2022/08/07

🇱🇾眼瞼下垂

上まぶたが下がり、目が大きく開かないか閉じる疾患

眼瞼(がんけん)下垂とは、上まぶたの機能に障害が生じ、開きづらくなる疾患の一つ。先天性と後天性の場合があります。

まぶたの中には、2つの筋肉があります。眼球とまぶたを動かす動眼神経の命令で縮む眼瞼挙筋と、交感神経の緊張で縮むミュラー筋で、眼瞼挙筋が主な働きをし、ミュラー筋が補助的な働きをします。眼瞼挙筋は途中から腱膜(けんまく)という膜様の腱になって、瞼板というまぶたの縁を作っているカマボコ板のようなものの前面に付いており、眼瞼挙筋は腱膜を介して瞼板を持ち上げるので、上まぶたが上がります。

眼瞼下垂になると、顔を正面に向けた状態で目を普通に開いた時、上まぶたが黒目の部分である瞳孔(どうこう)にかぶさり、しっかりと上まで持ち上げられません。しかし、人の体では代償作用が働いて視野を確保しようとするために、眼瞼挙筋を過剰に働かせることで補ったり、まゆを持ち上げたり、あごを軽く引き上げることで上方の視野を確保してしまいます。

こういった代償作用は日常的に行われるため、何となくまぶたが重かったり、気が付けば眼瞼下垂が悪化していることも少なくありません。頭痛や肩凝りを併発することもあります。

先天性眼瞼下垂は普通、眼瞼挙筋または動眼神経に何らかの障害があって起こります。出生時から顕著で、額にしわを寄せて、まゆをつり上げる特有の顔立ちがみられます。片眼性のことが多いものの、両眼性もみられます。遺伝することもしばしばです。

程度の強い眼瞼下垂では、目の中に光が入らないために、視力が発達せずに弱視になるので、早めの手術が必要とされます。

後天性眼瞼下垂は、動眼神経、交感神経の異常や、眼瞼挙筋、ミュラー筋の異常、腱膜の異常が原因で起こります。中では、腱膜の異常が原因のものがほとんどを占めます。

腱膜の異常が原因のものでは、アトピー、逆さまつげ、花粉症、よく泣くため、目を覚ますため、化粧を落とすためなどで、まぶたをこすると、腱膜が瞼板より外れたり薄くなったりして、神経も筋肉も正常なのに、まぶたが上がらなくなります。神経、筋肉の異常が原因のものでは、乱視でないのに物が二重に見える複視が多く現れますが、腱膜の異常が原因のものでは一般的に複視は現れません。

腱膜の異常が原因のものは、程度の差はあれ、加齢によって徐々に眼瞼挙筋の筋力が低下する高齢者で多く起こるので、老人性眼瞼下垂とも呼ばれます。しかし、高齢者でなくても、まぶたをこする習慣がある人では早くに起こります。筋肉の異常が原因のものは、疲労により症状が出現するため、目を開いた時の幅が一日のうちでも変化する際に疑われることがあります。神経の異常が原因のものは、目の動きのまひを伴う際に疑われることがあります。

また、神経、筋肉の異常が原因のものは、その背景に脳出血や脳腫瘍(しゅよう)、脳動脈瘤(りゅう)、筋ジストロフィーや重症筋無力症などの筋疾患があって、生命に危険を及ぼすこともあるので注意が必要です。そのほか、眼科手術後に起こる眼瞼下垂、コンタクトレンズの長期装用によって起こる眼瞼下垂もあります。

後天性眼瞼下垂が片目に現れた場合は、非対称なので容易に気付きます。両目に現れた場合は、対称性の変化なので気付かないことがあります。

症状としては、まぶたが重い、夕方になるとまぶたが開かない、眼瞼挙筋を余計に収縮させているために目の奥が痛い、歯を食いしばってまぶたを開けているので咀嚼(そしゃく)筋が疲れたり痛む、歯が浮く、あご関節が痛むなどの症状が起こります。肩凝り、ミュラー筋を収縮させているために交感神経の緊張なども起こります。

軽度の眼瞼下垂の場合はあまり自覚症状はないものの、重症化すると距離感がつかめず、また突然見えない状態になるので、けがや階段での転倒、自動車事故などが多くなります。特に、両眼性の眼瞼下垂が長時間出現すると、視力はあるのに、目が開かない状態で機能的盲目に陥ります。

