2022/08/02

🇰🇭原発性自然気胸

明らかな理由もなく肺に穴が開き、肺がつぶれてしまう疾患

原発性自然気胸とは、肺の病気を経験したことのない人の肺に突然、穴が開き、空気が胸腔(きょうくう)内に漏れて、肺の一部または全体がつぶれる疾患。

女性の7倍と男性に多く、中でも、やせ形で胸の薄い長身男性に多くみられ、発生のピークは20歳代。

交通事故やナイフで刺されたというような明らかな理由もなく、普通は、肺の表面のややもろくなった部分で、ブラやブレブと呼ばれる肺胞内嚢胞(のうほう)が破裂するために起こります。破裂した部位から肺内の空気が胸腔に漏れと、胸腔内の圧力が肺の内部よりも高くなり、肺が空気に押されてつぶれて小さくなるために、気胸を発症します。

そのブラやブレブが破裂するのには、細気管支炎が関係しているといわれています。細気管支炎になると細気管支が狭くなるため、細気管支の先にあって小さな袋の集まりである肺胞内の空気の排出が少なくなり、肺胞内圧が上昇し、ブラやブレブを破裂させます。また、ダイビング中や高い高度を飛行中に起こることがあり、肺の内部の圧力が変化するのが原因となります。

症状としては、肺が縮む時に、胸痛が起こります。ただし、その胸痛は短いと1、2分程度、長くても30分程度の一過性であり、狭心症の発作と間違える人もいます。状態が軽いと自然に治ってしまい、発症に気付かないこともありますが、再発しやすいので適切な治療を行うのが基本です。

問題なのは、穴がふさがらず、肺内の空気が漏れ続ける時。胸腔に漏れる空気の量が多くなると、緊張性気胸となります。緊張性気胸では、突然発症し、進行性の胸痛と呼吸困難が生じ、血圧が低下します。疾患のある側の肺は空気で置き換えられて完全につぶれており、気胸の起こっていない肺も次第につぶされていきます。大量の空気が心臓を圧迫して、心停止させてしまうこともあり、非常に危険です。

一方、ゆっくり進行する気胸では、急激に進行する気胸よりも症状が軽い傾向にあります。まれに、症状がないのに胸部X線検査で発見されることがあります。

緊張性気胸や非常に広範囲の気胸を除き、症状は体が肺のつぶれた状態に順応するにつれて大抵治まり、胸腔から空気が再吸収されるのに伴って、肺はゆっくりと再び膨らみます。

原発性自然気胸の検査と診断と治療

内科、ないし外科の医師による診断では、胸部X線写真で肺の紋様がない領域が胸腔内に確認されれば、気胸と診断されます。健康な長身、やせ形の青年男子で急に胸痛や息切れを訴える時は、原発性自然気胸を疑います。ほとんどの症例では、胸部レントゲン写真で診断がつきます。判断に迷う時は、息を吐いた時と吸った時の写真を比較します。

軽度の気胸の場合は、特別な治療をしなくても安静にしていれば、破裂した部位が閉鎖し自然に治癒します。軽い原発性自然気胸では、重い呼吸障害は起こらず、たまった空気は数日間で吸収されます。外来で時々、胸部X線検査を行って経過観察をします。

より広範囲の気胸では、空気が完全に吸収されるのに2〜4週間かかりますが、入院して胸腔ドレナージを行えば、より早く空気を除去できます。胸腔ドレナージでは、胸壁を切開して挿入したチューブで、たまっている空気や新たに漏れた空気を外に排出します。チューブからの空気漏れがなくなったら、チューブを抜去し、肺の膨らみが良好なら退院です。

自然治癒を見込めないほど気胸の範囲が大きい場合、胸腔ドレナージを行って空気の漏れが止まらない場合、気胸が再発した場合、左右両側の肺が気胸の場合などでは、全身麻酔による胸腔鏡下手術で、ブラやブレブと呼ばれる肺胞内嚢胞の切除を行います。従来の開胸手術においては、初回の気胸について手術をすることはありませんでしたが、胸腔鏡下手術は入院期間も1週間程度ですむため、初回から手術して今後起こり得る病変まで切除してしまうこともあります。

