2022/08/04

🇧🇩続発性無月経

今まであった女性の月経が3カ月以上停止した状態

続発性無月経とは、今まであった女性の月経が3カ月以上停止した状態。月経がない状態を無月経といい、この続発性無月経と、生まれ付き1度も月経をみない原発性無月経とがあります。

成年の女性にある月経は、排卵があって発来します。排卵するのは卵巣ですが、卵巣から排卵させるために命令を出しているのは、大脳の下にある脳下垂体です。 脳下垂体へ指令を出しているのは、大脳の下部にある視床下部です。視床下部に始まる排卵の命令系統の中でどこかに異常があると、その下へ命令が伝わらなくなる結果、無排卵、無月経などの月経異常という症状で目に見えてきます。無月経と無排卵は無縁ではないので、続発性無月経の原因は排卵障害性の不妊症の原因ともいえます。

続発性無月経は、その程度により第1度無月経と、第2度無月経に分けることができます。月経が発来するためには、エストロゲン(卵胞刺激ホルモン)とプロゲステロン(黄体化ホルモン)の協調作用が重要になりますが、第1度無月経はエストロゲンの分泌は比較的保たれているものの、プロゲステロンの分泌に異常があって無月経となっているものをいいます。

一方、第2度無月経は、エストロゲンとプロゲステロンの両者の分泌に異常があって、無月経となっているものをいいます。第2度無月経が、程度としては重症といえます。

>その原因によって、続発性無月経は視床下部性無月経、下垂体性無月経、卵巣性無月経、多嚢胞(のうほう)性卵巣症候群、子宮性無月経に分けることもできます。

視床下部性無月経は頻度の高いもので、視床下部機能が障害された結果、エストロゲンとプロゲステロンを主とするゴナドトロピン(性腺〔せん〕刺激ホルモン)の分泌異常を起こして、無月経になるものです。全身衰弱による生理機能低下や、ストレスなどによる心因性の無月経、摂食障害による神経性食欲不振症に伴う無月経、急激な体重低下による減食性無月経などがあります。向精神薬などの副作用による無月経、原因がはっきりしない場合の無月経も、多くは視床下部性無月経です。

下垂体性無月経は、脳下垂体から分泌されているゴナドトロピンに異常を起こして、無月経になるものです。脳下垂体腫瘍(しゅよう)による高プロラクチン血症が、狭義の下垂体性無月経に相当します。出産中や産後に輸血が必要となるくらいの大出血があると、脳下垂体の血流が悪くなって機能が低下し、結果的に無月経となることもあります。 出血による脳下垂体の機能低下は、シーハン症候群と呼ばれます。

卵巣性無月経は、卵巣に原因があって無月経、無排卵となるものです。頻度は低いものの、卵巣腫瘍などの外科的な治療や、抗がん剤による治療などの後に発生することもあります。

多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣にたくさんの卵胞が発育するために無月経、無排卵となるものです。頻度も高く、不妊症の重要な原因にもなっています。子宮性無月経は、子宮内膜の炎症や外傷による子宮内膜機能の欠損、子宮内腔(ないくう)の癒着などによって、無月経になるものです。頻回の人工妊娠中絶手術などで、子宮内膜が委縮して発生することもあります。そのほか、異所性ホルモン産生腫瘍などによる無月経などもあります。

続発性無月経の症状としては、月経停止以外に症状のないことが多いものの、急激な体重減少、強い精神的ストレスなど、切っ掛けとなっている変化がみられることがあります。高プロラクチン血症では乳汁の漏出がみられ、脳下垂体腫瘍が原因で高プロラクチン血症となっている場合は、頭痛、視野狭窄(きょうさく)などの症状が現れることがあります。

なお、続発性無月経は、病的なもの以外にも妊娠、授乳、閉経などの生理的な変化による場合も含んでおり、注意が必要です。

続発性無月経の検査と診断と治療

月経は女性の全身的健康のバロメターですので、続発性無月経が3カ月以上続けば、婦人科、ないし産婦人科の専門医を受診する必要があります。長期間放置すると、第1度無月経が第2度無月経に移行して重症化し、治療がより困難になる場合もありますので、早期受診を心掛けます。

