2022/08/10

🇬🇳膿腎(のうじん)症

腎盂および腎実質の中に膿がたまる疾患

膿腎(のうじん)症とは、水腎症に細菌の感染が加わって腎盂(じんう)や腎杯が強い炎症を起こし、腎盂および腎実質の中に膿(うみ)がたまる疾患。

膿腎症が高度になると、敗血症を起こし死に至ることもあります。しかし、重度の尿路感染症は減少の傾向にあり、膿腎症はまれな疾患となっています。

症状として、40度以上の高熱が続き、腎臓部の痛み、背部痛があるほか、倦怠(けんたい)感、食欲不振、貧血などの全身症状が伴い、膿による尿の濁りが現れます。最も多い原因は、水腎症や腎結石、尿管結石が原因となり、腎盂や腎杯が感染することです。以前は、肺結核などの結核菌が血液の中に入り、腎臓の中に運ばれることが原因で、膿腎症が起こることが多くみられましたが、最近では抗結核剤の出現でほとんどみられません。急性の腎盂炎から起こることも、ほとんどありません。

膿腎症の検査と診断と治療

膿腎症が軽症の場合は、強力な抗生物質を長期間服用する治療が行われます。しかし、一般的には効果が少ないため、重症の場合は、他方の腎臓の状態を検査して、腎臓の摘出手術を行う場合もあります。

🇬🇳脳水腫

脳脊髄液が頭蓋内にたまり、脳室が拡大する疾患

脳水腫(のうすいしゅ)とは、脳脊髄(せきずい)液(髄液)が頭蓋(とうがい)内にたまり、脳の内側で4つに分かれて存在する脳室が正常より大きくなる疾患。水頭症とも呼ばれます。

脳脊髄液は、脳全体を覆うように循環して脳保護液として働き、脳を浮かせて頭部が急激に動くことによる衝撃を柔らげたり、部分的な脳の活動によって産生される物質を取り除く働きも併せ持つと考えられています。脳室で血液の成分から1日約500ミリリットル産生されて、1日で3回ほど全体が入れ替わる程度のスピードで循環し、最終的には、くも膜という脳の保護膜と脳との間に広がっている静脈洞という部位から吸収され、血液へ戻ってゆきます。

この脳脊髄液の産生、循環、吸収などいずれかの異常によって、脳脊髄液が頭蓋内に余分にたまると、脳を圧迫し、脳機能に影響を与えます。

生まれ付きの異常で起こっている場合を先天性、生まれてから生じた異常で起こってきた場合を後天性と区別しています。

先天性の脳水腫(水頭症)は、出生1000人に2人程度発生しています。原因としては、先天的な脳の形態異常(奇形)や、母胎内での感染が挙げられます。

脳の形態異常には、中脳水道狭窄(きょうさく)症、脊髄髄膜瘤(りゅう)に合併したキアリⅡ型奇形、脳脊髄液の静脈洞への流入が障害される交通性水頭症、ダンディー・ウォーカー症候群、脳瘤などがあります。

いくつかの骨が結合してできている頭蓋骨は、生まれてしばらくの間、骨同士の結合が弱く、軟らかく組み合わさっています。生まれ付き脳水腫を持っている乳児や、頭蓋骨の結合が軟らかい時期に脳水腫になった乳児は、脳脊髄液が頭蓋内に余分にたまって大きくなった脳室の圧力によって、頭蓋骨を押し広げる状態が続く結果、頭が大きくなることが起こります。

頭の拡大が目立つ乳児までの時期以降では、余分な脳脊髄液による内圧の上昇は、脳を直接圧迫する力となり、頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)を引き起こします。食欲不振、体重減少、全身倦怠(けんたい)感など頭の症状とは考えにくいことも起こり、長い間、気付かれない場合もあります。また、神経への影響から、視力の低下、目の動き方の不自由などを起こします。

