2022/08/05

🇨🇺デュプイトラン拘縮

主として薬指や小指が次第に曲がって変形する疾患

デュプイトラン拘縮は 手のひらや指の腱膜(けんまく)の肥厚と収縮によって、主として小指や薬指が次第に曲がって変形する疾患。この疾患名は詳しく調べたフランスの外科医ギョーム・デュプイトラン男爵(1777〜1835年)に由来しており、デュプイトラン病、デュピュイトラン拘縮とも呼ばれます。

日本人には比較的少ないものの、中年すぎの50~60歳での発症が時々みられ、5対1の割合で男性に多く、半数以上は両手に起こります。

北欧系の白人に多く黒人に少ないため遺伝的な素因が疑われていますが、はっきりした原因はまだ明らかにはなっていません。長期に渡るアルコール依存、抗てんかん薬(バルビタール)常用が危険因子の一つとされ、糖尿病、頸椎(けいつい)症、ペロニー病(陰茎形成性硬結症)などに合併して起こると指摘されています。一説には、手掌(しゅしょう)腱膜への小外傷の繰り返しで生じるのではないかと考えられています。

指が曲がって伸ばせないという状態は関節の疾患によっても起こりますが、デュプイトラン拘縮では皮膚の下にある線維性の手掌腱膜に病的な硬いしこり(結節)が生じて、しこりの数と大きさが増し、これが索状に指へと広がって、指の皮膚や腱を覆う腱膜までつながります。この索状物は弾力性がなく、指の皮膚が引っ張られるため、皮膚が引きつれ指が曲がります。この際、指の神経や血管を螺旋(らせん)状に巻き込んでいく場合もあります。

病的な索状物の広がり方により、指の根元が曲がる場合、第2関節が曲がる場合、両方とも曲がる場合があります。小指や薬指、中指に起こりやすく、人差し指や親指は程度の軽いことが多いと見なされています。

時に軽く痛むこともありますが、ほとんどは痛みを伴いません。進行すると指が伸びないために、洗顔などの際に指がじゃまになったり、指を引っ掛けやすい、両手を合わせにくい、大きな物を持ちにくいなどの生活上の支障が生じます。指を曲げる屈筋腱を始め手指の腱は影響を受けず、握力の低下は原則的には起こりません。指の第2関節が曲がった状態が長く続くと、関節自体の拘縮が起こります。

足底腱膜や陰茎の皮下に、同じようなしこりができることもあります。症状に気付いた際は、整形外科の医師にご相談下さい。

デュプイトラン拘縮の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、小指、薬指の手のひらの部分に皮下結節があり、典型的な指の変形、皮膚の引きつれがみられれば確定できます。ただし、腱の断裂や癒着、腫瘍(しゅよう)などのほかの疾患と区別する必要があります。診断の際には、足の裏の所見にも注意します。特別な検査は、ありません。

指の変形が軽いうちは、手指を伸ばす装具を着けて矯正できることがあります。

指の根元の曲がりが強く、動きにくくなって日常生活に支障を来すようになると、薬物療法や注射は治療効果がないため、手術が必要となります。おおよその手術の適応は、手のひらを机にピッタリ着けられるかどうかを試し、浮いてピッタリ着かなくなったころと考えられます。

一方、第2関節が曲がってきた場合には、関節自体の拘縮も生じやすく、進行してから手術をしても関節可動域が完全に改善しないこともあるので、早めの手術が必要になります。

手術では、厚くなった手掌腱膜を切除します。皮膚自体も短縮しているので、皮膚をジグザグに切開して縫い直すZ形成術などを同時に行い、皮膚を延長します。皮膚移植を行う場合もあります。

皮膚の壊死(えし)や、指の神経血管束が硬縮した結節に巻き込まれている場合、手術後に指の知覚障害を生じることがあります。また、ごくまれに複合性局所疼痛(とうつう)症候群を合併することがあります。