無月経の期間がそれほど長くない場合は、基礎体温の計測を数日から数週間に渡って行い、受診時にグラフに記載したものを持参します。そのほか、体重の変化などにも注意した上で受診します。

医師の診察では、まず妊娠などの生理的無月経でないことを確認します。いつから無月経になっているか、記録を確かめます。無月経の原因がどこにあるか見極めるためには、血液検査によるホルモン検査、ホルモン負荷試験などを行い、原因があるのが視床下部か、脳下垂体か、卵巣か、子宮かを診断します。

産婦人科的な内診や経膣(ちつ)超音波検査などで、子宮や卵巣の大きさや腫瘍の有無もチェックします。高プロラクチン血症があり脳下垂体腫瘍などが疑われる時は、MRIなどの画像診断も行われます。

治療は、原因によって異なるばかりでなく、それぞれの受診者の目標とする到達点によって異なります。すなわち、月経を起こすことを目標とするのか、さらに進んで妊娠の成立を目標とする治療を望むのかという点によって、異なるわけです。ただし、原因によっては妊娠の成立が極めて難しい場合もあります。

月経を起こす治療には女性ホルモン製剤、妊娠を成立させる治療には排卵誘発剤の使用が基本です。第1度無月経の場合、女性ホルモン製剤のゲスターゲン(プロゲストーゲン)の投与で消退出血を起こすか、排卵誘発剤のクロミフェンの投与で排卵誘発を行います。第2度無月経の場合、女性ホルモン製剤のエストロゲンとゲスターゲン(プロゲストーゲン)の投与を行います。

このほか、漢方薬、プロラクチン降下剤、手術、精神的な理由ならカウンセリング、無理なダイエットや肥満なら食事療法などを、原>因や症状に応じて適宜組み合わせて治療します。

🇦🇷続発性緑内障

ほかの目の疾患などが原因となって、眼圧が上昇するタイプの緑内障

続発性緑内障とは、何らかの目の疾患などが原因となって、眼圧が上昇するタイプの緑内障。一般に、眼圧が上昇することによって視神経が侵され、視野が狭くなったり欠けたりします。

原因は多岐に渡り、ぶどう膜炎、角膜炎などの目のほかの疾患、糖尿病などの全身の疾患、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)などの薬剤、目の外傷、白内障などの手術の影響などが挙げられます。

目のほかの疾患、糖尿病が原因の続発性緑内障では、網膜症の悪化により酸素が行き渡らなくなるために、眼内液の房水(ぼうすい)の排出口に当たる前房隅角(ぐうかく)に、新生血管という新しい血管が延びてくることで眼圧が上昇します。

ぶどう膜炎の炎症、水晶体の亜脱臼(だっきゅう)、眼球内の悪性腫瘍(しゅよう)や網膜剥離(はくり)などの手術の影響が原因の続発性緑内障では、どれも原因となる疾患によって虹彩(こうさい)が押し上げられ、前房隅角が閉塞(へいそく)することにより、眼圧が上昇します。

薬剤が原因の続発性緑内障では、例えばアレルギー性結膜炎や角膜炎に対しての治療で、ステロイド剤の点眼や内服を長期間連用した際に、眼圧が上昇します。起こしやすい素質のある人は、人口のおよそ4パーセントといわれ、決して少なくはありません。

目の外傷が原因の続発性緑内障では、眼球を強く打った後しばらくしてから、虹彩の付け根が眼球壁から外れ、前房隅角より先にある房水の排水路である線維柱帯の機能が悪くなって、眼圧が上昇します。

また、高齢者に多くみられる続発性緑内障の一つとして、水晶体嚢性(のうせい)緑内障があります。片目ないし両目の水晶体、虹彩、隅角などに、フケのような白い物質である偽落屑(ぎらくせつ)が沈着し、しばしば高眼圧を伴います。

