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2022/08/19

🇺🇸肘離断性骨軟骨炎

少年期の野球のピッチャーに多く、肘の酷使によって発生する疾患

肘(ひじ)離断性骨軟骨炎とは、肘の外側にある上腕骨小頭の骨軟骨が壊死(えし)する疾患。離断性骨軟骨炎、上腕骨小頭骨軟骨障害とも呼ばれます。

特に、小学校高学年から中学校低学年の野球のピッチャーなどが肘を酷使して発症することが多く、外側(がいそく)型野球肘の代表的なものに相当します。

繰り返す投球動作における微小な外反ストレスの蓄積により、上腕骨小頭の骨軟骨、すなわち肘関節を形成する上腕骨の遠位端の外側部にある球状の部位に変性、壊死が生じます。症状として、肘関節を伸ばしたり、曲げたりする時に痛みが出たり、動きが悪くなったりします。この初期の段階では、投球動作を中止することのみで、自然治癒が促されることがあります。

実際は、練習や試合での投球動作の終了後は速やかに痛みが消失するために、単なる使いすぎによる痛みと勘違いされることが多く見受けられます。

放置して投球動作を続けると症状が進行し、壊死を起こした骨軟骨片が肘の関節面から遊離して関節内遊離体となり、関節の中をあちらこちらと移動することになります。

この関節遊離体に最も特有な症状が、嵌頓(かんとん)症状。肘関節の運動の最中に、突然、遊離体が関節の透き間に挟まってしまい、激しい痛みを起こして関節の運動が不能となる状態です。何かの拍子に遊離体が外れれば、急速に痛みは治まりますが、嵌頓症状を繰り返していると、滑膜炎と呼ばれる関節内の炎症や変形性関節症を起こしやすくなります。しかし、遊離体があっても、嵌頓症状が必す起こるわけでもありません。

そのほか、関節遊離体の症状として、関節の痛みや、だるさ、はれを感じたり、肘の曲げ伸ばしができなくなったり、関節に水がたまったりすることもあります。

肘離断性骨軟骨炎は進行してしまうと、投球動作にかかわるスポーツが十分できなくなるどころか、遊離したことで生じた上腕骨小頭の骨軟骨の欠損は成人期以降も肘の変形性関節症を発症し、痛みが出たり、動きが悪くなったりする後遺障害を残しやすくなります。

早期発見、早期治療を行う必要がある典型的な疾患が、肘離断性骨軟骨炎です。野球少年が投球時に肘の痛みを訴える場合は、早めに整形外科を受診することが勧められます。

なお、離断性骨軟骨炎がよく起こるのは膝(ひざ)の関節で、跳躍を伴う競技の選手に多くみられ、股(こ)関節や足関節などに起こることもあります。

肘離断性骨軟骨炎の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、問診をしたり、関節の動きを調べ、上腕骨小頭部の圧痛がある場合に肘離断性骨軟骨炎を疑います。

確定診断は、X線(レントゲン)検査により行います。病巣は、初期には骨の陰が薄くなった状態として、進行すると病巣部の骨軟骨片が上腕骨小頭から分離、遊離した状態として撮影されます。しかし、初期には病変を認識することが難しいこともあります。また、正面と側面からの肘関節2方向撮影法、肘関節を45度屈曲した位置で正面像を撮影する撮影法が有用です。そのほか、CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査は、骨軟骨がはがれやすい状態であるかどうか確認するなど病態を調べるのに有効です。

整形外科の医師による治療では、初期の場合、局所安静、投球禁止により病巣の修復、治癒が期待できます。しかし、実際には6カ月から1年間、場合によっては1年以上の長期にわたり投球動作を禁止することもあり、投球の再開により再発するケースもあります。

従って、初期の場合であっても長期の投球禁止を望まないケースや、再発例では、手術を行うこともあります。

進行した場合では、再び投球を可能にし、将来的な障害を残さないために、手術を行うことになります。具体的な手術としては、壊死した骨軟骨を切除し関節遊離体を取り除く方法を基本として、遊離しかけた骨軟骨片を再固定し、病巣部に新たな骨ができることを促す方法、遊離した骨軟骨片の再固定が困難な場合に、欠損した肘の関節面に体の他の部位から骨軟骨を移植し、関節面を形成する方法などがあります。

手術後のリハビリテーション、投球再開の時期は病期、手術法により異なりますが、おおむね6カ月程度で全力投球が可能になります。

肘離断性骨軟骨炎の発生の予防には、基本的には肘関節の使いすぎによるところが大きいため、練習日数と時間、投球数の制限が重要です。また、投球フォームにより肘に負担がかかりすぎるケースも多くあり、適切な筋力トレーニングと投球フォームの指導、正しいスケジュール決定も必要です。

🇺🇸脾腫

さまざまな疾患が原因となって、脾臓がはれて大きくなった状態

脾腫(ひしゅ)とは、脾臓がはれて大きくなった状態。それ自体は疾患ではありませんが、ほかの疾患の影響によって起こります。

脾臓は、左横隔膜の下、左肋骨弓(ろっこつきゅう)のところにある100グラムほどの臓器。健康な人では腹壁の上から触れることはできませんが、500グラムまたはそれ以上に大きくはれると触れることができます。

脾臓は、古くなった血球、すなわち赤血球、白血球、血小板を破壊して処理したり、細菌や異物に対して抗体を作るなど、防御作用を持っています。脾臓が大きくはれると、血球を破壊する力が強くなり、赤血球、白血球、血小板すべてが減少します。このような状態を、脾機能高進症といいます。

感染症、例えば伝染性単核球症、腸チフスなどの敗血症、マラリアなどで、脾臓がはれます。また、溶血性貧血、白血病、リンパ腫(しゅ)、骨髄(こつずい)線維症といった血液の疾患でも、脾臓がはれます。

鳥やネズミでは脾臓で赤血球や白血球を作っていますが、成人では脾臓ではリンパ球を作るだけで、赤血球や白血球は骨髄で作られているものの、骨髄線維症や白血病の際には、脾臓でも造血を行うようになって、脾臓がはれることがあります。

そのほか、肝硬変や慢性肝炎でも、脾臓がはれる場合も少なくありません。

脾臓がはれて大きくなった分、血液中から取り込む血球の量が増えて、大量の血球が血液から取り除かれると、さまざまな問題が生じます。赤血球が減少すれば貧血症が現れ、白血球が減少すれば感染症にかかりやすくなり、血小板の減少があれば出血が起こりやすくなります。

脾臓のはれ方が強くなれば、隣にある胃を圧迫するため、少量食べただけで、あるいは何も食べていなくても満腹感を感じるようになります。また、脾臓のある付近に膨満感が生じたり、左上腹部や背部に痛みが生じることがあります。脾臓の一部に血液が十分に供給されず、壊死が起こり始めると、痛みが左肩へと広がります。

肝臓に血液を供給する門脈圧が上昇して脾腫がある時は、食道に静脈瘤(りゅう)ができます。これが破れると、吐血や下血を起こし、危険な状態に陥ります。

脾腫の検査と診断と治療

消化器内科の医師による診断では、腹部に膨満感があったり、左上腹部や背部に痛みがある場合に、脾腫を疑います。大抵の場合、触診でわかり、腹部X線検査でも診断がつきます。

脾臓の大きさを確認し、他の臓器を圧迫しているかどうかを調べるために、超音波検査やCT検査が必要になることもあります。MRI検査では、CT検査と同様の情報が得られるだけでなく、脾臓を通過する血流をたどることもできます。弱い放射性の粒子を使用して脾臓の大きさと機能を調べ、大量の血球を取り込んでいるか、または破壊しているかどうかをみる検査もあります。

血液検査では、赤血球、白血球、血小板の数に減少がみられます。顕微鏡で調べた血球の大きさや形が、脾腫の原因を突き止める手掛かりとなることもあります。骨髄検査では、白血病やリンパ腫といった血液細胞のがんを確認することができますし、血中たんぱく質の測定では、マラリア、結核など脾腫を起こす他の病気の有無を判定することができます。肝機能検査は、肝臓も障害を受けているかどうかを調べるのに役立ちます。

消化器内科の医師による治療では、脾腫の原因となった疾患が特定でき、治療可能なものであれば、その疾患を治療します。

脾腫の原因となった疾患にもよりますが、脾腫が周囲の臓器に悪影響を及ぼしている時や、脾腫があって食道静脈瘤から出血するような時には、消化器外科などの医師による手術を行って脾臓を摘出することがあります。脾臓を摘出すると、細菌やウイルスに対して防御する働きが失われ、感染を起こしやすくなるなどのリスクが生じますが、命にかかわるような問題がある場合は手術を行う価値があります。

手術の代わりに、放射線療法を行って脾臓を小さくすることもできます。

脾臓が腫れて大きくなっている場合は、破裂する危険性があるために、激しい運動は避けるようにします。

🇺🇸鼻出血

約半数を占めるのは、原因不明の特発性鼻出血

鼻出血(びしゅっけつ)とは鼻、特に鼻腔(びくう)からの出血を意味します。原因のはっきりしているものと、原因が全く不明のものとがあります。

原因のはっきりしているものでは、鼻に原因がある場合と、鼻以外に原因がある場合とに分けられます。鼻では、外傷、がん、血管腫(しゅ)などが原因となります。鼻以外では、高血圧、腎(じん)炎、心臓疾患、血液病、紫斑(しはん)病などが原因となります。

一方、原因が全く不明のものは、実は鼻出血の約半数を占めており、特発性鼻出血と呼ばれています。中でも、小さな子供の鼻出血は繰り返して起こり、原因が不明で予防がうまくいかない点に、問題があります。

幸い、この場合には、多量の出血は少なくてすぐに止まります。強く鼻をかんだり、顔を下方に向けて洗ったり、息んだりすることがきっかけで出血することがありますが、多くは何の誘因もなく突然、鼻から出血します。

また、知らないうちに鼻の中に指を入れたり、こすったり、炎症を起こしてただれ、出血することもあります。

鼻出血の検査と診断と治療

軽症の場合は、応急処置で出血は止まります。なかなか止まらない場合は、専門医の診察を受けます。

軽症の鼻出血の時はまず、慌てないことが大切です。血を見て興奮すると頭に血が上り、血管が拡張して、余計に出血します。仰向けに、頭をやや高くして寝て、のどに流れた血は口から出します。

出血する鼻孔に脱脂綿を詰め、指で小鼻を軽く内方に向けて、押さえるようにします。鼻出血の多くは鼻の入り口のキーゼルバッハ部位から出るため、そこをうまく押さえられれば、止血できます。

しかし、止まりにくかったり、出血を繰り返す場合は、昼間のうちに早めに耳鼻科で診てもらう必要があります。

重症の場合は、出血部位に止血剤や血管収縮剤などの薬液を含んだタンポンを挿入します。必要に応じ、輸血や、輸液の点滴を行い、抗生物質や止血剤も投与します。どうしても止血しない場合は、鼻にいく動脈を縛ることもあります。

応急処置が一段落したら、原因となっている疾患がないか、注意深く調べます。また、血管が拡張している場合は、予防のために薬や電気で出血部位の粘膜を焼きます。

鼻出血の予防として、高血圧、腎臓病、血液病などの人は、鼻を強くかまない、鼻の中をいじらない、うつむいて長い間仕事をしない、酒を飲みすぎない、マージャンやテレビゲームなどで夜更かしをしない、熱い湯に長湯しないなどの注意が必要です。

