な手術には、単純子宮全摘術と附属器の切除、広汎子宮全摘術があります。前者の手術は、腹部を切開して子宮と卵巣、卵管を切除する手術です。進行の程度により、周囲のリンパ節の切除も加えます。後者の手術は、子宮と卵巣、卵管、腟、さらに子宮周囲の組織を広く切除する手術で、周囲のリンパ節も一緒に切除します。

手術によって、リンパ節転移が発見されたり、がんが子宮の壁に深く食い込んでいることがわかった場合に、手術後に放射線療法を行うこともあります。抗がん剤を投与して腫瘍を小さくしてから、手術を行うこともあります。

手術が難しい場合は、抗がん剤や放射線による治療を行うことになります。抗がん剤の場合は副作用を抑える薬などが併用され、放射線治療の場合も重い放射線障害が起こらない範囲で治療が行われています。それでも、ある程度の副作用があることは、やむを得ないところです。

また、子宮体がんは女性ホルモンと関係が深いので、ホルモン療法が有効なことがあり、注目されています。基本的には、プロゲステロン(黄体ホルモン)の働きをする薬を飲みます。

予防の基本は生活習慣と食生活の改善

子宮がんの予防の基本は、体や局部を清潔に保つことです。また、日常の生活習慣や食生活と子宮がんは、密接な関係にあるといわれています。

改善できる生活習慣では禁煙があり、お酒を飲みすぎない、バランスのとれた食事をし、決して食べすぎず、適切な運動と休養をとり、ストレスをためない工夫を心掛けることです。

特に、食べ物では、高塩分、高コレステ ロール食は避け、繊維質、緑黄色野菜、魚類や、がんを抑える作用があるといわれる大豆食品をたくさん摂取するようにします。

また、がんの発生要因とされている活性酸素を抑える物質を多く含む食品を取ることも、有効ながん予防策。活性酸素を消去する物質としては、体内で作り出される抗酸化酵素と、食事等から摂取する抗酸化力のあるビタミンA(β―カロチン)、C、E、B群やポリフェノール、カロ チノイド、大豆イソフラボンなどがあります。

🇸🇩糸球体腎炎

血液を、ろ過する腎臓の糸球体に起こる炎症

糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)とは、尿を作るために血液を、ろ過する糸球体(しきゅうたい)に、出血性の炎症が起きる疾患です。腎炎、腎臓炎ともいいます。

免疫の異常が関係して起こると考えられており、左右の腎臓とも平等に侵されます。疾患が進行すると、毛細血管の塊である糸球体だけではなく、尿細管にまで障害が広がります。腎臓病のうちで最も多い疾患で、一般に1年以内のものを急性糸球体腎炎といい、それ以上長く続くものを慢性糸球体腎炎といいます。

急性糸球体腎炎の症状と早期発見法

急性糸球体腎炎は4~10歳の子供に多い疾患で、加齢により発生は減少します。子供では完全に治ることが多いのに対して、成人発症者の一部では慢性糸球体腎炎に移行するものもみられますので、慢性化しないよう十分療養するべきです。

細菌、特に溶連菌による扁桃(へんとう)炎、咽頭(いんとう)炎などの上気道感染後、あるいは風邪などのウイルスの感染後、1~3週間たったころ発症する場合がほとんどです。

腎臓の糸球体に炎症が起こるのは、これらの細菌やウイルスが関係する抗原抗体反応によって生じた免疫複合体(抗原抗体複合物)と呼ばれる物質が、血流に運ばれて糸球体に付着するためと考えられています。

通常では、この免疫複合体は糸球体にあるメサンギウム細胞が処理し、発症には至りません。あまりに量が多い場合、糸球体に沈着して炎症を引き起こします。炎症が起こると、糸球体の細胞が異常に増殖したり、血液中の白血球の成分が糸球体の中に入り込んで、糸球体の働きを阻害するとされています。

急性糸球体腎炎の症状として、血尿と蛋白(たんぱく)尿が必ずみられます。ただ、血尿は赤ブドウ酒かコーラ様になっている場合もありますが、ほとんどは肉眼ではわからない血尿であり、顕微鏡で検査をして初めて確認されるほうが多いものです。

ほかに、顔や手のむくみ、血圧上昇、食欲低下、だるさ、尿量減少などがみられます。血圧上昇は病院で測定してもらって、初めて指摘されるのが普通ですが、子供の場合には、高血圧によってけいれん発作が起こる場合もあります。

慢性糸球体腎炎の症状と早期発見法

慢性糸球体腎炎は、腎臓病の中で最も多い疾患。糸球体を中心にした慢性の炎症がみられるもので、さまざまな原因で起こる腎炎が含まれているために、近年では、疾患群(症候群)として考えられるようになっています。

いずれにしても、蛋白尿や血尿とそれに伴う症状が1年以上に渡って、持続する状態を、慢性糸球体腎炎と呼びます。ただし、糸球体腎炎以外で、異常尿所見や高血圧を呈する疾患は除きます。

この慢性糸球体腎炎では、何ら前兆や誘因もなく発症してくることが多く、また進行して腎不全となるまでは、自覚症状のないことが多いのです。そのため、定期健診の時などに検尿で見付かることがほとんどです。

まぶたが腫(は)れぽったくなるほか、疲れやすい、食欲不振、動悸(どうき)、手足のしびれ、目がチカチカする、吐き気、嘔吐(おうと)といった症状が出る場合もあります。

この慢性糸球体腎炎は、腎臓の組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる腎生検によって、4種類に分けることができます。蛋白尿と血尿が出るという症状は共通しているので、あくまで腎生検を行わないと区別できません。

 腎炎の約4割を占め、日本人の腎臓病で最も多いのがIgA腎症です。このほか、巣状糸球体腎炎、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎があります。

IgA腎症では、発症初期から肉眼的血尿に気付くことが多いのが特徴的です。発症は10歳代後半から30歳代前半に多く、やや男性優位です。顕微鏡で見ると、IgA(免疫グロブリンA)という抗体が、抗原と結合して免疫複合体となり、糸球体のメサンギウムという部位に沈着しています。

巣状糸球体腎炎では、糸球体の基底膜という部位に、微小な変化が生じています。膜性腎症では、糸球体の基底膜が肥厚しています。膜性増殖性糸球体腎炎では、糸球体の基底膜の肥厚に加えて、細胞の数が増える変化が生じています。

急性糸球体腎炎の治療と療養上の注意

急性糸球体腎炎の治療では、安静と食事療法が主体となります。特に初期の安静は重要なので、入院治療が原則。食事は蛋白質、塩分、水分の制限が、疾患の程度や時期に応じて行われます。

蛋白質と塩分を制限するのは、腎臓の働きが低下すると、蛋白質から生じる窒素化合物や食塩の成分であるナトリウムの排出がスムーズにいかなくなるためです。蛋白質を減らす分、糖質や脂質でカロリーを十分にとります。むくみのある時や、1日の尿量400ml以下と尿が少ない場合、あるいは無尿の場合は、1日に摂取する水分を制限します。症状の改善とともに運動量を増やし、食事の内容も変えます。

糸球体腎炎そのものを、根本的に治す特効薬というものはありません。ただし、急性糸球体腎炎の切っ掛けとなった溶連菌などの感染症の治療には、抗生物質が使われます。ほかに、炎症を鎮めるために抗炎症剤、血尿がひどい時には止血剤、乏尿やむくみがひどい時には利尿剤、高血圧に対しては降圧剤が使われます。