続発性緑内障の検査と診断と治療

続発性緑内障は原因となる疾患の種類によって治療法が異なりますので、視野が狭くなる、目が重い、目が疲れる、軽い頭痛がする、肩が凝るといった自覚症状があれば、眼科医の診察を受け、早期の治療で進行を食い止めます。

医師は、視力検査、視野検査、眼圧検査、眼底検査などを行い、充血や炎症を判断し、原因となる元の疾患、合併症についても検査します。

治療としては、原因となっている疾患の治療と、眼圧を下降させるために薬物療法、レーザー治療、手術療法を適宜行います。薬剤としては、局所に投与する点眼剤(縮瞳剤)や全身に作用する炭素脱水酵素阻害剤やグリセリンを用い、房水圧の抑制によって眼圧を下げます。

ぶどう膜炎が原因の場合はステロイド剤による消炎、新生血管が原因の場合は網膜へのレーザー治療や手術、水晶体が原因の場合は白内障手術などが必要です。また、水晶体嚢性緑内障では、レーザー治療が有効であることが知られています。原因となる疾患が鎮静化せず、高眼圧が続く時は、降圧のために緑内障手術治療も必要になります。

ステロイド剤が原因の場合は、その投与を中止すると、数日で眼圧は正常に戻ります。しかしながら、一度枯れた視神経は元には戻りませんので、ステロイド点眼薬を使用する際は、1カ月以上連用しないことが最も大切です。アレルギー性結膜炎や角膜炎などの治療のために、この目薬を渡される際には、医師から点眼の量、回数、期間などの注意、眼底検査の必要性、副作用などについて十分な説明があるはずですから、厳重に守るようにします。

緑内障は早期発見、早期治療を行えば大事には至りませんが、眼圧を常に上手にコントロールしていかなければならない疾患で、眼科医と一生付き合っていかなければなりません。つまり、眼圧をコントロールする点眼薬や内服薬を医師の指示通りに使用し、定期的に眼圧などの検査を受けます。

日常生活では、コーヒー、アルコール類、お茶などの刺激物や水分の取り過ぎに気を付け、目を疲れさせないようにし,血液の循環をよくするために過度の喫煙をやめ、便通もよくするよう気を付けます。加えて、首を圧迫するような服装は避け、ストレスのたまらない生活を送るように心掛けます。

🇩🇴側副靱帯損傷

膝の内側と外側にあって、関節の横ぶれを防いでいる側副靱帯が損傷、断裂した状態

側副靱帯(そくふくじんたい)損傷とは、膝(ひざ)の内側と外側にあって、関節の横ぶれを防ぐ役目をしている側副靱帯が損傷、断裂した状態。

側副靱帯はすじ状の繊維性結合組織で、大腿骨と下腿骨の脛骨(けいこつ)および腓骨(ひこつ)とを連結しています。

スキーやサッカーなどのスポーツで急激な反転、方向転換をした時に、下腿が無理に内側や外側へ曲げられて起こります。この側副靱帯の損傷は、内側に多く、外側の受傷は比較的まれです。

損傷を受けると、階段を降りる時や歩行などの時に膝がグラグラして、安定しなくなります。断裂すると、断裂部の圧痛と腫脹(しゅちょう)、膝を軽く屈曲した位置で側方へ動揺する不安定性をみます。

整形外科医の診断では、膝の不安定性を検査します。この場合、麻酔下で、痛みのために起こる筋肉の防御的緊張を取り除いた状態で行うと、はっきりします。不安定性の程度によって、痛みのみで不安定性はない1度、膝を伸ばした状態、伸展位で不安定性はないが、30度ほど屈曲すると認められる2度、伸展位で不安定性を認める3度に分類されています。

側副靱帯単独の損傷のことが多いのですが、3度の不安定性がある場合は、前十字靭帯損傷を合併している可能性があります。そのほか、X線撮影、関節造影、MRI、関節鏡などの所見を総合的に判断して、診断します。