眼瞼下垂のほかに、ひとみが小さくなる縮瞳(しゅくどう)や眼球陥没を伴う場合は、ホルネル症候群と呼ばれます。

眼瞼下垂の検査と診断と治療

眼瞼下垂は原因により治療法や予後が異なりますので、神経内科や神経眼科の専門医を受診します。特に急性に起こった場合では、脳動脈瘤が原因のこともあり、早期の脳外科手術が必要となる場合もあります。

先天性眼瞼下垂でも、複雑な神経の異常で起こる場合もあり、後天性眼瞼下垂では、何かの切っ掛けがあったか、複視があるか、疲労と関係があるかなどが医師による診断の手助けとなります。疲労と関係があり、重症筋無力症が疑われる場合は、特殊な薬物である抗コリンエステラーゼを検査に用います。

最も多い先天性眼瞼下垂の治療では、眼科または形成外科での手術が主体。重症の眼瞼下垂では、視力の発達が阻害されることもあり、早期の手術が必要な場合もあります。眼瞼挙筋機能が残っている場合は、眼瞼挙筋前転法、眼瞼挙筋短縮法と呼ばれる治療法が選択されます。眼瞼挙筋機能がない場合は、筋膜移植と呼ばれる治療法が選択されます。筋膜移植は、太ももの外側にある大腿(だいたい)筋膜張筋腱と呼ばれる組織を採取し、まぶたに移植するものです。小児で治療するケースが多く、成長段階に応じて修正治療が必要になることがあります。

後天性眼瞼下垂では、症状の程度により手術するかどうか決定されます。眼科手術後や脳梗塞(こうそく)後に起きたものは、自然に回復することも多いので数カ月様子をみます。手術では、先天性眼瞼下垂と同じく、眼瞼挙筋前転法、眼瞼挙筋短縮法と呼ばれる治療法が選択されます。

眼瞼挙筋前転法は、筋肉を傷付けずに、外れた腱膜を瞼板の前面の元の位置に再固定するもので、後天性の眼瞼下垂には最も適した治療法です。しかし、医師の技術と経験が必要な治療法で、すべての医療機関で受けることができるものではありません。眼瞼挙筋短縮法は、従来まで主流だった治療法で、眼瞼挙筋を直接切除し短縮するものです。効果はあるのですが、交感神経と関わりの深いミュラー筋を傷付けるため、眼瞼挙筋前転法でも改善できない場合に用いられる治療形態となっている傾向にあります。

老人性眼瞼下垂の場合は、筋力や腱膜などに問題がなければ、筋肉などの処理はせず、加齢によって著しく弛緩(しかん)した皮膚だけを切除することで、視野が確保できます。皮膚の切除だけなので、はれが少ないのが特徴で、美容整形では上眼瞼切開やアイリフトと呼ばれている治療法に相当します。

重症筋無力症では、薬物療法が主体です。

🇱🇾眼瞼けいれん

眼輪筋が自分の意思に関係なく、けいれんする疾患

眼瞼(がんけん)けいれんとは、目を取り囲む筋肉である眼輪筋が自分の意思に関係なく、けいれんする疾患。眼輪筋は、まぶたを開閉する筋肉です。

軽度な眼瞼けいれんは寝不足や疲れでも起こりますが、重度の眼瞼けいれんは40~70歳の中高齢者で発症することが多く、男女の比率はほぼ1対2で女性に多くみられます。

症状は、まばたきが増えたり、まぶしさを感じたりすることから始まり、症状が重くなるとまぶたが開かなくなって、目が見えない状態にまで進んでしまうこともあります。まぶしい光やストレスは、これらの症状を悪化させます。また、活動や緊張によって症状がひどくなり、休息により軽減します。

症状の進行はゆっくりしているものの、そのまま放っておいて自然に治る疾患ではありません。多くの場合は、次第にけいれんの回数が増し、日常生活や仕事に大きな支障を来すことになります。

両眼性の眼瞼けいれんと片眼性眼瞼けいれんがありますが、多くは両眼性です。

眼輪筋を含めて顔の筋肉は脳から出る顔面神経によって制御されており、両眼性の眼瞼けいれんの原因は、顔面神経に指令を与える脳の深部の大脳基底核の異常とされます。一方、片眼性の眼瞼けいれんの原因は、脳を離れた後の顔面神経が眼輪筋へ至る走行経路の途中で、血管や腫瘍(しゅよう)などに圧迫されるためとされます。

