2022/08/10

🇯🇵フリクテン性結膜炎

目の結膜に水疱状の斑点を生じる眼疾

フリクテン性結膜炎とは、上下のまぶたの裏側と、眼球の表面から黒目の周囲までを覆っている粘膜である結膜に、円形で水疱(すいほう)状の小さな灰白色の斑点(はんてん)が生じる疾患。フリクテンとは、その水疱状の斑点のことです。

フリクテンは主に、黒目の部分を覆っている粘膜である角膜に結膜が接する縁の部分、すなわち黒目と白目の境目あたりに1〜2個生じ、周囲の結膜は充血します。フリクテンの多くは、角膜の右端か左端の結膜に生じます。

数日すると、充血の中心が隆起します。自覚的には、涙が出てまぶしく、異物感があります。痛みを伴うこともあります。目やにが出ることはありません。

隆起はやがて潰瘍(かいよう)化しますが、瘢痕(はんこん)を残すことはなくやがて治癒します。自然に治っても、再発することが多くみられます。

小児や思春期の青少年に好発しますが、成人でも珍しくはありません。人から人に感染することはありません。

原因は不明。昔は結核菌が多かったため結核アレルギーともいわれ、現在では結核菌、ブドウ球菌、真菌、クラミジアなど対するアレルギーともいわれています。疲労やストレスなどが誘因になることも多いようです。

あまり悪質な疾患ではありませんが、早めに眼科の専門医の診察を受けることが勧められます。

フリクテン性結膜炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡で眼球を観察して、症状から判断します。角膜に病変が広がっていることもあります。

眼科の医師による治療では、炎症やアレルギーを抑える副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の点眼薬や眼軟こうを用います。抗生物質(抗生剤、抗菌剤)の点眼薬や眼軟こうを併用することもあります。

比較的治りやすく、普通、数日で炎症が治まります。

治癒した後、アレルギーの増悪に伴って再発したり、何度も再発を繰り返すこともあります。このような場合は、症状が出現した時だけ点眼薬を使用し、症状が出ていない時には点眼薬を中止するようにします。

なお、ステロイド剤の点眼薬は強い抗炎症作用を持つ一方、長期間使用すれば眼圧上昇などの副作用が出る場合があるので、注意が必要です。

🇯🇵ブルガダ症候群

心室細動により失神し、突然死にもつながる心疾患

ブルガダ症候群とは、重篤な不整脈である心室細動により失神し、死に至る場合がある心疾患。ブルガーダ症候群とも呼ばれます。

普段は軽度の心電図異常しかみられず、心臓超音波検査でも心臓に異常は見当たりませんし、狭心症や心筋梗塞(こうそく)の兆候もありません。1992年にスペイン人医師ペドロ・ブルガダとその兄弟によって報告されて以来、同様の報告が相次ぎ、ぽっくり病を始めとする原因不明の突然死の一部を占めるのではないか、と考えられるようになりました。

しかし、疾患の本態は不明。どういったメカニズムで不整脈が発生するのかなど、まだまだ未知の部分が多い疾患です。心臓細胞の表面には、数種類のイオンチャンネルと呼ばれる特殊な蛋白(たんぱく)質が存在しており、ナトリウムやカリウムなどのイオン分子を心臓細胞に出し入れすることで、心臓の電気活動をコントロールしています。これらの蛋白質の異常により、電気活動の異常、すなわち不整脈が起こりやすくなることがわかっています。

これまでの研究では、ブルガダ症候群の発症者のうち、約2割でナトリウムイオンチャンネル遺伝子(SCN5A)の異常が発見され、これが原因ではないかといわれています。といっても、すべての症例がナトリウムイオンチャンネル遺伝子(SCN5A)の異常で説明されるわけではなく、他のイオンチャンネルの遺伝子異常、ナトリウムチャンネルでも遺伝子解析の困難な部位であるプロモーター、イントロンなどの遺伝子異常、遺伝子には関係のない後天的な異常、である可能性があります。将来、ブルガダ症候群はいくつかの原因に従って、再分類されるかもしれません。