内側の側副靱帯の損傷の場合、損傷の程度により2週間から4週間、弾性包帯、ギプス、固定装具による安静固定を行います。痛みや炎症の強い時期は、冷湿布などで冷やします。

内側の側副靱帯の単独損傷では、しっかりした固定とリハビリによって、回復することも多くみられます。しかし、しっかりした固定をしないと、痛めた靱帯が伸びた状態で修復され、膝関節が不安定な状態となり、痛みや腫(は)れも慢性化するケースがあります。慢性化した場合は、サポーターなどによる固定をしたり大腿四頭筋の強化訓練をして、膝関節がグラグラしないように安定させる必要があります。

また、完全に靱帯が断裂している重症のケースでは、膝関節の不安定性が大きくなるために手術を要することもあり、靱帯縫合術、靱帯再建術を行います。前十字靱帯の損傷と合併している場合も、その不安定性が大きく、スポーツや重作業に復帰するには手術をしたほうが予後も良好のようです。

外側の側副靱帯の損傷の場合も、損傷の程度により2週間から4週間、ギプスなどによる安静固定を行います。炎症や痛みの強い時期は、冷湿布などで冷やします。

スポーツや事故による損傷では、外側の側副靱帯の単独損傷を発生するケースはほとんどみられず、十字靱帯損傷や、膝裏の筋肉である膝窩(しっか)筋損傷、膝関節の中の軟骨である半月板損傷に合併して生ずることが多いため、固定期間や安静期間は、専門医の判断に委ねるべきです。

単独損傷では、後遺症として関節の不安定性が起こる場合は少なく、また不安定性を起こしても内側の側副靱帯と比較して、その動揺の程度は小さく回復も良好ですが、複合靱帯損傷では、多くが強固な靭帯修復術が必要になります。

🇩🇴側湾症

背骨がねじれを伴って側方に曲がる疾患

側湾症とは、脊椎(せきつい)、すなわち背骨がねじれを伴って側方に湾曲する疾患。脊椎側湾症、脊柱側湾症とも呼ばれます。

人間の脊椎は7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。正常な脊椎は前あるいは後ろから見ると、ほぼ真っすぐに伸びているものですが、側湾症の場合には、脊椎が側方、すなわち横方向に湾曲し、脊椎のねじれも加わっています。

湾曲のパターンは主に、3つに分けられます。胸椎を中心に曲がる胸椎カーブ、腰椎を中心に曲がる腰椎カーブ、そして、胸椎と腰椎の間で曲がる胸腰椎カーブです。

側湾症は痛みを伴うことはまれなため初期における発見は難しく、ある程度進行してから気付く場合が多くみられます。肩や腰の高さが左右で違うなどの外見上の問題のほか、高度の湾曲になると、腰背部痛に加え胸の圧迫と変形による呼吸器障害、心臓の圧迫による循環器障害など内臓にも影響を及ぼしたりします。

日本では、乳幼児の健康診査や学校の健康診断で脊椎検査が行われており、1980年(昭和55年)年ごろよりモアレ式体型観察装置を用いた撮影による検診(モアレ検査)が普及し、早期発見が可能になりました。

側湾症のうち、原因のわからない特発性側湾症が80~90パーセントを占めています。発症時期により、0歳~3歳に発症する乳幼児側湾症、4歳~10歳に発症する学童期側湾症、10歳以降に発症す思春期側湾症に細分され、多くが思春期側湾症であることから、小学校4年生から中学校3年生までの間が特に注意が必要とされ、男子の5~7倍と女子に多く発症します。

曲がりの角度が10度以上の人は女子の2〜3パーセントにいるとされ、軽症なら疾患ではなく単なる骨格の特徴と考えられていますが、成長とともに徐々に進行することもあり、角度が20度以上になると注意が必要です。原因は不明ですが、遺伝も一部関連しているようです。