片眼性の眼瞼けいれんは、中高齢者の男女ともにみられ、同じ側の唇のけいれんを伴い、流涙を自覚します。

眼瞼けいれんの検査と診断と治療

眼科の医師による診断は、診察時にけいれんが生じていれば容易です。診察時にけいれんが生じていなければ、誘発を試みます。例えば、強くまぶたを閉じたり、唇を横に伸ばしたりを何度もやってみます。また、強い光を目に当てたりします。

眼科の医師による治療では、肉体的、精神的安静を取るようにします。まぶしさを感じる場合は、サングラスをかけます。

この疾患を完全に治す方法は、ありません。生活に不都合がないように症状を抑えることを目的とした対症療法として、眼輪筋へのボツリヌス毒素の注射があります。食中毒の原因として知られているボツリヌス毒素は筋肉の収縮を抑制する神経毒であり、薄めたボツリヌス毒素を注射することによって、一時的に注射部位のけいれんを消失させます。

ほかに、人工涙液を点眼したり、抗コリン製剤、抗うつ薬などを内服します。また、難治症例では眼輪筋の切除術が行われます。

🇩🇿眼瞼内反症

まぶたの縁が反り返って、眼球側に入り込む疾患

眼瞼(がんけん)内反症とは、まぶたの縁が眼球側に向かい、まつげやまぶたの縁の皮膚が眼球表面を刺激している状態。逆さまつげを生じる原因の一つです。

この眼瞼内反症には、先天性のものと老人性(加齢性)のものが多く、まぶたの皮膚に近い側の前葉と眼球に近い側の後葉のバランスが崩れることで、前葉が余るか後葉が短くなることが直接的な原因となって、いずれも起こります。

先天性の眼瞼内反症では、まぶたの内反の程度が軽く、皮膚などが過剰なため、まつげ全体の生える方向全体が内向きである場合、特に睫毛(しょうもう)内反症と呼ぶことがあります。乳幼児、若年者に多くみられるのが、睫毛内反症の特徴です。

乳幼児の場合、まぶたの特に下まぶたの脂肪が過剰なためにふっくらとしていて、まぶた自体が内側を向いているもので、小学校入学時までにその脂肪も成人とほぼ同じになり、自然にまぶたが外側を向いてきて、ほとんどの場合、自然に治癒します。

高齢者に多い老人性(加齢性)の眼瞼内反症では、皮下脂肪が少なくなって、上まぶたがやせてたるんでくるために、まぶたの縁が内反します。年とともに、まぶたの皮下の筋肉の筋力も低下し、目の周囲の筋肉である眼輪筋も緩み、眼球を取り囲んでいる脂肪が委縮して眼球が奥に移動し、そのぶん、まぶたの皮膚が少しあまり気味になることも原因となります。加齢によって涙の分泌も減っているため、目の症状が出やすいのが特徴です。

また、これらのほかに、炎症などの結果、まぶたが変形して起こる瘢痕(はんこん)性の眼瞼内反症や、まぶたがけいれんして起こる眼瞼内反症もあります。いずれも、一並びのまつげ全体が眼球側を向くので、多くのまつげや皮膚が眼球表面の角膜や結膜に当たることになります。

症状としては、幼児ではまばたきが多くて、目をよくこすったり、光をまぶしがったり、目やにや涙が多くなったり、目が充血したりします。生後間もない乳児では、まつげが細く軟らかいため、症状はあまり出てきません。小児、成人では、幼児の症状に加え、異物感、痛みなどが生じます。成長するとまつげが硬くなるため、結膜炎や、黒目の表面に白い濁りができる角膜混濁などを引き起こして、視力が低下してくる場合もあります。

眼瞼内反症の検査と診断と治療

涙や目やにが多いなど同様の症状でも、結膜炎、眼瞼縁炎などの場合もあるので、早めに専門医を受診して、原因をはっきりさせることが大切です。

眼科外来での診察では、まぶたの形状、まつげが角膜に接触していること、角膜の傷の程度などを診断します。常時まつげが角膜に接触している場合のほかに、眼球運動やまばたきの強さ次第で、まつげが角膜に接触する場合があります。

先天性の眼瞼内反症、睫毛内反症の場合、成長とともに1歳前後で自然に治ることが多いので、それまでは抗生物質入りの点眼液や眼軟こうを用いて眼球を保護し、様子をみるのが普通です。