乳幼児の頭が異常に大きければ、脳の疾患を疑って小児科、ないし脳外科、脳神経外科を受診することが勧められます。

一方、後天性の脳水腫(水頭症)は成人でみられることが多く、脳腫瘍(しゅよう)、がん、細菌・ウイルス・寄生虫などの感染で起こる髄膜炎、頭部外傷、脳動脈瘤の破裂や高血圧が原因で起こる脳内出血、脳室内出血、脳室内腫瘍などの原因となる疾患に合併して、頭蓋内の内圧が上昇し、年齢を問わず起こります。

余分な脳脊髄液による頭蓋内の内圧の上昇は、脳を直接圧迫する力となり、激しい頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害を引き起こします。急激に症状が悪化する場合もあるため、早急な処置が必要となります。

また、後天性の脳水腫には、50歳代以降の人に多くみられ、頭蓋内の圧力が上がった症状を示さない正常圧水頭症があります。脳室が大きくなっていて、認知障害、歩行障害、尿失禁といった特徴的な症状がありながらも、頭蓋内の圧力は高くなりません。くも膜下出血後や髄膜炎の治った後に認められることが多く、原因不明の特発性のものもあります。

脳水腫(水頭症)の検査と診断と治療

産婦人科、あるいは小児科、脳外科、脳神経外科の医師による先天性の脳水腫(水頭症)の診断では、妊婦の超音波(エコー)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査で、胎児脳水腫の診断がつくことがあります。確実に診断できるのは、妊娠22週をすぎてからです。

出生後は、頭囲の拡大や、大泉門(だいせんもん)という前頭部にある頭蓋骨の透き間の緊張、ほかの合併する奇形から確定します。頭部X線(レントゲン)検査や超音波検査、MRI検査を行うと、頭蓋骨の骨と骨をつなぐ縫合線の離開、脳室の拡大などが認められます。

小児科、脳外科、脳神経外科の医師による治療では、先天性の脳水腫そのものに対する治療としては、一時的な緊急避難的な治療と、永続的な治療が行われます。

一時的な治療では、ドレナージと呼ばれる方法が一般的で、余分な脳脊髄液の一部分を頭蓋骨の外へ流す処置の総称です。頭の圧力が急上昇した状態による病状の不安定さを解除するために、救急処置として行われます。

永続的な治療では、シャントと呼ばれる手術法が一般的で、年齢、原因を問わず行われています。本来の脳脊髄液の流れの一部分から、シリコンでできたシャントチューブと呼ばれる細い管を用いて、頭以外の腹腔(ふくこう)や心房などへ脳脊髄液を半永久的に流す仕組みを作ります。もしくは、できるだけ脳を傷付けないために、腰椎(ようつい)から腹腔(ふくこう)へシャントチューブを通して、余分な髄液を半永久的に流す仕組みを作ります。

内視鏡手術も行われています。神経内視鏡を用いて、脳の内部に本来ある脳脊髄液の流れ方の経路とは別に、新しい経路を作ります。治療できる年齢や原因に制約があり、シャントにとって変わる治療法にはいまだ至っていません。

単純な先天性の脳水腫では、早期に適切な治療を行えば3分の2程度の例で、正常な脳の成長が期待できます。予後に関しては、ほかの合併する奇形にもより、さまざまです。

一方、内科、脳外科、脳神経外科の医師による後天性の脳水腫(水頭症)診断では、頭部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査を行います。これらの検査で多くの場合、脳室の拡大の有無、原因となっている疾患の有無がわかります。

内科、脳外科、脳神経外科の医師による治療では、脳腫瘍、脳内出血、髄膜炎など原因となっている疾患があり、脳室内の脳脊髄液の流れを障害していれば、外科的治療で除去します。

脳水腫そのものに対する治療としては、一時的な緊急避難的な治療であるドレナージと、永続的な治療であるシャント手術が行われます。シャント手術をすると、正常圧水頭症で示している認知障害、歩行障害、尿失禁が改善することもあります。内視鏡手術が行われることもあります。

🇬🇳膿精液症

精液の中に多数の白血球が混ざっている状態で、精液が黄色く変色

膿(のう)精液症とは、精液1mlの中に、血液の細胞成分である白血球が10万個以上混ざっている状態。膿精子症、精子膿症とも呼ばれます。

男性の精液は、約9割を占める液体成分の精漿(せいしょう)と、細胞成分である精子によって構成されています。通常、赤血球や白血球などの血液の細胞成分は、精液の中に混入しないように作られています。