日本や東南アジアで発症頻度が高く、40歳前後の男性に多く発症すると見なされ、しばしば3親等以内の血縁者に突然死した人がいます。日本では、発症者の95パーセントが男性で、ブルガダ症候群の素因を持つ人は1000人に1人はいると推定されています。遺伝子解析でも、全人口の約15パーセントにナトリウムイオンチャンネル遺伝子(SCN5A)の異常が見付かっており、今後の研究が待たれます。

症状は突然、心臓けいれんともいえる心室細動が出現して、心臓が細かく震え、ポンプ機能としてはゼロの状態を来すため血圧はゼロに下がりますので、何の兆候もなく失神を起こします。立っていたり、座っていると、その場に転倒します。心室細動のほかに、発作性心房細動を来すこともあります。

普通、心室細動が出現した場合、すぐにその場で救急蘇生(そせい)を行い、電気ショックを行わないと死につながります。ブルガダ症候群の発症者では不思議なことに、自然に心室細動が止まって正常な脈に戻ってしまうことがあり、繰り返す失神発作としか自覚されないことがあります。

心室細動発作が活動時よりも安静時、特に睡眠時に起こりやすいため、睡眠中に発作を繰り返していても本人には自覚されないこともあります。同居者がいた場合、夜間に突然もだえてうなり声を上げたり、体を突っ張ったり、失禁したりする発作、すなわち突然の心停止時にみられる全身症状を指摘され、初めて不整脈発作があったことがわかることもあります。睡眠時などの安静時の発作は、再発率が高くなっています。

ブルガダ症候群の検査と診断と治療

ブルガダ症候群の発症者には、特徴的な心電図の波形変化として、右側胸部誘導(心電図検査のV1、V2と呼ばれる項目)の弓を折り曲げたようなタイプのST上昇と、不完全右脚ブロック様変化がみられます。

しかし、このような心電図変化は健康診断で実施された心電図検査でも、0.1~0.2パーセントの人にみられるといわれています。最近の報告では、特徴的な心電図変化がみられた人たち全員に、致死性不整脈の危機が迫っているのではなく、大部分の人の予後はとてもよいと考えられています。

ただし、ブルガダ型心電図を有し、原因不明の失神の既往や、45歳未満での突然死の家族歴を持つ人の評価は、慎重に行わなくてはなりません。ブルガダ型心電図を有するのみで、失神歴も家族歴も有しない人の予後は、良好であると考えられています。中には、最初の症状が突然死であったという不幸な例もあります。

ブルガダ症候群の発症者に対して、ある種の抗不整脈薬を投与すると心電図異常が強調されたり、減弱したりすることがわかっていますので、集中モニターができる環境においてこれらの薬を投与し、その際の心電図変化を診断の際の判断材料にするピルジカイニド負荷検査などが行われます。

それ以外にも、心臓の微小な電位変化をみる検査(加算平均心電図)や、携帯型心電計による24時間の心電図検査(ホルター心電図)を行い評価します。また、不整脈専門医のいる施設で心臓電気生理学検査という入院検査を行い、不整脈の起こりやすさを評価します。

これらすべてを総合的に判断して、その発症者の今後の心室細動出現のリスクを評価していくことになりますが、この評価方法もまだ絶対的なものはなく、議論の余地が大きいところです。

治療に関しては、疾患自体の原因がはっきりしていないため対症療法に頼るしかなく、現在のところ根治療法はありません。心室細動発作を起こした際は、体外用除細動器(AED)、または手術で体内に固定した植え込み型除細動器(ICD)などの電気ショックで回復します。

心室細動発作を起こしたことが心電図などで確認されていたり、原因不明の心停止で心肺蘇生を受けたことがある人では、植え込み型除細動器(ICD)の適応が勧められます。このような発症者は今後、同様の発作を繰り返すことが多く、そのぶん、植え込み型除細動器(ICD)の効果は絶大といえます。また、診断に際して行う検査においてリスクが高いと判断された場合にも、植え込みが強く勧められます。

