2022/08/03

🇸🇮三つ口

上唇の一部に裂け目が現れ、唇が三つに分かれているような形を示す先天性異常

三つ口とは、上唇(うわくちびる)の皮膚と筋肉の一部に縦の裂け目が現れ、鼻の下で唇が三つに分かれているような形を示す先天性異常。口唇裂、唇裂、兎唇(としん)、いぐち、欠唇(けっしん)とも呼ばれます。

妊娠初期に複雑な発生の過程をへて、胎児の顔面が形成されます。胎生期第4~7週ころに、前頭突起(内側鼻隆起)と左右の上顎(じょうがく)突起が癒合して上唇ができます。この癒合が障害されると、三つ口になります。三つ口といえば通常、上唇の皮膚と筋肉の一部に裂け目が現れる上唇裂をいい、下唇に裂け目が現れる下唇裂は非常にまれです。

この三つ口は、裂け目が鼻まで達する完全口唇裂、裂け目が鼻まで達しない不完全口唇裂、左右の唇のどちらか一方に裂け目がある片側口唇裂、左右両側に裂け目がある両側口唇裂、さらに、唇の縁の小さなへこみや、唇から鼻の穴までの傷跡のように見える軽微な三つ口である痕跡(こんせき)口唇裂に分けられます。

三つ口は、さまざまな要因が複雑に絡み合って現れると考えられており、特定の原因があるわけではありません。口腔(こうくう)の発生にかかわる遺伝子の変異が関係したり、妊娠中の喫煙、胎内での風疹(ふうしん)感染、胎児脳内圧の異常高進、薬物、放射線障害などの環境要因が関係していると考えられています。染色体異常に伴う場合は、内臓疾患や生後の発育、発達の遅れがみられる場合があります。

三つ口は単独でみられることもありますが、口と鼻を隔てている上顎(うわあご)に先天性に破裂が現れる口蓋裂(こうがいれつ)と合併した口唇口蓋裂が多くみられます。さらに、歯を支えている顎骨である歯槽骨の破裂が現れる顎裂(歯槽裂)を合併することもあります。

三つ口の発生頻度は、全出産の0・08パーセントといわれています。三つ口、口蓋裂、口唇口蓋裂、顎裂を含めた発生頻度は、全出産の0・2パーセントといわれています。

胎児の顔面の口や鼻が形成された後、胎生期第7~12週ころの間に、口の中では口蓋がつくられます。口腔と鼻腔の間に口蓋突起が左右から伸び、前方から後方へと癒合が進んで上顎(口蓋)が形成されます。この過程が障害されると、口蓋突起が最期まで癒合せずに口腔と鼻腔が破裂したままになり、口蓋裂ができます。

口蓋裂は、口蓋の奥の部分の軟口蓋に破裂があるもの、口蓋の前方3分2の部分の硬口蓋に破裂があるもの、軟口蓋と硬口蓋の両方に破裂があるものに分けられます。

生後すぐ、あるいは胎児期の超音波検査で、三つ口が認められます。

口唇口蓋裂があると、歯の形態異常、欠損、歯列不正などが認められます。授乳障害もあり、母乳やミルクが鼻から逆流しやすくなったり、発音が鼻に抜けたりする症状がみられ、中耳炎、誤嚥(ごえん)性肺炎を合併することが多くみられます。

出生後、三つ口のほか、口蓋裂、口唇口蓋裂、痕跡口唇裂が認められた場合は、口唇口蓋裂を専門に治療し、発育、発達の定期的なフォローも含め、総合的に診療している口腔外科、形成外科を紹介してもらい、受診することが望まれます。痕跡口唇裂の場合、外見上は軽微な変化であっても、その下にある口輪筋への影響があり、深刻度を判断してもらう必要があります。

三つ口の検査と診断と治療

口腔外科、形成外科の医師による治療は、矯正歯科、小児歯科、耳鼻咽喉(いんこう)科、言語聴覚士、小児科など各科の医師とのチーム医療で行われることが一般的です。

口腔外科、形成外科の医師による治療は、形成手術が主体で、手術前にはホッツ床という柔らかい樹脂でできた入れ歯のようプレートを上顎にはめて、授乳しやすくします。

手術時期は、三つ口と口蓋裂で異なり、発音機能と上顎の発育の両面を考えながら決めます。一般的には、三つ口はミラード法などで生後3カ月以後、体重5キログラムを目安に実施し、裂けた口唇の閉鎖と再建、変形した鼻の位置の適正化、口輪筋の連続性の再建を図ります。

