2022/08/07

🇲🇦慢性閉塞性肺疾患(COPD)

肺への空気の流れが悪くなる疾患

慢性閉塞(へいそく)性肺疾患とは、せきやたん、息切れを主な症状とし、慢性気管支炎か慢性肺気腫(はいきしゅ)のどちらか、または両方によって肺への空気の流れが悪くなる疾患。COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)とも呼ばれます。

世界保健機関(WHO)では、死亡原因の第4位に挙げていて、2020年には第3位になると予測しています。2005年には、世界中で年間300万人が慢性閉塞性肺疾患により命を落としました。

日本では、1999年の厚生労働省による調査で、21万2000人の患者がいるとされましたが、2000年から2001年にかけて行った調査では、慢性閉塞性肺疾患の潜在患者は40歳以上の8・5パーセント(男性13・1パーセント、女性4・4パーセント)に相当する530万人と推測されました。その潜在患者のうち治療を受けているのは、5パーセント未満といわれています。

厚生労働省の統計によると、2005年に14416人が慢性閉塞性肺疾患により死亡し、死亡原因の10位、男性に限ると7位を占めています。

別名、たばこ病ともいわれるように、最大の原因は喫煙で、患者の90パーセント以上は喫煙者です。長年に渡る喫煙が大きく影響するという意味で、まさに肺の生活習慣病です。

たばこを吸わない人でも4・7パーセントの人が慢性閉塞性肺疾患にかかっています。これは、副流煙による受動喫煙の危険性を物語っています。副流煙には、喫煙者が吸う主流煙よりも発がん物質を始めとする有害物質、例えばタール、トルエン、メタンなどが多く含まれています。

喫煙者が近くにいる人は、たばこを吸わなくても喫煙者と同等か、それ以上の有害物質を吸い込んでいるのです。家族がヘビースモーカーだったり、分煙されていない職場で仕事をしている人は、慢性閉塞性肺疾患にかかる危険性が高まります。

たばこと慢性閉塞性肺疾患の関連を示す数字として、「喫煙指数」があります。

「喫煙指数」=1日に吸うたばこの本数×喫煙している年数

例えば、1日に40本、20年間喫煙している場合は40×20=800で、喫煙指数は800。この指数が700を超えると慢性閉塞性肺疾患だけでなく、咽頭がんや肺がんの危険性も高くなるといわれています。喫煙指数が同程度の男女を比較すると、男性よりも女性のほうが重症化しやすい傾向があることがわかっています。

慢性閉塞性肺疾患には、頑固なせきやたんが続き気管支が狭くなる慢性気管支炎と、肺の組織が破壊されて息切れや呼吸困難を起こす慢性肺気腫が含まれます。どちらも初期には自覚症状がほとんどない場合が多く、ゆっくりと進行して、次第に重症になっていきます。呼吸機能の低下が進んで、通常の呼吸では十分な酸素を得られなくなると(呼吸不全)、呼吸チューブとボンベの酸素吸入療法なしには日常生活が送れなくなってしまいます。

医師による診断は、スパイロメトリー検査によって行われます。息を深く吸い込んで思い切り最後まで吐き出した量が肺活量ですが、最初の1秒間に吐き出す息の量が肺活量に占める割合(1秒率)によって、呼吸機能を計測します。この1秒率が70パーセント以下の場合に、慢性閉塞性肺疾患と診断されます。

 たばこを吸い続けている人、吸ったことのある人は、ぜひこの検査を受けてみてください。

予防は、いうまでもなく禁煙です。家族にたばこを吸う人がいる場合は、喫煙の有害性を話し合って、禁煙を勧めましょう。

 禁煙したくてもなかなかできない人は、禁煙外来などで医師に相談してみてください。特に不安な人には、医療機関で肺機能検査や胸部CT検査を受けることをお勧めします。

慢性閉塞性肺疾患になると呼吸機能は元の健康な状態には戻らないので、今より悪くしないことが治療の最も重要な眼目になります。喫煙者の場合は、症状をそれ以上に進めないよう、まずは禁煙。同時に、気道を広げて呼吸を楽にする気管支拡張剤、せきを切れやすくする去痰(きょたん)剤などが、対症療法的に用いられます。

息が切れると動くのが面倒になり、運動不足になって運動機能が低下し、呼吸困難がさらに悪化するという悪循環になりがちです。そのため、ウォーキングなどの軽い運動や腹式呼吸も効果的です。