手術後には、リハビリや、装具による夜間伸展位固定などの後療法が行われます。手術後の拘縮の程度により、1〜3カ月程度のリハビリが必要なこともあります。

🇨🇺デュプレー病

石灰化したカルシウムが肩腱板内に沈着することで炎症が生じ、肩の痛みが起こる疾患

デュプレー病とは、石灰化したカルシウムが肩腱板(かたけんばん)内に沈着することにより炎症が生じ、肩の痛みが起こる疾患。石灰沈着性腱板炎、肩石灰沈着性腱炎、石灰沈着性腱炎、石灰性腱炎とも呼ばれます。

デュプレー病という疾患名は、最初に報告したフランス人のデュプレーにちなみます。

肩腱板は肩関節で上腕を保持している筋肉と腱の複合体であり、肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。

デュプレー病は、40歳代から60歳代の女性に多く発症します。肩を強く打つなどの思い当たる切っ掛けもなく、片側の肩の激しい痛みを夜間などに突然、覚えます。急激に痛みが増してきて、睡眠が妨げられるほどになります。また、肩の痛みのため可動域の制限がみられ、肩の挙上ができなくなります。

強い症状が発症後1~4週みられる急性型、中等度の症状が1~6カ月続く亜急性型、運動時痛などが6カ月以上続く慢性型があります。慢性型では、急性期の激痛が消失した後にも肩関節の硬さが残って、関節の可動域の低下を起こし、肩関節周囲炎(五十肩)と同じような状態になります。

石灰化したカルシウムはリン酸カルシウムの結晶で、その肩腱板内への沈着は、肩腱板の加齢による変性と、女性ホルモンの分泌減少の影響によって起こると考えられています。

体内のカルシウムは腸で吸収されて、骨を丈夫にするために使われ、不要な分のカルシウムは尿とともに排出されて、常に一定量が体内に残るようにバランスがとられています。しかし、女性では30歳代をピークに、徐々に骨量が落ちてきます。女性ホルモンの分泌減少に伴って、破骨細胞の働きが増し、骨の代謝のバランスが崩れて、骨からたくさんのカルシウムが血中に放出される結果です。

その放出されたカルシウムの多くは尿とともに体外に放出されますが、一部は腱や靭帯(じんたい)、血管壁に沈着していくことになります。腱の中に沈着する石灰化したカルシウムに対して、体は異物と認識して反応するために炎症が生じ、痛みが起こることになります。

石灰化したカルシウムは当初、濃厚なミルク状で、時がたつにつれ、練り歯磨き状、石膏(せっこう)状へと硬く変化していきます。石灰化したカルシウムがどんどんたまって、膨らんでくると、痛みが増してきます。そして、肩腱板から関節の周囲にある滑液包内に、石灰化したカルシウムが漏れ出す時に激痛となります。

デュプレー病の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、肩の圧痛の部位や肩関節の動きの状態などを調べ、肩関節周囲炎(五十肩)の症状とよく似ているため、X線(レントゲン)撮影によって肩腱板部分に石灰化したカルシウムの沈着を確認することによって、デュプレー病(石灰沈着性腱板炎)と確定します。

石灰沈着の位置や大きさを調べるために、CT(コンピューター断層撮影)検査や超音波検査なども行います。肩腱板断裂の合併を調べるために、MRI(磁気共鳴画像)検査も行います。

整形外科の医師による治療では、急性例では、激痛を早く取るために、肩腱板に注射針を刺して沈着した石灰化部分を破り、ミルク状の石灰を吸引する方法がよく行われています。三角巾、アームスリング(腕つり)などで安静を図り、消炎鎮痛剤の内服、水溶性副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)と局所麻酔剤の滑液包内注射などが有効です。

一般に行われている治療法ではありませんが、胃潰瘍(かいよう)治療薬のシメチジンに、石灰を吸収し痛みを軽減する作用があるともされています。

ほとんどの場合、保存療法で軽快します。時間がたつとともに、滑液包内に漏れ出た石灰を自然に修復しようとする体の反応により、石灰化部分が小さくなってきます。このころには肩も動かせるようになり、日常でも支障のない程度まで回復します。しかし、完全に石灰化部分が修復されるまでには、2~3カ月かかります。