といっても、植え込み型除細動器(ICD)の植え込みはあくまで対症療法であり、発作による突然死を減らすことはできても、発作回数自体を減らすことはできないところに限界があるといわざるを得ません。現在までに、ブルガダ症候群の発作回数を有意に低減する薬剤は、見付かっていません。

植え込み型除細動器(ICD)は通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。治療には500万円ほどかかりますが、健康保険が利き、高額療養費の手続きをすれば、自己負担は所定の限度額ですみます。手術後は、入浴や運動もできます。

ただし、電磁波によって誤作動の危険性もあり、社会的な環境保全が待たれます。電子調理器、盗難防止用電子ゲート、大型のジェネレーターなどが、誤作動を誘発する恐れがあります。

万一、発作が起きた際の用心のため、高所など危険な場所での仕事は避けたほうがよく、車の運転も手術後の半年は原則禁止。電池取り替えのため、個人差もありますが、5〜8年ごとの再手術も必要です。確率は低いものの、手術時にリード線が肺や血管を破ってしまう気胸、血胸なども報告されています。

🇮🇱ブロードβ病

遺伝子異常が原因で、脂質異常症を発症する疾患

ブロードβ病とは、遺伝によって、血液に含まれるコレステロールとトリグリセライド(中性脂肪)が高くなる脂質異常症(高脂血症)の一つ。Ⅲ型高リポ蛋白(たんぱく)血症、家族性異常βリポ蛋白血症、アポリポ蛋白質E欠乏症、アポリポ蛋白質E欠損症とも呼ばれます。

まれな疾患で、1万人に2〜3人くらいと発症する頻度は低いものの、女性よりも男性に発症する傾向があり、男性は比較的若い年代に発症します。

常染色体劣性遺伝によりブロードβ病を受け継いだ人は、生活習慣とは関係なく、脂質異常症になりやすいと考えられています。脂質異常症に伴って、若年期にアテローム性動脈硬化症を発症するリスクが高くなります。

一般に、20歳以下では症状が起こらないとされるものの、若年で冠状動脈硬化症や末梢(まっしょう)動脈硬化症を発症しやすく、進行すると狭心症や心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞、下肢の動脈が狭くなる末梢血管疾患、間欠性跛行(はこう)、下肢の壊疽(えそ)に対するリスクも高くなります。そのほか、肥満、糖尿病を合併するリスクも高くなります。

肘(ひじ)や膝(ひざ)、手の甲、手首、尻(しり)などの皮膚に、黄色腫(おうしょくしゅ)と呼ばれる黄色いいぼ状の塊が見られることもあります。黄色腫は、血液中のリポ蛋白という脂質成分と蛋白の結合物を取り込んで、脂肪分をためたマクロファージ由来の泡沫(ほうまつ)細胞が集合したものです。

両親のうちのどちらかにブロードβ病がある場合、子供に50パーセントの確率で遺伝します。両親ともブロードβ病を持っている場合、子供には75パーセントの確率で遺伝します。ただし、ブロードβ病を持つすべての人が、親が同じ問題を持っているとわかっている訳ではありません。狭心症、心筋梗塞などの冠状動脈疾患の家族歴があるとだけ考えている可能性があります。

コレステロールもトリグリセライド(中性脂肪)も水に溶けないので、アポ蛋白という特殊な蛋白質に付着して血液中を運ばれています。このコレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)とアポ蛋白の結合物をリポ蛋白といいます。

リポ蛋白にはいくつかの種類があり、比重によりカイロミクロン(キロミクロン)、VLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中間比重リポ蛋白)、LDL(低比重リポ蛋白)、HDL(高比重リポ蛋白)、VHDL(超高比重リポ蛋白)などがあります。その中で、HDL(高比重リポ蛋白)以外のものをβリポ蛋白と呼びます。