原因の特定ができている側湾症としては、先天的または発育段階に生じた脊椎の異常によって発症する先天性側湾症のほか、脳や脊髄の異常によって発症する神経原性側湾症、筋肉の異常により正常な姿勢を保てないことによって発症する筋原性側湾症、神経線維腫(しゅ)症(レックリングハウゼン病)による側湾症、間葉系疾患であるマルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群などによる側湾症、さらに外傷性側湾症、その他の原因による側湾症が挙げられます。

側湾症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、身長、体重の測定に始まり、肩の高さが左右同じかどうか、背中側から見て肩甲骨の高さに左右差はないか、骨盤の傾きはないか、深くお辞儀をした格好で肩や肩甲骨の高さに左右差は出ないか、という4つのチェックポイントを中心に、外観上の骨格の変形を調べます。

特発性側湾症では、出っ張った側の肋骨(ろっこつ)が盛り上がっているのがはっきりわかります。皮膚にコーヒー色の色素斑(はん)や硬い盛り上がりがあれば、神経線維腫症(レックリングハウゼン病)が原因で側湾が起こったと見なします。神経線維腫症は、脳神経や脊髄神経および皮膚の末梢(まっしょう)神経に腫瘍(しゅよう)が発生する遺伝性の疾患で、皮膚に色素が沈着するのが特徴です。

側湾の状態を正確にみるためには、X線(レントゲン)検査を行い、いろいろな姿勢でさまざまな角度から、頸椎から骨盤までを長いフィルムで撮影します。また、コブ法という方法で、側湾の度合を測り、脊椎の回旋の状態、矯正の可能性なども、各種の計測によって調べます。

X線検査と計測は一定期間ごとに行い、側湾の進行、矯正治療の効果などを観察します。特発性側湾症の場合は、骨の成長が終わる18歳ごろまで半年から1年に1回、X線検査と計測を行います。

整形外科の医師による治療では、コブ法による計測で20~50度の側弯症は、一般に脇(わき)から腰までを覆う矯正装具を身に着け、側湾症体操を毎日欠かさず行うことで、曲がった脊椎を矯正します。矯正装具による治療は、骨の成長が終わる18歳ごろまで続け、3~4カ月ごとに側湾の状態と装具の適合性をチェックしたり、状態に応じた側湾症体操の適応を検討しながら進めます。

また、牽引(けんいん)療法やギプスなどにより、側湾の矯正と進行の防止を行うこともあります。

コブ法による計測で50度以上に進んだ強い側湾は、一般に手術による治療が必要になります。手術の目的は、主として、側湾の進行防止、肺の機能障害が出ている場合の悪化防止、著しい変形に対する美容上の矯正などです。腰背部痛を起こしている場合や、神経性の疾患を合併している場合などにも、手術を行うことがあります。

手術は、牽引やギプスによって可能な限り矯正してから行い、背中などを切開して背骨にボルトを入れ、金属の棒でボルトをつなげて固定します。手術後の安静期間を含めると、3〜6カ月の長期間にわたる入院が必要になります。

🇬🇩鼠径ヘルニア(脱腸)

足の付け根などから腸などの臓器が脱出した状態

鼠径(そけい)ヘルニアとは、足の付け根の特に内側の部分や下腹部から、腸などの臓器が脱出した状態。俗に脱腸とも呼ばれます。

おなかを覆う腹膜が弱いことが原因になって、腹筋の圧力で臓器が脱出します。先天性(若年性)と後天性のものがあります。

男性の場合、脱出した臓器は主に陰嚢(いんのう)に飛び出るため、袋が大きく膨らみます。女性の場合、または男性でも部位によっては、下腹部にポコッとした膨らみができます。膨らんだ部分によって、鼠径ヘルニアは細かく外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿(だいたい)ヘルニアに分けられます。

体の中の至る所にできるヘルニアの中で最も多いのが外鼠径へルニアで、大部分は小児期、特に乳幼児期に発生し、右側、左側、そして両側の順に多く、男女比は4対1です。乳幼児の場合は、泣いた時、入浴させた後、おむつを取り替える時などに気付きます。