🇹🇷微小血管狭心症

 

冠動脈の末梢にある微小血管が一時的に収縮して起こる狭心症

微小血管狭心症とは、心臓の表面を取り巻く血管である冠動脈のうち、直径が0・5ミリ以下の非常に細い末梢(まっしょう)血管が一時的に収縮するために起こる狭心症。
 一時的な収縮は末梢の微小血管の構造的あるいは機能的異常のために起こり、血流配分に異常を来して、心臓の筋肉である心筋が虚血状態になり、胸痛発作が生じます。
 微小血管の内腔(ないくう)が狭くなって血流が阻害されるのではなく、血管の拡張が障害されるための症状といわれています。血流の需要が大きくなった時に末梢の微小血管網の一部に十分に拡張できない部位があると、周辺の拡張した微小血管網のほうに血流を奪われて、微小血管網の一部の収縮が高進するために、心筋が一時的に虚血状態になります。
 胸痛発作は、階段や坂道の昇降運動といった一定の強さの運動や動作と無関係に、就寝中や早朝などの比較的安静にしている時にも起こります。  微小血管狭心症の発症者の70%は女性が占めるとされ、発症する年齢は30歳代半ばから60歳代半ばです。動脈硬化などで冠動脈が狭くなるために起こる狭心症に比べると、発症する年齢は若く、最も多いのは40歳代後半から50歳代前半の更年期前後の女性です。
 この時期はエストロゲン(卵胞ホルモン)が減少し始めるとともに、人生においてもさまざまな問題を抱え、心臓に限らず心身の不調を感じる時期とも重なっています。はっきりとした原因解明にはいまだ至っていませんが、女性ホルモンが微小血管狭心症に関与していることは確実なようです。  冠動脈の狭窄(きょうさく)がないにもかかわらず冠動脈がけいれんを起こすために起こる血管攣縮(れんしゅく)性狭心症と同じように、微小血管狭心症が精神的ストレス、寒冷、大量飲酒、喫煙などが誘因となって起こることも知られています。
 微小血管狭心症の症状としては、通常の狭心症で典型的にみられる胸の中央部に締め付けられるような痛みが突然起こる短時間の胸痛発作ではなく、背部痛、顎(あご)やのど、耳の後部などへの放散痛、動悸(どうき)、呼吸困難感、吐き気や胃痛などの消化器症状など多彩な不定愁訴であることが多く、その持続時間も数分ではなく数時間におよぶこともあります。

微小血管狭心症の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科などの医師による診断では、通常の心電図検査を中心に、運動負荷心電図検査、心臓ペーシング負荷試験、冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)などを行います。
 運動負荷心電図検査では、無症状時の心電図からは狭心症であるかどうかわからないため、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいだりして心臓に運動負荷をかけることによって、心電図に現れる変化から狭心症らしいかどうか、またどの程度運動が可能かを評価します。  心臓ペーシング負荷試験では、血管を通してカテーテルという細長いチューブを心臓の冠静脈まで挿入して、心筋虚血を誘発した上で、心臓を還流して戻ってくる冠静脈血を採血し、心筋虚血のために心筋から代謝される乳酸を測定します。
 冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)では、カテーテルを心臓の冠動脈まで挿入し、造影剤を注射して冠動脈のX線撮影を行います。  運動負荷心電図検査や心臓ペーシング負荷試験で心筋虚血の存在が証明されているのに、冠動脈造影検査では狭窄が認められず、冠動脈攣縮も起こらないのであれば、微小血管狭心症を疑います。
 しかし、胸痛発作時も心電図の変化に乏しく、冠動脈のX線撮影では映ってこないような微小血管の病変を想定するので、多くの場合は診断に時間を要し、診断されていないこともあります。
 診断がつきにくい時には、診断的治療といって亜硝酸剤(ニトロペンなど)の舌下錠を発作時に試してみて、症状がよくなれば狭心症と考えて対応することがあります。しかし、冠動脈の大きな部位の攣縮には特効薬である亜硝酸剤が微小血管狭心症には効きにくい発症者 も認められ、亜硝酸剤の舌下錠が効かない際には狭心症と診断されず、症状を抱えたまま消化器内科や整形外科、心療内科、精神科にかかってしまうこともあります。
 鑑別する疾患としては、心疾患の不整脈、食道や胃などの消化器疾患、胸部の整形外科的疾患、心身症があります。
 循環器科、循環器内科などの医師による治療では、心筋の血流需要を高めないようにするためには、交感神経遮断薬が有効です。心筋の血流増加を図るのであれば、太い血管の血流を改善する亜硝酸剤が有効です。微小血管の収縮を抑制するためには、細い血管の拡張薬であるカルシウム拮抗(きっこう)薬が有効です。
 つまり、治療薬については、アデノシン系の薬を避けるほかは通常の狭心症の場合と変わりがありません。これこそ特効薬といえるような薬はないのです。細い血管の拡張薬であるアデノシン系の薬は、時に微小血管網の一部の収縮を起こして逆に胸痛発作を誘発させることがあります。
 予後は、通常の狭心症に比べて良好です。心筋梗塞(こうそく)や脳血管障害などを起こすことは少ないといわれていますが、中には比較的リスクの高い発症者も認められています。
 最も大切になるのは、予防です。冠動脈の末梢の微小血管内皮に障害を来す原因になる高血圧、脂質異常症、糖尿病、メタボリック症候群などを適度な運動と食事で予防し、大量飲酒や喫煙をしないこと、精神的ストレスをため込まないことで、微小血管狭心症の発症も避けることできるとされています。

🇹🇷微小脳梗塞

梗塞する部分が極めて小さいために、自覚症状が全くない脳梗塞

微小脳梗塞(こうそく)とは、梗塞する部分が極めて小さいために、自覚症状が全くない脳梗塞。無症候性脳梗塞、隠れ脳梗塞とも呼ばれます。

自覚症状は全くないけれど、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの画像診断の普及に伴って、脳の病変が見付かることが多くなっています。高齢者に多く、脳ドック受診者のうち、50歳代は約1割、60歳代は約2割、70歳代は約3割の人に、微小脳梗塞が見付かっています。

その約80パーセントは、ラクナ梗塞と呼ばれるタイプの脳梗塞です。ラクナ梗塞は通常、高血圧による動脈硬化が原因となって、脳の深部にある0・4ミリ以下の極めて細い血管である穿通枝(せんつうし)動脈が狭くなり、この部位に血の固まりである血栓が形成されて、最終的に血管が閉塞して生じるとされています。

極めて細い血管の閉塞により生じる脳梗塞なので、病変の大きさは直径15ミリ以下です。直径15ミリを超える梗塞は、ラクナ梗塞とはいいません。

血管の閉塞のほかに、不整脈や心臓の疾患で心臓内で血栓が形成され、この血栓が流れて飛んで、脳の深部の極めて細い血管を閉塞させることもあります。血管の閉塞により、脳の組織の一部が壊死して脱落し空洞を残します。

ラクナ梗塞の場合は、小さな梗塞であるため、脳梗塞の中では最も症状が軽症です。ほかの種類の脳梗塞であるアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓と違い、大きな発作が起こることはありません。

その症状はラクナ症候群といい、運動まひ、しびれなどの感覚障害が主に起こります。そして、症状は段階的に現れて、少しずつ進行していきます。ラクナ梗塞が発症することが多いのは、安静時で、特に睡眠中です。朝起きた時にも、起こることが多くみられます。

また、ラクナ梗塞では梗塞する部分が極めて小さいので、症状が出ないことがあります。これが微小脳梗塞で、運動障害や感覚障害などの自覚症状を全く感じないまま、小さな脳梗塞が起こります。高齢者に多くみられ、高血圧、高脂血症、糖尿病などがあると発症する確率が高くなります。

ほとんどが直径15ミリ以下の小さな梗塞ですが、そのまま微小脳梗塞を放置しておくと、梗塞の数が増えたり、梗塞が脳のいろいろなところに発生して、多発性脳梗塞になります。多発性脳梗塞になると、手足や顔面のしびれ、軽いまひ、言語障害、歩行障害、食べ物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害などの症状がみられます。また、認知症の原因となることもあります。

多発性脳梗塞の一番の危険要因は、高血圧です。高血圧は、血管の内側の壁に強い圧力を加えます。そのために、血管の内側の壁が傷付いて、どんどん硬くもろくなり、動脈硬化が発症します。動脈硬化が起こると、血管の血液が通る部分が狭くなり、血流が途絶えて脳梗塞になる危険が増すのです。

微小脳梗塞の検査と診断と治療

脳神経外科、脳外科、神経内科の医師による診断では、MRI(磁気共鳴画像)で脳血管の様子を調べるほか、超音波検査で首を通る頸(けい)動脈が動脈硬化を起こして狭くなっていないかどうかを調べます。頸動脈で血栓ができて脳に流れると、脳血管が詰まる恐れがあるためです。

頸部から血管の雑音を聴き取ることもあります。心疾患が疑われる場合には、心エコー検査を行います。

脳神経外科、脳外科、神経内科の医師による治療では、血管が狭くなっていれば、血液を固まりにくくするアスピリン、塩酸チクロピジン、シロスタゾールなどの抗血小板剤を使用します。

脳血管がこれ以上詰まらないようにするには、血圧の管理が大切です。塩分を控え、過カロリー、脂質過多の食生活を見直して、魚や植物性蛋白(たんぱく)質中心の日本食を取り入れるなど食生活に気を配り、50歳代であれば、上は130未満、下は80未満を目標にします。毎日30分程度歩くこともお勧め。水分はしっかり補給し、節酒や禁煙も必要です。

適正な血圧は、年齢や心臓病や糖尿病の有無、コレステロール値などによって変わってきます。掛かり付け医を持ち、指導を受けるといいでしょう。

また、微小脳梗塞のある人は、ない人に比べて約4倍脳梗塞になりやすいことがわかっています。脳梗塞を発症すると、突然、片側の手足や顔半分のまひやしびれ、言語障害などの症状が出現します。

発症時には119で救急車を呼び、専門的治療のできる病院に発症から2時間以内に搬送してもらうことが重要です。t-PAという薬剤を静脈内に点滴して、血管に詰まった血栓を溶かす治療を受けると、後遺症が残らない人が1・5倍に増えますが、発症から2時間以内の病院到着が必須条件だからです。

ラクナ梗塞が進行した多発性脳梗塞で起こりやすい認知症には、根本的な治療はありません。デイケア、デイサービスへの通所や、家族の協力のもとでの散歩や、食事、テレビ、清掃、おやつ、会話など、生活習慣を規則正しく続けることで、脳を活性化させ、症状が改善したり、進行が遅れたりということがあります。

🇹🇷皮垂

肛門の周囲にできる皮膚のたるみ、しわ

皮垂(ひすい)とは、肛門(こうもん)の周囲にできる皮膚のたるみ、しわのこと。肛門皮垂、肛門スキンタッグとも呼ばれます。

多くは、進行した内痔核(ないじかく)が脱出した際に、脱出部が肛門の括約筋で締められて血栓を形成し、はれ上がって元に戻らなくなった嵌頓(かんとん)痔核や、血栓が周囲にたまって、はれてくる血栓性外痔核、さらに肛門部の皮膚が切れたり裂けたりした外傷で、ひりひりとした強い痛みがある裂肛(切れ痔)、あるいは肛門周囲の湿疹(しっしん)などにより、一時的に肛門部がはれ、その後、はれが委縮した後に、余った皮がたるみ、しわとなって残ったものです。