肺や気管支の障害は、インフルエンザや肺炎などにかかった場合に重症化する危険性があります。インフルエンザが流行する冬にはうがいを励行する、秋には前もってワクチン接種受けておくなど、十分に注意することが大切です。

🇦🇶慢性便秘

数日以上も便通がない症状が日常的に起こるもの

慢性便秘とは、大腸内に便がとどまり、数日以上も便通がない症状が日常的に起こるもの。旅行などで食事や生活環境が急に変化して起こる一過性の便秘は、除外します。

便通は一般的に、食後24~72時間後に起こるとされています。便が長い間、大腸内にとどまるために水分が減少して硬くなり、排便に困難を伴う状態が便秘で、通常は便の回数の減少、便量の減少、硬い便、排便困難感、残便感、腹部不快感、腹部膨満感、腹痛がみられます。ひどい便秘で苦しんでいるのは女性に多く、加齢とともに増える傾向があります。

慢性便秘では、大腸がん、大腸ポリープ、大腸憩室(けいしつ)、子宮筋腫(きんしゅ)など大腸や婦人科の疾患が原因となって、腸の内径が狭くなり、便が通りにくくなるために起こる場合と、疾患以外で起こる場合とがあります。後者には、習慣性便秘、弛緩(しかん)性便秘、けいれん性便秘があります。

習慣性便秘は、現代人に最も多い、生活習慣が原因で起こる慢性便秘です。朝はぎりぎりまで寝ていて朝食抜き、トイレに行く時間もなく家を飛び出すような生活をしている人に多く、便意が起こっても、時間がないからと我慢し続けた結果、便意を催さなくなるものです。

便意は排尿感覚と違って、15分ぐらい我慢していると消えてしまうのが特徴。たびたび我慢しているうちに、感じ方も鈍くなってきます。そして、便が長いこと直腸にたまっていると、水分がどんどん吸収されて硬くなり、ますます出にくくなって、便秘が慢性化します。

最も問題となるのは便意を起こすことになる朝食を抜くことにあるので、朝は牛乳と果物だけでもいいですから、何か食べるようにしたいもの。また、便意を感じたら、すぐにトイレに行くことを心掛けるのも大切。朝起きたら、冷たい水をコップに一杯飲んだり、腸を活動させるために、適度で定期的な運動をして血液の循環をよくするのも効果的。

弛緩性便秘は、もともと腹筋が弱い女性に多くみられます。結腸がたるんで、便意を感じる力も便を送り出す力も弱まるため、排便時に上手に息むことができなくなった結果、慢性便秘となるものです。

内臓が下垂気味の体質の人は、腸もたるみやすく、陥りやすい傾向があります。また、下剤を使いすぎた場合も、薬の刺激で便意を催させるため、腸の機能が低下して弛緩性便秘になることがあります。

この便秘を解消するには、腹筋を鍛えることが大切。便の量を増やして、結腸の運動を促すために、豆類、いも類、野菜類など、食物繊維を含む食物を多く取るように心掛けるのも効果的。

けいれん性便秘は、コロコロした硬くて丸い便が出るのが特徴です。ストレスや不安、疲労が原因で自律神経の調整がうまくいかないために、S状結腸が過敏に反応して、けいれんを起こし、便が通りにくくなって慢性便秘となります。便が腸に居座っているうちに水分が吸収され、コロコロした硬い便になるというわけです。同じストレスが原因となる過敏性腸症候群である場合には、便秘と下痢を交互に繰り返すこともよくあります。

けいれん性便秘は、弛緩性便秘とは逆に、こんにゃく、白米、白パン、うどん、脂肪の少ない肉類、白身魚、豆腐など消化のよい食物を取るようにすることが有効。便秘薬を使うと、ますます腸の緊張を高めるので、使用は避けます。原因となるストレスや疲労を解消することが、何より大切。

慢性便秘の原因が疾患である場合は、医療機関を受診して原因疾患の治療を行います。便秘薬を使用する場合は医師に相談すべきで、浣腸(かんちょう)も使用しすぎると直腸神経がまひし、習慣性便秘の原因となるので要注意です。

