2022/08/02

🇦🇿尖頭合指症候群

頭の形と顔貌が特徴的で、手足の指の癒合がある先天性疾患

尖頭(せんとう)合指症候群とは、複数の特定の奇形を持っている先天性の異常疾患。アペール症候群とも、エイパート症候群とも呼ばれます。

尖頭合指症候群の主な症状は、頭蓋(とうがい)骨縫合早期癒合症、合指症、合趾(ごうし)症でであり、頭の形と顔貌(がんぼう)が特徴的で、手足の指に癒合などの奇形があります。症状が似ているため、クルーゾン病と同一視する場合もあります。

乳児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大しますので、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られるわけです。

頭蓋骨縫合早期癒合症は狭頭症とも呼ばれ、染色体や遺伝子の異常が原因となって、頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合してしまう疾患。その結果、頭蓋骨や顔面骨に形成不全がみられて、頭、顔、あごに変形が生じます。頭蓋骨の変形は、早期癒合が起こった縫合線と関係があり、長頭、三角頭、短頭、斜頭などと呼ばれる変形が生じます。

眼球突出、両目の離間、気道狭窄(きょうさく)、歯列のかみ合わせ異常、高口蓋や口蓋裂など、さまざまな症状もみられます。また、頭蓋骨の変形によって脳が圧迫されるなどの障害が発生し、水頭症の合併、頭蓋内圧の上昇を認めることも少なくありません。

合指症は、隣り合った手の指がくっついている疾患。尖頭合指症候群における合指症の場合、人差し指から小指までの4本の合指、または親指から小指まで5本全部の合指の2つのパターンに大きく分かれるようです。手の指の間が皮膚によって互いにくっついている場合と、骨によって互いにくっついている場合とがあります。

合趾症は、隣り合った足の指がくっついている疾患。5本全部の指がくっついていることが多いようです。合指症と同じく、足の指の間が皮膚によって互いにくっついている場合と、骨によって互いにくっついている場合とがあります。そのままでも歩行に問題はありません。

水頭症のほか、聴力の障害、精神発達障害を伴うこともありますが、ほとんどは知能の発達に異常はありません。発生頻度は1万6000人に1人とされ、典型的な症状を持つ発症者は常染色体性優性遺伝をすることがわかっています。

乳児の頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ないものの、尖頭合指症候群における頭蓋骨縫合早期癒合症との鑑別が大切です。

尖頭合指症候群の検査と診断と治療

乳幼児の頭の形がおかしい、手足の指が癒着していると心配な場合は、形成外科や小児脳神経外科の専門医を受診します。

尖頭合指症候群の症状には、軽度なものから重度なものまであり、形成外科や脳神経外科の領域のほか、呼吸、循環、感覚器、心理精神、内分泌、遺伝など多くの領域に渡る全身管理を要します。乳幼児の成長、発達を加味して適切な時期に、適切な方法で治療を行うことが望ましいと考えられ、関連各科が密接な連携をとって 集学的治療が行われます。

頭蓋骨縫合早期癒合症の治療は、放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性があるため、外科手術になります。

手術法としては従来から、変形している頭蓋骨を切り出して、骨の変形を矯正することで正常に近い形に組み直す頭蓋形成術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。

近年では、この頭蓋形成術に延長器を用いた骨延長術も行われています。具体的には、頭蓋骨に刻みだけ入れて延長器を装着し、術後に徐々に刻みを入れた部分を延長させ、変形を治癒させるという方法。

骨延長術のメリットとして、出血が少なく手術時間の短縮が図れる、骨を外さないため血行が保たれるので委縮や変形が少ない、骨欠損が比較的早期に穴埋めされる、皮膚も同時に延長可能である、術後に望むところまで拡大可能であるなど挙げられます。一方、デメリットとして、頭蓋形成術より治療期間が長く1カ月程度は入院しなければならない、延長器を抜去する手術が必要となるなどが挙げられます。

