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2022/08/12

🇱🇹狭心症

■心筋に生じた一過性の酸欠状態

狭心症とは、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈の狭窄(きょうさく)などによって、心臓の筋肉である心筋に十分な血液が送られなくなり、心筋が一時的な酸素欠乏になった状態のことです。 虚血性心疾患の一つで、突然死を招くことにもなる急性冠症候群の一つにも数えられています。

人間の心臓は、筋肉でできた袋のような臓器で、1日に約10万回収縮し、全身に血液を循環させて、酸素や栄養を送り届けています。もちろん、心臓の拍動にも多くの酸素や栄養が必要ですが、心臓自身は心臓の中を通る血液からではなく、表面を取り巻く冠動脈から、血液を受け取っているのです。

この冠動脈に、動脈硬化などによってプラークという固まりができて、血液の通り道が狭くなったり、詰まったりすると、心筋が酸欠状態に陥ってしまい、狭心症や心筋梗塞(こうそく)を招くのです。心筋梗塞のほうは、冠動脈が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死してしまった状態です。

狭心症にはいろいろなタイプがありますが、よく知られているタイプは、労作(性)狭心症と安静(自発)狭心症の二つです。

労作狭心症は、動脈硬化などで冠動脈が狭くなっている際に、過度のストレス、精神的興奮、坂道や階段の昇降運動といった一定の強さの運動や動作が誘因となり、心臓の負担が増すことで起こるものです。安静狭心症は、就寝中や早朝など、比較的安静にしている際に起こるものです。心不全などを合併することも多く、労作狭心症よりも重症です。

40歳以上の男性に狭心症は多く、女性では閉経期以後や卵巣摘出術を受けた人に多くみられます。誘因として考えられるのは、高血圧、高脂血症、肥満、高尿酸血症、ストレス、性格など。

■発作時の自覚症状は狭心痛

症状としては、狭心痛という発作を繰り返す特徴があります。典型的な狭心痛は突然、胸の中央部に締め付けられるような痛みが起こり、痛みは左肩、左手に広がります。まれに、下あご、のどに痛みが出ることもあります。発作の時間は数分から数十分で治まりますが、発作中は顔面蒼白(そうはく)、胸部圧迫感、息苦しさ、冷汗、動悸(どうき)、頻脈、血圧上昇、頭痛、嘔吐(おうと)のみられるものもあります。

初めての発作は見過ごしがちですが、症状を放置した場合、一週間以内に心筋梗塞、心室細動などを引き起こす可能性もあります。治まったことで安心せずに、病院へ行くべきです。特に高齢者や、発作が頻発に起きる人は、注意が必要となります。

病院では、心電図、運動負荷心電図、冠動脈造影などで検査し、すべてのタイプに共通して、血栓ができるのを防ぐために、アスピリンなどの抗血小板剤の投与による治療が行われます。発作を止めるために、ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなどの硝酸薬、発作を予防するために、硝酸薬、β遮断薬、カルシウム拮抗(きっこう)薬が投与されるほか、 経皮的冠動脈形成術、冠動脈大動脈バイパス移植術などの外科的治療も行われます。

■予防、対策のための心掛け

発作が起きた時には、安静が原則です。直ちに動作を中止し、歩行中ならば立ち止まって休みます。横になると、下半身の血液が大量に心臓に戻ってきて、心臓に負担をかけます。立っている場合は、何かにつかまって前かがみの姿勢で休むようにします。寝ている場合は、上体を起こして座り、布団などにもたれるようにします。そして、なるべく早く病院へ行くことです。

狭心症などの心臓病は、男性は40代、女性は閉経後の50代から増加し始めますので、年一回は定期検診を受けましょう。心電図や心拍数の変動、連続心電図などで、潜在的な心臓病の有無を調べられます。

高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が心臓病のリスクを高めるため、生活習慣病にかからないように留意し、もしかかってしまった場合には、そちらの治療をすることが先決となります。

腹囲の大きい人も、要注意です。肥満は生活習慣病の危険因子であり、動脈硬化の原因にもなるからです。まず、身長(センチ)マイナス100(キロ)までの減量を心掛けて下さい。

また、たばこの煙を吸うと、血管が収縮して血圧が上昇、心拍数も増えて、心臓が急激に酸素を要求します。喫煙者が狭心症や心筋梗塞で死亡する危険度は、非喫煙者の1.7~3倍ともいわれています。心臓に不安を抱えている人は、必ず禁煙の実行を。他人のたばこの煙を吸う受動喫煙も、心臓病のリスクを高めてしまいます。

心臓病のリスクを低めるには、食事が役立ちます。青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という成分は、血栓を溶かす作用があり、動脈硬化を予防します。タマネギに含まれる硫化アリルも、血液をサラサラにする作用があります。

血管の弾力性を保つ蛋白(たんぱく)質、抗酸化作用のある緑黄色野菜と大豆製品も、必要不可欠です。

2022/08/10

🇰🇼加齢黄班変性

高齢者の失明原因となる疾患の一つ

加齢黄斑(おうはん)変性とは、眼球内部の網膜にある黄斑が変性を起こして、視力が低下する疾患。加齢に伴って起こるもので、高齢者の失明原因の一つです。

黄斑とは、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。

この黄斑に異常が発生すると、視力に低下を来します。また、黄斑の中心部には中心窩(か)という部分があり、ここに異常が発生すると、視力の低下がさらに深刻になります。

加齢黄斑変性には、網膜よりさらに外側に位置している脈絡膜から、異常な血管である新生血管(脈絡膜新生血管)が生えてくることが原因で起こる滲出(しんしゅつ)型と、新生血管は関与せずに黄斑そのものが変性してくる非滲出型(委縮型)の二つのタイプがあります。

新生血管とは、網膜に栄養を送っている脈絡膜から、ブルッフ膜を通り、網膜色素上皮細胞の下や上に伸びる新しい血管です。正常な血管ではないため、血液の成分が漏れやすく、破れて出血を起こしてしまいます。

滲出型加齢黄斑変性の初期では、物がゆがんで見える変視症や、左右の目で物の大きさが違って見えるなどの症状を自覚するケースが多くみられます。新生血管が破れて黄斑に出血を起こすと、見たい物がはっきり見えない急激な視力低下や、見ようとする物の中心部が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点という症状が出現します。

病巣が黄斑に限られていれば、見えない部分は中心部だけですが、大きな出血が起これば、さらに見えにくい範囲が広がります。病状が進行すると、視力が失われる可能性があります。また、片目に病巣が認められたら、4割程度の人では経過とともに両目に発症するといわれています。医師に本疾患と診断された人は、良いほうの目も定期的に診てもらうべきです。

非滲出(委縮)型加齢黄斑変性の場合は、黄斑の加齢変化が強く現れた状態で、網膜色素上皮細胞が委縮したり、網膜色素上皮細胞とブルッフ膜の間に黄白色の物質がたまったりします。病状の進行は緩やかで、滲出型と比較すると視力低下の程度も軽度であることがほとんどで、視力はあまり悪くなりません。

しかし、新生血管が発生することもあるので、定期的に眼底検査、蛍光眼底検査を行い、経過をみる必要があります。特に、片目がすでに滲出型加齢黄斑変性になっている場合は、注意深く経過をみなければいけません。

加齢黄斑変性は高齢者に多く発症することから、黄斑、とりわけ網膜色素上皮細胞の加齢による老化現象が主な原因と考えられています。また、はっきりしたことはわかっていませんが、高血圧や心臓病、喫煙、ビタミンやカロチン、亜鉛などの栄養不足のほか、遺伝の関与も報告されています。しかし、加齢黄斑変性の原因と病態は完全には解明されておらず、現在もなお、さまざまな研究がなされています。

もともと加齢黄斑変性は欧米人に多く、日本人には少ない疾患でした。その主な理由としては、欧米人の目が日本人の目に比べて、目の老化を促進する原因となる光刺激に弱いことが挙げられます。アメリカでは現在、本疾患が中途失明を来す疾患のトップです。

最近では、日本でも発症数が増加の一途をたどっており、日本人の平均寿命の延びが原因として挙げられています。食生活を中心に生活様式が欧米化したことや、TVやパソコンの普及により目に光刺激を受ける機会が非常に多くなったことも、原因の一つと考えられています。日本人では、女性の約3倍と男性に発症しやすいことを示す研究報告もあります。

加齢黄班変性の検査と診断と治療

健康診断で、加齢黄斑変性が早期に発見されることもあります。50歳以後の中高年の人は、視力を保つために早めに検査を受けましょう。

今まではあまり有効な治療法はありませんでしたが、近年、新しい方法が試みられるようになり、早期発見、早期治療によって視力低下を最小限に抑えられる可能性が期待できるようになってきました。

病気の診断、程度の判定、最適な治療を考える上で、医師による多くの検査が必要です。特に重要なのは、眼底検査と蛍光眼底検査。

眼底検査は、眼底にある網膜の状態を詳しく調べるために行われます。検査の前に目薬をさして、瞳孔(どうこう)を開きます。まぶしくて近くが見えない状態が約3時間続きますが、自然に元に戻ります。

蛍光眼底検査は、網膜や脈絡膜の血液の流れを把握する目的で行われ、腕の静脈に蛍光色素を注射してから眼底を調べます。蛍光色素によって血管だけが浮き彫りになりますから、血管の弱い部分や詰まった個所、新生血管の発生した位置を突き止めたり、病状の程度を判定したりすることが可能です。

その他、主として脈絡膜の血液循環を調べるための特殊な造影検査もあります。

加齢黄斑変性の治療では、レーザーによるレーザー光凝固術や、場合によっては手術が行われます。近年、経瞳孔温熱療法や光線力学療法などといった新しい治療法が一部の施設で試みられ始めており、この病気の予後の向上が期待されるようになってきています。

レーザー光凝固術は、新生血管をレーザー光で焼き固める治療法です。正常な周囲の組織にもダメージを与えてしまいますので、新生血管が中心窩にある場合はほとんど実施されません。

手術には、新生血管抜去術と黄斑移動術があります。新生血管抜去術は、新生血管を外科的に取り去る治療法です。新生血管が中心窩にある場合も実施されますが、中心窩を傷付けてしまう可能性もあります。

黄斑移動術は、中心窩の網膜を新生血管から離れた場所に移動させることにより、中心窩の働きを改善する治療法です。新生血管が中心窩にある場合に実施されますが、物が二つに見えるなどの副作用が起こる場合もあります。

新しい治療法の経瞳孔温熱療法は、弱いレーザーを新生血管に照射し、軽度の温度上昇によって、新生血管の活動性を低下させる治療法です。

光線力学的療法のほうは、光に反応する薬剤を体内に注射し、それが新生血管に到達した時にレーザーを照射する治療法です。弱いレーザーによって薬剤が活性化され、新生血管を閉塞(へいそく)します。使用するレーザーは通常のレーザーとは異なり、新生血管周囲の組織にはほとんど影響を及ぼしません。継続的に行う治療法であり、3カ月ごとに検査を行い、その結果により必要に応じて再度実施されます。

薬物療法として、ステロイド剤や血管新生阻害剤などの投与が試みられています。効果を得るには繰り返しの投与が必要で、経瞳孔温熱療法との併用も考えられています。

治療後の視力は、病状の進行度によってさまざまです。一般に早期に治療を開始すると、良好な視力が保たれる傾向にあります。黄斑の中でも特に重要な中心窩に病態が現れている場合は、視力の低下は著明です。

治療後も、定期的に医師による目のチェックを受けるとともに、バランスの取れた食事で目の健康を保ち、全身の健康を維持しましょう。

亜鉛の血中濃度の低下と加齢黄斑変性の関連が、指摘されています。加齢に伴って、亜鉛が含まれている食品の摂取量が少なくなるとともに、腸の亜鉛を吸収する力が低下してしまうことから、亜鉛不足になりやすいといわれています。亜鉛を多く含んでいる食品である穀類、貝類、根菜類を、なるべく摂取するようにしましょう。

同じく、カロチン(カロチノイド)の摂取量が少ないと、加齢黄斑変性を発症しやすいという研究報告もあります。カロチンを多く含んでいるカボチャ、ニンジン、トマト、さやいんげん、ピーマンなどの緑黄色野菜を、なるべく摂取するようにしましょう。

🇰🇼加齢性筋肉減弱症

年齢を重ねるとともに筋肉量が減少し、筋力または身体能力が低下した状態

加齢性筋肉減弱症とは、年齢を重ねるとともに筋肉量が減少し、筋力または身体能力が低下した状態。サルコペニア、原発性サルコペニアとも呼ばれます。

1980年代後半に、アメリカの研究者が加齢性筋肉減弱症、すなわちサルコペニアを提唱しました。主に高齢者にみられ、運動機能、身体機能に障害が生じたり、転倒、骨折、寝たきりの危険性が増大し、自立した生活を困難にする原因となることがあります。

2010年に欧州の老年医学の研究グループが診断基準を作りましたが、欧米人のデータを基にした基準値は、体格の異なるアジア人には必ずしも適さないと考えられました。そこで、日本、韓国、中国、香港、タイなど、アジアの7つの国・地域の研究者が協力し、2013年にアジア人向けの診断基準をまとめました。

加齢性筋肉減弱症の定義は、(1)筋肉量の減少(2)筋力の低下(3)身体能力の低下のうち、(1)と、(2)か(3)のどちらかがある状態です。

アジア人向けの診断基準では、高齢者が加齢性筋肉減弱症かどうかを診断する際、まず握力と歩行速度を測定します。基準値は、握力が男性26キログラム未満、女性18キログラム未満、歩行速度が秒速0・8メートル以下。どちらか一方でも該当すると、加齢性筋肉減弱症が疑われます。

握力の基準値は、両手で各3回測り、最高値をとります。歩行速度の秒速0・8メートルの目安は、青信号で横断歩道を渡りきれるかどうかです。

確定診断には、X線を用いる特殊な検査法であるDXA法(二重X線吸収法)で筋肉量を測定し、男性7・0(キログラム/平方メートル)、女性5・4(同)の基準値未満なら、加齢性筋肉減弱症とされます。

 ただし、加齢性筋肉減弱症、すなわちサルコペニアは疾患名として確立しておらず、この筋肉量測定法は普及していないので、握力か歩行速度が基準値以下なら注意が必要と考えられます。

70歳以下の高齢者の13〜24パーセント、80歳以上では50パーセント以上に、加齢性筋肉減弱症を認めるという報告があります。仮に筋肉量が基準値を超えているのに、握力や歩行速度が基準値以下なら、パーキンソン病や変形性膝(しつ)関節症など、ほかの病気が影響している可能性もあるとされます。

筋肉の量は20歳代前半をピークに、25~30歳ころから減少の進行が始まり、生涯を通して進行していきます。40歳代以降は年1パーセントの割合で減少し、75歳を超えると減る割合はより大きくなります。筋肉の量の減少は、活動性の低下だけでなく、組織や細胞の変化など多くの因子によって起こります。

また、筋肉の量の減少は広背筋、腹筋、膝伸筋群、臀筋(でんきん)群などの抗重力筋において多くみられるため、立ち上がりや歩行が次第に億劫(おっくう)になり、放置すると歩行が困難になり、高齢者の活動能力の低下の大きな原因となっています。