医師による診断では、血液検査、腹部単純X線検査、大腸内視鏡検査や大腸X線検査が行われます。

医師による治療では、大腸や婦人科の疾患が原因となっている場合、原因疾患の治療を行います。ほかにも、薬剤性の便秘(向精神薬、抗コリン薬、抗けいれん薬、筋弛緩薬など)、代謝・内分泌性の便秘(糖尿病、甲状腺(こうじょうせん)機能低下症、副甲状腺機能高進症など)、神経筋原性の便秘などもあり、それぞれの便秘の仕組みに応じて治療を行います。

弛緩性便秘の場合、便の量を増やして大腸を伸ばし、大腸運動を誘発する膨張性下剤や、大腸の平滑筋運動を促進させる薬剤を投与します。けいれん性便秘の場合、塩類下剤で便を軟らかくし、ストレスや不安が背景にある時には抗不安薬や抗うつ薬を使うこともあります。

🇦🇶ホモシスチン尿症

アミノ酸のメチオニンの代謝に必要な酵素の異常で、ホモシスチンが尿中に排出される疾患

ホモシスチン尿症とは、アミノ酸の一つのメチオニンを代謝する際に必要な酵素に異常があるために、ホモシスチンという物質を発生し尿中に排出される疾患。先天性代謝異常症の一種です。

人間が成長、発育していくには、蛋白(たんぱく)質、糖質、脂肪、ビタミン、ミネラルなどの栄養分が必要であり、これらの栄養分は胃、腸で分解され、小腸より吸収されて、肝臓などの内臓や脳、筋肉に運ばれます。内臓ではさらに、それぞれの臓器を構成するのに必要な成分に分解、合成されます。

このように栄養分を分解、合成する代謝には酵素の働きが必要ですが、この酵素が生まれ付きできないために、その酵素が関係する成分の蓄積が起こって、いろいろな症状が現れるのが、先天性代謝異常症です。

先天性代謝異常症の種類はたくさんありますが、その中でホモシスチン尿症は比較的頻度が高く、早期発見により正常な発育を期待できるため、新生児の集団スクリーニングの実施対象疾患となっています。新生児の約90万人から100万人に1人の割合で、ホモシスチン尿症を発症するとされています。

口から摂取した蛋白質は胃でアミノ酸に分解され、腸より吸収されます。そのアミノ酸の一つであるメチオニンは、体内で合成することができず、食品中に含まれるものを摂取して補わなければならない必須(ひっす)アミノ酸の一つでもあり、シスタチオニン合成酵素の働きによって、ホモシステインというアミノ酸に変換され、その後、システインとシスチンに作り替えられます。

このシスタチオニン合成酵素が生まれ付き欠けていると、血液中のホモシステインやメチオニンの量が増え、ホモシスチンという物質が尿中に排出されるようになります。これがホモシスチン尿症で、ある種の薬の使用で後天的にも起こりますが、先天性のものは常染色体劣性遺伝します。

出生時は無症状の場合がほとんどで、出生後に治療しないまま放置すると年齢とともに、目、骨格、中枢神経、血管系に障害が起こります。

目では、2歳ごろから水晶体のずれが起こったり、視力がひどく低下します。

骨格では、骨粗鬆(こつそしょうしょう)症も含めた骨格異常がみられます。そのため、手足や手指が長くなり、背骨の曲がった細くて背の高い体形になります。

中枢神経系では、1~2歳の間に発育、発達の遅れが目立つようになり、歩き始めが遅れたり、よたよた歩きになったりします。約半数にに、けいれんや知能障害がみられます。

血管系では、血液が凝固しやすくなるために、血管中で血液が固まった血栓(けっせん)が詰まる脳梗塞(こうそく)や肺塞栓(そくせん)が起こり、死因になることが多いとされています。

ホモシスチン尿症の検査と診断と治療

ホモシスチン尿症は、新生児の集団スクリーニングという集団検診の対象疾患になっています。具体的なスクリーニングの流れは、まず産科医療機関で生後4~7日目の新生児のかかとからごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送します。センターでスクリーニング検査を行い、血液中のメチオニン濃度を測ることによりホモシスチン尿症を発見しています。

結果に異常のある場合、小児科の医師による診断で、精密検査を行います。血液中のメチオニン濃度は新生児の肝臓病や、高メチオニン血症など他の先天性代謝異常症でも上昇することが知られているので、ホモシスチン尿症と診断するためには、尿中に大量のホモシスチンが排出されていることを確かめます。最終的に診断を確定するには、肝臓か皮膚の細胞で酵素の働きを測定する検査を行います。