亜急性型、慢性型では、石灰沈着が石膏状に固くなり、時々強い痛みが再発することもあります。硬く膨らんだ石灰化部分が肩の運動時に周囲と接触し、炎症が消失せず痛みが続くこともあります。痛みが強く、肩の運動に支障がある場合、関節鏡視下による手術で石灰化部分を摘出することもあります。確実に摘出されると治療効果は速やかに認められ、ほとんどの場合1〜2週間以内に肩の挙上が可能となります。

肩の痛みが取れたら、ホットパック、入浴などによる温熱療法や、拘縮を予防したり筋肉を強化する運動療法などのリハビリを行います。

🇧🇸転移性眼内炎

体のほかの部位に感染していた細菌や真菌が目の中に転移して、炎症を引き起こす眼病

転移性眼内炎とは、目以外の体の部位に感染していた細菌や真菌(カビなど)が血流に乗って目に波及し、炎症を引き起こす眼病。内因性眼内炎とも呼ばれます。

転移性眼内炎のほとんどは、糖尿病を患っている、抗がん剤投与を受けている、肝臓や心臓に感染症を起こしている、体が弱り免疫力が落ちている、血管内カテーテル(栄養のチューブ)が挿入されているなどで起こります。

症状としては、 ひどい目の痛み、明るい光の非常なまぶしさ、充血、目やに、急な視力低下、視力の部分的な欠損があり、視力の完全な欠損によって失明を起こすこともあります。

真菌による転移性眼内炎の場合は、目の症状が出る前に発熱することが多く認められます。発熱のほかに全身症状が出ることもあります。続いて1週間前後で、目の前に蚊など小さい物が飛んでいるように見える飛蚊(ひぶん)症や、視界に霧がかかっているように見える霧視などの症状が出ます。

症状が出たら、早めに眼科を受診します。真菌によるものは、飛蚊症が出た時期に眼科的な検査を行い適切な薬剤を使用すると、ほとんどのケースで治癒します。

しかし、細菌によるものは数時間から数日の単位で、真菌によるものは数日から数週間の単位で進行し、重症になった場合は、最大限の治療を施しても目を救えないこともあります。

転移性眼内炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、眼球の検査の前に、問診で全身的な要因の有無や、血管内カテーテルの使用有無、発熱の有無を確認します。

続いて、目の表面を拡大して見る細隙灯(さいげきとう)顕微鏡を用いて眼球を丹念に調べます。さらに、分泌液の培養検査を行います。場合によっては、抗体検査やDNA検査も行います。

分泌液の培養検査では、眼球内の前方にある液体である房水や、眼球後部の内部にあるゼリー状の組織である硝子体(しょうしたい)から採取し、感染の原因菌を早急に特定するとともに、どの薬剤が最も有効かを調べます。

眼科の医師による治療では通常、視力を守るために、抗菌剤または抗真菌剤による治療を直ちに開始します。極端な場合、数時間の遅れが、回復不可能な視力の低下につながることがあります。

眼内炎の原因であると判明した菌に応じて、抗菌剤や抗真菌剤の選択を調整することがあります。抗菌剤や抗真菌剤は、眼内注射、あるいは静脈内注射、または経口で投与します。

抗菌剤や抗真菌剤を眼内に注射した後、数日間にわたって痛みを和らげるコルチコステロイド剤を経口で投与することもあります。感染を食い止める確率を上げるため、眼球内部の感染組織を取り除く手術を行うこともあります。

🇧🇸伝音難聴

音を伝える外耳、中耳、鼓膜の障害による難聴

伝音(でんおん)難聴とは、音を聴神経へ伝える外耳、中耳、鼓膜に障害が生じたために起こる難聴。伝音性難聴とも呼ばれます。

聴力が低下した状態である難聴は、この伝音難聴、感音(かんおん)難聴(感音性難聴)、混合難聴(混合性難聴)の3つに大きく分けられます。

感音難聴は、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる難聴。突発性難聴や騒音性難聴の場合も、感音難聴に含まれます。混合難聴は、伝音難聴と感音難聴の両方の特徴を併せ持った難聴。多くの老人性難聴は混合難聴ですが、どちらの度合が強いかは個人差が大きいといえます。