入院して適切な治療を受ければ、むくみや高血圧は、通常1週間以内によくなりますが、疾患の程度が重ければ長引くことになります。血尿、蛋白尿なども、2~3カ月で消えていくことが多く、この時点で通学あるいは軽作業が許されるようになります。

退院後は、疾患の回復と合わせて医師と相談の上、無理のない生活を送るようにコントロールしていくことになります。一般的にいって、子供の場合には、体育の授業や水泳、遠足などのへの参加は控えましょう。大人の場合は、周囲の理解を求めて夜勤や残業などを避け、最低3年程度、激しいスポーツや肉体労働を見合わせる必要があります。女性の場合には、2年ほど妊娠を避けたほうがよいでしょう。

慢性糸球体腎炎の治療と療養上の注意

慢性糸球体腎炎で最大の問題となるのは、病態が進行するにつれて、次第に腎機能が低下して腎不全となり、人工透析が必要となる例があることです。そのため、病態の進行を阻止することが、治療の最大の目標になります。

現在のところ、進行を確実に止めるという方法は確立していませんが、病態に合わせて、次のような薬物が用いられています。

ネフローゼ症候群の場合と同様、尿蛋白量の多い場合、抗炎症作用がある副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)が用いられることがあります。腎炎の始まりが免疫反応によると考えられているので、免疫抑制剤が用いられることもあります。

2つの薬を併用して治療に当たることもありますが、この2剤は副作用も強いので、医師の指導のもと、血液検査など定期的なチェックを受けながらの服用となります。「症状が軽くなった」と勝手に判断して、服用をやめることは危険です。

糸球体内で血液が凝固することが糸球体腎炎の進行を速めると考えられているため、血液凝固の主役である血小板の働きを弱める薬も、よく用いられています。

高血圧も腎炎の進行を速めることが知られていて、高血圧を合併している場合には、降圧剤による治療が行われます。近年、降圧剤の中には、蛋白尿を減少させ、さらに腎機能の低下を抑制するものの存在が確認され、そのために高血圧がなくても治療に用いられるようになってきました。また、むくみのあるような場合には、利尿剤も用いられます。

食事療法も、腎機能の程度、症状の有無に応じて行われます。基本的には、食塩と蛋白質の摂取量に注意することです。蛋白質は1日、体重1kg当たり1g以下に抑えられます。塩分は軽症の場合、多少控える程度で大丈夫ですが、疾患が進行している状態では、1日に5~8g程度にされます。ほかに、水分量とエネルギー摂取量が過不足にならないようにされます。

慢性糸球体腎炎は経過が長引く疾患で、一部のものは進行性に悪化しますので、生活上の注意は重要です。まずは、風邪や下痢などを起こすと、数日後に肉眼でわかる血尿や蛋白尿が出たり、体がむくんだりすることがあるので、こうした疾患にかからないように注意しましょう。

体力と集中力を必要とする仕事や勉強などは、避けましょう。根を詰めてこなさなくてはならぬことは、腎臓に負担をかけます。なるべくリラックスして過ごせるようにして、夕方から夜にかけても、安静に過ごすことが大切です。

病状にもよりますが、一般に体操や散歩など軽い運動は大丈夫です。ただし、激しいスポーツや、体を冷やす恐れのある運動は避けましょう。

🇸🇩子宮膣部びらん

病気ではなく、一種の生理的な変化

子宮腟(ちつ)部びらんとは、子宮の腟に面した部分の粘膜が赤く変化して、ただれているように見える状態。びらん、すなわち、ただれが子宮膣部に起きているわけではなく、病気ではありません。一種の生理的変化といえるものです。 

びらんが起きる原因には、女性ホルモンであるエストロゲンが深く関わっていると見なされています。

月経があると、エストロゲンが大量に分泌され、皮膚、外陰部、膣などと同じ扁平(へんぺい)上皮で覆われている子宮膣部が膨らむため、子宮の内側にあって、腺(せん)上皮(円柱上皮)で覆われている子宮頸管(けいかん)が外側にめくれてきます。

この子宮頸管の部分を覆う腺上皮は、粘液を分泌する一層の細胞から成り立っていて、毛細血管が際立っているために、赤くただれているように見えるのです。とりわけ若い女性では、エストロゲンが十分に分泌されているために、ホルモンに対する感受性の強い腺細胞が増殖し、頸管の部分がより外側にどんどん広がってきます。びらんのほとんどは、このようにしてできるのですから、びらんは病的というより生理的な変化といえるわけです。

月経がある女性では、びらん面の広さの程度が違っても、60~70パーセントに子宮膣部びらんがあるといわれています。更年期以降に女性ホルモンが減少すると、この赤く見えるところは次第に頸管内に退縮していきますので、閉経後の女性にはあまり見られません。

症状は下り物の増加、不正出血、接触出血

びらんを持っていても、ほとんどの女性が無症状で過ごします。しかし、びらんの部分は細菌や外部からの刺激に対して抵抗力が弱く、炎症のために下り物が増えたり、接触出血といって、性行為やタンポンなどによって刺激を受けると、出血することがあります。また、子宮頸管炎などの感染症が起こりやすくなります。

特にひどい症状がなければ、治療の必要はありません。ただ、びらんが大きい場合、下り物が多い場合や、不正出血、性交後の出血を何回も繰り返す場合は、治療をするほうがいいことなります。

まず、びらんに対する治療は別として、膣の洗浄や、抗生物質の膣錠を使うことによって炎症をとると、症状は軽くなります。この治療によっても症状が改善しない場合は、凍結療法やレーザー療法などでびらんを取り去り、その後に健康な上皮が形成されるのを待ちます。

なお、子宮頸がんの初期には、子宮腟部の粘膜にびらんの時と同じような変化が見られます。そのため、子宮腟部びらんのある場合は、がんの検査を行うのが一般的です。

🇪🇬子宮内膜炎

細菌の感染で炎症が起きる疾患

子宮内膜炎とは、子宮に何らかの原因で細菌が入り、子宮内腔(ないくう)を覆う子宮内膜に炎症を起こす疾患。子宮内膜症とは異なる疾患です。

急性子宮内膜炎と慢性子宮内膜炎とに分類できます。急性子宮内膜炎は、子宮内膜の機能層に感染が起こるもので、月経の際に機能層がはがれることにより、侵入した細菌も体外に排出されて、自然に治ることもあります。

慢性子宮内膜炎は、子宮内膜の基底層まで感染が波及しているもので、月経の際に基底層が排出されないため、感染は慢性化します。基底層に残る細菌は、再生されてくる機能層で再度、感染します。

多くの子宮内膜炎は、妊娠や出産、流産、中絶後の子宮頸管(けいかん)が開いている時に、細菌が上昇しやすくなって発症します。

また、女性ホルモンの分泌が減る更年期や老年期には、女性ホルモンの作用が弱まるために細菌が入りやすくなって、炎症を起こすことがあります。この老年期の子宮内膜炎では、慢性に経過し、子宮頸管の狭窄(きょうさく)や閉鎖を伴うと、子宮瘤(りゅう)膿腫(のうしゅ)を形成することもあります。

原因となる細菌は、大腸菌、腸球菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、結核菌、淋(りん)菌などで、性感染症として増加しているクラミジアなどの病原体に感染して、炎症を起こすことも増加中。

