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2022/08/14

🇬🇫ベルまひ(特発性顔面神経まひ)

 

顔面神経が侵されて、顔の筋肉の運動がまひする疾患で、原因不明なもの

ベルまひとは、顔面神経が侵されて、顔の筋肉の運動がまひする疾患。この疾患を報告した医師の名を付けてベルまひと呼ばれるほか、特発性顔面神経まひ、特発性末梢(まっしょう)性顔面神経まひとも呼ばれます。

原因はいまだ不明ですが、考えられる可能性としてはウイルス感染、アレルギー、局所浮腫(ふしゅ)、寒冷刺激などがあります。いずれにしても、顔面神経は顔面神経管と呼ばれる骨で取り囲まれた狭いトンネルを通って脳から外に出ますが、何らかの原因で顔面神経がはれると、顔面神経が圧迫されてまひが現れると見なされています。

一方、原因疾患が明らかな顔面神経まひは、症候性顔面神経まひと呼ばれます。症候性顔面神経まひの原因疾患として多いのは、単純性疱疹(ほうしん)、帯状疱疹などのヘルペスウイルス感染症で、一般的には口唇ヘルペスを患ったことがある人が突然の顔面神経まひで発症します。ほかには、腫瘍(しゅよう)や代謝疾患が原因となる場合もあります。

急性あるいは亜急性に発症します。症状は普通、片側だけに起こります。まれには、両側に起こります。侵された側の表情筋が緩むために、顔がゆがむ、額にしわが寄らず仮面様の顔付きになる、口の一方が曲がって食べ物やよだれが出てしまう、目が完全に閉じられない、などの症状が現れます。

そのほか、まひ側の舌の前方3分の2の味覚障害を伴うこともあり、物を食べた時、金属を口に入れたような感じがしたりします。まひ側の耳が過敏になり、音が大きく響くように感じることもあります。目が閉じにくいために目を涙で潤すことができず、夜間などに角膜が乾燥しやすくなるため、角膜に潰瘍(かいよう)ができることもあります。

まれには、帯状疱疹が耳たぶや内耳にできた場合に、激しいめまい、耳鳴り、歩行障害、味覚の消失とともに、顔面のまひが起こります

ベルまひの検査と診断と治療

基本的には耳鼻咽喉(いんこう)科の外来で治療可能な場合が多いのですが、検査が必要な場合、診断がはっきりしない場合、ベルまひ(特発性顔面神経まひ)や症候性顔面神経まひの程度が強い場合などでは、入院が必要です。

医師による診断は、典型的な顔の表情から比較的容易です。しかし、原因となる疾患がある症候性顔面神経まひの場合、両側に同時に発症したり何度も繰り返す場合などは、MRIなどの画像診断が必要です。サルコイドーシス、ライム病などの珍しい疾患で起こった可能性が疑われる場合には、血液検査などの検査が必要になります。障害の程度や回復の正確な評価のために、筋電図や誘発電位検査が行われることもあります。

ベルまひは治りやすい疾患で、まひが軽度であれば1~2カ月で完全に治ります。しかし、急性期にはステロイド剤、ビタミンB複合剤などを処方して治療を行います。マッサージや電気治療も行われます。また、目が閉じにくい場合、人工涙液を点眼して角膜を保護します。

帯状疱疹の治療では、原因療法として抗ウイルス剤、対症療法として消炎鎮痛剤が処方されます。抗ウイルス剤は、ウイルスの増殖を阻止して治癒を早めます。神経がまだ破壊されていない初期の段階で使用すれば、帯状疱疹後神経痛の予防が期待できます。

また、痛みがひどい場合は、神経ブロックを行って痛みを止める治療法が有効です。神経ブロックとは、局所麻酔剤を用いて、神経の流れを一時的に遮断する治療法です。この治療法によって血液循環がよくなるとともに、神経の緊張が和らぎ、その神経が支配している領域の痛みを止めることができるのです。

帯状疱疹が原因で起こった場合には、比較的、経過が長く、顔面まひがある程度残ることが多いようです。また、再生した顔面神経が本来の支配先と異なった筋を支配してしまった場合には、口を閉じると目が一緒に閉じたり、熱い物や冷たい物を食べた時に涙が出たりする異常連合運動が起こることがあります。

顔面神経まひでは、リハビリテーション療法も重要です。家庭でできるマッサージとしては、朝夕30分間ほど、手で額や目の周りの筋肉をゆっくりと回すようにしてマッサージしたり、まひした口角を引っ張り上げるようにしたり、顔面の筋肉を働かせるために百面相の練習をしたりすると、効果があります。

🇬🇫ペロニー病(陰茎形成性硬結症)

陰茎の皮膚の下に硬いしこりができる疾患

ペロニー病とは、陰茎の皮膚の下に硬いしこりができる疾患。疾患名は1743年に最初に報告したフランスの医師フランソワ・ジゴ・ラ・ペロニーにちなみ、陰茎形成性硬結症、形成性陰茎硬化症、陰茎硬化症、パイロニー病、ペイロニー病などとも呼ばれます。

30~70歳代の男性に多く、陰茎海綿体を包む白膜(はくまく)という結合組織に、線維性のしこり(硬結)ができます。白膜は伸び縮みする弾性線維と硬い膠原(こうげん)線維の組み合せでできていて、ある程度伸びると止まる構造になっていますが、膠原線維が増えてしこりになります。しこりは陰茎の陰嚢(いんのう)と反対側の面にできることが多く、すじ状のものから板状で骨のようなものまで、さまざまな形があります。

勃起(ぼっき)すると陰茎がしこりのある方向に曲がり、疼痛(とうつう)が起こることもあります。曲がり具合にもよりますが、十分な勃起が得られず、性交に支障を来すこともあります。

平常時は痛くもかゆくもなく、しこりそのものは無害と考えられ、自然によくなることもあります。逆に、徐々に進行することもあります。

詳細な原因は、まだよくわかっていません。慢性陰茎海綿体炎、糖尿病、痛風、外傷などとの関連が疑われています。手の小指や薬指の内側の腱(けん)が引きつって内側に曲がったり、手のひらや足の裏が短縮したりするデュプイトラン拘縮という疾患と一緒に現れることもあります。デュプイトラン拘縮は中年以降の男性に多くみられ、長期に渡るアルコール摂取が危険因子の一つと見なされ、糖尿病に合併することもあります。

ペロニー病らしいと思い当たり、性生活に支障を来すようであったり、ほかの疾患、例えば陰茎がんなどとの見極めが困難な場合は、泌尿器科などの医師に相談することが勧められます。

ペロニー病(陰茎形成性硬結症)の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、特徴的なしこり(硬結)の症状の視診、触診で確定できます。以前に打撲などによる外傷や炎症があったかどうかが、参考になります。超音波検査やMRI検査を行うと、しこりの厚さや大きさを観察でき、しばしば石灰化が確認できます。陰茎知覚異常がある場合には、振動覚測定を行います。

このペロニー病ががんになることはありませんが、しこりや痛みが同じように現れる陰茎がんとの見極めは難しく、正確に診断するためにしこりの一部を切除して組織検査を行うこともあります。

ペロニー病に特に有効な根本的な治療法はありませんが、勃起障害の原因となったり、痛みが起こる場合には、超音波治療(体外衝撃波治療)、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射ないし内服、コラーゲン分解酵素の局所注射、ビタミンEの内服、ヘパリン類似物質や非ステロイド系消炎鎮痛薬の軟こうの塗布などが試みられますが、あまり有効ではないようです。痛みが起こる場合には、放射線照射が有効とされています。

性交渉に障害が出るような場合、本人が希望すれば手術を行うこともあります。手術には、しこりがある反対側の白膜を切り詰めて湾曲を矯正する縫縮法(プリケーション法)と、白膜のしこり自体を切除し、欠損部に皮膚や静脈を移植する移植法の2つがあります。

通常、軽い場合は縫縮法、症状が進んでいれば移植法が行われます。縫縮法は湾曲の改善のみを目的とした方法で、移植法に比べて簡単ですが、しこりや痛みの改善はできないことと陰茎の短縮が問題となります。移植法も、手術後の瘢痕(はんこん)組織が硬化して手術前より悪化したり、切除しても再発することがあるのが問題となります。

いずれも2時間ぐらいの手術で、3日間程度のの入院が必要です。糖尿病のある人の場合は、血糖コントロールが必要のため入院期間が少し長くなります。縫縮法を局所麻酔で行う場合は、日帰り手術も可能です。

症状が進んで陰茎海綿体にまで影響するなど重い勃起障害がある場合は、陰茎の中に支柱材を埋め込むプロステーシス手術も検討されます。デュプイトラン拘縮が一緒に現れている場合は、 基本的に薬物療法や注射は治療効果がなく、手術による治療になります。 

🇬🇫変形性関節症

加齢や使いすぎで体の関節が変形することによって、痛みが生じる疾患

変形性関節症とは、加齢や使いすぎなどで体の関節が変形することによって、痛みが生じる疾患。

変形性関節症が発症する代表的な関節は、膝(しつ、ひざ)関節、股(こ)関節、足(そく)関節で、体重の負荷のかかる関節に多く発生します。肩関節、肘(ちゅう)関節、手関節、手指関節、脊椎椎間(せきついついかん)関節にも発症します。

ここでは、変形性膝関節症と変形性股関節症に触れます。

変形性膝関節症は、膝関節の軟骨が擦り減り、歩くと痛む疾患

変形性膝関節症は、関節の軟骨が傷んで擦り減り、歩く際に痛みが生じる疾患。加齢による老化変性を基盤として起こりますが、関節に過度の負担がかかったり、関節機構に異常があったりすると、軟骨の摩耗が加速されて、必ずしも中高年齢者でなくても発症します。

関節軟骨は、関節の骨の表面を覆っている厚さ2~7ミリ程度の層で、正常では透明感のある白色に輝いていて、表面は非常に滑らかですべすべしています。水を含んだスポンジのように、関節の水分を吸ったり出したりすることで、体重の負担を分散するクッションとして、その衝撃を軽くしています。また、関節軟骨同士の接触面は、摩擦による抵抗が非常に少なくなっています。関節軟骨の内容は、プロテオグリカン、コラーゲン、水からなっています。

しかし、中高年になると筋力が低下し、その筋力でカバーできない負担が継続的に掛かる仕事や、瞬間的に大きな負担がかかるスポーツなどで、関節軟骨が衝撃を吸収しきれなくなると傷んでしまいます。関節軟骨はその構造上、表面がいったん傷んでくると、元に戻りにくく、だんだん擦り減って悪くなる傾向があります。

変形性膝関節症は中高年齢者に多く、50歳代で発症し、65歳以上で急増します。また、男性に比べ2~4倍、女性に多いのも特徴です。肥満している人、O脚変形(いわゆる、がにまた)のある人にもよくみられ、O脚では内側に過度な体重、圧迫が加わることになり、内側の軟骨の摩耗が進んでいきます。

症状としては、膝関節のはれや、こわばっている感じがし、正座ができなくなります。歩き始めに膝が痛みますが、少し歩いているうちに楽になり、また歩きすぎると痛みが出てきます。

片側の膝だけに発症することもありますが、両側性のこともしばしばあります。症状が進行すると、関節内に水、すなわち増量した関節液がたまってくるようになり、関節の透き間から前内側膝蓋(しつがい)部にかけて押すと痛むところが現れます。さらに進行すると、膝関節を完全に伸ばすことができなくなり、屈曲も制限され、関節が側方にぐらつくようになることもあります。