ブロードβ病は、肝臓の受容体への結合能を欠くアポ蛋白E2の遺伝子を両親から受け継いでいることを基盤として、まれにアポ蛋白Eの欠損によって発症します。

肝臓へのカイロミクロン(キロミクロン)やVLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中間比重リポ蛋白)の取り込みが阻害された結果、血液中を流れ続ける状態が継続します。カイロミクロンやVLDL(超低比重リポ蛋白)などに含まれるトリグリセライド(中性脂肪)は、血液中を流れ続けている内に、脂肪組織や筋肉の毛細血管内皮細胞表面に存在するリポ蛋白リパーゼにより分解され、粒子サイズが小さくなってレムナントリポ蛋白の蓄積が起こり、高レムナントリポ蛋白血症を発症します。また、高IDL血症を発症します。

ブロードβ病の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。

トリグリセライド(中性脂肪)、 総コレステロールの両方が高値にかかわらず、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が低値、かつRLPコレステロール(レムナント様リポ蛋白コレステロール)が異常高値であることを確認すると、ブロードβ病が疑われます。また、リポ蛋白の電気泳動で、VLDL(超低比重リポ蛋白)からLDL(低比重リポ蛋白)への連続性のブロードβパターンを示すことを確認し、アポ蛋白の等電点電気泳動で、アポ蛋白Eの異常、アポ蛋白Eの欠損などを確認することで、ブロードβ病と確定します。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法、薬物療法を行ないます。ブロードβ病は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため、根治療法はなく長期の治療が必要ながら、治療によく反応することから早期診断と早期治療が重要です。

食餌療法では、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

運動療法では、積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、改善法として効果的です。

薬物療法では、RLPコレステロール(レムナント様リポ蛋白コレステロール)の低下作用が最も強力なフィブラート系薬剤(中性脂肪合成阻害薬)を第一選択として使用します。スタチン系薬剤やエゼチミブも有効です。

🇹🇷プロラクチン分泌過剰症

下垂体からプロラクチンホルモンが過剰に分泌されることが原因となって起こる疾患

プロラクチン分泌過剰症とは、大脳の下部にある小さな分泌腺(せん)である下垂体(脳下垂体)からプロラクチンというホルモンが過剰に分泌されて、血液中のプロラクチン値が上昇した状態である高プロラクチン血症が生じることが原因となり、乳汁分泌、不妊などを発症する疾患。

女性では、無月経、月経不順、無排卵、妊娠や授乳期以外の時期の乳汁分泌、不妊が起こります。男性では、乳汁分泌、性欲低下、勃起(ぼっき)障害、女性のような乳房に膨らむ女性化乳房、不妊が起こります。

下垂体はプロラクチンや副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンの6つのホルモンを分泌し、プロラクチンは乳腺の発育促進、乳汁産生・分泌促進、女性の排卵や卵胞の成熟抑制にかかわるホルモンです。

下垂体からプロラクチンが過剰に分泌すると、黄体化ホルモンと卵胞刺激ホルモンの分泌が低下するので、女性ではプロゲステロン(黄体ホルモン)やエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌が低下し、無排卵、無月経などの月経異常の原因になり、骨粗鬆(こつそしょう)症になるリスクが高くなります。男性では、テストステロン(男性ホルモン)の分泌低下、性欲低下、勃起障害、無精子症、乏精子症、不妊の原因になり、骨粗鬆症になるリスクが高くなります。

プロラクチン分泌過剰症は、種々の原因によって起こります。妊娠した女性では、主に妊娠後期から出産後にプロラクチン値が高くなり、乳腺の発達を促して、母乳を分泌させる働きがあります。

プロラクチン分泌過剰症の原因としては、下垂体におけるプロラクチン産生腫瘍(しゅよう、プロラクチノーマ)が最も多くみられます。

ほかには、大脳の下部にある視床下部・下垂体系の腫瘍や炎症のため、プロラクチンの産生を抑制する脳内物質であるドーパミンの下垂体への作用が阻害されると、下垂体からのプロラクチン分泌への抑制という調節がなくなり、血液中のプロラクチン値が増加します。