中でも肛門前方にできる皮垂は女性に特有で、出産の時に肛門がうっ血してできたり、裂肛が長期間存在した時にできます。

皮垂は皮膚の突起ですから、症状がなければ特に気にすることはありません。しかし、裂肛や肛門周囲の湿疹などに併発することが多いため、肛門部の違和感やべとつき、かゆみなどの症状を生じることもあります。徐々に大きくなるので本人は気が付かないのですが、大きくはれたり、便秘でむくむと痛みを伴います。

皮垂があるために排便後、肛門をきれいにふき切れないことで頻回にふいて、痛みやかゆみを生じることもあります。そのようなことを繰り返している結果として、皮膚の突起はますます大きくなります。

また、皮垂があるために排便時に肛門が外方に引き寄せられ、裂肛が慢性化してさらに皮垂が増大し、肛門ポリープが発生することもあります。

皮垂の検査と診断と治療

肛門科の医師による診断では、肛門を診察し、嵌頓痔核、血栓性外痔核、裂肛、肛門周囲の湿疹など併存している病変の有無を調べます。

肛門科の医師による治療では、肛門の周囲の皮膚の清潔を保ち、便通を整え、併存している病変の保存的治療を行うことにより、多くは症状が改善します。炎症性に肥大している場合は、皮膚の突起を少なくするために、炎症を抑えるための座薬、軟こうなどの外用薬や、内服薬を使用します。

しかし、皮垂は消失しません。保存的治療でも症状が消失しない場合や、 本人が皮垂を完全になくしたいと望む場合には、排便の時に毎日使う肛門の機能を損なわないように配慮しつつ、皮垂を局所麻酔下で切除します。

内痔核を伴う皮垂は根治性からも、通常の内外痔核の根治術同様、結紮(けっさつ)切除術などを併用して、皮垂の症状を強めていると考えられる脱出性の痔核も治療します。結紮切除術は、痔核につながる皮膚を剥離(はくり)して痔核を露出させ、根元を縛った上で切除する方法です。切除した後の傷口は、一般的には半分だけ縫い合わせて閉鎖します。手術で使用する糸は、術後3~6週間ほどで自然に溶けるので、抜糸の必要がありません。

皮垂を大きくしないために、肛門部を清潔にすることが大切です。排便後は、紙でふくだけでなく、お湯で洗い、よく乾燥させておくようにします。温水によって肛門を洗浄する機能を持った温水洗浄便座を使用すれば、簡便にできます。

せっけんけで洗う時は注意が必要で、せっけん成分が残るとかえって刺激し、かゆみを増強します。刺激の少ないせっけんで洗った後、十分に洗い流しておくようにします。 

🇨🇳ヒスタミン食中毒

魚肉中に含まれるヒスタミンによって引き起こされる食中毒

ヒスタミン食中毒とは、魚肉中に含まれるヒスタミンによって引き起こされる食中毒。アレルギー様食中毒の1つです。

不適切な温度管理や長期に渡る保存などにより鮮度の落ちた魚肉中では、もともと多量に含まれているヒスチジンというアミノ酸に、ヒスタミン生成菌(ヒスチジン脱炭酸酵素を有する菌)が付着することで、ヒスチジンが分解されてヒスタミンに変化し、多量に蓄積されています。ヒスタミンは熱に強く、通常の加熱では分解されないために、摂食によりヒスタミン食中毒を発症します。

魚肉に付着しているヒスタミン生成菌は、大きく2種類に分けられます。1つは腸内細菌科の細菌で、その中で最も有名なのはモルガン菌。この菌は室温で増殖し、低温では増殖しにくい性質を持っています。もう1つはビブリオ科に属する細菌で、この菌は海で生息しているため漁獲前に魚に付着している可能性が高く、低温でも増殖するので冷蔵保存の際も注意が必要です。

ヒスタミン食中毒は毎年、全国で10数例が報告されています。

原因食品としては、マグロ、カツオ、サバ、サンマ、アジ、イワシ、ブリ、シイラ、カジキなどの赤身魚や、その加工品である照り焼き、蒲焼、ムニエル、フライ、干物、すり身などが挙げられます。サバでは温度5℃5日間の保存で、腐敗臭を感じない状態でも、ヒスタミン量が中毒の最小値を超えている場合もあります。

摂食直後から60分くらいで、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢などのほかに、顔面の紅潮、頭痛、発疹(はっしん)、発熱などの症状が現れます。症状は多くの場合、1日以内の短時間で回復しますが、重症の場合は呼吸困難や意識不明になることもあります。

ヒスタミン食中毒の検査と診断と治療

ヒスタミン食中毒の症状が現れたら、可能であれば、できるだけ早く胃の中の毒性物質を除去します。ほとんどの場合は、嘔吐で胃の中の毒性物質を吐き出せます。最初に吐いた嘔吐物を少量取っておくと、後で医師が検査をする場合に役立ちます。

続いて、大量の水分を摂取するようにします。大量の水分を口から摂取するのが難しい場合は、救急外来を受診して点滴による水分の補給を受ける必要があります。ほとんどの場合は、水分と電解質の補給のみで迅速に、そして完全に回復します。

胃の内容物が十分吐き出せず、症状が重い場合は、抗ヒスタミン剤の投与が行われ、細い管を鼻や口から胃に通して胃の内容物を除去する処置も行われます。毒素を腸から早く排出させるため、下剤を使用することもあります。

予防法としては、以下のものが挙げられます。ヒスタミンは白身魚より赤身魚から高率に検出されるので、特に赤身魚の生魚は鮮度のよいものを購入、喫食する。生魚は室温で放置せず、冷蔵または冷凍で保存する。生魚は冷凍と解凍を繰り返さない。古くなった生魚は、火を通しても食べない。

🇨🇳ヒステリー球(食道神経症)

食道には病変がないのに、食道の違和感などを覚える疾患

ヒステリー球とは、食道そのものに病変がなく正常にもかかわらず、食道の違和感や胸痛など覚える疾患。食道神経症とも呼ばれます。

症状は、食道にヒステリー球と呼ばれる異物が存在している感じ、食べ物が食道につかえる感じ、胸焼け、吐き気、胸部圧迫感、胸痛など多彩です。

発症者の多くは女性で、ストレス、自律神経失調症、情緒不安定、貧血などが背景にあります。いたずらに精神的なもの、気のせいと判断することは禁物で、発症者が不安を持つ食道由来の胸痛の原因としては、胃食道逆流によるものが多くみられます。そのほかに、食道運動機能異常、食道知覚過敏、精神疾患との関連があり、これらが相互に関係して発症することが多いようです。

中年女性では、食道通過障害の症状のほかに、鉄欠乏性貧血、舌炎を合併するプランマー・ビンソン症候群という疾患もあります。食道上部にある慢性食道炎が通過障害の原因とも考えられていますが、こちらも食道そのものに病変は認められず、心因性要素も関係しているようです。

ヒステリー球の検査と診断と治療

胸が何となくおかしいなど、食道由来の胸部違和感や胸痛を訴える症例の多くは、胃液が食道に逆流して起こる胃食道逆流症が主な原因です。この診断のためには、まず心電図や心臓エコー検査を行って心臓疾患を否定します。次に内視鏡検査やバリウム造影で食道を調べます。

ここで胃食道逆流症による食道粘膜の病変の存在が確認されれば、そのまま治療に入ります。通常は、酸分泌抑制薬の内服が選択されます。

前記の検査で胃食道逆流症が証明されない際には、食道内酸逆流の程度を食道内腔(ないくう)に設置したpHセンサーで証明する方法が最も確実です。近年では鼻から挿入する有線型のセンサーではなく、食道内に固定する無線式のセンサーが使用できるようになっています。

以上の食道の内視鏡検査や食道内のpHのモニタリングで病変が観察されない場合は、心臓の精密検査となります。この目的は、虚血性心疾患の診断です。心臓の冠動脈造影で異常がみられる場合には、心疾患の治療を行います。冠動脈造影で異常が認められず、胃食道逆流症も否定される場合には、骨格筋由来の胸痛の検査に入ります。

最近では、心臓に異常を認めない非心臓性胸痛(NCCP)という概念が普及しています。非心臓性胸痛の約半数は、胃食道逆流症によるものと考えられています。従って、最も専門的な治療経験が要求される食道神経症をいたずらに精神的なもの、気のせいと判断することは禁物で、順序を追った検査体制で診断を進めていくことが大切となります。

精密検査を進めても、食道などに病変がなければ、過敏になっている神経を沈めるための鎮静薬や精神安定薬が投与されます。また、抱えている問題やストレスになっている原因を突き止め、その問題についてのカウンセリングを行うことで、自然とヒステリー球など食道の違和感、胸部の違和感が消えていくこともあります。

日常生活では、運動や趣味に励み、精神的、身体的機能を高めることが望まれます。

🇨🇳ヒステリー性混迷

突然、意識がはっきりせず、もうろうとした状態になる体の機能障害

ヒステリー性混迷とは、突然、意識がはっきりせず、もうろうとした状態になる体の機能障害。解離性障害の一種であり、解離性混迷と呼ばれることもあります。

過去に虐待にあったり、心がひどく傷付けられたなどの心的外傷(トラウマ)があると、自分では意識していないような心理的ストレスが積み重なっており、過去の心的外傷の記憶が突然、かつ非常に鮮明に思い出されるフラッシュバックを契機として、心が無意識のうちに逃れようとします。

すると、体の機能には全く異常がないにもかかわらず、意識はあるがはっきりとせず、もうろうとした状態となって、長時間にわたってほとんど動かず、横たわったり、座ったりしている状態となります。外部からの接触や光、音などの刺激に対して、反応が鈍くなります。

症状が重くなると、外部から話し掛けたり、体を揺すったりと刺激を加えたとしても、反応しなくなってしまう場合があります。

この状態となっても筋緊張は正常なため、静止姿勢や呼吸機能は保持されたままとなっていますが、自分の意思によって体が動かせなくなります。症状が現れている間は、発語したり、眠ったり、食事を取ったりといった行動もできなくなります。

ヒステリー性混迷の発症により、意識が回復した後に精神的なダメージを受けてしまい、苦痛を味わうことになります。そして、ヒステリー性混迷を頻繁に発症してしまうことを気にしすぎてしまうことにより、うつ状態となってしまう恐れもあります。

ヒステリー性混迷を自分自身で解決することは、非常に困難です。周りの人の協力が必要となってきます。また、症状に気が付いたり、周りの人から指摘されたりした際には、直ちに精神科、神経科、心療内科を受診する必要があります。

ヒステリー性混迷の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、症状を注意深く観察し、体を診察して、一般的な体の疾患を除外するための検査を行います。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療では、症状が出現する背景となった心理的なストレスに焦点を当てた心理療法やカウンセリングを行います。

心理療法では、本人が無意識のうちに抑圧している心理的なストレスを明らかにする記憶想起法や、催眠療法、認知行動療法などを行い、発症者がストレス対処法を自ら身に着けていくことを目指します。

