2022/08/11

🇮🇶過敏性膀胱

泌尿器の異常が認められないのに、頻尿などを起こす疾患

過敏性膀胱(ぼうこう)とは、腎臓(じんぞう)や膀胱などの泌尿器に異常が認められないにもかかわらず、頻尿や尿意切迫感を起こす疾患。神経性頻尿、膀胱神経症とも呼びます。

一般に、女性に多くみられる傾向があります。神経質で几帳面(きちょうめん)、強迫的傾向にある人に多いようです。

過敏性膀胱を発症する原因は、精神的な要因やストレス、恐怖心などです。膀胱は精神的な影響を受けやすい器官で、排尿には精神的、心理的な要因が関係してくることが少なくありません。例えば、試験や試合、デートや会食、発表会や演奏会、大事な面接や会議、プレゼンテーションなど、人それぞれの勝負時や本番など緊張する場面でトイレが近くなる状態は、誰でも経験することです。

この状態が一過性の現象として終わらず、その後も排尿回数が日常生活に支障を来すほど頻繁になる場合があります。また同じことが起きるのではないかという不安や恐怖心が先立ち、殊更に尿意が意識されてしまう結果、実際に度々尿意を感じるようになり、意識すればするほど我慢できなくなって頻尿のパターンに陥ります。

精神的負担やストレスを感じる場面で精神が高ぶり、何度もトイレに行きたくなった経験や、電車や車の中でトイレを我慢したエピソードなどを切っ掛けに、過敏性膀胱は発症します。職場や学校、家庭でのストレスを始め、いじめや暴行、事故や災害などによる重大な精神障害を機に発症することもあります。

通常、排尿痛や発熱は見られず、尿意を意識せずに何かに熱中している時や、夜眠っている時には症状はありません。逆に、尿意を気にしたり、意識すれば意識するほど、膀胱に少量の尿がたまっただけで強い尿意を感じ、我慢できなくなります。

男性では、職場や仕事上のストレスなどで無菌性の前立腺(せん)炎を起こす場合があり、過敏性膀胱の症状と複合して長引くケースも少なくありません。

女性では、軽い膀胱炎を実際に患い、それを切っ掛けに過敏性膀胱を発症するケースも多く認められます。この場合、頻尿や尿意切迫感のほかに、排尿痛、残尿感、下腹部の不快感など、膀胱炎と同じ症状を認めることがあります。

過敏性膀胱の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、まず尿検査を行うと膀胱炎などのように膿(うみ)や血尿などは出ないので、すぐに過敏性膀胱と判断できます。就寝中に排尿がみられないことも、診断の手掛かりになります。

さらに、問診によって、他の自覚症状の有無や頻尿に至った心理的要因を把握していく過程で、残尿感などを訴える発症者には、超音波検査による残尿測定などを行うこともあります。頻尿に伴い、切迫性の尿失禁などの症状を訴える発症者には、膀胱内圧測定や、婦人科的な検査を行うこともあります。

検査の結果、器質的疾患がないことがわかれば、膀胱容量が正常であることを確認するために、一日の排尿回数と排尿量を記録してもらいます。朝一番の排尿量が300ミリリットルあれば、膀胱容量が正常であることがわかります。

泌尿器科の医師による治療では、膀胱の過敏性を和らげ、余分な収縮を抑える抗コリン薬を服用したり、心因的な要素が強い時には抗不安薬や自律神経調整薬などを服用することもあります。

抗コリン薬の服用期間中には、排尿記録を基に目標を決めて、排尿間隔を開け、一回量を増やすような生活を心掛けます。服薬を中止することによる頻尿の再発を心配することはありません。 精神面が大きく作用する過敏性膀胱の場合、数週間の服用で頻尿の習慣が消え、服薬を中止しても大丈夫な人が多いものです。 改善したら、予防法など考えず、排尿回数に無関心になることが最大の予防法といえるでしょう。

🇴🇲下部尿路結石

下部の尿路に石ができた結果、いろいろな障害が発生する疾患

下部尿路結石とは、尿路の下位にある膀胱(ぼうこう)と尿道に石ができた結果、いろいろな障害が起こる疾患。

尿の通り道である尿路に石ができる疾患をまとめて尿路結石といい、石がある尿路の部位により腎(じん)臓結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石といい、膀胱結石と尿道結石の下部尿路結石に対して、膀胱より上位にある腎結石と尿管結石は上部尿路結石といわれます。

膀胱結石は腎臓結石がとどまったり、膀胱内で結石ができたりする状態

膀胱結石は、腎臓結石が膀胱まで落ちてきたり、膀胱内でできた状態。石は少なくて1個、たくさんできてしまう人は数10個までできてしまいます。

発症者には、高齢の男性が多いのが特徴です。結石が小さいうちに尿とともに排出されずに、膀胱内で大きくなったことが原因で、その背景には、前立腺(せん)肥大症、膀胱頸部(けいぶ)硬化症、神経性膀胱機能障害、膀胱憩室、尿道狭窄(きょうさく)などの尿路通過障害などの疾患があることが多くみられます。

また、尿路通過障害や膀胱内異物などに合併しやすい尿路感染は、尿素分解細菌の働きによって、リン酸マグネシウムアンモニウム結石などのいわゆる感染結石を作る原因となります。膀胱炎にかかりやすい人では、こうした感染結石が約半数を占めるといわれています。

さらに、膀胱留置カテーテルなどの異物には、結石の基となる結晶が付着しやすいことから、異物を核とした結石の形成がみられることもあります。男性に多い尿酸結石は、生活習慣病である高尿酸血症などの尿酸代謝の異常や酸性尿が関係しています。