また、難聴の度合は一般的に、平均聴力レベルが20デシベルまでを、ささやき声もよく聞こえる正常聴力として、40デシベルまでを、小声が聞きにくい軽度難聴、70デシベルまでを、普通の声が聞きにくい中度難聴、70デシベル以上を、大きな声でも聞きにくい高度難聴、90デシベル以上を、耳元での大きな声でも聞こえない重度難聴、100デシベル以上を、通常の音は聞こえない聾(ろう)に分けます。

伝音性難聴は、空気の振動として耳に入ってくる音が外耳の一部である外耳道や、外耳と中耳の境目にある鼓膜、中耳内にある耳小骨を震わせて振動を伝えていく部分に、障害が生じたために起こります。音が十分に伝わっていかないため、音が鳴っていること自体を把握することが難しい性質を持っています。

通常、伝音性難聴による聴力の低下は70デシベルを超えることはなく、これだけで高度難聴になることはありません。例えば、耳栓をしても大きな音は聞こえてしまいますし、どんなに耳に蓋(ふた)をしても全く外部の音が聞こえなくなることはありません。

これは通常の外耳から内耳を通じる経路ではなく、大きな音が直接頭蓋骨(ずがいこつ)を振動させることによって、内耳のリンパ液が振動して有毛細胞という感覚細胞が興奮し、音を知覚することになるからです。

中耳炎などを患った場合に、伝音難聴になりやすいことが知られています。原因となる疾患には、急性中耳炎や慢性中耳炎を始めとする各種の中耳炎や、耳垢栓塞(じこうせんそく)、外耳道閉鎖症、耳管狭窄(きょうさく)症、鼓膜裂傷、耳硬化症、耳の腫瘍(しゅよう)などがあります。

伝音難聴は、音を感じる内耳から聴覚中枢路には異常がなく、聞こえのゆがみなどは起こらないため、原因となる疾患に応じた医学的な治療を受けることにより、聴力を回復させることができます。もし回復しない場合でも、耳に入る音を大きくできれば聞こえがよくなるため、補聴器の効果が期待できるタイプの難聴です。

伝音難聴の検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科の医師による診断では、一般的に鼓膜の観察や聴力検査を行ったり、耳管の通り具合を調べます。例えば、急性中耳炎では、鼓膜を検査し、その色、はれ具合から簡単に診断がつきます。外耳道炎を併発し、外耳道がはれて見えにくい時は、診断がやや難しいことがあります。慢性中耳炎では、鼓膜の穿孔、耳垂れの有無を調べるため、耳垂れの細菌検査、CTを含む耳のX線検査、聴力検査を行います。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、伝音難聴を起こす原因となる疾患に応じた治療を行います。

例えば、急性中耳炎では、全例にアモキシシリンなどの抗生物質による治療を行います。自然に治癒するか、悪化するかどうかを予測するのが、難しいためです。アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬は、痛みを和らげます。フェニレフリンが入ったうっ血除去薬も、効果があります。抗ヒスタミン薬は、アレルギーによる中耳炎の場合は有効ですが、風邪による中耳炎には効果はありません。

痛みや熱が激しかったり、長引く場合、また鼓膜のはれがみられる場合には、鼓膜切開を行って、耳垂れを中耳腔(こう)から排出します。鼓膜を切開しても聴力に影響はなく、切開した穴も普通は自然にふさがります。中耳炎を繰り返し起こす場合は、鼓膜を切開して、耳だれを排出する鼓膜チューブを設置する必要があります。

慢性中耳炎では、抗生物質で炎症を抑え、耳垂れを止めます。しかし、鼓膜の穿孔や破壊された中耳はそのまま残ることが多く、また、真珠腫性中耳炎では普通の治療では治りにくいので、手術が必要です。