また、発症者の精神的な健康を回復させるために、抗うつ剤や精神安定剤が有効なこともあります。時には、家族などの協力も得ながら、生活上の問題の解決を支援し、現実生活への適応を促します。

ヒステリー性混迷の克服には、場合によっては非常に長い時間を要してしまうこともあります。しかし、正常な日常生活を送るためには、確実に努力して克服することが必要です。

🇨🇦ヒステリー性失声症

ヒステリー性失声症とは、心因的なストレスが原因となって、声が出ない、話せない、声が出てもかすれ声や、しわがれ声になってしまう病気です。心因性失声症とも呼ばれています。30歳以上の女性に多くみられ、突然、声が出なくなるため、周囲の人たちも驚きます。

心理的な要因によることが多く、これに性格が反映して発症します。周囲への依存性が高く、自己顕示欲が強いなど、ヒステリー性格を持っている人に多い、と分析されています。心理的に厳しい立場に立っている時、欲求が満たされない時など特殊な状況下では、内的な葛藤を自分で処理することができなくなり、性格が未熟な人では、体に症状として現れてきてしますのです。一種の逃避である場合もあります。

放っておいても、自然治癒することが多い病気ですが、なかなか治らなかったり、繰り返し発症する場合は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診しましょう。声帯などに異常がないことが判明した場合は、精神科や心療内科を受診しましょう。

精神科などでのヒステリー性失声症の治療では、発症の原因になっている心理的な要因を探ります。医師の説明を受け、本人が病歴とともに生育暦、生活暦などを、よく把握することが大切となります。その上で、発声の訓練と、カウンセリングなどによる心理療法の二つの治療が進められ、精神安定剤を用いることもあります。

治療効果が高いため、病気は比較的すぐ、だいたい1週間くらいで治るのが、一般的と見なされています。

🇨🇦鼻せつ

鼻の穴の入口付近に細菌感染が生じ、うみがたまった状態

鼻せつとは、鼻の穴の入口付近の鼻前庭と呼ばれる部位に、細菌感染が生じ、うみがたまった状態。

不衛生な手で鼻先をこすったり、指先で鼻の穴をほじったり、鼻毛を抜いて鼻前庭の部分に傷を作ったりすることで、発症しやすくなります。

炎症を起こした状態では鼻前庭炎と呼びますが、鼻毛の毛根や皮脂腺(せん)、汗腺に、主にブドウ球菌、時に溶血性連鎖球菌などの細菌が感染し、うみを持ったはれ物できるようになったものは鼻せつと呼びます。

鼻せつが起こると、鼻先や鼻前庭に、はれ、痛み、発赤が現れます。触ると、かなりの痛みが生じます。進行すると、うみが破れて出てくることもあり、それが原因で鼻詰まりを伴うこともあります。

症状が進行すると、皮膚の真皮の深いところから皮下脂肪組織にかけて化膿(かのう)性炎症を起こして蜂窩織炎(ほうかしきえん)を生じ、鼻の先端や、鼻の全体がはれることがあります。さらには、顔面蜂窩織炎を生じ、顔面まではれることもあります。

顔のこの部分の静脈は脳へとつながっているため、静脈を通って細菌が脳に広がると、退行性血栓動脈炎や続発性の海綿動脈洞血栓症などの頭蓋内合併症が起こることもあります。最悪の場合、増殖した細菌が血液中に入って敗血症を起こし、生命の危険を伴うこともあります。

また、糖尿病を発症していたり、免疫を低下させる疾患が潜在していると、繰り返し鼻せつを発症し、症状も重くなる傾向があります。

鼻がはれたら、余計に悪化するため、いじってはいけません。耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し、適切な治療を受けるようにします。

鼻せつの検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、鼻鏡で観察するとすぐに確定できます。鼻鏡で鼻の穴を広げた時には、かなりの痛みが生じます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、抗生剤が入った軟こうを塗布するとともに、抗生剤を内服します。痛みがひどい場合は、消炎鎮痛剤を併用し、局所の安静を行います。

軽ければ、自然にうみが出るのを待ちますが、化膿が進んでうみがたまっているのが明らかな場合や、抗生剤治療に反応しない場合には、メスで切開し、うみを出すこともあります。

鼻せつの予防としては、鼻先を触る、鼻毛を抜く、鼻の脂を絞るなど、鼻を刺激することを必要以上に行わないのが効果的です。鼻毛は抜かずにハサミで切り、鼻の穴をきれいにする際は直接指を突っ込むのではなく、ティッシュを使うようにします。

また、鼻の中にはもともと雑菌が多いため、小さな傷やはれ物ができた場合は、すぐに消毒することで重症化を防げます。

🇨🇦皮癬(ひぜん)

ヒゼンダニによって起こる皮膚疾患

皮癬(ひぜん)とは、0.2〜0.4ミリ程度の体長のヒゼンダニというダニの一種が寄生して、皮膚に起こる感染症。ヒゼンダニは疥癬(かいせん)虫とも呼ばれるため、皮癬は疥癬とも呼ばれています。

通常、皮癬は密な人間同士の接触により人肌を介して移るため、性行為に伴う感染が多く、性行為感染症(準性病)に含められています。しかし、衣類、タオルやシーツなどのリネン類、布団やベッドなどの大型寝具から感染することも少なくなく、家族内感染や、老人ホーム、病院、宿舎といった施設内感染もあります。近年は、寝たきりの高齢者などの介護行為を介して感染し、流行することで、問題になっています。

逆上れば、栄養摂取や衛生状態の悪かった第二次世界大戦後非常に流行しましたが、その後、皮癬は全く消滅しました。しかし、海外旅行が急激に増えた1970年代になって再び流行が始まり、なお続いています。ヒゼンダニに特効的な殺虫剤であるDDTやBHCが、人に対する毒性も強いために1971年に失効となって以降、それらに代わるものがまだないことにもよります。

ヒゼンダニに寄生されると、約1カ月の潜伏期間を経て、手指の間、陰部、腹部、わきの周囲など、顔と頭を除いた全身にかゆく、赤いブツブツした発疹(ほっしん)が現れます。特徴的なのは、皮癬トンネルと呼ばれる、細くて灰白色で長さ5ミリ~1センチくらいの発疹が手首や手指の間にできることです。皮癬トンネルの中では、雌のヒゼンダニが産卵します。近年流行している皮癬では、この皮癬トンネルが認められるものが少なくなっています。

とてもかゆいのが症状の特徴で、入浴の後や運動の後など血行のよい時は、耐えられないほどのかゆみを伴うことがあります。一般的には、かゆみは夜間に最も強くなり、布団に入って体が温まると、激しいかゆみを覚えて不眠を来すこともあります。1度治って、2度目、3度目の再感染の場合には、比較的短期間で、かゆみを自覚することもあります。

まれに、基礎疾患があったりして全身状態のよくない場合には、ヒゼンダニが極めて多数増殖し、全身が赤くなったり、手足などの角質層に厚いガサガサした肌荒れのような発疹がみられます。これをノルウェー皮癬、ないし重症型皮癬と呼び、感染力が極めて強くなります。角質層の中には多数の虫体と虫卵が含まれていて、ひどい時には100万~200万匹のヒゼンダニが寄生することになります。

そのヒゼンダニは、数千年も前からいる虫で、メソポタミア南部に栄えた古代バビロニアの時代から知られています。ナポレオン時代の戦争で皮癬の流行がフランス軍の戦意を失わせたのは有名な話で、現在もヒゼンダニは世界各国に散らばっています。

大変小さな虫のため、肉眼ではほとんど確認できません。ヒゼンダニの雌は、皮膚に取り付くと10~40分で角質層内に潜り込み、皮癬トンネルを作って1日2~3個の卵を産み続け、4~6週間で寿命を終えます。卵は3〜4日で孵化(ふか)して幼虫、若虫を経て約2週間で成虫になります。成虫の雄は、雌を探し求めて雌よりも活発に動き回ります。皮膚内で交尾後、雄は間もなく死にますが、雌はなお卵を産み続けるわけです。

成虫が人肌を離れた場合、25℃・湿度90%で3日間、25℃・湿度30%で2日間、12℃・高湿度で14日間生存可能ですが、50℃では湿度に関係なく約10分間程度で死にます。

皮癬(ひぜん)の検査と診断と治療

皮膚症状から皮癬が疑われた場合、市販薬などで自己治療せず、皮膚科を受診して治療を受けてください。市販のかゆみ止めでは治りません。また、生活を共にしている家族や同僚などに、同じかゆみ、発疹、発赤の症状が出ていないかどうか確認し、感染の拡大を防ぐことが重要です。

医師が診断する方法は、皮膚に出ている症状です。皮癬トンネルなどを見付けて、皮癬だと診断します。また、皮膚の一部をメスやピンセットで削り顕微鏡で調べることで、ヒゼンダニの虫体、虫卵が見付かれば診断確定です。

標準的治療では、硫黄製剤の軟膏(なんこう)を1日1回、あるいはオイラックス軟膏を1日2回、全身に塗る方法が主に行われます。軟膏を首から下の全身に満遍なく、塗り残しなく、発疹部だけでなく全体に塗ることが、大事です。1回の薬剤使用料は、20グラムを限度とされます。

硫黄の入浴剤を併用する方法もあります。角質軟化作用のある10~20パーセント尿素軟膏の併用も効果的です。ただし、湿疹様変化を生じても、虫体や虫卵が生存している内はステロイド入り軟膏は使用しません。長期間ステロイド軟膏による治療を続けた場合、重症型のノルウェー皮癬となり得るからです。かゆみが激しい時は、抗ヒスタミン剤を内服します。

近年、皮癬に対する特効的な内服薬として欧米で使用されていたイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)が、日本でも使用可能となりました。1回内服、経過により1週間後に再度内服することにより、ヒゼンダニは死滅するといわれています。

ノルウェー皮癬の重症例では、発症者は隔離入院しなければならず、家族は面会を自粛するように求められます。重症例では、安息香酸(あんそくこうさん)ベンジルやγ–BHC(ガンマ–ベンゼンヘキサクロリド)を全身に塗ることがあります。

普通の皮癬の多くは1カ月ほどで症状が軽快しますが、できればその後さらに1カ月程度治療を継続したほうがよいでしょう。皮膚をかくことや、硫黄製剤などによる皮膚への刺激のため、2次的に湿疹を伴ってくることもありますので、その治療も適宜必要になってきます。

硫黄製剤の使用のため皮膚があまりにガサガサして、かゆい時は、一時使用を中断し、白色ワセリンなどで皮膚を休ませます。ただし、硫黄製剤を使う以上は、ある程度のガサガサは覚悟しなければなりません。角質がはがれ落ちて、ヒゼンダニが早く落ちることも、治癒を早くするための一法です。

この他、日常生活で体を清潔にし、こまめな洗濯や熱湯消毒をすることなども、医師から指示されることになります。体は風呂に入って、石けんで良く洗い、洗髪もします。硫黄の入浴剤が効果を現しますが、効果を期待しすぎて濃度が過ぎると硫黄かぶれを起こすために、かゆみが出ることもありますので、注意が必要です。風呂の後、ヒゼンダニを殺虫できる軟膏を全身に塗ります。