2歳以上で治らない場合、さらなる成長に伴い自然治癒することも期待できますが、症状の強さ次第では手術を考えます。4~5歳になっても症状が軽減しない時などは、手術をします。上まぶたでは、切開式重瞼術を行います。下まぶたでは、過剰な皮膚と眼輪筋を切除し、皮膚と瞼坂と皮膚と縫合して内反を矯正します。

加齢性の眼瞼内反症では、まつげを抜くと一時的に症状は改善しますが、再びまつげが生えると同じことの繰り返しになります。また、抜くにしても、一並びのまつげ全体を抜く苦痛も決して軽くはありません。手術して治すほうが効果的です。

きっちり治すには手術が必要で、まつげの毛根を電気の針で焼く睫毛電気分解や冷凍凝固、あるいは眼瞼内反手術に準じた手術などが行われます。簡単には治らない場合もあります。

🇩🇿慢性副腎皮質機能低下症

副腎が損傷を受けて、副腎皮質ホルモンの分泌量が低下

慢性副腎(ふくじん)皮質機能低下症とは、副腎機能の低下によって、すべての副腎皮質ホルモンが不足する疾患。慢性原発性副腎皮質機能低下症、アジソン病とも呼ばれます。

副腎皮質ホルモンは、生命の維持に必要なホルモンで、健康な人では体の状態に合わせて適切に分泌されています。この副腎皮質ホルモンには、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、男性ホルモンがあり、慢性副腎皮質機能低下症では、主に糖質コルチコイド、鉱質コルチコイドの欠損症状が現れます。

副腎自体の疾患による場合と、副腎皮質ホルモンの分泌を調節する下垂体(脳下垂体)の疾患による場合とで、副腎皮質ホルモンの不足は起こりますが、このうち副腎自体の疾患が原因で慢性に経過したものが慢性副腎皮質機能低下症です。下垂体の疾患で副腎を刺激しないために副腎の機能が低下するものは、続発性副腎機能不全症という慢性副腎皮質機能低下症に似た疾患です。

副腎は両側の腎臓の上、左右に2つあり、両側の副腎が90パーセント以上損なわれると慢性副腎皮質機能低下症になります。副腎が損なわれる原因として最も多いのは、副腎結核と自己免疫によるものです。まれに、がんの副腎への転移によるもの、先天性のものなどがあります。

慢性副腎皮質機能低下症は1855年に、英国の内科医トーマス・アジソンによって初めて報告されました。あらゆる年齢層の人に、また男女いずれにも同じように発症します。乳児や小児の場合は、副腎の遺伝子の異常が原因です。

現れる症状はさまざまですが、主なものとして、色黒、倦怠(けんたい)感、脱力感、体重減少、食欲不振、便秘、下痢、低血圧、低血糖などが挙げられます。また、不安、集中力の低下などの精神症状や、腋毛(えきもう)、恥毛の脱落などもしばしば認められる症状です。体内のナトリウムイオンとカリウムイオンのバランスが崩れるので重症の場合、心停止を起こして死ぬこともあります。

自己免疫が関係する特発性の慢性副腎皮質機能低下症の場合、甲状腺(せん)疾患や糖尿病、貧血、真菌症などを合併することが多く、これらの症状が現れることもあります。

慢性副腎皮質機能低下症の初期では副腎皮質の障害が軽度なので、ホルモンの分泌も生活に支障を来さない程度に保たれています。自覚症状もはっきりしたものではなく、気が付かないことがほとんどです。しかし、この状態の時に、けが、発熱などで強いストレスがかかった場合、急性副腎不全を来して危険な状態になることがあります。

慢性副腎皮質機能低下症の症状があった場合、内分泌・代謝を専門とする内科、ないし内分泌代謝内科の専門医を受診し、一度精密検査をしておくことが望まれます。

慢性副腎皮質機能低下症の検査と診断と治療

慢性副腎皮質機能低下症の診断においては、一般的な血液検査、尿検査に加え、ホルモンの検査、腹部CTなどが必要になります。ホルモンの検査は、血液中の副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、尿中に排出される副腎皮質ホルモンなどを測定するほか、副腎皮質刺激ホルモンや副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を投与した後の副腎や下垂体の反応により、副腎の機能を評価します。