また、頭蓋咽頭(ずがいいんとう)腫、 胚芽(はいが)腫などの脳腫瘍や、結核を始めとする感染症によく似た病巣を全身のいろいろな臓器に作る疾患であるサルコイドーシスなどでも、プロラクチン分泌過剰症が高頻度に出現します。

プロラクチン分泌を促進する甲状腺刺激ホルモンの分泌が過剰になる原発性甲状腺機能低下症や、腎(じん)不全でも、プロラクチン分泌過剰症が出現することがあります。胸壁の外傷、手術や帯状疱疹(たいじょうほうしん)などの胸壁疾患でも、プロラクチンの分泌が促進されることがあります。

さらに、薬剤の副作用によることがあります。ある種の抗うつ剤や胃薬は、ドーパミンの作用を阻害することによりプロラクチンを増加させます。降圧薬の一種もプロラクチンを増加させます。低用量ピルなどの経口避妊薬も、視床下部のドーパミン活性を抑制するとともに下垂体に直接作用して、乳汁を産生するプロラクチンの産生や分泌を刺激させます。

プロラクチン分泌過剰症であっても、必ずしも症状を伴うものではありません。20~30歳代の性成熟期の女性では、無月経と乳汁分泌が主要な兆候となります。

下垂体のプロラクチン産生腫瘍が大きい場合には、腫瘍による視神経圧迫のため視野狭窄(きょうさく)、視力低下、頭痛を伴うことがあります。男性の場合は症状が乏しく、不妊などの検査で見付かることがありますが、この場合はプロラクチン産生腫瘍が大きくなっていることがよくみられます。

プロラクチン分泌過剰症の症状に気付いたら、女性なら婦人科 、内科、乳腺科、男性なら内科を受診することが勧められます。

プロラクチン分泌過剰症の検査と診断と治療

婦人科 、内科、乳腺科の医師による診断では、血中プロラクチン値を測定するとともに、女性の出産経験や内服薬服用の確認を行います。

血中プロラクチンが高値の時は、下垂体のプロラクチン産生腫瘍の可能性が高いため、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査やCT(コンピュータ断層撮影法)検査を行い、下垂体病変を調べます。血中プロラクチン値が軽度から中等度の時には、内服薬服用の有無を重視し、下垂体のプロラクチン産生腫瘍以外の原因について検査を行います。

男性では、乳汁分泌、性欲低下がみられ、血液中のテストステロン(男性ホルモン)値が低ければ疑われます。血中プロラクチンが高値を示せば、プロラクチン分泌過剰症と確定されます。

婦人科 、内科、乳腺科の医師による治療では、プロラクチン分泌過剰症の原因がはっきりとしたら、その原因に応じた治療を行います。

内服している薬剤が原因と考えられる場合は、その薬剤を中止します。乳汁分泌がみられるだけで、ほかに特別な異常や兆候がなければ、経過観察も可能です。不快ならば、プロラクチンの産生を抑制する脳内物質であるドーパミンの分泌を促すドーパミンアゴニスト製剤(ドーパミン受容体刺激薬)により、プロラクチンの分泌を抑えると症状は消えます。女性ではエストロゲン(卵胞ホルモン)、男性ではテストステロンの分泌量が増え、不妊が治ることもあります。

女性が無月経を伴う場合には、排卵や月経を誘発する処置を行います。

下垂体のプロラクチン産生腫瘍が原因と考えられる場合は、現在、薬物療法が第一選択となります。ドーパミンアゴニスト製剤の服用により、血中プロラクチン値は低下し、腫瘍も縮小します。一方、腫瘍が直径1センチ以上と大きく、視野障害や頭痛などがあり、腫瘍サイズの縮小が急がれる場合は、手術が選択されることもあります。