しかし、胸腔鏡下手術には、切除した周囲の組織が気胸を起こしやすくなるというデメリットがあります。そのため、セルロース製のメッシュシートを被せるカバーリング法が、新たに注目を浴びています。セルロース製のメッシュシートは、肺組織に吸収されて厚みを増すため、気胸の再発防止に効果を発揮します。

再発率は内科的に治療した場合、初回の気胸が起こってまた再発するのが約50パーセント、2回起こるとまた再発するのが80パーセント以上と考えられています。内科的治療と比べると外科治療の成績は格段によく、再発率は数パーセント以下です。

緊張性気胸の場合は、迅速な治療が求められます。緊張性気胸では、血圧が低下しショックを起こすので、直ちに治療をしないと数分間で死に至ります。大きな注射器をつけた針を胸部内に挿入し、すぐに空気を抜き取ります。その後、継続的に空気を抜くために別のチューブを挿入します。

🇱🇦原発性心筋症

心臓の筋肉の疾患で、原因が不明なもの

原発性心筋症とは、原因または原因との関連が不明な心筋の疾患。特発性心筋症とも呼びます。

原因の明らかな心筋異常であるリウマチ性心疾患、心奇形、高血圧性心疾患、虚血性心疾患、内分泌性心疾患、貧血、肺性心などは、原発性心筋症から除外されます。同時に、特定心筋疾患、すなわち、全身疾患の一部として心筋病変を示す心筋炎や、ある疾患に伴う心筋疾患なども除きます。

原発性心筋症はその形態や機能異常の特徴から、肥大型心筋症と拡張型心筋症の二つの型に分けられます。

肥大型心筋症は、左心室心筋の異常肥大が特徴です。肥大が心室中隔の上部で著しい場合には、左心室の流出路の狭窄(きょうさく)を生じるものがあり、これを閉塞(へいそく)性肥大型心筋症と呼びます。狭窄の生じないものは、非閉塞性肥大型心筋症と呼びます。

また、この肥大型心筋症では心室中隔の異常肥大が左心室自由壁に比べて著しいことが一般的なため、非対称性中隔肥大と呼ばれることもあります。

片や、拡張型心筋症は、心室の拡張が著しく、心室の収縮性が低下して、心臓のポンプとしての機能が十分に果たせないことが特徴です。

症状としては、非閉塞性肥大型心筋症では、動悸(どうき)、呼吸困難、胸部圧迫感、胸痛などが自覚症状として現れます。閉塞性肥大型心筋症では、さらにめまい、あるいは失神が加わります。

失神の多くは運動時に起こりますが、運動をすると安静時よりも心臓が強く収縮するため、左心室の流出路の閉塞を強めるためと考えられます。重い場合には、運動中に急死することもあります。多くみられるのは、若年者で家族歴に急死例のある人。

拡張型心筋症の症状としては、呼吸困難、動悸、疲労、むくみ、不整脈、胸部圧迫感などがみられますが、心臓の収縮力の低下によるものと考えられます。

原発性心筋症の検査と診断と治療

原発性心筋症の診断は、症状、身体所見、各種検査、特に心エコー所見によります。

肥大型心筋症の治療では、心臓が強く収縮して流出路が閉塞するのを防ぐために、心臓の筋肉の収縮力を抑えるβ(ベータ)遮断剤が有効です。しかし、この薬も急死を予防できるものではありません。日常生活では自覚症状のない軽症例でも、運動中の急死が起こりますから、急激な運動は避けます。カルシウム拮抗(きっこう)剤も、β遮断剤と同様に有効であると見なされています。

拡張型心筋症では一般的に、長期間に渡る安静と減塩食、水分摂取制限が必要です。また、心収縮力の低下に対しては通常、強心薬のジギタリス、利尿剤、降圧剤の一種のACE阻害剤の三つが使用され、症例によってはβ遮断剤が有効なこともあります。すべての薬剤が無効な場合には、心臓移植が検討されます。

拡張型心筋症で多く出現する頻拍性不整脈に対しては、抗不整脈薬が必要となります。しかしながら、心筋収縮力の低下している拡張型心筋症では、抗不整脈薬の使用で、さらに収縮力を低下させることは不利であるため、使用には十分な注意が必要。