排尿後に痛みを感じる、尿が濁る、尿が近くなる、血尿が出る、頻尿が起こる、膀胱部が痛むといった症状が現れます。排尿の途中で結石が膀胱出口をふさいでいると、急に尿が止まってしまうこともあります。中には、無症状な人もいます。

膀胱結石の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断は、触診や膀胱鏡、X線撮影、超音波などの検査で行います。

泌尿器科の医師による治療としては、膀胱結石を作る原因となる疾患の治療をし、外部から結石を破壊したり、手術をして摘出をします。

膀胱結石の手術による治療法では、経尿道的手術と膀胱切石術が代表的です。

経尿道的手術は、 腰椎(ようつい)麻酔下に、尿道から挿入した内視鏡を用いて結石を摘出する方法です。腹部を切開せずにすみ、回復も早いため、最近ではほとんどの膀胱結石に対して、この治療法が行われます。手術の合併症として、出血や膀胱損傷、尿道損傷のほか、尿路性感染症による発熱がみられることがあります。

膀胱切石術は、 腰椎麻酔下に、下腹部から膀胱前壁を切開して結石を取り出す方法です。大きな結石や数が多い場合、あるいは前立腺肥大症や膀胱憩室の手術とともに行われることがあります。合併症としては、細菌感染による皮膚や膀胱壁の縫合不全が起こることがあります。

尿道結石は腎臓などで作られた結石が、尿道の途中にとどまる疾患

尿道結石は、腎臓や膀胱で作られた結石が、尿の最終的な通路である尿道の途中にとどまる疾患。

膀胱に蓄積した尿が体の外へ出る時に通る管である尿道に結石が詰まると、尿の流れが妨げられます。そのため、トイレにいってもうまく尿を排出することができなくなり、力んでも途切れ途切れにしか出なかったりします。また、昼夜を問わず頻繁に尿意が起こり、排尿後もまだ何となく尿が残っている感じがして、 すぐにまたトイレにいきたくなります。

ひどい場合は、30分~1時間ごとにトイ レにいくこともあり、最悪の場合は尿の出が完全にストップしたりします。さらに、ふだんはわからなくても、コップに尿を取り、光に透かしてみると尿が白っぽく濁っています。

尿道に詰まった結石が尿道壁を傷付けると、排尿中や排尿の終了後に強い痛みを感じたり、血が混じった赤色の尿が出てくることもあります。

この尿道結石は、女性に起こることは少なく男性がほとんどです。その原因は、男性と女性とでは尿道の長さや形状などがかなり違うことにあります。まず、男性の尿道は長さが15~16センチほどで細長く、膀胱から前立腺を貫いて陰茎の先端までS字を描くように伸びています。対して、女性の尿道は、長さが3~4センチほどで男性よりも太く、膀胱から膣(ちつ)の前方を通って外尿道口まで直線的に伸びています。

男性の尿道は長くて細いので、それだけ結石がとどまって詰まりやすいのです。女性の尿道は男性のそれと比べると短くて太いので、結石ができても多くは尿と一緒に流れ出ます。ただし、女性の尿道結石が全くないというわけではありません。ビールの飲みすぎなど、食生活に何らかの問題があれば起こり得ます。

なぜ石ができるのかは尿路感染、代謝異常、ホルモン、薬など原因のはっ きりしているものもありますが、およそ8割は原因不明。石が作られる過程は、尿中の結石成分であるミネラルの濃度が何らかの原因で過飽和状態になり、腎臓に結晶核が生じてきます。その結晶が成長、凝集して結石となると考えられています。

尿道結石は尿道狭窄や前立腺肥大症などの尿の出にくくなる状態の時に現れますので、排尿時の痛み、血尿などの症状が出たら、そのまま放置してはいけません。何の対処もせずにいると、主に大腸菌などの腸内細菌の感染によって膀胱の粘膜に炎症が起こったり、悪化して腎不全や尿毒症を引き起こす可能性もあるからです。

尿道結石の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断は、触診や尿道鏡、X線撮影、超音波などの検査で行います。

泌尿器科の医師による治療は、尿道狭窄が起きていた場合には、ブジーと呼ばれる棒状の医療器具を挿入して結石を膀胱へ押し込みます。そして、内視鏡を使って超音波やレーザーなどで結石を破砕します。結石が前部尿道にあった場合には、異物鉗子(かんし)と呼ばれる器具を入れて石をつかみ、摘出するという処置が試みられます。

ブジーにより尿道が広げられると、自然に石が出てくることもあります。ブジーによても石が膀胱内に戻らない場合には、麻酔下で開腹手術を行うこともあります。

原因がはっきりしないため、予防には難しい面があります。ただし、尿路結石で最も多い成分のシュウ酸カルシウムに関していえば、食物中のシュウ酸が体内に吸収されて、尿になる時にカルシウムと結合して結石になるため、予防にはシュウ酸の多く含まれた食物を控えるか、腸で吸収されて血液中に入る前に、 腸内でカルシウムと結合させることです。

それには、シュウ酸の多いコーヒー、紅茶にはカルシウムを含むミルクをたっぷり入れたり、結石を溶かす作用があるクエン酸を含む食べ物を取ることです。クエン酸を含む食べ物は、レモン、みかん、グレープフルーツ、いちご、パイナップル、キウイ、梅干し、酢などです。

また、日本で尿道結石が急激に増えてきた背景には、食生活が欧米型になったこともあるようなので、魚や野菜中心の日本型食生活を心掛けることも有効。逆に、ビールにもシュウ酸が多く含まれているので、注意が必要です。

🇴🇲かぶれ(接触皮膚炎)