そのほか、副腎を損なう原因を調べるため、結核など感染症に対する検査、がんの検査、自己免疫疾患の検査などが行われます。

治療においては、疾患の程度、日常生活に合わせて、副腎皮質ステロイド薬を補充します。通常、1日1〜2回の内服ですみますが、けがや発熱などで体に強いストレスがかかる場合は、それに応じて内服量を増やす必要があります。筋力の低下や全身消耗の強い場合は、副腎性アンドロゲン(男性ホルモン)を補充することもあります。

🇹🇳慢性副鼻腔炎

慢性副鼻腔(ふくびくう)炎とは、鼻腔の周りの骨の中にある大小の空洞である副鼻腔に炎症が起こり、膿(うみ)がたまる疾患。蓄膿(ちくのう)症とも呼ばれます。

鼻の穴である鼻腔の周囲には、骨で囲まれた空洞部分である副鼻腔が左右それぞれ4つずつ、合計8つあり、鼻腔とつながっています。4つの副鼻腔は、目と目の間にある篩骨(しこつ)洞、その奥にある蝶形骨(ちょうけいこつ)洞、目の下にある上顎(じょうがく)洞、鼻の上の額にある前頭(ぜんとう)洞です。

4つの副鼻腔は、強い力が顔面にかかった時に衝撃を和らげたり、声をきれいに響かせたりするといわれますが、その役割ははっきりとはわかっていません。鼻腔や副鼻腔の中は、粘膜で覆われており、粘膜の表面には線毛と呼ばれる細い毛が生えています。線毛は、外から入ってきたホコリや細菌、ウイルスなどの異物を粘液と一緒に副鼻腔の外へ送り出す働きを持っています。

副鼻腔炎になると、こうした機能が働かなくなり、副鼻腔の中に膿がたまってきて、分泌液の量が増えたり、鼻が詰まったりします。この状態が急性副鼻腔炎に相当し、こうした状態が長引いたり、繰り返したりすることによって3カ月以上続くと、慢性副鼻腔炎と見なされます。

炎症が慢性化するとと、副鼻腔の分泌液の量が増えたり、その粘度が高くなったりして、鼻腔とつながる自然孔より排出されずにたまり、状態を悪くすることにつながります。さらに、たまった膿や分泌液により粘膜の肥厚が起こると、排出がより困難となる悪循環に陥ります。

慢性副鼻腔炎の症状には、鼻詰まり、鼻水、頭重感などがあります。鼻水は粘液性のものや、膿性のこともあります。また、後鼻孔からのどへ鼻水が多く回り、これを後鼻漏と呼びます。朝起きて、せきや、たんがやたらに出る人は、その可能性が高くなります。鼻詰まりのため口呼吸となり、のどへ回った鼻水が気管支へ入り、気管支炎を起こすこともあります。

頭重感は前頭部に起こることが多いのですが、頭全体が重苦しいこともあります。このほか、嗅(きゅう)覚障害を起こしたり、精神的に落ち着かず、集中力が低下することもあります。

また、副鼻腔の粘膜の肥厚が長期間続くと、鼻ポリープとも呼ばれる鼻茸(はなたけ)が発生します。鼻茸は、肥厚した粘膜の上に新たに肥厚した部分が突き出して、タケノコ状に大きくなっていきます。慢性化するほど、鼻茸は大きくなり、たくさんできてくるので、鼻詰まりなどの症状がますます悪化します。

炎症によって起こる一般的な慢性副鼻腔炎とは別に、咽頭(いんとう)炎や扁桃(へんとう)炎などののどの炎症、カビの仲間である真菌、虫歯なども、慢性副鼻腔炎の原因となることがあります。また、細菌感染のないアレルギー性鼻炎や気管支喘息(ぜんそく)、アスピリン喘息などのアレルギーによって起こる病気が、慢性副鼻腔炎の原因となることもあります。

一般的な慢性副鼻腔炎では、急性副鼻腔炎になった時に症状を軽くみないで、早めに耳鼻咽喉科、耳鼻科を受診することが大切です。特に、粘液性の鼻水や膿性の鼻水が1カ月ほど続いたら、受診することが勧められます。この時点で、炎症を抑えれば、慢性化することを防げるはずです。