鼓膜の穿孔をふさぎ、疾患で破壊された、音を鼓膜から内耳に伝える働きをする耳小骨をつなぎ直せば、聴力は改善できます。これを鼓室形成術といい、細かい手術のため手術用の顕微鏡を使って行います。

伝音難聴の中でも、特に症状がひどく、補聴器を用いてもほとんど聞こえないような慢性穿孔性中耳炎の場合には、人口中耳と呼ばれる高感度の補聴器を中耳に植え込む手術も開発されています。

伝音難聴は感音難聴に比べると治療による効果が出やすく、補聴器を使用することによって聞き取りやすくなる傾向も持っています。補聴器で音を大きくすることで、かなり聞こえるようにもなるので、補聴器を使用すれば生活しやすくなります。

🇯🇲てんかん

脳の神経細胞の一時的な機能異常で、発作が起こる疾患

てんかんとは、脳の神経細胞の伝達システムに一時的な機能異常が発生して、反復性の発作が起こる疾患。発作時には意識障害がみられるのが普通ですが、動作の異常、けいれんなどだけの場合もあります。こうした異常な症状が長期間に渡って何度も繰り返し現れるのが、この疾患の特徴です。

そのため、1回だけの発作だけでは、普通はてんかんと診断することは困難。場合によっては、脳波にどのような波が出ているかによって、1回の発作でてんかんの診断をつけることもあります。

脳の神経細胞(ニューロン)は、規則正しいリズムでお互いに調和を保ちながら電気的に活動しています。この穏やかなリズムを持った活動が突然崩れて、激しい電気的な乱れ(ニューロンの過剰発射)が生じることによって、てんかん発作が起きます。てんかん発作はよく、脳の電気的嵐(あらし)に例えられます。

日本全国の発症者は、推定100万人。乳幼児期から高齢期まで幅広く発症しますが、脳が発達途上にある3歳以下が最も多く、80パーセントは18歳以前に発症するといわれています。しかし、近年は人口の高齢化に伴い、高齢者の脳血管障害などによる発症が増えてきています。現在の医療では、適切な治療により70~80パーセントの人で発作のコントロールが可能であり、多くの人たちが普通に社会生活を営んでいます。20パーセントの人は、薬を飲んでも発作をコントロールできない状態で、難治性てんかんと呼ばれるものもあります。

てんかんの発作には、いくつかのタイプがあります。典型的な症状は、上下肢を突っ張って硬直させ、直後にガクガクと全身のけいれんを起こし、何分間か続いた後、完全に意識がなくなります。その後、短時間で意識が自然に戻ります。これを大発作といいます。大発作のようなはっきりしたけいれんはなく、数秒から数十秒ほどのごく短時間、ふっと意識が途切れる程度の発作が1日に何回も起こることがあり、これを小発作といいます。

大発作のような大きな手足のけいれんは起こらず、体の一部の筋肉がピクンと収縮を繰り返すのは、ミオクロニーてんかん(ミオクロニー発作)と呼ばれます。幻覚などが起きたり、もうろう状態になって口をモグモグさせたり、目的なく歩き回ったりして、それが数分で消失する型もあります。これは精神運動発作と呼ばれます。

てんかん発作を起こしやすい遺伝的な素因が関係している場合と、脳に障害や傷があるために起こる場合とがあります。一部のてんかんには発病に遺伝子が関係していたり、発作の起こりやすさを受け継ぐことが明らかになっていますが、そうしたてんかんの多くは良性であり、治癒しやすいようです。

原因がはっきりしている場合は、症候性てんかん、原因不明の場合には特発性てんかんと呼びます。症候性てんかんの原因には、出産時の仮死状態や低酸素による脳の障害や傷のほか、先天性の代謝異常や内分泌異常による脳の障害、脳炎、髄膜(ずいまく)炎、脳出血、脳梗塞(こうそく)といった疾患や、交通事故といった脳外傷による障害や傷があります。

