2022/08/10

🇱🇧母斑

皮膚の一部分に色調や形状の異常が現れる状態

母斑(ぼはん)とは、皮膚の一部分に色調や形状の異常が現れる状態。一般的には、あざと呼ばれます。

母斑はさまざまなタイプに分けられますが、その皮膚の一部分の色によって、赤あざ、青あざ、茶あざ、黒あざなどに分けられます。

赤い色の母斑が現れる赤あざは、局所的な毛細血管の拡張や増殖によって起こり、内部の血液によって皮膚表面が赤く見えるタイプで、血管腫(しゅ)とも呼ばれます。

青い色の母斑が現れる青あざは、皮膚のやや深い部分の真皮にメラニン色素を産生する色素細胞(メラノサイト)が増えるために起こり、発生する部位や症状により蒙古(もうこ)斑、太田母斑などに分けられます。

茶色い母斑が現れる茶あざは、皮膚の表面の表皮のメラニン色素が増加した状態で、扁平(へんぺい)母斑、思春期ごろに生じるベッカー母斑などに分けられます。

黒い色の母斑が現れる黒あざは、一般にほくろ(黒子)といわれるタイプで、メラニン色素を産生する色素細胞(メラノサイト)が変化した母斑細胞からなる良性腫瘍(しゅよう)です。医学的には、色素性母斑と呼ばれます。

皮膚の毛細血管の増殖、拡張でできる血管腫

血管腫は、真皮および皮下組織の中にある毛細血管の増殖、拡張を主としてできる母斑。内部の血液によって皮膚表面は赤く見えるので、赤あざとも呼ばれます。

異常を示す血管のある部位と、血管の構造の違いにより、いろいろの型があります。代表的なものは、ポートワイン母斑(単純性血管腫)、正中線母斑(サーモンパッチ)・ウンナ母斑、苺(いちご)状血管腫(ストロベリーマーク)です。

ポートワイン母斑(単純性血管腫)は、赤ブドウ酒色をした皮膚と同じ高さの平らで、境界が鮮明な斑点です。普通は出生時からあって、その後、拡大することも、自然に消えることもありません。加齢とともに少し膨らみ、いぼ様の隆起が出現することもあります。

この母斑は、真皮の上の部分の毛細血管の拡張、充血の結果できるものです。多くは、美容的な問題があるだけであり、放置してもかまいません。ただし、この型の大きな血管腫が顔の片側にある時は、スタージ・ウェーバー症候群といって、眼球や脳の中に血管腫が合併することがあります。

また、片側の腕や下肢に大きな血管腫がある時は、クリッペル・ウェーバー症候群といって、その部分の筋肉や骨の肥大などの合併症がある場合があるので、注意が必要です。

正中線母斑(サーモンパッチ)・ウンナ母斑は、乳幼児の顔、後頭部の正中線に沿ってみられる、淡紅色ないし暗赤色の毛細血管の拡張した赤い斑点です。額、眉間(みけん)、上まぶたにあるものを正中線母斑、またはサーモンパッチといい、1歳から3歳までの間に自然に消退するものの、完全ではありません。

また、うなじから後頭部にみられるものをウンナ母斑といい、消退するのに時間がややかかり、また一生消えない場合もあります。

苺状血管腫(ストロベリーマーク)は、出生時より、または生後間もなく出現する赤色、ないし暗赤色の軟らかい小腫瘤(しゅりゅう)で、表面が苺の実のように粒々しています。

出生後、半年から2年までは急速に増大して、大きいものでは鶏卵大以上の大きなしこりになることもあるものの、5~6歳ころまでには完全に消失します。このあざは、真皮内に未熟な血管がたくさん増殖するためにできるものです。

自然に治るので慌てて治療する必要はありませんが、未熟な血管の集団があるため、外傷を受けるとなかなか出血が止まらないことがあるので、注意が必要です。出血した時には、清潔なタオルかガーゼで十分に圧迫して、出血が止まるまで押さえておく必要があります。

血管腫を早期に的確に診断することは、必ずしも簡単ではありません。皮膚科専門医を受診して、診断を確定するとともに、治療法についても相談することが勧められます。

新生児の尻や腰、背中の下部に青い染みが現れる蒙古斑

蒙古斑は、生後1週から1カ月ころまでに、新生児の尻(しり)や腰、背中の下部に現れる青い染み。

胎生期に皮膚の深い部分の真皮に生じたメラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)の残存と考えられています。通常は表皮にあって、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトが、表皮に出ていけずに真皮にとどまって増殖しているために、青い染みに見えてしまうのです。

日本人の新生児の9割にみられ、誰でも知っているあざの一種ですが、濃淡には個人差があります。多くは中心が濃くて、境界線付近は薄くはっきりしていません。境界線もはっきりして、ほくろのように濃い蒙古斑もあります。小さいとほくろのようですが、蒙古斑は隆起がないのが特徴です。

この蒙古斑は生後2歳ころまでには青色調が強くなり、その後は徐々に薄くなって、5、6歳までには、遅くとも10歳前後までには自然に消失し、さほど問題にはなりません。

まれに、尻などの通常の部位以外の手足や顔、腹部、背中の上部、胸などにも、青みを帯びた黒色調の蒙古斑が見られることがあります。これは異所性蒙古斑に相当し、通常の蒙古斑よりも消えにくい特徴があります。

といっても、異所性蒙古斑の大半は学童期までに消失することが多く、蒙古斑同様に治療の必要はありません。中には、青い染みが学童期になっても残る場合があります。しかし、その大半は成人期までに消えることが多く、放置しておいてもかまいません。

なかなか消えない異所性蒙古斑が衣服に隠れない露出部などに現れている場合は、子供が気にしてしまうケースもあり、外見的コンプレックスになることがあります。いくつかの側面から考えて、治療の対象にするべきか、皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科の医師と対処を考えることが勧められます。