胎児の段階で、袋状になっている腹膜鞘状(しょうじょう)突起というものが形成され、成長に従って陰嚢に下がってきて、本来であれば袋の口がふさがります。生まれ付き、袋の口がふさがっていなかったり、ふさがっていても不十分だったりすることが、先天性鼠径ヘルニアの原因になります。

生後1年以内で自然に治る可能性がありますが、年を加えるにつれて、その可能性は少なくなります。また、学童期に近付いて運動が激しくなるにつれて、症状が著明になります。

後天性鼠径ヘルニアは高齢者にみられ、加齢することで腹膜や筋肉が弱るために、小腸などの臓器が鼠径部分に脱出してきます。たいてい脱出する穴であるヘルニア門が非常に大きく、ヘルニアの内容部が大きく袋状に突き出ます。 起こしやすいのは、ふだんから立って作業することが多い人や、重い荷物を持ち上げることの多い人、便秘気味でトイレで気張る人、妊婦、せきやくしゃみをよくする人、太った人など。

当初のうちは、腹に力を入れると下腹部に軟らかい膨らみを感じる程度で、手で押したり、横になってリラックスすれば簡単に引っ込のが普通です。しかし、何回も繰り返していくうちに、ヘルニア門が広がってきて突き出す部分が増え、痛みや便秘などの症状を伴うことになります。

まれに、臓器の突き出した部分がヘルニア門で締め付けられて戻らなくなってしまうことがあります。これを嵌頓(かんとん)ヘルニアと呼び、締め付けられた状態が長期に及ぶと、血流の流れが妨げられて、腸が腐る壊死(えし)に至ることがあり、激しい痛み、嘔吐(おうと)などの腸閉塞の症状が出現します。

鼠径ヘルニアの検査と診断と治療

大人の鼠径ヘルニアの場合、放置していると悪化していく一方で、嵌頓ヘルニアにもなりやすいので、早めに消化器科、外科を受診します。鼠径ヘルニアは見た目で気付きやすいので、乳幼児の場合も早めに受診します。

生後1年以内で自然に治る可能性がある乳幼児の鼠径ヘルニアの治療としては、ヘルニアバンドによってヘルニア内容物の脱出、増大を防ぎます。乳児ではヘルニアバンドをしているだけで自然に治る可能性があります。

年長児や大人の鼠径ヘルニアの治療としては、一応、臓器が突出しないようにヘルニアバンドで抑える方法もありますが、常時装着しておく必要があるなど通常生活にかなりの負担を強いることになり、早いうちに手術を受けることが勧められます。

手術は大きく分けて、従来法の手術(バッシーニ法)、腹腔(ふくくう)鏡下手術、メッシュ法の3種類が行われます。

従来法の手術は、腸管などの出てくる穴を周囲の筋肉を寄せて縫い合わせてふさぐ方法。入院が1週間と長い、術後に痛みがある、再発率が15パーセントと高いなどの問題があって、今はそれほど行われない手術法です。

腹腔鏡下手術は、腹部に小さな穴を3カ所開けて、モニターを見ながら手術を行う方法。脱出部に、腹腔内からポリプロピレン製のメッシュで閉鎖固定をして補強します。手術時間が1時間と長いというデメリットがある。

手術の主流となっているのは、メッシュ法。全世界の鼠径ヘルニア手術の90パーセントを占め、日本でも85パーセントを占めています。再発率が3パーセントと低い、手術時間が15~20分と短い、局所麻酔で行える、手術創が3~4センチと小さくて痛みが軽いなどのメリットがあります。

メッシュ法の中のメッシュ&プラグ法では、脱出した小腸などを押し戻して穴にふたをするように、ポリプロピレン製のバドミントンの羽根のような形のプラグを入れ、さらに、鼠径管内にメッシュシートを入れて補強し、皮膚を縫合します。メッシュ法にはこのほか、リヒテンシュタイン法、クーゲル法、PHS(プロリン・ヘルニア・システム)法などがあります。