また、発作は大きく分けると、全般発作と部分発作に分けられます。全般発作は発作の初めから脳全体に起因しているもの、部分発作は脳のある限られた場所から発作が始まるものです。全般発作では、初めから脳全体が電気の嵐に巻き込まれるので、最初から意識がなくなるという特徴があります。部分発作には、意識は保たれている単純部分発作、意識が消失する複雑部分発作、部分発作から始まって全身のけいれんが起こる二次性全般化発作があります。

てんかんの検査と診断と治療

てんかんの診断は、発作の様子を詳しく説明してもらうことから始まります。しかし、多くの発症者は発作が始まると意識が障害されることが多く、自分で発作の状態や状況を話すことができません。発作の状態、状況を知る家族や学校の先生、職場の人などの介助者、目撃者は、診察に同行し、医師に発作の状況を正確に伝えます。

てんかんの診断のために最も重要な検査は、脳波検査です。てんかんは脳の神経細胞の電気的発射によって起きますので、この過剰な発射を脳波検査で記録することができます。診断のみでなく、てんかんの発作型の判定にも役立ちます。何回検査しても安全ですし、痛みもありません。

脳波検査のほかにも、CT検査やMRI検査などは、脳腫瘍(しゅよう)や脳外傷などを画像で確認できるため有効です。PET/SPECT(脳機能画像)、MGE(脳磁図)なども、てんかんの検査に使われます。

血液検査、尿検査も、てんかんの診断に欠かせない検査。てんかんの発作はさまざまな原因で起こりますので、原因検索のために血液や尿の検査をします。また、慢性の疾患であるてんかんの薬物治療は、長期間に渡り薬を飲み続ける必要があるので、服用する前に体の状態を調べる必要があります。

てんかんであることがはっきりすれば、発作が繰り返されると脳の障害も進んでくるので、抗てんかん剤を服用して発作をコントロールします。抗てんかん剤は、脳の神経細胞の電気的な興奮を抑えたり、興奮が他の神経細胞に伝っていかないようにすることで、発作の症状を抑える薬のことをいいます。小児のてんかんの7~8割は、抗てんかん剤で正しく治療すれば発作を止めることができます。

抗てんかん剤は、てんかん発作型、年齢、性別などを考慮して選択します。選択の目安となる基準はありますが、どの薬をまず選択するかなどの細かな治療法は、医師の臨床経験、考え方によって、多少の違いがあります。選択された薬が適薬かどうかは、発作に対する効果と副作用の有無によって決まります。1種類の薬で発作を抑制する単薬療法が好ましい形ですが、1種類のみでは発作が抑制されない時には、2種類以上の薬を用いる多薬療法が行われます。

服薬した薬の量と吸収されて脳に届く薬の量は個人差があり、同じ割合ではありません。脳内の薬の濃度は直接測ることができないので、血液中の薬の濃度から間接的に脳内の濃度を推定します。血中濃度の測定は、適量の決定、副作用の予測や副作用が出た場合の対応、薬物の相互作用を知る上で大変有効です。

てんかんの治療では、長期間に渡る服薬が必要ですので、薬の副作用は特に重要な問題です。薬には発作の抑制に有効性がある反面、好ましくない効果があることも否めません。皮膚に発疹(はっしん)などのアレルギー反応が出る際には、速やかに服薬を中止する必要があります。 眠気、ふらつきなどが出る際には、薬の量を減らすことで和らげますし、1週間くらいで慣れる場合もあります。長く服薬し続けることで、肝臓機能低下、血液中の白血球減少、歯肉増殖、多毛、脱毛など体に気になる影響が出る際には、早めに医師に相談します。

薬物治療のほかにも、外科治療、食事療法などがあり、十分な服薬治療を行っても発作が抑制されない時に行います。例えば、難治性てんかんに対して、外科手術による治療を検討します。ただし、すべてのてんかんに外科治療が可能であるわけではなく、発作の始まる部分がはっきりしている部分発作で、その部分を切除しても障害が残らない場合に可能です。