さらに、内視鏡下で骨切りを行い、ヘルメットで頭の形を矯正するなどの手術方法も開発されています。水頭症予防の手術が必要になる場合もあります。

単純な頭蓋骨縫合早期癒合であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば、一度の手術で治療は完結することが期待できることがあります。尖頭合指症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症では、複数回の手術が必要になることもまれではありません。頭蓋骨の形態は年齢により変化しますので、長期に渡る経過観察が必要です。

頭蓋骨の手術だけでなく、顔面骨を骨切りして気道を拡大し、眼球突出や不正咬合(こうごう)を適切な位置へ移動させる手術も行われます。

手足の指の癒着は、皮膚だけでなく骨まで癒着している場合、機能を損ねないように慎重に分離手術が行われます。歯列矯正を行う時には、尖頭合指症候群の場合は健康保険が適用されます。

🇦🇿全般性不安障害

●不安障害の一種で、慢性的な不安が特徴

全般性不安障害(GAD:Generalized Anxiety Disorder: ジーエーディー)とは、不安障害の一種。不安障害とは、誰もが感じる程度をはるかに超える不安を持ち、それが元で日常生活に支障を来してしまう病気の総称です。

不安障害に数えられる病気の一つである全般性不安障害は、以前はパニック障害と一括して「不安神経症」と呼ばれていました。現在では二つに分けて、慢性的な不安に悩まされているなら 「全般性不安障害」、急な不安発作を繰り返すなら「パニック障害」という診断名で呼ばれるようになりました。「神経症」という用語も、国際疾病分類などでは正式な診断名として使われなくなりました。

全般性不安障害の特徴は、慢性的な不安と、それに伴う心と体の症状が長く続くことです。誰もが感じる正常な不安は、はっきりした理由があって、一定の期間だけ続きます。しかし、全般性不安障害の場合、理由が定まらず、特殊な状況に限定されない不安が長期間続きます。

不安や心配の対象は、家庭生活、仕事、学校、将来、近所付き合い、地震や大雨などの天災、不慮の事故、病気、外国での戦争など、あらゆるものが対象になります。そして、自分ではどうすることもできない事柄についても、必要以上に深刻に悩み、不安や心配をコントロールできなくなって、心や体の調子が悪くなり、日常生活に支障を来してしまいます。

不安障害の中では一般的で、全般性不安障害の患者数はパニック障害の患者数より3~4倍多いとされ、1000人に64人くらいが経験するという報告もあります。まれな病気ではないといえます。

発症する年齢は10代半ばから20歳前後が多く、男女比は1:2で女性に多くみられます。また、精神科にはかなりの時を経て、受診するケースが多いといわれています。

アメリカで行われた調査によれば、一生の間に全般性不安障害にかかる人の割合(生涯有病率)は3~5パーセント、不安を専門に診ているクリニックでは、全患者の30パーセント程度が全般性不安障害と診断されており、発病者がかなり多くいる病気であることがわかります。

●原因と症状の現れ方

一般に、不安障害の原因は心理的な出来事(心因)とされており、全般性不安障害の場合も、何らかの精神的なショック、心配事、悩み、ストレスなど、精神的原因と思われる出来事をきっかけに、いつの間にか発症しているというのが普通です。しかし、きっかけが全くないこともあります。過労、睡眠不足、風邪など、身体的な状況がきっかけになることもあります。