また、心房と心室の間の刺激伝導が完全に途絶えた状態になるなどの徐拍性不整脈には、ペースメーカーの植え込みによる治療が行われます。

🇲🇾原発性肺高血圧症

原因不明で、心臓から肺へ血液を送る肺動脈の血圧が高くなった状態

原発性肺高血圧症とは、心臓から肺へ血液を送る肺動脈の血圧が正常よりも高くなった肺高血圧症のうち、原因の特定できないもの。

肺高血圧症のほとんどが心臓や肺の疾患によって起こりますが、原発性肺高血圧症は心臓も肺自体は悪くないのに肺高血圧になります。

この原発性肺高血圧症の症例は、心臓カテーテル法が頻繁に行われるようになってから、初めて見付かるようになりました。心臓カテーテル法は、カテーテルという細い管を末梢(まっしょう)血管から挿入し、心臓や大血管の内圧を測ったり、血液を採取する検査方法です。

原因としては、肺動脈壁が厚くなって内腔(ないくう)が狭くなるため、血液の流れが悪くなったり、肺動脈がけいれん収縮して血液の流れが悪くなるためだと考えられていますが、詳しいメカニズムはまだわかっていません。膠原(こうげん)病、肝臓疾患、HIV感染などに合併して肺高血圧症がみられることがありますが、これらは続発性肺高血圧症と呼ばれて、原発性とは区別されています。

20~30歳代の女性に多い傾向があり、十分な治療がなされないと数年以内に死亡する例が多いなどの特徴があり、厚生労働省の定める特定疾患、通称難病に指定されています。ただ極めてまれな疾患で、発症頻度は人口100万人あたり1〜2人とされています。

症状としては、全身への血液の供給が不足する結果、疲労しやすくなったり、運動時の息切れや胸痛が現れます。脳への血流が低下すると、失神することもあります。進行すると、顔色が悪くなったり、唇やつめが紫色になるチアノーゼが現れ、安静にしていても息切れが起こります。

まれに、関節痛や、寒さや精神的緊張が引き金となって、手の先が白色や紫色になって冷感やしびれが出るレイノー現象が現れることもあります。

原発性肺高血圧症の検査と診断と治療

原発性肺高血圧症では、早期に的確な診断を得て十分、かつ適切な治療を受けることが、他の疾患以上に重大な意味を持っています。

医師による診断では、肺高血圧症を起こす可能性のある心臓や肺の疾患がないことを確認しなければなりません。そのために、心電図、胸部X線検査、心臓超音波検査、腹部超音波検査、肺機能検査、肺換気・血流シンチグラムなどを行います。最終的には、右心カテーテル検査を行って肺動脈の血圧を直接測定して診断します。

治療では、肺の毛細血管を拡張させて肺への血流を増やし、なるべく多くの酸素を取り込めるように、酸素吸入療法、一酸化窒素ガス吸入療法のほか、血管拡張療法として塩酸ニカルジピンなどのカルシウム拮抗(きっこう)剤の投与、エポプロステノールナトリウム(フローラン)というプロスタグランディン製剤の投与などが行われます。

経口の血管拡張剤を投与して効果がなければ、同じ血管拡張剤であるプロスタサイクリンを在宅で24時間、持続的に点滴する静注療法が行われます。

そのほか、右心不全の症状がみられた場合は、利尿剤や強心剤の投与、 水分制限および塩分制限が行われます。血液の流れをよくして、血栓を予防するためには、ワーファリンなどの抗凝固剤が使われます。

これらの薬剤を使っても効果がみられず症状が進行した場合は、肺移植、心肺同時移植が考慮されます。

🇲🇾原発性無月経

女性が満18歳になっても、1度も月経をみない状態

原発性無月経とは、女性が満18歳になっても、1度も月経をみない状態。月経がない状態を無月経といい、この原発性無月経と、今まであった月経が3カ月以上停止する原発性無月経とがあります。

現在では、日本人の少女の平均初経年齢はおよそ12歳で、14歳までに98パーセントが初経を経験するといわれています。定義上は18歳となっていますが、だいたい15歳くらいになって初経がないと、多くの少女は母親と一緒に産婦人科を訪れると見なされています。

原発性無月経の原因の多くは、形態異常や染色体異常など生まれ付きの遺伝的なものです。このうち形態異常には、膣(ちつ)閉鎖または処女膜閉鎖があります。膣や膣の入り口が閉鎖しているために、実際には月経があるのに、外へ流れ出てこないために、無月経と思われているものです。この場合は、卵巣や脳下垂体機能は正常のことが多く、ホルモン分泌は正常で二次性徴も認められて乳房などは発達しており、周期的な下腹部痛が繰り返されるのが特徴です。