口蓋裂は1歳以降に、ファーロー法などの手術を実施し、口蓋部分における口腔と鼻腔の閉鎖、軟口蓋における口蓋帆挙筋などの左右に分かれた筋群の再建を図ります。

高度な三つ口で、裂け目が鼻まで達する完全口唇裂では、初回の手術だけで完全な形態の再建が完成するとは限らず、就学前あるいは青年期に、口唇や鼻の二次的な修正手術を必要とすることがあります。言語聴覚士による発音の訓練も必要です。

🇭🇷未破裂脳動脈瘤

脳の血管にこぶができた病態で、破裂するとくも膜下出血を発症

未破裂脳動脈瘤(りゅう)とは、脳の動脈の一部が内側からの圧力によって、こぶのように膨らんでいる病態。小さいものを含めると、成人の4~6パーセントに発生していると見なされています。

この未破裂の脳動脈瘤は近年、脳ドックや人間ドックの普及に伴って、MRA(磁気共鳴血管撮影)を行った時にたまたま発見されるケースが、急速に増加しています。中には、脳動脈瘤が大きくなって脳の神経を圧迫して障害を生じたために、発見されるケースもあります。

脳動脈瘤が発生する原因はまだはっきりとはしていませんが、遺伝的な要素で血管の壁が弱くなる、加齢や高血圧などにより動脈硬化が起こり血管の壁に弱い部分ができる、血流が当たる影響で血管の壁がもろくなど、いくつかの原因が考えられています。内頸(ないけい)動脈、脳底動脈、中大脳動脈、後大脳動脈、あるいはそれらの動脈の分枝などに起こり、血管の分かれ目など、血流がぶつかりやすく、また血管の弱い部分にできることが多いようです。

脳動脈瘤の大きさは、径2ミリ程度の小さなものから25ミリ以上の大きなものまでさまざまで、75パーセント以上は10ミリ未満です。

そのまま破裂しない状態では、脳動脈瘤自体には痛みや違和感などの自覚症状はありませんが、動脈瘤の大きさによっては何らかの症状が出ます。例えば、動眼神経の近くの内頸動脈に未破裂脳動脈瘤が発生すると、動眼神経を圧迫して片側の目が外方以外には動かなくなり、瞳孔(どうこう)が大きくなり、対光反射がなく、まぶたが下がってくる眼瞼(がんけん)下垂などの動眼神経まひの症状が起こることがあります。

未破裂の脳動脈瘤が破裂した場合には、脳の中にくも膜下出血というタイプの出血を来します。脳は外側から順に硬膜、くも膜、軟膜という3層の膜で覆われており、くも膜とその下の軟膜との間を、くも膜下腔(くう)といい、ここには脳脊髄(せきずい)液が満たされています。脳動脈瘤が破裂すると、血液がくも膜下腔に一気に流出するため、頭蓋(ずがい)内圧(頭蓋骨の内部の圧力)が上がって、激しい頭痛が起こります。

バットか金づちで殴られたような、今までに経験したことのないひどい痛みに襲われ、その頭全体に感じる痛みがしばらく続きます。頭蓋内圧が急激に上がって脳全体が圧迫されると、意識障害が起こったり、吐いたりします。重症の場合、意識障害から、昏睡(こんすい)状態に進んだまま死亡することもあります。

くも膜下出血では、半数以上の人が死亡するか社会復帰不可能な障害を残しています。

未破裂脳動脈瘤が自然に破裂して、くも膜下出血を起こす確率は、大きさや形などでも違いますが、平均して年に1パーセント程度といわれています。例えば、62歳の男性に発見された場合、平均余命が20年あるとすると、生涯でくも膜下出血を起こす可能性は20パーセントということです。

脳ドックなどの医療検査で発見された場合は、信頼できる脳神経外科医と相談してください。

未破裂脳動脈瘤の検査と診断と治療

脳神経外科の医師による診断では、MRA(磁気共鳴血管撮影)などで未破裂脳動脈瘤が疑われたら、三次元造影CT血管撮影で脳動脈瘤の大きさや形を確認します。手術のために脳動脈瘤や周囲の血管の情報がさらに必要な場合は、脳血管撮影を行うこともあります。