原因となる物質との接触で起こる皮膚の炎症

かぶれとは、原因となる物質が接触することによって起こる皮膚の炎症。接触皮膚炎とも呼ばれます。

原因となる物質は、身の回りの品や職業と関係のあるさまざまな物が挙げられます。植物類では、うるし、ギンナン、桜草など。金属類では、腕時計、ネックレス、イヤリングなど。ゴム類では、ゴム手袋、下着類のゴム、おむつカバーなど。さらに、化粧品類、香料、シャンプー、せっけん、整髪料、染髪やパーマに使われる薬剤、防臭剤、殺菌剤、ゴム製品や皮革の加工に使われる化学物質などです。

かぶれは皮膚炎が発生する仕組みから、一次刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎に分けられます。

一次刺激性接触皮膚炎は、接触した物質の毒性が非常に強いために、接触した人全部がかぶれるようなものです。非アレルギー性の炎症反応で、うるし、ギンナン、毛虫の毛、酸、アルカリなどの家庭用・業務用化学物質、灯油やガソリン、有機溶剤などが付いた時に生じます。通常の使用法では刺激を起こさない製品でも、使用法を誤ると接触皮膚炎を起こすことがあります。

アレルギー性接触皮膚炎は、接触した物質の毒性の強さと症状の強さは相関せず、アレルギーのある人のみに生じるようなものです。まず、原因となる物質に触れると、皮膚の炎症細胞が感作されます。次に、その原因物質に再度、ないし何度か接触することによって、皮膚の炎症細胞が活発に働いて、かぶれを誘発します。炎症細胞が感作されていない人では、全く反応しない炎症反応です。

症状はいわゆる湿疹の型をとりますが、原因物質によって多少異なります。最も多いのは、原因物質が触った部分が赤くはれ、強いかゆみがあり、次第に小さな水膨れとなるもので、原因物質との接触が続く間は治りません。

かぶれができるところは、原因物質が加わった部分なので、自分で気が付くことが多いものです。もし原因に気付かずに、何度も繰り返してアレルギー性接触皮膚炎などが起こっていると、皮膚が次第に厚くなったり、色が付いて治りにくくなります。かき傷やかさぶたもみられるようになります。また、原因がわかっても、職業や生活環境の関係から原因が除去できなくて、治らない場合もあります。

接触皮膚炎症候群という病態もあります。原因物質の接触した以外の部分にも湿疹が広がることで、かいて広がる場合をいいます。さらに、これが全身に広がることがあり、自家感作性皮膚炎と呼ばれます。

かぶれの検査と診断と治療

アレルギー性接触皮膚炎の場合、初めは原因物質が触れた部分だけに症状がみられますが、その物質への接触を続けていると範囲が広がって全身に及ぶことがあります。思い掛けない物質が原因になっていることもあります。早めに皮膚科を受診して、原因物質を確認することが大切です。

一次刺激性接触皮膚炎の場合、アレルギーとは無関係なため特に検査を行うことはしません。アレルギー性接触皮膚炎の場合、症状やその部位から原因物質を推定し、続いて貼布(ちょうふ)試験(パッチテスト)で確認します。

貼布試験では、リント布かガーゼに原因と考えられる物質を塗って、皮膚に張り付け、絆創膏(ばんそうこう)で固定します。48時間後に検査の判定を行った時、貼布した部分に発赤、または小さな水膨れができていれば陽性です。金属アレルギーの場合は、1週間たって陽性反応が出ることもあるため、診断に時間がかかります。貼布試験を行う際には、入浴はできず、汗をかかないように注意する必要もあります。

最もよい治療法は、原因物質に触れないようにすることです。医師の側では、原因物質が含まれている製品を知らせるとともに、その物質が含まれていない代替製品を紹介します。

皮膚の炎症やかゆみを和らげるには、ステロイド外用剤の塗布と抗ヒスタミン作用のある内服剤が有効です。症状が激しく、範囲が広い場合には、短期間ステロイド剤を内服します。

🇴🇲花粉症

●花粉症とは

 「花粉症」は「アレルギー性鼻炎」、「枯草熱」、「花粉熱」、あるいは「花粉によるアレルギー性鼻炎」、「季節性アレルギー性鼻炎」ともいわれ、ある種の植物の雄しべの中にある花粉を吸入するためにかかるアレルギー性疾患の一種です。起こす症状はくしゃみ、鼻水(水性鼻汁)、鼻詰まり(鼻閉)、喘息(ぜんそく)、目のかゆみ、結膜炎など。

 病気の始まりは、突然です。多くは春先のある日、昨年までは何の症状もなかった人が、立て続けのくしゃみと止まらない鼻水に悩まされるようになるのです。その症状は、花粉が飛ぶ春から夏の間にかけて続き、花粉がなくなると自然に治まってきます。

 しかしながら、一度症状が出ると翌年以降、雄性の配偶体である花粉が飛来する季節の到来とともに、再び症状が出始めます。

 この花粉症はかなり最近の病気で、昭和36年(1961年)に、日本で初めてブタクサによる花粉症患者が発見され、その2年後にスギ花粉症患者が発見されました。

以来、花粉症患者は、都市化が進むとともに増え続ける一方で、今や日本人の10人に1人が花粉症だといわれています。20~40歳代に多く、また女性により多い病気と見なされています。

■花粉症にかかりやすい人

 困ったことに、大人になってからでも突然発症する花粉症は、いったい、どんな人がかかりやすい病気なのでしょうか。

アレルギー体質の傾向が強い人

アトピー、食物アレルギー、小児喘息などがあって、一般にアレルギー体質の傾向が強い人が、かかることが多いとされている。

特に、ダニの死骸などのハウスダストに対してアレルギーがある子供の70~80%は、花粉症もあるという。逆に、アレルギーがない子供の花粉症は、30%以下。

アレルギー体質と花粉症には、明らかな関係があるようだ。

生活が乱れている人

例えば、食生活が乱れ、インスタント食品やコンビニ食品、ファーストフード、スナック菓子ばかりを食べている人は、要注意。こうしたものには添加物も多く、アレルギーへの影響が大きいといわれている。また、肉などの蛋白質のとりすぎも、アレルギー体質になりやすいとか。