そのほか、卵巣や子宮が先天的になかったり、発育が不完全の場合には、月経が起こりません。

染色体異常としては、ターナー症候群、精巣性女性化症候群、副腎(ふくじん)性器症候群などがあり、甲状腺(せん)機能低下症など疾患が原因のこともあります。卵巣形成障害や染色体異常が原因の場合は、乳房の発育、恥毛や腋毛(えきもう)の発毛など、思春期に起こる二次性徴の出現がみられないことが特徴的です。

明白な原因がない、いわゆるただ初経が遅れているだけということも多いのですが、この場合、ほかの二次性徴の出現も遅れていることが多いようです。

原発性無月経の検査と診断と治療

ターナー症候群、副腎性器症候群なども現在では、早く診断できるようになったので、15歳くらいまでに月経がこない場合は、産婦人科の専門医、特に内分泌学の専門医を受診します。

医師の側では問診により、無月経や遺伝的疾患の家族歴、内科的疾患の有無、薬剤服用の有無を確認します。基礎体温を測り、排卵の有無も確認します。問診、視診、内診などで子宮や腟の存在の有無、二次性徴発現の有無を調べた後、染色体検査、超音波検査、MRI検査、腹腔(ふくくう)鏡検査などを行い確定診断をします。

原発性無月経の治療は、無月経の原因、卵巣機能状態の程度、年齢などを考慮した上で決められます。染色体異常の場合は、性ホルモン補充療法により第2次性徴の促進と維持を図ります。染色体に異常がない場合は、排卵誘発剤の投与などの治療が行われます。また、膣や処女膜などの閉鎖が原因の場合は、手術療法で閉鎖部の切開が行われます。

🇩🇴原発性免疫不全症候群

細菌やウイルスを制圧する免疫系のどこかに、生まれ付いての欠陥がある疾患の総称

原発性免疫不全症候群とは、体内に侵入した細菌やウイルス、真菌、寄生虫などの病原体を制圧する免疫系のどこかに、 生まれ付き何らかの欠陥のある疾患の総称。先天性免疫不全症候群とも呼ばれ、後天的に免疫力が低下するエイズなどの後天性免疫不全症候群と区別されます。

免疫システムの複雑さから原発性免疫不全症候群に含まれる疾患は数多くあり、障害される免疫担当細胞、例えば好中球、T細胞、B細胞などの種類や部位により、200近くの疾患に分類されます。

原発性免疫不全症候群で問題となるのは感染に対する抵抗力の低下で、重症感染のために重篤な肺炎、中耳炎、膿瘍(のうよう)、髄膜炎などを繰り返します。時に生命の危険を生じることもあり、中耳炎の反復による難聴、肺感染の反復による気管支拡張症などの後遺症を残すこともあります。

それぞれの疾患によって異なりますが、出生1万人に対して毎年1人ぐらいの割合で、原発性免疫不全症候群の男児女児が生まれます。比較的頻度の高いX連鎖無ガンマグロブリン血症と慢性肉芽腫(しゅ)症は、日本全国で共に約500人から1000人近く存在すると推定されています。

X連鎖無ガンマグロブリン血症、X連鎖重症複合免疫不全症、X連鎖高IgM症候群、X連鎖慢性肉芽腫症、ウイスコット・アルドリッチ症候群などのX連鎖の遺伝形式をとる疾患が多く、これらは男児にのみ発症します。常染色体劣性型の疾患では、男女ほぼ同数です。

発症年齢は、抗体欠乏を主徴とする免疫不全症では胎盤移行抗体のなくなる生後6カ月から2歳ころから発症し、好中球やT細胞機能の異常による免疫不全症では生後早期から発症する傾向があります。

多くは、免疫系に働く蛋白(たんぱく)の遺伝子の異常です。最近の研究の進歩から、代表的な原発性免疫不全症候群の原因遺伝子はほとんど解明され、確定診断や治療に役立っています。しかし、IgGサブクラス欠乏症や慢性良性好中球減少症など、一時的な免疫系の未熟性によると思われる疾患もあります。