てんかんの発作の原因や重症度、脳の障害の程度にもよりますが、適切な薬物療法によって、発作の消失、発作の回数を減少させることができます。また、発作が消失している期間が小児で2~3年、成人で5年以上続き、医師が服薬中止が可能だと判断すれば、3カ月~6カ月かけてゆっくりと薬の量を減らしてゆきます。

服薬を中止した後も発作の再発がなければ、てんかんが治癒したといえます。しかし、薬の中止後も発作が再発する場合もありますので、半年から1年の1回程度、脳波検査を含む診断を定期的に受けます。

一般的にはてんかんがあっても、生活リズムを整えることが大切で、発作の誘引である睡眠不足、疲労、暴飲暴食、薬の飲み忘れには注意が必要です。勝手に薬をやめると発作を起こし、外傷などの危険もあるので、本人も家族も十分に注意する必要があります。

発作が起きた場合、吐いた物を誤嚥(ごえん)しないようにするため顔を横に向け、どんな発作か、発作時間を観察します。大抵の場合は、自然に止まりますが、5分以上続く場合は受診したほうがよいでしょう。

なお、発作が頻発している場合や、抗てんかん薬を多種類、多量に服用している時期に妊娠すると、胎児に影響を与えます。いつなら妊娠してよいか、どんな職業に就くかなど、いずれも家族で十分話し合ったり、医師に相談して決めなくてはなりません。

🇯🇲転換性障害

体の疾患が認められないのに、運動機能や知覚、感覚などの障害として神経症状が起こる疾患

転換性障害とは、一般的な体の疾患が認められないにもかかわらず、運動機能や知覚、感覚などの障害として神経症状が起こる疾患。解離性障害の症状の一つにも相当します。

医師が詳しく検査しても神経症状を起こしている体の疾患が見当たらない場合に、転換性障害と判断します。背景にある心理的なストレスが神経症状に転換しているので、転換性障害といいます。

神経症状としては、知覚、感覚などの異常や、運動機能の障害が出現します。知覚、感覚の異常は、手足のしびれ、まひが中心となり、目が見えなくなる、耳が聞こえなくなるといった視覚や聴覚で症状が起こったりもします。

運動機能の障害では、脱力して座り込む失立、歩けない失歩、筋力低下が起こったりします。めまい、耳鳴り、過呼吸発作、下痢などの胃腸症状、動悸(どうき)、発汗、頻尿といった自律神経症状が起こることもあります。

転換性障害は通常、思春期から成人期初期にかけて発症し、その確率は1パーセント未満で、男性よりも女性に多くみられます。治療の必要がないような程度のものも含めれば、有病率はより高いといわれています。

発症の背景には、無意識の過程が働いていると考えられており、幼少期からの強い抑圧が精神エネルギーを知覚、感覚などの異常や、運動機能の障害に転換させてしまうと仮定されています。発症者の日々の生活の中では、家族や知人への怒りやねたみ、恨み、あるいは性的な不満などが多いとされます。

ほかにも、発症から得られる疾病利得が背景にあり、発症することで周りの人から優しい言葉をかけられたり、助けられたり、現在の不快な生活状況やストレスを軽減できたり、回避できるような肯定的な結果が得られていることも、症状の持続につながっている可能性も指摘されています。

この転換性障害に、解離性障害が合併することがあります。転換性障害では、心理的なストレスが神経症状となって現れるのに対して、解離性障害では、心理的なストレスが意識障害、記憶障害、感情まひなどの精神症状となって現れます。転換性障害と解離性障害を合わせたものが、従来、医学的にヒステリーと呼ばれていた疾患に相当します。

また、解離性障害の発症により、精神的なダメージを受けて、うつ状態となってしまう恐れもあります。

転換性障害の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、症状を注意深く観察し、体を診察して、一般的な体の疾患を除外するための検査を行います。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療では、症状が出現する背景となった心理的なストレスに焦点を当てた心理療法やカウンセリングを行います。