何らかの原因によって精液の中に白血球が混ざると、黄色い膿(うみ)が発生し、精液が黄色く変色します。また、精子の運動率が著しく低下し、日常生活におけるパートナーの妊娠率が低下します。

精子無力症を合併しているケースでは、男性不妊症につながることもあります。さらに、白血球から分泌される炎症物質によって、精子頭部に含有されているDNAがダメージを受け、妊娠しても流産の原因になることもあります。

精子膿症になる原因は、クラミジアという微生物や、大腸菌、結核菌などの細菌への感染による精嚢腺(せいのうせん)、前立腺(ぜんりつせん)、尿道、精路などの炎症が一般的で、体内に進入した異物を取り込んで、消化分解し、体を防衛している白血球が増加するために、精液の中に混ざることになります。

性交渉でクラミジアに感染した場合は、膿精液症を起こすとともに、初期の段階で排尿痛、残尿感、違和感を感じることがあり、さらに進行すると、精巣(睾丸〔こうがん〕)がはれたり、熱が出たりします。

細菌への感染による炎症は自然治癒することもありますが、精路全体が炎症を起こしている場合などは完治までに非常に長い時間がかかります。

精液が黄色く変色したまま放置していると、精子の運動能力が悪化していき、精子無力症を合併することもありますので、泌尿器科を受診することが勧められます。クラミジアに感染した場合は、パートナーも感染している可能性もあるため、一緒に受診することが勧められます。

膿精液症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、精液検査を行い、射出精液内に混入している白血球の程度を調べます。

泌尿器科の医師による治療では、抗生物質を1~2週間処方して、膿精液症の原因となる感染症による炎症を抑え、精液検査で精液の所見が改善したかどうかを確認します。尿道、精路などに洗浄液を通して洗浄することもあります。

ほかに不妊原因がない場合は、精液に混ざっている白血球の数値が正常値に戻れば、パートナーの自然妊娠も可能となります。

精液を検査して白血球の混入が著しい場合、精液を洗浄して人工授精や体外受精をする方法も行われますが、精子の運動能力が著しく悪化していて、胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれる着床前の状態への到達率も低いので、受精率は非常に低くなります。

🇱🇷脳性巨人症

遺伝子の機能異常により、大頭、過成長、特徴的な顔付き、発達の遅れなどを示す症候群

脳性巨人症とは、さまざまな身体的異常を引き起こす先天異常症候群。ソトス症候群とも呼ばれます。

1964年に、ソトスらが最初の症例を報告しました。日本では、新生児の14000人に1人程度の罹患(りかん)率と見なされていますが、軽度の症状の場合は見過ごされている可能性があり、実際には5000人に1人に近い罹患率と考えられています。

常染色体優性遺伝性疾患であり、5番染色体にあるNSD1遺伝子の異常によって起こります。

症状には幅があり、幼少期から小児期にかけての大頭症、過成長、骨年齢の促進、特徴的な顔付き、精神発達遅滞などを示します。

出生時から身長が大きく、体重もあり、手足も大きく、骨の成熟も促進しています。顔付きも特徴的で、額の大きな大頭で、下顎(したあご)の突出、口の中の上部がへこんでいる状態の高口蓋(こうこうがい)、眼瞼(がんけん)裂斜下、両眼隔離が見られ、全身の筋肉の緊張が低下して全身の筋肉の力が弱くなっています。身長や頭囲の過成長は、乳幼児期から学童期まで続きます。

また、けいれん、心疾患、腎(じん)疾患、尿路異常、外反偏平足、脊椎(せきつい)側湾、てんかん発作などを合併することもあります。

脳性巨人症の検査と診断と治療

小児科、ないし遺伝子診療科の医師による診断では、大頭症、過成長、骨年齢の促進、特徴的な外見を認め、原因遺伝子のNSD1遺伝子などに点変異を認めるか、NSD1を含む5番染色体長腕に欠失を認める場合に、脳性巨人症と確定します。