基本的には遺伝性の疾患ですが、家族に同様の患者のいない散発例も多くみられます。X連鎖の遺伝形式をとる疾患では、母親が保因者の場合、生まれてくる男児は2分の1の確率で発症します。女児は2分の1の確率で保因者となります。常染色体劣性型の遺伝形式をとる疾患では、父母が保因者であり、子供は4分の1の割合で患者になります。

主な症状は易感染性で、風邪症状がなかなか治らなかったり、何度も発熱したりし、入院治療が必要です。重症のタイプでは感染が改善せず、致死的となることもあります。好中球や抗体産生の異常による疾患では細菌感染が多く、T細胞などの異常ではウイルス感染が多い傾向があります。

原発性免疫不全症候群の検査と診断と治療

疾患や重症度により、臨床症状が一様ではなく、特殊な検査を要することもあり、小児科、内科の医師による診断は必ずしも容易ではありません。

軽症例では、抗菌薬の予防内服によりかなりの効果があります。抗体欠乏を主徴とする免疫不全症では、月1回ほどの静注用ヒト免疫グロブリン製剤の補充により感染はほぼ予防できます。

重症複合免疫不全症などの重症なタイプでは、早期に骨髄や臍帯血(さいたいけつ)による造血幹細胞移植が選択されます。ドナーが見付からない場合は、遺伝子治療が考慮されます。造血幹細胞移植をしないと、多くは2歳以上まで生存できません。また、慢性肉芽腫症などは予防内服をしていても、30歳以上になるとかなり予後不良となります。まれな疾患でもあり、専門の施設での診断、治療、経過観察が大切です。

生活上の注意としては、感染症が重症化するため、その予防が必要となります。うがいや歯磨きを励行し、けがをしたら擦り傷程度の軽いものでも消毒をします。腐敗した食物を摂取しないようにします。医師から指示された予防薬は。きちんと内服します。

なお、この原発性免疫不全症候群は、国の特定疾患治療研究事業対象疾患(難病)に指定され、医療費の公費負担対象になっています。

🇩🇴腱板断裂

老化やスポーツ障害で、肩関節の腱板に断裂が起こった状態

腱板(けんばん)断裂とは、肩関節で上腕を保持している腱板という筋肉と腱の複合体に、断裂が起こった状態。断裂型には、完全断裂と不全断裂があります。

肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節で、人間の体の中で最も可動域が広く、ある程度の緩みがあるため脱臼(だっきゅう)が多いのが特徴です。肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上(きょくじょう)筋、棘下筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために腱板と呼ばれます。

腱板は肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引(けんいん)、摩擦などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、40歳ごろから強度の低下による断裂の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって断裂する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。

特に、肩峰(けんぽう)という肩甲骨の最も上の部分と上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口(うこう)肩峰靭帯(じんたい)によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、腱板の中では最も断裂を起こしやすいところです。

スポーツ障害としての腱板断裂は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。

腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が完全断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。

腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、断裂を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、腱板断裂が発生します。

加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因で、転倒など明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、日常生活動作の中で断裂が起きます。40歳以上の男性の右肩に多いことから、腱板の老化と肩の使いすぎが原因となっていることが推測されます。

腱板断裂の症状としては、切れた部分が炎症を起こすために、肩が痛む、肩が上がらない、肩を上げる際に力が入らない、肩を上げる際に肩の前上面でジョリジョリという軋轢(あつれき)音がする、ある角度で痛みがある、肩から腕にかけてはれるなど、自然軽快しにくい特徴があります。

肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。

通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。断裂を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。

手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、腱板断裂が見逃されていることがあります。

腱板断裂の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査が有用で、上腕骨頭の上方の腱板部に断裂の所見がみられます。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、腱板断裂と確定されます。

スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干す際の挙上障害などがあります。外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。

整形外科の医師による治療では、断裂を生じた肩関節の腱板を使わずに休めるため、三角巾で固定して1~2週間安静にし、その後、肩の筋肉を強化します。4本の腱板のすべてが断裂することは少ないので、残っている腱板の機能を賦活させる肩の筋肉強化は有効です。

安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。水溶性副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射も、炎症を抑えるのに用います。物を前方へ押しやる動作や、肘(ひじ)を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。