慢性副鼻腔炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による診断では、自覚症状を問診した上で、X線(レントゲン)検査を行います。通常であれば、空洞であるはずの副鼻腔は黒く映り、骨は白く映りますが、副鼻腔炎になると、黒く映るはずの副鼻腔が白く映ります。これは、粘膜が肥厚したり、膿がたまったりして空洞が埋まっているためです。

さらに、病変の部位や程度をより詳しく調べために、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行うこともあります。

内視鏡を使って、粘膜が肥厚して鼻腔が狭くなっていないか、副鼻腔から膿が出ていないかなど、副鼻腔の状態を確認する場合もあります。

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による治療では、副鼻腔の粘液を排出しやすくして、粘膜の肥厚をとるために、鼻腔内に血管収縮薬をスプレーします。次いで、粘液を出してきれいになった鼻腔、副鼻腔に抗菌薬、副腎(ふくじん)皮質ホルモン薬などの薬液を吸入するネブライザー療法を行い、炎症やはれを抑えます。

また、蛋白(たんぱく)分解酵素薬を内服することで、粘液、膿汁を少なくします。

近年、マクロライド系抗菌薬を3~6カ月間、少量飲み続けることが、効果的と判明し行われています。この薬は、細菌を殺すではなく、免疫機能を向上させたり、鼻からの粘液の分泌を抑えたり、粘膜の線毛の働きをよくしたりすることで、炎症を改善します。

これらの治療が有効なのは軽度の場合で、程度によっては手術をします。手術には、鼻腔内から副鼻腔を開放して、膿や粘膜を取り除く方法、上唇の内側と歯肉の境目の口腔粘膜を切開し上顎洞を開放する方法があります。篩骨洞や前頭洞では、鼻外からの手術も行われます。多くは局所麻酔で行われ、1~2週間の入院が必要です。最近では、内視鏡を用いる手術が盛んになっています。

手術後は、少量のマクロライド系抗菌薬を長期服用し、再発を予防します。

子供の場合、副鼻腔は発達段階にあり、手術をすると歯の発育や顔の形に影響を与えることもあり、原則として手術は行いません。どうしても手術が必要な場合は、15歳ぐらいになってからがよいでしょう。

🇹🇳慢性腹膜炎

腹膜に慢性の経過をたどる炎症が起こる疾患

慢性腹膜炎とは、腹腔(ふくくう)内を覆う薄い膜である腹膜に、慢性の経過をたどる炎症が起こる疾患。そのほとんどが結核性腹膜炎で、がん性腹膜炎、癒着性腹膜炎も挙げられます。

結核性腹膜炎は、結核菌の腹膜への感染で発症します。目覚ましい化学療法の進歩により激減はしたものの、近年、増加傾向の兆しがあり注意を要します。腹膜が最初の発症部位であることはまれで、多くは肺結核、結核性胸膜炎などから、血流あるいはリンパ管を介して伝染して発症することがほとんどです。

全身症状として、微熱、食欲不振、倦怠(けんたい)感、寝汗がみられます。腹部症状としては腹部膨満感、腹痛、腹水が現れます。腹痛は軽度のものが長期に続き、圧痛は腹部全体にあります。腹水は初期からしばしば現れ、たまって腹部が膨れ上がることもあります。

がん性腹膜炎は、腹部周辺の臓器に発症したがんが腹膜に転移した状態の腹膜炎をいいます。症状としては、腹に水がたまるのが特徴で、便秘、貧血、発熱などが現れ、腸閉塞(へいそく)を起こしやすくなります。

癒着性腹膜炎は、腹膜の炎症や損傷によって、異なる組織である腸などの腹部臓器と引っ付いてしまった状態の腹膜炎をいいます。症状としては、腸管と腹膜が癒着した場合には、腸の運動が阻害されるなどの障害が起こり、腹痛、便秘、吐き気、嘔吐(おうと)などが起こります。

慢性腹膜炎の検査と診断と治療

結核性腹膜炎は、微熱、食欲不振、腹部膨満感などの臨床症状が長期に続く時に強く疑われます。また、既往歴として肺結核、結核性胸膜炎がある時には、本症の可能性が高くなるため注意を要します。実際には、結核菌の検出は難しく、診断に難渋することがありますが、腹水が続く場合には針を刺して吸引する腹水穿刺(せんし)で結核菌が証明されれば確定診断となります。