変形性股関節症は、関節の老化変性などで、股関節が痛み、動きも悪化する疾患

変形性股関節症とは、関節軟骨の変性や摩耗に始まり、さまざまな関節変化が進行する疾患。

年を取っていくに従って、骨や関節にも老化が現れてきて、関節軟骨は次第に消耗して擦り切れ、軟骨の下の骨が現れ、関節の端のほうでは骨のとげが出てきて関節が変形してきます。このように変形性関節症は老化変性を基盤とする疾患ですが、関節に過度の負担がかかったり、関節機構に異常があったりすると、軟骨変性が加速されて、必ずしも老人でなくても同様な変化が生じてきます。

日本では、変形性股関節症の大多数が、先天性股関節脱臼(だっきゅう)後に生じる二次性のものです。もちろん、先天性股関節脱臼がほぼ完全に治癒すれば、変形性股関節症にはなりませんが、往々、程度の差こそあれ関節不適合を残して治ります。このような場合には、年月の経過とともに、次第に変形性股関節症へと進展していきます。

この先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全に起因する変形性股関節症がほとんどで、その大部分が女性に起こります。このほか、ペルテス病、大腿(だいたい)骨頭壊死(えし)、大腿骨頭すべり症、外傷などに起因するものもあります。

臼蓋形成不全は、股関節の屋根の作りが浅いものです。股関節で大腿骨頭を受け入れる部分を股臼といい、骨頭にかぶさり体重を支える部分の股臼が、この臼蓋です。

変形性股関節症の症状としては、初めのころは歩きすぎたり、スポーツ後などに股関節部の痛みや疲れやすさを感じます。休息すればよくなりますが、繰り返すうちに痛みが強くなり、遠距離を歩かなくても、あるいは少し歩いただけでも痛みが起こり、足を引きずるようになってきます。股関節の動きも悪くなって、靴下の着脱や足のつめ切りなどが不自由になります。

痛みは股関節部に限らず、臀部(でんぶ)、大腿部、あるいは膝上部に起こることもあり、注意が必要です。

変形性関節症の検査と診断と治療

変形性膝関節症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断は、年齢、臨床所見、X線所見から行います。X線(レントゲン)検査を行うと、関節の端に骨の出っ張りがみられ、関節の透き間が狭くなったり、軟骨下骨の組織が硬化している像などがみられます。膝関節が内側に反るように変形し、下腿軸の異常が起こります。そのため、荷重した状態で下肢の全長正面像を撮影することが重要になります。

さらに、関節造影や関節鏡を行うことで、より正確なものになります。鑑別診断で重要なものは、関節リウマチと膝関節結核との区別です。

整形外科の医師による治療では、まず関節になるべく負担をかけないように注意することが大切で、肥満を避けたり、無理な運動をしないようにします。やむを得ず比較的長距離を歩かなければならないような場合には、膝のサポーターも有用です。

しかし、膝が悪いからといって、ほとんど歩かないようにしては、かえって膝に悪影響を及ぼします。関節は動かすことによって、生理的な状態が維持されるので、体重負荷がかからないようにした膝関節の屈伸運動で、太ももの前面の大腿四頭筋の強化を図ります。

まず、いすに腰掛けて、片方の足を上げて、膝をピンと伸ばします。太ももの前面の特に膝の内側に力こぶができるように、しっかり力を入れます。そのまま、数秒間足を上げたまま止めます。この一連の運動を左右交互に行って1度に10回から20回、これを1日に2~3回を目安に行うと効果的です。足首に抵抗となるおもりをつけて行えば、より効果的です。

筋力がかなり落ちている場合や、膝関節痛が強い場合は、かかとを床に着けたままで、太ももの前面に力こぶを作る運動をします。このような運動は頑張れば必ず効果が出て、膝関節の安定性と関節水腫(すいしゅ)の改善が期待できますので、少なくとも2、3カ月は続けてみましょう。

そのほか、自転車乗りや平泳ぎ以外の水泳、水中ウオーキングなども、膝に負担のかからない運動として適している上、減量にもつながります。

症状が強く、関節内に水がたまってくるような場合には、感染に対する厳重な注意の下で関節穿刺(せんし)が行われ水を吸引してから、炎症を抑えるためにヒアルロン酸、または副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を注入することもあります。

ヒアルロン酸は、軟骨の一成分で、関節液中にも存在する関節の潤滑油でもあります。変形性膝関節症ではヒアルロン酸の量が減るため、注射で補うことで、痛みを和らげ、炎症を抑え、関節の動きをよくするなどの効果があるといわれています。副腎皮質ホルモンには、強い炎症止めの効果と鎮痛効果がありますが、あまり頻繁に使用すると、副作用が多くなるといわれています。

また、膝の変形、特に片足で立った時にO脚変形が著明で、主に体重が関節の内側だけにかかるような場合には、O脚を改善させる足底板の装着が有効です。足底板の装着で治療が期待できない場合には、手術も行われます。まだ変形を起こしていない関節面が残っている場合に、脛骨(けいこつ)の骨切りを行って、体重が関節全体に均等にかかるようにします。

変形性の変化が重度である場合は、人工関節全置換術の対象になります。これらの手術で痛みは明らかに改善しますが、術後の合併症である血栓症による肺梗塞(こうそく)、脳梗塞、心筋梗塞の発生に十分注意を払う必要があります。

変形性股関節症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行うと、大腿骨頭は変形し、関節の透き間が狭くなり、骨頭や臼蓋の骨に丸く、薄くなって抜けている部分や、関節端のほうでは骨の出っ張りなどがみられ、変形性股関節症の診断がつけられます。

整形外科の医師による治療では、変形性股関節症にはつえの使用が有効で、1本のつえを使うと、股関節への荷重が約4分の1から5分の1くらいに減ります。比較的安静をとり、薬で痛みが抑えられる間はよいのですが、痛みが抑えられなかったり、次第に痛みが強くなっていく場合には、手術的手段が行われます。

手術方法にはいくつもの種類があり、個人に最も適していると思われる方法がとられます。

股関節周辺の筋肉を切り離し、関節に加わる力の軽減を図る簡単な筋離開術から、荷重面積の増加を目的とする骨切り術、股関節形成術や股関節を全部人工のものと置き換える人工関節置換術などがとられます。また、片側のみを発症した比較的若い人で、立ち仕事や重労働をしなければならない場合には、股関節をよい角度で固定する関節固定術もとられます。

変形性股関節症の本態から考えてみても、進行を食い止めることはできません。しかし、股関節にかかる負担を軽くすることで、進行のスピードを遅らせたり、痛みなどの症状の改善を得ることができます。つえを使うほか、筋力を強化すること、太っている人は管理栄養士による食事指導と運動処方によって体重を減らすことが、やはり股関節への負担を軽減することになります。

たとえ自覚症状には変化がなくても、数カ月から半年くらいに1度は、必ず医師の診察を受け、病態を把握しておくことも必要です。

🇸🇷変形性頸椎症

首の椎間板と椎骨の変性により、脊髄や神経根が圧迫される疾患

変形性頸椎(けいつい)症とは、首の椎間板と椎骨の変性により、脊髄(せきずい)や神経根が圧迫される疾患。頸椎症、頸椎椎間板変性症、頸椎椎間板症、頸部脊椎症、頸椎骨軟骨症などは、多少の違いはありますが、変形性頸椎症とほぼ同じ意味で使われています。

背骨のうちで首の部分を構成する骨が頸椎であり、7つの椎骨からなります。上から第1頸椎、第2頸椎と呼び、一番下が第7頸椎。第2〜7頸椎までは、それぞれの間に椎間板が挟まっていて、椎骨と椎骨の間でクッションのような役割を果たしています。この椎間板は円板状の軟骨組織で、中心部に髄核と呼ばれるゼラチン状の軟らかい組織があり、それを線維輪と呼ばれる丈夫な組織が取り囲んでいます。

変形性頸椎症は通常、中年や高齢者に発症します。中年を過ぎると、骨や軟骨の老化のため、椎間板がつぶれ、骨の丸みがなくなり、椎骨の円柱状の部分である椎体の間の透き間が狭くなり、神経根の通路である椎間孔、あるいは脊髄を入れる脊柱管が狭くなってきます。

その結果、腕のほうへいく神経根が圧迫されて、肩や腕の痛みやしびれが起こったり、脊髄が圧迫されて、下肢のしびれ、知覚鈍麻、痙性(れんせい)まひが起こることがあります。

頸部の症状としては、肩や首の筋肉が緊張して肩凝りなどがみられたり、圧痛がみられます。また、頸部を前屈したり後屈した時に、後頸部から肩、上肢に放散する痛みが現れます。

上肢の症状としては、片側または両側の上肢の痛みとともに脱力感、疲労感、手指の感覚異常、冷感、こわばりを感じることがあります。また、手先の仕事、字を書く、物をつまむなどの動作ができにくくなり、時間がかかるようになります。

手指の感覚異常は圧迫部位の高さに一致しており、例えば第5頸椎椎間板による圧迫時は親指、第6頸椎椎間板の圧迫時は中指、第7頸椎椎間板の圧迫時は小指にそれぞれ感覚異常を来します。症状が進行すると、手の筋肉が委縮したり、皮膚温の低下、発汗異常、手指の変形などがみられます。

脊髄に圧迫が起こると下肢の症状が現れ、脚が震えるようになり歩行が不安定になる歩行障害、便秘、排尿障害などの症状が現れます。

また、椎骨の変形により頭蓋(ずがい)内に行く椎骨動脈が圧迫されると、首を曲げた時などに血行障害が起こり、めまいを引き起こすこともあります。頭痛、耳鳴りなどを引き起こすこともあります。

変形性頸椎症の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、首を横に曲げ、頭部を圧迫した時に上腕に痛みが走ったり、首を軽く後方へ曲げ、頭部を圧迫した時に上腕に痛みが走れば、この変形性頸椎症が疑われます。頸椎の単純X線写真で、椎体骨の偏平化、硬化、とげ状の突起である骨棘(こっきょく)形成、椎体間腔(かんくう)の狭小化の所見がみられれば、診断はほぼ確実です。

脊髄や神経根の圧迫の状態をみるには頸部MRI検査が有用で、脊柱管のどこが狭くなっているか、どのように脊髄が圧迫されているか、どの神経根が圧迫されているかなどがわかります。

整形外科、神経内科の医師による治療では、神経根の圧迫症状に対しては、頸部周囲の筋肉の緊張を和らげる治療を行います。就寝時の姿勢も大切で、枕の高さを調節して軽度の前屈位をとるようにします。

薬物療法としては、非ステロイド性消炎剤や筋弛緩(きんしかん)剤が有効です。痛みが強い時は、局所の安静のために頸椎固定用のカラー(えり巻き式補装具)を首に装着します。

そのほかの理学療法としては、血行を促進し筋肉の凝りや痛みを軽減するホットパックなどの温熱療法、頸椎牽引(けんいん)療法、低周波治療、レーザー治療などがあります。頸椎牽引療法では、首の牽引と休止を繰り返すことにより、痛み、しびれを緩和します。

早期に牽引やカラーを用いた装具療法を行えば、症状の進行をかなり食い止めることができます。症状が進行している時や、MRI検査によって重度の椎骨圧迫や脱臼(だっきゅう)がみられる時は、手術による治療が行われます。基本的には手術によっても、すでに起きてしまった障害は元には戻せません。