遺伝子の変異や染色体の欠失を認めない場合は、大頭症、過成長、特徴的な外見、精神発達遅滞のすべてを満たす場合に、脳性巨人症と確定します。

小児科、ないし遺伝子診療科の医師による治療では、現在のところ根治療法はないため、対症療法として、てんかん、腎疾患に対しては必要に応じて薬物療法、心疾患に対しては必要に応じて手術や薬物療法、精神発達遅滞に対しては療育的支援を行います。

主に、心疾患、腎疾患、難治性てんかんが生命予後に影響を与えます。

🇱🇷脳脊髄液減少症

脳脊髄液が減少し、頭痛やさまざまな全身症状が現れる疾患

脳脊髄液(のうせきずいえき)減少症とは、脳脊髄腔(くう)を循環する脳脊髄液が持続的、ないし断続的に漏出することによって減少し、頭痛やさまざまな全身症状を示す疾患。低脳脊髄液圧症、低髄液圧症とも呼ばれます。

脳脊髄液は、脳と脊髄全体を覆うように脳脊髄腔を循環して保護液として働き、脳と脊髄を浮かせて頭や体が急激に動くことによる衝撃を柔らげたり、部分的な脳や脊髄の活動によって産生される物質を取り除く働きも併せ持つと考えられています。

脳の内側で4つに分かれて存在する脳室で、血液の成分から1日約500ミリリットル産生されて、1日で3回ほど全体が入れ替わる程度のスピードで循環しています。最終的には、くも膜という脳の保護膜と脳との間に広がっている静脈洞という部位から吸収され、血液へ戻ってゆきます。

何らかの原因で脳脊髄腔を覆っている硬膜に亀裂(きれつ)などが生じ、この脳脊髄液が脳脊髄腔から漏出することが原因で、脳脊髄液減少症が生じます。

原因となるのは、頭や体に強い衝撃を受ける交通事故や、柔道、スノーボード、サッカー、バスケット、器械体操などによるスポーツ外傷、転倒のほか、出産、脱水などです。原因が不明なこともあります。

その症状は、起き上がると痛みが増強し、横になると痛みが軽減する起立性頭痛を主とし、付随する頸部(けいぶ)痛、めまい、耳鳴り、視機能障害、倦怠(けんたい)感などがみられます。

また、個人により、記憶力の低下、集中力の低下、食欲の低下、むくみ、しびれ、歩行障害、顔面痛、味覚障害、動悸(どうき)、胸痛、脱力感、頻尿、無月経、性欲低下、体温調節障害、不眠など、さまざまな症状が起きることもあります。

なお、この脳脊髄液減少症は、日本の医師によって提唱された新たな疾患概念であり、いまだに定まった知見や治療法が確立されていないため、国において専門家による医学的な解明が進められているところです。

このため、診療や治療を行っている医療機関は少なく、脳神経外科、神経内科、整形外科、麻酔科などの一部が診療のみ、あるいは診療と治療を行っています。

脳脊髄液減少症の検査と診断と治療

脳神経外科、神経内科、整形外科、麻酔科の医師による診断では、起立性頭痛などの症状、経過、発症の状況などを問診します。

頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うと、脳脊髄液の減少を評価できるほか、脳脊髄液の減少のために脳がやや下垂している画像が認められることがありますが、常に認められるわけではありません。

放射性同位元素(RI)脳槽(のうそう)・脳脊髄腔シンチグラフィーを行い、腰部から硬膜内に細い針を刺し、造影剤の放射性同位元素を外髄液腔(くも膜下腔)に注入すると、注入3時間以内に膀胱(ぼうこう)内に放射性同位元素が描出される画像や、放射性同位元素が髄液腔外に漏出している画像がみられれば、確定します。