原発性甲状腺機能低下症が原因と考えられる場合、甲状腺ホルモンの補充により血中プロラクチン値は正常化し、女性の卵巣機能は回復します。

🇮🇱ビュルガー病

手足の指の動脈が詰まって、指が腐ってくる疾患

ビュルガー病とは、手足の爪(つめ)の周りや指の間に、治りにくい傷ができて、ひどくなると足の指が腐ってくる疾患。1900年に最初に報告者したアメリカ人の名前からビュルガー病(ドイツ語読み)、あるいはバージャー病(英語読み)と呼ばれていますが、特発性脱疽(だっそ)、閉塞(へいそく)性血栓血管炎とも呼ばれます。

脱疽または壊疽(えそ)とは体の組織の一部が生活力を失う状態のことで、このような病変が手足の指に起こるのは動脈が詰まるためです。特に膝(ひざ)から下の足と腕の動脈が、原因不明の炎症によって血管の壁が厚くなり、血流障害ができるために、そこで血液が固まり、詰まってきます。

原因は不明ですが、発症には喫煙が深く関係しており、たばこをやめると疾患が進行しない特徴があります。一説では、原因は口腔(こうくう)内の細菌、特に歯周病菌にあると指摘されています。発症者数は、日本国内で推定約1万人。男女比は10対1と男性が多く、20〜40歳代を中心に発症しています。

症状としては、膝の下の血管が詰まった場合、足先が腐ってきます。ほとんどの場合、両方の足先に病変が出現します。腕の動脈が詰まれば、手の指に壊疽が出現します。

壊疽は血管に閉塞性の病変が起きた後、数年間この閉塞に近い状態が続いた場合に起こるので、ビュルガー病の始まりの血管炎では、指先のしびれ感、冷感として自覚されます。進行すると、長い距離を歩くと痛みが起こるようになり、休息しながら歩くようになる間欠性跛行(はこう)を生じます。

さらに進行すると、手足の静脈にも炎症を起こし、静脈に沿って赤く腫(は)れ、安静にしていても激しく痛み、壊疽の状態となります。

動脈硬化によって下肢の動脈が詰まる閉塞性動脈硬化症も、ビュルガー病と同じような症状を来しますが、閉塞性動脈硬化症は高齢者に多く、40歳以下の青年や壮年にはほとんど発症していません。

このビュルガー病は、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されており、医療費の自己負担分が公費で支払われることもあります。

ビュルガー病の検査と診断と治療

循環器科、心臓血管外科の医師による診断では、四肢の皮膚温度の低下や、血管が閉塞した部位より先の動脈の拍動減弱、ないし欠如が認められます。四肢の血圧から足関節/上腕血圧比を測ることにより、下肢虚血の重症度の判定に役立ちます。確定診断には、血管造影検査が必要になります。血液検査では、特徴的な所見はありません。

循環器科、心臓血管外科の医師による治療では、薬物療法として、血液の循環を改善して血栓を予防するために、血管拡張薬や抗血小板薬が用いられます。壊疽、脱疽というと、すぐに手足の切断を思い浮かべる人が多いようですが、傷が治りにくくても、疾患が指先などに限られている間は治療が可能です。

重症例に対しては、多くの場合、詰まっている動脈を元通りに開通させることは不可能ですが、閉塞している部位の状態によって可能であれば、バイパス手術などの血行再建を行います。

バイパス手術が適さない場合は、交感神経を切除することによって、末梢(まっしょう)血管を拡張させ、血流をよくすることを目的に交感神経節ブロックが行われています。足の場合には腰の交感神経、手の場合には胸の交感神経を手術で切除します。壊疽が進行して各種の治療が無効な場合には、手足の切断が必要になります。

治療後の生活上の注意としては、手足の保温と清潔を心掛けます。傷を付けると、壊疽の再発の引き金となりますので、靴下を履く、靴擦れを起こさないように大きめの靴を履くなど、注意が必要です。散歩などの適度な運動は、お勧めです。また、このビュルガー病はたばこを吸う人の発症率が高いので、禁煙を守ることも必要です。

発症した人のうち、多くは動脈の病巣は詰まったままの状態で、血行再建のバイパス手術などができるのはごく少数です。しかしながら、日ごろの注意をよく守れば、疾患の進行を食い止め、再発を減らすことができます。直接、生命に関係するような大切な臓器である心臓、脳、内臓などの動脈が侵されることはありません。