🇸🇷変形性股関節症

関節の老化変性などで、股関節が痛み、動きも悪化

変形性股(こ)関節症とは、関節軟骨の変性や摩耗に始まり、さまざまな関節変化が進行する疾患。

年を取っていくに従って、骨や関節にも老化が現れてきて、関節軟骨は次第に消耗して擦り切れ、軟骨の下の骨が現れ、関節の端のほうでは骨のとげが出てきて関節が変形してきます。このように変形性関節症は老化変性を基盤とする疾患ですが、関節に過度の負担がかかったり、関節機構に異常があったりすると、軟骨変性が加速されて、必ずしも老人でなくても同様な変化が生じてきます。

日本では、変形性股関節症の大多数が、先天性股関節脱臼(だっきゅう)後に生じる二次性のものです。もちろん、先天性股関節脱臼がほぼ完全に治癒すれば、変形性股関節症にはなりませんが、往々、程度の差こそあれ関節不適合を残して治ります。このような場合には、年月の経過とともに、次第に変形性股関節症へと進展していきます。

この先天性股関節脱臼や臼蓋(きゅうがい)形成不全に起因する変形性股関節症がほとんどで、その大部分が女性に起こります。このほか、ペルテス病、大腿(だいたい)骨頭壊死(えし)、大腿骨頭すべり症、外傷などに起因するものもあります。

臼蓋(きゅうがい)形成不全は、股関節の屋根の作りが浅いものです。股関節で大腿骨頭を受け入れる部分を股臼といい、骨頭にかぶさり体重を支える部分の股臼が、この臼蓋です。

変形性股関節症の症状としては、初めのころは歩きすぎたり、スポーツ後などに股関節部の痛みや疲れやすさを感じます。休息すればよくなりますが、繰り返すうちに痛みが強くなり、遠距離を歩かなくても、あるいは少し歩いただけでも痛みが起こり、足を引きずるようになってきます。股関節の動きも悪くなって、靴下の着脱や足のつめ切りなどが不自由になります。

痛みは股関節部に限らず、臀部(でんぶ)、大腿部、あるいは膝上部に起こることもあり、注意が必要です。

変形性股関節症の検査と診断と治療

X線検査を行うと、大腿骨頭は変形し、関節の透き間が狭くなり、骨頭や臼蓋の骨に丸く、薄くなって抜けている部分や、関節端のほうでは骨の出っ張りなどがみられ、変形性股関節症の診断がつけられます。

変形性股関節症にはつえの使用が有効で、1本のつえを使うと、股関節への荷重が約4分の1から5分の1くらいに減ります。比較的安静をとり、薬で痛みが抑えられる間はよいのですが、痛みが抑えられなかったり、次第に痛みが強くなっていく場合には、手術的手段が行われます。

手術方法にはいくつもの種類があり、個人に最も適していると思われる方法がとられます。

股関節周辺の筋肉を切り離し、関節に加わる力の軽減を図る簡単な筋離開術から、荷重面積の増加を目的とする骨切り術、股関節形成術や股関節を全部人工のものと置き換える人工関節置換術などがとられます。また、片側のみを発症した比較的若い人で、立ち仕事や重労働をしなければならない場合には、股関節をよい角度で固定する関節固定術もとられます。

疾患の本態から考えてみても、進行を食い止めることはできません。しかし、股関節にかかる負担を軽くすることで、進行のスピードを遅らせたり、痛みなどの症状の改善を得ることができます。つえを使うほか、筋力を強化すること、太っている人は管理栄養士による食事指導と運動処方によって体重を減らすことが、やはり股関節への負担を軽減することになります。

たとえ自覚症状には変化がなくても、数カ月から半年くらいに1度は、必ず医師の診察を受け、病態を把握しておくことも必要です。

🇸🇷変形性膝関節症

膝関節の軟骨が擦り減り、歩くと痛む疾患

変形性膝(しつ、ひざ)関節症とは、関節の軟骨が傷んで擦り減り、歩く際に痛みが生じる疾患。老化変性を基盤として起こりますが、関節に過度の負担がかかったり、関節機構に異常があったりすると、軟骨の摩耗が加速されて、必ずしも中高年齢者でなくても発症します。

関節軟骨は、関節の骨の表面を覆っている厚さ2~7mm程度の層で、正常では透明感のある白色に輝いていて、表面は非常に滑らかですべすべしています。水を含んだスポンジのように、関節の水分を吸ったり出したりすることで、体重の負担を分散するクッションとして、その衝撃を軽くしています。また、関節軟骨同士の接触面は、摩擦による抵抗が非常に少なくなっています。関節軟骨の内容は、プロテオグリカン、コラーゲン、水からなっています。

しかし、中高年になると筋力が低下し、その筋力でカバーできない負担が継続的に掛かる仕事や、瞬間的に大きな負担がかかるスポーツなどで、関節軟骨が衝撃を吸収しきれなくなると傷んでしまいます。関節軟骨はその構造上、表面がいったん傷んでくると、元に戻りにくく、だんだん擦り減って悪くなる傾向があります。

変形性膝関節症は中高年齢者に多く、50歳代で発症し、65歳以上で急増します。また、男性に比べ2~4倍、女性に多いのも特徴です。肥満している人、O脚変形(いわゆる、がにまた)のある人にもよくみられ、O脚では内側に過度な体重、圧迫が加わることになり、内側の軟骨の摩耗が進んでいきます。

症状としては、膝関節のはれや、こわばっている感じがし、正座ができなくなります。歩き始めに膝が痛みますが、少し歩いているうちに楽になり、また歩きすぎると痛みが出てきます。

片側の膝だけに発症することもありますが、両側性のこともしばしばあります。症状が進行すると、関節内に水、すなわち増量した関節液がたまってくるようになり、関節のすきまから前内側膝蓋(しつがい)部にかけて押すと痛むところが現れます。さらに進行すると、膝関節を完全に伸ばすことができなくなり、屈曲も制限され、関節が側方にぐらつくようになることもあります。

変形性膝関節症の検査と診断と治療

X線写真では、関節の端に骨の出っ張りがみられ、関節の透き間が狭くなったり、軟骨下骨の組織が硬化している像などがみられます。膝関節が内側に反るように変形し、下腿(かたい)軸の異常が起こります。そのため、荷重した状態で下肢の全長正面像を撮影することが重要になります。

診断は年齢、臨床所見、X線所見から行います。さらに、関節造影や関節鏡を行うことで、より正確なものになります。鑑別診断で重要なものは、関節リウマチと膝関節結核との区別です。

治療上で注意することは、まず関節になるべく負担をかけないようにすることで、肥満を避けたり、無理な運動をしないようにします。やむを得ず比較的長距離を歩かなければならないような場合には、膝のサポーターも有用です。

しかし、膝が悪いからといって、ほとんど歩かないようにしては、かえって膝に悪影響を及ぼします。関節は動かすことによって、生理的な状態が維持されるので、体重負荷がかからないようにした膝関節の屈伸運動で、太ももの前面の大腿(だいたい)四頭筋の強化を図ります。

まず、いすに腰掛けて、片方の足を上げて、膝をピンと伸ばします。太ももの前面の特に膝の内側に力こぶができるように、しっかり力を入れます。そのまま、数秒間足を上げたまま止めます。この一連の運動を左右交互に行なって1度に10回から20回、これを1日に2~3回を目安に行なうと効果的です。足首に抵抗となるおもりをつけて行えば、より効果的です。

筋力がかなり落ちている場合や、膝関節痛が強い場合は、かかとを床に着けたままで、太ももの前面に力こぶを作る運動をします。このような運動は頑張れば必ず効果が出て、膝関節の安定性と関節水腫(すいしゅ)の改善が期待できますので、少なくとも2、3カ月は続けてみましょう。

そのほか、自転車乗りや平泳ぎ以外の水泳、水中ウオーキングなども、膝に負担のかからない運動として適している上、減量にもつながります。

症状が強く、関節内に水がたまってくるような場合には、感染に対する厳重な注意の下で関節穿刺(せんし)が行われ水を吸引してから、炎症を抑えるためにヒアルロン酸、または副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を注入することもあります。

ヒアルロン酸は、軟骨の一成分で、関節液中にも存在する関節の潤滑油でもあります。変形性膝関節症ではヒアルロン酸の量が減るため、注射で補うことで、痛みを和らげ、炎症を抑え、関節の動きをよくするなどの効果があるといわれています。副腎皮質ホルモンには、強い炎症止めの効果と鎮痛効果がありますが、あまり頻繁に使用すると、副作用が多くなるといわれています。

また、膝の変形、特に片足で立った時にO脚変形が著明で、主に体重が関節の内側だけにかかるような場合には、O脚を改善させる足底板の装着が有効です。足底板の装着で治療が期待できない場合には、手術も行われます。まだ変形を起こしていない関節面が残っている場合に、脛骨(けいこつ)の骨切りを行って、体重が関節全体に均等にかかるようにします。

変形性の変化が重度である場合は、人工関節全置換術の対象になります。これらの手術で痛みは明らかに改善しますが、術後の合併症である血栓症による肺梗塞(こうそく)、脳梗塞、心筋梗塞の発生に十分注意を払う必要があります。

🇬🇾変形性足関節症

足首の関節の軟骨が擦り減ったり、骨の変形が生じたりする疾患

変形性足(そく)関節症とは、長年の使用による老化や、過度の負担、外傷などによって、足関節の軟骨が擦り減ったり、骨の変形が生じたりする疾患。

変形性関節症が足関節、すなわち足首の関節に起こったものですが、股(こ)関節や膝(しつ)関節に起こる変形性関節症に比べると、まれな疾患です。

関節の軟骨は、関節の骨の表面を覆っている厚さ2~7ミリ程度の層で、正常では透明感のある白色に輝いていて、表面は非常に滑らかですべすべしています。水を含んだスポンジのように、関節の水分を吸ったり出したりすることで、体重の負担を分散するクッションとして、その衝撃を軽くしています。また、関節軟骨同士の接触面は、摩擦による抵抗が非常に少なくなっています。関節軟骨の内容は、プロテオグリカン、コラーゲン、水からなっています。

しかし、中高年になると筋力が低下し、その筋力でカバーできない負担が継続的に掛かる仕事や、瞬間的に大きな負担がかかるスポーツなどで、関節軟骨が衝撃を吸収しきれなくなると傷んでしまいます。関節軟骨はその構造上、表面がいったん傷んでくると、元に戻りにくく、だんだん擦り減って悪くなる傾向があります。

変形性股関節症や変形性膝関節症の場合は老化で起きる割合が高いのですが、変形性足関節症の場合は老化によるものは1〜2割。大半は、過去の骨折や捻挫(ねんざ)などの外傷が原因となって、長い年月を経て徐々に足首の関節の軟骨に変形が生じ、障害が起こるものです。

足関節の骨折や捻挫の後の靱帯(じんたい)損傷、関節の不安定、関節面の不整、関節の中の骨片(こっぺん)、骨棘(こっきょく)と呼ばれる骨の突出、化膿(かのう)性関節炎、骨壊死(えし)などが原因となって起こることもあります。骨折や捻挫などの治療を中途半端にして放置しないことが、重要です。

症状としては、歩き始め、階段の昇降、長時間の歩行や立ち仕事の後に、足首の痛みが起こります。徐々に足首のはれや変形が起こり、動きが制限され、正座や坂道での歩行が不自由になります。

ひどくなると、足首の関節の軟骨が消失して、骨と骨が直接こすれ合うようになり、痛みや機能障害が増大していきます。片側の足首の関節だけに発症することもありますが、両側性のこともあります。

足首の関節の痛みやはれ、正座ができないなどの症状が長引くようであれば、変形性足関節症の可能性もありますので、整形外科の受診が勧められます。

変形性足関節症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、歩行状態、足関節の変形、はれや痛みの部位、動きなどの診察と、X線(レントゲン)検査を行います。X線検査では、軟骨が擦り減って足関節の間が狭くなっていたり、骨棘ができていたり、足関節の軟骨が完全になくなっていたりするのが確認されます。