なかなか消えない青いあざの中には、まれに異所性蒙古斑ではなく、青色母斑であることもあります。この青色母斑の中でも細胞増殖型と呼ばれるものは、幼少時に異所性蒙古斑と区別がつかないこともあり、悪性化することもあって治療法も異なるため、通常の部位以外にみられる青いあざは時々専門医の診察を受けることも必要でしょう。

褐青色の色素斑が、まぶたから額、頬にかけてできる太田母斑

太田母斑は、片側のまぶたから額、頬(ほお)にかけてできる、境界の不明瞭な褐青色の色素斑。眼上顎部(がんじょうがくぶ)褐青色母斑とも呼ばれます。

この太田母斑は、詩人や作家としてのペンネーム木下杢太郎(もくたろう)でも知られる皮膚科の医学者・太田正雄東大教授が、1939年(昭和14年)に初めて報告した疾患で、日本人など東洋人に比較的多くみられます。

通常は顔の片側に色素斑ができますが、両側にできる場合もあります。また、生後間もなく色素斑ができる早発型と、小児期や思春期に色素斑ができて徐々に拡大する遅発型の2種類があります。

さらに、色素斑は顔面の皮膚だけでなく、眼球結膜や口の粘膜、鼓膜にできることがあります。

色素斑は、三叉(さんさ)神経の第1・第2枝の支配領域にみられ、青みを帯びた色素斑の中に褐色調の小さな斑点が散在した状態で現れます。皮膚の表面は滑らかで、盛り上がったりしません。

原因は、メラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)にあります。通常は表皮にあって、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトが、深い部分の真皮の上層に存在し増殖しているために、皮膚が褐青色に見えてしまいます。

色素斑が拡大したり、色調が濃くなったりすることもあり、自然に消えることはありませんが、悪性化を心配することもありません。

なお、同様の色素斑が肩から上腕に見られることがあり、これは伊藤母斑と呼ばれます。

本人が特に気にしなければ、太田母斑の治療の必要はありません。見た目が気になるようなら、カバーマークによる化粧で色を隠すのも選択肢の一つですが、皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科を受診し色素斑を除去することも勧められます。

体のさまざまな部位に茶色の平らなあざが生じる扁平母斑

扁平母斑は、先天的もしくは後天的に、顔面および四肢、体幹の体表面に生じる淡褐色から褐色の平らなあざ。いわゆる茶あざで、カフェオレ斑とも、カフェオレ・スポットとも呼ばれます。

ほくろのように、皮膚から盛り上がることはありません。そのために、盛り上がりのないあざという意味で、扁平母斑と呼ばれています。また、コーヒーのような黒さでなく、ミルクコーヒーに似た色のあざという意味で、カフェオレ班、カフェオレ・スポットと呼ばれます。

色素細胞(メラノサイト)の機能高進により、表皮基底層でメラニン色素が増加するために、扁平母斑が生じます。大きさや形はさまざまで、類円形から紡錘形、辺縁がギザギザした不正型の小さいあざが多数集まっていたり、面状に分布する比較的均一な大きいあざであったりします。淡褐色から褐色のあざの中に、直径1ミリ程度の小さな黒色から黒褐色の点状色素斑が多数混在することもあります。

ほとんど、生まれ付きに存在するか幼児期に発生しますが、思春期になって発生する場合もあり、遅発性扁平母斑とも呼ばれます。

思春期になって発生する場合には、毛が同時に生えてくることが多く見られ、ベッカー母斑と呼ばれています。特に男性の肩甲部や胸部の片側に、少し濃い発毛を伴うベッカー母斑も発生します。海水浴や強い日光にさらされた後などに、ベッカー母斑が現れることもあります。

先天性、遅発性の扁平母斑とも通常、悪性化することはありません。

しかし、生まれた時から丸い扁平母斑が6個以上ある場合には、神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)のこともあります。神経、目、骨など皮膚以外の場所にも症状が出てくる可能性がある症候群で、早めに総合病院の皮膚科を受診したほうがよいでしょう。

扁平母斑は、多少の色の変化はありますが、自然に消えるあざではありません。色が淡褐色で、肌と違和感が少ないため気にならなければ、強いて治療する必要はありません。顔や腕など、肌の露出部にあって気になる場合は、皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科を受診することが勧められます。

思春期前後になってから肩などに生じる褐色調のあざで、発毛を伴うこともあるベッカー母斑

ベッカー母斑は、思春期前後になってから、肩や胸などに生じる比較的大きな褐色調のあざ。

いわゆる茶あざの一種で、先天的もしくは後天的に、顔面および四肢、体幹の体表面に生じる淡褐色から褐色の平らなあざである扁平母斑に類似しており、色素細胞(メラノサイト)の機能高進により、表皮基底層でメラニン色素が増加するために、ベッカー母斑が生じます。

多くは、体の片側に10~20セント前後の大きさで出現します。周囲の正常な皮膚との境界がはっきりしており、表面はザラザラとしています。好発部位は、肩、胸、背中、上腕など体幹と四肢の境界部。

女性よりもやや男性に多く、過半数に少し濃い発毛を伴うという点が特徴といえます。あざの部分に、髪の毛くらいの太さの毛が密に生えることもあります。皮膚から盛り上がることはありません。

発毛を伴う場合は、毛包という毛を包んでいる組織に、メラニン色素を作る色素細胞も入っています。

海水浴や強い日光にさらされた後などに、ベッカー母斑が現れることもあります。通常、悪性化することはありません。

ベッカー母斑は、多少の色の変化はありますが、自然に消えるあざではありません。色が淡褐色で、肌と違和感が少ないため気にならなければ、強いて治療する必要はありません。気になる場合は、皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科を受診することが勧められます。