鼠径ヘルニアは、立ち仕事の人、重い荷物を持ち上げることの多い人、せきをよくする人、妊娠している人、便秘症の人、太っている人がなりやすいといわれています。その点から、食生活で行う予防方法は以下の3点です。

野菜を積極的に摂取。野菜は葉物と根の物をバランスよく、また赤、黄、緑、白など色合いも考えて1日350グラムは取るようにすると、肥満予防に結び付きます。

食物繊維を十分に摂取。今日の日本人の食物繊維摂取量は1日平均15グラムですが、1日平均20~25グラムにします。そのために、豆類、海藻類、キノコ類、山菜類を積極的に取ると、バナナのような健康的な硬さの便になります。

ヨーグルトやオリゴ糖を摂取。腸内の善玉菌であるビフィズス菌はヨーグルトで増え、オリゴ糖はビフィズス菌のエサになります。善玉菌が優位になると便秘知らずに。

🇬🇩スキルス胃がん

胃の壁全体が硬くなる胃がんで、胃がんの中で発見が非常に難しいタイプ

スキルス胃がんとは、胃の壁全体が硬くなる胃がん。スキルスとは、硬いという意味です。

スキルス胃がんは、胃の粘膜面から隆起することなく、がん細胞が粘膜の下をはうように広がっていきます。そのため、粘膜が荒れるために出てくる胃炎や胃潰瘍(かいよう)のような症状にも乏しく、初期では自覚症状がほとんどないのが特徴です。発見された時には、がん細胞が胃の粘膜の下で胃全体に広がっていることがしばしばあり、治療成績がよくない原因になっています。

通常、がんは、粘膜面に発生します。胃がんなら、胃の粘膜に最初の兆候が現れ、発生したがん細胞は、浸潤といって周囲の細胞に染み込むように広がるとともに、増殖して塊を作ります。この過程で、胃の粘膜から出血したり、胃潰瘍などの症状が出ることがあります。

通常は、がん細胞の塊は粘膜面から隆起する形で出てきますので、内視鏡検査(胃カメラ)や胃X線造影(胃バリウム)検査での早期発見が可能ですし、内視鏡下胃粘膜切除術など胃カメラによる治療も可能で、治療成績の向上につながっています。

現在、スキルス胃がんは、胃がん全体の10パーセント程度を占めます。特徴としては、男女比2対3と女性に多いこと、ほかの胃がんに比べて発症年齢が3~4歳低く、特に女性にその傾向が強いことが挙げられます。

卵巣から分泌される女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の関与や、スキルス胃がんに特有な遺伝子変化も徐々に解明されてはいますが、詳しい発がんの過程はわかっていません。ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の関与は、胃がん全体の90パーセント程度を占める分化型腺(せん)がんよりは低いものの、関連はあると考えられています。

スキルス胃がんの初期症状は、何となく食欲がない、胃がもたれるといった一般的な症状が多く、特有の症状はありません。病状が進行してくると、胃全体が硬くなり、食物をたくさん受け入れられなくなるため、食欲不振や体重減少が起こってきます。

また、胃の内側から外側に向かってがん細胞が広がった結果、胃を覆っている膜を越えると、腹膜播種(はしゅ)といって腹部全体にがん細胞が散らばるケースがあります。この腹膜播種の場合には、下痢止めや便秘薬ではあまり改善されない下痢や便秘の症状がみられるようになります。

食欲不振、体重減少、便通異常といった自覚症状や、喫煙、過度の飲酒といった生活習慣、がん家系など少しでも気になることがある場合には、まずは、内科を受診することが勧められます。

スキルス胃がんの検査と診断と治療

内科、外科、消化器科の医師による診断では、ほかの胃がんと同様に、内視鏡検査(胃カメラ)と胃X線造影(胃バリウム)検査を行います。

進行したスキルス胃がんの場合は、診断は容易です。胃の一部に病変が限られている比較的初期のスキルス胃がんの場合は、がん細胞が胃の粘膜の下で増殖するために粘膜面の変化が乏しく、胃に細いファイバースコープを挿入し、患部を直接観察する内視鏡検査(胃カメラ)では、なかなか発見されにくいケースもあります。