性格的には、もともと神経質で、不安を持ちやすい人に多い傾向があります。遺伝的要因や、自律神経の障害なども、発症に影響すると考えられています。

発病者が訴える症状には、以下のようにさまざまなものがあり、不安と心配を過剰に持つことがいかに、心や体に悪い影響を与えるかがわかります。

【身体症状】

・頭痛、頭重、頭の圧迫感や緊張感、しびれ感

・そわそわ感

・もうろうとする感じ

・めまい感、頭が揺れる感じ、船酔している感じ

・自分の身体ではないような感じ

・身体の悪寒や熱感、手足の冷えや熱感

・全身に脈拍を感じる

・便秘や頻尿 など

【精神症状】

・注意散漫な感じ

・記憶力が悪くなる感じ

・根気がなく、疲れやすい

・イライラして、怒りっぽい

・ささいなことが気になり、取り越し苦労が多い

・悲観的になり、人に会うのが煩わしい

・寝付きが悪く、途中で目が覚めやすい など

不安に伴ういろいろな身体症状、精神症状に関しては、多くの発病者は身体症状のほうを強く自覚します。どこか体に重大な病気があるのではないかと考え、あちこちの病院で診察や検査を受けるのが常ですが、症状の原因になるような身体疾患はみられません。

経過は慢性で、日常生活のストレスの影響を受け、よくなったり悪くなったりが続きます。途中から、気分が沈んで、うつ状態を伴ったり、うつ病に移行することもあります。

●検査、診断、薬物療法と精神療法による治療

全般性不安障害という病気の名称やその症状については、これまであまり知られていなかったため、医療機関での治療を受けていない人も多いようです。

また、病院に行っている人の場合でも、自律神経失調症や更年期障害と診断され、全般性不安障害の発病者としての治療の機会を逃がしていることもあるようです。

発病すると、他の精神科領域の病気、例えば、うつ病、パニック障害、社会不安障害(SAD)などを併発する可能性が高くなるとされておりますので、コントロールできない不安や心配が続き、心や体に不調を来す症状が現れている場合には、早めに精神科や心療内科を担当する専門医の診断を受けてください。

全般性不安障害の診断基準には、米国精神医学会編「DSM-(協) 精神疾患の分類と診断の手引」が主に使われます。その基準の核となる部分をまとめると、次のようになります。

(1)仕事や学業などの多数の出来事または活動について、過剰な不安と心配がある。しかし、その原因は特定されたものではない。

(2)不安や心配を感じている状態が6カ月以上続いており、不安や心配がない日よりある日のほうが多い。

(3)不安や心配をコントロールすることが難しいと感じている。

(4)不安や心配は、次の症状のうち3つ以上の症状を伴っている。

・そわそわと落ち着かない、緊張してしまう、過敏になってしまう

・疲れやすい

・集中できない、心が空白になってしまう

・刺激に対して過敏に反応してしまう

・頭痛や肩凝りなど筋肉が緊張している

・眠れない、または熟睡した感じがない

以上の診断基準が使われて、症状と経過から診断が行われます。その人に出ている症状が他の身体疾患や、全般性不安障害以外の不安障害や、うつ病などの精神科領域の疾患によるものではないことを確認することも、重要となります。

身体疾患を除外するために、尿、血液、心電図、X線、超音波など一般内科的検査が行われ、これらの検査で異常が見付からない場合に診断が確定します。

治療法には、大きく分けて薬物療法と精神療法の2つがあります。疾患の本態は不安にありますので、まずは薬を使って、不安をコントロール可能なくらいまで軽くし、さらに精神療法によって、発病者自身が不安をコントロールできるようにしていきます。

【薬物療法】

不安感の軽減を目的に、ベンゾジアゼピン系抗不安薬などが用いられています。ベンゾジアゼピン系は長期間服用した場合、精神的依存や眠気などの副作用があります。うつ症状を合併する場合は、抗うつ薬が用いられます。最近は、パロキセチン(パキシル)に代表される新型抗うつ薬であるSSRIの有効性が報告されていますが、副作用はあります。

【精神療法】

発病の原因が、その人の生育歴や性格によっているような場合は、精神療法も重要となります。

精神療法には、カウンセリング、認知行動療法、セルフコントロール法などがあります。いずれも無意識に存在している「不安の根源」を探し、そのコントロールを目指すものです。

精神療法は、薬物療法と違って副作用が少ないのが利点ですが、本人の努力がかなり必要なことや主治医の先生との相性などもあり、効果にバラツキが出る場合があります。症状の完全な消失を求めるのでなく、少しでもよくなったら、そのぶん前向きに生活していく態度が、本人にとって肝要です。