皮膚のすべての部位に黒色の色素斑ができる色素性母斑

色素性母斑は、皮膚のすべての部位にできる褐色から青黒色、あるいは黒色の色素斑。母斑細胞性母斑とも呼ばれます。

母斑というのは、皮膚の部分的な奇形のことです。その皮膚の奇形というのは、皮膚の成分の一部が遺伝的素因により、異常に発育、増殖した状態をいいます。この場合、生まれた時からあるものもあるし、生後数年、あるいは数十年後に初めて出てくることもあります。

色素性母斑の一番小さい型が、いわゆるほくろ(黒子)です。つまり、点状の小さく黒い色素斑や、小豆大の半球状に隆起した黒い小さな結節。顔や全身にあり、小さい時から次第に数は増加し、古くなると色が自然に消えることもありますが、大きさは次第に増大します。

比較的大きな色素性母斑は、いわゆる黒あざです。生れ付きあることが多く、その多くは皮膚と同じ高さで、表面に黒い毛が生えていることもあります。

時には、広い範囲に生じて、先天性巨大色素性母斑と呼ばれます。まれには、全身に大小の黒褐色色素斑が多発し、その上に剛毛が密生し、その外見から獣皮様母斑と呼ばれる場合もあります。この型の母斑は、脳を始め全身の神経組織の色素異常を伴うこともあり、神経皮膚黒色症と呼ばれ、悪性黒色腫ができやすい型です。

時には、まぶたの上、下に母斑が分かれている場合もあり、分離母斑と呼ばれます。胎生期のまぶたが分離する前から母斑があった場合に、分離母斑はみられます。

色素性母斑の本態は、メラノサイト(色素細胞)となるべき細胞が表皮や真皮の境界部で、異常に増加したものです。この増殖した細胞を母斑細胞と呼びます。一般的には、母斑細胞の活性は出生後はなくなっていますが、時には残っていることがあります。この活性が非常に高進してくると、ほくろのがんといわれる悪性黒色腫に移る危険性があります。

特に、成人以降に足の裏や手のひらに急に黒あざができて、色や大きさの変化が激しい場合、色の濃淡が強い場合、母斑の境界がはっきりしない場合などは、たとえ小さくても悪性黒色腫の可能性もあるので、早めに受診します。生まれ付きの大きい黒あざも、生後早めに医師と相談します。

母斑の検査と診断と治療

血管腫の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科の医師は通常、見た目と経過から診断します。スタージ・ウェーバー症候群やクリッペル・ウェーバー症候群が疑われる場合には、画像検査などが必要になります。

ポートワイン母斑(単純性血管腫)に対しては、パルス色素レーザー治療が第一選択です。薄いあざなので、手術をすると残った傷が目立つためです。レーザー治療の効果の程度は病変の深さによって違いますが、傷を残さずにほとんどの赤あざを消退させることができます。乳幼児期から開始する早期治療が、有効です。

カバーマークによる化粧で色を隠すのも、選択肢の一つです。

顔面の正中線母斑(サーモンパッチ)は、自然に消えていく場合が多いので、治療せずに経過をみます。完全に消えない場合には、露出部位のあざなので、パルス色素レーザー治療が勧められます。ウンナ母斑は、髪に隠れて目立たない部位に生じるので、ほとんど治療しません。

苺状血管腫(ストロベリーマーク)は自然に消えていくので、特に合併症の危険がない大部分のものは無治療で経過をみて差し支えありません。ただし、まぶたに生じ、目をふさいでしまうようになったものや気道をふさぐものなどは早急な治療が必要です。

即効的な治療として、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の大量投与が行われます。効果が不十分な場合には、インターフェロンαの連日皮下注射が行われる場合もあります。これらの治療は効果的ですが、いずれも重い副作用を生じる可能性があります。

単に色調だけを自然経過よりも早期に淡くしたい場合には、パルス色素レーザー治療を行います。この治療は副作用が少ないのですが、こぶを小さくする効果は期待できません。こぶを縮小するためには、内部にヤグレーザーを照射します。

蒙古斑、異所性蒙古斑、青色母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科の医師による診断では、特徴的な色素斑なので、ほとんどは見ただけで診断はつきます。細胞増殖型青色母斑の確定診断は、切除した小結節を顕微鏡を用いて病理組織検査することでつきます。

細胞増殖型青色母斑が疑われる場合は、リンパ節転移を起こすことがあるため、CT(コンピュータ断層撮影)検査やシンチグラム検査(RI検査、アイソトープ検査)といった全身の検査も行う必要があります。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、通常の蒙古斑の場合、ほとんどが自然に消えるのでそのまま経過をみます。異所性蒙古斑の場合は、悪性化の心配はほとんどないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザーにより、あざを除去します。

Qスイッチレーザーには、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。特定のレーザー光線を患部に照射すると、皮膚の中にあるメラニン色素に対してのみ反応するため、周辺の正常な皮膚組織へのダメージを極力抑えながら、あざの元になっているメラニン色素だけを破壊することができます。

いずれのレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行います。治療対象となる異所性蒙古斑の色が濃く、範囲が広い場合、1~2回程度のレーザー照射では終わらない場合もあります。

異所性蒙古斑の治療の難しさは、治療をすべきかどうか、その見極めにあるともいわれています。乳幼児に現れた大半は、成長とともに消えてしまう、あるいは薄くなるケースが多いことから、早い時期に治療を選択してしまうことで、かえって傷跡を残してしまう恐れがあるためです。また、手の甲に境界線のはっきりしない異所性蒙古斑ができた場合、レーザーを照射することで逆に色を目立たせてしまう結果に至ることもあります。

一方で、異所性蒙古斑は、まだ皮膚の薄い幼児期に治療したほうが、レーザーが皮膚内に届きやすく、治療効果が高いといった意見もありますので、担当医とよく相談し、治療の有無を決めるようにします。

細胞増埴型青色母斑が疑われる場合は、原則として、局所麻酔による手術で深く広範囲に切除します。リンパ節転移が見付かった場合には、リンパ節を切除します。

太田母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による診断では、部位や色素斑の様子から視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、真皮上層に色素含有メラノサイトが認められます。