比較的多いのは、バリウム(造影剤)と発泡剤を飲んで、胃全体の形や動きを観察する胃X線造影(胃バリウム)検査で、胃の壁が硬くなっているために、胃の動きが通常と違うことが確認され、早期発見につながるというケースです。

また、腹膜播種によって腹水が発生していて、CT(コンピュータ断層撮影)検査や腹部超音波(エコー)検査で発見されるケースや、肝臓や肺への転移巣が先に見付かって、いろいろ調べていく過程で発見されるケースもあります。

内科、外科、消化器科の医師による治療では、ほかの胃がんと同様に、手術、抗がん剤治療、放射線療法の3大療法を組み合わせ、がんの進行度に合わせて施していきます。

ほかの臓器に転移がないと判断された場合は、まず手術を行いますが、胃での広がりが進んでいる場合は、先に点滴や内服薬での抗がん剤治療を行ってから手術を予定するケースもあります。

腹膜播種の場合は、手術が難しく、手術でがん細胞を切除できたとしても、5年生存率は10パーセント程度で、予後は不良です。

🇧🇧スキンタッグ

首や胸、わきの下などにできる細かい、いぼ状の良性腫瘍

スキンタッグとは、首や胸、わきの下などにできる細かい、いぼ状の良性の腫瘍(しゅよう)。アクロコルドンとも呼ばれます。

感染性はなく、皮膚の老化や体質でできるもので、中年以降に多く発生し加齢とともに増えてきますが、早ければ思春期のころから見られます。特に更年期を過ぎた女性や、肥満者に好発します。

首、胸、わきの下、鼠径(そけい)部、しりなどの摩擦を受ける個所で、皮膚の角質が増殖して少し飛び出すために、直径1~3ミリの軟らかい腫瘍ができます。中には5ミリを超える大きい腫瘍ができることもあります。

一つだけできる場合も、数え切れないくらいたくさんできる場合もありますます。色は、肌色から褐色調、黒色調のものがあります。

首やわきの下など多発するものをスキンタッグないしアクロコルドンスキン、体幹に単発するものや直径約1センチの大きなものを軟性線維腫(しゅ)ないし線維性軟疣(なんゆう)、これがさらに巨大になり皮膚面から垂れ下がるようになったものを懸垂性線維腫と呼んで、厳密に区別することもあります。

スキンタッグなどの腫瘍は線維や脂肪からできていて、皮膚が盛り上がったり垂れ下がったりするものの、痛みやかゆみはありません。かゆみがある場合も軽度です。

がん化するなど特に心配な疾患ではありませんが、衣類やアクセサリーでこすれて炎症を起こすことがあります。年齢とともに徐々に増大するため、年を取ると目立ってきます。

目立って外見が悪い、衣服の脱着時に引っ掛かって出血するという場合は、皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科の医師を受診することが勧められます。

スキンタッグの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科の医師による診断では、特に検査は行いません。

皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科の医師による治療では、塗り薬や食生活の改善で完治させるのは難しいため、一般的には、小さいものならば、麻酔シートを張ってから電気メスで焼灼(しょうしゃく)します。中程度の大きさのものは、まず-200℃近い超低温の液体窒素で冷凍凝固して小さくした後、電気メスで焼灼します。大きいものは、メスで除去します。

腫瘍の数が多い場合は、液体窒素療法を何度か繰り返します。1~2週間後に、かさぶたになります。かさぶたはかなり色が濃く、治療後はかなり目立つこともありますが、自然に脱落し、半年くらいすると赤みもひいて、きれいになります。

日常生活でできるスキンタッグを作らない心掛けとしては、首にも一年中日焼け止めを塗る、首も顔同様のスキンケアをする、首に密着するネックレスは極力つけない、首回りに刺激を与える服は避けるなどが挙げられます。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...