頻繁につまずいたり、立ち上がる時に手を掛けるようになると、症状がかなり進んでいると考えられます。特に、つまずきは当人や周囲が注意力不足のせいだと思い込んでいることが多いため、筋力の低下が原因と気付かないことが多く、注意が必要です。

加齢性筋肉減弱症の対策と軽減策

筋肉量の減少や筋力の衰えを予防、改善するには、運動と栄養補給の組み合わせが大切です。

運動としては、特に下半身の筋肉を鍛えるスクワットなどが推奨されます。ウオーキングなどの有酸素運動も、取り入れたほうがよいでしょう

栄養補給としては、蛋白質(たんぱくしつ)に含まれる必須アミノ酸の一つで、筋肉を作る役割があるロイシンの摂取が効果的。肉や魚、卵、乳製品、大豆など、ロイシンを多く含む食品を毎日食べたほうがよいでしょう。

🇸🇱脳血管性認知症

脳の血管障害で起こる認知症

脳血管性認知症とは、脳の血管に血栓という血の固まりが詰まった脳梗塞(こうそく)や、脳の血管が破れて出血した脳出血など、脳の血管に異常が起きた結果、認知症になるものを指します。簡単にいうと、脳血管疾患の後遺症。

かつての日本では、認知症の中で最も多い疾患でした。1970年代、脳血管性認知症がおよそ60パーセントを占め、アルツハイマー型認知症の2倍程度でした。その後、脳血管性認知症の有病率が下がる一方で、アルツハイマー型認知症が増加し、現在ではアルツハイマー型認知症が50~60パーセント、脳血管性認知症が約30パーセントと逆転しています。

脳血管性認知症の主な症状は、日常生活に支障を来すような記憶障害と、その他の認知機能障害である言葉、動作、物事を計画的に行う能力などの障害で、他の認知症を来す疾患と大きな違いはありません。記憶などの認知機能の障害は、アルツハイマー型認知症より軽度のことが多いようです。アルツハイマー型認知症が女性に多いのに対して、男性に多くみられます。

脳血管性認知症の症状には、いくつかの特徴があります。まず第一に、突然の脳血管障害をきっかけに、急激に認知症が発症する場合と、小さな脳梗塞を繰り返して起こしているうちに、徐々に認知障害が現れる場合とがあることです。

後者の脳梗塞の多発によるものが、70~80パーセントと発症原因の大部分を占めます。脳血管性認知症は「多発梗塞性認知症」と呼ばれることもありますが、この命名は脳梗塞、特に小さい脳梗塞が多くできると認知症が出現することに、由来しています。

そして、脳血管障害を再発することで、階段状に悪化していくことが多くみられます。

脳梗塞で脳の太い血管や細い血管が血栓で詰まると、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなって、一部の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまうために、脳の働きが悪くなって認知症が生じます。

より正確にいうと、脳梗塞は血管の詰まり方で、脳血栓と脳塞栓(そくせん)の二つに分けられます。まず、脳血栓は脳の血管が動脈硬化によって詰まって、血流が途絶えてしまうもので、動脈硬化の進む中高年以降に多くなります。一方、脳塞栓は体のほかの場所から流れてきた血栓によって、脳の血管が突然詰まってしまうもので、脳血管の動脈硬化の有無にかかわらず、かなり広い年齢層で起こり得ます。

脳梗塞以外にも、脳の血管が破れて起こる脳出血の後遺症として、認知症になることもあります。また、脳の海馬(かいば)や視床(ししょう)といった記憶に関係した特定の部位の血管が損なわれて、認知症が起こることもあります。損なわれた脳の部位、その程度や範囲によって、症状が異なります。

第二の特徴は、脳血管障害を発症した経験があったり、高血圧、糖尿病、心疾患、動脈硬化症、高脂血症など脳血管障害を起こしやすい危険因子を持っている人に、よく起こることです。危険因子のほとんどは、生活習慣病といわれるものに相当します。

症状としては、末期を除けば、すべての認知機能が一様に、顕著に低下するわけではありません。記憶力の低下ははっきりしていても、計算力はある程度残っているとか、時間や場所はわかるとか、対応は全く正常であるという場合が少なくありません。

初期から歩行障害、手足のまひ、ろれつが回りにくいなどの言語障害、パーキンソン症状、転びやすい、頻尿・尿失禁などの排尿障害、嚥下(えんげ)障害、その場にそぐわない泣きや笑いを示す感情失禁などがみられることも、しばしばあります。

アルツハイマー型認知症と比べて、人格は比較的よく保たれていることが多く、病気を自覚する病識も比較的保たれており、初期の段階では周囲の人には気付かれないことが多いものです。しかしながら、脳血管障害を起こす度に片まひや言語障害を来したりして、段階的に認知機能の程度が進んでいきます。

精神症状には、不眠、抑うつ、自発性の低下、意欲の減退、興奮、夜になると意識レベルが低下して別人のような言動をする夜間せん妄がみられます。

問題行動として、徘徊(はいかい)、行方不明、盗害妄想、幻視、人物誤認による異常行動、易怒、暴力行為、弄便(ろうべん)などの不潔行為、異食などが起こることがあります。

検査と診断と治療

脳血管性認知症の検査と診断法は、アルツハイマー型認知症とほぼ同じです。両者の区別は必ずしも簡単ではありませんが、よく利用されるのが脳の画像による診断方法です。

脳のCT検査やMRI検査によって、脳内の血管障害の有無、大きさ、損なわれた部位および脳の委縮の程度を知ることができます。

また、脳の血管を調べるMRA検査や脳血管造影検査、脳の血流を調べる脳血流シンチグラフィーによって、脳血管の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)の有無を知ることができます。脳梗塞にはなっていなくても、脳血管の狭窄や閉塞によって脳への血流が低下し、認知症を起こしている場合もあります。

さらに、エコー検査によって、脳の動脈硬化の程度を知ることができます。この検査は、首の左右にあって脳に血液を運ぶ2本の頸(けい)動脈の動脈硬化の程度を、超音波のはね返り具合で測定するもので、苦痛を受けずに短時間でできます。

残念ながら、脳血管性認知症の記憶障害や、その他の認知機能障害を改善させる確実な方法は、現在のところありません。近年、認知機能改善薬としてドネペジル(商品名:アリセプト)が開発され、効果が期待されていますが、認知機能障害の進行を遅らせることはできても、完全には治りません。

脳血管性認知症では、脳血管障害を再発することで悪化していくケースが多いため、再発予防が特に重要となります。再発予防のための薬剤が使われるとともに、脳血管障害の危険因子である高血圧、糖尿病、心疾患などを適切にコントロールするために、血圧、血糖、コレステロールや血液の凝固しやすさを測定し、正常な値にする薬剤が使われます。

自発性の低下、意欲の減退、発語減少、興奮といった症状に対して、脳循環代謝改善剤、脳代謝賦活(ふかつ)剤が有効な場合もあります。抑うつに対して抗うつ剤、不安や焦燥に対して抗不安薬、精神症状や問題行動に対して向(こう)精神薬が使用されることもあります。

リハビリテーションやレクリエーションといった非薬物療法が、脳血管性認知症の症状や生活の質の改善に有効な場合もあります。

2022/08/08

🇧🇼逆さまつげ

まつげが内側に向き、眼球表面に触れている状態

逆さまつげとは、本来は外向きに生えているまつげが内向きに生えて、眼球の表面に触れている状態。まつげが角膜を刺激するため、目やにや涙が多くなり、目が充血します。

目の縁に沿って生えているまつげは、いわば目の門番。目にゴミや虫などが入ろうとすると、すぐに察知して、まぶたを閉じさせます。そのまつ毛が角膜側を向く原因には、まぶた自体が内向きにまくれ込んでいる眼瞼(がんけん)内反と、まぶたには問題はなく、毛根からのまつ毛の生え方がいびつで角膜側を向く睫毛乱生(しょうもうらんせい)とがあります。

眼瞼内反には、先天性のものと加齢性(老人性)のものが多く、いずれもまぶたの皮膚や皮下脂肪の過剰やたるみ、皮下の筋肉の筋力低下などによるものです。

先天性の眼瞼内反で、まぶたの内反の程度が軽く、皮膚などが過剰なため、まつ毛全体の生える方向全体が内向きである場合、特に睫毛内反と呼ぶことがあります。乳幼児、若年者に多くみられるのが、睫毛内反の特徴です。

乳幼児の場合、まぶたの特に下まぶたの脂肪が過剰なためにふっくらとしていて、まぶた自体が内側を向いているもので、小学校入学時までにその脂肪も成人とほぼ同じになり、自然にまぶたが外側を向いてきて、ほとんどの場合、自然に治癒します。

高齢者に多い加齢性(老人性)の眼瞼内反では、皮下脂肪が少なくなって、上まぶたがやせてたるんでくるために、まつげが内反することもよくあります。加齢によって涙の分泌も減っているため、目の症状が出やすいのが特徴です。

また、これらのほかに、炎症などの結果、まぶたが変形して起こる瘢痕(はんこん)性の逆さまつげや、まぶたがけいれんして起こる逆さまつげなどもあります。いずれも、一並びのまつ毛全体が角膜側を向くので、多くのまつ毛が角膜に当たることになります。

一方、睫毛乱生は眼瞼縁炎など、まつ毛の毛根部の炎症によって引き起こされることが多く、角膜に当たるまつ毛の数は1本のみの場合から多数の場合までいろいろです。

症状としては、幼児ではまばたきが多くて、目をよくこすったり、光をまぶしがったり、目やにや涙が多くなったり、目が充血したりします。生後間もない乳児では、まつげが細く軟らかいため、症状はあまり出てきません。小児、成人では、幼児の症状に加え、異物感、痛みなどが生じます。成長するとまつげが硬くなるため、角膜の傷がひどくなり、角膜が混濁して視力が低下してくる場合もあります。

逆さまつげの検査と診断と治療

涙や目やにが多いなど同様の症状でも、結膜炎、眼瞼縁炎などの場合もあるので、早めに専門医を受診して、原因をはっきりさせることが大切です。

眼科外来での診察では、まぶたの形状、まつ毛が角膜に接触していること、角膜の傷の程度などを診断します。常時まつ毛が角膜に接触している場合のほかに、眼球運動やまばたきの強さ次第で、まつ毛が角膜に接触する場合があります。

先天性の眼瞼内反、睫毛内反の場合、成長とともに1歳前後で自然に治ることが多いので、それまでは抗生物質入りの点眼液や眼軟膏(なんこう)を用いて眼球を保護し、様子をみるのが普通です。

2歳以上で治らない場合、さらなる成長に伴い自然治癒することも期待できますが、症状の強さ次第では手術を考えます。4~5歳になっても症状が軽減しない時などは、手術をします。

加齢性の眼瞼内反では、まつ毛を抜くと一時的に症状は改善しますが、再びまつ毛が生えると同じことの繰り返しになります。また、抜くにしても、一並びのまつ毛全体を抜く苦痛も決して軽くはありません。手術して治すほうが効果的です。

睫毛乱生でも、まつ毛を抜くと一時的に症状は改善しますが、まつ毛が生えるとやはり同じことの繰り返しです。抜く本数が少なくても、繰り返せば炎症を引き起こしたり、さらに太いまつ毛が生えてくる場合もあります。

きっちり治すには手術が必要で、まつ毛の毛根を電気の針で焼く睫毛電気分解や冷凍凝固、あるいは眼瞼内反手術に準じた手術などが行われます。簡単には治らない場合もあります。

🇿🇼骨粗鬆症

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)とは 

1.骨粗鬆症とはどのような病気なのか

 骨にはタンパク質やリンなどとともに、たくさんのカルシウム(骨重量の約50%)が含まれています。しかし、骨に含まれるカルシウムなどの量(骨量)は、若年期をピークに年齢とともに減ってきます。

 そして、骨量が減少すると、骨の中の構造が壊れ、骨は非常にもろい状態になり(脆弱性亢進)、折れやすくなります。この状態が骨粗鬆症です。

 骨粗鬆症には、上のような老化による骨粗鬆症の他に、成長期や出産後などに起こるものもあります。 

2.骨粗鬆症になる割合はどのくらいなのか

 骨粗鬆症は圧倒的に女性に多い病気で、女性では閉経期の40~50歳代から急激に骨量が減少し、60歳代では2人に1人、70歳以上になると10人に7人が骨粗鬆症を起こすような状態になっています。

 一方、男性では60歳過ぎから徐々に増え、70歳以上では10人に4人足らずです。

 現在、日本には1,000万人以上の骨粗鬆症患者がいると推定されています。 

なぜ、骨量が減少するのか?  

 骨の構成成分であるカルシウムは、食事によって摂取され、腸で吸収されて血液中に入り、骨に運ばれ骨が作られます(骨形成)。その一方で、骨はしなやかさを保つために、古くなった骨の成分を壊し(骨吸収、骨破壊)、新陳代謝を行っています。

 また、体の中のカルシウムの約1%は骨や歯以外の細胞や血液中に存在して、神経や筋肉の興奮、あるいは血液凝固(血を固める働き)などで非常に重要な役割を果しています。そのため、血液中のカルシウムが足らなくなると、不足分を骨のカルシウムで補うことになります(骨吸収、骨破壊)。

  このように、骨は体を支える他に、カルシウムの貯蔵庫としての役割を担い、骨は作られる一方で絶えず破壊を繰り返しています。骨量の減少は、このような骨形成、骨吸収のバランスが崩れた結果なのです。

 骨量の減少には以下にあげるようなさまざまな因子が関係してきます。 

1.加齢:年を重ねるとともに、体の中のホルモンが変化するために、骨量が減少します。その他、胃酸分泌の低下や腸の吸収能*能力の低下、腎臓での尿へのカルシウム排泄の増加なども原因となります。 

 【骨粗鬆症に関係するホルモンとその作用】 

ホルモン
        
(女性ホルモン)エストロゲン

 

エストロゲンは骨形成を進め、また骨吸収を抑えます。

しかし、閉経前後からエストロゲン分泌が激減するた

め骨量が減少します。

(カルシウム調節ホルモン)  副甲状腺ホルモン
通常は、副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウムが不

足すると分泌され、骨吸収を促進します。しかし、高

齢者ではカルシウムの摂取不足により血液中のカルシ

ウム濃度が低下するため、副甲状腺ホルモンが分泌さ

れて骨吸収が進みます。

(カルシウム調節ホルモン)カルシトニン
カルシトニンは骨吸収を抑えます。しかし、高齢者で

はカルシトニンの分泌が低下するため骨吸収が進みます。

 

2.女性、閉経:女性の最大骨量は男性より低く、また閉経後の数年間は急激に骨量が減少します。そのため、女性は男性より骨粗鬆症になる危険性が高く、より若い年齢から骨粗鬆症が見られます(男性では、女性ホルモンと同様、男性ホルモンが骨形成を進めています。しかし、男性ホルモンは女性ホルモンほど加齢によって減少しません)。 

3.遺伝:家族に骨粗鬆症にかかった人がいる場合、骨粗鬆症になる可能性が高いです。 

4.カルシウム不足:カルシウムは少なくとも1日600mg、成長期の若い人、閉経を迎えた人などは1,000~1,500mgが必要です。高齢者では淡泊なものを好み、食事量も減ってくることから、カルシウムの摂取量が減りがちです。 