●周りに発病者がいる方へ

発病者は不安や心配を周りに訴えることが多いのですが、その訴えの中には、病気ではない人からみるとナンセンスに感じられることもあるので、じっくりと訴えを聞いてあげることが難しい時もあるかと思います。

しかしながら、不安や心配に伴って心や体にも不調が長く続いていることを理解して、温かい気持ちで支えてあげてください。

また、発病者と思われる人が周りにいて、しかも治療を行っていないようでしたら、単なる心配性と見なさないで、なるべく早く精神科や心療内科を担当する専門医の診断を受けるよう勧めてください。

🇮🇪前立腺炎

男性の尿道後部を囲む前立腺に、炎症が起こる疾患

前立腺(ぜんりつせん)炎とは、細菌などによって、男性の尿道後部を囲む前立腺が炎症を起こす疾患。あらゆる年代の男性に起こります。

前立腺はクルミ大の器官で膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあり、この中を尿道が貫いています。成人では重さ15~17gグラムで、男性ホルモンに支配されており、分泌される前立腺液は精液の一部を占め、精子の運動を活発にするものといわれています。排尿時に前立腺が収縮、緩和を行うことで、排尿をコントロールをする働きもあります。

炎症だけにとどまっている場合を前立腺炎といい、これが化膿(かのう)してうみを持った状態を前立腺膿瘍(のうよう)といいます。また、前立腺炎がある時は、ほとんど隣接する精嚢(せいのう)にも炎症が起こっていることが多いものです。

原因としては、以前は淋菌(りんきん)によって起こるものが多かったのですが、近年は大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌などによって起こるものが増えています。感染経路は、病原菌が尿道から直接侵入するものが一般的ですが、ほかの化膿巣から血液によって運ばれる血液感染もまれにみられます。

急性(細菌性)前立腺炎と慢性前立腺炎があり、慢性前立腺炎は慢性(細菌性)前立腺炎、慢性(非細菌性)前立腺炎、前立腺痛の3タイプに分類できます。

急性(細菌性)前立腺炎では、初期には微熱が出て、頻尿と排尿の終わりに痛みがある程度です。進行すると、症状も強くなり、会陰(えいん)部から直腸部に痛みが起こり、腰部に走ります。頻尿は強くなり、排尿時の痛みも強くなるとともに、排尿困難を生じ、時に尿閉も起こります。

排便も困難になり、寒けと震えを伴った高熱が出ます。時には、著しい高熱発作で、急激に発症することもあります。

慢性前立腺炎には、急性のものから移行するものと、初めから慢性に起こるものがあります。慢性(細菌性)前立腺炎は、急性前立腺炎が治りきらず細菌感染が継続した状態ですが、尿道炎などから前立腺の炎症を併発することもあります。

朝、尿道から少量のうみが分泌し、頻尿、排尿時の痛みと不快感、残尿感などのほか、会陰部、直腸部、膀胱部に痛みを感じたり、腰痛などが起こります。人により、性欲減退、勃起(ぼっき)不全、早漏、遺精、精液漏など、いろいろな性機能障害を覚えます。

慢性(非細菌性)前立腺炎 は、疲労やストレスなどが原因となることもある最も一般的なタイプ。頻尿や排尿時の痛み、残尿感、会陰部の痛みなどがありますが、急性(細菌性)前立腺炎に比べれば症状は軽く、なかなか疾患と認識されません。どの年代の男性にもみられ、症状が消えたり現れたりを繰り返します。

前立腺痛は、前立腺そのものには異常がないのに、下腹部や会陰部に痛みを感じるタイプ。はっきりした原因は不明で、誘因としては前立腺や膀胱周辺の筋肉の機能障害やストレスが考えられます。