整形外科の医師による治療では、まずは痛みに対して安静、足首への荷重を変えて痛みを軽減する足底装具、足関節サポーター、湿布、塗り薬、痛み止めの内服薬、温熱療法、理学療法などを用いた保存的治療を行います。炎症と痛みを和らげるために、局所麻酔剤とステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の関節内注射を行うこともあります。

進行を抑えるため、体重の増加を防ぐことや、足首に負担がかかる無理な運動を控えることも大切です。

足関節に重度の変形があり、歩行困難など日常生活に支障がある場合には、手術による治療が必要となります。手術では、原因や症状、年齢、性別、活動性などを考慮して、適切な術式を選択します。

足関節の中に擦り減った軟骨の骨片がある場合は、関節鏡という内視鏡を使って摘出します。捻挫を繰り返したことが原因の靱帯損傷によって、足関節がひどく不安定な場合は、足関節外側靱帯の再建術を行います。

また、主に若年の人に対しては、足関節の機能を温存する骨切り術や関節牽引(けんいん)形成術を行います。主に中年以降の人に対しては、長期にわたって痛みを確実に取り除く足関節固定術や人工足関節置換術を行います。

骨切り術では、斜めに足関節の骨を切り、広げた透き間に骨盤からの骨を移植します。足関節の安定性が得られ、痛みは軽減し、足首の動きが残ります。

関節牽引形成術では、創外固定器と呼ばれる器具を足に装着して牽引し、足関節の透き間を作ります。手術後は、器具を装着したまま、足首を動かす練習をすることで、足関節が再生する可能性があります。痛みも軽減することが多く、足首の動きも残ります。

足関節固定術では、痛んだ足関節の軟骨を削り、足関節が動かなくなるように固定します。痛みは軽快しますが、足首の動きがなくなります。

人工足関節置換術では、痛んだ足関節の軟骨を削り、人工の関節を挿入します。痛みが軽快し、足首の動きも残ります。しかし、骨の質が十分で、靭帯のバランスがよいなど、この手術ができる人はかなり限られています。

🇬🇾変形性肘関節症

肘の関節内の軟骨が擦り減ったり、骨の変形が生じたりして、痛みが起こる疾患

変形性肘(ちゅう)関節症とは、長年の使用や肘(ひじ)に繰り返される過度の負担によって、肘の関節内の軟骨が擦り減ったり、骨の変形が生じたりする疾患。

肘の関節は上腕骨と橈(とう)骨と尺(しゃく)骨という3骨の間に生じた複関節であり、その周りは靭帯(じんたい)や腱(けん)などによって支えられています。関節を形成している骨の先端は、関節軟骨に覆われており、骨にかかる衝撃を和らげるクッションのような役割を果たしています。

変形性肘関節症を発症すると、肘の関節の軟骨部分が擦り減って、肘に変形や痛みなどが起こってきます。

中には、骨折、脱臼(だっきゅう)などの外傷後や血友病、先天異常などに伴って起こるものもありますが、ほとんどは、肘の長年にわたる使いすぎが原因で起こります。そのため、変形性肘関節症は中高年に多く、しかもその大半が大工などの仕事や、野球などの激しいスポーツで、肘を酷使し続けてきた人たちに起こります。

左右両方の肘の関節に起こることもありますが、一般には利き腕側の肘に発症することが多いようです。

肘の酷使によって、骨の軟骨部分が擦り減ると、硬い骨同士が直接接触することになり、関節の安定性が悪くなります。さらに、骨と骨とが擦れ合うため、骨の端には骨棘(こっきょく)という骨のとげができてきます。また、骨の一部がはがれ、その欠けらが関節遊離体(関節ねずみ)となって、関節内を移動する場合もあります。こうした骨棘や関節遊離体が、肘の関節の障害を引き起こす原因になります。

変形性肘関節症を発症すると、関節の変形に伴って、肘の痛みが、徐々に現れてきます。しかし、肘の関節には体重があまりかからないため、肘を使わなければ痛むことはあまりなく、主に仕事やスポーツなどで肘を使った後に痛みが起こります。

放置していると、肘の関節の変形が進み、肘を十分に曲げ伸ばしすることが難しくなってきます。そのため、洗顔や食事、衣服の着脱などの日常生活に支障を来すようになります。

また、肘の変形や骨棘、関節遊離体などによって、肘の内側の皮膚表面近くを通る尺骨神経が障害される肘部管(ちゅうぶかん)症候群が引き起こされる場合もあります。

肘部管症候群を併発すると、小指と小指側の薬指半分がしびれたり、触った感じが鈍くなったりし、それに引き続いて、手の筋肉の委縮や握力の低下などが起こってきます。こうした指のしびれや手の筋肉の委縮によって、異常に気が付く場合もあります。

肘の関節に痛みがあり、反対側の肘と比べて動きが悪く日常生活に支障がある場合や、手にしびれがある場合には、変形性肘関節症の可能性もあるため、整形外科を受診することが勧められます。

変形性肘関節症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、肘の動きや痛みの部位の診察と、X線(レントゲン)検査を行います。X線検査では、ひじを前後方向と側方向から撮影し、関節軟骨の擦り減り、骨棘、関節内遊離体がないかなどを調べます。骨棘、関節内遊離体の位置、大きさなどを把握するには、CT(コンピューター断層撮影)検査が有用です。

また、手や指を筆や針で刺激して感覚障害の有無を調べ、肘部管症候群を鑑別します。握力測定を行って握力が低下していれば、肘部管症候群を起こしている可能性が高くなります。

整形外科の医師による治療では、まずは痛みに対して安静、ホットパックや電気治療などの理学療法、湿布や痛み止めの内服薬を用いた保存的治療を行います。

関節の動きが悪く、肘を曲げて口に手が届かない、トイレの始末ができないなど日常生活での支障がある場合には、直視下での切開または関節鏡を用いて、関節の動きをじゃましている関節内の骨棘、関節内遊離体の切除を行う関節形成術を行います。

変形と痛みが強い場合には、人工関節で関節を置き換える手術も行います。 神経の症状がある場合には、尺骨神経への圧迫を取り除く手術を行います。

手術後は、無理をすると再び変形性肘関節症が進行し出す場合もあるので、肘を酷使しないようにすることが大切です。また、肘の関節にかかる負担を軽くするために、事前に医師と相談の上、腕の筋力アップを図ったり、肘の動きをよくするための運動を積極的に行うことも大切です。

2022/08/10

🇸🇾変形性母指手根中手関節症

母指の付け根の関節軟骨が擦り減ることによって生じる疾患

変形性母指手根中手(しゅこんちゅうしゅ)関節症とは、母指(親指)の付け根の関節軟骨が擦り減り、骨どうしが直接ぶつかり合うことで痛みを覚える疾患。母指CM関節症、母指変形性CM関節症とも呼ばれます。

母指の手根中手関節はCM関節とも呼ばれ、指の手前の甲の骨である第1中手骨と、手首の小さい骨である大菱形骨(だいりょうけいこつ)の間にある関節で、母指が他の指と向き合って、物をつまんだり、握ったりなどの動作をする上で、大きな働きを担っています。

そのぶん使いすぎや老化に伴って、関節軟骨の摩耗が起きやすく、進行すると関節がはれ、第1中手骨の基部が外側に亜脱臼(あだっきゅう)してきて、母指が変形してきます。

変形性母指手根中手関節症を発症すると、物をつまむ時や瓶のふたを開ける時など母指に力を必要とする動作で、母指の付け根付近に痛みが出ます。進行すると、この付近が膨らんできて、母指が横に開きにくくなります。また、母指の先にある関節が曲がり、手前の関節が反った白鳥の首と呼ばれる変形を示してきます。

ひどくなると安静時にも痛かったり、変形が気になるようになってきます。

中高年女性に多く見られ、手芸や園芸など手をよく使う趣味を持つ人だけでなく、特に何もしていない人でも発症します。近年は高齢化により、発症者数は急増しています。

母指の異変を感じたら、早めに整形外科を受診することが勧められます。素人判断で市販薬を用いたり、自己流の対応をとったりして受診を先延ばしにしていると、病状の悪化を招くことになります。

変形性母指手根中手関節症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行います。X線写真で、母指手根中手関節の透き間が狭く、関節軟骨が擦り減って骨が直接ぶつかり合った部位に骨棘(こつきょく)と呼ばれる小さな突起があったり、時に亜脱臼が認められると、確定できます。

区別しなければならない疾患には、手首の母指側の腱鞘(けんしょう)炎であるドケルバン病や、リウマチによる関節炎があります。

整形外科の医師による治療では、痛みが軽いうちは消炎鎮痛剤入りの湿布剤などの外用薬を用います。また、関節保護用の軟性装具を着けるか、固めの包帯を母指から手首にかけて8の字型に巻いて動きを制限し、痛みの軽減を図ります。

それでも不十分な際は、消炎鎮痛剤の内服、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の関節内注射を行います。

痛みが強く、亜脱臼を伴う高度な関節の変形や母指の白鳥の首変形が見られる際には、大菱形骨の一部を取り除いて関節を作り直す関節形成術、関節を動かないように固定する関節固定術、人工関節を使う人工関節置換術などの手術を行います。

🇸🇾変形性腰椎症

腰に5つある腰椎の加齢による変化によって、腰痛が起こる疾患

変形性腰椎(ようつい)症とは、腰に5つある腰椎の加齢による変化によって、腰痛が起こる疾患。腰部変形性脊椎(せきつい)症とも呼ばれます。

腰椎は上から第1腰椎、第2腰椎と呼び、一番下が第5腰椎です。それぞれの間には、軟骨である椎間板が挟まっていて、クッションのような働きをしています。

変形性腰椎症の主な原因は、加齢です。年齢を加えることによって、椎間板が変性して弾力性が失われ、クッション作用が弱くなります。その結果、腰椎同士がぶつかったり、椎間関節や靭帯(じんたい)組織などが擦り減ったりすると、腰椎は刺激されて骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨の突出ができたり、腰椎の並びにずれが生じて変形し、筋肉組織を含め腰部の痛みやだるさなどの局所症状が起こります。

腰椎の変性、変形を増悪させる要因としては、重労働や遺伝的素因などが挙げられます。

変形性腰椎症の主な症状は、腰部の痛みやだるさ。通常は、朝の起床時などの動作開始時に強く、動いているうちに軽減します。長時間の同一姿勢でも、腰痛やだるさは増強します。

腰痛の部位は、腰部全体に漠然と感じる場合や、腰椎の後端が隆起した棘突起の骨組織の周囲であったり、 脊椎の両側にある傍脊柱筋であったりとさまざまです。また、臀部(でんぶ)や大腿(だいたい)後面まで痛みを感じたり、下肢のしびれや冷感を覚えることもあります。

腰椎に変形が起こると、姿勢が悪くなります。腰椎の変形が高度になると、外見上も体が側方に曲がって側湾になったり、後ろに曲がって後湾(いわゆる腰曲がり)が起こったりし、腰痛のため長時間の立位が困難になってきます。

変形性腰椎症による腰椎の変形があっても、痛みがなければ特に問題はなく、今までどおりの生活を送ってかまいません。しかし、腰痛はさまざまな疾患の症状として現れますので、症状に変化があれば整形外科を受診して検査を受けたほうがよいでしょう。