5.ビタミンD不足:腸におけるカルシウムの吸収にはビタミンDの作用が必要なため、ビタミンDが不足するとカルシウムを吸収することができません。 

6.日光浴不足:ビタミンDは、腸でのカルシウムの吸収に不可欠なビタミンです。そして、皮膚の中で日光の紫外線にあたって、はじめて、その役を果すことができるようになります(活性ビタミンD)。そのため、日光に当たらないとうまくカルシウムを吸収することができません。 

7.運動不足:筋肉だけでなく、骨の強さを保つためにも運動は非常に大切です。運動といっても、スポーツとは限らず、日常生活の自然な動作や生活様式も、骨や筋肉の維持に影響します。 

8.喫煙、飲酒、カフェイン:喫煙は胃腸の働きを悪くしてカルシウムの吸収を悪くし、過量のカフェインは尿へのカルシウムの排泄を増やします。また、過量のアルコールはカルシウムの吸収を減らして、排泄を増やします。 

9.食塩、糖分:食塩や糖分を取りすぎると、カルシウムの尿への排泄が増加し、からだの中のカルシウムが不足することになります。 

10.ストレス:過度のストレスは、腸におけるカルシウムの吸収を妨げます。

症状

 骨粗鬆症は自覚症状が少ない病気です。そのなかで代表的な症状としては、骨折と、それに伴う痛みなどが中心になります。骨粗鬆症による骨折のほとんどは脊柱(背骨)、大腿骨(太ももの骨)、あるいは、橈骨(手首から肘にかけての親指側の骨)に起こります。 

1.橈骨(とうこつ)の骨折

 転んで手をついた際に起こる骨折です。橈骨(手首)の他、腕の付け根の骨(上腕骨頸部)を骨折することもあります。 

2.大腿骨の骨折(大腿骨頸部骨折)

 男女ともに60歳以後、年を取るとともに転倒などによる大腿骨折を起こします。

 大腿骨の骨折を起こすと寝込むことが多く、そのため運動不足などから,さらに骨量が減少するという悪循環に陥り、高齢者では「寝たきり」の原因になることが少なくありません。 

3.脊柱(せきちゅう)の骨折(圧迫骨折)

・脊柱の変形、身長の短縮:重いものを持ったり、転んだりして普段より少し余計な力がからだに加わっただけで、椎骨(脊柱を構成している一つひとつの骨)が変形します。椎骨の変形は上下からの圧迫によって起こるため、全体が押しつぶされた状態を圧迫骨折と呼びます。椎骨の変形の種類や変形したり圧迫骨折を起こした椎骨の数によって、脊柱はさまざまな形に変形します。そのため、身長が短縮し姿勢や歩行の仕方にも変化が見られます。

・慢性の腰痛:椎骨の変形が徐々に生じると、背骨やその両側の筋肉が次第に痛むようになります。痛みは、寝返りや起床、歩行開始時など動作を始めるときに生じます。

・突然起こる腰、背中、時には胸の痛み:脊柱の中には神経(脊髄神経)が通り、さらに椎骨の間から体の各部に向かう神経の枝が出ているため、椎骨の圧迫骨折が起こると、神経の枝が圧迫され、腰や背中に突然、激しい痛みが生じます(腰痛や背中の痛み)。時には、胸やお尻に痛みを感じることもあります。 

予防■ 

●日頃からカルシウム摂取を心掛けた食生活を実現し、骨量を増やし減少を防ぎましょう。

●自分の骨量を知っておきましょう-早期発見。

●骨折の原因となりやすい動作や転倒などに注意しましょう。

 最も大切なのは、骨量が最大となる若年期に、骨量をより多くしておくことです。この時点の骨量が多ければ、歳をとって骨量が減少しても、骨粗鬆症になる危険な値に達することはありません。そのためには、小児期および青年期から、しっかり骨量を増やしておくことが大切です。

 是非とも、若い時からの長期的に骨粗鬆症の予防に取り組み、明るい高齢期を実現してください。

1.カルシウムを含む食品をたくさん食べましょう

 成人におけるカルシウムの1日所要量は600mgとされていますが、成長期の若いひと、閉経を迎えたひと、また、これを過ぎて骨粗鬆症の危険度が高いひとは1,000~1,500mgが必要です。しかし、カルシウムはなかなかとりにくい栄養素で、日本人の平均摂取量は未だに1日所要量の90%程度といわれています。

 まず、牛乳を1日2本飲み、骨ごと食べられる小魚類や大豆製品、海草類をとるようにしましょう。野菜では、カルシウムの含有量が多い小松菜がお勧めです。カルシウム強化補助食品も市販されていますが、あくまで補助として利用し、工夫して食生活を充実させましょう。

最近、若い女性の間でダイエットをするひとが多く見られますが、カルシウムを意識しないダイエットは骨量を著しく減少させます。骨粗鬆症はおばあさんのなる病気と決め付けてはいませんか。実は病気になるもならないも、10~20歳代からの食生活が大変影響してきます。ダイエットをする際には、くれぐれもご用心を。

カルシウムの多い食品

  食品の種類

   目安量

  カルシウム量

   豆・種実

  豆腐(木綿)

   1/3丁

  120mg

   生揚げ

   1/2丁

  156mg

  凍り豆腐

   1枚

  118mg

   ごま

   3g

   36mg

    野菜

  小松菜

   1/4束

  232mg

    

  かぶの葉

   1/4束

  115mg

  大根の葉

   30g

   63mg

  切り干し大根

   10g

   47mg

   乳製品

 牛乳(200ml)

    1本

  200mg

   

  スキムミルク

  大さじ2杯半

  220mg

  ヨーグルト

    1個

  120mg

  魚介・海草

  わかさぎ

   中5尾

  450mg   

   いわし

   中4尾

  840mg

  ししゃも

   中4尾

  264mg

   桜えび

   10g

  150mg

  しらす干し

   20g

  106mg

   ひじき

   10g

  140mg

2.腸でのカルシウムの吸収を良くしましょう

・ビタミンDを摂る:ビタミンDは、カツオ、マグロ、アジ、レバー、バター、たまご、椎茸などに含まれています。

・日光にあたる:食物に含まれるビタミンDは、正確には前駆体(プロビタミンD)です。実際に役立つビタミンDになるには、いったん皮下の脂肪組織に蓄えられて、日光の紫外線の作用を受ける必要があります。夏なら木陰で30分、冬なら顔や手に太陽を1時間当てるくらいで、1日に必要なビタミンDが十分作られます。

・タバコを吸わない

・アルコールをとりすぎない

・ストレスをためない

3.定期的に運動をしましょう

・運動とは:骨に力(体重)がかかるような運動(陸上競技、重量挙げなど)が骨量をよく増加させます。しかし、長距離走や過度の運動や減量を必要とするもの、ストレスになるほどの運動は、かえって骨量を減少させることがあります。高齢者では、心臓、肺や、手足の関節に負担をかけない運動(歩行、ジョギング、自転車、体操など)が勧められます。なかでも、歩行は最も簡単で、速度によって強さを調節することもできる運動です。

・適度な運動量とは:運動は、軽く汗ばむ程度で1日60分、2日程度の休息をとりながら、1週間に3日以上行います。

・注意点:高齢者や膝、股関節に変形が見られる方や、他の病気を治療中の方は、必ず主治医と相談のうえ行ってください。また、運動中に体に異常があったら、すぐに中止し医師の診断・治療を受けてください。

4.カルシウムがおしっこに排泄されすぎないようにしましょう

・食塩、糖を摂りすぎない。

・カフェインを摂りすぎない。

5.骨折を防ぐための日常生活上の工夫や注意点

・つまづきそうなものは片づける。

・段差をなくす。

・階段には、手すりや滑り止めをつける。

・風呂場には手すりをつけ、湯船の中には滑り止めマットを敷く。

・暗いところには、足下をてらす明かりをつける。

・家の中では素足、外では運動靴がよい。

・大雨、強風、雪などの日は外出を避け、人混みも避ける。

・重いものを持ったり、運んだりしない。

2022/08/04

🇻🇪見当識障害

認知症などにより、自分が置かれている環境を理解する能力が障害された状態

見当識(けんとうしき)障害とは、自分自身が現在置かれている環境を理解する能力が障害された状態のこと。認知症、高次脳機能障害などでみられます。

見当識とは、時、所、人などについて見当が付いていることを意味します。だから、見当識障害は、今日は何日で、今どこにいて、目の前の相手は誰かなどがわからなくなります。

季節や日付、朝と夜などが認識できない「時間の見当識障害」、自分が現在いる場所または住んでいる場所が認識できない「場所の見当識障害」、日常的に接している家族や周囲の人達を認識できない「人物の見当識障害」に大別されます。

見当識障害は、知能活動の中核である大脳皮質の細胞が壊れることによって起こります。脳の外側を広く覆っている大脳皮質は大脳新皮質と呼ばれることもあるように、進化の過程で獲得した新しい脳の構造であり、人間固有の理性的思考、学習、記憶、計画、判断、共感などの高次脳機能を発現するために必要不可欠な部位であり、問題なく日常生活を送るために欠かせない見当識も高次脳機能の一つです。

そのため、大脳皮質が物理的に損傷したり、病理的な異常がみられたりすると、見当識にさまざまな障害がみられることになります。

見当識障害が発生する疾患として最もよく知られているものは、脳血管型認知症、アルツハイマー型認知症などの認知症です。事故やけがによる脳の器質的障害によっても、見当識障害が発生し得ます。一時的な軽度の見当識障害であれば、頭を激しくぶつけた時に意識がもうろうとする脳震盪(しんとう)でも起こるし、重度の車酔いで三半規管の機能が低下した時にも、見当識失調と呼ばれる平衡感覚の乱れや意識レベルの低下がみられることがあります。

幻覚、妄想の陽性症状が頻繁に出現する重症の統合失調症や、過去の記憶内容を想起できなくなり自己アイデンティティが拡散する深刻な解離性障害(ヒステリー)でも、各種の見当識障害が発症することがあります。

2022/08/02

🇮🇸前立腺がん

男性の尿道後部を囲む前立腺に発生するがん

前立腺(ぜんりつせん)がんとは、男性の尿道後部を囲む分泌腺である前立腺に発生するがん。

前立腺はクルミ大の器官で膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあり、この中を尿道が貫いています。男性ホルモンに支配されており、分泌される前立腺液は精液の一部を占め、精子の運動を活発にするものといわれています。

前立腺がんは、前立腺肥大症とともに高齢者に多い疾患の一つです。従来から欧米に多く、日本では少なかったのですが、近年はその発病率が徐々に増加しています。平均寿命が延びて高齢者が増えているのが関係しているばかりでなく、食生活が欧米化していることも関係しているといわれています。また、腫瘍(しゅよう)マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)検査の普及に伴って、その発見頻度も徐々に増加しています。

現在、1年間に前立腺がんにかかる日本人男性は、現在10万人当たり15人程度。年齢別では、45歳以下ではまれなものの、50歳以後その頻度が増え、70歳代では10万人当たり約200人、80歳以上では300人以上になります。

原因は遺伝子の異常とされており、加齢と男性ホルモンの存在が影響しますが、いまだ明確ではありません。欧米の報告によると、肉やミルクなど脂肪分が多く含まれている食事を多く摂取することにより、前立腺がんの発生が増えると考えられています。一方、穀類や豆類など繊維を多く含む食事は、がんの発生を抑える効果があると考えられています。肥満、過度の飲酒、喫煙が誘因になるとの指摘もあります。

前立腺がんは前立腺の外側の腺上皮から発生する率が高く、初期にはほとんど症状がありません。がんが大きくなって尿道が圧迫されると、尿が出にくい、尿の回数が多い、排尿後に尿が残った感じがする、夜間の尿の回数が多いなど、前立腺肥大症と同じ症状が現れます。

がんが尿道または膀胱に広がると、排尿の時の痛みや、尿漏れ、肉眼でわかる血尿が認められ、さらに大きくなると尿が出なくなります。精嚢(せいのう)腺に広がると、精液が赤くなることがあります。

さらにがんが進行すると、リンパ節や、脊椎(せきつい)、骨盤骨に転移します。リンパ節に転移すると下肢のむくみ、骨に転移すると腰痛や背痛、下半身まひを起こすことがあります。

なお、前立腺肥大症ではどんなに進んでも、下肢のむくみ、骨の痛みなどはみられません。2つの疾患が合併することもあります。

前立腺がんの検査と診断と治療

前立腺がんは、遺伝の要素が強いがんの一つと考えられているため、親族が前立腺がんの場合、早めにPSA(前立腺特異抗原)検査を受けます。一般開業医あるいは検診センターで検査を受けた結果がPSA値4ng/ml以上だったら、泌尿器科の専門医を受診します。

PSA値は血液検査だけで測定可能で、一般に正常値は4ng/mlとされ、10ng/mlまでの間をグレーゾーン(灰色の値)といいます。グレーゾーンの人では、おおむね20〜30パーセントに前立腺がんが発見され、しかも発見されたとしても早期がんです。PSA値が高いほどがんの可能性が高く、100ng/mlを超えるようなこともあります。

ただし、がんだけが異常値を示すわけではなく、前立腺肥大症でも高値を示すことがあり、年齢とともに上昇する傾向があります。PSA値があまり上昇しない前立腺がんも15〜20パーセントあるため、注意が必要です。

医師による診断では、PSA値の高さ、PSA検査に関連したさまざまな判断基準、年齢による基準を考えに入れて、次の検査を進めます。肛門(こうもん)から指を入れて前立腺を触る直腸診を行うと、がんは硬いしこりとして前立腺内に触れます。経直腸超音波診断を行うと、がんは前立腺の変形、低エコー領域として認められます。

確定診断のためには、生検(組織診)が行われます。超音波検査の道具をガイドにして、直腸方向から生検針を用いて組織を採取して調べるもので、現在は短期間入院して麻酔下で行います。

周囲への進み具合は、腹部リンパ節のCT、骨盤部のMRIによって調べます。全身の骨の転移については、骨シンチグラフィが有用です。

前立腺がんの治療法には、ホルモン療法、放射線療法、手術などがあり、がんの進行程度、年齢により、他の部位のがんより幅広い治療法の選択ができます。

早期がんに相当する前立腺内限局がん(病期A、B)の場合は、第1選択が開腹あるいは腹腔(ふくくう)鏡下による前立腺摘除手術、第2選択が放射線療法となり、どちらでも完治できます。高齢者などでは、ホルモン療法で疾患を抑えます。

放射線療法は、高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺す治療です。1日1回、週5回照射し、5〜6週間の治療期間が必要です。外照射療法のほかに、小線源療法といって前立腺に放射線を出す小さな線源を埋め込む方法があります。

ホルモン療法は、男性ホルモンを血液中から排除する治療で、LH—RHアナログという薬を皮下注射をする方法と、精巣(睾丸)を切除する方法があります。ほかにも、がんの進行程度によって抗男性ホルモン剤や、女性ホルモン剤を用いて治療します。

前立腺から少しはみ出したがんに相当する局所進展がん(病期C)の場合は、ホルモン療法+放射線療法や前立腺摘除手術+ホルモン療法が行われます。ホルモン療法だけでもがんを抑えておくことはできますが、時期をみて放射線療法に移るのが疾患の再燃を防ぐよい方法となります。