ホモシスチン尿症と確定されると、小児科の医師による治療では、ホモシスチンはアミノ酸の一つであるメチオニンから作られるため、メチオニン制限食による食事療法を行い、有害なホモシスチン濃度を低下させます。また、生成物であるシスチンが合成されないので、食事に添加します。

乳児期の治療には、メチオニンを除去し、シスチンを強化した特殊ミルクを用います。メチオニンは必須アミノ酸なので、発育に必要な最小限のメチオニンを母乳や普通ミルク、低蛋白(たんぱく)の食事によって与え、不足する栄養素を特殊ミルクで補います。血液中のメチオニン濃度は、1 mg/dL(ミリグラムパーデシリットル)以下を目標にします。

ホモシスチン尿症はコントロールが悪いと血栓症を起こし、最悪の場合は死亡する危険性があります。そのため、厳格な食事療法を生涯続ける必要があります。

シスタチオニン合成酵素の補酵素であるビタミンB6投与で、ホモシスチン濃度が低下するタイプでは、ビタミンB6を併用することで食事療法を緩和することが可能です。

最近、ベタインという物質を服用することでホモシスチン濃度が低下するということがわかってきましたが、まだ日本では薬としては認可されていません。

🇲🇭ポリープ様声帯

声帯全体がむくむ疾患で、声がれなどが発生

ポリープ様声帯とは、声帯が全長にわたって水膨れのようにむくんで、はれた状態になる疾患。声帯ポリープ様変性とも呼ばれます。

声帯は、のど仏を形成する甲状軟骨の中にある縦16~20ミリ、横10ミリ、厚さ3ミリほどの細長い粘膜とその回りにある結合組織に包まれた帯状の器官。左右1枚ずつ、計2枚の対になっています。

声の元になる音は、左右2枚の帯状声帯の声門が男性で毎秒100回、女性で毎秒250回左右に開閉して振動を生じ、その振動の響きや音色が口や鼻の中で変えられて実際の声になるのです。また、声帯は、飲食物が誤って肺に入らないように閉じて誤嚥(ごえん)を防ぎ、肺炎を起こさない役目も果たしています。

この声帯全体が病変になり、水膨れのようにむくんで、はれた状態になるのが、ポリープ様声帯です。多くの場合、病変は左右両側の声帯に生じます。

一方、声帯のふちに小さな、いぼのような突起ができる声帯結節や、声帯結節が大きくなってキノコ状になる声帯ポリープは、声帯の一部に限られた病変です。

ポリープ様声帯は、声帯の粘膜の下にある固有層に浮腫(ふしゅ)状組織がたまるために生じます。

それにより、声がれ、すなわち嗄声(させい)が起こります。多くは、通常の声よりもずっと低音のガラガラとしただみ声となり、また、のどの乾燥した感じや違和感が継続するようになります。

さらに重症化すると、固有層の浮腫状組織が増えて、のどをふさぐようになり、息苦しさを覚えるようになります。さらにほうっておくと、呼吸困難にまで進行することがあるので注意が必要です。

ポリープ様声帯の原因は、喫煙や飲酒などによるのどの刺激と、声の出しすぎなどによるのどの酷使にあります。とりわけ、発症者にヘビースモーカーが多いことから、喫煙は大きな原因と考えられています。軽度の場合、禁煙だけでも症状が改善されることがあるほどです。

 声がれなどが2週間以上改善しない場合には、とりわけ喫煙者は喉頭がん(声門がん、声門上がん、声門下がん)の可能性も念頭に入れて、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。

ポリープ様声帯の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、喉頭ファイバースコピー検査、喉頭ストロボスコピー検査で声帯を観察し、水膨れのようにむくんで、はれた状態を確認することにより、容易に判断できます。喉頭がんを疑う声帯の所見がある時には、組織を採取して調べる病理組織検査を行います。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、まず禁煙に取り組んでもらいます。禁煙が達成されるだけでも、声帯のはれが軽度の場合は症状が改善されることがあります。