ほかに、睡眠不足、生活時間が不規則な場合も、自律神経が乱れ、免疫機能が正常に働かなくなるため、アレルギーを引き起こす原因になる。もちろん、ストレスもその立派な原因の一つ。

都市的な生活をしている人

周りの道路はアスファルトで舗装されて、車両の往来が激しく、コンクリートの建物が多い環境の上、気密性の高いマンションに住んでいたり、ビルで働いている人など。

特に、自動車の排気ガスによる大気汚染は、花粉症の増加につながる原因。実際、スギ花粉の飛散数が多い非汚染地区より、飛散数が少ない大気汚染地区のほうが、スギ花粉症を訴える人が多いケースがある。

■花粉症は遺伝するのか

 蕁麻疹(じんましん)や気管支喘息に代表されるアレルギー性の病気には、遺伝が深く関わっています。つまり、花粉症にも遺伝が関わっているのです。

 両親にスギ花粉症がある場合、子供がかかる可能性は55~60%、片親だけが花粉症の場合の子供の可能性は30~50%、両親ともに花粉症でない場合の可能性は10~30というデータもあります。

 しかし、アレルギー性の病気の発症は、遺伝のみで決定されるものではありません。生活習慣や環境にも、大きく左右されます。

●花粉症の原因となる植物

■日本は8割がスギ花粉症

 花粉症の主な原因は、一般に風によって受粉する花粉。スギ花粉はその代表で、花粉症患者の約8割を占めているといわれています。

 その他にも原因となる植物があり、中でもヒノキ花粉はスギ花粉とよく似た糖たんぱく構造をしており、スギ花粉に反応する人はヒノキ花粉にも反応しやすいのです。

 スギ、ヒノキのほか、イネ科、ブタクサの花粉症も多く見られます。本州、四国、九州ではスギ花粉症が中心ですが、北海道ではイネ科、ヨモギ、カバノキ科の花粉症が多くなります。そのほか果樹園やハウス栽培などで働く人には、職業性花粉症が起こることもあります。

 また、世界的に見れば、地域に生育する植物の花粉が原因で起こる病気のため、同じ花粉症といってもお国ぶりが見られます。日本の約8割はスギ花粉症ですが、アメリカではブタクサ、ヨーロッパではイネ科、北ヨーロッパではカバノキ科が中心となっています。

■花粉症を起こす主な植物

 木本花粉

スギ科(スギ)

ヒノキ科(ヒノキ)

カバノキ科(シラカバ、ハンノキ、オオハシバミ)

ブナ科(ブナ、コナラ、クヌギ、クリ)

ニレ科(ケヤキ、アキニレ、オヒョウ、エノキ、ムクノキ)

 草本花粉

イネ科(カモガヤ、ススキノテッポウ)

キク科(ブタクサ、ヨモギ、セイタカアワダチソウ)

クワ科(カナムグラ)

■地域で特徴的な花粉症の原因植物

北海道

イネ科、シラカバ、テンサイ

東北

スギ、イネ科、リンゴ、サクランボ

北陸

ハンノキ

中部

ヒノキ、クルミ

関東

スギ、ケヤキ、イチョウ

近畿

ウメ

中国

オオバヤシャブシ、ネズ、モモ、ジョチュウギク

四国

オリーブ

九州

カラムシ

■花粉が飛び散る時期

 原因となる植物の花が咲き、花粉が飛び始める頃に、花粉症も始まります。花粉の飛ぶ時期は地域によって異なり、また、開花前の気温が高いほど早くなります。

 スギ花粉の平均的な飛散開始時期は、九州や四国の南部が2月上旬、関東南部が2月中旬、関東北部が2月下旬、東北地方は3月で、気温の上昇に伴って増加し、1カ月ほどでピークを迎えます。

 このスギの花が開くのは、昼間、気温が高くなった時間帯です。しかし、空中の花粉は、昼間は上昇気流に乗って上空に運ばれ、夜に再び落ちてきます。だから、前線の通過などがなく天気が安定している限り、スギ花粉が多いのは昼過ぎと日没頃になります。

 ヒノキ花粉の飛ぶ時期は、スギ花粉より3~4週間遅く、ブタクサやヨモギは8~9月が中心です。

 また、毎日の花粉の飛散量は、その日の天気に大きく左右されます。天気がよく暖かい日には多くなり、雨の日や湿度の高い日は少なくなります。

●飛び始める前の予防が大切 

 花粉症対策で、何より大切なのは「予防」です。毎年の予防対策の違いで、この先、どんどんつらくなっていくのか、楽になっていくのか、症状の分かれ道になります。

 なぜ、早めの対策が必要なのでしょう。

■症状が軽くなる

予防を講じない

症状が始まると、坂を転がるように加速し、どんどん悪化する可能性がある。

しかも、その年だけではない。一般的にアレルギーは、対策を講じないと年々ひどくなる病気だ。

早めに予防する

発症する前に、坂を転がりにくくなるよう予防や治療を始めると、何もしない時に比べて、ずっと楽に。

しかも、その年だけでなく、年々悪くなるのを食い止められる。

■軽い薬の使用ですむ

 症状が出始めてしまったら、強めの薬でなければ治まりにくいものです。あるいは、強い薬でも治まらない場合も多いものです。それよりも、早めの軽い薬で悪くしないようにするほうが、安心です。

始まってからの強い薬

悪化した場合、多量に使っても効かないこともあり、 副作用が強く出る可能性もなきにしもあらず。

始まる前の軽い薬

症状全般が悪化しにくいので、楽。ただし、効き目が出るのには時間がかかる。

また、予防をしていても、一部に強い症状が出ることはある。しかし、その時に使う「強めの薬」も、予防しない時より少なくてすむ。 

●こんなことから始めてみよう!