変形性腰椎症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、腰痛が主体で下肢症状があっても軽微な場合に、X線(レントゲン)検査で骨組織の加齢による変化を確認し、さらにそのほかの疾患を除外することで変形性腰痛症と確定します。

X線検査で加齢による変化が認められても、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症、腰椎すべり症などでは下肢の症状が主体になることが多く、変形性腰痛症とは区別されます。腰痛を起こす脊椎以外の疾患、すなわち腎(じん)臓や膵(すい)臓などの内臓疾患や婦人科疾患、さらに解離性大動脈瘤(りゅう)なども、除外する疾患として挙げられます。

🇮🇱便失禁

排便や排ガスを十分にコントロールできない状態

便失禁とは、排便や排ガスを十分にコントロールできない状態。

便意を催してからトイレに行くまで我慢できずに失禁するタイプの切迫性便失禁と、便意を感じないままに無意識のうちに便が漏れるタイプの漏出性便失禁があり、両方を併せ持つタイプもみられます。

便失禁の原因には、いろいろなものがあります。原因のうち最も多いものとして、出産時の肛門周辺の筋肉の損傷があります。排便には内肛門括約筋、外肛門括約筋、肛門挙筋、恥骨直腸筋という4種類の筋肉が関与していますが、出産の際に肛門括約筋などが傷付き、その伸縮自在の筋肉の強さが低下することで便失禁、ガス失禁、下着が汚れる、肛門がただれてかゆくなる、便の偏位などの症状が起きます。また、出産の際に肛門括約筋を支配する神経が傷付くこともあります。

この障害は出産後すぐに気付くこともありますが、年を取るまで明らかにならないこともあり、この場合には出産と便失禁との因果関係がはっきりしないことがあります。

肛門や肛門周囲の組織の手術を受けたり、しりもちをつくなどのけがをすることで、内外肛門括約筋を傷付けた場合も、便失禁が起こります。肛門周囲の組織に感染症が起こった場合にも、肛門括約筋が傷付くことがあり、便失禁が起こることがあります。高齢になるにつれ肛門括約筋が弱くなったり、脊髄(せきずい)から肛門周辺の筋肉に入っている神経線維が委縮してくる結果、便失禁が起こることもあります。

腸の炎症や、直腸腫瘍(しゅよう)、直腸が肛門から飛び出す直腸脱といった疾患により、便失禁が起こることもあります。多発性硬化症や糖尿病といった疾患により、肛門括約筋を支配する神経が障害されるために、便失禁を来すこともあります。脳卒中、脊髄損傷、脳神経疾患、痴呆(ちほう)により、神経の刺激が肛門へ届かなくなるために、便失禁を来すこともあります。

さらに、下剤の乱用が、便失禁の原因となることもあります。直腸に固まった便が詰まっている時に下剤を飲むと、固まった便の回りを下痢便が伝って失禁することがあります。

我慢できずに失禁するタイプの切迫性便失禁は、意識的に力を入れた時の肛門の締まりが弱くなっており、出産時に肛門周辺の筋肉を損傷した人、肛門や肛門周囲の組織の手術を受けた人に多くみられます。無意識のうちに便が漏れるタイプの漏出性便失禁は、無意識での肛門の締まりが弱くなっており、高齢者や直腸脱の発症者などに多くみられます。

便失禁は起こる頻度の高いもので、特に加齢とともに起こる頻度が高くなってきますが、羞恥(しゅうち)心のために、どんなに不快な症状があっても医療機関へ行かず、自己療法で我慢している人が少なくありません。医師に気軽に相談することが重要です。

便失禁の検査と診断と治療

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による診断では、まず問診により、便失禁の程度とそれが生活に及ぼす影響について明らかにします。便失禁の原因の多くは、詳しく病歴を聴取することにより明らかになります。

例えば、女性の場合、過去の出産歴は重要です。出産の回数が多かったり、新生児の体重が大きかったり、鉗子分娩(かんしぶんべん)の既往があったり、会陰(えいん)切開の既往があったりすると。肛門括約筋が損傷されていることがあります。時には、全身疾患や薬剤が原因となって便失禁を来すこともあります。

次いで、肛門部の診察を行います。これにより肛門括約筋の損傷が容易に明らかになることがあります。肛門領域をもっと詳しく調べるために、他の検査が必要となることがあります。例えば、肛門内圧検査では、小さなカテーテルを肛門内に挿入し、肛門括約筋を緩めた時と締めた時の圧力を測定します。この検査によって、肛門内圧がどの程度弱いか、または強いかが明らかになります。

肛門括約筋を支配する神経が正常に機能しているかどうかを調べるために、他の検査が必要になる場合もあります。さらに、肛門領域に対して超音波検査を行い、肛門括約筋が損傷している領域を明らかにすることもあります。

肛門科、消化器科、婦人科の医師による治療では、症状が軽度ならば、食事習慣の改善指導および整腸剤での処置を行います。時には、現在処方されている薬剤を変更することで、症状が改善することもあります。

大腸炎など直腸領域の炎症性疾患が便失禁の原因になっている場合には、原因疾患を治療することによって、症状が改善することもあります。

肛門括約筋を強くするために、簡単な体操(ケーゲル体操)が勧められることもあります。バイオフィードバックという治療法があり、特殊な機械を用いて正しく肛門括約筋を締めるコツを体得することによって、排便時の肛門領域の知覚を改善し、肛門括約筋を強くすることもできます。

肛門括約筋が損傷している場合には、手術を行うこともあります。手術には、肛門の皮下に紐(ひも)を入れて、肛門を小さくするチールシュ法、肛門括約筋縫合術、代替筋利用手術法などがあります。

肛門括約筋縫合術は、外肛門括約筋を折り畳むように縫い縮めることで肛門に力を入れやすくし、同時に肛門後方で恥骨直腸筋を縫縮することにより、直腸を前方に折り曲げて、直腸肛門角を強くすることで便が直腸から肛門に下りてきにくくするものです。しかし、手術直後から完全に便の漏れがなくなるわけではありません。手術で筋肉の緩みを取って、筋肉が効率よく働けるようにすることはできても、筋力が強化されるわけではありません。その後に、筋力増強のためのリハビリテーションが必要となります。

肛門の手術や出産時の外傷による肛門括約筋の損傷が原因のものは、手術的に肛門括約筋を修復することで、元通りに治すことができます。加齢による便失禁には、完全に治す治療法はありませんが、近年行われている低周波電気刺激治療器の使用は特に筋肉の老化によるものに対して効果があります。

脳卒中、脊髄損傷、脳神経疾患による便失禁は、治すことができません。近年、末梢(まっしょう)神経の障害が原因と思われるものに対しては、神経の移植や人工肛門括約筋なども試みられていますが、まだはっきりした結論は出ていません。

予防対策は、まず便失禁が減るように排便をコントロールすることです。特定の食べ物や飲料で下痢や水様便、軟便になりがちな人は、それらを控えるように注意します。水様便や軟便はどうしても漏れやすいですし、硬い便は肛門に無理がかかります。肛門に負担のかからない質のよい便が直腸に下りてくるように、運動や食事、場合によっては薬を使用して、根気強く便秘や下痢をコントロールすることも必要です。

また、便秘で刺激性下剤を服用している場合は、塩類下剤(酸化マグネシウムなど)に変更して下痢や軟便にならないようにコントロールします。普段から下痢や軟便が多い人は、便を固める作用のある止痢薬で有形便にコントロールすることも有効です。

排便後しばらくして失禁する場合は、排便のたびに座薬や浣腸(かんちょう)を使用し、直腸内の残便をなくすように試みることが有効な場合もあります。突然の便失禁に対しては、一時的に便の排出を抑える肛門用タンポン(アナルプラグ)を使用するのも一つの方法です。

🇨🇾偏執症

不自然でない妄想を抱く精神疾患

偏執症とは、脳および心の機能的、器質的障害によって引き起こされる精神疾患の1つ。妄想性障害、妄想性パーソナリティ障害、パラノイアとも呼ばれます。

1つ以上の奇異ではない内容の妄想、すなわち誤った思い込みが、少なくとも1カ月間持続するのが特徴です。

偏執症における妄想は、理にかなっていて、不自然な内容のものではありません。例えば、偏執症では「友人はスパイで、自分は隠しカメラで監視されている」、「隣人はスパイで、犬を毒殺しようと企てている」などという妄想を抱くのに対し、統合失調症(精神分裂病)では「友人が小さくなって、自分の耳の中に入っている」、「隣人が蚊に変装し、窓の外を舞っている」などという明らかに不自然な妄想を抱きます。

統合失調症が健康な状態と明らかに一線が画される重度の精神疾患であるのに対して、偏執症では人格は保たれ、感情や行動の異常はみられません。この偏執症は、しばしば統合失調症、器質性精神疾患、妄想性人格障害、うつ病のような他の障害と同時に起こります。発症する年代は一般的に、成人期中期から後期にかけてです。偏執症の亜型も、いくつか知られています。

すべての偏執症の本質的な特徴は、偵察される、だまされる、陰謀を企てられる、追跡される、毒を盛られる、感染させられる、わざと中傷される、嫌がらせを受ける、配偶者や恋人に裏切られるなどという被迫害信念のような妄想システムで、実生活でも起こり得るような状況を含んでいます。

一般的に、怒り、恨み、そして時折の暴力は、これら誤った被迫害信念に付随したもの。疑い深さも共通しており、誰(だれ)にでも向けられるか、または一人あるいは複数の人に向けられます。

偏執症の病型として、色情型、誇大型、嫉妬(しっと)型、被害型、身体型、混合型、特定不能型の7タイプが認められています。

色情型では、他の誰か、通常は社会的地位の高い人が自分と恋愛関係にあるというのが、妄想の中心的なテーマになります。電話、手紙、メール、さらには監視やストーカー行為などで、妄想の対象と接触を図ろうとすることもあり、この妄想から出た行動が法律に触れることもあります。

誇大型では、肥大した価値、権力、知識、身分、あるいは神や有名な人物との特別なつながりに関するものが、妄想の中心的なテーマになります。例えば、自分には偉大な才能があるとか、重要な発見をしたなどと思い込みます。

嫉妬型では、自分の性的パートナーが不誠実であるというのが、妄想の中心的なテーマになります。あいまいな証拠から誤った推測をして、配偶者や恋人が浮気をしているなどと思い込みます。このような状況では、傷害事件に発展する恐れもあります。

被害型では、自分、もしくは身近な誰かが何らかの方法で悪意をもって扱われているというのが、妄想の中心的なテーマになります。陰謀をたくらまれている、見張られている、中傷されている、嫌がらせをされているなどと思い込み、裁判所など行政機関に訴えて、繰り返し正当性を主張しようとすることもあります。まれに、害を及ぼそうとしている想像上の迫害者に報復しようとして、暴力的な手段に訴えることがあります。この被害型は、犯罪行動、特に暴力的な犯罪行動と最も関連がある病型なのです。

身体型では、自分に何か身体的欠陥がある、あるいは自分が一般的な身体疾患にかかっているというのが、妄想の中心的なテーマになります。体に異常があるとか体臭がするなど、体の機能や特性に捕らわれ、寄生虫感染といった想像上の身体疾患の形を取る場合もあります。

混合型では、妄想が上記の病型の2つ以上によって特徴付けられますが、どのテーマも優性ではありません。特定不能型では、妄想のテーマが特定できません。

偏執症の検査と診断と治療

偏執症(妄想性障害)は、もともと妄想性人格障害がある人に発症します。その妄想性人格障害の人は成人期初期より、他人の行動や行動理由に対して全般的な不信と疑い深さを示します。発症初期には、人に利用されていると感じる、友人の誠実さや信頼に執着する、悪意のない言葉や出来事の中に自分を脅す意味が隠されていると読む、恨みを抱き続ける、軽視されていると感じるとすぐに反応するなどの症状がみられます。