皮癬は夫婦、親子間などで移りますので、念のため、シーツ、下着、洋服は毎日、取り替えます。ヒゼンダニは熱に弱いので、50℃のお湯に10分間つけてから、洗濯することが望まれます。熱風乾燥機も効き目がありますので、10分以上かけます。部屋については、こたつ、カーペットに特に注意し、毎日ていねいに電気掃除機をかけます。掃除機のパックは毎日、取り換えるようにします。

🇹🇼鼻前庭炎

鼻の入り口、鼻毛の生えている部分に炎症が起きた状態

鼻前庭炎(びぜんていえん)とは、鼻の穴の入り口付近の鼻前庭と呼ばれる部位に、炎症が起きた状態。

鼻前庭は鼻毛が生えている部位で、不衛生な手で鼻先をこすったり、指先で鼻の穴をほじったり、鼻水をかみすぎたり、鼻毛を抜いたり、鼻毛を必要以上にカットすることで鼻前庭に傷ができ、鼻毛の毛根や皮脂腺(せん)、汗腺に細菌が感染すると、炎症が起きます。

鼻先や鼻前庭に症状が現れるのが特徴で、どちらかというと大人より子供に多くみられます。子供が頭や顔などにできているただれ物を触った指先で鼻の穴をいじると、鼻前庭にただれが飛び火します。

鼻前庭炎を起こす原因で最も多いのが、皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌による感染です。黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌は皮膚に常に一定量存在しており、鼻前庭にできた傷に感染して炎症を起こします。

鼻前庭炎を起こす、鼻先や鼻前庭に、はれ、痛み、かゆみが現れます。また、鼻前庭に、ただれ、ひび割れができたり、乾燥してかさぶたができることも多く、それが痛みやかゆみを助長することになり、かさぶたがはがれて出血すると、より症状が悪化します。

重症化すると、うみを持ったはれ物ができる鼻せつに発展し、鼻先や鼻前庭に、はれ、痛み、発赤が現れます。触ると、かなりの痛みが生じます。進行すると、うみが破れて出てくることもあり、それが原因で鼻詰まりを伴うこともあります。

症状が進行すると、皮膚の真皮の深いところから皮下脂肪組織にかけて化膿(かのう)性炎症を起こして蜂窩織炎(ほうかしきえん)を生じ、鼻の先端や、鼻の全体がはれることがあります。さらには、顔面蜂窩織炎を生じ、顔面まではれることもあります。

顔のこの部分の静脈は脳へとつながっているため、静脈を通って細菌が脳に広がると、退行性血栓動脈炎や続発性の海綿動脈洞血栓症などの頭蓋内合併症が起こることもあります。最悪の場合、増殖した細菌が血液中に入って敗血症を起こし、生命の危険を伴うこともあります。

また、糖尿病を発症していたり、免疫を低下させる疾患が潜在していると、繰り返し鼻せつを発症し、症状も重くなる傾向があります。

鼻がはれたら、余計に悪化するため、いじってはいけません。耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し、適切な治療を受けるようにします。

鼻前庭炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、鼻鏡で観察するとすぐに確定できます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、ブドウ球菌に有効な抗生剤が入ったバシトラシン軟こうや、ムピロシン軟こうなどを塗布する薬物療法が基本となります。

痛みや炎症が強い場合は、抗生剤が入った軟こうを塗布するとともに、抗生剤を内服し、消炎鎮痛剤も合わせて内服します。

うみを持ったはれ物できる鼻せつに発展し、かなりの痛みが生じている場合は、メスで切開し、うみを出すこともあります。

鼻前庭炎の予防としては、鼻先を触る、鼻の穴をほじる、鼻毛を抜く、鼻の脂を絞るなど、鼻を刺激することを必要以上に行わないのが効果的です。鼻毛は抜かずにハサミで適当な長さに切り、鼻の穴をきれいにする際は直接指を突っ込むのではなく、ティッシュを使うようにします。

また、鼻の中にはもともと雑菌が多いため、小さな傷やはれ物ができた場合は、すぐに消毒することで重症化を防げます。

🇹🇼鼻前庭湿疹

鼻の入り口、鼻毛の生えている部分に湿疹ができた状態

鼻前庭湿疹(びぜんていしっしん)とは、鼻の穴の入り口付近の鼻前庭と呼ばれる部位に、湿疹ができ、かゆみが出る状態。乾燥性前鼻炎とも呼ばれます。

鼻前庭は鼻毛が生えている部位で、不衛生な指先で鼻の穴をほじったり、鼻毛を抜いたり、鼻毛を必要以上にカットすることで鼻前庭の皮膚に傷が付くことが原因となって、炎症が生じ鼻前庭湿疹を起こすことがあります。

また、いわゆる蓄膿(ちくのう)症と呼ばれる慢性副鼻腔(ふくびくう)炎や、急性および慢性の鼻炎、アレルギー性鼻炎などが原因となって、鼻前庭湿疹を起こすことがあります。慢性副鼻腔炎や鼻炎では、常に鼻水や分泌物が出ていることがあり、鼻前庭は絶えず刺激され、湿っています。不快感から鼻をこすったり、鼻をかんだりする機会も増えます。そうした刺激によって、皮膚に赤いただれが生じて、鼻前庭湿疹を起こすことになります。

鼻前庭湿疹を起こすと、かゆみや刺激を感じ、チクチクする痛みを伴うこともあります。皮膚が乾いて、かさぶたができることもあり、余計にかゆみを感じます。

症状が進むと、鼻前庭の後ろに続く鼻中隔粘膜にも湿疹が及んで、潰瘍(かいよう)ができ、鼻血が出ることもあります。湿疹を起こした部位に、皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などの細菌が感染すると、さらに重い症状を引き起こすこともあります。

鼻前庭湿疹は、刺激すると余計に症状が悪化します。鼻をこすったり、いじったりする癖のある子供は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し、鼻の疾患がないかどうか診察してもらうことが勧められます。

鼻前庭湿疹の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、鼻鏡で鼻の粘膜の状態を観察することで、おおかた確定できます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド)と抗生剤(抗生物質)が入った軟こうを患部に塗ります。一日に2~3回、風呂(ふろ)上がりや朝の起床時などに塗るようにします。

鼻水が止まらない症状が出ている時は、同時に鼻炎を治療する薬を服用します。

治療中は患部にできるだけ触れないようにすると、湿疹を早く治すことができます。どうしても鼻をいじってしまう子供の場合は、爪(つめ)を清潔にして、薄手の手袋をはめ、鼻をいじられなくすることもあります。

再発予防のためには、鼻前庭湿疹の原因となる鼻の疾患に対する治療も行います。

🇹🇼脾臓破裂

腹部を強打して破裂することが多く、伝染性単核球症で自然に破裂することも

脾臓(ひぞう)破裂とは、左横隔膜の下、左肋骨弓(ろっこつきゅう)のところにある100グラムほどの臓器である脾臓が破裂すること。

交通事故やスポーツ事故、打撲などで腹部を強打して破裂することが多く、特に脾臓がはれている脾腫(しゅ)のある人は健康な人に比べて、破裂しやすくなっています。

また、主にEB(エプスタイン・バー)ウイルスの感染で起こる伝染性単核球症が原因で脾臓がはれて大きくなると、腹に圧力や衝撃がかかる運動や軽微な外傷で破裂したり、自然に破裂しやすくなります。

一般に、左上腹部の疼痛(とうつう)が、脾臓破裂に先行して起こります。脾臓が破裂すると、脾臓を覆う被膜や内部組織も裂けます。古くなった血球、すなわち赤血球、白血球、血小板を破壊して処理したりする脾臓は血管の豊富な臓器であるため、被膜が避けると血液が腹腔(ふくくう)内に流出して腹痛が起こり、血圧が下がって、めまいや意識障害などの症状が現れます。腹筋も反射的に収縮して、硬くなります。

大量に血液が流出している場合は、出血性ショックにより生命にかかわる危篤な状態になることもあるので、すぐに処置しなければいけません。 緊急に輸血して血液循環を維持するとともに、手術を実施して止血する必要があります。

血液が徐々に漏れ出している場合は、血流量が減少して血圧が低下し、脳や心臓に十分な酸素が供給されなくなって、初めて症状が現れることもあります。低血圧や酸素欠乏による症状には、めまい、意識障害、視力障害、錯乱、意識喪失などがあります。

脾臓の損傷が破裂にまで至らず、被膜下血腫を起こすこともあり、その血腫は損傷を受けた数時間後、あるいは数カ月後まで破裂しないこともあります。

脾臓破裂の検査と診断と治療

外科、消化器外科などの医師による診断では、症状が脾臓破裂以外の原因によるものかどうかを判定するため、腹部X線検査を行います。超音波検査やCT検査を行うこともあります。放射性物質を使った画像検査で、血流をたどって出血の有無を確認したり、腹腔内の体液を針で吸引して、腹腔内の出血を調べることもあります。

脾臓破裂の疑いが濃厚である場合は、緊急手術を行って、致死的な出血を未然に防ぎます。通常は手術で脾臓全部を除去しますが、破裂範囲が小さい場合は修復できることもあります。

脾臓を摘出すると、細菌やウイルスに対して防御する働きが失われ、感染を起こしやすくなるなどのリスクが生じますが、命にかかわるような問題がある場合は手術を行う価値があります。しかし、特に小児の場合、細菌感染に対する永久的な感受性が生じるのを防ぐため、可能なら脾臓摘出を避け、必要に応じた輸血で対処します。

脾臓摘出の実施前後には、感染を防ぐための特別な注意が必要です。例えば、可能であれば、手術前には肺炎球菌に対する予防接種を行います。

手術後は毎年、インフルエンザの予防注射を受けることが推奨されます。特定の健康状態にある人、例えば鎌状赤血球症やがんなど命にかかわる感染症を起こすリスクの高い疾患を持っている人では、感染を防ぐ抗生物質の使用が推奨されます。

伝染性単核球症の治療では、抗EBウイルス薬はないため、安静と対症療法が中心です。症状が長引く場合は、ステロイドホルモン剤を用いることもあります。重症の場合は、血漿(けっしょう)交換療法や抗がん剤が用いられます。

🇷🇺肥大型心筋症

心臓の筋肉の疾患で、左心室心筋の異常肥大を特徴とする疾患

肥大型心筋症とは、心臓で血液を送り出している左心室心筋の異常肥大を特徴とし、原因または原因との関連が不明な疾患。原因として多くは、心筋収縮に関連する蛋白(たんぱく)質の遺伝子変異が認められます。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、心臓は絶え間なく血液を全身に送り出すことができるのです。リズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。

心筋が肥大して厚くなると、心臓内部の空間が狭くなって、心臓は十分な量の血液を送り出せなくなります。右心室と左心室の間にある心室中隔の上部で、左心室心筋の肥大が著しい場合には、心臓が収縮する時に左心室の血液流出路の狭窄(きょうさく)を生じるものがあり、これを閉塞(へいそく)性肥大型心筋症と呼びます。

狭窄の生じないものは、非閉塞性肥大型心筋症と呼びます。この非閉塞性肥大型心筋症の中で、肥大する部位が心臓の底の心尖(しんせん)部に限局するものは、心尖部肥大型心筋症と呼びます。