前立腺炎の検査と診断と治療

前立腺炎の症状に気付いたら、泌尿器科の専門医を受診します。

医師による診断では、尿検査、エコー検査、血液検査、直腸診などが行われます。細菌性の前立腺炎では、尿検査で尿中に白血球が多数出現し、炎症所見がみられます。直腸診で前立腺を触れると、圧痛が現れます。前立腺マッサージをして出てくる前立腺分泌液にも、白血球を認めます。急性(細菌性)前立腺炎では、細菌の存在も確認できます。

強い痛みや不快症状がある急性(細菌性)前立腺炎は、入院して鎮痛剤で痛みや不快症状を抑え、同時に感染菌に効く強力な抗生物質による治療を行います。前立腺は薬物移行が悪いため、治療効果が得られるまでに時間がかかることも多く、敗血症に移行することもあるので注意が必要です。また、再発を繰り返すと慢性化してしまうので、医師の指示通り、服薬や治療を継続しなければなりません。

逆に、慢性前立腺炎は大事に至ることはありません。慢性(細菌性)前立腺炎では、抗菌剤を4~12週間程度服用します。また、前立腺のマッサージで、分泌腺内にたまっている膿性分泌物を排出させます。

慢性(非細菌性)前立腺炎でも、細菌感染の可能性もある場合には、抗菌剤を4〜8週間程度服用します。細菌の可能性がない場合や、前立腺痛では、筋弛緩(しかん)剤、温座浴などの温熱治療、漢方薬が用いられます。さらに、精神科医との連携も必要な場合があります。

慢性前立腺炎の場合、原因もさまざまでで、かつ治りづらいので、気長に治療することが大切。日常生活の摂生や軽い運動などによる体力増進も、不可欠となります。

🇮🇸前立腺がん

男性の尿道後部を囲む前立腺に発生するがん

前立腺(ぜんりつせん)がんとは、男性の尿道後部を囲む分泌腺である前立腺に発生するがん。

前立腺はクルミ大の器官で膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあり、この中を尿道が貫いています。男性ホルモンに支配されており、分泌される前立腺液は精液の一部を占め、精子の運動を活発にするものといわれています。

前立腺がんは、前立腺肥大症とともに高齢者に多い疾患の一つです。従来から欧米に多く、日本では少なかったのですが、近年はその発病率が徐々に増加しています。平均寿命が延びて高齢者が増えているのが関係しているばかりでなく、食生活が欧米化していることも関係しているといわれています。また、腫瘍(しゅよう)マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)検査の普及に伴って、その発見頻度も徐々に増加しています。

現在、1年間に前立腺がんにかかる日本人男性は、現在10万人当たり15人程度。年齢別では、45歳以下ではまれなものの、50歳以後その頻度が増え、70歳代では10万人当たり約200人、80歳以上では300人以上になります。

原因は遺伝子の異常とされており、加齢と男性ホルモンの存在が影響しますが、いまだ明確ではありません。欧米の報告によると、肉やミルクなど脂肪分が多く含まれている食事を多く摂取することにより、前立腺がんの発生が増えると考えられています。一方、穀類や豆類など繊維を多く含む食事は、がんの発生を抑える効果があると考えられています。肥満、過度の飲酒、喫煙が誘因になるとの指摘もあります。

前立腺がんは前立腺の外側の腺上皮から発生する率が高く、初期にはほとんど症状がありません。がんが大きくなって尿道が圧迫されると、尿が出にくい、尿の回数が多い、排尿後に尿が残った感じがする、夜間の尿の回数が多いなど、前立腺肥大症と同じ症状が現れます。

がんが尿道または膀胱に広がると、排尿の時の痛みや、尿漏れ、肉眼でわかる血尿が認められ、さらに大きくなると尿が出なくなります。精嚢(せいのう)腺に広がると、精液が赤くなることがあります。

さらにがんが進行すると、リンパ節や、脊椎(せきつい)、骨盤骨に転移します。リンパ節に転移すると下肢のむくみ、骨に転移すると腰痛や背痛、下半身まひを起こすことがあります。