また、消炎剤の投与やステロイドホルモンの吸入(ネブライザー)治療が効果を示すこともあります。

声帯のはれが中程度から高度なものでは、保存的治療は無効なことが多く、声帯粘膜下の浮腫状組織を取り除く喉頭顕微鏡下手術を行います。

手術は全身麻酔で行うため、入院が必要です。また、病理組織検査で悪性化の有無をチェックするので、喉頭がんとの区別も同時に可能になります。手術の後には声帯の傷の安静のために、1週間前後の沈黙期間を設けます。

再発防止のため、禁煙をすることが大切で、飲酒を控えたり、大声を出しすぎてのどを酷使しない心掛けも必要です。

🇲🇭ポリオ(小児まひ)

ポリオウイルスによって発症する感染症

ポリオとは 、ピコルナウイルス科、エンテロウイルス属のポリオウイルスによって発症する感染症のこと。ポリオ (Polio)はポリオミエリィティス(Poliomyelitis)の省略形で、小児まひ、脊髄(せきずい)性小児まひ、急性灰白髄(かいはくずい)炎の別名でも呼ばれます。

ポリオウイルスが感染して、脊髄神経の灰白質という部分を侵すため、初めの数日間、発熱、頭痛、背骨の痛み、嘔吐(おうと)、下痢などの症状が現れた後、急に足や腕が左右非対称性にまひして、動かなくなります。

5歳以下の小児の罹患(りかん)率が高かったことから、一般には小児まひと呼ばれることが多いのですが、大人がかからないわけではありません。病原ウイルスは感染者ののどにいますが、主な伝染源になるのが感染者の大便とともに排出されたウイルスで、さまざまな経路で経口感染します。季節的には、夏から秋にかけて多く発生します。

日本では1960年に新潟県、北海道、九州地方で大流行し、61年から生ワクチンの服用が全国的に実施されています。1980年には、自然感染によるポリオが根絶され、現在ではポリオワクチンからの2次感染でしか発症していませんが、海外ではまだ流行している地域があります。世界保健機関(WHO)では、撲滅を目指しています。

なお、日本国内での2次感染での発症は計12件で、2008年2月に北海道の男の乳児が発症、2000年に宮崎県で発生して以来のこととなりました。生ワクチンの服用では、弱毒化したポリオウイルスを体内に取り込んで免疫を作りますが、450万回に1回の割合で発症するとされます。

🇫🇲ボレリア感染症

マダニなどにより媒介され、スピロヘータ科ボレリア属の細菌を病原体とする感染症

ボレリア感染症とは、野ネズミや小鳥などを保菌動物とし、野生のマダニなどによ って媒介されるスピロヘータ科ボレリア属の細菌による感染症。

このボレリア感染症として、ライム病と回帰熱が知られています。

ライム病は、ヨーロッパからアジアまでの温暖な森林地帯、北アメリカの北東部、北中央部、太平洋沿岸地域で多く見られますが、世界中で発生がみられます。ヨーロッパで感染すると皮膚症状が、北アメリカで感染すると関節炎の症状が、目立ちます。日本では年間数十件の患者の報告があり、特に北海道での報告が多く東京都内でも報告があります。

 病原体は、スピロヘータ科ボレリア属のライム病ボレリアという、ひょろ長い形をした細菌です。ライム病ボレリアは数種類が確認されており、北アメリカでは主にボレリア・ブルグドルフェリ、ヨーロッパではボレリア・ブルグドルフェリのほか、ボレリア・ガリニ、ボレリア・アフゼリ、ボレリア・ババリエンシスが主な病原体となっています。日本では、ボレリア・ババリエンシス、ボレリア・ガリニが主な病原体となっています。

 これらのライム病ボレリアを保有した野生のマダニ科マダニ属のダニに刺されることによって、感染します。北アメリカにおいては主にスカプラリス・マダニ、ヨーロッパにおいてはリシナス・マダニが媒介し、日本ではシュルツェ・マダニが媒介するケースがほとんど。人から人へうつることは、ありません。

潜伏期は3~32日間で、感染初期には、多くの場合、遊走性紅斑(こうはん)と呼ばれる特徴的な症状が出ます。これは、マダニに刺された部位に赤色の丘疹(きゅうしん)が生じ、次第に遠心状に、輪状の紅斑が広がっていくというものです。また、その際に、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、全身倦怠(けんたい)感などの症状を伴うことがあります。