また、異所性蒙古斑、青色母斑などの皮膚疾患と鑑別します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による治療では、悪性化の心配はないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザー治療により、色素斑を除去します。

治療対象となる太田母斑の色が濃く、範囲が広い場合は、1〜2回のレーザー照射だけは不十分で、およそ3カ月の間隔で、少なくとも5~6回の照射を行います。

治療時期は何歳からでも可能ですが、小児の場合は全身麻酔が必要なため3歳ごろから開始するのが普通で、早期から開始するほうが効果が高いといわれています。成人の場合でも、かなり色調が改善し、完全に色素斑を除去できることもあります。

眼球の色素斑はレーザー照射ができないので、現在は治療法がありません。

扁平母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による診断では、特徴的な母斑なので、ほとんどは見ただけでつきます。神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)が疑われる場合は、神経線維腫や聴神経腫瘍、骨格異常の有無など検査します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、病変が浅いので、Qスイッチルビーレーザー、Qスイッチアレキサンドライトレーザーなどを照射すると、メラニン色素に選択的に吸収され、扁平母斑が消失したり軽快します。

レーザー治療の長所は治療を行った部位に傷跡ができにくいことですが、すべての扁平母斑に有効ではありません。思春期になって発生する遅発性扁平母斑では、多くのケースで効果を認めます。

先天性の扁平母斑では、思春期以降に色調が強くなって認識したケースでレーザーが効くのはまれで、レーザーを照射してしばらくは消えていたものが、次第に再発する場合もしばしばあります。再発の程度は、テスト治療で推測できます。

しかし、先天性の扁平母斑でも乳幼児期からレーザー治療を行うと、再発が少なく効果を認めることが多くなります。そのため、有効率を高めるために、皮膚が薄い0歳児からレーザー治療を行う医療機関が増えてきました。

レーザー治療が無効で扁平母斑がすぐに再発する場合には、ドライアイスや液体窒素を使用した治療や、グラインダーで皮膚を削る皮膚剥削(はくさく)術という手術が行われます。傷跡を残すことがあるので、第一選択ではありません。

ベッカー母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による診断は、特徴的な母斑なので、ほとんどは見ただけでつきます。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療は、医療レーザーによる治療が第一選択とされます。レーザー治療の長所は、治療を行った部位に傷跡ができにくいことです。

Qスイッチルビーレーザー、Qスイッチヤグレーザー、炭酸ガスレーザーなどを照射すると、メラニン色素に選択的に吸収され、多くのケースでベッカー母斑が消失したり軽快します。

有毛性のベッカー母斑では、レーザー治療の前に脱毛するなどの処理できれいにすることが、重要になります。

有毛性のベッカー母斑に対して、脱毛処理を行わずにレーザー治療を行うと、最初は周囲の正常な皮膚と同じ肌色になりますが、時間が経つにつれて、ポツンポツンと毛穴に一致して色素沈着が出てきます。毛包の中のメラニン色素を作る色素細胞が、過剰に反応してしまうためです。

医療機関によっては、剛毛が生えていたり、多毛である際には、Qスイッチヤグレーザーなどと医療脱毛用のレーザーを併用することもあります。

レーザー治療が無効でベッカー母斑が再発する場合には、ドライアイスや液体窒素を使用した治療や、グラインダーで皮膚を削る皮膚剥削(はくさく)術という手術、植皮術などが行われます。傷跡を残すことがあるので、第一選択ではありません。

色素性母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による診断は、特徴的な色素斑なので、ほとんどは見ただけで診断はつきます。ただし、色素性母斑自体は良性ですが、皮膚の悪性腫瘍の中でも悪性度が高い悪性黒色腫と見分けがつきにくいものも時々あります。悪性黒色腫の確定診断は、切除したほくろを病理組織検査することでつきます。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、放置しておいてもかまわない色素性母斑であっても、顔などに大きなものがあり、本人が非常に気にしたり、他人に悪印象を与える時などは、手術で除去することになります。非常に小さなほくろであっても、本人が悪性化や、その他の面で気にする時にも、手術を行うこともあります。

手術では、病変部の皮膚をメスで全部切り取った後、皮膚の欠損部を縫い合わせるか、植皮術を行います。最近では、顔の小さいほくろの場合に、メスの代わりに炭酸ガスレーザーで切除した後、縫い合わせないで自然に治るのを待つ、くり抜き療法も行われています。

いずれにして、多少の傷跡は残ります。特に、植皮術で植皮した皮膚は、周囲の皮膚とは細かい性状が異なり、完全にはなじみません。従って、手術の跡と、ほくろやあざとどちらが目立つかを考えてから、手術をする必要があります。手術をしなくても、カバー・マークを利用して、色を隠せばよいからです。

なお、炭酸ガスレーザーを用いる、くり抜き療法は顔面ではあまり傷跡が目立たないことが多いようですが、他の部位ではくり抜いたところの傷跡が目立つ場合もあります。また、レーザー治療では多くの場合、病変部を焼き飛ばすため、病理組織検査を行えません。悪性黒色腫と見分けがつきにくい場合もあるので、レーザー治療を選択する場合には、担当する医師の十分な診断力が必要とされます。

🇸🇾母斑細胞性母斑

皮膚のすべての部位にできる黒色の色素斑

母斑(ぼはん)細胞性母斑とは、皮膚のすべての部位にできる褐色から青黒色、あるいは黒色の色素斑。色素性母斑とも呼ばれます。

母斑というのは、皮膚の部分的な奇形のことです。その皮膚の奇形というのは、皮膚の成分の一部が遺伝的素因により、異常に発育、増殖した状態をいいます。この場合、生まれた時からあるものもあるし、生後数年、あるいは数十年後に初めて出てくることもあります。