日本脳ドック学会のガイドライン(2008)では、1)余命が10~15年以上ある、2)動脈瘤の大きさが5~7ミリ以上、3)動脈瘤の大きさが5~7ミリより小さい場合でも、症状のあるものや特定の部位にあるもの、一定の形態的特徴を持つものという条件がそろえば、手術を勧めています。

手術は通常、頭蓋骨を切開し、こぶの根元を金属のクリップで挟むクリッピング法が行われます。近年では、血管内手術といって血管の中へ細いカテーテルを挿入し、プラチナの細いコイルを入れて動脈瘤の内側に詰める塞栓(そくせん)術を行うこともあります。

また、治療をせずに半年後、1年後などにMRAで経過をみるというのも一つの方法です。通常の手術や血管内手術も、治療後にまひや重篤な合併症を来す危険性がゼロというわけではないためです。

🇷🇴耳詰まり

耳が詰まったり、耳がこもったりする感じが生じる症状

耳詰まりとは、耳が詰まったり、耳がこもったりする感じが生じる症状。耳閉感とも呼ばれます。

耳詰まりはごく有り触れた症状で、耳がふさがれた感じ、音が耳や頭に響く感じ、さらに耳の圧迫感、軽い痛みを感じることもあり、誰でも何度か経験していることと思いますが、原因はいろいろなことが考えられます。

外から見える耳の部分から鼓膜までの外耳に原因のある耳詰まりとしては、耳垢(みみあか)が塊になって耳の穴をふさぐ耳垢栓塞(じこうせんそく)、外耳炎、水滴・髪の毛・綿棒の先端・子供ではプラスチックのおもちゃや消しゴムなどが耳の穴に詰まる外耳道異物で起こります。

鼓膜の内側から耳小骨あたりまでの中耳に原因のある耳詰まりとしては、滲出(しんしゅつ)性中耳炎で最も多く起こります。大人も風邪引き後などに滲出性中耳炎になることがあり、耳管の働きが悪くなるために耳詰まりを生じます。

そのほかの中耳疾患では、好酸球性中耳炎で高率に耳詰まりを生じます。好酸球中耳炎は喘息(ぜんそく)に伴いやすい中耳炎で、中耳に粘液がたまることにより難聴を生じます。滲出性中耳炎に似ていますが、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる感音難聴も合併しやすいので注意が必要です。

体の平衡感覚を保つ三半規管や脳に音を直接伝える蝸牛(かぎゅう)などの器官がある内耳に原因のある耳詰まりとしては、急性低音障害型感音難聴で片側、まれに両側の耳詰まりを生じます。

メニエール病の発作時にも、耳詰まりが起こります。耳鳴りやめまいを伴うのが特徴です。

耳詰まりの検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科の医師による診断では、まず問診で、耳の聞こえは悪くないか、風邪を引いていなかったか、耳に何か入れなかったか、ストレスが多くなかったかなど確認します。

次に視診で、顕微鏡を使用して耳の中を丹念に診ることにより、外耳や中耳の病変はおおよそ把握できます。外耳、中耳に異常がなければ、消去法で内耳の疾患の可能性が高くなります。中耳炎があれば、鼻の中もよく診ます。

標準純音聴力検査で、難聴の有無も調べます。もし難聴があれば、音を聴神経へ伝える外耳・中耳・鼓膜に障害が生じたために起こる伝音難聴なのか、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる感音難聴なのかを調べます。

伝音難聴であれば、滲出性中耳炎の可能性が高くなりますので、耳の穴に耳栓をして外耳道を加圧、減圧しながら鼓膜の響きやすさを調べるティンパノメトリィ検査を行います。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、耳垢栓塞や外耳道異物の場合、耳垢や異物を取り除けば耳詰まりは治ります。

外耳炎の場合、耳の消炎処置と抗生剤内服などを行います。

滲出性中耳炎、好酸球性中耳炎の場合、まずは鼓膜切開や、鼓膜の一部を切開して中耳を換気するためのチューブを入れる鼓膜チューブ留置術(チュービング)で、鼓室内の貯留液を除去します。

鼻や副鼻腔(ふくびくう)に炎症を伴っていることが多いので、鼻処置や、副鼻腔に抗生物質、ステロイド剤(副腎〔ひくじん〕皮質ホルモン)などの薬液を吸入するネブライザー療法を行い、炎症やはれを抑えます。マクロライド系抗生物質の少量長期療法や、抗アレルギー剤内服を行うこともあります。