進行がんに相当し、リンパ節などへの転移のあるがん(病期D)の場合は、ホルモン療法が行われ、がんの原発巣は縮小し、骨転移による腰痛や背痛も軽減または全く消失します。しかし、進行がんでは2〜3年以内の再発が多く認められ、再発に対する標準的な治療法はまだ定まっていません。

前立腺がんの予防策としては、過食、過飲、喫煙を避け、動物性脂肪を減らし、豆腐、納豆などの豆製品を多く食べ、緑黄野菜の摂取を忘れず、戸外での適度な運動を楽しむことです。 とりわけ、豆類に含まれるイソフラボノイドがエストロゲン(女性ホルモン)様の構造を持つことから、前立腺がんを抑制する可能性があると推定されていますし、野菜、果物も前立腺がんに限らず、一般的にがん予防効果があるとされています。

🇱🇻前立腺結石

男性の尿道後部を囲む前立腺の中に、結石が生じる疾患

前立腺(せん)結石とは、男性の尿道後部を囲む前立腺の中に結石が生じる疾患。

前立腺はクルミ大の器官で膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあり、この中を尿道が貫いています。成人では重さ15~17gグラムで、男性ホルモンに支配されており、分泌される前立腺液は精液の一部を占め、精子の運動を活発にするものといわれています。排尿時に前立腺が収縮、緩和を行うことで、排尿をコントロールをする働きもあります。

ここにできる前立腺結石は、50歳代以上の男性の約80パーセントにみられるといわれています。加齢に伴って、前立腺の内部にでんぷんの小さな固まりができるようになり、石灰質が沈殿して小さい結石が数個形成されます。大抵は体に悪影響を及ぼさない程度のものなので、何かの疾患でX線検査や超音波検査が行われて、偶然発見されることが多く見受けられます。

しかし、前立腺肥大症や尿道狭窄(きょうさく)などによって尿道が狭まり、尿が前立腺液の排泄(はいせつ)管内へ逆流したり、停滞したりすることによって起こる結石が前立腺の内腺と外腺の間にできた場合、結石が増大し、各種排尿障害が顕著に現れることがあります。

細菌の感染を起こさなければ、症状がないものが多く、これらは放置しておいてよいものです。尿路結石などと異なり痛みもなく、排尿障害の原因になることもありません。大きな結石では、排尿痛、会陰(えいん)部痛、頻尿、排尿困難が現れることもあります。

前立腺結石の検査と診断と治療

無症状の症例では、X線検査で前立腺部に細かい石灰化像が認められます。

細菌感染を伴うものでは抗生剤による治療が必要ですが、無症状の症例では治療の必要はありません。大きな結石で排尿痛、会陰部痛、頻尿、排尿困難が現れる場合には、多くは前立腺肥大症などの治療をすると同時に、外部から結石を破壊したり、内視鏡手術で結石を取り出すこともあります。

🇱🇾サルコペニア

年齢を重ねるとともに筋肉量が減少し、筋力または身体能力が低下した状態

サルコペニアとは、年齢を重ねるとともに筋肉量が減少し、筋力または身体能力が低下した状態。原発性サルコペニア、加齢性筋肉減弱症とも呼ばれます。

サルコペニアは、ギリシャ語のsarco(筋肉)、penia(減少)を合わせた造語で、1980年代後半にアメリカの研究者が提唱しました。

主に高齢者にみられ、運動機能、身体機能に障害が生じたり、転倒、骨折、寝たきりの危険性が増大し、自立した生活を困難にする原因となることがあります。

2010年に欧州の老年医学の研究グループが診断基準を作りましたが、欧米人のデータを基にした基準値は、体格の異なるアジア人には必ずしも適さないと考えられました。そこで、日本、韓国、中国、香港、タイなど、アジアの7つの国・地域の研究者が協力し、2013年にアジア人向けの診断基準をまとめました。

サルコペニアの定義は、(1)筋肉量の減少(2)筋力の低下(3)身体能力の低下のうち、(1)と、(2)か(3)のどちらかがある状態です。

アジア人向けの診断基準では、高齢者がサルコペニアかどうかを診断する際、まず握力と歩行速度を測定します。基準値は、握力が男性26キログラム未満、女性18キログラム未満、歩行速度が秒速0・8メートル以下。どちらか一方でも該当すると、サルコペニアが疑われます。

握力の基準値は、両手で各3回測り、最高値をとります。歩行速度の秒速0・8メートルの目安は、青信号で横断歩道を渡りきれるかどうかです。

確定診断には、X線を用いる特殊な検査法であるDXA法(二重X線吸収法)で筋肉量を測定し、男性7・0(キログラム/平方メートル)、女性5・4(同)の基準値未満なら、サルコペニアとされます。

ただし、サルコペニアは疾患名として確立しておらず、この筋肉量測定法は普及していないので、握力か歩行速度が基準値以下なら注意が必要と考えられます。

70歳以下の高齢者の13〜24パーセント、80歳以上では50パーセント以上に、サルコペニアを認めるという報告があります。仮に筋肉量が基準値を超えているのに、握力や歩行速度が基準値以下なら、パーキンソン病や変形性膝(しつ)関節症など、ほかの病気が影響している可能性もあるとされます。

筋肉の量は20歳代前半をピークに、25~30歳ころから減少の進行が始まり、生涯を通して進行していきます。40歳代以降は年1パーセントの割合で減少し、75歳を超えると減る割合はより大きくなります。筋肉の量の減少は、活動性の低下だけでなく、組織や細胞の変化など多くの因子によって起こります。

また、筋肉の量の減少は広背筋、腹筋、膝伸筋群、臀筋(でんきん)群などの抗重力筋において多くみられるため、立ち上がりや歩行が次第に億劫(おっくう)になり、放置すると歩行が困難になり、高齢者の活動能力の低下の大きな原因となっています。

頻繁につまずいたり、立ち上がる時に手を掛けるようになると、症状がかなり進んでいると考えられます。特に、つまずきは当人や周囲が注意力不足のせいだと思い込んでいることが多いため、筋力の低下が原因と気付かないことが多く、注意が必要です。

サルコペニアの対策と軽減策

筋肉量の減少や筋力の衰えを予防、改善するには、運動と栄養補給の組み合わせが大切です。

運動としては、特に下半身の筋肉を鍛えるスクワットなどが推奨されます。ウオーキングなどの有酸素運動も、取り入れたほうがよいでしょう

栄養補給としては、蛋白質(たんぱくしつ)に含まれる必須アミノ酸の一つで、筋肉を作る役割があるロイシンの摂取が効果的。肉や魚、卵、乳製品、大豆など、ロイシンを多く含む食品を毎日食べたほうがよいでしょう。

🇱🇻サルコペニア肥満

加齢による筋肉減少と、肥満の両方を併せ持つ状態

サルコペニア肥満とは、筋肉の減少と肥満の両方を併せ持つ状態。サルコペニアとは、加齢による筋肉の減少を指し、サルコが筋肉、ペニアが減少という意味です。

サルコペニア肥満では、2つの要因が重なって、通常の肥満よりもさまざまな病気になるリスクが高まります。高血圧などの生活習慣病にかかりやすく、また運動能力、特に歩行能力を低下させるため、転倒、骨折、寝たきりになるリスクが高まります。

しかし、筋肉が減少する一方で脂肪が増加するため、全体として体重や体形が変わらない場合があるために気付きにくく、発見が遅れがちで生活習慣病などが進行しやすくなります。

男女とも60歳代でサルコペニア肥満が増え始め、70歳代以上になると約3割が該当するといわれます。また、女性に多いといわれています。

しかし、サルコペニア肥満は高齢者だけがなるわけではなく、若い世代の間でも予備軍がみられます。筋肉の量は20歳代をピークに、40歳代以降は年1パーセントの割合で減少していくため、40歳代以降ではサルコペニア肥満、もしくはその予備軍が4人に1人ともいわれています。

基本的に、運動不足で必要以上の食事を取る人なら、サルコペニア肥満になる可能性があります。また、過度な食事制限を課す誤ったダイエットによって筋肉が減少する状態も、将来のサルコペニア肥満につながります。

筋肉が加齢や運動不足によって減少していくのに伴って、基礎代謝が減り、体が必要とするカロリーが少なくなります。にもかかわらず、以前と変わらない食事を続けていると、余分なカロリーが脂肪になって体に蓄積するようになり、サルコペニア肥満になる可能性が生じます。

サルコペニア肥満の怖いところは、これに気付きにくいという点にあります。通常の肥満だと、体形に変化があって自覚しやすく、ダイエットや運動をする気になりますが、サルコペニア肥満は見た目の変化があまりないので、これまでと同じような生活や食事を続けがちです。

歩幅が短くなる、1秒間に80センチ以下と歩行速度が遅くなる、駅の階段を上る際に手すりに手を掛ける、つま先立ちで歩くことができない、椅子(いす)に座った状態から片足で立ち上がれない、片足立ちで60秒立っていられない。

以上の足の筋力が衰えた際の症状に、もし当てはまるなら、サルコペニア肥満、あるいは予備軍の可能性があります。

足の筋力の低下に合わせて、測定した体脂肪率も肥満レベルであれば、サルコペニア肥満である可能性がかなり高くなります。

公的に認められた数値の定義ではないものの、筋肉の割合が男性で27・3パーセント未満、女性で22パーセント未満、体重を身長の2乗で割った体格指数のBMIが25以上、の2つの条件を満たした場合、サルコペニア肥満と判定するという定義もあります。

体脂肪率、筋肉の割合、BMIとも、家庭用の電子体重計で測定できます。

サルコペニア肥満の対策と軽減策

サルコペニア肥満の解消は、通常のサルコペニアや通常の肥満より困難です。ただの肥満であれば、食事を減らすことで解消できます。サルコペニアだけなら、筋力トレーニングを行い、高蛋白(たんぱく)な食事を取れば、高齢者であっても筋力は回復します。

しかし、サルコペニア肥満では、食事を制限しながら筋力トレーニングを行うことになり、そのバランスを取るのが難しくなります。つまり、食事を減らすと筋力が低下する場合がありますし、筋力トレーニングの後の食事を取りすぎればさらなる肥満につながります。

また、サルコペニア肥満で寝たきりの患者や虚弱な高齢者は、運動することも難しいので、サルコペニア肥満の解消は非常に難しいものとなります。

サルコペニア肥満は防ぐ運動としては、特に下半身を鍛えるスクワットなどが推奨されます。脂肪を減らすためにウオーキングなどの有酸素運動も、取り入れたほうがよいでしょう。食事に関しては、食べすぎないという対策からもう一歩進んで、油分の多い食材を控え、筋肉の元となる蛋白質やアミノ酸の多い食材を意識して取るようにするのがよいでしょう。

2022/08/01

🇭🇺乾皮症

全身の皮膚が乾燥してカサカサし、細かくはがれ落ちてくる疾患

乾皮(かんぴ)症とは、全身の皮膚が乾燥してカサカサして、表面が細かくはがれ落ちてくる疾患。

冬の寒い時期にできることが多く、中高年者に多くみられます。女性のほうが男性よりやや早い40〜50歳代から起こってきますが、強く出るのは60歳以降の男性です。

初期の症状としては、手足、特に下肢の皮膚がカサカサして脂気がなくなり、表面にウロコ状の鱗屑(りんせつ)が付着し、はがれ落ちてきます。かゆみもわずかにあるため、何となくかかずにはいられなくなり、そのために症状が悪化するという状態になり、二次的に湿疹(しっしん)の症状がみられることも多くなります。

進行すると、 亀(かめ)の甲羅のように皮膚がひび割れて、赤みが生じ、かゆみはかなり強くなります。さらに進行すると、乾燥性湿疹になり、夜中に目覚めるほどのかゆみが出ます。

種々の環境因子が、乾皮症を悪化させます。第一の因子が、日本の冬の低温、低湿という気象条件。そもそも、高齢者の皮膚は皮脂腺(せん)と汗腺の働きの低下のために、皮膚の表面の脂肪分が少なくなり、水分を保つことも困難になって乾燥を防止できず、カサカサしています。これが冬にはさらにひどくなるわけで、皮膚が非常に敏感になり、非常に弱い刺激でもかゆみの原因となってしまうのです。

乾皮症は、大気が乾燥する秋から冬に始まり、真冬になると症状はひどく、多くは春先まで続きます。しかし、高温、高湿で汗をかきやすい夏は、症状が軽くなり、自然に治ったりもします。

第二の悪化因子が、入浴です。高齢者は一般的に入浴が好きで、1日2回入ったり、長湯をする人が多いようです。入浴そのものはかまわないのですが、脂肪分の少ない皮膚は入浴により、さらに皮膚の表面の脂肪分が流れ落ちてしまうのです。

第三の悪化因子は、エアコンや電気毛布、電気シーツ、ホットカーペット。これらの電熱のために皮膚の水分が蒸発し、皮膚の乾燥化が進み、加温のために皮膚の表面の血行が促進されて、かゆみが増加します。

第四の因子が、下着です。高齢者は保温のためにラクダの下着を使用している人が多いようですが、直接、下着の繊維が皮膚に触ると、その刺激でかゆみを感じることがあります。

その他の悪化因子として、精神的な不安、イライラもかゆみに影響します。

乾皮症の検査と診断と治療

かゆみの原因が皮膚のカサカサにあるため、皮膚の表面に脂肪と水分を補って、人工の保護膜を作る必要がありますので、市販の保湿剤を使います。

保湿剤として、昔はワセリンとか硼酸(ほうさん)亜鉛華軟こうなどというベタベタした軟こうを塗ったのですが、最近は尿素軟こうを使うことが多くなっています。尿素は水分と結合する力が非常に強いので、尿素を含有した軟こうを皮膚の表面に塗っておけば、空気中の水分を吸収して皮膚の表面に薄い膜を作り、皮膚のカサカサを緩和してくれます。湯上がり、まだ肌に水気が残っているうちに塗ることが、効果的です。一日に、何回塗ってもかまいません。

それでも治まらずに、かゆみや赤みがある時は、皮膚科の専門医を受診します。医師の治療では、外用剤として保湿剤を用い、かゆみの強い時に抗ヒスタミン剤の内服を併用したり、湿疹の炎症症状の強い時に副腎(ふくじん)皮質ホルモン含有軟こうを用います。ホルモン含有軟こうの長期使用は避けるべきで、強い炎症症状が治まったら、ホルモンを含まない外用剤に変えます。

次のような工夫で、皮膚の乾燥はかなり予防することができますので、スキンケアを習慣にします。

毎日入浴する場合は、よほど脂ぎった人でもない限り、せっけんでゴシゴシ洗わないほうが、皮膚にとっては安全です。せっけんは洗浄力の強いものを避け、保湿剤入りのものを使うのが、お勧めです。保湿剤入りの入浴剤もあります。ナイロンタオル、ボディソープを使用すると、皮脂が取れ過ぎて悪化することがあるので、お勧めできません。

エアコンや電気毛布、電気シーツ、ホットカーペットなどの電気器具は、室内を乾燥させる元凶です。まず使い過ぎをセーブすることですが、加湿器、ぬれタオル、湯タンポ、観葉植物、水槽などで加湿の工夫をします。ただし、加湿器はカビが発生しやすいので手入れはまめに。