母斑の代表的なものが、この母斑細胞性母斑です。大きさは大小いろいろで、皮膚と同じ高さのものから、半球状に隆起したものまであります。

母斑細胞性母斑の一番小さい型が、いわゆるほくろ(黒子)です。つまり、点状の小さく黒い色素斑や、小豆大の半球状に隆起した黒い小さな結節。顔や全身にあり、小さい時から次第に数は増加し、古くなると色が自然に消えることもありますが、大きさは次第に増大します。

比較的大きな母斑細胞性母斑は、いわゆる黒あざです。生れ付きあることが多く、その多くは皮膚と同じ高さで、表面に黒い毛が生えていることもあります。

時には、広い範囲に生じて、先天性巨大色素性母斑と呼ばれます。まれには、全身に大小の黒褐色色素斑が多発し、その上に剛毛が密生し、その外見から獣皮様母斑と呼ばれる場合もあります。この型の母斑は、脳を始め全身の神経組織の色素異常を伴うこともあり、神経皮膚黒色症と呼ばれ、悪性黒色腫(しゅ)ができやすい型です。

母斑細胞性母斑の本態は、メラノサイトとなるべき細胞が表皮や真皮の境界部で、異常に増加したものです。この増殖した細胞を母斑細胞と呼びます。一般的には、母斑細胞の活性は出生後はなくなっていますが、時には残っていることがあります。この活性が非常に高進してくると、ほくろのがんといわれる悪性黒色腫に移る危険性があります。特に、足の裏の黒あざで拡大、潰瘍(かいよう)化が出現した場合は、医師による精密検査が必要になります。

母斑細胞性母斑の検査と診断と治療

母斑細胞性母斑は、それ自体は全く良性であり、心配することはありません。一般的には、治療の対象にならず、放置しておいてもかまわないものです。

しかし、特に成人以降に足の裏や手のひらに急にできて、色や大きさの変化が激しい場合、色の濃淡が強い場合、母斑の境界がはっきりしない場合などは、たとえ小さくても悪性黒色腫の可能性もあるので、早めに受診します。生まれ付きの大きい黒あざも、生後早めに医師と相談します。

医師による診断は、特徴的な色素斑なので、ほとんどは見ただけで診断はつきます。ただし、母斑細胞性母斑自体は良性ですが、皮膚の悪性腫瘍の中でも悪性度が高い悪性黒色腫と見分けがつきにくいものも時々あります。悪性黒色腫の確定診断は、切除したほくろを病理組織検査することでつきます。

放置しておいてもかまわない母斑細胞性母斑であっても、顔などに大きなものがあり、本人が非常に気にしたり、他人に悪印象を与える時などは、皮膚科、形成外科での手術で除去することになります。非常に小さなほくろであっても、本人が悪性化や、その他の面で気にする時にも、手術を行うこともあります。

手術では、病変部の皮膚をメスで全部切り取った後、皮膚の欠損部を縫い合わせるか、植皮術を行います。最近では、顔の小さいほくろの場合に、メスの代わりに炭酸ガスレーザーで切除した後、縫い合わせないで自然に治るのを待つ、くり抜き療法も行われています。

いずれにして、多少の傷跡は残ります。特に、植皮術で植皮した皮膚は、周囲の皮膚とは細かい性状が異なり、完全にはなじみません。従って、手術の跡と、ほくろやあざとどちらが目立つかを考えてから、手術をする必要があります。手術をしなくても、カバー・マークを利用して、色を隠せばよいからです。

なお、炭酸ガスレーザーを用いる、くり抜き療法は顔面ではあまり傷跡が目立たないことが多いようですが、他の部位ではくり抜いたところの傷跡が目立つ場合もあります。また、レーザー治療では多くの場合、病変部を焼き飛ばすため、病理組織検査を行えません。悪性黒色腫と見分けがつきにくい場合もあるので、レーザー治療を選択する場合には、担当する医師の十分な診断力が必要とされます。

🇸🇾変形性母指手根中手関節症

母指の付け根の関節軟骨が擦り減ることによって生じる疾患

変形性母指手根中手(しゅこんちゅうしゅ)関節症とは、母指(親指)の付け根の関節軟骨が擦り減り、骨どうしが直接ぶつかり合うことで痛みを覚える疾患。母指CM関節症、母指変形性CM関節症とも呼ばれます。

母指の手根中手関節はCM関節とも呼ばれ、指の手前の甲の骨である第1中手骨と、手首の小さい骨である大菱形骨(だいりょうけいこつ)の間にある関節で、母指が他の指と向き合って、物をつまんだり、握ったりなどの動作をする上で、大きな働きを担っています。

そのぶん使いすぎや老化に伴って、関節軟骨の摩耗が起きやすく、進行すると関節がはれ、第1中手骨の基部が外側に亜脱臼(あだっきゅう)してきて、母指が変形してきます。

変形性母指手根中手関節症を発症すると、物をつまむ時や瓶のふたを開ける時など母指に力を必要とする動作で、母指の付け根付近に痛みが出ます。進行すると、この付近が膨らんできて、母指が横に開きにくくなります。また、母指の先にある関節が曲がり、手前の関節が反った白鳥の首と呼ばれる変形を示してきます。

ひどくなると安静時にも痛かったり、変形が気になるようになってきます。

中高年女性に多く見られ、手芸や園芸など手をよく使う趣味を持つ人だけでなく、特に何もしていない人でも発症します。近年は高齢化により、発症者数は急増しています。

母指の異変を感じたら、早めに整形外科を受診することが勧められます。素人判断で市販薬を用いたり、自己流の対応をとったりして受診を先延ばしにしていると、病状の悪化を招くことになります。

変形性母指手根中手関節症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行います。X線写真で、母指手根中手関節の透き間が狭く、関節軟骨が擦り減って骨が直接ぶつかり合った部位に骨棘(こつきょく)と呼ばれる小さな突起があったり、時に亜脱臼が認められると、確定できます。