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、妄想を伴う統合失調症などの他の精神疾患のほか、薬物乱用や投薬、一般的な身体疾患による直接的な生理的作用がないことが確認されれば、本人の病歴に基づいて偏執症と判断されます。

医師の側は、発症者の危険性がどの程度か評価する必要があります。とりわけ、本人がどの程度妄想に捕らわれていて、自分の妄想に基づいてどのような行動をするつもりなのかを評価することが、犯罪行動を防ぐ意味からも重要です。

偏執症から重度の障害に至ることは、まずありません。しかし、次第に妄想に深くのめり込むようになることがあります。大抵の場合、仕事を続けることができます。

医師と発症者の良好な関係が、奇異ではない内容の妄想、すなわち誤った思い込みの治療に役立ちます。危険な病態だと判断されるケースには、入院治療が必要となります。一般に、抗精神病薬は用いられませんが、場合によっては症状を抑える効果があります。長期治療の目標は本人の関心を妄想からもっと建設的で満足感のあるものへ移すこととされますが、かなり難しい目標です。

2022/08/07

🇫🇯片頭痛

片頭痛は、何らかの原因で頭蓋(とうがい)内外の血管が拡張することにより、血管を取り巻く神経が刺激されるために起こる頭痛です。なぜ血管が拡張するのか、その原因は不明です。比較的若い年代に多く、また女性に多いのが特徴です。

【痛みの特徴】

脈に合わせて「ズキンズキン」と激しく痛みます。徐々に痛み出すのではなく急に激しい痛みに襲われることも、緊張性頭痛との違いです。片頭痛といっても頭の片側だけが痛むとは限らず、両側が痛むこともよくあります。

数時間から2~3日続く痛みが、1カ月に数回繰り返されるのが特徴で、発作の前に気分や体調の変化、目のちらつきなどが起こることがあります。また、吐き気や嘔吐(おうと)を伴ったり、音や光に敏感になることもあります。

○片頭痛の予兆

(頭痛が起こる前触れ。頭痛が始まる2~3時間前に見られる)

* あくび

* イライラ

* 空腹感

* 甘いものが食べたくなる

* むくみ など

○片頭痛の前兆

(頭痛の始まるサイン。頭痛の始まる30分くらい前に起こる)

* 閃輝暗点:視界にチカチカした光(閃輝)が広がり、やがて中心部から見えにくくなる(暗点)。

【原因】

片頭痛は、動脈を収縮させているセロトニンという物質が何らかの原因によって急激に減少してしまい、その結果動脈が拡張することが原因だとされています。また、脳幹から出ている三叉神経の末端から、何らかの原因によって「痛み物質」が大量に放出され、その刺激で脳の血管が拡張、炎症を起こすことが原因だとする説もあります。いずれにしてもその根本的な原因は不明です。しかし、片頭痛を引き起す誘因があることはわかっています。

○ストレスからの解放

ストレス中は血管が緊張しているために頭痛は起きませんが、ストレスから解放されると血管が拡張し、頭痛が起こります。仕事から解放された週末などに、片頭痛が現れることが多いのです。

○女性ホルモンの変化

生理の前後はホルモンが急激に変化するため、片頭痛が起こりやすくなります。逆に、妊娠中はホルモンが安定するため起こりにくいのです。

○人ごみや騒音、強い光などの物理的刺激

○特定の飲食物の取りすぎ

人によっては、チョコレートやワイン、チーズ、柑橘(かんきつ)類、ナッツなどによって、片頭痛が起こることがあります。

【治療と予防】

痛みが軽い場合、市販の鎮痛剤の服用で痛みを抑えることができます。痛みが本格化してからでは効きが悪くなるので、なるべく早めに、できれば予兆や前兆が現れた段階で、飲むのがコツです。

市販の鎮痛薬が効かない場合は、医療機関に受診することをお勧めします。医療機関では、主にセロトニン作動薬(トリプタンやエルゴタミン製剤)を使います。また、あまりにも片頭痛が頻繁にある場合は予防薬(塩酸ロメリジン)などを処方します。

片頭痛が起きたら…

○安静を保つ

暗い静かな部屋で横になるとよいことがあります。

○冷やす

痛む部分を冷やすと血管が収縮し、痛みが和らぎます。

○一眠りする

適度な睡眠をとると、拡張した血管が正常に戻ります。ただし、寝すぎるとかえって血管が拡張することがあるので、要注意です。

○コーヒーを飲む

カフェインには血管を収縮させる作用があるので、人によっては痛みが和らぐことがあります。

🇹🇴べんち

刺激や圧迫により、足の皮膚が部分的に厚くなった状態

べんちとは、外からの持続的な機械的摩擦や圧迫などによって、足の皮膚表面の角質層が部分的に厚くなった状態。べんち腫(しゅ)、たことも呼ばれます。

厚くなった皮膚の状態が平らに盛り上がっているもので、手で触ると硬く感じるものの、痛みは生じません。慢性化すると、表面が白くカサカサになり、女性ではストッキングが引っ掛かったりもします。

べんちと同様、足の皮膚表面の角質層が部分的に厚くなる状態には、魚の目(鶏眼〔けいがん〕)もあります。こちらの皮膚表面の角質層は、円錐(えんすい)状に下に向かって厚くなっています。その中央にある芯(しん)が皮膚の奥深くへと入り込み、先がとがっているため、上から押したり、立ったり歩いたりして体重が掛かると、神経を刺激して痛みを生じます。

べんちのできやすい場所は足の指の背(上側)、指と指の間、足裏の母指球の下、第2指と第3指の付け根あたり。いずれも靴による摩擦や圧迫を受けやすい場所です。まれに、かかとにできることもあります。筆記用具を長期間使用したり、スポーツを長期間行ったりすることにより、手指と手指の間、手のひらに、いわゆるペンだこ、ゴルフだこなどと呼ばれるべんちができることもあります。

足にできるべんちの原因のほとんどは、靴の履き方が悪いために足に掛かる体重分散が偏ることと、足に合わない靴を履いているために摩擦や圧迫を受けることにあります。例えば、小さめの靴を履いていると、足の指や付け根などが靴に当たり、圧迫され続けます。靴幅が狭くて、指が両側から圧迫されると、指と指の摩擦が起こります。こうした圧迫や摩擦の結果、皮膚は硬くなり、べんちになります。

大きめの靴でも、足が靴の前側へと滑っていき、やはり指や付け根のあたりが圧迫されて、同じことが起こります。 底が薄い靴でも、地面から受ける衝撃が大きく、足の裏が圧迫されます。

べんちのできやすい足もあります。その代表が開張(かいちょう)足で、親指と小指の付け根を結ぶ横のラインの中央に、くぼみがなく、ベタッとした足を指します。この開張足の人は、横ラインの中央部が靴底の圧迫を受け、べんちができやすくなります。開張足かどうかは、靴の内底や中敷(インソール)を見てもわかります。第2指と第3指の付け根の当たる部分などが汚れていたり、擦り減っていれば、そこに力が掛かっていることになります。

開張足の原因としてよくみられるのは、運動不足と立ち仕事などによる疲労です。運動不足、特に歩くことをあまりしないと、指の骨をつなぐ靱帯(じんたい)が弱ってきます。その状態で立ち仕事などを続けていると、疲労のために靱帯が伸び切った状態になり、開張足を起こします。

ハンマー足指やその他の足指の変形も、べんちの原因となります。ハンマー足指とは、靴の爪先(つまさき)部分がきついために指が伸ばせず、指の関節がハンマーのような形で曲がったままになった状態です。曲がって上へ飛び出した足指の背が靴に当たるため、そこが角質化しやすくなります。

巻き爪、内反小趾(ないはんしょうし)も、原因となります。巻き爪とは、伸びた爪の両端が皮膚に食い込んだ状態で、先の細い靴で爪足が両側から圧迫され続けると起こります。巻き爪気味の人は、指と指がこすれ合うので、指の間にべんちができやすくなります。

内反小趾とは、親指が圧迫を受けて変形する外反母趾と逆に、小指が圧迫を受けて変形した状態で、小指の外側にべんちができる人は放っておくと小指が変形し、手術の必要性が生じます。

女性では、冷え性と関係していることもあります。特に足の冷えやすい人は、血行不良から皮膚の角質化が起こりやすいとされています。中高年では、動脈硬化や糖尿病と関係していることもあります。動脈硬化の場合には足の血行不良から、糖尿病では末梢(まっしょう)神経の障害から、べんちができやすくなるからです。反対に、べんちが治らないことから、動脈硬化などの疾患が発見されることもあります。

痛みがないために、べんちをそのまま放置しておくと、魚の目になる可能性もあり、ひび割れた場合は化膿(かのう)することもあります。そうなると治りも遅くなりますので、早めに治療しましょう。

べんちの自己治療と医師による診断

べんちの治療と予防に必要なことは、外からの機械的な摩擦や圧迫を防ぐことです。そのためには、足に合った靴を選び、べんちの上にスポンジを当てて、絆創膏(ばんそうこう)でしっかり固定するか、薬剤の入った市販の保護パッドを張っておきます。軽い症状なら、しばらくすると自然に治っていきます。

また、スピール膏、ないしサリチル酸含有軟膏を使用するのもよいでしょう。これらは皮膚の角質を軟化させるもので、家庭で行える治療薬として広く使用されています。まず、スピール膏などを患部の大きさと同じか、少し小さめに切って患部に当てて、その上から絆創膏で固定します。2〜3日してはがすと、患部が白くふやけているので、ナイフかはさみで痛くない程度に削り取ります。これを何回か繰り返します。

保護パッドなどで治らない場合や、痛みがひどかったり、悪化したりした場合には、早めに皮膚科の専門医の治療を受けます。医師による治療では通常、外科用のレーザーメスや電気メスで厚くなった部分を削ります。その後、フェルトや毛皮でできたさまざまな種類のパッドを当てて、患部への圧迫を減らします。

患部の血流障害がある時は、削って切除することはできません。この場合は、患部にかかる圧力を減らすために、矯正器具やインナーを挿入した特殊な靴が必要になります。

手術で除去しても、自分の足に合わない靴を履き続けていると再発します。予防の基本は、靴選びにあります。靴の理想は「きつからず、緩からず」で、靴店では必ず両足とも履いて、歩いてみます。腰掛けたり、かがんだりして、爪先やくるぶし、かかとなどに当たる個所がないかどうか確認します。モデル風に一直線上を早歩きしてみると、当たる個所がわかりやすくなります。足がむくんで大きくなる夕方の時間帯に、ピッタリの靴を買っておけば、後できつくて足が痛いということもなくなります。

なお、開張足は自分である程度は治すことができます。床にフェイスタオルを広げ、その端に裸足の足を乗せます。そして、足指でタオルをたぐり寄せる練習をします。よりハードなものでは、フローリングの床に裸足で立ち、指で床をつかむようにして前進します。どちらも開張足の改善、予防だけでなく、血行をよくして足の疲労回復にもつながります。

🇹🇴扁桃(へんとう)炎

口蓋扁桃に炎症の起こる疾患。急性と慢性の別

扁桃(へんとう)炎とは、口蓋(こうがい)扁桃に炎症の起こる疾患。急性扁桃炎と慢性扁桃炎に分けられます。

急性扁桃炎

咽頭(いんとう)粘膜の炎症である急性咽頭炎と一緒に起こりますが、特に扁桃に強い急性の炎症がある場合を急性扁桃炎と呼びます。

扁桃には常時、いろいろな細菌が住み着いていますが、気温の急変、過労、風邪などで全身の抵抗力が弱まった時に、いろいろな細菌が活動し始め、急性症状を起こします。また、風邪のウイルス感染が、直接の原因となることもあります。