ラクダの下着を使用している人は、繊維の刺激でかゆみを感じることがありますので、肌に優しい木綿の下着を下につけることが大切です。ぴったりと長めの下着で、特にひざから下を覆えば乾燥を防ぐことができます。

できるだけ皮膚をかかないように気を付け、つめは短く切ります。精神的な不安、イライラもかゆみに影響しますので、安らかな気持ちで生活を送ることも必要です。規則正しい生活を心掛け、十分な睡眠を確保し、バランスの良い食事を取ります。刺激の強い食品、辛い食品はかゆみが増すので、避けるようにします。

2022/07/27

🇸🇲圧迫骨折

直接または間接的に加わる外力によって、骨が骨折を起こして壊れ、押しつぶされるように変形する疾患

圧迫骨折とは、直接または間接的に加わる外力によって、骨が骨折を起こして壊れ、押しつぶされるように変形する疾患。

圧迫骨折の頻度は、背骨、すなわち脊椎(せきつい)で起こる頻度が高く、代表的なものは脊椎圧迫骨折です。

脊椎圧迫骨折は、脊椎を構成する椎体と呼ばれる四角い骨が外力に耐えかねて骨折を起こして壊れ、つぶれる疾患で、骨粗鬆(こつそしょう)症で骨のカルシウム分が少なくなり骨が弱くもろくなる高齢者によくみられます。

多くは胸椎の椎体から、第11胸椎、第12胸椎、第1腰椎、第2腰椎などの胸椎と腰椎の移行部にかけての椎体に起こります。ちなみに、人間の脊椎は、7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。

骨が正常である成人に脊椎圧迫骨折が起こることはまれで、高い所から転落したなどで、大きな外力が脊椎の軸方向に加わった場合にしか起こりません。こうした場合、脊椎の圧迫骨折だけでなく、骨盤骨折や下肢骨骨折などほかの部位の骨折や、臓器の損傷を伴うこともまれではありません。

骨粗鬆症がある高齢者では、比較的軽い外力が加わっただけで、あるいは、ほとんど外力が加わらなくても、自然に椎体の圧迫骨折が起こることがあります。

転倒する、しりもちをつく、腰をひねる、重い物を持つ、立ち上がるといった切っ掛けで圧迫骨折を起こしたケースでは、本人も気付くことが多く、痛みやしびれを感じたりします。著しい骨粗鬆症がある高齢者では、くしゃみや、せきをした程度でも圧迫骨折を起こすケースや、外力が加わらなくてもいつの間にか圧迫骨折を起こすケースもあり、痛みやしびれもあまり感じません。

高齢の女性の背中が丸くなる老人性円背(えんぱい)も、胸椎に自然に起こる多発性圧迫骨折が原因で起こります。1回の圧迫骨折などで背中が丸く曲がるのではなく、数回の圧迫骨折を繰り返し、背中の筋肉の衰えも加わって、次第に丸く曲がるケースがほとんどです。

そのほか、くる病や骨軟化症、腎性骨異栄養(じんせいこついえいよう)症などのような代謝性の骨の疾患によって、骨の強度が低下している場合にも、圧迫骨折が起こることがあります。

通常、圧迫骨折が起こった部分の背中や腰に、痛みを覚えます。急性期には、寝返りや前かがみさえもできないほどの強い痛みを覚えます。これらの痛みは、体を動かした際、骨折部分に負担が掛かるために生じるものです。圧迫骨折を起こした脊椎のある部位の背中が、棘(きょく)突起が飛び出したようになり、そこを軽くたたくと痛みが増強することもあります。

そのほかにも、押しつぶされた椎体の影響で後方にある脊髄神経が圧迫されると、下肢の痛みやしびれを伴うことがあります。

本来、折れた骨はくっついて固まるので痛くなくなりますが、骨粗鬆症が進んでいると、折れた部分が固まらない場合があります。この場合は痛みが残ったりして、安静にしている時には痛みは和らいでも、動こうとすると強く痛み、特に起床時などには痛みが激しく歩行が困難になり、次第に起き上がることすらも難しくなります。

また、症状が一度消失しても、骨折後数カ月が経過してから、背中や腰の痛み、下肢のしびれ、動きにくさなどの症状が出てくることがあります。

老人性円背の場合は、自然に起こってくるものなので、ひどい痛みは伴いません。しかし、重度になると、腰が慢性的に強く傷んだり、神経の障害を生じて手足のしびれ、震えに悩まされることもあります。

圧迫骨折の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、脊椎の椎体前方がつぶれて、くさび型になっているのを確認します。ただし、がんなどの悪性腫瘍(しゅよう)が転移したために起こる圧迫骨折もありますので、正確な診断が必要です。

診断を確定するために、必要に応じて血液検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行います。

MRI検査による画像では、圧迫骨折した胸椎と腰椎の移行部などの椎体は出血により、ほかの椎体と違う濃度で描出されるため判別が可能となり、圧迫骨折の程度もわかります。また、脊髄神経に接している椎体後壁の骨折の有無で、脊髄神経への圧迫の有無がわかります。

また、加齢が原因で骨粗鬆症が疑われる際は、踵(かかと)の骨に超音波を当てて骨量を測定する超音波法、X線(レントゲン)検査、血液検査、尿検査などを合わせて、総合的に検査します。

整形外科の医師による治療では、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折で下肢の痛みやしびれなどの神経症状を伴わない場合、消炎鎮痛薬を投与した上で、軟性コルセット、硬性コルセットなどで固定して脊椎の安定性を確保し、痛みが軽くなるまでべッド上で安静にします。1~2週間、安静にしているだけで、痛みは次第に軽くなっていきます。

高齢者の場合、長期間べッドで安静にしていると、呼吸器や尿路系の感染を起こしたり、認知症が発生することがあります。そのほか、急速に下肢の筋力が低下し、起立したり歩行できるようになるまで、さらに長期間を要するようになることもあります。 

問題の解決方法として、痛みが軽くなったら、軟性コルセット、硬性コルセットなどで固定したまま、一日も早く起きて、歩く練習を始め、運動療法、リハビリテーションによる保存療法を行います。

脊椎圧迫骨折が重症で、脊髄神経に接している椎体後壁が折れ、陥没した骨片が脊髄神経に刺さったり、圧迫したりして、下肢の痛みやしびれなどの神経症状を伴う場合には、手術を行うこともあります。

近年では、脊椎圧迫骨折の急性期や、時間が経っても骨折部分が十分に治らず強い痛みが続く場合などに、骨セメントを椎体内に注入することにより骨折部を安定させて、手早く痛みを取る経皮的椎体形成術(経皮的バルーン椎体形成術、バルーン・カイフォプラスティー)が行われるようになっています。

X線(レントゲン)で確認しながら、脊椎の骨折部で風船(バルーン)を膨らませ、つぶれた骨をできる限り復元した後、風船によって作られた空洞に、主にアクリル樹脂を用いた骨セメントを詰めます。

手術時間は比較的短く、痛みを緩和し脊椎を安定させて動けるようになるという長所があるため、1990年代にアメリカで開発されて以来、欧米では広く行われてきた手術方法で、日本でも2011年1月から保険診療として特定の施設で行うことが認められました。治療後の長期安静は不要ですが、周辺の骨や支持組織が弱いために強固な安定を得るのが難しい場合もあります。

脊椎圧迫骨折を防ぐために最も大切なことは、転倒したりしないことです。そのためには、日ごろからできるだけ散歩などの運動をすること、外に出てさまざまな刺激を受け、はつらつとした気分を保つことです。室内に閉じこもってばかりいると、年を取るにつれて、運動能力や反射神経が減退するばかりでなく、骨粗鬆症も進行します。

2022/07/25

🇲🇩アルツハイマー型認知症

認知症の代表的な疾患

アルツハイマー型認知症とは、認知機能の低下と人格の変化を主な症状とする認知症の一種。認知症とは、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が持続的に低下した状態を指します。

日本においては、認知症のうちで、アルツハイマー型認知症が最も多いタイプであり、全認知症の50~60パーセントを占め、85歳以上の20パーセントにみられる頻度の高い疾患です。続いて多い認知症のタイプとしては、脳血管性認知症、レビー小体型認知症が挙げられます。

1970年代では、認知症の原因疾患別の有病率は、脳血管性認知症がおよそ60パーセントで、アルツハイマー型認知症の2倍程度を占めていました。その後、脳血管性認知症の有病率が下がる一方で、アルツハイマー型認知症が増加し、現在ではアルツハイマー型認知症が50~60パーセント、脳血管性認知症が約30パーセントと逆転しています。

「アルツハイマー型」の名は、アルツハイマー病の最初の症例報告を1907年に行ったドイツの精神医学者アロイス・アルツハイマーに由来しています。アルツハイマー病は、40歳代から50歳代中心の初老期に脳の変性委縮によって発症し、数年の経過で死亡するもの。

このアルツハイマー病における脳の委縮と、60歳、ないし65歳以上の老年期で発症する疾患における脳の全般的委縮の変化が同じことから、後者は「アルツハイマー型老年認知症」と呼ばれるようになりました。

現在では、初老期発症のアルツハイマー病(家族性アルツハイマー病)と老年期発症のアルツハイマー型老年認知症の間には病理学的な差はなく、発症を促進する因子に差があると考えられるようになり、通常は区別せずに「アルツハイマー型認知症」と呼ばれています。

アルツハイマー型認知症の原因としては、脳の中の記憶に関係する部位である海馬や側頭葉、頭頂葉に、アミロイドという蛋白(たんぱく)の一種が蓄積していくことが疾患の始まりと考えられていて、さらにタウという蛋白も神経細胞の中に蓄積するようになり、神経細胞を壊していくことがわかっています。

なぜこのような現象が起こるのか、アミロイドの産生高進や蓄積が発症の直接原因なのか、それとも結果であるのかについては、まだ結論は得られていません。

アルツハイマー型認知症は、加齢、老化と深い関係があり、65~69歳での発症はわずかですが、70歳以降、年を加えるとともに出現する頻度が高まっていきます。男女比は1:3で、女性に多くみられます。

大脳皮質という知能活動の中核が第一義的に侵されることから、すべての認知機能が一様に低下し、その程度も大きくなります。加えて、自分が病気であるという病識が早くからなくなり、多幸性、多弁であることが多くみられます。

もう一つ重要なことは、アルツハイマー型認知症では、人格の崩壊といって、全く人柄が変わってしまうことが多い点です。いつかわからないほど発症はゆっくりで、進み方も徐々であり、かつ絶えず進行性であるのが、特徴といってよいでしょう。

中核症状と周辺症状

症状は、発症者の全員にみられる中核症状と、発症者の一部にみられる周辺症状に分けられます。

中核症状とは、脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状で、物事を記憶し、考え、判断し、人と会話するといった日常生活に欠くことのできない能力である認知機能の障害であり、記銘力・記憶力障害、見当識(けんとうしき)障害、遂行機能障害が相当します。

記銘力・記憶力障害においての記銘力とは物を覚える能力のこと、記憶力とは覚えた物をずっと保持しておく能力のことを意味し、この双方が著しく障害されます。最近自分が経験した出来事を覚えられず、覚えたとしても忘れる、電灯のつけっ放し、ガス栓の閉め忘れなどに始まり、進んでくると、食事を終えた直後に食事をしたことを忘れてしまって、再び要求したりするようになります。

また、今話したことをすぐ忘れてしまうなど、日常生活や社会生活に重大な影響を与えることになります。これらの状態は、注意力散漫、自発性低下などによって、さらに増強されます。

認知症で特徴的なのは、最近の事柄に対する記憶の障害が顕著なことです。対照的に、比較的昔の事柄、つまり遠い昔に記憶したことは覚えています。病気が進むと、過去に経験した記憶や、学習した記憶も失われるようになります。

中核症状の一つの見当識障害でいう見当識とは、時、所、人などについて見当が付いていることを意味します。だから、見当識障害は、今日は何日で、今どこにいて、目の前の相手は誰か、などがわからなくなるもの。

この障害は、認知症の初期の診断において、最も重要なチェックポイントとなっています。認知症のごく初期においては、記銘力、記憶力の軽度の低下を生理的、あるいは病的と明確に区別することは難しいのですが、生理的な老化の範囲では見当識障害はみられません。つまり、見当識障害の有無が、生理的な脳の老化と、病的な認知症を区別する、信頼できる症状なのです。

また、入院や寝たきり状態の場合はともかくとして、その他の場合、日時を知らないこと、自分のいる場所を知らないことは、社会生活に重大な支障を来すことからも、認知症の症状として特に重要視されます。

見当識障害が高度になれば、朝昼夕夜の区別もわからなくなります。場所についての見当識が障害されるために、入院患者では自分の部屋を忘れることがしばしば。徘徊(はいかい)癖のある例では、想像もできないほど遠方に出掛けて、帰ることができなくなり、交番などから問い合わせのあるケースもみられます。

人に対する見当識障害も、はっきりしてきます。家族、あるいは同居している人を認識できなくなると、高度の認知症と見なされます。

もう一つの中核症状である遂行機能障害が起こると、判断して決定することが困難になり、順番に段取りよく物事を進めたり、仕事を計画的に行うことが難しくなったりします。

男性では買物へ行かなくなったり、好きでやっていたことをやらなくなったりしますし、女性では料理が困難になります。また、やらなくなったことに対してさまざまな言い訳をするようになります。

周辺症状とは、本人がもともと持っている性格、環境、人間関係などさまざまな要因が絡み合って起こってくるもので、日常生活への適応を困難にする感情障害、思考力障害、行動異常、各種の精神症状があります。

感情障害としては、感情が不安定になり、容易に興奮しやすくなったり、うつや不安感、無気力といった症状がみられます。

思考力障害としては、中核症状と相まって、系統的に物を考えることができなくなります。判断力も低下します。連想も不十分となり、思考の内容が貧弱で、質問に対して同じ答えを繰り返すことが多くなります。頑固で、自分の考えに固執するようになることもしばしば。一方、自分の周りの状態を正確に把握していないため、質問に対して思いも寄らない答えを繰り返すこともあります。

行動異常としては、無意味な、理解のできない行動が出現します。タンスの物を全部出したり、ご飯にお汁などの副食物を入れてかき混ぜたり、便所でない場所に排便したり、おしめの便をこね回したり、無断で家や病室を抜け出して遠方で見付けられたり、必要でもない物を買いあさったり、毎日同じ料理だけを作ったりなど、行動の異常は実に多彩です。

精神症状としては、徘徊や、夜中に眠らずウロウロ動き回ったり、騒ぐといった夜間せん妄、妄想、幻覚といった症状がみられます。

このような症状がゆっくり進行していきますが、時間によって、日によって、接する人によって、症状は大きく変化します。とりわけ一番熱心に介護している人に対して強く症状が出ることがあり、介護を大変にする大きな原因になっています。

さまざまな身体的な症状も出てきます。進行すると、歩行がつたなく小刻みになり、重度になると、摂食や着替え、意思疎通などもできなくなり、最終的には寝たきりになってしまいます。

早期発見と治療

アルツハイマー型認知症では、できるだけ早く発見して、治療を開始するとともに、介護保険を利用して社会資源を十分に使っていくことが、発症者本人にとっても、介護者にとっても大事です。家族が一人だけで看護し、介護し続けることは困難です。高齢者の場合どうしても年齢のせいと考えがちですが、おかしいと思ったら早めに医師に相談してください。