区別しなければならない疾患には、手首の母指側の腱鞘(けんしょう)炎であるドケルバン病や、リウマチによる関節炎があります。

整形外科の医師による治療では、痛みが軽いうちは消炎鎮痛剤入りの湿布剤などの外用薬を用います。また、関節保護用の軟性装具を着けるか、固めの包帯を母指から手首にかけて8の字型に巻いて動きを制限し、痛みの軽減を図ります。

それでも不十分な際は、消炎鎮痛剤の内服、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の関節内注射を行います。

痛みが強く、亜脱臼を伴う高度な関節の変形や母指の白鳥の首変形が見られる際には、大菱形骨の一部を取り除いて関節を作り直す関節形成術、関節を動かないように固定する関節固定術、人工関節を使う人工関節置換術などの手術を行います。

🇸🇾変形性腰椎症

腰に5つある腰椎の加齢による変化によって、腰痛が起こる疾患

変形性腰椎(ようつい)症とは、腰に5つある腰椎の加齢による変化によって、腰痛が起こる疾患。腰部変形性脊椎(せきつい)症とも呼ばれます。

腰椎は上から第1腰椎、第2腰椎と呼び、一番下が第5腰椎です。それぞれの間には、軟骨である椎間板が挟まっていて、クッションのような働きをしています。

変形性腰椎症の主な原因は、加齢です。年齢を加えることによって、椎間板が変性して弾力性が失われ、クッション作用が弱くなります。その結果、腰椎同士がぶつかったり、椎間関節や靭帯(じんたい)組織などが擦り減ったりすると、腰椎は刺激されて骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨の突出ができたり、腰椎の並びにずれが生じて変形し、筋肉組織を含め腰部の痛みやだるさなどの局所症状が起こります。

腰椎の変性、変形を増悪させる要因としては、重労働や遺伝的素因などが挙げられます。

変形性腰椎症の主な症状は、腰部の痛みやだるさ。通常は、朝の起床時などの動作開始時に強く、動いているうちに軽減します。長時間の同一姿勢でも、腰痛やだるさは増強します。

腰痛の部位は、腰部全体に漠然と感じる場合や、腰椎の後端が隆起した棘突起の骨組織の周囲であったり、 脊椎の両側にある傍脊柱筋であったりとさまざまです。また、臀部(でんぶ)や大腿(だいたい)後面まで痛みを感じたり、下肢のしびれや冷感を覚えることもあります。

腰椎に変形が起こると、姿勢が悪くなります。腰椎の変形が高度になると、外見上も体が側方に曲がって側湾になったり、後ろに曲がって後湾(いわゆる腰曲がり)が起こったりし、腰痛のため長時間の立位が困難になってきます。

変形性腰椎症による腰椎の変形があっても、痛みがなければ特に問題はなく、今までどおりの生活を送ってかまいません。しかし、腰痛はさまざまな疾患の症状として現れますので、症状に変化があれば整形外科を受診して検査を受けたほうがよいでしょう。

変形性腰椎症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、腰痛が主体で下肢症状があっても軽微な場合に、X線(レントゲン)検査で骨組織の加齢による変化を確認し、さらにそのほかの疾患を除外することで変形性腰痛症と確定します。

X線検査で加齢による変化が認められても、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症、腰椎すべり症などでは下肢の症状が主体になることが多く、変形性腰痛症とは区別されます。腰痛を起こす脊椎以外の疾患、すなわち腎(じん)臓や膵(すい)臓などの内臓疾患や婦人科疾患、さらに解離性大動脈瘤(りゅう)なども、除外する疾患として挙げられます。

🇮🇱便失禁

排便や排ガスを十分にコントロールできない状態

便失禁とは、排便や排ガスを十分にコントロールできない状態。

便意を催してからトイレに行くまで我慢できずに失禁するタイプの切迫性便失禁と、便意を感じないままに無意識のうちに便が漏れるタイプの漏出性便失禁があり、両方を併せ持つタイプもみられます。

便失禁の原因には、いろいろなものがあります。原因のうち最も多いものとして、出産時の肛門周辺の筋肉の損傷があります。排便には内肛門括約筋、外肛門括約筋、肛門挙筋、恥骨直腸筋という4種類の筋肉が関与していますが、出産の際に肛門括約筋などが傷付き、その伸縮自在の筋肉の強さが低下することで便失禁、ガス失禁、下着が汚れる、肛門がただれてかゆくなる、便の偏位などの症状が起きます。また、出産の際に肛門括約筋を支配する神経が傷付くこともあります。

この障害は出産後すぐに気付くこともありますが、年を取るまで明らかにならないこともあり、この場合には出産と便失禁との因果関係がはっきりしないことがあります。

肛門や肛門周囲の組織の手術を受けたり、しりもちをつくなどのけがをすることで、内外肛門括約筋を傷付けた場合も、便失禁が起こります。肛門周囲の組織に感染症が起こった場合にも、肛門括約筋が傷付くことがあり、便失禁が起こることがあります。高齢になるにつれ肛門括約筋が弱くなったり、脊髄(せきずい)から肛門周辺の筋肉に入っている神経線維が委縮してくる結果、便失禁が起こることもあります。

腸の炎症や、直腸腫瘍(しゅよう)、直腸が肛門から飛び出す直腸脱といった疾患により、便失禁が起こることもあります。多発性硬化症や糖尿病といった疾患により、肛門括約筋を支配する神経が障害されるために、便失禁を来すこともあります。脳卒中、脊髄損傷、脳神経疾患、痴呆(ちほう)により、神経の刺激が肛門へ届かなくなるために、便失禁を来すこともあります。