内耳疾患で耳詰まりを生じた場合、内リンパ水腫(すいしゅ)という病態が原因のことが多いため、これを取り除くことが必要です。具体的にはストレスを避けることと、高浸透圧利尿剤の内服です。そのほかには、内耳の代謝を助けるために、ビタミンB12や、アデホスという代謝を促進する薬などを内服することもあります。

🇧🇬耳鳴り

●耳鳴りの音から病気を知る

小さい耳鳴りではあっても、背後に病気が潜んでいることもあります。鳴り方や起こり方が、その原因を知る手立てになるのです。

耳鳴りとは、外部からではない音の知覚です。ほとんどの場合、難聴を伴います。日本人の1200万人以上が何らかの耳鳴りがあり、そのうち約20パーセントの人は苦痛を伴う耳鳴りがあるといわれています。

私たち人間の耳は、20ヘルツから2万ヘルツという非常に幅広い音を聞き分けています。音を感知する細胞は、周波数によって役割分担をしています。

ところが、ある音を担当する感覚細胞が障害を受け、その音が聞こえなくなってしまうと、ほぼ同じ高さの音の耳鳴りが起こるのです。

その仕組みはよくわかっていませんが、障害を受けた細胞が異常な刺激を出し、耳鳴りになると考えられています。従って、耳鳴りの音の高さが、原因となる病気を想定する手掛かりになるのです。

●症状をチェック

【「キーン」「チー」など高い音】

日常会話では使わない高い周波数の音から聞こえにくくなるのが、「老人性難聴」。両耳に起こり、初期は「キーン」といった高音の耳鳴りがします。耳鳴りは慢性的で、進行すると低い音も聞こえにくくなります。

長期間に渡って騒音にさらされた場合の「騒音性難聴」、一時的に大きな音にさらされた時に起こる「音響性難聴」でも、高音の耳鳴りを訴えます。

【「ゴー」「ブーン」など低い音】

回転性のめまいを伴うのが、「メニエール病」。最初は低音が聞こえなくなり、時々「ゴー」、「ブーン」などの低音の耳鳴りがします。多くは片耳で起こり、めまいや耳鳴りの発作を繰り返すうちに高音も聞こえにくくなり、耳鳴りの音も変化します。

メニエール病と同じタイプの耳鳴りで、めまいはないのが「急性低音障害型感音難聴」。発作を繰り返すと、メニエール病に移行します。

【「ザー、ザー」など拍動と一致】

脈拍と一致した耳鳴りは、血液の流れる音が聞こえているもの。これは耳の近くに音源があり、増幅すれば他人も聞くことができる他覚的な耳鳴りです。

脳の動脈にこぶができる「脳動脈瘤(りゅう)」や、「脳腫瘍」などの病気が隠れている可能性もあり、長く続いたら病院へ。

【さまざまな音】

耳鳴りの音が人によりさまざまなのが、「突発性難聴」。突然、片耳に難聴や耳鳴りが起こり、めまいを伴うこともあります。繰り返すことはないものの、早めに治療をしないと難聴や耳鳴りが残ります。

「内耳炎」や「聴神経腫瘍」の場合も、さまざまな耳鳴りがします。「動脈硬化」や「糖尿病」で血管が痛み、慢性的に耳の血流が悪くなって、耳鳴りがするケースもあります。

●対策へのアドバイス

【ストレス、疲労をためない】

誰でも静かな場所にいると、耳鳴りがすることがあります。また、疲れた時に一時的に「キーン」という耳鳴りがするのも、心配はありません。

しかし、「メニエール病」や「急性低音障害型感音難聴」、「突発性難聴」などは、ストレスや疲労が引き金となるケースが多いといわれています。ですから、日頃からストレスをためないこと、睡眠を十分にとることが、予防につながります。

【急性のケースは耳鼻咽喉科へ】

メニエール病や突発性難聴など急性の病気では、安静を保つことが重要になります。入院して、薬物療法を受ける必要のあることもあります。

突発性難聴の場合、発作から2週間以上放置すると、聴力が戻りにくくなります。異常に気付いたら、早めに耳鼻咽喉科へ。

【耳鳴りが慢性化したら】

耳鳴りは気にすることでさらに大きく感じられるという、悪循環に陥りがちです。その場合、治療の中心になるのはカウンセリングなどの心理療法。気持ちをリラックスさせ、耳鳴りに気持ちが集中しないようにします。