医師による診断では、アルツハイマー型認知症の特徴的な症状に加えて、MRI(磁気共鳴画像)や脳血流シンチといった画像検査が参考になります。

診断基準はいろいろありますが、一般的には、日常生活に支障が出る程度の、記銘力・記憶力障害、見当識障害、遂行機能障害という三つの中核症状がみられる時に、認知症と診断されます。周辺症状の有無は問われません。

知能が以前と比べて低下していることが必須で、生まれ付き脳の器質的障害があり、知能発達面での障害や運動の障害などがある場合は、知的障害に分類されます。

残念ながら、まだアルツハイマー型認知症の根本的な治療法はありません。アルツハイマー型認知症などの変性性認知症や、脳血管障害が原因の血管性認知症などほとんどの認知症では、治療によって病態そのものの進行を改善することはできず、現段階ではさまざまな治療法により進行を抑えることしかできません。

近年、認知機能改善薬としてドネペジル(商品名:アリセプト)が開発され、アルツハイマー型認知症を中心として効果が期待されていますが、中核症状となっている狭い意味の認知機能低下、つまり記銘力・記憶力の際立った低下、見当識障害は、薬によって進行を遅らせることはできても、完全には治りません。

アルツハイマー型認知症の発症者は中核症状のみならず、不眠、自発性低下、意欲減退、不安、焦燥、うつ状態、発語減少、情緒障害、幻覚、妄想、異常行動などの周辺症状を呈すことがありますので、その際は適宜、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん薬などの対症的な薬物療法が有効なこともあります。

結局、認知症の治療で主体となるのは、薬物療法によって進行をできるだけ抑制しながら、心理社会的療法を積極的に行うことで残された認知機能を維持し、認知症の人のQOL(生活の質)を低下させないケアが主体となります。この心理社会的療法では、認知症の人に対するアプローチと同時に、家族や介護者に対するアプローチも並行して行われます。

認知症を発症しても、薬物療法と心理社会的療法による早期治療によって、脳の代償機能と呼ばれるメカニズムが働くようにすることができれば、残された認知機能は維持され、社会生活機能を保つことは可能です。

脳にはもともと、ある部位の機能が失われても、他の障害されていない部位の神経細胞がその機能を補うように働く代償機能が備わっており、たとえ脳の病変があったとしても、代償機能が働くことで発症を抑えたり、症状の進行を抑制することが可能なのです。

散歩などによる昼夜リズムの改善、なじみのある写真や記念品をそばに置いて安心感を与える回想法、昔のテレビ番組を見るテレビ回想法などが、不眠や不安などに有効な場合もあります。

アルツハイマー型認知症の予防法としては、以下の食習慣、運動習慣、知的生活習慣が効果があることがわかっています。

食習慣では、EPA・DHAなどの脂肪酸を多く含む魚の摂取、ビタミンE・ビタミンC・βカロテンなどを多く含む野菜や果物の摂取、ポリフェノールを多く含む赤ワインの摂取などが、発症を抑えます。ほとんど魚を食べない人に比べ、1日に1回以上魚を食べている人は、発症の危険性が約5分の1であるというデータもあります。

運動習慣では、ウォーキングなどの有酸素運動を行えば、高血圧やコレステロールのレベルが下がり、脳血流量も増し、発症の危険性を下げます。ある研究では、普通の歩行速度を超える運動強度で週3回以上運動している人は、全く運動しない人と比べて、発症の危険が半分になっていました。

知的生活習慣も、発症の危険性を下げます。テレビ・ラジオを視聴し、トランプ・チェスなどのゲームをし、文章を読み、楽器の演奏をし、ダンスなどをよく行う人は、発症の危険性が減少するという研究があります。

2022/07/17

🇦🇱前立腺肥大症

高齢男性のほとんどがかかる病気

 尿道が圧迫されて、排尿障害をもたらすことが知られている前立腺肥大症は、高齢の男性によく見られる病気です。

 年齢と深い関係にあり、40、50代で症状が出始め、60歳を過ぎると半数以上の人が夜間頻尿と放尿力低下を訴え、65歳前後で治療を開始する人が多くなります。そして、80歳までには80パーセントの人が前立腺肥大症になるとみられています。

 程度の差こそあれ、高齢の男性はほぼ全員が発症するため、男性の更年期症状とか、老化現象の一種という見方もできます。

 尿道付近の前立腺組織が肥大して、尿道を圧迫するために起こる病気であり、ガンとは違って良性の増殖ですので、生命にかかわるような病気ではありませんが、放っておくと尿閉といって尿が全く出なくなることもあります。

 症状には、第1期から第3期までがあります。

【第1病期(膀胱刺激期)】

 夜間にトイレに行く回数が多くなる、尿の勢いがない、尿がすぐ出ない、少ししか出ない、時間がかかる(排尿障害)などの症状が出てきます。

【第2病期(残尿発生期)】

 尿をした後もすっきりとせず、残っているような感じがする(残尿感)といった症状が出てきます。

【第3病期(慢性尿閉期)】

 昼夜を問わずトイレに行く回数が増えて、排尿にかかる時間が長くなり、一回の排尿に数分かかるようになります。時には、尿が全く出なくなってしまうこともあります(尿閉)。

●前立腺肥大症の検査と診断

 前立腺肥大症は、男性であれば誰でもなる可能性があります。50歳を過ぎて尿の出が悪いと感じたら、一度泌尿器科の検査を受けてみてください。

 前立腺肥大症の診断には、一般的に次のような検査が必要です。

問 診

 自覚症状としての排尿障害の程度や、他の疾患との鑑別をするため、既往歴などを詳しく聞きます。

尿流量測定

 他覚所見として、排尿障害の程度を数値化して表します。

直腸診

 前立腺の大きさ、硬さ、表面の状態(なめらかさ・凹凸)がわかります。

超音波診断

 前立腺の腹側の状態、残尿のおおよその量も推定できます。

血液検査

(腫瘍マーカーの測定)

 腫瘍マーカー検査は、前立腺ガンとの鑑別のために行います。

●前立腺肥大症の治療法

【薬物療法】

 現在行なわれている薬物療法は、

1. 機能的閉塞に対するα1-ブロッカー

2. 機械的閉塞に対する抗アンドロゲン剤

3. 不安定膀胱に伴う刺激症状(頻尿、尿意切迫、切迫性尿失禁)に対する生薬・漢方薬があります。

 これらの3項目が基本となり、第一選択薬としてα1-ブロッカーを使用し、機能的閉塞を解除することから行われます。

■主な治療薬     

α1-ブロッカー

  排尿時は膀胱頸部の開大を助け、尿勢を増し、蓄尿時は膀胱の過活動を抑制し、日中および夜間の頻尿を軽減させます。 めまい・ふらつき・立ちくらみなどの低血圧に伴う症状が生じる場合があります。

抗アンドロゲン剤

 前立腺を縮小させ、腺腫による直接的な機械的閉塞を改善させます。 肝機能障害、性機能障害や女性化乳房などがあります。

生薬・漢方薬

 排尿困難、頻尿、尿意切迫、残尿感など複雑な自覚症状を改善させるといわれていますが、どのように作用するかは解明されていません。 軽度の消化器症状を認める程度です。

【手術的治療】

 手術に踏み切る一定した基準はありません。病期でいえば第2病期以降で、薬物療法で思うように症状が改善しない場合や、残尿が100ml以上あり、尿閉を繰り返すような場合に手術を考えます。

■主な手術法

経尿道的前立腺切除術(TURP)

 先端に電気メスを装着した内視鏡を尿道から挿入し、患部をみながら肥大した前立腺を尿道内から削り取ります。 体内に入った灌流液が電解質のバランスを崩し、吐き気や血圧の低下などを起こすTURP反応と呼ばれる副作用が起こることがあります。

レーザー治療

 尿道に内視鏡を挿入し、内視鏡からレーザー光線を照射します。そして肥大結節を焼いて壊死を起こさせ、縮小させます。 組織を焼いてしまうため、ガンの有無を調べられません。また、組織が壊死し脱落が起こるまで、症状の改善は見られません。

温熱療法

 尿道や直腸からカテーテルを入れ、RF派やマイクロ派を前立腺に当てて加熱し、肥大を小さくして尿道を開かせます。 根治的な治療ではないため、半年から一年で症状はもとに戻ってしまいます。

尿道バルーン拡張法尿道ステント挿入法

 肥大結節によって狭くなった前立腺部の尿道を物理的な力によって押し広げたり、管を挿入して尿道を確保する方法です。 救急的な意味合いの強い対処療法と位置付けられているため、あくまで手術ができない患者さんのための処置です。

●前立腺肥大症にならないために

 前立腺肥大症の最大の危険因子は、加齢です。これを防ぐことは誰にもできません。しかし、身に着けたほうがよいと考えられている生活習慣が、いくつかあります。それらをご紹介します。

1.オシッコを我慢しない

 排尿を我慢すると尿閉になることあります。

2.体を冷やさない

  特に下半身を冷やさないようにし、骨盤内の血液の循環を常に良い状態に保つようにする。

3.適度な運動を

  血液の循環を良くし、前立腺のうっ血を予防する。

4.便秘に気を付ける

  膀胱も腸と同じ平滑筋なので、便秘の人は排尿状態が悪くなっている可能性があります。

●前立腺肥大症になったら

 すでに前立腺肥大症になってしまった方は、上記4項目に加えて下記のことも守ってください。

1. 薬には十分注意する

 薬の中には急性尿閉を起こすものがありますので、他の病院で診療を受ける時は、医師に必ず前立腺肥大症であることを伝えてください。

2. 水分を十分とる

 夜間頻尿を恐れるあまり、水分摂取を抑えると脱水状態になり腎機能障害を起こすことがあります。

3. 過度なセックスは控える

 神経質になる必要はありませんが、長時間にわたる過度なセックスなどは避けたほうが無難です。

4. 手術後は安静に

 水分を多めに取り、こまめに排尿することが大切です。また、手術した部分を圧迫するような運動は避けてください。

🇦🇩認知症

脳の障害で知能が持続的に低下

認知症とは、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が持続的に低下した状態。およそ6か月以上継続して、生活する上で支障が出ているケースを指します。

日本では以前、痴呆(ちほう)症と呼ばれていましたが、2004年に厚生労働省の用語検討会において、認知症への変更を求める報告がまとめられ、まず行政分野、高齢者介護分野において、痴呆症から認知症に置き換えられました。各医学会においても、2007年頃までにほぼ置き換えがなされています。

認知症の狭義の意味としては、知能が後天的に低下した状態のことを指しますが、医学的には知能のほかに、記憶力の障害、見当識(けんとうしき)の障害、人格障害を伴った症候群として定義されます。

日本における認知症の患者は、年々増加しています。1985年における65歳以上の認知症高齢者は約60万人でしたが、2003年の段階では約149万人を数え、2005年時点で約170万人存在するといわれています。85歳以上の高齢者では、4人に1人が認知症患者だと推定されているところ。このまま進めば、認知症の患者数は、団塊の世代が高齢者となる2015年には約250万人、2020年には300万人近くまで増加するといわれています。

認知症全体の発現を男女別にみますと、明らかな性差があり、国内外の医学的調査で、女性では男性の約1・5倍から2・5倍とされています。女性に圧倒的に多いわけですが、世界有数の長寿国である日本の場合、女性と男性の平均寿命に7歳ほどの開きがあり、認知症が多発する75歳以上になる前に亡くなる男性が多いのに対して、女性の平均寿命が85歳を超えているのも一因とみなされます。

認知症の中で最も多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく変性性認知症です。アルツハイマー型認知症、前頭・側頭型認知症などが、この変性性認知症に相当します。

続いて多いのが、脳梗塞(こうそく)、脳出血、脳動脈硬化などのために血管が詰まって、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなるため、一部の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。

認知症の症状としては、発症者の全員にみられる中核症状と、発症者の一部にみられる周辺症状があります。

中核症状とは、脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状で、記銘力・記憶力障害、見当識障害、計算力の障害の三つ。これらの中核症状のため、周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。

周辺症状とは、本人がもともと持っている性格、環境、人間関係などさまざまな要因が絡み合って起こってくるもので、日常生活への適応を困難にする感情障害、思考力障害、行動異常、妄想のような各種の精神症状があります。

このほか、認知症ではその原因となる病気によって多少の違いはあるものの、さまざまな身体的な症状も出てきます。特に脳血管性認知症の一部では、早い時期から麻痺(まひ)などの身体症状を合併することがあります。アルツハイマー型認知症でも、進行すると歩行がつたなくなり、終末期まで進行すれば寝たきりになってしまう人も少なくありません。

認知症のさまざまな症状

認知症の中核症状は、物事を記憶し、考え、判断し、人と会話するといった日常生活に欠くことのできない能力である認知機能の障害であり、記銘力・記憶力障害、見当識障害、計算力の障害という三つの障害がない場合は、認知症とは診断されません。

 一、記銘力・記憶力障害

記銘力とは物を覚える能力のこと、記憶力とは覚えた物をずっと保持しておく能力のことを意味しています。認知症では、この双方が著しく障害されます。

初期の症状として共通なものであり、家族や周囲の人が最初に気付く症状でもあります。電灯のつけっ放し、ガス栓の閉め忘れなどに始まり、進んでくると、食事を終えた直後に食事をしたことを忘れてしまって、再び要求したりするようになります。また、今話したことをすぐ忘れてしまうなど、日常生活や社会生活に重大な影響を与えることになります。これらの状態は、注意力散漫、自発性低下などによって、さらに増強されます。

認知症で特徴的なのは、最近の事柄に対する記憶の障害が顕著なことです。対照的に、比較的昔の事柄、つまり遠い昔に記憶したことは覚えています。

言葉も忘れますが、固有名詞、抽象名詞が特に忘れやすくなります。これは生理的な老化でも普通にみられるもので、健常人でも加齢とともに記銘力、記憶力は低下し、人の名前などの固有名詞が最初に忘れやすくなります。認知症の人の場合は、症状の進行とともに、自分の名前、年齢さえも忘れてしまいます。とりわけ、年齢のほうは忘れやすくなります。

意外によく覚えているのは、彼や彼女本人が生まれた場所。年齢のように毎年変わるものではなく、幼児から頭にたたき込まれており、先の遠い昔の記憶に相当するためと考えられます。

結局、正常な人と認知症の人の違いは、前者は経験した事柄を断片的に忘れることがあるだけなのに対して、後者は病状の進行につれて、経験したことのすべてを忘れてしまうのです。

 二、見当識障害

見当識とは、時、所、人などについて見当が付いていることを意味します。だから、見当識障害は、今日は何日で、今どこにいる、目の前の相手は誰か、などがわからなくなるもの。

この障害は、認知症の初期の診断において、最も重要なチェックポイントとなっています。認知症のごく初期においては、記銘力、記憶力の軽度の低下を生理的、あるいは病的と明確に区別することは難しいのですが、生理的な老化の範囲では見当識障害はみられません。つまり、見当識障害の有無が、生理的な脳の老化と、病的な認知症を区別する、信頼できる症状なのです。

また、入院や寝たきり状態の場合はともかくとして、その他の場合、日時を知らないこと、自分のいる場所を知らないことは、社会生活に重大な支障を来すことからも、認知症の症状として特に重要視されます。