さらに、下剤の乱用が、便失禁の原因となることもあります。直腸に固まった便が詰まっている時に下剤を飲むと、固まった便の回りを下痢便が伝って失禁することがあります。

我慢できずに失禁するタイプの切迫性便失禁は、意識的に力を入れた時の肛門の締まりが弱くなっており、出産時に肛門周辺の筋肉を損傷した人、肛門や肛門周囲の組織の手術を受けた人に多くみられます。無意識のうちに便が漏れるタイプの漏出性便失禁は、無意識での肛門の締まりが弱くなっており、高齢者や直腸脱の発症者などに多くみられます。

便失禁は起こる頻度の高いもので、特に加齢とともに起こる頻度が高くなってきますが、羞恥(しゅうち)心のために、どんなに不快な症状があっても医療機関へ行かず、自己療法で我慢している人が少なくありません。医師に気軽に相談することが重要です。

便失禁の検査と診断と治療

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による診断では、まず問診により、便失禁の程度とそれが生活に及ぼす影響について明らかにします。便失禁の原因の多くは、詳しく病歴を聴取することにより明らかになります。

例えば、女性の場合、過去の出産歴は重要です。出産の回数が多かったり、新生児の体重が大きかったり、鉗子分娩(かんしぶんべん)の既往があったり、会陰(えいん)切開の既往があったりすると。肛門括約筋が損傷されていることがあります。時には、全身疾患や薬剤が原因となって便失禁を来すこともあります。

次いで、肛門部の診察を行います。これにより肛門括約筋の損傷が容易に明らかになることがあります。肛門領域をもっと詳しく調べるために、他の検査が必要となることがあります。例えば、肛門内圧検査では、小さなカテーテルを肛門内に挿入し、肛門括約筋を緩めた時と締めた時の圧力を測定します。この検査によって、肛門内圧がどの程度弱いか、または強いかが明らかになります。

肛門括約筋を支配する神経が正常に機能しているかどうかを調べるために、他の検査が必要になる場合もあります。さらに、肛門領域に対して超音波検査を行い、肛門括約筋が損傷している領域を明らかにすることもあります。

肛門科、消化器科、婦人科の医師による治療では、症状が軽度ならば、食事習慣の改善指導および整腸剤での処置を行います。時には、現在処方されている薬剤を変更することで、症状が改善することもあります。

大腸炎など直腸領域の炎症性疾患が便失禁の原因になっている場合には、原因疾患を治療することによって、症状が改善することもあります。

肛門括約筋を強くするために、簡単な体操(ケーゲル体操)が勧められることもあります。バイオフィードバックという治療法があり、特殊な機械を用いて正しく肛門括約筋を締めるコツを体得することによって、排便時の肛門領域の知覚を改善し、肛門括約筋を強くすることもできます。

肛門括約筋が損傷している場合には、手術を行うこともあります。手術には、肛門の皮下に紐(ひも)を入れて、肛門を小さくするチールシュ法、肛門括約筋縫合術、代替筋利用手術法などがあります。

肛門括約筋縫合術は、外肛門括約筋を折り畳むように縫い縮めることで肛門に力を入れやすくし、同時に肛門後方で恥骨直腸筋を縫縮することにより、直腸を前方に折り曲げて、直腸肛門角を強くすることで便が直腸から肛門に下りてきにくくするものです。しかし、手術直後から完全に便の漏れがなくなるわけではありません。手術で筋肉の緩みを取って、筋肉が効率よく働けるようにすることはできても、筋力が強化されるわけではありません。その後に、筋力増強のためのリハビリテーションが必要となります。

肛門の手術や出産時の外傷による肛門括約筋の損傷が原因のものは、手術的に肛門括約筋を修復することで、元通りに治すことができます。加齢による便失禁には、完全に治す治療法はありませんが、近年行われている低周波電気刺激治療器の使用は特に筋肉の老化によるものに対して効果があります。

脳卒中、脊髄損傷、脳神経疾患による便失禁は、治すことができません。近年、末梢(まっしょう)神経の障害が原因と思われるものに対しては、神経の移植や人工肛門括約筋なども試みられていますが、まだはっきりした結論は出ていません。

予防対策は、まず便失禁が減るように排便をコントロールすることです。特定の食べ物や飲料で下痢や水様便、軟便になりがちな人は、それらを控えるように注意します。水様便や軟便はどうしても漏れやすいですし、硬い便は肛門に無理がかかります。肛門に負担のかからない質のよい便が直腸に下りてくるように、運動や食事、場合によっては薬を使用して、根気強く便秘や下痢をコントロールすることも必要です。

また、便秘で刺激性下剤を服用している場合は、塩類下剤(酸化マグネシウムなど)に変更して下痢や軟便にならないようにコントロールします。普段から下痢や軟便が多い人は、便を固める作用のある止痢薬で有形便にコントロールすることも有効です。

排便後しばらくして失禁する場合は、排便のたびに座薬や浣腸(かんちょう)を使用し、直腸内の残便をなくすように試みることが有効な場合もあります。突然の便失禁に対しては、一時的に便の排出を抑える肛門用タンポン(アナルプラグ)を使用するのも一つの方法です。

🇨🇾偏執症

不自然でない妄想を抱く精神疾患

偏執症とは、脳および心の機能的、器質的障害によって引き起こされる精神疾患の1つ。妄想性障害、妄想性パーソナリティ障害、パラノイアとも呼ばれます。

1つ以上の奇異ではない内容の妄想、すなわち誤った思い込みが、少なくとも1カ月間持続するのが特徴です。

偏執症における妄想は、理にかなっていて、不自然な内容のものではありません。例えば、偏執症では「友人はスパイで、自分は隠しカメラで監視されている」、「隣人はスパイで、犬を毒殺しようと企てている」などという妄想を抱くのに対し、統合失調症(精神分裂病)では「友人が小さくなって、自分の耳の中に入っている」、「隣人が蚊に変装し、窓の外を舞っている」などという明らかに不自然な妄想を抱きます。