なお、前立腺肥大症ではどんなに進んでも、下肢のむくみ、骨の痛みなどはみられません。2つの疾患が合併することもあります。

前立腺がんの検査と診断と治療

前立腺がんは、遺伝の要素が強いがんの一つと考えられているため、親族が前立腺がんの場合、早めにPSA(前立腺特異抗原)検査を受けます。一般開業医あるいは検診センターで検査を受けた結果がPSA値4ng/ml以上だったら、泌尿器科の専門医を受診します。

PSA値は血液検査だけで測定可能で、一般に正常値は4ng/mlとされ、10ng/mlまでの間をグレーゾーン(灰色の値)といいます。グレーゾーンの人では、おおむね20〜30パーセントに前立腺がんが発見され、しかも発見されたとしても早期がんです。PSA値が高いほどがんの可能性が高く、100ng/mlを超えるようなこともあります。

ただし、がんだけが異常値を示すわけではなく、前立腺肥大症でも高値を示すことがあり、年齢とともに上昇する傾向があります。PSA値があまり上昇しない前立腺がんも15〜20パーセントあるため、注意が必要です。

医師による診断では、PSA値の高さ、PSA検査に関連したさまざまな判断基準、年齢による基準を考えに入れて、次の検査を進めます。肛門(こうもん)から指を入れて前立腺を触る直腸診を行うと、がんは硬いしこりとして前立腺内に触れます。経直腸超音波診断を行うと、がんは前立腺の変形、低エコー領域として認められます。

確定診断のためには、生検(組織診)が行われます。超音波検査の道具をガイドにして、直腸方向から生検針を用いて組織を採取して調べるもので、現在は短期間入院して麻酔下で行います。

周囲への進み具合は、腹部リンパ節のCT、骨盤部のMRIによって調べます。全身の骨の転移については、骨シンチグラフィが有用です。

前立腺がんの治療法には、ホルモン療法、放射線療法、手術などがあり、がんの進行程度、年齢により、他の部位のがんより幅広い治療法の選択ができます。

早期がんに相当する前立腺内限局がん(病期A、B)の場合は、第1選択が開腹あるいは腹腔(ふくくう)鏡下による前立腺摘除手術、第2選択が放射線療法となり、どちらでも完治できます。高齢者などでは、ホルモン療法で疾患を抑えます。

放射線療法は、高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺す治療です。1日1回、週5回照射し、5〜6週間の治療期間が必要です。外照射療法のほかに、小線源療法といって前立腺に放射線を出す小さな線源を埋め込む方法があります。

ホルモン療法は、男性ホルモンを血液中から排除する治療で、LH—RHアナログという薬を皮下注射をする方法と、精巣(睾丸)を切除する方法があります。ほかにも、がんの進行程度によって抗男性ホルモン剤や、女性ホルモン剤を用いて治療します。

前立腺から少しはみ出したがんに相当する局所進展がん(病期C)の場合は、ホルモン療法+放射線療法や前立腺摘除手術+ホルモン療法が行われます。ホルモン療法だけでもがんを抑えておくことはできますが、時期をみて放射線療法に移るのが疾患の再燃を防ぐよい方法となります。

進行がんに相当し、リンパ節などへの転移のあるがん(病期D)の場合は、ホルモン療法が行われ、がんの原発巣は縮小し、骨転移による腰痛や背痛も軽減または全く消失します。しかし、進行がんでは2〜3年以内の再発が多く認められ、再発に対する標準的な治療法はまだ定まっていません。

前立腺がんの予防策としては、過食、過飲、喫煙を避け、動物性脂肪を減らし、豆腐、納豆などの豆製品を多く食べ、緑黄野菜の摂取を忘れず、戸外での適度な運動を楽しむことです。 とりわけ、豆類に含まれるイソフラボノイドがエストロゲン(女性ホルモン)様の構造を持つことから、前立腺がんを抑制する可能性があると推定されていますし、野菜、果物も前立腺がんに限らず、一般的にがん予防効果があるとされています。