■花粉が飛び出してからの対策

 花粉症対策の基本中の基本は、花粉と接触しないことです。少しでも飛散が始まったならば、「まだ大丈夫」と油断しないで、掃除や外出時対策の習慣を身に着けたいものです。

 特に花粉の飛散時期には、花粉症の人も、そうでない人も、1日1回必ず掃除を行うことを心掛けたいものです。

 その理由は、

花粉に接触しないため

部屋を閉め切っていても入ってくるのが花粉。これを除去するためにも、飛散量が多い時期はできれば毎日掃除したい。

ダニに要注意!

ダニの死骸やフンは、あらゆるアレルギーの下地になりやすい。特に、花粉症で粘膜がデリケートになっている時期は、花粉でなくても刺激となってしまうので、注意して除去したい。

 同じ掃除でも、ちょっとの工夫で大きな差が出ます。に見えない花粉だからこそ、「知恵」を使ってたくさん追い出したいものです。

*掃除は朝のうちに

  花粉が日中多く飛ぶのは、主に午前9時~午後3時。その時間を避けて掃除したいものです。特に朝、まだ人が動いていない時には、ホコリも花粉も舞い上がっておらず、床に落ちているので効率的。

*排気は窓の外へ

 掃除機を使う際には、ホースを付け足して長くし、本体は外に出しながら使うことがお勧めです。   

*風の強い日は、掃除の際も窓を開けない

 最近は、排気循環型の掃除機や、フィルターの細かいものも売られているので、そうしたものを選ぶのもよいでしょう。

*空気を湿らせてから

 乾燥していると、ホコリも花粉も舞い上がりやすいもの。加湿器などで湿度を上げてからのほうが、より効果的です。もっと望ましい方法は、濡れ雑巾やモップを使う掃除です。

*空気清浄器も活用

 掃除をしてもフワフワ空気中に漂っている見えない花粉は、空気清浄器などで除去を。   

*フィルターをこまめに掃除

 他にも、こんな工夫で家から花粉を追い出しましょう。

*床をフローリングに

 じゅうたんやタタミは、知らない間に花粉もホコリもダニもたまりやすいもの。できれば取り除き、フローリングにしたいものです。

*飛散時には布団や洗濯物を外に干さない

 花粉が多く飛ぶ午前9時~午後3時の時間帯は、室内で乾かすか、乾燥機などを使いましょう。

*布団に掃除機を

 布団を干した後、できればアトピー用のローラーなどをつけた掃除機をかけると、とても効果的です。

*布団や家具を選ぶ

 毛足が長い寝具やソファーなどの家具は、フワフワして気持ちよさそうですが、花粉やホコリ、ダニがたまりやすいものです。ツルツルした手触りのものに変えるのが、無難です。

*アレルギーにはシンプルな生活

 植物や置き物、ぬいぐるみなどが飾ってある部屋は、アットホームな感じで素敵ですが、どうしても花粉、ホコリ、ダニの居場所が多いという欠点も伴います。和風や超モダンの、究極のシンプル・ライフを目指したいものです。  

●アレルギーの大敵は疲労

 花粉症というと、とかく「花粉」ばかりに注意がゆきがちですが、それと同じくらいに大切なのが、自らの体調を整えることです。

■体の抵抗力を付ける

 治療をうまく効かせるために、絶対に必要なのがその地盤づくりであり、自分の体そのものが弱っていては、花粉症には対抗できません。

 アレルギーに強い体をつくり、自律神経のバランスがよいと、花粉(アレルゲン)が入ってきて、IgE抗体(免疫グロブリンE)に結合しても、花粉症(アレルギー症状)が起こらないこともあります。免疫系が正常に保たれ、過剰な反応をしないからです。

■疲れをためると…

 副交感神経の緊張が高まったり、交感神経が抑えられていたりすると、肥満細胞からヒスタミンが放出されやすくなり、症状が出やすくなります。 

■体調を整え、自律神経を鍛えるには?

睡眠

花粉が飛び散る前から、なるべく規則的に十分とる。昼寝ができる環境なら、昼寝も OK。

体力

春は何かと忙しい時期だが、定期的に行っている運動は続けよう。そして、きちんと食べる心掛けを。

有酸素運動

普段から、鼻で呼吸できる、軽い有酸素運動の実践を。自律神経が整い、アレルギー反応を抑えやすくなる。鼻の粘膜の鍛練にもなり、鼻詰まりが改善。ただし、花粉が飛び始めてしまったら、ピーク時は、外で吸い込まないようにする。

ストレス

バラバラの生活リズムは、体を疲れさせ、花粉症の発症や悪化に確実につながる。一定のリズムを維持することで、体にストレスを与えず、疲労をためない心掛けを。

刺激物

鼻詰まりをひどくするので、からい食べ物、アルコールなどは控える。蛋白質のとりすぎにも、要注意。

たばこ

直接、鼻や目の粘膜を刺激するので、できるだけ禁煙、節煙を。

 

■心のストレスにも注意を

 心のストレスも、花粉症などのアレルギー因子の大きな1つと考えられています。

 体の免疫細胞は脳の信号を受け取ることができるという、免疫系と脳神経系の科学的なレベルでの相関関係も最近、分かってきているところで、アレルギーだけでなく、ウイルスや細菌、がんなど人間の病気の多くは、免疫機能が関係しています。

 こうしたことが解明されるにつれ、心のストレス解消の重要さが、今後ますますクローズアップされてくるでしょう。

●専門医による治療について

 先に花粉の平均的な飛散開始時期について触れましたが、早い年だと、スギ花粉は1月末~2月に少しずつ飛び始めます。花粉症はアレルギー性疾患の一種ですから、花粉に接触したら発症し始めてしまいます。