それぞれの腹膜炎において対処は異なりますが、初期には内科的治療が行われ、進行すれば手術が必要になることが共通しています。結核性腹膜炎では、抗結核薬を中心に治療を開始します。予後は一般的に良好ですが、鑑別診断に苦慮する場合には治療の時期が遅れ、腸閉塞を起こして予後不良になることがあります。

🇲🇦慢性閉塞隅角緑内障

房水の出口が慢性的にふさがり、徐々に視野が欠けていく緑内障

慢性閉塞隅角(へいそくぐうかく)緑内障とは、眼内液である房水の出口が軽く閉じたり開いたりを繰り返しているうちに、出口が慢性的にふさがって、徐々に眼圧が上がる疾患。自覚症状に乏しく、徐々に視野が欠けていきます。

閉塞隅角緑内障には、房水の出口が急にふさがり、急激に眼圧が上がる急性閉塞隅角緑内障(緑内障発作)もあります。慢性と急性の中間型として、軽度の発作を伴う亜急性閉塞隅角緑内障もあります。

眼球には、角膜や強膜でできた壁の内側に、眼内液の房水が入っていて、その壁の弾力と房水の充満状態によって、一定の硬さを保っています。この硬さが眼圧であり、正常眼圧は平均15ミリHgと外気圧より高いことで、眼球の形を保っています。眼内を満たす房水は主に毛様体で作られて後房に分泌され、前房へ流れて水晶体や角膜に酸素や栄養を与え、水晶体や角膜から老廃物を受け取って、前房隅角より出て静脈に戻ります。

ほとんどの緑内障は、房水の出口の前房隅角に問題があり、房水が流出しにくくなって眼圧が上昇します。慢性閉塞隅角緑内障も、自覚症状に乏しいまま徐々に前房隅角が虹彩(こうさい)にふさがれ、徐々に範囲が広がることが多く、前房水を静脈へ流出する機能が悪くなり、眼圧が上昇します。

前房隅角が虹彩によってふさがれてしまう原因としては、生まれ付きの素因、また、強い遠視や老化のために、水晶体が膨らんで虹彩を持ち上げ、隅角部が狭くなることが挙げられます。

一部の発症者は、睡眠によって軽減する目の充血、不快感、視力低下、頭痛を自覚します。大抵の発症者は、自覚症状に乏しく、慢性的にゆっくりと視神経が死滅していき、徐々に視野が欠けていくため、中期〜末期の進行した時点になってから、初めて気付くことが多くなります。

視野の欠損の初めは、光の感度が落ちる程度で、いきなり黒い物が出現するわけではありません。また、両目で物を見る場合には脳が不具合を補正する両眼視機能が働くために、たとえ片方の目に慢性閉塞隅角緑内障による視野の欠けがあったとしても、視野の欠けが消失してしまうのです。両眼視機能には視力を向上させる働きもあり、片目だけの時よりも、両目で見ると少し視力が上がるため、片目の視神経の50パーセントを失っても、まだ自覚症状がありません。

初期の段階では、視野の中心部分から欠けていくことは、まずありません。通常、中心の少し上あたりか、鼻側から欠けていき、次に、耳側のほうが欠けていきます。視野の中心部分は、網膜の黄班(おうはん)部や中心窩(か)に映っている映像で、黄斑部や中心窩は視神経の線維が強くできているためです。最終的には、中心部分だけが見えるため、まるで筒からのぞいているような見え方になります。

このまま何もせず、慢性閉塞隅角緑内障の症状を放置すると、失明することになります。

慢性閉塞隅角緑内障の検査と診断と治療

視野欠損や視力低下を最小限に抑えるには、なるべく早めに眼科を受診して、適切な治療を受けることが必要です。

眼科の医師による検査では、中等度の眼圧上昇が認められます。眼圧が正常の場合もありますが、通常は発症している目のほうが高くなっています。隅角検査では、広範囲の隅角閉塞を認められ、周辺の虹彩前の癒着を認めることもあります。特徴的な視神経所見、視野変化を加えて、慢性閉塞隅角緑内障と診断します。

治療としては、中期〜末期の進行した時点で初めて発見されることも多いことから、レザーによる虹彩切開が第一選択となり、房水の出口を閉じている周囲虹彩を切開します。また、隅角検査で隅角が狭いことが認められた場合、症状がなくても予防目的でレーザーによる虹彩切開が行われることもあります。

レーザーによる虹彩切開によっても眼圧が下がらない場合は、薬物治療や虹彩切除を主とした手術が行われます。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...