心理療法では、失われた記憶を明らかにする記憶想起法や、催眠療法、認知行動療法などを行い、発症者がストレス対処法を自ら身に着けていくことを目指します。

また、発症者の精神的な健康を回復させるために、抗うつ剤や精神安定剤が有効なこともあります。時には、家族などの協力も得ながら、生活上の問題の解決を支援し、現実生活への適応を促します。

一般的に転換性障害の症状は自然に治癒するといわれていますが、この症状を維持することで何らかの利益を長期にわたって得ている場合には、回復が遅れることもあります。

🇵🇷超男性

男性だけにみられる性染色体異常で、背が高く、言語発達の遅れがみられたりする疾患を有する人

超男性とは、染色体異常のうちの性染色体異常の疾患で、男性にだけ起こる先天的なスーパー男性症候群(XYY症候群)を有する人。スーパー男性、Y過剰男性とも呼ばれます。

染色体は、体を作るすべての細胞の内部にあり、2つに分かれる細胞分裂の一定の時期のみ、色素で染めると棒状の形で確認できます。染色体には、22対の常染色体と2対の性染色体とがあります。父親から22本の常染色体と1本の性染色体、母親から同じく22本の常染色体と1本の性染色体を受け継いで、全部で46対の染色体を持つことになります。

性染色体にはXとYという2つの種類があり、Xを2本持つ場合は女性に、XとYを1本ずつ持つ場合は男性になります。染色体は女性だと46XX、男性だと46XYということになります。

先天的なスーパー男性症候群を有する超男性の場合は、性染色体がXYYと1本多く、47XYYということになります。性染色体が3本ある異常で、性染色体トリソミーにも該当します。トリソミーとは、3本という意味です。

47XYYの完全型のほか、性染色体異常の細胞と通常の細胞が混在する47XYY/46XYのモザイク型もありますが、大半が完全型です。

超男性は、約1000人に1人の割合で生まれるといわれます。

正確な原因は不明ですが、減数分裂の際に2対の染色体が分裂し損なってYが1つ多い卵子もしくは精子を作り出す、もしくは減数分裂後の受精段階で、胎児の前身の胎芽の細胞分裂でYが1つ多くなることで起こるとされます。

超男性は身長が高くなるのが特徴といわれ、出生時の身長は平均的なので、思春期に急速に伸びると考えられます。これは、Y染色体にあって身長を高くするSHOX (身長伸長蛋白〔たんぱく〕質)遺伝子が二重に働き、身長伸長蛋白質が多く作られるためと考えられます。

知能指数がほかの家族よりやや低い傾向があり、軽い言語発達の遅れがみられたりします。軽度の行動障害、多動性、注意欠陥障害、および学習障害を来すこともあります。

男性ホルモンの一種であるテストステロンのレベルは、先天的にも後天的にも一般の男性と同じ値で、精子の造成機能にやや難があり精子の数が少ないものの、子供を作ることは可能です。

超男性のほとんどは、原則として知能と生殖能力は正常で、一般の人と変わりはありません。障害が全くないこともあり、本人も家族も気が付かないまま通常に学校を卒業し、通常に就職し、通常に結婚して、一生を通じて全く気が付かないこともあります。性染色体は1本多いトリソミーになっても不活性化し、症状が軽くなるためです。

一説によると、スーパー男性症候群を有する超男性は男性としての特徴が極端に出て、背が高くて、攻撃的、または活動的な性格になりやすく、この性格が良い方向に向かえば成功者になる確率が高くなる一方、悪い方に向かえば犯罪に結び付くこともあるとされています。この説に対しては、現在では否定的な意見が多いようです。

1960年代のアメリカでは、1966年にシカゴの看護婦寮に押し入り8人の女性を殺害した事件など、いくつかの殺人事件の犯人が47XYYの染色体構成を持つ男性だったという報告があり、注目を集めました。

このため、要注意の染色体異常であるというイメージが広まり、47XYY型の男性に対する偏見、差別が生まれました。しかし、現在では、検査ミスであったと判明し、スーパー男性症候群を有する超男性と犯罪との関連性は否定されています。

超男性のほとんどは、普通に日常生活を送っていますので、治療の必要はありません。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...