腟(ちつ)炎や子宮頸管炎から、子宮内膜炎に移行することもあります。女性にとって腟や頸管がヒリヒリ痛かったり、かゆいというのは珍しいことではありませんが、子宮の中まで菌が入り、炎症が拡大する可能性があります。

細菌の感染経路は、膣からの上行性感染によるものが大部分で、まれにリンパ行性、血行性、下行性感染も認められます。下行性感染は腹腔内から卵管を介して、主に結核菌に感染するもので、卵管結核から子宮内膜へ波及します。この結核性の子宮内膜炎では、慢性に経過します。

さらに、医療機関において、子宮内膜生検、子宮卵管造影、卵管通水術などの子宮内操作時に、細菌が侵入することもあります。

症状としては、下腹部の不快感、下腹部痛、微熱などの症状が多いのですが、悪臭のある膿性の下り物、褐色の下り物、不正出血、排便痛、排尿痛などもみられることがあります。 一般に、全身的な症状はあまりみられません。

医師による治療と日常生活での注意点

下腹部痛や異常な下り物があれば、産婦人科を受診します。炎症後に不妊症になる恐れがありますので、完全に治療する必要があるのです。

医師の内診により、子宮に圧痛が認められます。子宮からの分泌物の培養により、炎症を起こしている起炎菌が特定された場合には、その菌に感受性のある抗生物質が使用されます。起炎菌が特定されるまでの間は、通常、効果の範囲が広い抗生物質を使用します。また、消炎剤、解熱剤を併用することもあります。

流産後や出産後では、子宮収縮薬を併用することで、子宮内腔に残った組織の排出を促すこともあります。子宮瘤膿腫を形成している場合には、頸管を開いて、膿(うみ)を排出する必要が生じます。

病気が進行して、卵管、卵巣、腹膜などの周囲の臓器にも影響が及ぶ時は、入院治療や手術が必要になる場合があります。

生活上の注意点として、子宮が炎症を起こしている期間は、下腹部を温めるのは避け、入浴はシャワーのみとします。性行為もパートナーの理解を得て、控えます。特に、流産後、人工妊娠中絶後には、十分に休養して、出血中は性交を控えることが、予防として大切です。ふだんから、不潔な性交を避けることも大切。

🇪🇬子宮内膜症

増えている3大子宮トラブルの1つ

子宮内膜症とは、子宮内膜と同じ組織細胞が子宮内腔(ないくう)以外の部位に発生し、女性ホルモンのエストロゲンの刺激を受けて増殖する疾患です。

子宮内膜症の大部分は骨盤内に位置する、子宮筋肉の中、子宮の外側、子宮の外の卵巣、卵管、S字結腸、骨盤腹膜、直腸、膀胱(ぼうこう)に発生し、その病変部は月経の際に、子宮内膜と同じようにはがれて出血します。

生殖年齢にある女性の10~15パーセントに、子宮内膜症が存在するといわれていますが、特に最近増えています。子宮筋腫(きんしゅ)、子宮頸がんとともに、3大子宮トラブルの1つといえます。

子宮内膜症が増えている理由としては、腹腔鏡検査が進んで診断能力が向上したため病気が見付かっていること、初婚年齢と初産年齢が上がっていること、出産回数が減少していることなどが指摘されています。

なぜ、子宮の内面の壁にあるべき組織が、子宮筋肉や子宮の外側、子宮の外など別のところに散らばって存在するのか。原因はよくわかっていませんが、子宮内膜移植説と体腔上皮化生説の2つが有力です。

子宮内膜移植説は、卵管を経て逆流した月経血中にある子宮内膜細胞が腹腔内に到達し、腹腔面に生着するという説です。一方、体腔上皮化生説は、腹膜内の組織細胞がエストロゲンや月経血の刺激を受け、子宮内膜の組織細胞のように変化して、子宮内膜症が発生するというものです。

症状の特徴は疼痛と不妊

主な症状は、月経困難症と同じ疼痛(とうつう)で、月経時の腰痛、下腹部痛、下痢、または便秘などを起こします。月経時以外の排卵の時や、排便時、性交時に、痛みを感じることも多くみられます。

また、子宮内膜症になると、不妊になる率が高いことがよく知られています。卵管や卵巣の周囲に病変が発生した場合には、癒着により卵管が狭くなったり、閉鎖したりします。それにより卵管の可動性が失われて、卵巣から排卵された卵子の卵管内に取り入れが損なわれるため、不妊症になることがしばしばあります。

卵巣内で病巣が増殖すると、毎月、卵巣にチョコレート状になった古い血液がたまって大きく膨れ、いわゆるチョコレート嚢腫(のうしゅ)になります。この嚢腫は大きくなると破裂することがあり、突然の激しい下腹部痛や吐き気、嘔吐(おうと)、時に発熱などがみられることがあります。

子宮内膜症は徐々に進行するとされていますが、長年に渡って変化しない場合もあります。また、妊娠、出産を契機に治ることもあります。閉経後は卵巣機能がなくなり低エストロゲン状態になるので、病巣は自然に委縮し、症状もなくなります。

検査と診断と治療の方法

激しい月経痛があったら、子宮内膜症を疑ってみるべきです。妊娠を望んでいるのに、なかなか妊娠しないことも一つのサイン。

医師による診断は、内診、超音波検査、MRI、腹腔鏡検査などにより行われます。

治療には薬物療法と手術療法がありますが、どちらを選択するかは、症状の種類、程度、進行度、年齢、子供をつくる希望の有無などを総合的に考慮して決めます。

薬物療法としては、月経時だけ鎮痛薬を服用する対症療法があります。軽い子宮内膜症は、ホルモン剤を内服したり、鼻から噴霧することで治療します。

また、経口避妊薬による偽(ぎ)妊娠療法、男性ホルモン誘導体のダナゾールやGnRHアゴニストによる偽閉経療法があります。偽妊娠療法は疑似的に妊娠したような状態にするもので、偽閉経療法は疑似的に閉経したような状態にするものです。ダナゾール、GnRHアゴニストの両薬はその作用は異なりますが、内膜の増殖を抑える働きがあり、一般に6カ月間、服用します。

手術療法は、癒着がひどくなったり、卵巣がはれた場合に行われますが、根治手術、準根治手術、保存手術の別があります。

根治手術は、子宮摘出と同時に、両側の付属器である卵巣、卵管を摘出する手術です。子供を希望せず、薬物療法が無効な重症例が対象となります。

準根治手術は、子宮全摘と病巣の摘出を行う手術です。正常な卵巣を可能な限り残すことによって、術後の肩凝り、のぼせ、発汗などの卵巣機能欠落症状が防止できます。しかし、子宮内膜症の再発を完全に否定することはできません。

保存手術は、病巣だけを摘出して子宮や卵巣を温存し、妊娠する能力を残すために行う手術で、開腹手術と腹腔鏡で行う手術とに分けられます。開腹手術では、病巣の摘出、形成、癒着の剥離(はくり)、子宮位置の矯正などが行われます。腹腔鏡下手術では、病巣の焼灼(しょうしゃく)、癒着の剥離、チョコレート嚢腫の摘出などが行われます。

🇪🇬耳硬化症

耳小骨の中で最も深部にある、あぶみ骨が動かなくなって難聴を来す疾患

耳(じ)硬化症とは、鼓膜の裏側の中耳にある3個の小さな骨である耳小骨の中で、最も深部にあって最も小さい、あぶみ骨が動きにくくなる疾患。

3個の耳小骨には鼓膜の振動を内耳に伝える役割があり、内耳へ通じる中耳の窓にはまり込んでいる、あぶみ骨の底板と周囲の骨が硬化して、あぶみ骨の可動性が損なわれると、伝音難聴を起こします。進行すると、感音難聴や混合難聴を起こします。