関心のある音だけを選別し、それ以外の音を素通りさせる脳の性質を利用したのが、TRTという治療法。補聴器サイズの器具を耳に装着し、毎日、一定時間、耳鳴りより小さな音を聞き、脳が音に慣れて、耳鳴りを意識しない状態にします。心理療法だけでは苦痛が改善しない場合に、TRTは有効です。

🇭🇺耳ヘルペス

耳を中心に起こった帯状疱疹で、耳介や外耳道に痛み、水膨れが出現

耳(みみ)ヘルペスとは、耳を中心に起こった帯状疱疹(たいじょうほうしん)。耳性(じせい)帯状疱疹とも呼ばれます。

ヘルペスウイルス属の1つである水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスに乳幼児期に初感染すると、水ぼうそう(水痘)になります。全身に次々と小さな水膨れが現れ、かゆみ、発熱を伴います。水膨れは胸の辺りや顔に多くみられるほか、頭髪部や外陰部、口の中の粘膜など、全身の至る所にみられます。水膨れの数が少なく軽症な場合には、熱も38~39℃くらいで3~4日で解熱します。重症の場合には、39℃前後の熱が1週間ほど続くこともあります。

また、かゆみを伴うために引っかいてしまうと、細菌の二次感染を起こす危険性があります。水膨れが乾燥し、かさぶたになってから、2週間くらいでかさぶたはとれます。少し跡が残ることがあります。

乳幼児期に一度かかると免疫ができるため、この水ぼうそうに再びかかることはほとんどありません。しかし、水ぼうそうの原因である水痘・帯状疱疹ウイルスは、水ぼうそうが治った後も体のいろいろな神経節に潜伏しています。そして、数十年後に、疲れがたまったり、体の抵抗力が落ちたりするなど、何らかの切っ掛けにより、潜んでいたウイルスが再び暴れ出すと症状が現れます。

この場合、水ぼうそうのように全身に水膨れが現れることはなく、神経に沿って帯状に水膨れが現れる帯状疱疹として発症します。体のどこにでも帯状疱疹の症状は現れますが、胸から背中にかけてが一番多く、顔や手足、腹や尻(しり)の下などに現れることもあり、耳を中心に起こった帯状疱疹が耳ヘルペスに相当します。

耳ヘルペスを発症すると、発熱、寒けなどとともに、外に張り出している片側の耳介や、耳の穴から鼓膜まで続く外耳道に激しい痛みが現れ、数日の内に小さな水膨れができます。軟口蓋(なんこうがい)や舌など、口の中にも発生することがあります。また、顔面神経まひを伴うこともあります。

顔面神経まひのほかに、感音難聴、耳鳴り、めまいなどの内耳障害を伴うものをラムゼー・ハント症候群(ハント症候群)といいます。これは、顔面神経の膝(しつ)神経節という場所に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化し、顔面神経やその周辺の聴神経に感染して起こるものです。

片側の耳に痛みや水膨れができ、片側の顔の動きが悪いことに気付いた時には、早期に耳鼻咽喉(いんこう)科の医師の診察を受けることが勧められます。

耳ヘルペスの検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、耳や口の中などの視診により帯状疱疹の有無を調べます。水膨れ中か唾液(だえき)中の水痘・帯状疱疹ウイルスのDNAを検出するのが最も確実な診断法で、中の抗水痘帯状疱疹ウイルスIgM抗体価の上昇を確認するのも、診断の助けになります。

顔面神経まひがあれば、筋電図検査、神経興奮性検査を行って、まひの程度、顔面神経の障害部位を診断します。難聴、めまいがあれば、聴力検査、平衡機能検査、脳神経検査など通常の耳科的検査も実施し、他の脳神経に異常がないかどうかを調べます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因であることがはっきりすれば、アシクロビル製剤、バラシクロビル製剤などの抗ウイルス薬を注射します。発症から約3~4日以内に投与すれば回復が早いとされています。

これに加え、神経周辺の炎症を抑制する副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の注射か内服、ビタミンB12剤、代謝を活性化するATP剤、鎮痛薬の内服、病変部への軟こうの塗布(とふ)などを行うこともあります。

顔面神経まひには、顔面マッサージが行われます。これらの治療を行っても、顔面神経まひが治らず、発症者が希望した場合は、顔面神経減荷術という手術が行われ、まひが回復することもあります。