 予防するなら、その前からでなければ駄目です。主な治療法は投薬ですが、ほかにも手術、体質改善(減感作療法)などがあります。

【花粉飛散シーズンの薬物療法】

 花粉症の治療は、三つに分けられます。症状が現れることを防ぐ初期治療、症状が現れた後、速効性があり、かつ強力な治療で症状を抑制する導入療法、そして、症状の再現を抑える維持療法です。

 実際の治療は、花粉症の患者さんが病院へ来院した時期および症状の重症度によって、どの段階の治療から開始するかを決めることになります。 

1.初期療法

 症状の出ていない花粉症の患者さんには、花粉の飛散開始日を基準として、その2週間程度前から化学物質遊離抑制薬を投与する予防的治療から始めます。化学物質遊離抑制薬がアレルギー症状を抑制する効果を発揮するためには、2週間程度、毎日服用することが、必要なためです。

 また、軽微な症状が出てからの治療は、第2世代抗ヒスタミン薬での治療になります。ただし、この薬での治療も花粉の飛散開始日から大量飛散日の間までで、この期間に治療を開始すれば約1週間で予防的治療を開始した患者さんと同等の効果が得ることができます。 

2. 導入療法

 現状では花粉症の患者さんの多くは、早期に受診するのではなく、症状が重くなってから受診しています。そのため、これらの患者さんには、現在ある症状を抑制する強力な治療、例えば短期間のステロイド剤の内服が必要となります。なお、症状が治まってきたら、もう少し軽い薬での治療に切り替えます。 

3. 維持療法

 花粉症の治療では、症状が消失しても花粉の飛散が終わるまで使用している薬剤での治療を続けることが、重要になります。これが、維持療法です。  

■花粉症に用いる主な薬剤

分  類 

特  徴 

化学物質遊離抑制薬

(従来の酸性抗アレルギー薬)

・抗ヒスタミン作用のない、アレルギー症状を起こす化学伝達物質を抑制する抗アレルギー作用を持つ薬。

・花粉症のシーズン前の投与が有効。(効果が出てくるまでに、2週間程度かかるため)

第1世代抗ヒスタミン薬

(従来の抗ヒスタミン薬)

・抗ヒスタミン作用のみで抗アレルギー作用はない薬。

・即効性(20分程度で効果現れる)だが、眠気を伴う。

第2世代抗ヒスタミン薬

(従来の塩基性抗アレルギー薬)

・抗ヒスタミン作用と抗アレルギー作用を持つ薬。

・眠気を伴うことは比較的少ない。

・抗ヒスタミン作用は早く現れるが、抗アレルギー作用は効果が出てくるまでに約2週間かかる。

・花粉症に対しては抗ヒスタミン作用が主。

サイトカイン阻害剤

・アレルギー発症に関するサイトカインの生成を阻害する薬。

ロイコトリエン受容体拮抗薬

・化学伝達物質の1つ、ロイコトリエンの作用を抑制する薬です。

・通年性アレルギーでは鼻閉に有効ですが、花粉症には不明です。

トロンボキサン受容体拮抗薬

・化学伝達物質の1つ、ロイコトリエンの作用を抑制する薬。

・通年性アレルギーでは鼻閉に有効だが、花粉症には不明である。

局所ステロイド薬

・くしゃみ、鼻水、鼻閉にも効果が高く、効果が出てくるまでに1~2日と即効性のある薬。

・血管内へ吸収されにくく、局所で分解を受けやすいため全身投与に比べ副作用の出てくることはまれだが、鼻内刺激感、鼻内乾燥感、鼻出血などがある。 

経口ステロイド薬

・強力な抗炎症作用がある薬。

・副作用に注意し、短期間もしくは症状が出た時、投与する。 

【シーズンに無関係の治療法】

1. 減感作療法(免疫療法)

 「感作」とは体の中に抗体ができるという意味で、「減感作」とは抗体が減ることをいいますが、この治療をして症状がよくなっても、それに応じて抗体が減りません。体の免疫状態に変化が起こるため、最近では「免疫療法」という言葉が多く使われています。

 花粉症シーズンの薬による治療は、薬の服用を中止すれば1~2週間で薬の効果は切れてしまいます。しかし、免疫療法は中止後の効果が5~10年、あるいはそれ以上続くのが特徴で、現在では花粉症の治癒を期待できる唯一の治療法です。

 抗原エキスを微量ずつ、間隔をあけて注射することを約2~3年続けると、効果が現れてきます。飛散後からスタートし、初め半年間は週1~2回、さらに2年以上月1回の注射と、治療が長期間にわたること、効果がすぐに現れないこと、行える専門医が限られていることが欠点ですが、免疫療法終了5年後では、治療を受けた約70%から75%の方の症状が軽くなり、薬がほとんどいらない状態になっています。

 対処療法ではなく、根気よく体を徐々にスギ花粉に慣れさせて過剰反応せず、アレルギーを起こさない体質に変えて、薬なしも望める治療法は、現在、この方法だけなのです。  

2. 手術

 鼻詰まりの症状が薬ではよくならない時は、手術をすることがあります。繰り返す発作のため鼻の粘膜がケロイドのようになってしまった人(肥厚性鼻炎)や、先天的に鼻の骨が曲がっていて鼻詰まりを起こしている人(鼻中隔弯曲症)などが、対象となります。

 手軽で、効果的なレーザー手術という選択もあります。 鼻の粘膜をレーザーでやんわりと焼く施術で 、時間も1回5~20分間ですから日帰りができ、出血や痛みもありません。

 70~80%の効果が期待されますが、手術は症状を「抑える」だけで、花粉症を根本から「治す」ものではないことは、知っておきたいものです。レーザー手術後の約1週間は、一時的に鼻詰まりがかえって強く起きることもあります。