聴力が低下した状態である難聴のうち、音を聴神経へ伝える外耳、鼓膜、中耳に障害が生じたために起こるのが伝音難聴、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こるのが感音難聴、伝音難聴と感音難聴の両方の特徴を併せ持っているのが混合難聴です。

耳硬化症を発症する原因はいまだに不明ですが、遺伝的要因があり、東洋人や黒人より白人に多い疾患です。女性に多くみられ、妊娠や出産を切っ掛けに難聴が悪化することもあるため、ホルモンの影響も考えられています。

日本人では、難聴自覚年齢が30歳ころ、医療機関を受診し診断が付く年齢が40歳ころにピークがあります。難聴は、両側の耳に起こることが多く、片側だけの耳に起こることもあります。両側の耳に起こったケースでは、難聴の進行程度が左右で異なることもあります。ある難聴のレベルに達すると、日常生活にも大きな支障を来すことになります。

約7割では、耳鳴りを伴い、約3割では、耳がふさがったように感じる耳閉塞(へいそく)感を伴い、約1割では、めまいを経験しています。

思春期以降に発症する進行性伝音難聴で、鼓膜が正常であれば、耳硬化症の可能性が高くなります。しかし、日本人では、全耳疾患の1パーセント程度と発症率が低いことから、耳硬化症という疾患名の知名度も低く、正確な診断がなされずに、補聴器装用などで対応されていることも少なくありません。

耳硬化症はあぶみ骨の手術により高い率で聴力の改善が得られる一方で、内耳障害によって聴覚を喪失する可能性もあるので、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診します。

耳硬化症の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、症状と問診、聴力検査で容易に判断できます。

聴力検査を行うと、気導聴力が低下しており、骨導聴力が正常かやや低下した程度の伝音難聴、または混合難聴があります。ただし、病変が内耳にまで波及すると、感音難聴となります。

そのほか、鼓膜の動きの程度を調べるティンパノメトリー検査や、側頭骨CT(コンピューター断層撮影)検査を行うこともあります。ティンパノメトリー検査では、あぶみ骨筋反射の消失などの特有なパターンを示します。側頭骨CT(コンピュータ断層撮影)検査では、耳硬化症の病変はあまりはっきりしないことが多いものの、ほかの耳小骨の固着や発育不全が原因の難聴を確認できます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、通常、あぶみ骨切除術か、あぶみ骨小開窓術という手術を行います。どちらの手術も、局所麻酔で行えますが、手術後、数日間はめまいが起こることがあるので、短期間の入院、安静が必要となります。

手術後10日目ごろから聴力が徐々に回復し、耳鳴りも消失することが多いようです。ただし、術後数カ月間、舌の味覚異常が続くこともあります。

手術を望まない場合は、補聴器の装用で聴力を補うこともできます。

内耳障害によって聴覚を喪失して、聾(ろう)になる可能性がある場合は、セラミクス人工耳小骨を埋め込む手術を行います。埋め込んだ人工耳小骨は、一生使えるので取り換える必要はありません。

🇩🇿耳垢栓塞

耳垢が塊になって、耳の穴をふさいだ状態

耳垢栓塞(じこうせんそく)とは、耳垢(みみあか)が塊になって、耳の穴である外耳道をふさいだ状態。

耳垢を長く取らないでおくと、耳の穴である外耳道をふさいでしまうことがありますし、水泳をしたり、頭を洗ったりして、耳垢が水分を吸うと膨れ上がってふさぐこともあります。

症状としては、違和感を覚えることもありますが、無症状であることがほとんどです。完全に耳の穴がふさがれてしまうと、その側の耳に詰まったり、こもったりする感じが生じる耳閉感や、軽度から中等度の難聴が起こり、耳鳴りも起こります。

ほうっておくと、その刺激で耳の穴の皮膚が炎症を起こし、外耳道炎を合併し、痛みが出てきます。

 耳掃除や入浴後に突然、症状が出た場合は耳垢栓塞が疑われますので、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し耳垢を除去してもらうとよいでしょう。

また、耳垢栓塞のできやすい体質の人は、定期的に耳鼻咽喉科を受診し、耳垢がたまらないよう掃除をしてもらうとよいでしょう。

耳垢栓塞の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、耳の中の視診により耳垢栓塞の状態を調べます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、ピンセットや耳垢用の鉗子(かんし)、吸引管で、耳垢を取り除きます。

カチカチに固まっているものに対しては、重曹とグリセリン水の合剤である耳垢水を1日何回か、あるいは数日間、耳に流し込んで、硬くなった耳垢を軟らかくしてから、外耳孔から水で洗い流し出すか、ピンセットや耳垢用の鉗子、吸引管で少しずつ取り除きます。

跡に皮膚のびらんなどが残ることがあるので、そこには抗生物質入りの軟こうを塗ります。

🇱🇾自己免疫性溶血性貧血

赤血球に結合する自己抗体ができて、赤血球の寿命が著しく短縮し、貧血を来す疾患

自己免疫性溶血性貧血とは、自身の赤血球膜上の抗原に結合する自己抗体ができて、赤血球が異常に早く破壊されて起こる貧血。

自己抗体は自分の体の成分に対する抗体で、本来は細菌などから体を守るために抗体は作られ、自分の体に対しては作られませんが、自己免疫疾患と呼ばれる一連の疾患では、自己抗体が出現し赤血球をまるで異物であるかのように攻撃します。

赤血球に自己抗体が結合し、補体と共同して血管内で赤血球を破壊するものと、自己抗体や補体を介して主に脾臓(ひぞう)で破壊されるものがあります。

この自己抗体による赤血球の破壊は、突然起こることもあれば、ゆっくりと進行することもあります。人によっては、このような破壊がしばらくすると止まることがあります。また、赤血球の破壊が止まらず、慢性化する人もいます。

自己免疫性溶血性貧血には、いろいろな病型があり、原因もさまざまです。主な病型は2種類あり、37度の正常体温付近で抗体の結合が強いものを温式自己免疫性溶血性貧血、正常体温以下の特に4度で抗体の結合が強いものを冷式自己免疫性溶血性貧血と呼びます。

自己免疫性溶血性貧血の発症者は全国で1300~1700人を数え、1年間に数百人程度の新たな発症者が発生していると推定されています。このうち、温式自己免疫性溶血性貧血の発症者が9割を占め、冷式自己免疫性溶血性貧血の発症者は1割です。

子供から高齢者までの幅広い年齢で、発症します。温式自己免疫性溶血性貧血は、小児期に1つの小さなピークがあるほか、10~30歳の若年層、50歳以後に増加し70歳代がピークの老年層に多くみられます。若年層では女性が優位で、老年層では男女差は認められません。

原因は自分の赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体ができることによるのですが、なぜ抗原抗体反応が起こるのかはまだ明らかではありません。膠原(こうげん)病などの自己免疫疾患の患者や、リンパ腫(しゅ)などの悪性腫瘍(しゅよう)の患者で、この自己免疫性溶血性貧血がみられることがあります。また、マイコプラズマ肺炎の患者にも、冷式自己免疫性溶血性貧血がみられることがあります。