🇱🇻前立腺結石

男性の尿道後部を囲む前立腺の中に、結石が生じる疾患

前立腺(せん)結石とは、男性の尿道後部を囲む前立腺の中に結石が生じる疾患。

前立腺はクルミ大の器官で膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあり、この中を尿道が貫いています。成人では重さ15~17gグラムで、男性ホルモンに支配されており、分泌される前立腺液は精液の一部を占め、精子の運動を活発にするものといわれています。排尿時に前立腺が収縮、緩和を行うことで、排尿をコントロールをする働きもあります。

ここにできる前立腺結石は、50歳代以上の男性の約80パーセントにみられるといわれています。加齢に伴って、前立腺の内部にでんぷんの小さな固まりができるようになり、石灰質が沈殿して小さい結石が数個形成されます。大抵は体に悪影響を及ぼさない程度のものなので、何かの疾患でX線検査や超音波検査が行われて、偶然発見されることが多く見受けられます。

しかし、前立腺肥大症や尿道狭窄(きょうさく)などによって尿道が狭まり、尿が前立腺液の排泄(はいせつ)管内へ逆流したり、停滞したりすることによって起こる結石が前立腺の内腺と外腺の間にできた場合、結石が増大し、各種排尿障害が顕著に現れることがあります。

細菌の感染を起こさなければ、症状がないものが多く、これらは放置しておいてよいものです。尿路結石などと異なり痛みもなく、排尿障害の原因になることもありません。大きな結石では、排尿痛、会陰(えいん)部痛、頻尿、排尿困難が現れることもあります。

前立腺結石の検査と診断と治療

無症状の症例では、X線検査で前立腺部に細かい石灰化像が認められます。

細菌感染を伴うものでは抗生剤による治療が必要ですが、無症状の症例では治療の必要はありません。大きな結石で排尿痛、会陰部痛、頻尿、排尿困難が現れる場合には、多くは前立腺肥大症などの治療をすると同時に、外部から結石を破壊したり、内視鏡手術で結石を取り出すこともあります。

🇸🇪頭痛

頭痛には、慢性的にズキズキ痛んだり、突発的に激しい痛みに襲われたりと、いろいろあります。また、原因がはっきりせず、あまり心配がいらないものもあれば、脳の異常が原因で命にかかわるものまであります。

この頭痛は、ストレスなどが関係していて原因不明の慢性頭痛(機能性頭痛)と、頭部などに何らかの原因が明らかにある症候性頭痛の二つに大別されます。

慢性頭痛の代表的なものは、頭や首周りの筋肉の凝りや緊張から起こる緊張型頭痛、頭の血管の拡張によって神経が刺激されて起こる片頭痛、および群発頭痛です。

発生頻度が高く、慢性的に痛みが起こる人が非常に多い慢性頭痛では、時折寝込んでしまうほど辛(つら)い症状の人もいれば、日常生活に支障がほとんどない人もいて、痛みの程度はさまざまです。

症候性頭痛のほうは、頭部の外傷による頭痛、くも膜下出血・髄膜炎などの脳血管・髄膜の障害による頭痛、脳腫瘍(しゅよう)などの脳の疾患による頭痛、一酸化炭素中毒・二日酔いなどの何らかの原因物質が関係する頭痛、風邪などの感染症による頭痛、目や耳・鼻などの病気による頭痛に区別されます。

脳に原因のある危険な頭痛の痛み方や痛みの経過は、慢性頭痛とは違います。くも膜下出血や髄膜炎、脳腫瘍など、命にかかわる病気が原因で起こる頭痛は、いずれも非常に激しい頭痛を伴います。

ふだん慢性頭痛を持っている人の場合、いつもの頭痛だと考えて受診が遅れる可能性があるので注意が必要です。危険な頭痛の特徴は、今までに経験したことのない痛み方、突然痛みが始まる、強烈な痛み方、後頭部に痛みを感じる、手足のしびれやまひ、意識の低下などを伴うです。痛み以外の症状があるかどうかも、判別のポイントとしては重要です。