 また、花粉の飛散が始まり、発症してからでは手術を受けられないことがありますので早めに予約し、1月には済ませてしまいたいところです。

3. 漢方療法(体質改善)

 漢方薬は、花粉症に対しては局所症状だけでなく、全身の体質改善も期待できるということで、使われることがあります。具体的には、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、葛根湯加辛夷川(カッコントウカセンキュウシンイ)など、たくさんあります。

 しかし、他の病気の場合と同様に花粉症の場合も、患者さん本人の体質に合った漢方薬を処方してもらう必要が、当然あります。

🇦🇪カポジ肉腫

ヘルペスウイルス8型による皮膚がん

カポジ肉腫(にくしゅ)とは、ピンク色、茶色、紫色などの平らな染み、または、こぶが皮膚や粘膜にできる悪性腫瘍(しゅよう)。

原因となるのは、ヘルペスウイルス8型(HHV-8、別名、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス)で、血管内皮細胞に感染して発症し、やがて肺、肝臓、腸管などの臓器に病変が広がります。

1872年、ハンガリーの医師モーリッツ・カポジが、皮膚病変肉腫として報告。以降、珍しい皮膚がんの一つとして位置付けられていましたが、1994年、エイズ(後天性免疫不全症候群)患者から初めての発症が報告され、その末期に発症することで知られるようになりました。アメリカでは、カポジ肉腫を発症する人のほとんどが、エイズ患者です。

このカポジ肉腫は、古典型、アフリカ型、医原性型(免疫抑制治療関連性型)、エイズ型(流行性型)の4つに細分でき、それぞれ症状や進行が異なります。

古典型は高齢の男性で主に地中海系あるいはユダヤ系の人、アフリカ型は赤道直下の一部地域に住むアフリカ系の小児や若者、医原性型は臓器移植後に免疫抑制薬の投与を受けている人、エイズ型はエイズ患者に発症します。

高齢の男性が発症する古典型では、カポジ肉腫は紫色や濃い茶色の単独の染みとして、つま先や脚にできます。この染みは数センチ大になり、色も濃くなって、平ら、または、わずかに盛り上がり、出血しやすくなって潰瘍(かいよう)化します。脚には、同様の染みがいくつか現れることがあります。

この古典型のカポジ肉腫はゆっくりと、時には10~15年かけて進行します。病変が進むにつれて、脚に浮腫(ふしゅ)が生じ、血液が正常に流れにくくなります。しばらくして、病変が他の臓器に広がり、他の種類のがんを発症することもあります。

医原性型(免疫抑制治療関連性型)のカポジ肉腫は、体が感染と闘うのを助ける免疫系を弱める薬を投与されている人に、発症する可能性があります。肝臓や腎(じん)臓などの臓器移植を受けた人では、移植された臓器を異物と見なして免疫系が攻撃しないように、免疫抑制薬を飲む必要があるためです。

アフリカ型、エイズ型(流行性型)では、高齢男性が発症する古典型よりもっと悪性です。皮膚に現れる染みは、数が多く、体中どこにでもできます。これらの染みは数カ月以内に体の他の部位に広がりますが、口の中にできることも多く、そうなると物を食べる際に痛みます。

この腫瘍は、リンパ節や内臓にもできます。特に、消化管にはできやすく、下痢と出血を引き起こし、便に血が混じるようになります。

放射線療法が一般的な治療法

師による治療では、カポジ肉腫が皮膚に少数できている場合は、手術で病変を取り除くか、液体窒素で腫瘍を凍結させて殺します。

肉腫の数が少なく、他の症状が全く出ていない場合は、症状が広がるまでは治療を受けないという選択も存在します。

カポジ肉腫が皮膚に多数できている場合は、放射線療法を行います。この放射線療法が一般的な治療法で、がん細胞を破壊し、腫瘍を縮小させるために、体外の機械からX線や他の高エネルギー線を照射します。

悪性のカポジ肉腫の場合は、体の免疫システムが正常であれば、インターフェロンの投与や化学療法を行います。化学療法では薬を使ってがん細胞を殺しますが、薬は経口投与されるか、静脈注射または筋肉注射で投与されます。薬が血流に入り、体中を駆け巡り、最初に発生した部位以外のがん細胞も破壊することができるため、化学療法は全身療法とも呼ばれます。カポジ肉腫に化学療法を行う場合、病変に直接注射されることもあります。

免疫抑制薬の投与を受けている人の場合は、投与を中止すると腫瘍が消えることがあります。免疫抑制薬の投与を継続しなければならない人の場合、化学療法と放射線療法を行いますが、投与を中止した人と比べると成果はよくありません。

エイズ型のカポジ肉腫の場合、化学療法や放射線療法の効果はあまり期待できません。抗レトロウイルス薬の投与により、免疫システムの機能が改善されれば、結果は良好です。

高活性抗レトロウイルス療法が行われる場合、レトロウイルスの1つであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)を標的として、いくつかの抗レトロウイルス薬が組み合わされます。これらの薬物は、体内でウイルスが増殖するのを阻止し、エイズ型のカポジ肉腫のリスクを低下させるのに役立ちます。

高活性抗レトロウイルス療法では、薬の投与など他の治療法と併用せず、体内の免疫系によってがんと闘う、生物学的治療が単独で用いられることもあります。生物学的治療とは、体内あるいは製造ラボで作られる物質を用いて、疾患に対する体本来の防御機能を強化、あるいは修復するものです。

治療後に再び悪化(再発)した再発カポジ肉腫では、カポジ肉腫の種類、全身の健康状態、以前に行った治療に対する反応によって、治療法が異なります。肉腫は発生部位で再発することもあれば、体の他の部位で再発することもあります。