その後、病原体が血液によって全身に運ばれるのに伴い、重度の頭痛や首筋の硬直、刺された部位以外の発疹、関節痛や関節のはれ、筋肉痛、動悸(どうき)や不整脈、めまいや息切れ、神経痛、手足のしびれや痛み、脳や脊髄(せきずい)の炎症、記憶障害など多彩な症状が現れます。

 感染から数カ月ないし数年をへて重症化すると、皮膚症状や関節炎、脊髄脳炎などが悪化し死亡することがあります。また、治療が遅れると皮膚や関節などに後遺症が残ることがあります。

日本では、ライム病は感染症法で全数把握対象の4類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに保健所に届け出ることになっています。

回帰熱は、野生のダニやシラミに媒介されることで発症する細菌感染症。再帰熱とも呼ばれます。

回帰熱を発症すると、発熱期と無熱期を数回繰り返すことから、この疾患名が付けられました。回帰熱を引き起こす病原体は、スピロヘータ科ボレリア属のボレリア・レカレンチス、ボレリア・ミヤモトイ、ボレリア・ヘルムシーなどの細菌で、回帰熱ボレリアとも呼ばれます。

回帰熱には、ダニが媒介してボレリア・レカレンチスやボレリア・ミヤモトイを病原体とするものと、シラミが媒介してボレリア・ミヤモトイやボレリア・ヘルムシーなどを病原体とするものがあります。

ダニ媒介回帰熱は、アフリカ大陸、イベリア半島(特に地中海地域)、中央アジア、中東の一部、インド、中国、アメリカ大陸など非常に広い範囲で分布します。シラミ媒介回帰熱は、エチオピア、スーダン、南スーダン、ソマリアなどアフリカ大陸の高地、インド、南米アンデス山地などでみられます。

日本では、海外で感染し帰国後に発症した数例を除き、過去数十年間、国内で回帰熱の患者の報告はありませんでしたが、近年の逆上り調査の結果、2011年以降に、北海道でボレリア・ミヤモトイ感染による回帰熱の患者2名が発生していたことが明らかになりました。

日本では、回帰熱は感染症法で全数把握対象の4類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに保健所に届け出ることになっています。

回帰熱は、基本的にダニやシラミに刺されることを原因として発症します。人から人に直接感染することはありません。

刺されてから約1〜2週間の潜伏期間をへて、病原体が血液中に存在して40℃以上の高熱が1週間ぐらい続き、その後一時的に細菌が減少して約1週間は熱がなく、再び発熱するといった発熱期と無熱期を複数回繰り返します。

発熱期には、発熱以外に頭痛や筋肉痛、関節痛、悪寒、吐き気、結膜炎、点状出血、黄疸(おうだん)、肝臓や脾臓(ひぞう)の腫大(しゅだい)などが生じます。無熱期には、発汗、倦怠(けんたい)感がみられ、時に低血圧症や赤いぶつぶつとした発疹(はっしん)が発生することもあります。

一般的には2回目以降の発熱期は短く、熱の程度も軽くなります。これを繰り返した後、最終的に解熱します。

ただし、発熱期には、中枢神経障害として髄膜炎や脳出血、心筋炎、肺炎などを起こすこともあり、症状が重い場合には死に至ることもあります。妊婦が感染した場合は、低出生体重児や早産、自然流産のリスクが高まります。

ダニ媒介回帰熱とシラミ媒介回帰熱の症状は似ていますが、一般にシラミ媒介回帰熱のほうがより重篤な症状を示します。致死率は、ダニ媒介回帰熱では10%以下ですが、シラミ媒介回帰熱では50%にまで達することがあります。

ボレリア感染症の検査と診断と治療

内科、皮膚科、感染症科、感染症内科などの医師によるライム病の診断は、典型的な症状、感染の機会の有無、さらに病原体あるいは病原体の遺伝子の検出、抗体検査に基づいて下します。

発症の数週間前に、流行地への旅行歴、もしくは野山や河川敷などでの活動歴があればライム病が疑われます。

内科、皮膚科、感染症科、感染症内科などの医師による回帰熱の診断は、その特殊な熱型と、血液中の病原体ボレリア属の顕微鏡による検出によって、容易に回帰熱と確定できます。

血液検査では、血液中の細菌量が比較的多い発熱期に採血し、血液を染色して顕微鏡で観察して病原体の特徴的な形態が見られるか調べます。ほかにも、抗原や遺伝子などを検出する蛍光抗体法(免疫蛍光法)やPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法など別の方法を選択することもあります。