予後も同年代の健常人と変わりありませんが、指の切断を必要とすることもあり、生活の質(QOL)が脅かされることは否めません。

🇹🇷表在性血栓性静脈炎

皮膚の浅い部分にある表在静脈が血液の固まりで栓をしたように詰まる状態

表在性血栓性静脈炎とは、皮膚の浅い部分にある表在静脈(皮〔ひ〕静脈)に炎症と血栓が生じる疾患。血栓性静脈炎とも呼ばれます。

全身の静脈は、表在静脈と深部静脈に分類されます。この表在性血栓性静脈炎が表在静脈に血の固まりである血栓が生じる疾患であるのに対して、深部静脈に血栓が生じる疾患は深部静脈血栓症と呼ばれるほか、ロングフライト血栓症、旅行者血栓症、エコノミークラス症候群、静脈血栓塞栓(そくせん)症とも呼ばれ、飛行機内などで長時間、同じ座席で同じ姿勢を取り続けることにより血栓が生ずる疾患として知られています。

同じように静脈に血栓ができても、表在静脈に起こる表在性血栓性静脈炎と深部静脈に起こる深部静脈血栓症とでは、症状の出方は全く違います。表在性血栓性静脈炎は軽くてすむのに対して、深部静脈血栓症は重症化しやすくなります。

表在性血栓性静脈炎は脚の表在静脈に最も多く発生しますが、鼠径(そけい)部や腕の表在静脈にみられることもあります。腕の表在性血栓性静脈炎は自然に起きる場合もありますが、最も起こりやすいのは、繰り返し静脈注射を行った場合です。注射針や薬の刺激で静脈の壁に損傷や変化が起き、この部分の血液が固まって血栓を作ります。

心臓や血管の病気の治療を目的に、血管中に挿入するカテーテルという細長い管を静脈内に長期間入れたままでいることでも、表在性血栓性静脈炎は起こります。

そのほか、ベーチェット病、バージャー病(閉塞性血栓血管炎)、血小板増多症、悪性腫瘍、膠原(こうげん)病で、表在性血栓性静脈炎を伴うことがあります。とりわけ、手足のあちらこちらに細長いしこりのようなものが次々に現れて消えていくものは、遊走性静脈炎あるいは遊走性血栓静脈炎といい、バージャー病や内臓の悪性腫瘍の可能性があります。また、静脈瘤(りゅう)に表在性血栓性静脈炎を合併する場合もあります。

表在性血栓性静脈炎では急性の炎症反応が起こり、局所的な痛みとはれが急速に現れ、炎症を起こしている静脈の周囲の皮膚が赤く熱っぽくなり、触れると痛みます。中の血液が凝固するため、この状態の静脈は正常な静脈や静脈瘤のように軟らかくはなく、皮膚の下に硬いしこりがあるように感じられます。このような静脈は、全長にわたって硬い感触がすることもあります。

時には、発熱や悪寒などの全身症状もみられます。

表在性血栓性静脈炎の検査と診断と治療

内科、循環器科などの医師による診断では、 急性期の表在性血栓性静脈炎に対しては、下肢のはれ、色調、皮膚温、表在静脈の拡張など、視診や触診で診断が可能です。また、下肢の血栓の最も有効な検査法は、超音波ドプラー法であり、現在最も頻用されています。時には静脈造影を用いて、血栓の局在や圧の上昇を測定することもあります。

慢性期の表在性血栓性静脈炎に対しては、皮膚や皮下組織が厚くなるリンパ浮腫との区別が難しく、リンパ管造影や静脈造影が必要になる場合もあります。

遊走性静脈炎の場合の基礎疾患には、難病といわれるベーチェット病やバージャー病、悪性腫瘍などが含まれますので、静脈炎を繰り返す時は精査が必要です。

内科、循環器科などの医師による治療では、血液疾患や悪性疾患などの合併症がある場合は基礎疾患の治療が優先されます。それ以外の急性期の表在性血栓性静脈炎は、局所の安静と湿布、弾性包帯などを用い、痛みがある場合には、対症療法として炎症鎮痛剤などを使います。