脳神経外科、神経内科、整形外科、麻酔科の医師による治療では、十分な水分を摂取して、ベッドでの安静を保ちます。点滴による水分補給が必要な時もあります。

約2週間の水分摂取と安静で改善しない時には、ブラッドパッチ治療(硬膜外自家血注入療法)を行います。局所麻酔を行った後、X線(レントゲン)透視下で脳脊髄液の漏れている硬膜外腔(硬膜の袋の表面)の近くに針を刺します。そして、自己(患者本人)の腕から摂取した血液(ブラッド)に造影剤を混ぜ、刺しておいた針から注入します。すると、脳脊髄液の漏れている硬膜外腔の周囲に血液が広がって凝固し、硬膜の亀裂をふさぎます。

治療効果には個人差があり、初回で効果がない時は、2~3回行うことも少なくありません。ブラッドパッチ治療後、硬膜の亀裂は2週間から1カ月程度で修復します。

しかし、脳脊髄液の漏出が止まっても、脳脊髄液の生成が追い付くまで2~3カ月かかるのが一般的です。また、治療後6カ月間は再発のリスクが高いといわれています。

付随する諸症状についても、症状ごとに回復の程度が異なります。そのため、真に回復を実感するまでに1~3年かかるのが普通だともいわれています。

🇨🇮脳脊髄膜炎

ウイルスや細菌などの感染によって、脳を取り巻く髄膜に炎症が発生

人間の脳は、内側から軟膜、くも膜、硬膜の三層の髄膜で覆われています。脳脊髄(せきずい)膜炎とは、ウイルスや細菌などの感染によって、脳を取り巻いている髄膜に炎症が起こる疾患です。別名は、髄膜炎、脳膜炎。

よくみられるのは、風邪や中耳炎、副鼻腔(びくう)炎などにかかったことを切っ掛けに発症するケースです。風邪を引いた際に発熱と頭痛が一緒に起こることがありますが、熱に激しい頭痛を伴う時は、脳脊髄膜炎の可能性もあります。

髄膜の炎症が広がると、首が強く突っ張る項部強直(こうぶきょうちょく)で、首が曲がらなくなり、さらに炎症が脳そのものまでに及ぶと脳炎を合併し、意識障害や手足のけいれんを起こすこともありますので、すぐに神経内科や内科、小児科の専門医に診てもらうようにしましょう。

脳脊髄膜炎の原因は、ウイルスによるものと、細菌によるものに大別されます。脳脊髄膜炎を起こすウイルスは、夏風邪、はしか、風疹(ふうしん)、おたふく風邪、ヘルペス、日本脳炎などのウイルスで、神経に感染しやすい性質があります。しかし、それらが感染しても脳脊髄膜炎にかかるのは、ごく一部です。脳炎を合併するのは、ウイルスが大部分の原因です。

脳脊髄膜炎を起こす細菌は、インフルエンザ菌や肺炎双球菌、髄膜炎菌、結核菌、大腸菌、真菌(かびの一種)などで、鼻やのど、肺にくっつき、そこから血管内へ進入して髄膜に到達し、脳脊髄膜炎を起こします。

脳脊髄膜炎の検査と診断と治療

専門医の診断で脳脊髄膜炎が疑われた時は、入院して脊髄液の検査を行います。脊髄液を腰椎(ようつい)から採取して、白血球や糖を調べ、脳脊髄膜炎ならば、その病原は何かの判断をした上で、ウイルスや細菌を見付けます。脳脊髄膜炎や脳炎の程度を見るために、CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(核磁気共鳴画像法)の検査も行います。

原因がウイルスの場合は抗ウイルス薬を使うことが多く、原因が細菌の場合は抗生物質を用います。脳脊髄膜炎を引き起こしたもとになる疾患があれば、その治療も並行して行います。

脳脊髄膜炎は、早期に発見して早期に治療すれば予後の改善が期待できますが、時期を失したり、脳炎を合併したりすると、治ったとしても記憶障害などが残ってしまいます。大人では激しい頭痛が続き、熱がなかなか下がらない場合、乳幼児ではかん高い泣き声を上げたり、大泉門(だいせんもん)という前頭部にある頭がい骨の透き間が膨らんで硬く張った場合は、すぐに専門医を受診することが大切です。