疾患の発症に、遺伝性はありません。

特に赤血球の破壊が軽度で緩やかに進む場合は、症状がみられないことがあります。それ以外では、主な症状は貧血によるもので、だるさ、動悸(どうき)、息切れ、めまい、頭痛、顔面蒼白などが現れます。

赤血球の破壊が重度な場合や急速な場合は、血液の中にヘモグロビン(血色素)の分解産物であるビリルビンがたまるため、白目の部分や肌が黄色く見える軽い黄疸(おうだん)がみられることもあり、腹部に不快感や膨満感を覚えたりします。脾臓がはれたり、濃い色を示すヘモグロビン尿がみられることもあります。慢性に経過すると胆石症を合併することも知られています。

冷式自己免疫性溶血性貧血では、手や足が冷たくなったり、青みがかったりすることがあります。冷式自己免疫性溶血性貧血のうちのまれなタイプである発作性寒冷血色素尿症では、気温の低下、冷水の飲用や洗顔・手洗いなど、寒気にさらされる部分が小さくても赤血球が破壊されることがあり、背中や脚に激しい痛みが生じたり、頭痛、嘔吐(おうと)、下痢がみられることもあります。暗褐色を示すヘモグロビン尿がみられることもあります。

原因が別の疾患によるものであれば、リンパ節のはれや圧痛、発熱など、原因になっている基礎疾患の症状が主に現れることがあります。

自己免疫性溶血性貧血の検査と診断と治療

小児科、内科、血液内科などの医師による診断では、 血液検査を行って、貧血であることを確認し、自己免疫反応の原因を特定します。

血液検査で未熟な赤血球(網状赤血球)の数が増加していれば、赤血球の破壊が進んでいることが疑われます。あるいは、血液検査から、ビリルビンが増加し、ハプトグロビンという蛋白(たんぱく)質が減少していることがわかる場合もあります。

原因として自己免疫性溶血性貧血の診断が確定するのは、血液検査で特定の抗体の量が多いことが確認された場合で、このような抗体は、赤血球に付着している抗体、または血液の液体成分に含まれる抗体のいずれかです。赤血球を破壊する自己免疫反応の原因を突き止めるため、そのほかの検査を行うこともあります。

小児科、内科、血液内科などの医師による治療では、副腎(ふくじん)皮質ステロイドホルモン薬の服用が有効です。最初に高用量の服用から始め、数週間ないし数カ月かけて徐々に減量していきます。

赤血球を破壊している臓器である脾臓の手術による摘出や、免疫抑制薬の服用も補助的な手段として行われます。赤血球の破壊が激しく貧血が強い場合は、輸血が必要になる時もありますが、輸血は貧血の原因を治療するものではなく、一時的な対症療法にすぎません。

冷式自己免疫性溶血性貧血では、寒さを避け保温に努めることが重要な治療法となります。保温に配慮した服装や寝具を利用するように気を付け、室温に注意し、手足や顔の露出部分が寒気にさらされないように注意を払います。時に免疫抑制薬が有用なこともあります。

また、別の疾患に合併して起きている時は、原因になっている基礎疾患の治療によりよくなることがあります。

症状が軽い場合や赤血球の破壊速度が遅くなっている場合は、自然経過で治癒することがあります。多くの症例は、中~長期間の薬物治療が必要となります。治療によって疾患の活動性が抑えられれば、正常な日常生活が送れます。

なお、ほかの自己免疫疾患やリンパ腫などの疾患を合併していない温式自己免疫性溶血性貧血の場合は、診断から5年後の生存率は約80%、10年後は約70%です。しかし、高齢者では予後不良です。

🇱🇾脂質異常症

血液の中を流れる脂質成分が異常な状態が継続する疾患

脂質異常症とは、血液の中を流れる脂質成分である総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、中性脂肪(トリグリセライド)が高く、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い状態が継続する疾患。2007年以前は、高脂血症と呼ばれていました。

動脈硬化症などの危険因子の一つです。脂質異常症になると、血液の粘度が高まり、スムーズに流れにくくなります。

通常、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上、中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl以下を異常とします。

血液の中を流れる脂質成分であるコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が増加する状態を、高脂血症といいます。しかしながら、脂質の一つであるHDLコレステロール(善玉コレステロール)については高値であることが望ましく、逆に低値であると低HDLコレステロール血症と診断され、動脈硬化などの危険因子となります。

そのため、日本動脈硬化学会は2007年から、高脂血症から脂質異常症へ名称を変更しました。ただし、高脂血症という呼称を排除するものではありません。

血液の中には、コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)のほか、リン脂質、遊離脂肪酸といった脂質成分が流れています。コレステロールは細胞膜やホルモンの材料となり、中性脂肪はエネルギーの貯蔵庫などとなり、体の機能を保持するために大切な働きを持っています。これらの脂質は肝臓で作られたり、食事から体に摂取され、血液中の脂質成分の量は保たれ調整されています。

脂質異常症では、このような調整機能が低下したり、食事からの摂取量が多量になっている状態、あるいは、HDLコレステロール(善玉コレステロール)については低い状態が継続します。

脂質異常症は放置しておくと、血管の動脈硬化が徐々に進行していくものの、初期の段階では体の自覚症状は全くありません。しかし、最終的には虚血性疾患である心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などの深刻な疾患を引き起こす要因となります。

脂質異常症の種類

脂質異常症は、根本要因によって家族性脂質異常症(原発性脂質異常症)、二次性脂質異常症(続発性脂質異常症)、生活習慣に起因する脂質異常症の3つに分類されます。

また、医師の診断により異常値を示す脂質の種類によって、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症) にも分類されます。一人の発症者が複数のタイプを併せ持っていることもあります。

家族性脂質異常症(原発性脂質異常症)は、遺伝によって発症するもので、遺伝子が同定されているもの、されていないものがあります。

その一つである家族性高コレステロール血症は、遺伝が強く関係しており、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を受容するLDL受容体が生まれ付き少ないために発症し、日本人の500人に1人程度がこのタイプであることがわかっています。生活習慣とは関係なく発症し、狭心症や心筋梗塞を起こす危険が非常に高く、治療は困難です。

そのほかにも、遺伝によってコレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)が高くなる家族性III型脂質異常症、家族性複合型脂質異常症もあり、生活習慣とは関係なく発症しやすいと考えられています。遺伝性の低HDLコレステロール血症もありますが、極めてまれです。

二次性脂質異常症(続発性脂質異常症)は、ほかの疾患や薬が原因となって起こるタイプの脂質異常症。原因となっている疾患を治療したり、可能ならば薬を変えたりやめたりすることで、脂質異常症を改善することができます。

原因となる疾患には、甲状腺(せん)機能低下症や肝臓病、腎臓(じんぞう)病、糖尿病などがあり、原因となる薬には、ステロイドホルモン剤や利尿薬、避妊薬などがあります。

生活習慣に起因する脂質異常症は、食生活が主な原因となって起こるタイプの脂質異常症。脂っこいものや甘いものを多く取ると、血液の中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が増加してしまいます。食生活のほかにも、運動不足、喫煙、飲酒、ストレスなどの要素があります。

高コレステロール血症は、血液中の総コレステロール値が220mg/dl以上と高いタイプの脂質異常症。食生活などが原因になって多くの人が発症していると見なされますが、最近ではLDLコレステロール(悪玉コレステロール)のほうが明らかに虚血性疾患リスクとの相関度が高いため、総コレステロール値の重要度は低くなっています。