もし、少しでもいつもと様子が違うようであれば、神経内科や脳外科、脳神経内科を受診するようにしましょう。医療機関では、CTスキャン(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴診断)などによる断層画像や髄液の検査などで、診断します。

🇵🇦スティーブンス・ジョンソン症候群

主に医薬品の服用が原因となって、全身の皮膚や粘膜に症状が現れる重篤な疾患

スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS:Stevens-Johnson syndrome)とは、皮膚や粘膜の過敏症である多型紅斑(こうはん)の一種で、最悪の場合は死に至ることもある重篤な疾患。皮膚粘膜眼症候群とも呼ばれています。

医薬品の副作用が主な原因と考えられていますが、一部は単純疱疹(ほうしん)ウイルス、肺炎マイコプラズマ、細菌、真菌などの種々のウイルスや細菌による感染症、悪性腫瘍(しゅよう)が原因となって発症します。原因不明な場合も、少なくありません。

発症メカニズムについては、医薬品などにより生じた免疫・アレルギー反応によるものと考えられていますが、さまざまな説が唱えられており、いまだ統一された見解は得られていません。

原因と推定される医薬品は、抗生物質、解熱消炎鎮痛薬、抗てんかん薬、痛風治療薬、サルファ剤、消化性潰瘍(かいよう)薬、催眠鎮静薬、抗不安薬、精神神経用薬、緑内障治療薬、筋弛緩(しかん)薬、高血圧治療薬など広範囲に渡り、その他の医薬品によっても発生することが報告されています。また、総合感冒薬(風邪薬)のような市販の医薬品が原因となることもあります。

症状は、紅斑、水疱(すいほう)、びらんが皮膚や粘膜の大部分の部位に広く現れることに加え、高熱や悪心を伴います。目の粘膜の変化は、皮膚などの粘膜の変化とほぼ同時に、あるいは皮膚の変化より半日もしくは1日程度、先に現れ、両目に急性結膜炎を生じて、充血、目やに、涙、かゆみ、はれなどが起こります。唇や陰部のびらん、のどの痛み、排尿排便時の痛みも起こります。

発症すると予後不良となる場合があり、皮膚の症状が軽快した後も目や呼吸器、肝臓などに障害を残すこともあります。

原因と考えられる医薬品の服用後2週間以内に発症することが多く、数日以内あるいは1カ月以上たってから起こることもあります。

スティーブンス・ジョンソン症候群の発生頻度は、人口100 万人当たり年間1〜6人とされています。死亡する確率は、患部が体表の10パーセント未満の場合なら致死率5パーセントといわれています。

その症状が持続したり、急激に悪くなったりした場合、何らかの医薬品を服用している人は放置せずに、すぐに医師、薬剤師に連絡してください。

スティーブンス・ジョンソン症候群の診断と治療は、皮膚科の入院施設のある病院で行うことが望ましいとされています。入院に至った際は、 皮膚科と眼科、呼吸器科などとのチーム医療が行われることになります。

医師による診断では、皮膚生検で確定診断を早急に行い、血液検査、呼吸機能検査なども行います。また、原因と推定される医薬品や、ウイルスの感染などを検索します。

医薬品の服用後に高熱を伴う皮膚、粘膜、目の症状を認めたケースでは、原因と推定される医薬品の服用を直ちに中止することが最も重要で、最良の治療法となります。しかし、服用を中止しても重症化する場合があるので、注意が必要です。

一般に、スティーブンス・ジョンソン症候群を発症した場合、副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の全身投与、あるいは血漿(けっしょう)交換療法、ビタミン類の投与、さらに二次感染予防の目的で抗生物質の投与が行われ、皮膚の症状に対しては外用抗生物質、外用副腎皮質ホルモン剤が用いられます。粘膜の症状に対しては、うがい、洗眼など開口部の処置が行われます。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...