また、肥大型心筋症では、心室中隔以外の部分である左心室自由壁に比べて、心室中隔の異常肥大が著しいことが一般的なため、非対称性中隔肥大と呼ぶこともあります。

症状としては、非閉塞性肥大型心筋症では、動悸(どうき)、呼吸困難、胸部圧迫感、胸痛などが自覚症状として現れます。

閉塞性肥大型心筋症では、さらにめまい、あるいは失神が加わります。失神の多くは運動時に起こりますが、運動をすると安静時よりも心臓が強く収縮するため、左心室の血液流出路の閉塞を強めるためと考えられます。重い場合には、運動中に急死することもあります。多くみられるのは、若年者で家族歴に急死例のある人。

非閉塞性肥大型心筋症では多くの場合、無症状か症状が軽度なので、検診の心電図異常で見付かるか、自覚症状がないまま突然死でたまたま見付かることもまれではありません。

肥大型心筋症の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、症状、身体所見、心電図などの各種検査、特に心臓超音波検査(心エコー)の所見により、心筋肥大の分布、心臓全体の収縮力の状態を判断します。

閉塞性肥大型心筋症の場合には、左心室の血液流出路付近の狭窄部分の血流の速さを超音波ドップラー法を用いて測定し、重症度を調べます。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では、β(ベータ)遮断剤やカルシウム拮抗(きっこう)剤、ジソピラミド(リスモダン)などを処方します。これらの薬剤は、心筋の弾力性を保ったり、左心室の血液流出路の狭窄を軽減したりする目的で用います。しかし、これらの薬剤も急死を予防できるものではありません。

閉塞性肥大型心筋症の場合には、ペースメーカーの植え込みによる治療を行うこともあります。この治療は、右心室側へ外的な電気刺激を与えて心筋の収縮リズムをコントロールすることにより、左心室側の心筋の収縮に遅れが生じて血液流出路の狭窄が著しく軽減することを利用したもので、ぺースメーカーの植え込み後はほとんどの症例で、短期間のうちに失神発作などの症状がなくなります。

心筋の異常肥大が著しい場合には、肥大している心筋に栄養を送っている冠動脈にエタノールを注入して、その心筋を部分的に壊死させたり、肥大している心筋の一部を切り取って血液が流れやすくする手術を行うこともあります。

日常生活では、自覚症状のない軽症例でも運動中の急死が起こりますから、急激な運動は避けます。

🇷🇺火だこ

比較的低い温熱刺激が皮膚表面に作用して生ずる紫紅色の色素沈着

火だことは、温風ヒーターや赤外線電気こたつなどからの44度以下の比較的低温の温熱刺激が長時間、あるいは繰り返し皮膚表面に作用することで生じる紫紅色の網目状、あるいは斑(まだら)状の色素沈着。温熱性紅斑(こうはん)とも呼ばれます。

暖房器具で至近距離から、火傷(やけど)を起こさない程度の温熱で温めた場合に、皮膚と毛細血管周囲の線維組織が温熱刺激で炎症を起こして、色素沈着ができます。毛細血管の走行に沿って、最初は赤くなり、次第に紫がかった紅色になってゆきます。

触っても、しこりなどはなく、かゆみも痛みもないのが一般的ですが、痂皮(かひ)や潰瘍(かいよう)、痛み、かゆみも伴うこともあります。

皮膚の深い部分に損傷がおよんでいると、低温火傷になり、水疱(すいほう)ができたりします。

温風ヒーターやハロゲンヒーター、ストーブの熱い空気の噴き出し口に当てていた皮膚や、赤外線電気こたつ、電気毛布、あんか、懐炉、火鉢、湯たんぽなどに長時間接していた皮膚などに、火だこができます。

エアコンが普及した現代では減りましたが、生活習慣がもたらした意外な原因の火だこもみられるようになりました。例えば、ホットカーペットの上でいつも同じ体位で寝ていたため、温熱刺激を受けていた側の胸から腹部に生じた例などです。最近では、自動車のヒーターや加温装置付きの椅子が原因となった例もあります。

中年から高齢の人に多く、また女性の下腿部分に多くみられます。
 冬場にもスカートをはいて、机の足元に暖房器具を置いて仕事をしたりする女性では、温熱刺激がじかに下肢に作用して、太もも、ひざから下の下腿などに火だこを生じやすく、時に皮膚がんの発生素地になり、角化性小結節と呼ばれる、がん前駆症や有棘(ゆうきょく)細胞がんが発生することもあります。

通常は夏になると、色素沈着は薄くなったり消えたりしますが、原因に気付かず温熱刺激を長期間にわたって続けると色素沈着が取れにくくなります。

火だこの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、特徴的な色素沈着とその分布、経過より判断します。
 似た症状があり鑑別すべき疾患としては、血の巡りに問題があって網目のように主に下肢の皮膚が赤紫色に変わるリベドー疾患(網状皮斑〔もうじょうひはん〕)があります。

治療の効果がみられない場合や経過の長い場合は、皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる組織検査を行うこともあります。また、皮膚以外にも症状が現れていないかどうかを確認するため、血液検査、尿検査、レントゲン写真など、必要に応じて検査が追加されます。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、赤みが強く、炎症を起こしている場合、ステロイド剤の塗り薬を処方します。潰瘍もあれば、潰瘍治療も併用します。

色素沈着を防ぐために、ビタミンCなどの内服薬を処方することもあります。色素沈着が残ってしまった場合は、ビタミンCなどの内服薬やハイドロキノンなどの美白作用のある外用剤を使用して、改善するようにします。

人目が気になる場合は、カバー用化粧品やファンデーションなどで目立たなくするのも一つの方法です。

火だこを予防するには。暖房器具で暖を取る際に、長時間同じ皮膚の部位が当たらないようにすること、暖房器具を皮膚の至近距離に設置しないこと、暖房器具の温度をあまり上げないこと、暖房器具に当たりながら入眠しないことなどに気を付けます。エアコンを使って、部屋全体を加温、加湿するのも有効です。

🇰🇿ビタミン過剰症

脂溶性のビタミン剤の過剰摂取で、いろいろな症状が出現

ビタミン過剰症とは、ビタミン剤やサプリメントの飲みすぎ、特定の食品の取りすぎによって生じる疾患。普通の食生活をしている限りでは、まず起こらないといってよいでしょう。

ビタミンB群、ビタミンCのような水溶性のものは、過剰に摂取しても尿からどんどん出るので、過剰症を心配する必要はほとんどありません。これに対して、脂溶性のビタミンA、ビタミンD、ビタミンKは、過剰に摂取すると体内、ことに肝臓に蓄積されて、いろいろな症状が起こってきます。脂溶性ビタミンのうちビタミンEは例外で、過剰症の可能性は低いとされています。

ビタミンA過剰症では、頭痛、嘔吐(おうと)、めまい、下痢、鼻血、食欲不振、体重減少、脱毛、皮膚や粘膜の剥脱(はくだつ)などの症状とともに、骨がもろくなり、肝臓の機能も悪くなります。妊婦においては、著しく大量のビタミンAを服用したため、胎児に奇形が生じた例が報告されています。

ビタミンD過剰症では、骨からカルシウムが分離し、関節、腎臓(じんぞう)、心臓、膵臓(すいぞう)、皮膚、リンパ節などにカルシウムがたまります。そのために、骨がもろくなったり、腎臓の機能が悪くなり、尿毒症になることもあります。現れる症状は、全身倦怠(けんたい)感、口渇、食欲不振、吐き気、頭痛、皮膚のかゆみ、多尿、便秘、脱水、腎障害、精神抑うつなどです。

ビタミンK過剰症では、呼吸因難、皮膚水疱(すいほう)、新生児溶血性貧血が現れます。

ビタミン過剰症の検査と診断と治療

ビタミンA過剰症はビタミンAの服用を、ビタミンK過剰症はビタミンKの服用を中止すれば治ります。ビタミンD過剰症の治療も、ビタミンDの投与をやめることですが、いったんカルシウムが石灰化して腎臓に沈着すると、なかなか取れません。ビタミンDの過剰摂取には、特に注意する必要があります。

これはビタミンDだけに限らず、ビタミンA、ビタミンKについても同じですが、市販の総合ビタミン剤などをやたらに飲んだり、子供に飲ませることは、かえって害があります。注意書きにある指示量を守るようにしましょう。

2022/08/18

🇰🇿ビタミン欠乏症

ビタミンの欠乏で、いろいろな疾患が出現

欠乏症を起こす主なビタミンは、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンD、ニコチン酸、およびビタミンCです。

ビタミン欠乏症は、食べ物から摂取するビタミンの量が体の必要とするビタミン量を満たさないか、あるいは、摂取する量は十分でも体内への吸収や利用が十分でない時に起こります。前者は発育期や授乳で消費が多い時など、後者は胃や腸の一部を手術で切り取った後などが相当します。

ビタミンA欠乏症(夜盲症)

夜盲(やもう)症とは、夜間や暗い場所での視力、視野が著しく衰え、目がよく見えなくなる疾患。俗に、鳥目(とりめ)と呼ばれます。

先天性では、幼児期より徐々に発症するものと、発症しても生涯進行しないものがあります。後天性では、ビタミンAの欠乏によって発症します。網膜にあって、夜間の視覚を担当するロドプシンという物質が、ビタミンAと補体から形成されているため、ビタミンA不足は夜間視力の低下につながるのです。夜盲症が進行すると、結膜や角膜の表面が乾燥して白く濁り、失明することもあります。

なお、ビタミンAは発育の促進、皮膚の保護の機能とも関係しているので、これが欠乏すると、乳幼児の発育が遅れたり、皮膚がカサカサになったりすることもあります。

ビタミンB1欠乏症(かっけ)

かっけ(脚気)とは、ビタミンB1欠乏症の一つで、ビタミンB1(チアミン)の欠乏によって心不全と末梢(まっしょう)神経障害を来す疾患。心不全によって下肢のむくみが、末梢神経障害によって上下肢のしびれが起きます。

ビタミンB1は、糖質の代謝に重要なビタミンです。白米を主食として副食の少ない食事を長期間続けた際や、重労働、妊娠、授乳、甲状腺(せん)機能高進症などでビタミンB1の消費が一時的に増大した際に、糖質の分解産物であるピルビン酸や乳酸が蓄積されて、かっけが起こります。

かっけの症状としては、初めは体がだるい、手足がしびれる、動悸(どうき)がする、息切れがする、手足にしびれ感がある、下肢がむくむなどが主なものです。進行すると、足を動かす力がなくなったり、膝(ひざ)の下をたたくと足が跳ね上がる膝蓋腱(しつがいけん)反射が出なくなり、視力も衰えてきます。

かつては、かっけ衝心(しょうしん)といって、突然胸が苦しくなり、心臓まひで死亡することもありましたが、現在ではこのような重症例はほとんどありません。

しかし、三食とも即席ラーメンを食べるといったような極端に偏った食生活によるかっけなどが、最近は若い人に増えてきています。インスタント食品やスナック菓子には脂質とともに糖質も多く含まれているのですが、この糖質の消費に必要なビタミンB1の摂取量が足りていないのです。また、過度なダイエットや欠食、外食によって、女子大学生の血中総ビタミンB1の値が非常に低いことも報告されています。

さらに、糖尿病の発症者と、高齢の入院患者にも、かっけが増えてきているといいます。糖尿病の場合は、血液中の糖質に対するビタミンB1の相対的な不足が原因となり、高齢の入院患者の場合は、高カロリー(糖質)の輸液に対してやはりビタミンB1の不足が原因となります。食事の代わりに酒を飲むといったアルコール依存症の人も、ビタミンB1欠乏症になる確率が高いと見なされています。