高LDLコレステロール血症は、動脈硬化に関係が深いLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高いタイプの脂質異常症。血液中に含まれる脂質成分であるLDL(低比重リポ蛋白〔たんぱく〕)が血液中に140mg/dl以上と多く存在する状態で、LDLは血管壁に取り込まれて蓄積し動脈硬化を起こすため、虚血性疾患のリスクを非常に高めるとされています。

低HDLコレステロール血症は、動脈硬化を防ぐ働きを持つHDLコレステロール(善玉コレステロール)が低いタイプの脂質異常症。血液中に含まれる脂質成分であるHDL(高比重リポ蛋白)が40mg/dl未満と少ない状態で、血管や組織に蓄積したコレステロールを引き抜いて運ぶHDLが少ないため、特に女性の虚血性疾患のリスクを高めるとされています。

高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)は、動脈硬化と関係が深く、急性膵(すい)炎とも関係がある中性脂肪(トリグリセライド)が高いタイプの脂質異常症。血液中に含まれる脂質成分である中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上と多く存在する状態で、内臓脂肪型肥満の人に多いのが特徴です。

脂質異常症は多くの場合、症状がないので、血液検査で初めてわかることがほとんどです。無症状であっても、動脈硬化を予防する正しい治療が必要なので、自己判断せずに医療機関に相談して下さい。内科、ないし内分泌・代謝科が、担当の診療科です。

脂質異常症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値は、これらから計算することもできますが、直接、測定する方法もあります。

脂質異常症の診断基準では、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上を高LDLコレステロール血症、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が120〜139mg/dl以上を境界域高LDLコレステロール血症、中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上を高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl以下を低HDLコレステロール血症とします。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法と薬物療法を行ないます。

食餌療法では、脂質異常症のタイプに従って、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

薬物療法では、高コレステロール血症には、一般にスタチンと呼ばれているHMG‐CoA還元酵素阻害薬を使います。この種類の薬は、コレステロールの合成を抑制するものです。そのほかにも、コレステロールの吸収阻害剤や、レジンと呼ばれる陰イオン交換樹脂やプロブコール、ニコチン酸誘導体を使います。

高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)には、フィブラート系薬物のベザフィブラートや、フェノフィブラートを使います。EPA(エイコサペント酸エチル)を使うと、血管に直接働いて抗動脈硬化作用を示すともいわれています。

また、過食や運動不足によって起こる肥満、ストレス、過労、喫煙、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の改善も、脂質異常症の予防法として効果的です。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

🇱🇾指趾粘液嚢腫

手指の先端にできる良性腫瘍で、中年以降の女性に多く発生

指趾粘液嚢腫(ししねんえきのうしゅ)とは、主に手指の先端の第1関節(DIP関節)の甲側、時に足趾の甲側に、水膨れのような形状の膨らみが生じる良性の疾患。ミューカスシストとも呼ばれます。

中年以降の女性に多くみられる傾向があります。

膨らみは直径1センチ以下のものが多く、膨らみの内部は透明なゼリー状の粘液で満たされています。

多くは膨らみを触知するだけで無症状ですが、大きくなると皮膚が引き延ばされて薄くなり、内部が透けて見えるようになったり、痛みを伴ったりすることがあります。皮膚が破れると、細菌が第1関節内に入って関節を壊し、化膿(かのう)性関節炎や骨髄炎に至る可能性があります。

また、爪(つめ)の付け根近くに膨らみが生じ、爪を作る爪母を圧迫した場合は、爪に縦方向の溝が入ったり、変形したりすることもあります。

この指趾粘液嚢腫には、線維芽細胞がヒアルロン酸を過剰に分泌して、皮膚下にたまる粘液腫性型と、骨性の盛り上がりの骨棘(こっきょく)の刺激により関節内の潤滑剤として働く滑液が周囲の組織に漏れ出し、貯留して膨らみを形成するガングリオン型があります。

さらに、第1関節の変形性関節症であるへバーデン結節に伴う変形や炎症が刺激となって、指趾粘液嚢腫が合併して生じるケースも多く見受けられます。

外傷が元になって生じるケースも多く見受けられるものの、複数の指に指趾粘液嚢腫ができます。

指趾粘液嚢腫は自然に治る傾向がほとんどないため、治療の希望があれば皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは整形外科の専門医を受診します。

指趾粘液囊腫の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、整形外科の医師による診断では、病変の見た目から判断することもよくあります。ただし、確定診断のためには、ゼリー状の粘液を注射器で吸引して顕微鏡で調べる生検を行い、ヒアルロン酸などを確認することが必要です。

このほか、小さな病変の確認や、より詳しい評価のために、X線(レントゲン)検査、超音波(エコー)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを実施するケースもあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科、整形外科の医師による治療では、健康に悪影響を及ぼすことが少ない良性疾患であり、治療を行わなければいけないというわけではありません。

膨らみが自然に消えることは少ないため、肥大した膨らみが神経や腱(けん)を圧迫して痛みがある場合や患者が希望する場合には、保存的治療、凍結療法、摘出手術のいずれかを行います。

保存的治療では、注射器でゼリー状の粘液を穿刺(せんし)吸引します。麻酔をかける必要はなく、痛みも少ないという特徴があります。しかし、根本的な治療方法ではないため、繰り返し行う必要がありますが、複数回実施することで治癒するケースもあります。粘液を吸引した後、少量のステロイド薬を注入することもあります。

凍結療法では、液体窒素を用いて、病変組織を凍結して破壊します。治療時に痛みを伴いますが、副作用は少なく安全性の高い方法とされます。

摘出手術では、局所麻酔をかけ、根治を目的として病変組織を十分に切除します。ガングリオン型の指趾粘液囊腫の場合は、病変組織が関節や腱に付着し、その根元が深かったり、小さな病変がたくさん付属していることがあるため、十分に注意を払って骨性の盛り上がりの骨棘を切除すると、治癒することが多くあります。

へバーデン結節に合併した指趾粘液囊腫の場合は、保存的治療で痛みが改善しない時や、変形がひどくなったり関節の動揺性がひどくなって日常生活に支障を来す時は、第1関節を固定する手術、骨棘と病変組織を切除する手術を行うことがあります。

🇩🇿四十肩

40歳ごろに、肩の関節が痛んで腕の動きが悪くなる疾患

四十肩とは、肩の関節が痛くなるとともに、肩の動きが悪くなるのを特徴とし、40歳ごろに起こる疾患。正式には肩関節周囲炎と呼ばれます。

肩関節周囲炎は40歳から50歳以後にかけてよく起こり、50歳ごろに起こると五十肩と通称されています。四十肩と五十肩の大きな違いはなく、年齢によって分けられているだけで、症状は変わりません。最初に五十肩という通称ができ、発症の低年齢化が進んできたために、四十肩という通称も流布するようになりました。

原因疾患として、肩の関節を取り巻く袋状の腱(けん)や関節の変性、断裂、癒着、炎症、石灰化が挙げられます。また、関節液を蓄えている滑液包の炎症、石灰化も挙げられます。これらの変化は、中年すぎに起こる一種の老化現象です。

急性期には、何もしなくても痛む自発痛がありますが、そのうち、動かす時に痛む運動痛だけになります。最初は、肩関節付近に鈍痛が起こり、腕の可動範囲の制限が起こります。次第に痛みは鋭いものになり、急に腕を動かす場合などに激痛が走るようになります。痛みのために、手を前方に上げたり、側方に上げたり、上腕を回旋したりすることが制限されます。