🇦🇪過眠症

突然に起きる強い睡眠発作を中核症状とする神経疾患

過眠症とは、突然に眠り込んでしまう激しい睡眠発作を中核症状とする神経疾患。ナルコレプシー、居眠り病とも呼ばれます。

夜の睡眠は十分に取れていても、昼間、急に睡魔が襲ってきて自分では抑制できず、眠ってしまいます。会話中、車の運転中、食事中、はたまたセックスの最中など、通常では考えられない状況で、突然、すーっと眠り込んでしまうといった具合です。

睡眠発作は1日に何度も起こることもあれば、ほんの数回しか起こらないこともあります。1回の発作で眠っている時間は、普通30分以下。意図的に短い仮眠を取った時には、すっきりと目覚めます。この睡眠発作は、ノンレム睡眠を経過せずに、いきなりレム催眠に入るのが特徴です。

過眠症のもう1つの特徴は、脱力発作(情動脱力発作、カタプレキシー)です。笑ったり、喜んだり、怒ったり、驚いたり、自尊心がくすぐられたりなどの突発的な感情が誘因となって、全身の脱力発作が起こって力が抜け、物を落としてしまったり、ろれつが回らなくなったり、数秒~数分間、筋肉がまひしてその場に崩れ込んでしまったりします。

意識ははっきりしているし、見たり聞いたりもできますが、ただ動けないだけです。この脱力発作は、レム睡眠に入ると筋肉の緊張が完全に消えることと似ています。

ほかに、睡眠まひ、入眠時幻覚を伴います。睡眠まひでは、寝入ったばかりや目が覚めた直後に、体を動かそうとして動かせない状態になります。いわゆる金縛りと呼ばれる状態で、開眼し意識はあるものの随意筋を動かすことができません。本人は非常な恐怖に駆られますが、他の人に体に触れてもらうと治ります。周りに人がいなくても、まひは数分後には自然に治まります。

入眠時幻覚では、睡眠発作により眠り込んだ際や、夜間に寝入った直後、まれに目覚めた際に、現実感の強い幻覚、幻聴を経験します。これらの幻覚、幻聴は正常な夢に似ていますが、もっと強烈で鮮明です。

夜間は、頻回の中途覚醒(かくせい)や、睡眠まひ、幻覚を体験するなどのため、睡眠も妨げられます。

日本人の過眠症の有病率は、1万人当たり16人~18人といわれています。すべての人種において発病がみられる中で、日本人の有病率は世界で最も高く、欧米では1万人に2~4人といわれています。

家族内に起こる傾向がありますが、原因は不明です。過眠症のほとんどは通常、思春期から青年期にかけて発症するため、脳の性的成熟と関係があるとも考えられています。また、オレキシンという視床下部から分泌される神経伝達物質の欠乏と関係があるとも考えられています。

症状は一生涯続きますが、症状のすべてが現れる人は全体の約10パーセントにすぎず、大部分の人は2、3の症状が出るだけです。

過眠症の検査と診断と治療

昼間に強い眠気を感じる時は、内科や睡眠外来、神経内科を受診します。

診断は症状に基づいて行われますが、別の疾患が原因で同じ症状が起こることもあります。睡眠まひと幻覚は、特に問題がない健康な成人にも起こり得ます。診断が確定しない時は、脳波検査を行って脳の電気活動の記録を取ります。過眠症があると、寝入りばなにレム睡眠の活動が起きていることを示す典型的な波形が現れます。正常であれば、レム睡眠は睡眠サイクルの後のほうで起こります。画像診断で見付かるような異常によっては、過眠症は起こりません。

根治的治療方法はありませんが、対症的療法でかなりよくなります。中枢神経刺激剤を使用することで眠気を抑制することができ、メチルフェニデート、モダフィニル、ペモリンアンフェタミン、デキストロアンフェタミンなどが使用されます。中で、モダフィニルは他より副作用の少ない薬剤です。脱力発作や睡眠まひの症状を軽くするためには、イミプラミン、クロミプラミンなどの三環系抗うつ剤、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が使用されます。

イライラ、異常行動、体重減少などの副作用が起こらないように薬剤の量の調整が必要なため、薬物療法を行っている人の体調は慎重に監視されます。

抗うつ剤によって夜の眠りを安定させ、中枢神経刺激剤を朝と昼に服用することにより、日中の睡眠発作をほとんどなくすことができます。しかし、根気よく治療を続けることが必要で、長い年月がたつと症状がかなり軽くなり、多くのケースでは薬剤の量を減らすことができるようになります。

治療では、薬剤によって症状を軽減するとともに、生活習慣の改善も図ります。大事なのは規則正しく生活をし、夜にしっかり睡眠を取ることで、睡眠表をきちんとつけることにより、自分の睡眠生活が理解できるようになります。日中に15〜20分程度の短い昼寝をこまめに取ると、睡眠発作の予防効果があります。

🇩🇪仮面うつ病

仮面うつ病とは、体の異常が前面に出ることで、気分が憂うつになったり、意欲が低下するなどの、本来のうつ病における精神症状が覆い隠されるうつ病のことです。従前にもみられましたが、身体的な症状の仮面をかぶったうつ病という意味で、近年広く用いられるようになりました。

食欲不振、著しい体重減少、疲れやすい、頭痛、下痢、便秘、腹痛、めまい、筋肉痛、手足の冷えなどの症状を訴えて、初めは内科を受診するものの、医師の側でもうつ病を見逃して胃潰瘍、片頭痛、更年期障害などの病名が付けられるケースも、少なくありません。

検査で明らかな異常は見当たらないのに、体の不調が長引く場合は、うつ病を疑う必要があります。精神科へ回れば、抗うつ薬による薬物療法が中心となりますが、本来のうつ病より治りやすいといえます。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...