なお、ビタミンB1の欠乏症には、欧米に多いウェルニッケ・コルサコフ症候群もあります。こちらは中枢神経が侵される重症の欠乏症で、蛋白(たんぱく)質、脂質中心の食生活で、アルコールを多飲する人に多発します。症状は、意識障害、歩行運動失調、眼球運動まひ、健忘症など。

ビタミンB2欠乏症

ビタミンB2欠乏症とは、ビタミンB2(リボフラビン)の欠乏によって、皮膚や粘膜にトラブルが現れたり、子供の発育が悪くなったりする疾患。

ビタミンB2には皮膚を保護する働きがあるので、欠乏すると皮膚や粘膜にいろいろな症状が現れてきます。例えば、唇の周囲やふちがただれたり、舌が紫紅色にはれたり、肛門(こうもん)や外陰部などの皮膚と粘膜の移行部のただれなどもみられます。目の充血や眼精疲労などの症状のほか、進行すると白内障を起こすこともあります。 脂漏性皮膚炎も認められ、鼻の周囲や顔の中央部に脂ぎった、ぬか状の吹き出物ができます。重症になると、性格変化や知能障害が現れることがあります。

ビタミンB2にはまた、子供の発育を促す働きがあるので、欠乏した子供では成長不良につながります。成長期には、必要量を十分取らなければなりません。

ビタミンB2は、体内で糖質、蛋白(たんぱく)質、脂肪をエネルギー源として燃やすのに、不可欠な水溶性ビタミンです。ビタミンB2欠乏症は、アルコールの多飲、糖質過剰摂取、激しい運動、労働、疲労などで、現れることがあります。多量の抗生物質や経口避妊薬、ある種の精神安定薬や副腎(ふくじん)皮質ステロイド薬などを長期に服用した時にも、現れることがあります。また、心臓病、がん、糖尿病、肝炎、肝硬変などの慢性疾患や吸収不良によって、ビタミンB2欠乏症のリスクが高くなります。血液をろ過する血液透析や腹膜透析でも、同様です。

ビタミンD欠乏症(くる病)

くる病とは、骨が軟らかくなり、変形を起こしてくる疾患。骨成長期にある小児の骨のカルシウム不足から起こる病的状態で、成人型のくる病は骨軟化症と呼びます。

カルシウム不足による骨の代謝の病的状態というのは、骨基質という蛋白(たんぱく)質や糖質からなる有機質でできた骨のもとになるものは普通に作られているのに、それに沈着して骨を硬くする骨塩(リン酸カルシウム)が欠乏している状態です。このような状態では、骨が軟らかく弱くなります。

子供では、骨が曲がって変形したり、骨幹端部の骨が膨れてくることがあります。成人でも、骨が曲がったり、骨粗鬆(そしょう)症と同様に、ちょっとした外部の力で骨折が起こるようになります。

くる病の原因は、いろいろあります。ビタミンD欠乏による栄養障害、腎(じん)臓の疾患、下痢や肝臓病などの消化器の疾患、甲状腺(せん)や副腎などのホルモンの異常に由来するものや、妊娠、授乳などによるカルシウム欠乏に由来するものがあります。

骨粗鬆症と同時に存在することも多く、その場合には骨粗鬆軟化症と呼んでいます。

ニコチン酸欠乏症(ペラグラ)

ニコチン酸欠乏症とは、ビタミンBの一つであるニコチン酸が欠乏することにより、皮膚炎、下痢、精神錯乱などを起こす疾患。ナイアシン欠乏症とも呼ばれ、とうもろこしを主食とする中南米などの地域ではペラグラとも呼ばれています。

ニコチン酸は、ナイアシンとも呼ばれる水溶性のビタミンで、蛋白(たんぱく)質に含まれる必須アミノ酸のトリプトファンから体内で合成されます。糖質、脂質、蛋白質の代謝に不可欠な栄養素であり、また、アルコールや、二日酔いのもとになるアセトアルデヒドを分解します。人為的にニコチン酸を摂取することで、血行をよくし、冷え性や頭痛を改善しますし、大量に摂取すれば血清のコレステロールや中性脂肪を下げる薬理効果もあります。

ニコチン酸欠乏症はとうもろこしを主食とする人に多い疾患ですが、日本では、不規則な食事をするアルコール多飲者にみられます。酒を飲むほどニコチン酸が消費されますので、つまみを食べずに大量に飲む人は、栄養不良に注意が必要です。特にビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6が不足すると、ニコチン酸の合成能力が低下します。

遺伝病であるハートナップ病の人も、トリプトファンが腸から吸収されないために、ニコチン酸欠乏症を発症します。

症状としては、日光に当たることによって手や足、首、顔などに皮膚炎が起こります。同時に、舌炎、口内炎、腸炎などを起こし、そのために食欲不振や下痢なども起こします。その後、頭痛、めまい、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全による錯乱、見当識の喪失、幻覚、記憶喪失などが起こり、最悪の場合は死に至ります。

日本では普通の食事をしている限り、重症にはなりません。食欲減退、口角炎、不安感などの軽いニコチン酸欠乏症が見られる程度です。

ビタミンC欠乏症(壊血病)

壊血病とは、ビタミンCの欠乏によって、出血性の障害が体内の各器官で生じる疾患。ビタミンC欠乏症とも呼ばれます。

水溶性ビタミンであるビタミンCは、血管壁を強くしたり、血液が凝固するのを助けたりする作用を持っています。また、生体内の酸化還元反応に関係し、コラーゲンの生成や骨芽細胞の増殖など、さまざまな作用も持っています。

成人におけるビタミンCの適正摂取量は、1日に100mgとされています。日本人はもともとビタミンCの摂取量が多く欠乏症になりにくいのですが、3~12カ月に渡る長期、高度のビタミンC欠乏があると、壊血病が生じます。妊娠や授乳時では、ビタミンCの必要量も増えます。

ビタミンCが欠乏すると、毛細血管が脆弱(ぜいじゃく)となって、全身の皮下に点状の出血を起こしたり、歯肉に潰瘍(かいよう)ができたり、関節内に出血を起こしたりします。また、消化管や尿路から出血することもあります。一般症状として、全身の倦怠感(けんたいかん)や関節痛、体重減少が現れます。

小児においても、壊血病は生じます。特に生後6~12カ月間の人工栄養の乳児に発生し、モラー・バーロー病とも呼ばれています。現れる症状は、骨組織の形成不全、骨折や骨の変形、出血や壊死(えし)、軟骨や骨境界部での出血と血腫(けっしゅ)、歯の発生障害などです。

ビタミン欠乏症の検査と診断と治療

ビタミンA欠乏症(夜盲症)

ビタミンA欠乏性の夜盲症以外の場合、治療法が確立しておらず、光刺激を防ぐ対策を必要とします。遮光眼鏡を使用したり、屋外での作業を控えるなどです。

ビタミンA欠乏性では一般に、ビタミンAを経口で服用し、ビタミンAを多く含む食品を適度に取ります。ビタミンAには、レバーやウナギなど動物性のものに含まれるレチノールと、主に緑黄色野菜などの植物性食品に含まれβ-カロチンの2種類があります。ただし、過度に摂取するのは、ビタミンA中毒を引き起こすのでよくありません。

ビタミンB1欠乏症(かっけ)

かっけの検査では、ハンマーなどで膝の下を軽くたたく、膝蓋腱反射を利用した方法が広く知られています。足がピクンと動けば正常な反応で、何も反応がなければかっけの可能性がありますが、診断を確定する検査ではありません。

かっけの治療では、ビタミンB1サプリメントを投与します。なお、かっけの症状は回復したようにみえても、数年後に再発することがあるので注意が必要です。

ビタミンB1はいろいろな食べ物の中に含まれているので、偏食さえしなければ、欠乏症を起こすことはほとんどありません。過度のダイエット、朝食や昼食を抜く、外食で食事をすませる、インスタント食品に偏るなどの食生活では、ビタミンB1の不足を招き、かっけになりやすくなります。

ただし、ビタミンB1が不足していても、他の栄養素のバランスがいい場合は、すぐにかっけにはなりません。食生活に偏りがあって、疲労感や倦怠(けんたい)感が続いている場合は、潜在的ビタミンB1欠乏症と考えて、食生活を改善する必要があります。

お勧めなのは玄米食。玄米にはビタミンB1が多く含まれているからで、玄米を精米した白米ではほぼ全部のビタミン類が取り除かれています。玄米のほかにビタミンB1を多く含む食品には、豚肉、うなぎ、枝豆、えんどう豆、大豆(だいず)、ごま、ピーナッツなどがあります。これらをうまく組み合わせて、ビタミンB1を摂取していきましょう。

ビタミンB2欠乏症

医師による診断は、現れた症状や全身的な栄養不良の兆候に基づいて行います。尿中のビタミンB2排出量を測定し、1日40μg以下であれば欠乏症です。血中のビタミンB2濃度の測定も行われます。

治療では、ビタミンB2を症状が改善されるまで、経口で服用します。ビタミンB2の1日所要量は成人男性で1・2mg、成人女性で1・0mgとされており、1日10mgを経口で服用すると症状は完全に改善します。他のビタミン欠乏症を伴うことも多く、その場合はビタミンB1、ビタミンB6、ニコチン酸なども服用すると、より効果的です。

なお、ビタミンB2吸収不良を生じている場合、血液透析や腹膜透析を受けている場合は、ビタミンB2サプリメントを日常から摂取する必要があります。

ビタミンD欠乏症(くる病)

確定診断のためには、X線写真で確かめるほか、血液検査や尿検査、血清生化学検査などにより、ビタミン、ホルモン、カルシウム、リン、血清アルカリホスファターゼなどの数値を測定します。

治療では、原因に応じて対処することになります。一般には、ビタミンDなどの薬剤投与を行い、小魚や牛乳などのようにカルシウムの多い食べ物を摂取し、日光浴をします。ビタミンDには、カルシウムやリンが腸から吸収されるのを助け、骨や歯の発育を促す働きがあります。このビタミンDは食べ物の中にあるほか、皮膚にあるプロビタミンDという物質が、紫外線を受けるとビタミンDになります。

骨が軟らかくなるのが治っても、骨の湾曲、変形などが強く残ったものは、骨を切って変形を矯正する骨切り術を行うこともあります。

ニコチン酸欠乏症(ペラグラ)

ニコチン酸欠乏症の治療は、ニコチン酸を含むビタミンB群の投与です。ニコチン酸アミドを1日50〜100mg投与し、他のビタミンBの欠乏を合併することも多いので、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6も併用して投与します。ビタミンB群は、お互いに協力しあって活動しているため、それぞれの成分だけではなく、ビタミンB群としてまとめて投与することが望ましい栄養素でもあります。

ニコチン酸の過剰症は特にありませんが、合成品のニコチン酸を100mg以上摂取すると、皮膚がヒリヒリしたり、かゆくなることがあります。とりわけ、ニコチン酸の摂取に際して注意が必要なのは、糖尿病の人です。ニコチン酸はインシュリンの合成に関与し、大量に摂取すると糖質の処理を妨げてしまいます。 一部の医薬品との相互作用を示唆するデータもあるため、すでに他の薬を服用中の場合は主治医に相談の上、ニコチン酸を摂取する必要があります。