薬剤の静脈注射やカテーテルの使用による静脈損傷が判明した場合は、速やかに薬剤の中止や変更、カテーテルの抜去を行った後、局所の治療を行います。

静脈瘤が原因の場合は、局所の対症療法を行って症状が軽快した後、原因である静脈瘤を治療します。静脈瘤に生じた表在性血栓性静脈炎は他の原因に比べて血栓量が多いため、炎症が強い際は静脈を小切開して血栓を絞り出すことで、早期に症状を改善することができます。また、弾性ストッキングによる圧迫も有効です。

薬剤やカテーテル、静脈瘤などの原因を取り除くことができれば、局所的な痛みやはれは速やかに消退することがほとんどです。しこりや色素沈着は、数週間残る場合もあります。

難治性のものには、抗凝固剤や血栓溶解剤を使って血栓の治療と予防を行い、対症療法として炎症鎮痛剤などを使います。症状がひどい場合は、外科的手術による血栓の除去、静脈の切除、バイパス形成を行います。

🇹🇷ひょうそ

化膿菌が入って手足の指の皮下組織に起こる化膿性炎症

ひょうそとは、化膿(かのう)菌が侵入して手の指あるいは足の指の皮下組織に起こる化膿性炎症。ひょうそうとも呼ばれます。

手足の指の化膿性炎症全体を指し、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌、緑膿菌などの化膿菌が侵入して爪(つめ)の周囲に急性の炎症が起こる化膿性爪囲炎から、さらに炎症症状が真皮深層、脂肪織にまで拡大した指の蜂窩織(ほうかしき)炎、あるいは骨、関節部の化膿性炎症が真皮にまで波及した時にも、ひょうそと呼ばれます。

爪の周囲のささくれ、小さな切り傷、足では爪切りの際の傷や爪が皮膚に食い込んでいるところなどから、化膿菌が感染して起こります。

指先全体が赤紫色に強くはれ、痛みが強い状況で、うみが出たり、皮膚が破れ、潰瘍(かいよう)になることもあります。化膿性爪囲炎では、爪の回りが赤くはれて痛くなり、爪の周囲からうみが出る場合があります。

時には、腕、下腿(かたい)のリンパ腺(せん)に沿って炎症が広がり、触れると痛くて赤い線状のリンパ節(管)炎となります。わきの下のリンパ節、股(また)のリンパ節がはれて痛むこともあります。

時には、炎症の場所が浅い場合に、かなり大きな血うみである膿疱(のうほう)ができることがあります。炎症の場所が深い場合に、関節が痛み、手足の指を曲げることもできなくなることがあります。

ひょうその検査と診断と治療

皮膚科の医師によるひょうその検査では、細菌培養を必ず行います。また、黄色のうみは黄色ブドウ球菌、緑色のうみは緑膿菌など、うみの性状は原因菌を推測する上で参考になります。

治療としては、軽い化膿性爪囲炎の場合は、爪の周囲を消毒し、抗生物質含有軟こうを塗布します。痛みの強い場合には冷湿布をして安静にします。痛み、はれが強い場合や、リンパ節(管)炎、リンパ節の痛みとはれがある場合には、抗生物質を内服し、痛みが特に強い場合は、痛み止めを併用します。

化膿が強い場合は、切開排膿が必要となります。メスで皮膚を切開して、たまっているうみを排出すると、痛みはすぐに弱まり、早く治ります。爪が浮かび上がるような場合は、爪を取り除き、内側にたまったうみや壊死(えし)組織を取り除きます。

予防法としては、ひょうそは水仕事の機会の多い女性や調理人、掃除屋などがかかりやすく、特にささくれ、小さい傷がある時に化膿菌が入りやすくなりますので、指先に小さい傷がある時には、まめに消毒を行い、水などに指先をつける時には、手袋をして直接、触らないように注意する必要があります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...