見当識障害が高度になれば、朝昼夕夜の区別もわからなくなります。場所についての見当識が障害されるために、入院患者では自分の部屋を忘れることがしばしば。徘徊(はいかい)癖のある例では、想像もできないほど遠方に出掛けて、帰ることができなくなり、交番などから問い合わせのあるケースもみられます。

人に対する見当識障害も、はっきりしてきます。家族、あるいは同居している人を認識できなくなると、高度の認知症と見なされます。

 三、計算力障害

認知症の症状として、簡単な計算ができなくなりますが、足し算より引き算のほうが障害されやすくなります。計算力障害が高度になると、1+1もわからなくなります。

認知症の中核となっているもので、発症者すべてに共通に見られる症状に続いては、その周辺の症状について要約して説明します。

 一、感情障害

認知症の初期では、感情が不安定になり、容易に興奮しやすくなります。うつ的になり、発語がなく、すべてに懐疑的なこともあります。天気がよいのに雨戸を閉めて日中寝たり、外出を極度に嫌ったり、風呂(ふろ)に入りたがらないなど、症状はさまざまです。

懐疑的なことから、被害妄想や嫉妬(しっと)妄想などが出現することがあり、特に「他人が悪口をいっている」、「財布をなくした」、「貯金通帳を盗まれた」などと訴える被害妄想が少なからずあります。

性格にも変化が現れ、発病前の性格がとりわけ明らかとなりやすくなります。一般に、自己中心的で、頑固で、我がままであり、行動その他がズボラ。

反面では、気が小さく、きちょうめんなところもあり、受診などの前日はよく眠れなかったり、朝早くからソワソワしたりするなどのように、態度、行動に平常と反対の面も認められます。認知症では、いろいろな面が鈍感と考えられがちですが、神経質、敏感なところもあるわけです。

細やかな感情が鈍くなっているにもかかわらず、一面では人をよく見ており、周りの見下げるような態度、ばかにした態度、冷たい対応、心ない発言などには極めて敏感です。例えば、家族がちょっと冷たい態度をとっただけで、すぐ興奮したり、怒ることもしばしば。

道徳的な面の感情障害も、病状の進むにつれて出現し、反社会的行動や、羞恥心(しゅうちしん)が薄れて性的な異常行動を示すこともあります。

 二、思考力障害

中核症状の記憶力障害に加えて、系統的に物を考えることができなくなります。判断力も低下します。連想も不十分となり、思考の内容が貧弱で、質問に対して同じ答えを繰り返すことが多くなります。頑固で、自分の考えに固執するようになることもしばしば。一方、自分の周りの状態を正確に把握していないため、質問に対して思いも寄らない答えを繰り返すこともあります。

持久力の低下、注意力の散漫などもみられ、自分が病気であるという自覚が次第に失われてゆきます。

 三、行動異常

認知症の初期は記銘力、記憶力障害が中心で、ガス栓の閉め忘れのような物忘れがほとんどで、まだ異常行動の範囲ではないのですが、無意味な、理解のできない行動というものが出現するので、周囲の人は注意しなければなりません。

タンスの物を全部出したり、ご飯にお汁などの副食物を入れてかき混ぜたり、便所でない場所に排便したり、おしめの便をこね回したり、無断で家や病室を抜け出して遠方で見付けられたり、必要でもない物を買いあさったり、毎日同じ料理だけを作ったりなど、行動の異常は実に多彩です。

さらに病状が進行すると、活動性は次第に鈍り、始終、独り言を繰り返したり、発語せず黙ったまま過ごすようになり、一日中、ボンヤリしているようになります。失禁も現れ出ます。

 四、各種の精神症状

認知症高齢者には、中核となる認知機能の際立った低下のほかに、いろいろな精神症状も出現します。入院している高齢者では、夜中に眠らずウロウロ動き回ったり、騒ぐといった夜間せん妄、うつ状態などが多くみられます。在宅の高齢者でも、同じ夜間せん妄、うつ状態などが多く、人物の誤認、幻覚、妄想などの多いことも認められています。

脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症

認知症全体の症状を説明してきましたが、詳しくいえば、同じ認知症の中でも、とりわけ多い脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症とでは、その成り立ちの違いから症状も異なるところが認められています。

脳血管性認知症は、脳血管障害があれば、年齢には関係なく出現し得ます。一方、アルツハイマー型認知症は、加齢、老化と深い関係があり、通常は70歳以降に出現します。

また、脳血管性認知症は男性により多く、アルツハイマー型認知症は女性により多く発症します。この原因として、女性ホルモンの役割を指摘する専門家もいます。

男性には、女性におけるような、動脈硬化予防作用のある女性ホルモンが少ないため、50歳、60歳代で脳動脈硬化が相当進みます。このため、この年代で脳血管障害が起こりやすく、脳血管性認知症が多くなります。つまり、老境に入りかけた頃、脳の血管の弱い素質を持った人が脱落した形となる、とも考えられます。

しかし、70歳代、80歳代では、男性で脳動脈硬化の顕著な例は少なくなります。これは、いわば脳の血管の強い人が生き残ったため、と考えればよいでしょう。 

次に、脳血管性認知症では、末期を除けば、すべての知的機能が一様に、顕著に低下するわけではありません。記銘力、記憶力障害がはっきりしていますが、計算力はある程度残っているとか、対応は全く正常であるという場合が少なくありません。

反対に、アルツハイマー型認知症では、大脳皮質という知能活動の中核が第一義的に侵されることから、すべての認知機能が一様に低下し、その程度も大きくなります。加えて、自分が病気であるという病識が早くからなくなり、多幸性のことが多くみられます。

もう一つ重要なことは、アルツハイマー型認知症では、人格の崩壊といって、全く人柄が変わってしまうことが多い点です。対して、脳血管性認知症では、人格の変化は少なく、「よいおじいさん」、「よいおばあさん」といった感じがあります。

発症と進行の状態については、脳血管性認知症は比較的急速に発症し、脳血管性障害をきっかけに、段階的に病状が進行していきます。逆に、アルツハイマー型認知症では、発症がいつかわからないほどゆっくりです。進み方も徐々であり、かつ絶えず進行性であるのが、特徴といってよいでしょう。

このように、認知症の中では、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症が多くみられますが、脳血管障害の因子と脳の老化による因子の両方を兼ね備えた型のものがあり、混合型認知症、あるいは脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症と呼ばれます。この型の認知症は、必ずしも重視されず、いずれかに入れる考えもあります。

調査報告によって多少のずれはあるものの、欧米人ではアルツハイマー型認知症が多数派であり、50パーセント以上を占めます。日本人では従来、脳血管性認知症のほうが多数派で、ほぼ50パーセント以上と欧米とは逆になっていましたが、最近は脳血管性認知症は40パーセント、アルツハイマー型認知症は45~50パーセントを占めるようになりました。両方を合併している混合型認知症(脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症)の例も、かなりあることがわかってきています。

認知症の検査と診断と治療

医師による認知症の診断では、知能検査や画像検査が行われます。画像検査では原因に応じて、脳委縮、脳内の病巣、脳腫瘍(しゅよう)、水頭症の所見が見付かることがあります。

診断基準はいろいろありますが、一般的には、日常生活に支障が出る程度の、記銘力・記憶力障害、見当識障害、計算力の障害という三つの中核症状が見られる時に、認知症と診断されます。周辺症状の有無は問われません。

知能が以前と比べて低下していることが必須で、生まれ付き脳の器質的障害があり、知能発達面での障害や運動の障害などがある場合は、知的障害に分類されます。

治療方法は、認知症を来している原因によって異なります。治療可能な認知症の場合は、原因となる疾患の治療が速やかに行われます。治療可能な認知症とは、身体疾患などが原因で起こる二次性認知症の一部で、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫(けっしゅ)・脳腫瘍による認知症などが該当します。

アルツハイマー型認知症などの変性性認知症や、脳血管障害が原因の血管性認知症などほとんどの認知症では、治療によって病態そのものの進行を改善することはできず、現段階ではさまざまな治療法により進行を抑えることしかできません。

近年、認知機能改善薬としてドネペジル(商品名:アリセプト)が開発され、アルツハイマー型認知症を中心として効果が期待されていますが、中核症状となっている狭い意味の認知機能低下、つまり記銘力・記憶力の際立った低下、見当識障害は、薬によって進行を遅らせることはできても、完全には治りません。

認知症の発症者は中核症状のみならず、不眠、自発性低下、意欲減退、不安、焦燥、うつ状態、発語減少、情緒障害、幻覚、妄想、異常行動などの周辺症状を呈すことがありますので、その際は適宜、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん剤などの対症的な薬物療法が有効なこともあります。

結局、認知症の治療で主体となるのは、薬物療法によって進行をできるだけ抑制しながら、心理社会的療法を積極的に行うことで残された認知機能を維持し、認知症の人のQOL(生活の質)を低下させないケアが主体となります。この心理社会的療法では、認知症の人に対するアプローチと同時に、家族や介護者に対するアプローチも併行して行われます。

認知症を発症しても、薬物療法と心理社会的療法による早期治療によって、脳の代償機能と呼ばれるメカニズムが働くようにすることができれば、残された認知機能は維持され、社会生活機能を保つことは可能です。

脳にはもともと、ある部位の機能が失われても、他の障害されていない部位の神経細胞がその機能を補うように働く代償機能が備わっており、たとえ脳の病変があったとしても、代償機能が働くことで発症を抑えたり、症状の進行を抑制することが可能なのです。

2022/07/10

♾レビー小体型認知症

運動障害や幻視も現れる認知症の一種

レビー小体型認知症とは、脳の神経細胞が委縮する変性性認知症の一種。変性性の認知症の中では、アルツハイマー型認知症に次いで多く、変性性認知症全体の約2割を占めるといわれるほど、比較的頻度の高い疾患です。以前は、びまん性レビー小体病と呼ばれていました。

高齢者に多くみられますが、40歳前後で発病する場合もあり、男性は女性より約2倍多いと見なされています。出現する症状に物忘れもあり、一見アルツハイマー型認知症に似ています。

レビー小体とはもともと、運動障害を主な症状とするパーキンソン病において、脳の下のほうにある脳幹を構成する中脳に現れる特殊な構造物(封入体)を指す言葉ですが、レビー小体型認知症を発症した人の脳では、この構造物が認知機能をつかさどる大脳皮質にも広く見られることから命名されました。

レビー小体型認知症の認知機能障害は、アルツハイマー型認知症とは異なる特徴がみられます。

アルツハイマー型認知症では特に初期において、比較的近い時期の記憶をとどめておくのが難しくなる物忘れの症状で始まることが多いのですが、レビー小体型認知症では、物忘れの症状ばかりではなく、初期より幻覚、特に幻視や、妄想が現れることがしばしばです。

幻視とは、実際には存在していないものがあるものとして生々しく見える症状で、「壁に虫がはっている」、「子供が枕元(まくらもと)に座っている」、「座敷で3人の子供たちが走り回っている」、「男たちがどかどか部屋に入り込んでくる」など、レビー小体型認知症では非常にリアルな幻視が比較的よくみられます。

「布団が人の姿に見える」といった錯視の症状も、しばしばみられます。これらの視覚性の認知障害は、暗くなると現れやすくなります。

また、日によって症状に変動がある上、日内変動も激しいのが特徴です。日によって症状が良かったり、悪かったり、一日の中でも一見全く穏やかな状態から無気力、興奮、錯乱状態を示すといった気分や態度の変動を繰り返したり、日中に惰眠をむさぼったりすることも認められます。

もう一つの大きな特徴は、病態が進行すると運動機能障害を伴う点。体が硬くなる、動作が遅くなる、小またで歩く、体のバランスが悪くなる、手が不器用になる、手足が震える、猫背になるなど、パーキンソン病に似た運動障害が出てきます。

このパーキンソン病の症状が出現してくる時点で、アルツハイマー型認知症ではなくレビー小体型認知症と気付かれる場合が少なくありません。

運動機能障害を伴うため、アルツハイマー型認知症の人と比べて、転倒の危険が高く、また寝たきりにもなりやすいといえます。

自律神経の機能障害を伴う点も、レビー小体型認知症の特徴です。便秘、尿失禁、血圧の調節障害、性的機能障害がみられますが、最も日常生活を阻害するのは起立性低血圧です。立ち上がった時に、血圧の大幅な低下がみられるのが起立性低血圧の症状で、ひどい場合には失神を起こすことがあります。これが原因で、立位歩行が困難になることもあります。

レビー小体型認知症の検査と診断と治療

レビー小体型認知症の診断は難しく、初期の段階でアルツハイマー型認知症と診断されたり、運動機能障害が出現した段階でパーキンソン病と診断されたりするほか、初期の段階でうつ症状が出てうつ病と診断されることもあります。

早期発見と適切な治療が進行を遅らせて、症状を和らげ、中には見違えるほど元気になる人もいる疾患ですので、専門医に相談することが大切です。

医師による診断では、脳血流検査が行われます。アルツハイマー病に似た特徴である頭頂葉・側頭葉の血流低下に加え、視覚に関連の深い後頭葉にも血流低下がみられると、レビー小体型認知症の判定基準の一つとなります。

治療では、認知機能障害などの精神症状に対する抗精神薬によるコントロール、運動機能障害に対する抗パーキンソン病薬によるコントロール、自律神経障害に対する血圧コントロールなどが行われます。

薬剤調節が難しく、注意が必要な場合があるのが、レビー小体型認知症の治療における特徴です。抗精神薬への反応が過敏である場合もあり、少量より時間をかけて試みることが必要とされます。また、抗精神薬は運動症状を悪化させる作用があるものが多く、逆に抗パーキンソン病薬は精神症状を悪化させることがあるため、個々の発症者の生活や介護がしやすいように薬をうまく調節することが必要とされます。

アルツハイマー型認知症の治療薬が効果的な場合もあり、通常量以下での投与が試みられることもあります。

2022/07/09

👁老眼(老視)

加齢により、近いところが見えにくくなる目の障害

老眼とは、40歳前後から始まる老化現象によって、近いところが見えにくくなる目の障害。老視が正式名称です。

近くの字が見えにくいなど、はっきり見える範囲が狭くなってくるのは、目の遠近調節の働きが衰えてくるためです。加齢とともに、目のピント(焦点)合わせをするレンズの役割を果たす水晶体の弾力性が衰え、調節に際しての屈折力が少なくなるのが、老眼の主な原因です。

人間が目で物を見る時、毛様体という筋肉で、透明で凸状の形をしている水晶体の厚さを調整して、ピントを合わせます。例えば、近くを見る時は水晶体を厚くしてピントを合わせ、遠くを見る時は逆に水晶体を薄くしてピントを合わせるのです。しかし、毛様体自体の筋力が衰えたり、毛様体自体の機能が衰えなくても水晶体の弾力性が衰えると、いくら毛様体筋が水晶体の厚さを調整しようと思ってもできなくなります。

また、一般的に老眼は近くが見えにくくなる症状ですが、実際には水晶体の弾力性が衰えているためピントが合う範囲自体が狭くなっているため、近くだけでなく、調節が必要となる範囲全体が見えにくくなっています。