ビタミンC欠乏症(壊血病)

乳児では1日100mg、成人では1日1000mgのビタミンCを投与すると、症状の改善が認められます。ただ、長期に投与すると尿路結石(シュウ酸カルシウム結石)が生じることがあり、注意が必要です。

予防としては、新鮮な果物や野菜を十分に取ります。また、煮すぎない、ゆですぎない、ミキサーに長時間かけないなど、調理によるビタミンCの破壊に気を付ければ、まず壊血病の心配はありません。

🇰🇿ビタミン欠乏によるニューロパチー

ビタミンの欠乏から、神経細胞が損傷して生じる神経障害

ビタミン欠乏によるニューロパチーとは、ビタミンの摂取不足、あるいは体内での消費過剰によってビタミンが欠乏し、神経細胞が損傷することによって生じる末梢(まっしょう)神経障害。

ニューロパチーとは、脳や脊髄(せきずい)から分かれた後の、体中に分布する末梢神経に障害が起こった状態。末梢神経障害とも呼ばれ、以前は神経炎と呼ばれていました。末梢神経には、筋肉を動かす運動神経のほか、感覚神経(知覚神経)、自律神経の3種類があります。ニューロパチーによって末梢神経に起こる症状は、多彩で、複雑です。

その欠乏によってニューロパチーを起こす主なビタミンとしては、ビタミンB1、ニコチン酸、ビタミンB12が挙げられます。

ビタミンB1が欠乏すると、ビタミンB1欠乏性ニューロパチー、いわゆる脚気(かっけ)が起こり、深部腱(けん)反射の消失に代表される多発神経炎が生じます。ニコチン酸が欠乏すると、ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症、ペラグラ)が起こり、皮膚炎や下痢とともに神経炎から精神錯乱が現れてきます。ビタミンB12が欠乏すると、ビタミンB12欠乏性ニューロパチーが起こり、貧血とともに各種神経炎、神経痛が現れます。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチー(脚気、ビタミンB1欠乏症)

ビタミンB1は、細胞がエネルギーとして利用する糖質の代謝に重要なビタミンです。偏食、過度のダイエット、激しい運動、重労働、過剰なアルコール摂取、妊娠、授乳、甲状腺(せん)機能高進症などでビタミンB1の消費が一時的に増大した際に、糖質の代謝異常が起こり、血液や筋肉に、糖質の不完全燃焼の産物であるピルビン酸や乳酸が蓄積されます。そうなると、細胞が十分なエネルギーを得られず、神経機能の調節や消化機能が衰えて、神経障害が起こります。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの症状としては、初めは体がだるい、手足がしびれる、動悸(どうき)がする、息切れがする、手足にしびれ感がある、下肢がむくむなどが主なものです。進行すると、足を動かす力がなくなったり、膝(ひざ)の下をたたくと足が跳ね上がる膝蓋腱(しつがいけん)反射が出なくなり、視力も衰えてきます。

かつては、脚気衝心(しょうしん)といって、突然胸が苦しくなり、心臓まひで死亡することもありましたが、現在ではこのような重症例はほとんどありません。

しかし、三食とも即席ラーメンを食べるといったような極端に偏った食生活によるビタミンB1欠乏性ニューロパチーなどが、最近は若い人に増えてきています。インスタント食品やスナック菓子には脂質とともに糖質も多く含まれているのですが、この糖質の消費に必要なビタミンB1の摂取量が足りていないのです。また、過度なダイエットや欠食、外食によって、女子大学生の血中総ビタミンB1の値が非常に低いことも報告されています。

さらに、糖尿病の発症者と、高齢の入院患者にも、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーが増えてきているとされます。糖尿病の場合は、血液中の糖質に対するビタミンB1の相対的な不足が原因となり、高齢の入院患者の場合は、高カロリー(糖質)の輸液に対してやはりビタミンB1の不足が原因となります。

食事の代わりに酒を飲むといったアルコール依存症の人も、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーになる確率が高いと見なされています。ビタミンB1の欠乏以外に、アルコールそのものによる神経の障害から手足のしびれが起こり、特に夜間に強いビリビリとした痛みが多いのも特徴で、燃える足症状ともいいます。

ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症、ペラグラ)

ビタミンBの一つであるニコチン酸が欠乏すると、皮膚炎、神経炎、下痢、精神錯乱などを起こします。ナイアシン欠乏症とも呼ばれ、とうもろこしを主食とする中南米などの地域ではペラグラとも呼ばれています。

ニコチン酸は、ナイアシンとも呼ばれる水溶性のビタミンで、蛋白(たんぱく)質に含まれる必須アミノ酸のトリプトファンから体内で合成されます。糖質、脂質、蛋白(たんぱく)質の代謝に不可欠な栄養素であり、また、アルコールや、二日酔いのもとになるアセトアルデヒドを分解します。人為的にニコチン酸を摂取することで、血行をよくし、冷え性や頭痛を改善しますし、大量に摂取すれば血清のコレステロールや中性脂肪を下げる薬理効果もあります。

ニコチン酸欠乏症はとうもろこしを主食とする人に多い疾患ですが、日本では、不規則な食事をするアルコール多飲者にみられます。酒を飲むほどニコチン酸が消費されますので、つまみを食べずに大量に飲む人は、栄養不良に注意が必要です。特にビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6が不足すると、ニコチン酸の合成能力が低下します。

遺伝病であるハートナップ病の人も、トリプトファンが腸から吸収されないために、ニコチン酸欠乏症を発症します。

症状としては、日光に当たることによって手や足、首、顔などに皮膚炎が起こります。同時に、舌炎、口内炎、神経炎、腸炎などを起こし、そのために食欲不振や下痢なども起こします。その後、頭痛、めまい、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全による錯乱、見当識の喪失、幻覚、記憶喪失などが起こり、最悪の場合は死に至ります。

日本では普通の食事をしている限り、重症にはなりません。食欲減退、口角炎、不安感などの軽いニコチン酸欠乏症が見られる程度です。

ビタミンB12欠乏性ニューロパチー

ビタミンB12とは、鉄分を補っても治らない貧血の治療法を研究した結果、発見された水溶性ビタミン。物質名はシアノコバラミンです。

ビタミンB12は、胃で消化された後で腸で吸収される他のビタミンとは違って、胃で溶かされたり腸内の細菌によって食べられるのを防ぐために特殊な蛋白(たんぱく)質と結び付くという過程を通って、腸に吸収されます。そのために、最後に発見されたビタミンに相当し、12という二桁(けた)の番号が付いています。

蛋白質や核酸の体内合成に欠かせないビタミンであり、細胞のエネルギー獲得を助ける作用、神経細胞を正常に保つ作用があります。

その核酸とは、DNA=遺伝子の主な成分になっている物質で、細胞を再生する時に重要な働きをしています。ビタミンB12には、神経細胞の中にある核酸の体内合成を助ける働きがあります。つまり、正常な神経細胞を維持して、脳からの指令を手足などの末梢神経まで正確に伝えるには、ビタミンB12はなくてはならない栄養素なのです。神経系が原因の腰痛の治療、不眠症や時差ボケの解消には、ビタミンB12の大量摂取が有効とされています。

また、ビタミンB12には、正常な赤血球を作り出す働きがあり、貧血になるのを予防しています。赤血球は鉄分を材料にして体内で作られますが、たとえ十分な鉄分を食品から取っても、ビタミンB12や葉酸が不足していると正常な赤血球に成長しません。造血に関係するため赤いビタミンとも呼ばれ、肝機能強化にも有効です。

ビタミンB12が欠乏すると貧血になるほか、息切れ、めまい、動悸(どうき)、神経系に作用して各種神経炎、神経痛、筋肉痛、精神障害、記憶力の減退、睡眠障害、食欲不振などが引き起こされます。

欠乏症は、厳格な菜食主義者(ベジタリアン)や、手術で胃の切除をした人、高齢で胃腸の粘膜が収縮している人などに多くみられます。

ビタミン欠乏によるニューロパチーの検査と診断と治療

神経内科、ないし内科の医師によるビタミンB1欠乏性ニューロパチー(脚気、ビタミンB1欠乏症)の検査では、ハンマーなどで膝の下を軽くたたく、膝蓋腱反射を利用した方法が広く知られています。足がピクンと動けば正常な反応で、何も反応がなければビタミンB1欠乏性ニューロパチーの可能性がありますが、診断を確定する検査ではありません。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの治療では、ビタミンB1サプリメントを投与します。ただし、神経障害の回復には時間がかかるとされています。また、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの症状は回復したようにみえても、数年後に再発することがあるので注意が必要です。

ビタミンB1はいろいろな食べ物の中に含まれているので、偏食さえしなければ、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーを起こすことはほとんどありません。過度のダイエット、朝食や昼食を抜く、外食で食事をすませる、インスタント食品に偏るなどの食生活では、ビタミンB1の不足を招き、発症しやすくなります。

ただし、ビタミンB1が不足していても、他の栄養素のバランスがいい場合は、すぐに発症しません。食生活に偏りがあって、疲労感や倦怠(けんたい)感が続いている場合は、潜在的ビタミンB1欠乏症と考えて、食生活を改善する必要があります。

お勧めなのは玄米食。玄米にはビタミンB1が多く含まれているからで、玄米を精米した白米ではほぼ全部のビタミン類が取り除かれています。玄米のほかにビタミンB1を多く含む食品には、豚肉、うなぎ、枝豆、えんどう豆、大豆(だいず)、ごま、ピーナッツなどがあります。これらをうまく組み合わせて、ビタミンB1を摂取していきましょう。ビタミンB1を添加している強化米や強化精麦を利用するのも、1つの方法です。

ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症、ペラグラ)の治療は、ニコチン酸を含むビタミンB群の投与です。ニコチン酸アミドを1日50〜100mg投与し、他のビタミンBの欠乏を合併することも多いので、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6も併用して投与します。ビタミンB群は、お互いに協力しあって活動しているため、それぞれの成分だけではなく、ビタミンB群としてまとめて投与することが望ましい栄養素でもあります。

ニコチン酸の過剰症は特にありませんが、合成品のニコチン酸を100mg以上摂取すると、皮膚がヒリヒリしたり、かゆくなることがあります。とりわけ、ニコチン酸の摂取に際して注意が必要なのは、糖尿病の人です。ニコチン酸はインシュリンの合成に関与し、大量に摂取すると糖質の処理を妨げてしまいます。 一部の医薬品との相互作用を示唆するデータもあるため、すでに他の薬を服用中の場合は主治医に相談の上、ニコチン酸を摂取する必要があります。

ビタミンB12欠乏性ニューロパチーの治療は、菜食主義者に対してはサプリメントによって、胃の切除をした人などに対しては静脈注射や投薬によって、ビタミンB12を補給します。

よほど偏食しない限り、日常の食生活で不足することはありませんが、ビタミンB12の含有量が多いのは、魚肉を始め、カキ、アサリ、ホタテガイなどの貝類、牛や豚のレバー、牛肉、卵、牛乳などの動物性食品で、植物性食品にはほとんど含まれていません。ただし、しょうゆ、みそ、納豆などには、微生物によって作られるビタミンB12が含まれています。

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