🇨🇮脳底部異常血管網症

原因不明で、脳底部にもやもやとした異常血管網が現れる脳血管疾患

脳底部異常血管網症とは、日本人に多発する原因不明の脳血管疾患。ウィリス動脈輪閉塞(へいそく)症、もやもや病ともいいます。

厚生労働省指定の難病の一つで、1950年代の後半に初めてその存在が気付かれました。脳底部のウィリス動脈輪に狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)がみられ、脳虚血症状を示し、体の各部のまひ、知覚異常、不随意運動、頭痛、けいれんなどを起こします。

脳血管撮影をすると、脳底部にもやもやとした異常血管網が認められます。大脳へ血液を送る頸(けい)動脈が頭の中で狭くなったり、詰まったりするために、脳の深い部分の細い動脈が不足する脳の血流を補うための側副血行路として発達して太くなり、異常な血管網の構造を示すことになります。

脳への血液の供給が足りない状態である脳虚血や、脳の血管が破綻(はたん)して出血する脳出血で発症しますが、発症時の年齢分布には2つピークがあります。5歳を中心とする10歳までの子供は脳虚血で発症することが多く、30〜40歳代の大人は脳出血で発症することが多くなっています。もちろん、子供での脳出血、大人での脳虚血もありますが、前者が小児(若年)型、後者が成人型と区別され、その症状とその発症機序が異なっています。

女性と男性の比率は1・8対1とされ、女性の発症者のほうが多くなっています。発症頻度は10万人に対して0・35〜0・5人とされ、日本では年間に約400〜500人の新たな発症者が発生し、常に約4000人の患者がいます。世界中で、脳底部異常血管網症の報告はありますが、なぜか東アジアに多く、中でも圧倒的に日本に多く発生しています。アメリカからの報告でも日系人に多いといわれますが、白人、黒人にもみられます。

疾患の原因はいまだ不明で、先天性血管奇形という先天説や、感染症などの生後に何らかの原因があるとする後天説がありました。兄弟や親子間での発生が約10パーセント弱と多いことや、日本人に多く発生することなど遺伝的な要素もあり、現在では遺伝子で規定された要素に、何らかの後天的要素が加わって発症すると考えられています。細菌やウイルスが原因の感染症ではありませんので、周辺の人に移る可能性は全くありません。

小児型の脳底部異常血管網症では、元気だった子供に突然、脳卒中のような発作、つまり左右半身の脱力や運動障害、ろれつが回らないなどの言語障害、視野の一部が欠けるなどの視力障害、意識障害、感覚異常が一過性に出現し、症状が出てもすぐに元に戻るのが典型的な症状です。その他の症状としては、手足が勝手に前後・上下に動く不随意運動、けいれん、頭痛などがみられます。

脳卒中のような発作は、泣いたり、大声で歌ったり、笛やハーモニカを吹いたり、熱いラーメンやうどんをフーフー吹いて食べたり、全力で走ったりする時の過呼吸により誘発されます。過呼吸状態では、脳血管の拡張に必要な血中の二酸化炭素が低下し、もやもやとした血管網も含めた脳血管が収縮するために、それまで辛うじて維持されていた脳血流が急に低下し、脳の代謝に必要な酸素の不足により脳虚血発作が生じます。

脳虚血発作は一過性に出現し繰り返す場合が多くみられますが、重症な場合には、脳梗塞(こうそく)を来し、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが固定症状として残ります。

成人型の脳底部異常血管網症では、脳内出血、脳室内出血、くも膜下出血などの頭蓋(ずがい)内出血による発症が一般的で、症状は出血の部位や程度により異なり、軽度の頭痛から重度の意識障害、運動障害、言語障害、精神症状までさまざまです。代償性に拡張した数多くの細いもやもやとした血管網に、血行力学的なストレスが加わり、薄くなった血管壁が破綻すると考えられています。

出血の場所と大きさにより、後遺症が全く残らない場合から、さまざまな後遺症が残る場合まであります。命にかかわるのは、頭蓋内出血を起こした場合が多く、再度、出血を起こすことも多くなっています。

脳底部異常血管網症が疑われた場合は、脳神経外科、神経内科、小児神経(内)科などを受診することが必要です。強い頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、意識がなくなる、まひ、言葉が出ない、視野の一部が欠けるなどの症状が出た時は、すぐに受診するべきです。