後遺症として、耳介や外耳道の水膨れが治った後も長期間にわたって、痛みが続く帯状疱疹後神経痛が起こることは、胸部に起こる帯状疱疹に比べて少ないといえます。

なお、水痘・帯状疱疹ヘルペスウイルスは体内の神経節に潜み、体力や抵抗力が低下した時に増殖し、発症する特徴があるので、再発を防ぐ上でも疲労、ストレス、睡眠不足を避け、免疫力を維持しておくことも大切です。

🇭🇺脈なし病

大動脈とその主要な分枝に狭窄を生じる特異な血管炎

脈なし病とは、大動脈とその主要な分枝に狭窄(きょうさく)を生じる特異な血管炎。手首の動脈の脈が触れないことがよくあるために脈なし病と呼ばれていますが、疾患の最初の報告者の名前に由来して高安(たかやす)病、あるいは大動脈炎症候群とも呼ばれています。

この脈なし病は若い女性に多く、特に日本ではかつてから頻度が高かったために、明治の末期から学者の間で注目され、1908年に欧米に報告されたものです。現在でも、日本が世界で最も発症者が多いといわれ、インド、中国などのアジア諸国でもみられるほかに、メキシコ、南アフリカなどでも少なくないようです。

日本での発症者の約9割は女性で、発症年齢は20歳代が最も多く、次いで30歳代、40歳代の順。特定疾患であり、医療費は公費負担助成の対象となります。

原因は不明ながら、自己免疫機序が関与しているという説が有力です。炎症のために、動脈にひきつれができて壁が厚くなり、内腔(ないくう)が狭くなったり、詰まったりするために起こります。

炎症が起きる場所については、主に脳や腕に血液を送る動脈に起きると、かつては考えられていました。動脈造影法といった検査技術の進歩した近年では、炎症は大動脈全体と、そこから枝分かれしている腹部の内臓や腎(じん)臓の動脈、さらには肺動脈にも及ぶことがわかっています。時には、動脈が拡張して動脈瘤(りゅう)を作ることもあります。

最初の急性期は、発熱、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、体重減少などの症状から始まることもあります。発症が潜在性で気付かないことも多く、健康診断で「脈なし」を指摘されて、初めて診断されることがしばしばあります。その後、慢性の経過をたどるようになると、動脈の炎症がどの血管に起こったかによって、さまざまな症状が現れてきます。

脳へいく血管である頸(けい)動脈が狭くなったケースでは、視力が低下したり、めまい、立ちくらみ、頭痛などが起こります。また、頸動脈を圧迫したり、上を向く姿勢をとったりすると、めまいや気が遠くなるような感じの発作が生じます。まれに、脳梗塞(こうそく)や失明などが起こることもあります。鎖骨下動脈が狭くなったケースでは、上肢のしびれ感、脱力感、冷感、重い物を持つと疲れやすいなどの症状が起こります。

腹部の大動脈が狭くなったケースでは、上下半身で血圧の著しい差がみられ、上半身は血圧が高いのに下半身では血圧が低くなります。この状態では、足の動脈に脈が触れなくなって、少し歩くとふくらはぎが張って重くなったり、痛んだりする間欠性跛行(はこう)の症状が出ることもあります。腎臓へいく動脈が詰まったケースでは、血圧を高くする物質が血液中に増えるために、高血圧になります。

脈なし病の検査と診断と治療

内科、ないし循環器科の医師による診断では、腕の動脈に狭窄があると、血圧に左右差が認められます。狭窄による血管雑音は、頸部、鎖骨上窩(じょうか)などで聞かれます。血液検査では、赤沈(血沈)高進、CRP(C反応性蛋白〔たんぱく〕)陽性、高ガンマグロブリン血症など通常の炎症反応がみられます。

X線検査では、大動脈の拡大や石灰化が認められます。血管造影検査では、動脈の狭窄、閉塞、拡張、動脈瘤などの病変部位や程度がわかり、脈なし病の診断に最も有用です。心エコーや心臓カテーテル検査では、心臓合併症の有無を調べます。

急性期には、炎症を鎮めるための副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が用いられます。CRP、赤沈を指標とした炎症反応の強さと臨床症状に対応して、投与量を加減しながら、継続的あるいは間欠的に投与します。慢性期には、血栓予防のため抗血小板薬や抗凝固薬を用います。