重症化すると、髪を洗う、歯を磨く、炊事をする、洗濯物を干す、電車のつり革につかまる、洋服を着る、寝返りを打つなどが不自由となり、日常生活にも支障を来す場合もあります。

痛みは片方の肩だけの場合と、一方の肩が発症してしばらく経つともう片方の肩にも発症してしまう場合とがあります。また、痛みのピーク時には肩や首筋の痛みに加えて、腕全体にだるさやしびれがある場合もあります。

発症してから治癒するまでは、半年から1年半くらいを要します。初期の症状が始まってから、数カ月を要して痛みのピークを迎え、ピークが数週間続いた後、次第に和らいでいきます。腕の可動範囲を発症前の状態までに戻せるかどうかは、痛みが緩和した後のリハビリ次第です。

四十肩の検査と診断と治療

発症後、日の浅い急性期には、安静にして局所を固定し、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射をします。また、ヒアルロン酸の注射も有効です。

急性期をすぎると、運動療法が進められます。上体を前屈させて、悪い肩のほうの手でアイロンを持ち、前後左右に振るコッドマン体操が基本になります。棒やタオルを両腕に持って、健康なほうの腕で四十肩のほうの腕をリードしながら、頭の上、首の後ろ、背中などに持っていったり、壁に指をはわせて、次第に腕を上げていく体操なども効果があります。

これらの運動療法の前に、ホットパックなどの温熱療法を行うと、筋肉の緊張がとれるので、後の運動療法の効果がよりいっそう有効になります。

四十肩は治るまでに長い期間が必要ですが、焦らず、のんびりと対処することが大切です。ことに初期のうちは、治療をしても、ある時期までは疾患は上り坂で悪くなるため心配しがちですが、いらいらせず、根気よく運動を続けます。運動を怠ると、腕の可動範囲が狭まったままとなる可能性があります。

急性期をすぎたら、針治療、指圧などを試みてみると効果がある場合もあります。四十肩は、腰痛、外傷性頸部(けいぶ)症候群などとともに、健康保険で針治療が受けられる疾患の一つとなっています。

なお、五十肩の運動療法では体への負担を考えて、あまり無理をしないのですが、四十肩の運動療法では、より短期間で痛みを防ぐための運動を進めることになります。

🇩🇿思春期早発症

二次性徴の成熟が早い年齢で起こる疾患

思春期早発症とは、男性ホルモン、女性ホルモンの分泌による二次性徴の成熟が、2〜3年程度早い年齢で起こる疾患。

女子では、乳房が少しでも膨らんできた時が、思春期の開始です。この乳房の発育が7歳6カ月以前に起こった時、思春期早発症の可能性が高いといえます。8歳より前に陰毛が生えてくる、10歳6カ月より前に月経が発来するなどの症状も認めます。

乳房発育だけがみられる時は、女性ホルモンの分泌の一過性の高進によると考えられる乳房早期発育症との区別が必要です。

男子では、精巣( 睾丸〔こうがん〕)が4ミリリットル以上の大きさになった時が、思春期の開始です。この精巣の発育が9歳未満で起こった時、思春期早発症の可能性が非常に高いといえます。10歳より前に陰毛が生えてくる、11歳より前にひげが生えたり、声変わりするなどの症状も認めます。

思春期早発症は、中枢性(真性)思春期早発症と、末梢(まっしょう)性(仮性)思春期早発症に分類されます。さらに、中枢性思春期早発症は、胚芽腫(はいがしゅ)・過誤腫・星状細胞腫などの脳腫瘍や脳炎後遺症、水頭症などによる器質性(中枢性)思春期早発症と、明らかな原因が認められない特発性(中枢性)思春期早発症の2つに大きく分けられます。

中枢性思春期早発症は、通常の思春期の時のように下垂体(脳下垂体)から性腺(せいせん)刺激ホルモンが分泌され、それにより性腺から性ホルモンが分泌されて起こります。女子に起こるものの多くは、原因不明の特発性思春期早発症ですが、男子に起こるものは脳腫瘍などによる器質性思春期早発症が多くみられます。

末梢性思春期早発症の場合は、性腺または副腎(ふくじん)で性ホルモンがつくられて、思春期早発症が起こります。副腎腫瘍、卵巣腫瘍、精巣腫瘍、治療不十分な先天性副腎皮質過形成症、特殊な遺伝子異常によるマッキューン・オルブライト症候群、家族性男性性早熟症などがその原因です。

性ホルモンが早期に分泌されることにより、成長のスパート(急激な進行)が起こります。女子に男子の約3〜5倍多く、起こります。

原因が脳腫瘍による場合は、腫瘍の圧迫症状による頭痛、視野狭窄(きょうさく)などが起こることがあります。

未治療で放置すると、実際の年齢に対して、実際のその人の体の年齢を現す骨年齢が促進して、骨が成長する骨端(こったん)が早期に融合するため、一時的に身長が伸びた後、最終的に低身長で成長が終わります。

低年齢で乳房が大きくなってきた場合や、急に背が伸びてきた場合には、小児内分泌科などを受診することが勧められます。

思春期早発症の検査と診断と治療

小児内分泌科、小児科、内分泌科、内分泌内科、内分泌代謝内科の医師による診断では、問診でいつごろから、どのような症状が始まったかを聞き、視診と触診で全身および外性器の性成熟の状態をチェックします。

また、ホルモン検査で血液中の性腺刺激ホルモンや性ホルモンの分泌状態、頭部MRI(磁気共鳴画像撮影)検査で脳腫瘍などの病変の有無、腹部超音波(エコー)検査で副腎や卵巣の腫瘍の有無を調べることもあります。手と手首のX線(レントゲン)検査を行い、骨年齢を判定して骨の成熟の有無を調べることもあります。

中枢性思春期早発症の場合は、ホルモン検査で性腺刺激ホルモンと性ホルモンの基礎値の上昇が認められるとともに、LHーRH( 黄体形成ホルモン放出ホルモン)テストで性腺刺激ホルモンの思春期レベルの反応が認められます。また、骨年齢が促進し、成長率も高くなります。

末梢性思春期早発症の場合は、性ホルモンの上昇は認められますが、性腺刺激ホルモンの分泌は抑制されています。

小児内分泌科、小児科、内分泌科、内分泌内科、内分泌代謝内科の医師による治療では、中枢性思春期早発症の場合、LHーRHアナログという薬剤で選択的に性腺刺激ホルモンの分泌を抑えます。月に1回の皮下注射を行うことで、多くの場合は著しい効果を示し、二次性徴の進行停止、退縮がみられ、骨年齢の進行が緩やかになります。

器質性中枢性思春期早発症の場合、脳腫瘍が原因であれば、外科手術により腫瘍を摘出します。手術により切除が難しい場合は、放射線治療や化学療法(抗がん剤)を行います。しかし、過誤腫が原因であれば、腫瘍そのものによる圧迫症状などがなければ、薬物療法を行います。また、脳炎後遺症、水頭症が原因であれば、薬物療法を行います。

末梢性思春期早発症の場合、先天性副腎皮質過形成症が原因であれば、副腎皮質ホルモン治療を行います。副腎腫瘍、卵巣腫瘍などが原因であれば、外科手術により腫瘍を摘出します。