老眼の症状が出始めるのは個人差はありますが、40歳代初めから出る場合が多く、早い場合では30歳代で自覚するようになり、遅い場合でも50歳を過ぎたころには明白に老眼であることを自覚します。その進行は、ほぼ60歳くらいで停止します。

もともと近視の人は、近いところがよく見えるために、老眼になるのは遅くなります。逆に、遠視の人は、近いところは見えにくいので、早く老眼になります。

老眼の症状としては、今まで見えていた新聞、本、パソコンなどの近くの文字がぼやけたりして見えにくくなったが、少し離すとよく見えるというのが特徴です。通常、日常生活で字を読む時の距離である30センチ前後が見えにくくなった場合に、老眼の可能性が高くなります。

その他、遠くはよく見えて疲れないのに近くを見ていると疲れる、薄暗い場所での視力が低下したような気がする、朝はよく見えるのに夕方くらいになると物が見えにくくなる、目がかすむことが多くなっている、などの症状が現れることもあります。

老眼の検査と診断と治療

「おかしいな」と少しでも思ったら、眼科で診察を受ける必要があります。老眼(老視)が始まっているにもかかわらず、「気のせいだ」、「たまたまだ」、「そんなはずがない」とそのまま放置しておくと、目が疲れやすくなるだけでなく、目の疲れが体全体の疲れにつながって頭痛、肩凝り、吐き気、めまいなどが生じたり、老眼がより進行する可能性があります。

眼科で診察を受けて眼科医に相談の上、適切な検査をへて自分に合う老眼鏡、または老眼用のコンタクトレンズを作ります。

老眼鏡などを使用すると老眼がより進行すると思っている人もいるようですが、適切な検査を受けて作った老眼鏡、老眼用コンタクトレンズであれば症状が進行することはありません。100円均一ショップなどで市販されている老眼鏡は、必ずしも自分に合った度数ではありませんので、あまり勧められません。

老眼鏡や老眼用コンタクトレンズを作る時は、新聞、本、パソコンなど、どのような場面で使いたいのか、新聞、本なら30センチ、パソコンなら40センチなど、具体的にどれほどの距離の文字を見たいのかを確認しておきます。

近視の人が老眼になった場合、遠くも見えにくく、近くも見えにくくなるため、近視用の眼鏡と、老眼用の眼鏡の2つを用意しなければなりません。しかし、2つの眼鏡を使い分けることは面倒なため、実際には多くの人が遠近両用眼鏡を使用するようになります。

通常の遠近両用眼鏡では、全体が遠くがよく見える近視用で、下の一部分が近くがよく見える老眼用になっています。少し前までは、近視用と老眼用のレンズの境目がはっきりとしていたため、遠近両用眼鏡とすぐにわかりました。最近の遠近両用眼鏡は、下へゆくに従って徐々に老眼用の度数になっていく多重累進焦点タイプが一般的になってきましたので、見た目は通常の眼鏡とそれほど区別は付かなくなってきています。

ただ、遠近両用眼鏡の使い始めの頃は、目が疲れやすくなったり、視野が狭くなるなど、慣れるまでには多少時間がかかることがデメリットかもしれません。

老眼鏡をかけることに抵抗がある人は、老眼用の遠近両用コンタクトレンズを作ることが選択肢の1つになります。

老眼鏡は眼鏡のフレームで固定されますので視野が約120°という範囲に限られますが、老眼用コンタクトレンズでは180°と裸眼の視野と同等に広がります。雨の日や湿気の多い場所でレンズが曇ってしまう老眼鏡と違って、老眼用コンタクトレンズなら目の中は常に涙で潤っているので、曇るということもありません。しかも、目に密着している老眼用コンタクトレンズでは、物が大きく見えたり小さく見えたりすることはほとんどなく、裸眼に近い自然な見え方になります。

老眼鏡や老眼用コンタクトレンズは、老眼が始まったからといって、常に使用しなければならないわけでもありません。最初は見えにくい時、必要な時だけ使用するだけで十分で、老眼鏡にプラスして、毛様体筋(眼球)などを鍛えたり、食生活を改善することによって老眼から回復することができたり、老眼を予防することも可能です。

なお、老眼は加齢とともに確実に進行しますので、最初に作成した老眼鏡や老眼用コンタクトレンズを数年間、使い続けることも決してよくありません。定期的に眼科で検査を受けて、常に自分に適した老眼鏡や老眼用コンタクトレンズを使用することが理想的で、検査は白内障や緑内障などの目の疾患の早期発見にもつながります。

老眼用コンタクトレンズの寿命は、使用者の体質や目の状態、取扱い方法によって異なりますが、一般的には、酸素透過性ハードコンタクトレンズでは1.5年~3年、ソフトコンタクトレンズでは1年~2年となっています。

老眼に対処する方法として、外科的な手術を受けることも選択肢の1つになります。今日では、老視矯正レーシックといって、エキシマレーザーという特殊なレーザーを使用して角膜中心部を遠方に、角膜周辺部を近方に合わせるように矯正するレーシック手術があります。水晶体はそのままにして、目の表面の角膜を収縮させてカーブをつけることによって、角膜がレンズのような役割を担ってくれるようにする治療方法です。

外科的な手術として、遠近両用眼内レンズを目に入れる手術もあります。この手術の場合は、硬くなり、柔軟性のなくなってしまった水晶体を人工的に作った遠近両用眼内レンズと取り替えるというものです。この手術によって、老眼だけではなく、高齢者に多く見られる白内障の症状も回復させることができるとされています。

♾老人性円背

加齢が原因となって、脊椎のうちの胸椎部の後方への湾曲が極端に大きくなる状態

老人性円背(えんぱい)とは、加齢が原因となって、背骨、すなわち脊椎(せきつい)のうちの胸椎部の後方への湾曲が極端に大きくなっている状態。老化性円背、老人性後湾症、老人性亀背(きはい)、老人性猫背(ねこぜ)とも呼ばれます。

人間の脊椎は、7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。正常な脊椎は体の前から見ると真っすぐですが、横から見ると、緩やかなS字の形をしています。すなわち頸椎部は前湾(前に向かって湾曲している)、胸椎部は後湾(後ろに向かって湾曲している)、腰椎部は前湾を示しています。

このように脊椎は本来、後湾している部分があるのですが、老人性円背では、胸椎部の後湾している角度が極端に大きくなったり、腰椎部の前湾が失われて後湾になったりしています。

加齢が原因で老人性円背は起こり、女性に多くみられます。脊椎の椎体と椎体の間にある円板状の軟骨組織で、骨に対するクッションの役割を果たしている椎間板の多くが変性したり、骨粗鬆(こつそしょう)症で骨のカルシウム分が少なくなり骨が弱くもろくなるために多くの椎体、とりわけ胸椎部と腰椎部の椎体が押しつぶされるように圧迫骨折したり、背中の筋肉が衰えることなどによって、背中が丸く曲がります。

1回の圧迫骨折などで背中が丸く曲がるのではなく、数回の圧迫骨折を繰り返して次第に丸く曲がるケースがほとんどです。

重い物を持つ、立ち上がる、しりもちをつくといった切っ掛けで圧迫骨折が起こったケースでは、本人も気付くことが多く、痛みやしびれを感じたりしますが、骨が弱くもろくなっている人では、衝撃が加わらなくてもいつの間にか圧迫骨折を起こしているケースもあり、痛みやしびれもあまり感じません。

老人性円背になると、胸椎部の後湾が本来の生理的な後湾の範囲を超えるため、頭の荷重が適切に胸椎部に負担されず、頭の重心は胸椎部の軸よりも前方に位置し、前かがみの姿勢になります。この状態で頭を安定させるために、後頭部から背中全体を覆う僧帽筋や、背中の中心部あたりを縦に細長く走っている脊柱起立筋に過剰な負荷がかかることとなり、持続的な背中の痛みや肩凝りとして自覚されます。

重度になると、腰が慢性的に強く傷んだり、神経の障害を生じて手足のしびれ、震えに悩まされることもあります。

また、体に不自然な前かがみの姿勢で、起立を保ったり歩いたりすることで、負担がかかった筋肉が痛んだり、疲れやすくなります。前かがみの姿勢で、視野が狭くなって転倒につながることもあります。

また、前かがみの姿勢になっているために、肺や胃が圧迫されて、肺活量の低下や胃腸の障害が起こりやすくなります。血流の悪化も起こりやすくなります。

老人性円背の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、脊椎の変形から老人性円背を疑い、次にX線(レントゲン)検査を行って、画像で椎体の変形が見付かれば、比較的簡単に判断できます。

原因を知るために、さらに詳しい検査が必要な際は、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査が有用です。また、加齢が原因で骨粗鬆症が疑われる際は、踵(かかと)の骨に超音波を当てて骨量を測定する超音波法、X線検査、血液検査、尿検査などを合わせて、総合的に検査します。

整形外科の医師による治療では、腰椎の湾曲が胸椎や頸椎の湾曲を強めていることも多いため、全身の骨格の矯正を行います。ただし、加齢とともに矯正も難しくなってきます。

それ以外では、軽く背筋を伸ばす体操や軽めのマッサージなどを行います。ただし、急激に後ろに反らすなどの動作や強いマッサージなどは禁物。

なお、老人性円背によって発症している腰痛や背部痛などの改善はできますが、円背そのものが改善されることはまれです。

骨粗鬆症が基礎にあって老人性円背が重度となった場合は、安静を守り、鎮痛剤を内服します。骨の吸収を防ぎ骨量を増やす薬剤や、骨の形成を促進し骨量を増やす薬剤、あるいは骨の代謝を助ける薬剤も内服し、栄養価の高い食品を摂取するようにします。

転倒したり、しりもちをついたりすると、脊椎の椎体がつぶされて痛みやしびれを招くので注意を要します。

🇩🇰老人性乾皮症

全身の皮膚が乾燥してカサカサし、細かくはがれ落ちてくる疾患

老人性乾皮(かんぴ)症とは、加齢などが原因となって、全身の皮膚が乾燥してカサカサし、表面が細かくはがれ落ちてくる疾患。

冬の寒い時期にできることが多く、中高年者に多くみられます。女性のほうが男性よりやや早い40〜50歳代から起こってきますが、強く出るのは60歳以降の男性です。

初期の症状としては、手足、特に下肢の皮膚がカサカサして脂気がなくなり、表面にウロコ状の鱗屑(りんせつ)が付着し、はがれ落ちてきます。かゆみもわずかにあるため、何となくかかずにはいられなくなり、そのために症状が悪化するという状態になり、二次的に湿疹(しっしん)の症状がみられることも多くなります。

進行すると、 亀(かめ)の甲羅のように皮膚がひび割れて、赤みが生じ、かゆみはかなり強くなります。さらに進行すると、乾燥性湿疹になり、夜中に目覚めるほどのかゆみが出ます。

種々の環境因子が、老人性乾皮症を悪化させます。第一の因子が、日本の冬の低温、低湿という気象条件。そもそも、高齢者の皮膚は皮脂腺(せん)と汗腺の働きの低下のために、皮膚の表面の脂肪分が少なくなり、水分を保つことも困難になって乾燥を防止できず、カサカサしています。これが冬にはさらにひどくなるわけで、皮膚が非常に敏感になり、非常に弱い刺激でもかゆみの原因となってしまうのです。

老人性乾皮症は、大気が乾燥する秋から冬に始まり、真冬になると症状はひどく、多くは春先まで続きます。しかし、高温、高湿で汗をかきやすい夏は、症状が軽くなり、自然に治ったりもします。

第二の悪化因子が、入浴です。高齢者は一般的に入浴が好きで、1日2回入ったり、長湯をする人が多いようです。入浴そのものはかまわないのですが、脂肪分の少ない皮膚は入浴により、さらに皮膚の表面の脂肪分が流れ落ちてしまうのです。

第三の悪化因子は、エアコンや電気毛布、電気シーツ、ホットカーペット。これらの電熱のために皮膚の水分が蒸発し、皮膚の乾燥化が進み、加温のために皮膚の表面の血行が促進されて、かゆみが増加します。

第四の因子が、下着です。高齢者は保温のためにラクダの下着を使用している人が多いようですが、直接、下着の繊維が皮膚に触ると、その刺激でかゆみを感じることがあります。

その他の悪化因子として、精神的な不安、イライラもかゆみに影響します。

老人性乾皮症の自己治療と医師による治療

自分でできる老人性乾皮症への対処法として、かゆみの原因が皮膚のカサカサにあるため、皮膚の表面に脂肪と水分を補って、人工の保護膜を作る必要がありますので、市販の保湿剤を使います。

保湿剤として、昔はワセリンとか硼酸(ほうさん)亜鉛華軟こうなどというベタベタした軟こうを塗ったのですが、最近は尿素軟こうを使うことが多くなっています。尿素は水分と結合する力が非常に強いので、尿素を含有した軟こうを皮膚の表面に塗っておけば、空気中の水分を吸収して皮膚の表面に薄い膜を作り、皮膚のカサカサを緩和してくれます。湯上がり、まだ肌に水気が残っているうちに塗ることが、効果的です。一日に、何回塗ってもかまいません。

それでも治まらずに、かゆみや赤みがある時は、皮膚科の専門医を受診します。医師の治療では、外用剤として保湿剤を用い、かゆみの強い時に抗ヒスタミン剤の内服を併用したり、湿疹の炎症症状の強い時に副腎(ふくじん)皮質ホルモン含有軟こうを用います。ホルモン含有軟こうの長期使用は避けるべきで、強い炎症症状が治まったら、ホルモンを含まない外用剤に変えます。

次のような工夫で、皮膚の乾燥はかなり予防することができますので、スキンケアを習慣にします。

毎日入浴する場合は、よほど脂ぎった人でもない限り、せっけんでゴシゴシ洗わないほうが、皮膚にとっては安全です。せっけんは洗浄力の強いものを避け、保湿剤入りのものを使うのが、お勧めです。保湿剤入りの入浴剤もあります。ナイロンタオル、ボディソープを使用すると、皮脂が取れ過ぎて悪化することがあるので、お勧めできません。

エアコンや電気毛布、電気シーツ、ホットカーペットなどの電気器具は、室内を乾燥させる元凶です。まず使い過ぎをセーブすることですが、加湿器、ぬれタオル、湯タンポ、観葉植物、水槽などで加湿の工夫をします。ただし、加湿器はカビが発生しやすいので手入れはまめに。

ラクダの下着を使用している人は、繊維の刺激でかゆみを感じることがありますので、肌に優しい木綿の下着を下につけることが大切です。ぴったりと長めの下着で、特にひざから下を覆えば乾燥を防ぐことができます。

できるだけ皮膚をかかないように気を付け、つめは短く切ります。精神的な不安、イライラもかゆみに影響しますので、安らかな気持ちで生活を送ることも必要です。規則正しい生活を心掛け、十分な睡眠を確保し、バランスの良い食事を取ります。刺激の強い食品、辛い食品はかゆみが増すので、避けるようにします。

🟧アメリカの病院でブタ腎臓移植の男性死亡 手術から2カ月、退院して療養中 

 アメリカで、脳死状態の患者以外では世界で初めて、遺伝子操作を行ったブタの腎臓の移植を受けた60歳代の患者が死亡しました。移植を行った病院は、患者の死亡について移植が原因ではないとみています。  これはアメリカ・ボストンにあるマサチューセッツ総合病院が11日、発表しました。  ...