内科的治療が困難と考えられる場合で、特定の血管病変に起因することが明らかな症状がある場合には、外科的治療が考慮されます。頸動脈狭窄による脳虚血症状、腎動脈や大動脈の狭窄による高血圧、大動脈弁閉鎖不全、大動脈瘤などが、主な手術対象になります。

脈なし病はある程度までは進行しますが、その後は極めて慢性の経過をとるのが通常で、多くは長期の生存が可能です。しかし、脳への血流障害や心臓の合併症を生じた場合や、高血圧が合併する場合は、厳重な管理が必要になります。また、血管炎が再発することもあります。

🇻🇦ミューカスシスト

手指の先端にできる良性腫瘍で、中年以降の女性に多く発生

ミューカスシストとは、主に手指の先端の第1関節(DIP関節)の甲側、時に足趾の甲側に、水膨れのような形状の膨らみが生じる良性の疾患。指趾粘液嚢腫(ししねんえきのうしゅ)とも呼ばれます。

中年以降の女性に多くみられる傾向があります。

膨らみは直径1センチ以下のものが多く、膨らみの内部は透明なゼリー状の粘液で満たされています。

多くは膨らみを触知するだけで無症状ですが、大きくなると皮膚が引き延ばされて薄くなり、内部が透けて見えるようになったり、痛みを伴ったりすることがあります。皮膚が破れると、細菌が第1関節内に入って関節を壊し、化膿(かのう)性関節炎や骨髄炎に至る可能性があります。

また、爪(つめ)の付け根近くに膨らみが生じ、爪を作る爪母を圧迫した場合は、爪に縦方向の溝が入ったり、変形したりすることもあります。

このミューカスシストには、線維芽細胞がヒアルロン酸を過剰に分泌して、皮膚下にたまる粘液腫性型と、骨性の盛り上がりの骨棘(こっきょく)の刺激により関節内の潤滑剤として働く滑液が周囲の組織に漏れ出し、貯留して膨らみを形成するガングリオン型があります。

さらに、第1関節の変形性関節症であるへバーデン結節に伴う変形や炎症が刺激となって、ミューカスシストが合併して生じるケースも多く見受けられます。

外傷が元になって生じるケースも多く見受けられるものの、複数の指に指趾粘液嚢腫ができます。

ミューカスシストは自然に治る傾向がほとんどないため、治療の希望があれば皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは整形外科の専門医を受診します。

ミューカスシストの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、整形外科の医師による診断では、病変の見た目から判断することもよくあります。ただし、確定診断のためには、ゼリー状の粘液を注射器で吸引して顕微鏡で調べる生検を行い、ヒアルロン酸などを確認することが必要です。

このほか、小さな病変の確認や、より詳しい評価のために、X線(レントゲン)検査、超音波(エコー)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを実施するケースもあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科、整形外科の医師による治療では、健康に悪影響を及ぼすことが少ない良性疾患であり、治療を行わなければいけないというわけではありません。

膨らみが自然に消えることは少ないため、肥大した膨らみが神経や腱(けん)を圧迫して痛みがある場合や患者が希望する場合には、保存的治療、凍結療法、摘出手術のいずれかを行います。

保存的治療では、注射器でゼリー状の粘液を穿刺(せんし)吸引します。麻酔をかける必要はなく、痛みも少ないという特徴があります。しかし、根本的な治療方法ではないため、繰り返し行う必要がありますが、複数回実施することで治癒するケースもあります。粘液を吸引した後、少量のステロイド薬を注入することもあります。

凍結療法では、液体窒素を用いて、病変組織を凍結して破壊します。治療時に痛みを伴いますが、副作用は少なく安全性の高い方法とされます。

摘出手術では、局所麻酔をかけ、根治を目的として病変組織を十分に切除します。ガングリオン型のミューカスシストの場合は、病変組織が関節や腱に付着し、その根元が深かったり、小さな病変がたくさん付属していることがあるため、十分に注意を払って骨性の盛り上がりの骨棘を切除すると、治癒することが多くあります。

へバーデン結節に合併したミューカスシストの場合は、保存的治療で痛みが改善しない時や、変形がひどくなったり関節の動揺性がひどくなって日常生活に支障を来す時は、第1関節を固定する手術、骨棘と病変組織を切除する手術を行うことがあります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...