肩の筋肉強化では、ゴムチューブによるカフ(腱板)エクササイズを行い、インナーマッスルを鍛え、肩の腱板のバランスを回復させます。カフエクササイズは肩関節の疾患において一般的な訓練となっており、ゴムチューブによる軽い抵抗、もしくは徒手による無抵抗にて、外旋や肩甲骨面上の外転などを行って、腱板の筋活動を向上させます。強すぎる抵抗は大胸筋や三角筋に力が入ってしまい、軽い抵抗に反応する腱板の働きを阻害してしまうので、十分注意する必要があります。

カフエクササイズでは、腕を体側に付けて、前腕を床と平行にしてゴムバンドを持ちます。肘を支点としてゴムバンドを引きながら、この腕を前方向、後ろ方向、横方向(手が体から離れる向きと、腕を胸の前に引き寄せる向き)に動かします。この運動は、肩関節の腱板のバランスを回復させ、腕を頭よりも高く上げる動きを含む動作中に腱板がぶつからないようにする働きがあります。

断裂が特に重度な場合は手術も行われ、腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術には、関節鏡視下手術と通常の直視下手術があり、切れた腱を元の位置に戻し、糸で縫合します。

関節鏡視下手術のほうが体に負担がかからず、手術後の痛みが少ないために普及してきていますが、大きな断裂では、縫合が難しいために直視下手術を選択するほうが無難です。

手術では腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、腱板の修復も行います。手術後は、約4週間の固定と2~3カ月の機能訓練が必要です。

🇲🇹顕微鏡的多発血管炎

全身の細い血管に炎症が起こる疾患

顕微鏡的多発血管炎とは、全身の毛細血管や細動動脈、細動静脈といった細い血管の血管壁に炎症が起こる疾患。細い血管にのみ血管炎が起こる本症は、中小動脈にのみ血管炎が起こる結節性多発動脈炎から近年、分離されて独立したものです。

男性にやや多く、50歳以上の高齢者に好発します。欧米に比べて比較的頻度が高いようで、日本全国の年間発生数は約1400人と推定され、国の特定疾患(難病)に指定されています。

原因は、結節性多発動脈炎と同じようにいまだ不明です。しかし、ウイルス感染や大気汚染などが誘因として考えられており、好中球細胞質の酵素に対する抗好中球細胞質抗体(自己抗体)が血液検査で認められることから、他の膠原(こうげん)病と同様に、免疫異常が背景に存在すると考えられています。

症状としては、全身の細い血管の血管壁に炎症を起こして、出血したり血栓を形成したりするため、障害が起こった血管の還流臓器や組織が壊死したり、虚血を来したりします。初発症状としては、高熱が出て、関節痛、筋肉痛が起こり、体重減少、全身の消耗などがみられます。

特徴的なのは、腎(じん)臓の機能が急速に悪化する急速進行性の腎炎と、肺に間質性肺炎や肺出血がみられることです。その他、網目状の発疹(はっしん)が出る、紫斑(しはん)が出る、末梢(まっしょう)の神経障害が出るなど血管炎の症状がみられます。高血圧、心不全、脳出血、脳梗塞(こうそく)、腹痛、下血なども認められます。

顕微鏡的多発血管炎の検査と診断と治療

顕微鏡的多発血管炎は結節性多発動脈炎と同様、生命や臓器不全の危険性があるので、専門医の意見を聞いて入院治療を受けることが重要です。早期診断、早期治療が望まれますので、膠原病内科、腎臓内科などを受診します。

診断に重要な検査は、抗好中球細胞質抗体の検索、皮膚・筋肉などの生検、血管造影。区別すべき病気は、他の血管炎および膠原病です。

治療は、結節性多発動脈炎とほぼ同じ治療が行われます。腎臓や肺などの重要臓器に血管炎による障害がみられる場合、入院して、大量の副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)で治療を開始し、以後、血管炎の再燃に配慮しながら薬の量を減らしていきます。同時に免疫抑制剤薬が用いられます。

腎障害が高度に進行してしまった場合は腎不全になり、血液透析が必要となることがあります。治療に反応せず、臓器障害が進行したり、感染症を併発してさらに病状が悪化する危険性もありますので、感染症予防が大切となります。

診断6カ月未満の死亡率が高くなっていて、予後は決してよいとはいえません。感染症、肺出血、腎不全が主な死亡原因です。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...