慢性扁桃炎

急性扁桃炎を繰り返すうちに、慢性化したものです。のどが熱っぽかったり、軽い異物感や、食べ物を飲み込む時に起こる嚥下(えんげ)痛などがあります。熱はあっても、微熱程度です。

しかし、この慢性扁桃炎からリウマチ性関節炎、腎(じん)炎、心内膜炎、心筋炎、結節性紅斑(こうはん)などの疾患が起こることがあるので、油断はなりません。

扁桃炎の検査と診断と治療

急性扁桃炎

治療には、安静が必要です。首を温湿布か冷湿布すると、痛みが軽くなります。医師は、うがいやルゴール液の塗布を勧め、抗生物質を投与します。化膿(かのう)して、うみがたまったら、切開排膿します。

慢性扁桃炎

1年に4、5回以上急性化する扁桃炎は、手術が勧められます。手術は耳鼻科では簡単なほうで、約1週間の安静が必要です。

🇼🇸便秘

排便回数が少なく、3日に1回未満、週2回未満しか、便の出ない状態

便秘とは通常、排便回数が少なく、3日に1回未満、週2回未満しか、便の出ない状態。

便が硬くなって出にくかったり、息まないと便が出なかったり、残便感があったり、便意を感じなかったり、便が少なかったりなど多様な症状も含みます。便の水分が異常に少なかったり、うさぎの糞(ふん)のように固い塊状なら便秘です。

便秘の症状の現れる時期は、さまざまです。一般には、加齢とともに増加する傾向にありますが、女性のほうが男性より多いと見なされ、若い女性の便秘は思春期のころに始まることも少なくありません。

この便秘は、大きく分けると機能性便秘と器質性便秘に分類され、機能性便秘はさらに弛緩(しかん)性便秘、痙攣(けいれん)性便秘、直腸性便秘、食事性便秘の4種類に分類されます。

機能性便秘というのは、大腸の働きの異常が原因で便秘が起こるもので、ほとんどの便秘が機能性便秘に相当します。

機能性便秘のうちの弛緩性便秘は、一定のリズムと緊張を持って運動して便を送り出している腸管の蠕動(ぜんどう)運動の低下により、腸の中の内容物の通過が遅れ、水分の吸収が増加するために便秘が起こるものです。排便時に腹圧をかけるのに必要な、腹筋などの筋力が弱まることも原因になります。弛緩性便秘では、排便回数や便の量が少ないタイプの便秘になります。

痙攣性便秘は、ストレスや感情の高まりに伴う自律神経のアンバランス、特に副交感神経が緊張しすぎることによって便秘が起こるものです。下行結腸に痙攣を起こした部位が生じ、その部位が狭くなって、便の正常な通過が妨げられます。痙攣を起こした部位の上部は腸の圧力が高くなるため、腹が張った感じがして、不快感や痛みを感じます。排便があっても、便の量が少なく、うさぎの糞のように固い塊状となります。

排便後には少しは気持ちがよくなりますが、十分に出切った感じがなく、すっきりしないなど、残便感を生じる人が多いようです。便秘の後に、腸の狭くなった部位より上のほうで水分の量が増えるため、水様の下痢を伴うこともあり、便秘と下痢を交互に繰り返す場合もあります。大腸の緊張や痙攣により、便が滞りやすいために起こる便秘もあります。

直腸性便秘は、習慣性便秘とも呼ばれ、排便を我慢する習慣が便意を感じにくくさせるために便秘が起こるものです。便が直腸の中に進入すると、直腸の壁が伸びる刺激で便意は起きますが、この便意をこらえて、排便を怠たったり、排便を我慢することが度重なると、刺激に対する直腸の感受性が低下して、直腸内に便が入っても便意が起こらなくなってしまい便秘となります。

食事性便秘は、食物繊維の少ない食物を偏って食べていることが原因で、腸壁に適当な刺激がなくなって便秘が起こるものです。また、食事の量が極端に少ない場合も便秘になります。

一方、器質性便秘というのは、腸や肛門(こうもん)の腫瘍(しゅよう)や炎症、閉塞(へいそく)などの疾患、あるいは巨大結腸症のような腸の長さや大きさの先天的異常などが原因で便秘が起こるものです。器質的便秘の原因となる疾患としては、大腸がん、大腸ポリープ、クローン病、腸閉塞(イレウス)、虫垂炎など腹の手術の後の腸の癒着、潰瘍(かいよう)性大腸炎、後腹膜腫瘍、子宮筋腫、直腸がん、直腸ポリープ、直腸脱、直腸重積(じゅうせき)、直腸瘤(りゅう)などがあります。

また、便秘には、旅行や生活の変化に伴う数日間だけの一過性の便秘と、症状が1〜3カ月以上続く慢性便秘があります。便秘が続くと、腸内細菌のバランスが崩れ、腐敗便がたまると、肌のトラブルや大腸がん発生の引き金になります。

それまで規則的であった排便が便秘に変化した場合や、便に血が混じる場合、腹痛を伴うような場合は、器質的便秘が疑われるので、早めに肛門科、あるいは消化器科、婦人科を受診し検査を受ける必要があります。

便秘の検査と診断と治療

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による診断では、器質的便秘が疑われる場合は、まず大腸の検査を行います。これには注腸X線検査と大腸内視鏡検査があり、ポリープやがん、炎症性腸疾患などを診断します。

機能的な慢性便秘を詳しく調べる検査として、X線マーカーを服用して大腸の通過時間を調べる検査や、バリウムによる模擬便を用いて、排便時の直腸の形や動きを調べる排便造影検査があります。

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による治療では、食事指導、生活指導、運動、緩下剤といった保存的治療法が主体となり、これらをうまく取り入れて便通をコントロールするようにします。日常の食生活で不足しがちな食物繊維を補うためには、市販の食物繊維サプリメントであるオオバコ、小麦ふすまなどを活用するのもよい方法です。

緩下剤は、腸への刺激がなく、水分を保持して便を軟らかくする酸化マグネシウムなどの塩類下剤を主体として使用します。センナ系、漢方などの速効性の刺激性下剤は、できるだけ常用しないように心掛けます。刺激性下剤を常用すると、次第に腸が下剤の刺激に慣れて効果が鈍くなり、ますます便秘が悪化することがあるためです。

直腸瘤が便秘の原因となっている場合は、その症状と大きさから判断して手術で治療することもあります。

👣扁平足

土踏まずのくぼんだ部分がなくなり、裏が平らな足

扁平足(へんぺいそく)とは、土踏まずのくぼんだ部分がなくなって、足の縦、横の軸とも扁平化した足の変形。起立時や歩行時にはアーチがつぶれていて、足の裏全体が地面にくっつきます。

乳幼児では足底の脂肪が多いため、土踏まずがないのは当たり前ことで、8歳ごろで形成される足の裏のアーチができていないものをいいます。遺伝による扁平足もありますが、生活の中で改善していけるものでもあります。スポーツ選手などでも土踏まずがなく、扁平足に見える人もいますが、足の裏にも筋肉がついているのでそう見えるだけです。

本当の扁平足は、立ち仕事を長時間する人に最もよくみられます。体重をかけていない時には土踏まずがある軟らかい扁平足と、体重をかけていない時にも土踏まずがない硬い扁平足があり、多くの場合は前者です。前者では体重をかけて立ったり、歩いたりすると土踏まずがなくなります。

土踏まずがないだけでなく、外反足という、足の外側の縁が上がり足の裏から外側へ横向きとなる足の変形を伴っている場合は、外反扁平足といいます。重症のケースでは、足の内側だけで接地し、足の外側が浮いてしまうこともあります。

扁平足の障害としては、起立時や歩行時の足の痛みが主なものです。 ほかに、歩きにくい上に変な歩き癖がついてしまい、すぐに疲れやすいという難点があります。アーチがないために、歩く際の足の一連の動きの中で地面をけり上げるという行為が足への負担となって、疲れやすくなるのです。

歩き癖によって、膝(ひざ)が痛くなったり、腰痛や外反母趾(がいはんぼし)を招く場合もあります。アーチがないために、足の裏全体の血管が圧迫されることになり、血流も悪くなります。結果的には、むくみや冷えなどの症状も出てきます。神経も立っている間中、圧迫されるために、痛みが出ることもあります。

痛みがあって、歩行が困難な場合もあります。土踏まずの上にある舟状骨が出ている場合で、靴が土踏まずの部分に当たり、痛みが生じます。ひどい症状になると、骨が離れて出っ張った状態になって、激しい痛みが生じます。

医師による扁平足の診断は、外観上の変形から容易です。骨の状態を把握して重症度を判定するためには、X線検査が必要で、通常、立って体重をかけた状態で撮影します。

医師による治療は、もっぱら保存的に行われ、土踏まずの形をつけるように足底に装具を入れた治療靴を用いたり、足の筋肉の強化練習などが行われます。舟状骨が出ている場合には手術が必要になりますが、こうしたケースはごくまれです。

乳幼児の扁平足を改善するには、靴下や靴を履かせずに、裸足で砂場を歩かせて足の裏を刺激するという方法があります。子供、大人に限らずに、望ましいのは部屋の中では裸足でいることです。

大人の扁平足を改善するのにも、足の裏を刺激することが最善の方法であり、痛みがあるからといって歩くのをためらっていてはいけません。靴の中敷きに、アーチサポートという、土踏まずが当たる部分の盛り上がっているものを使うと、歩行が楽になります。近年では、矯正するためのテーピングが内蔵された靴下も販売されています。

歩く時は、足の指をしっかり使って歩くようにして、足の裏の筋肉を鍛え、血行促進を図ります。日ごろの生活の中で、意識してつま先立ちをするのもお勧めです。

🇪🇭扁平苔癬

四肢の関節部、体幹などに、淡紅色で平らに盛り上がった発疹ができる皮膚疾患

扁平苔癬(へんぺいたいせん)とは、四肢の関節部、体幹、外陰部などに、淡紅色ないし紫紅色で平らに盛り上がった発疹(はっしん)ができる皮膚疾患。炎症性角化(かくか)症の一つです。

原因はいまだはっきりとしていませんが、ある種のリンパ球が皮膚の細胞を攻撃する異常な免疫反応のために起こる疾患と考えられるようになってきました。降圧剤、脳代謝促進剤などの薬剤が原因で生じた扁平苔癬のような発疹は、扁平苔癬型薬疹として扁平苔癬とは区別します。

過去にはカラーフィルムの現像液に触れて誘発されるものがよく知られていましたが、最近はC型肝炎やエイズウイルスなどの感染症に合併するケースが多くなっています。

20歳前後に好発し、女性にやや多くみられます。症状としては、扁平に隆起するエンドウマメ大までの淡紅色ないし紫紅色、多角形の発疹で、表面に蝋(ろう)のような光沢がみられ、かゆみがあります。手背や四肢の屈側に多く現れますが、体幹にも生じます。発疹が散在することも、密集することもあり、時には帯状に配列したり、融合した局面を形成することもあります。

ケブネル現象といって、繰り返しこすったり、傷付いたりした個所に、数日してから新しい発疹が出てくることもあります。口唇や口腔(こうくう)粘膜に、網状の乳白色の発疹が出ることもあります。また、爪(つめ)の変形を起こすこともあります。