内科、皮膚科、感染症科、感染症内科などの医師によるライム病の治療は、ペニシリン系、テトラサイクリン系の抗生物質が有効で、近年はセフェム系抗生物質も用いられています。

治療が遅れると重症化や後遺症が残る場合があるので、早期発見、早期治療が重要です。

内科、皮膚科、感染症科、感染症内科などの医師による回帰熱の治療は、抗生物質を使用します。テトラサイクリン系の抗生物質が最も有効で、ストレプトマイシン、ペニシリンも効果がありますので、年齢などに応じて使用する抗生物質を決定します。

ただし、抗生物質の初回投与後数時間以内に悪寒や震えが生じ、その後ショックから死亡に至ることもあるので、注意が必要です。この反応は、ダニ媒介回帰熱の場合は30〜40%、シラミ媒介回帰熱の場合は80〜90%の症例で生じるといわれています。

ライム病、回帰熱が知られるボレリア感染症は、ワクチンによる予防対策を講じることができない疾患のため、病原体を保有するダニやシラミに刺されない対策を講じることが重要です。

そのポイントは、森林作業や農作業、レジャーなどで、草むらややぶなどダニやシラミが多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖(ながそで)、長ズボン、帽子、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。

衣類にダニがついていることがあるので、森林や野山などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。

万が一ダニ類に刺され、皮膚に吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、入浴して体をよく洗って注意深く取り除くか、医療機関で処理してもらうことです。

 シラミが移ることを防ぐために、衣類や寝具、ヘアブラシなどの共有を避けます。

🇫🇲本態性環境不耐症

身の回りにある微量な化学物質に反応し、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患

本態性環境不耐症とは、身の回りにある微量な化学物質に過敏反応を起こし、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患。化学物質過敏症、多種化学物質過敏症、本態性環境不寛容状態などとも呼ばれます。

過去に大量の化学物質に曝露(ばくろ)されて体の耐性の限界を越えた後、または長期間に渡って慢性的に低濃度の化学物質に曝露されて体の耐性の限界を越えた後、極めて微量の化学物質に再接触した際に過敏反応し、頭痛やせきを始め、アレルギーに似た症状、情緒不安、神経症などさまざまな症状を示します。

本態性環境不耐症の発症原因の半数以上は、室内空気汚染です。この室内空気汚染による健康影響は、シックハウス症候群、あるいはシックビル症候群とも呼ばれています。自宅や職場、学校などの新築、改修、改装で使われる建材、塗料、接着剤から放散されるホルムアルデヒド、揮発性有機化合物などが、室内空気を汚染するのです。建築物自体だけでなく、室内で使われる家具、カーテンに含まれる防炎・可塑剤、殺虫剤、防虫剤や、喫煙なども室内空気汚染を引き起こし、本態性環境不耐症の発症原因になります。

また、大気汚染物質、排気ガス、除草剤、食品の残留農薬、食品添加物(保存料、着色料、甘味料、香料など)、医薬品、石鹸、シャンプー、化粧品、洗剤、芳香剤なども本態性環境不耐症の発症原因になります。

本態性環境不耐症で起きる症状は、アレルギー疾患の特徴と中毒の要素を併せ持つとされ、その症状は多岐に渡ります。粘膜刺激症状(結膜炎、鼻炎、咽頭〔いんとう〕炎、口渇) 、皮膚炎、気管支炎、喘息(ぜんそく)、循環器症状(動悸〔どうき〕、不整脈) 、消化器症状(下痢、便秘、悪心)、自律神経障害 (異常発汗、手足の冷え、易疲労性)、精神症状 (不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害 (けいれん)、頭痛、発熱、疲労感、末梢(まっしょう)神経障害、運動障害、四肢末端の知覚障害などがあります。

化学物質の摂取量と症状との関係などは未解明で、化学物質に対する耐性は個人差が大きいとされ、その症状や度合い、進行速度、回復速度なども多種多様であるといわれます。

本態性環境不耐症の定義、診断方法などの検証が十分とはいえない部分もあり、世界的には本態性環境不耐症を特定の疾患と認めることに否定的な意見が大勢を占め、心身症と考える意見が強いとされます。日本でも多数の医師は本態性環境不耐症に関心を持っておらず、診療できる医師は限られているため、疲れや軽い風邪、精神疾患、心身症、更年期障害など別の疾患として診断されたり、原因不明として放置されているケースもあるものと見なされます。