脳底部異常血管網症の検査と診断と治療

脳底部異常血管網症の医師による診断は、臨床所見と画像診断で行われます。ラーメンを食べる時に時々、手の力が抜ける、大泣きしたら手足がしびれるといった典型的な症状の一過性脳虚血発作であれば、診断はさほど困難ではありません。

しかし、てんかんや不随意運動で発症した場合には、わかりにくい場合もあります。てんかんと診断されて、抗けいれん薬を投与され、その後、脳虚血の症状が出た場合など、脳底部異常血管網症の診断まで時間がかかる場合もあります。ほかに、精神的なものとか自閉症と誤診されることもあります。

脳底部異常血管網症の画像診断は、主にカテーテルによる脳血管撮影と、核磁気共鳴画像法(MRI)によって行われます。脳血管撮影は、直径1・3ミリほどの細い管であるカテーテルを足の付け根の動脈から入れて行います。このカテーテルを頸部の動脈まで持っていき、造影剤を注入して撮影します。そのため検査自体にわずかながら危険性が伴うため、その適応は慎重であるべきです。大人では、足の付け根への局所麻酔だけで可能な検査ですが、小学生やそれ以下の場合は全身麻酔で行います。

近年は、強い磁場を利用した核磁気共鳴画像法(MRI)による診断法が、主に行われています。この診断法は、入院の必要はありませんし、検査時間は30分ぐらいで寝ている間に可能です。小さな子供の場合は、眠り薬が必要です。X線を使った断層撮影であるX線CTも、緊急時の脳虚血と脳出血の鑑別に有用です。

急性期の脳底部異常血管網症の治療は、他の原因で起こる脳虚血や脳出血の治療と同じです。脳虚血の場合は、脳細胞保護薬、抗血栓薬、循環改善薬などの点滴が行われます。脳出血で小さな出血の場合は、保存的な治療が行われます。脳室内の出血の場合は、緊急で細い管を脳室に入れて、髄液や血腫(けっしゅ)を抜く手術が行われます。大きな脳内出血の場合は、開頭による血腫除去術を必要とする場合もあります。脳圧を下げ、脳のはれを改善する点滴治療も行われます。けいれん発作があれば、抗けいれん薬が投与されます。

慢性期の脳底部異常血管網症の脳虚血に対する内科的な治療としては、抗血小板薬、抗凝固薬、血管拡張薬などの投与が行われます。これらの薬剤を積極的に投与する医師と、そうでない医師に分かれます。けいれんのある場合には、抗けいれん薬が投与されます。

虚血発作の再発を抑える目的で、血管吻合(ふんごう)術が有効とされています。この血管吻合術には、耳の前の頭皮内を走行している浅側頭動脈と頭蓋内の中大脳動脈の枝を顕微鏡で見ながら吻合する直接吻合と、脳を包んでいる脳硬膜や側頭部の筋肉やその筋膜を脳の表面に置き、その間に自然に小さな血管の吻合が形成されるのを待つ間接吻合があります。直接吻合を行う場合、大なり小なり間接吻合と組み合わせるのが一般的です。

脳底部異常血管網症は、左右に病変があるため、両側の手術が必要なことが多く、普通2回に分けて、症状の強い側の手術を先に行います。手術の効果はすぐに現れるものではなく、虚血発作が徐々に減少し、その後、消失します。その時間経過は、脳循環の状態、手術方法などによりさまざまです。

慢性期の脳底部異常血管網症の脳出血に対する治療として、血管吻合術が行われる場合があります。側副血行路になっている脳の深部の細い血管に負担がかかり、破綻するのが脳出血の原因と考えられているため、この負担を軽減するために行われますが、この吻合術が再出血を予防するとは必ずしも証明されていません。血圧の高い発症者には、降圧剤を投与します。

脳梗塞や脳出血により、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが残った場合には、早期に運動療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションを開始することが重要です。特に小児の場合は、適切なリハビリで大きな障害がかなり軽減するケースもあります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...