統合失調症が健康な状態と明らかに一線が画される重度の精神疾患であるのに対して、偏執症では人格は保たれ、感情や行動の異常はみられません。この偏執症は、しばしば統合失調症、器質性精神疾患、妄想性人格障害、うつ病のような他の障害と同時に起こります。発症する年代は一般的に、成人期中期から後期にかけてです。偏執症の亜型も、いくつか知られています。

すべての偏執症の本質的な特徴は、偵察される、だまされる、陰謀を企てられる、追跡される、毒を盛られる、感染させられる、わざと中傷される、嫌がらせを受ける、配偶者や恋人に裏切られるなどという被迫害信念のような妄想システムで、実生活でも起こり得るような状況を含んでいます。

一般的に、怒り、恨み、そして時折の暴力は、これら誤った被迫害信念に付随したもの。疑い深さも共通しており、誰(だれ)にでも向けられるか、または一人あるいは複数の人に向けられます。

偏執症の病型として、色情型、誇大型、嫉妬(しっと)型、被害型、身体型、混合型、特定不能型の7タイプが認められています。

色情型では、他の誰か、通常は社会的地位の高い人が自分と恋愛関係にあるというのが、妄想の中心的なテーマになります。電話、手紙、メール、さらには監視やストーカー行為などで、妄想の対象と接触を図ろうとすることもあり、この妄想から出た行動が法律に触れることもあります。

誇大型では、肥大した価値、権力、知識、身分、あるいは神や有名な人物との特別なつながりに関するものが、妄想の中心的なテーマになります。例えば、自分には偉大な才能があるとか、重要な発見をしたなどと思い込みます。

嫉妬型では、自分の性的パートナーが不誠実であるというのが、妄想の中心的なテーマになります。あいまいな証拠から誤った推測をして、配偶者や恋人が浮気をしているなどと思い込みます。このような状況では、傷害事件に発展する恐れもあります。

被害型では、自分、もしくは身近な誰かが何らかの方法で悪意をもって扱われているというのが、妄想の中心的なテーマになります。陰謀をたくらまれている、見張られている、中傷されている、嫌がらせをされているなどと思い込み、裁判所など行政機関に訴えて、繰り返し正当性を主張しようとすることもあります。まれに、害を及ぼそうとしている想像上の迫害者に報復しようとして、暴力的な手段に訴えることがあります。この被害型は、犯罪行動、特に暴力的な犯罪行動と最も関連がある病型なのです。

身体型では、自分に何か身体的欠陥がある、あるいは自分が一般的な身体疾患にかかっているというのが、妄想の中心的なテーマになります。体に異常があるとか体臭がするなど、体の機能や特性に捕らわれ、寄生虫感染といった想像上の身体疾患の形を取る場合もあります。

混合型では、妄想が上記の病型の2つ以上によって特徴付けられますが、どのテーマも優性ではありません。特定不能型では、妄想のテーマが特定できません。

偏執症の検査と診断と治療

偏執症(妄想性障害)は、もともと妄想性人格障害がある人に発症します。その妄想性人格障害の人は成人期初期より、他人の行動や行動理由に対して全般的な不信と疑い深さを示します。発症初期には、人に利用されていると感じる、友人の誠実さや信頼に執着する、悪意のない言葉や出来事の中に自分を脅す意味が隠されていると読む、恨みを抱き続ける、軽視されていると感じるとすぐに反応するなどの症状がみられます。

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、妄想を伴う統合失調症などの他の精神疾患のほか、薬物乱用や投薬、一般的な身体疾患による直接的な生理的作用がないことが確認されれば、本人の病歴に基づいて偏執症と判断されます。

医師の側は、発症者の危険性がどの程度か評価する必要があります。とりわけ、本人がどの程度妄想に捕らわれていて、自分の妄想に基づいてどのような行動をするつもりなのかを評価することが、犯罪行動を防ぐ意味からも重要です。

偏執症から重度の障害に至ることは、まずありません。しかし、次第に妄想に深くのめり込むようになることがあります。大抵の場合、仕事を続けることができます。

医師と発症者の良好な関係が、奇異ではない内容の妄想、すなわち誤った思い込みの治療に役立ちます。危険な病態だと判断されるケースには、入院治療が必要となります。一般に、抗精神病薬は用いられませんが、場合によっては症状を抑える効果があります。長期治療の目標は本人の関心を妄想からもっと建設的で満足感のあるものへ移すこととされますが、かなり難しい目標です。

🇨🇾フリクテン性角膜炎

角膜や結膜に水疱状の斑点を生じる眼疾

フリクテン性角膜炎とは、角膜や結膜に、円形で水疱(すいほう)状の小さな灰白色の斑点(はんてん)が生じる疾患。フリクテンとは、その水疱状の斑点のことです。

フリクテンは主に、角膜の右端か左端の結膜、すなわち黒目と白目の境目あたりの角膜縁に1〜2個生じ、周囲の結膜は充血します。数日すると、充血の中心が隆起します。自覚的には、涙が出てまぶしく、異物感や痛みがあります。自然に治っても、再発することが多くみられ、炎症が去っても角膜に濁りが残り、視力を損なうこともまれにあります。

子供に多くみられますが、若い女性にもみられ、特に体の弱い虚弱体質で偏食をする場合に多くみられます。

原因は不明。昔は結核菌が多かったため結核アレルギーともいわれ、現在ではブドウ球菌や真菌(かび)に対するアレルギーともいわれています。

フリクテン性角膜炎の検査と診断と治療

あまり悪質な疾患ではありませんが、早めに専門医の診察を受けます。

医師は、症状から診断します。治療には、副腎(ふくじん)ホルモン(ステロイド剤)、抗生物質の点眼薬や眼軟こうを用います。角膜の濁りには、赤外線照射や、コットンを目の上に置いて温める温罨法(おんあんぽう)を行います。比較的治りやすいものの、手術が必要なこともあります。

全身療法として、鉄剤、カルシウム剤、肝油などの内服を行う場合もあります。

治癒した後、再発することもありますので、偏食や過労には気を付けます。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...