本態性環境不耐症の検査と診断と治療

日本では現在、本態性環境不耐症(化学物質過敏症)を専門に扱う化学物質過敏症外来、化学物質過敏症診療科(シックハウス診療科)、アレルギー科(化学物質過敏症外来)、シックハウス外来などを設けている医療機関もあります。

室内空気汚染による本態性環境不耐症の一種であるシックハウス症候群について述べると、医師による診断のポイントは、第1に自覚症状が出現した経過です。原因となった住居への入居前後での体調の変化を詳細に問診します。つまり、自覚症状の発症経過と居住環境の変化が1つの線で結び付けられるかどうかが、重要となります。

初診時に症状が出現する場所の空気測定結果を持参することは、大きな診断の助けとなります。この室内空気の測定は、新築、改修などを行った施工業者が有料で、最寄りの保健所が簡易測定を無料で行ってくれます。

シックハウス症候群の大半のケースでは、何らかの中枢神経系あるいは自律神経系の機能障害が認められるため、診断のための検査では神経眼科検査が有用。神経眼科検査では、目の動きが滑らかかどうかを評価する眼球電位図(EOG)、目の感度を評価する視覚コントラスト感度検査(視覚空間周波数特性検査)、光に対する瞳(ひとみ)の反応を評価する電子瞳孔(どうこう)計による瞳孔検査などがあり、シックハウス症候群では異常値を示すケースが多いことがわかっています。

例えば、目の動きを調べる眼球電位図(EOG)検査では、程度に差はあるもののシックハウス症候群発症者の85パーセント以上に滑動性追従運動異常が認められます。

また、開眼時、閉眼時重心動揺検査でも、高い頻度で異常値を認めます。ただ、これらの検査は、シックハウス症候群発症者にみられる一般的特徴を調べるもので、確定診断法としてのツールにはなりません。

確定診断法として唯一の方法は、ブーステストあるいはチャレンジテストと呼ばれ、実際に揮発性化学物質を発症者に曝露し、何らかの症状が誘発されるかどうかを結果の再現性も含めて確認する検査方法しかありません。しかし、この検査を行うためには、化学物質を低減化したクリーンルームが設備として必要で、今のところこの設備を有する特殊専門病院は国内でも数カ所程度しかなく、現在の医療水準では確定診断は難しいといわざるを得ない状況です。

本態性環境不耐症の半数以上を占めるシックハウス症候群の治療は、原因となった居住環境の改善という建築工学的アプローチと、身体状況の改善という医学的アプローチの二本立てで行います。

居住環境の改善としては、自覚症状の原因が室内空気汚染ですから、空気汚染の原因はどこにあるのか、何をどのように改善すればよいのか、汚染された建材や建材関連品の交換、新しい家具などの吟味、十分な換気量の確保を含めて、施工業者と十分に相談して善後策を立てることです。化学物質以外のカビやダニなど微生物による空気汚染が広い意味でのシックハウス症候群の原因となることも考えられるため、これらの発生防止や除去なども必要です。

身体状況の改善としては、ゆっくり歩いて30分などの軽い運動療法、少しぬるいと感じる39度前後の半身浴、60度前後の低温サウナなどの温熱療法が自覚症状の改善に有効で、居住環境が整えば数カ月~6カ月程度で、多くの症状は軽快します。また、解毒剤、水溶性ビタミン剤も身体状況の改善に有効であり、タチオン、タウリン散、ノイロビタン、アスコルビン酸末などの服薬治療も併せて行うことが一般的です。

一般的な意味での体調管理も重要です。暴飲暴食を避け、バランスの取れた規則的な食事や、十分な休養と睡眠、定期的な軽い運動を心掛けて体調がよければ、同じ環境負荷に対しても反応は軽くてすみます。

発症者によっては、シックハウス症候群を契機に、通常では気にならないほんのわずかな芳香剤、たばこ、香水などのにおいが気になったり、極めて微量の化学物質にさらされるだけでも多彩な症状が出現するようになったりするケースもまれにみられます。このようなケースでは、多くの場合、社会生活が制限されるため、心療内科医によるケアを併せて行う必要があります。

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