🇩🇿思春期遅発症

思春期による体の変化が現れるのが遅れたり、現れても止まったりする状態

思春期遅発症とは、思春期の二次性徴が正常範囲の年齢を過ぎても現れなかったり、現れても不完全なまま体の変化が止まったり、消失する状態。

思春期は、子供が成長し大人になっていく過程で、男子は男子らしく、女子は女子らしく体が変化し、著しい身長の伸びを認める時期を指しています。思春期が始まる時期は、一般的には女子のほうが男子より早く、女子は10歳ころ、男子は12歳ころです。また、思春期が始まる時期には、個人差があり、親や兄弟姉妹に似る傾向があります。

女子では、12〜13歳になっても乳房が膨らんでこない、14歳までに恥毛が生えない、16歳前に初経が発来しないことが、思春期遅発症の目安となります。男子では、14歳になっても精巣の大きさが4ミリリットルを超えない、14歳前に精巣や陰茎の発育があっても18歳までに発育が完成しない、15歳までに恥毛が生えないことが、思春期遅発症の目安となります。

その原因は、病的なものでなければ体質や低栄養によるものがほとんどですが、場合によっては、女子におけるターナー症候群、男子におけるクラインフェルター症候群という染色体異常、視床下部の下垂体異常、副腎(ふくじん)疾患、甲状腺(こうじょせん)機能低下症、脳腫瘍(しゅよう)、慢性消耗性疾患、中枢神経系疾患、神経性食思不振症、愛情遮断症候群、女子における原発性無月経や過激な身体活動などの可能性もあります。

思春期遅発症は、男子のほうに多くみられます。また、背の低い子供に多くみられます。思春期を迎えてもよいような時期に幼児体形であったり、ほかの子供と比べて学年が2~3年くらい違って見えるような場合に、思春期遅発症が疑われます。

子供の発育には個人差もあるので、思春期の想定期に何らかの二次性徴が現れない場合は、まずは産婦人科、内科、内分泌・代謝科などを受診し、検査を受けて原因を確かめることが勧められます。

思春期遅発症の検査と診断と治療

産婦人科、内科、内分泌・代謝科などの医師による診断では、身長、体重、乳房、腋毛(わきげ)や陰毛の状態、肥満ややせの有無とその程度を調べます。

特に大切なのは、性器の注意深い診察で、女子における陰核の発育の程度、陰核肥大の有無、膣(ちつ)や子宮の形態異常、男子における陰茎の発育の程度について調べることです。そして、内分泌機能評価、染色体分析などの検査を行っていきます。

副腎疾患の疑いがある場合は、頭部や腹部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。

産婦人科、内科、内分泌・代謝科などの医師による治療では、思春期遅発症の原因が疾患の場合、その疾患の治療を行います。

原因が不明の場合、多くは治療を行わずに経過を見ながら、自然に思春期が訪れるのを待ちます。経過観察を続けても一向に第二次性徴の兆しが認められなかったり、著しく成長が遅れている場合、原因がわかっている場合、女子では女性ホルモンや性腺刺激ホルモンを投与し、男子では男性ホルモンであるエナンテストステロンを投与します。

🇹🇳思春期乳腺肥大症

思春期において乳房に過度の成長を生じる疾患

思春期乳腺(にゅうせん)肥大症とは、女性の乳房が成長してくる思春期において、乳房に過度の成長を生じる珍しい疾患。乳腺肥大症の一種です。

原因は、卵巣から分泌されている女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)などに対する乳腺の過敏反応です。

具体的な症状は、両方の乳房の過度の肥大、あるいは片方の乳房のみの過度の肥大で、発症するのは、初めて月経を経験する初潮の1年前後です。

肥大の程度は、人によってさまざまですが、短期間で急成長するのが特徴で、重症の場合は、乳房の重さが片方で10キログラムを超えることもあります。極度の重症の場合は、30キログラムにも過度に肥大化し、陰核の肥大を伴うこともあります。

この急成長は、身体的な不快感を引き起こします。その主な症状は、乳房の皮膚の赤みやかゆみで、時に乳房全般の痛みを生じます。乳房の重さのせいで、ブラジャーのストラップが肩にへこみをつくり、その慢性的な刺激によって消えない傷跡を残すこともあります。

そのほかにも、頭痛や頸(けい)痛、上背痛、腰痛、指のまひや痛みを併発します。

異常に気付いたら、婦人科、乳腺外科、外科、形成外科を受診することが勧められます。また。乳房が過度に肥大することで、特に思春期で大きな悩み、心の負担になるような場合は、美容外科や美容皮膚科などを受診し、美容的な乳房の外科手術などを受けることも勧められます。

また、女性に限らず、思春期を迎えた男性もホルモンの影響など女性化によって、思春期乳腺肥大症を発症し、乳房が肥大することがあります。

本来、男性の乳房は女性の乳房のように発育しませんが、乳房に膨らみや、しこりが現れたり、自発痛や圧痛を感じることがあります。これを思春期乳腺肥大症、あるいは女性化乳房症とも呼びます。

この思春期乳腺肥大症は、両側もしくは片側の乳腺が一時的に増殖して、乳頭部や乳輪の下に腫瘍(しゅよう)のようなものが現れる症状をいいます。

これは、思春期の生理的なホルモンバランスの乱れによる一過性のもので、思春期の13~14歳に起こり、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが崩れるのが原因となって、乳腺が異常に増殖して乳房が肥大します。普通は、ほうっておけば自然によくなります。

男性の思春期乳腺肥大症の多くは問題のないものですが、原因がはっきりしないものもあり、乳がんなどのほかの疾患と区別するためには、外科、乳腺外科を受診することが勧められます。また、女性のように乳房が大きくなることで、特に思春期で大きな悩み、心の負担になるような場合は、美容外科や美容皮膚科などを受診し、美容的な乳房の外科手術などを受けることも勧められます。

思春期乳腺肥大症の検査と診断と治療

乳腺外科、外科、形成外科、婦人科などの医師による診断では、視診、触診と、乳がんと鑑別するための超音波(エコー)検査、マンモグラフィー(乳房X線検査)を行います。また、 血液検査で、ホルモンの異常がないかどうか確認します。

乳腺外科、外科、形成外科、婦人科などの医師による治療では、女性の思春期乳腺肥大症の場合、根本的に治療する方法がないため、希望する際は整復乳房形成術とも呼ばれる乳房縮小手術を行い、余分な脂肪組織、肥大した乳腺組織、また皮膚を取り除きます。

手術後、乳房はガーゼのような包帯で覆い、手術後のはれから排出される余分な水分を排液するためのドレーンチューブを乳房に留置することもあります。通常、特別な軟らかいブラジャーを着用できるようになるまでには1週間ほどかかり、数週間は着用する必要があります。また、はれが完全にひくまでに数カ月かかります。

男性の思春期乳腺肥大症の場合、原則的には経過観察のみで薬物療法などの治療は必要ありません。痛みがひどい時は、状況によって非ステロイド系の消炎鎮痛剤を使い、痛みを和らげます。

女性のように乳房が大きくなることで悩んでいる際は、女性の場合と同じく、乳房縮小手術を行い、肥大した乳腺の組織をほぼ全部、または一部切除します。

手術後、乳腺を切除した部分に空洞ができるため、血液がたまって血腫ができた場合は、ドレーンチューブを留置します。細菌が感染した場合は、抗生物質を投与したり、乳腺を切除した部分を洗浄したりしながら経過をみていきます。乳頭部や乳輪の血流障害や皮膚の壊死が起こった場合は、皮膚がゆっくり覆うのを待つ必要があります。

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