発疹の消退後は、色素沈着または色素脱失を残すこともあります。

医学的には、線状扁平苔癬、いぼ状扁平苔癬、鈍性扁平苔癬、水疱(すいほう)性扁平苔癬、急性扁平苔癬、色素性扁平苔癬などの特殊型を区別する場合もあります。

扁平苔癬の症状に気付いた場合、皮膚科、あるいは皮膚泌尿器科を受診し、診断と治療を受けたほうがよいでしょう。

扁平苔癬の検査と診断と治療

 皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断は、特徴的な皮疹とその分布、経過から判断します。確定診断には、発疹の一部を切って顕微鏡で調べる組織検査を行います。また、C型肝炎やエイズウイルスと関連することもあり、血液検査を行います。 薬疹として扁平苔癬になることもあるため、薬剤との関連も調べます。

医師による治療では、ステロイド系外用剤が多く用いられています。治りにくい場合には、ステロイド含有テープの使用や光線療法も行います。

光線療法は、紫外線の増感剤であるメトキサレン(オクソラレン)を発疹部に塗り、長波長紫外線UVAを当てる治療で、PUVA(プーバ)療法といいます。扁平苔癬が全身にある重症の場合、入院して内服のメトキサレンを使用してPUVA療法を行う場合もあります。紫外線を当てることで、異常な免疫反応が抑制され、効果が得られると考えられています。

ただし、皮膚への障害が少ないUVAとはいっても、長期間に渡る場合は将来の発がんの危険性を高める可能性もありますので、照射する総量を一定量以下にしておく配慮が必要とされます。妊娠中は、胎児への影響がわかっていないので行いません。近年、PUVA療法に代わる光線療法として、特定の紫外線波長を利用したナローバンドUVB療法も利用されるようになってきています。

口唇や口腔粘膜の発疹には、ビタミンA類似物質であるレチノイド(チガソン)の内服が効果があることがあります。かゆみには抗ヒスタミン薬を使用します。

🇹🇻扁平乳頭

乳頭の出っ張りが短く、全体的に平たくなっている状態

扁平(へんぺい)乳頭とは、乳房の先にある乳頭の出っ張りが短く、広く円形に広がっていて、全体的に平たくなっている状態。扁平乳首とも呼ばれます。

乳頭が指先ほど突出している通常の乳頭でもないし、乳頭が乳房の内側に埋没している陥没乳頭でもない状態です。乳頭の出っ張りの高さが5ミリ以下と多少あるものの、くびれが不明確な乳首も、扁平乳頭に含まれます。

原因は生まれ付きのことが多く、初めは出っ張りの高さがあったのに何らかの原因で平たくなることもあります。

乳頭には、15~25個の乳口、筋線維、神経があります。乳頭の下部には、母乳(乳汁)が通る乳管があります。その乳頭下にあって乳頭を支える乳管などの線維組織が発達しなかったり、繊維組織が癒着したりすると、出っ張りが短い扁平乳頭が起こります。程度が強いと、乳頭が乳房の内側に埋没する陥没乳頭になります。扁平乳頭、陥没乳頭が起こる根本的な原因や要因は、明確になっていません。

扁平乳頭は、陥没乳首と同じく、子供ができた時の授乳の際に支障を来します。一般に母親の乳頭が1センチの高さと大きさがあれば、新生児が母乳を吸いやすいとされています。

妊娠すると乳房の状態も変化していき、妊娠前は扁平乳頭だったのに出っ張ってくる女性もいますが、扁平乳頭のままだと出っ張りが不足し、新生児が乳頭をうまく吸うことができないために、母乳育児が難しくなります。

新生児は母乳を飲む時、乳輪全体を口にくわえ、乳頭を舌で巻き込むようにしています。扁平乳頭の場合は、乳頭を舌に巻き込むのが普通より難しいので、母乳を深く吸いにくいということがあります。しかし、全く授乳ができないというわけではありません。

扁平乳頭の女性の母乳育児のコツとしては、新生児ができるだけ口の奥まで乳頭を入れやすくするために、乳房が硬く張った状態での授乳は避けることです。乳房がパンパンに張っている時は、乳輪周辺が少し柔らかくなる程度に搾乳をしてから授乳を始めると、吸いつきやすくなります。

新生児が乳首の先だけを吸うのは、乳首を傷める原因になり、十分な母乳の分泌がされない可能性も高くなります。授乳中は新生児の口に乳首を押し込むような感じでサポートをすると、飲みやすくなります。授乳後は乳首を清潔にして、オイルなどで保湿してケアしておきます。

根気よく授乳することで、乳首も長くなってくるという人も多くいます。どうしても、新生児が吸いつけないという場合には、ほ乳瓶の乳首みたいな保護器を乳首の上につけて、母乳を吸わせることもできます。

日ごろからマッサージで乳頭に刺激を与えて、出っ張らせ、新生児に実際に乳頭を吸わせて授乳を繰り返すと、出っ張り状態を保つようになることもあります。

マッサージ法は多々ありますが、一例を紹介します。1)親指と人差し指を乳輪の外側に置く、2)乳頭を優しく押し出す、3)乳輪を優しく広げるように親指と人差し指を水平に伸ばす、4)親指と人差し指を乳輪の上下に置く、5)乳頭を優しく押し出す、6)乳輪を優しく広げるように親指と人差し指を上下に伸ばす。

これが、基本的なマッサージ法です。マッサージは、定期的に続けることで効果が出ますから、根気よく続けることが大切です。タイミングとしては、入浴時がお勧めで、体がポカポカに温まると血行が促されるので効果的です。

また、マッサージ以外にも、販売されているプチフィット、ピペトップといった乳頭吸引器などの矯正器具を利用します。乳頭吸引器の場合は、専用のローションを乳頭とその周辺に塗り、胸に吸引カップを装着して真空状態にし、吸引力によって乳頭を出っ張らせます。毎日続けることにより、少しずつですが症状を改善していきます。

ただし、妊娠中のマッサージは、早産を招くという説もあります。無理やりに乳頭を出っ張らせることで、皮膚が切れて出血し、痛み、さらに感染して炎症を起こす危険もありますので、細心の注意が必要になります。

扁平乳頭は見た目の問題だけでなく、授乳をする状況になった時に、うまく授乳ができなくて乳腺(にゅうせん)炎を引き起こすことがあります。心配であれば医療機関で診察を受け、改善、矯正を図ることは可能です。授乳が始まってからでは改善、矯正も大変ですから、早期に婦人科、産婦人科、乳腺外科、形成外科、整形外科、あるいは美容整形外科を受診することが勧められます。

扁平乳頭の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科、乳腺外科、形成外科、整形外科、美容整形外科の医師による診断では、実際の乳頭の高さで判断するよりも、組織の柔軟性が判断の目安になるため、親指と人差し指を乳輪に添えて乳頭を軽く引っ張って高さを測るピンチテストで、5ミリ以下の伸びしかない乳頭を扁平乳頭と判断します。

婦人科、産婦人科、乳腺外科、形成外科、整形外科、美容整形外科の医師による治療では、軽度であれば、乳頭吸引器などの器具を活用したり、乳房マッサージを習慣にすることで、改善することも可能です。

形成手術を行い、ある程度高さやくびれがある乳首にすることも可能です。手術法は、乳輪部分を切開し、裏側から乳頭を押し上げて突出させ、固定します。左右どちらの場合でも矯正でき、片側の乳頭とのバランスを見ながらデザインして形成します。

<ただし、乳管の繊維組織の癒着が強く、陥没乳頭の傾向がある女性の場合は、手術後に症状が再発する可能性があります。

2022/08/03

🇮🇹扁平母斑

先天的もしくは後天的に、体のさまざまな部位に生じる茶色の平らなあざ

扁平母斑(へんぺいぼはん)とは、先天的もしくは後天的に、顔面および四肢、体幹の体表面に生じる淡褐色から褐色の平らなあざ。いわゆる茶あざで、カフェオレ斑とも、カフェオレ・スポットとも呼ばれます。

ほくろのように、皮膚から盛り上がることはありません。そのために、盛り上がりのないあざという意味で、扁平母斑と呼ばれています。また、コーヒーのような黒さでなく、ミルクコーヒーに似た色のあざという意味で、カフェオレ班、カフェオレ・スポットと呼ばれます。

色素細胞の機能高進により、表皮基底層でメラニン色素が増加するために、扁平母斑が生じます。大きさや形はさまざまで、類円形から紡錘形、辺縁がギザギザした不正型の小さいあざが多数集まっていたり、面状に分布する比較的均一な大きいあざであったりします。淡褐色から褐色のあざの中に、直径1ミリ程度の小さな黒色から黒褐色の点状色素斑が多数混在することもあります。

ほとんど、生まれ付きに存在するか幼児期に発生しますが、思春期になって発生する場合もあり、遅発性扁平母斑とも呼ばれます。

思春期になって発生する場合には、毛が同時に生えてくることが多く見られ、ベッカー母斑と呼ばれています。特に男性の肩甲部や胸部の片側に、少し濃い発毛を伴うベッカー母斑も発生します。海水浴や強い日光にさらされた後などに、ベッカー母斑が現れることもあります。

先天性、遅発性の扁平母斑とも通常、悪性化することはありません。

しかし、生まれた時から丸い扁平母斑が6個以上ある場合には、神経線維腫(しゅ)症1型(レックリングハウゼン病)のこともあります。神経、目、骨など皮膚以外の場所にも症状が出てくる可能性がある症候群で、早めに総合病院の皮膚科を受診したほうがよいでしょう。

扁平母斑は、多少の色の変化はありますが、自然に消えるあざではありません。色が淡褐色で、肌と違和感が少ないため気にならなければ、強いて治療する必要はありません。顔や腕など、肌の露出部にあって気になる場合は、皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科を受診することが勧められます。

扁平母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による診断では、特徴的な母斑なので、ほとんどは見ただけでつきます。神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)が疑われる場合は、神経線維腫や聴神経腫瘍、骨格異常の有無など検査します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、病変が浅いので、Qスイッチルビーレーザー、Qスイッチアレキサンドライトレーザーなどを照射すると、メラニン色素に選択的に吸収され、扁平母斑が消失したり軽快します。

レーザー治療の長所は治療を行った部位に傷跡ができにくいことですが、すべての扁平母斑に有効ではありません。思春期になって発生する遅発性扁平母斑では、多くのケースで効果を認めます。ベッカー母斑では、レーザー治療の前に脱毛するなどの処理できれいにすることが重要になります。

先天性の扁平母斑では、思春期以降に色調が強くなって認識したケースでレーザーが効くのはまれで、レーザーを照射してしばらくは消えていたものが、次第に再発する場合もしばしばあります。再発の程度は、テスト治療で推測できます。

しかし、先天性の扁平母斑でも乳幼児期からレーザー治療を行うと、再発が少なく効果を認めることが多くなります。そのため、有効率を高めるために、皮膚が薄い0歳児からレーザー治療を行う医療機関が増えてきました。

レーザー治療が無効で扁平母斑がすぐに再発する場合には、ドライアイスや液体窒素を使用した治療や、グラインダーで皮膚を削る皮膚剥削(はくさく)術という手術が行われます。傷跡を残すことがあるので、第一選択ではありません。

🟧1人暮らしの高齢者6万8000人死亡 自宅で年間、警察庁推計

 警察庁は、自宅で亡くなる1人暮らしの高齢者が今年は推計でおよそ6万8000人に上る可能性があることを明らかにしました。  1人暮らしの高齢者が増加する中、政府は、みとられることなく病気などで死亡する「孤独死」や「孤立死」も増えることが懸念されるとしています。  13日の衆議院...