2022/08/11

🇳🇵過酸症

胃の機能が高進して、胃酸の分泌が多くなっている状態

過酸症とは、胃の機能が高進して、胃液の成分である塩酸の酸度が普通よりも高くなっている状態。胃酸過多症とも呼ばれます。

胃液の分泌は自律神経の支配を受け、主として食事の前後に増加します。年間を通じて春と秋に多く、夏と冬は比較的分泌が低下しています。食事の内容によっても増加します。

症状としては、みぞおちから胸にかけて焼けるような不快感がある胸焼け、げっぷ、胃の酸っぱい液体が口まで逆流してくる呑酸(どんさん)がみられます。これらは、酸度の高い胃酸液が食後に大量に分泌されることが一般的なため、食後1~2時間で起こります。

また、食べ物が胃に入っていない空腹時に胃液が大量分泌し、とりわけ夜間に分泌量が増える傾向がある過酸症では、空腹時の胃の痛み、胃もたれ、食欲減退などの症状が現れます。

原因となるのは胃酸分泌能の高進ですが、その仕組みについてはまだよくわかっていません。胃粘膜の胃酸を分泌する細胞が多いことや、胃酸分泌を促す中枢神経からの刺激に対する感受性の高進、胃液分泌の促進と抑制を調節する迷走神経、交感神経の異常、ガストリン、セクレチンなどのホルモンの異常などが考えられています。酒、たばこ、刺激性食品の摂取過多が、原因となることもあります。

過酸症を伴いやすい疾患としては、急性胃炎、若年型慢性胃炎、胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍、ゾリンジャー・エリソン症候群、副甲状腺(せん)機能高進症などが挙げられます。

過酸症の検査と診断と治療

内科、消化器科、胃腸科の医師による診断では、口または鼻から胃に細いチューブを挿入して、採取した胃液から胃液の酸度と胃酸分泌能を調べることが確実です。胃を中心にX線検査や内視鏡検査も行い、原因となりやすい疾患の有無も調べます。

治療としては、主として胃液の分泌を抑え、胃酸の酸度を中和させるために、重曹、水酸化アルミニウムゲル・水酸化マグネシウム配合薬などの制酸剤や、胃粘膜からの胃酸分泌を強力に抑えるH2受容体拮抗(きっこう)剤、プロトンポンプ阻害剤(PPI)などの胃酸分泌抑制剤が使用されます。原因となる疾患があれば、その治療が先決となります。

過酸症において日常で注意することは、脂肪食、香辛料、コーヒー、炭酸飲料、漬物、アルコール、たばこなどの胃酸の分泌を促進するものと、精神的疲労によるストレスを避けることです。ストレスがあると、血流が悪化し胃粘膜の防御機能が低下します。

🇳🇵下肢静脈瘤

下肢の静脈が拡張し、血液が滞ることで発症

下肢静脈瘤(りゅう)とは、下肢の静脈、特に下肢の表面にたくさんある表在静脈が拡張し、曲がりくねって青く浮き出た状態。血液が滞ることで起き、下肢の静脈だけでなく食道、上肢、腹壁、肛門周囲の静脈にも現れることもあります。

静脈弁の機能不全による一次性静脈瘤と、生まれ付き静脈が拡張している先天性静脈拡張症や深部静脈血栓症などによる二次性静脈瘤に分けられます。

最も多くみられる、静脈弁の機能不全によって起こる一次性の静脈瘤は、男性よりも女性に発生しやすいという特徴があり、一般的には高齢の女性や妊婦の足に発生していることが多いものです。販売員、美容師、調理師といったいわゆる立ち仕事の多い女性にも発生しやすく、その場合には症状の進行も早くなります。

初期には静脈が膨れ上がるだけで、夕方に目立っても、一晩寝ると朝には消失していることがほとんどです。下肢を高く上げておく、すなわち挙上することによって、膨れ上がりはより改善します。症状が進むと、立位での下肢のだるさや、うっ血感、重量感、疼痛(とうつう)、浮腫(ふしゅ)、こむら返りなどが出現し、静脈瘤部の知覚異常やかゆみ、かくことによる慢性湿疹(しっしん)様皮膚炎なども現れてきます。

慢性期になると、浮腫、出血、皮膚の色素沈着、血栓性静脈炎の急性症状、うっ滞性皮膚炎などが出現し、時に難治性の静脈瘤性下腿潰瘍(かたいかいよう)となることもあります。

一次性の静脈瘤の正確な原因はわかっていませんが、加齢、妊娠、立ち仕事、肥満といった要素よりも、下肢の皮膚表面にある表在静脈の壁がもともと弱いのが主な原因と考えられています。年齢を重ねるに従って、もともと弱い静脈は弾力性がだんだんなくなっていきます。その結果、静脈は伸びて長く広くなり、正常な時と同じ空間に収まるためには、伸びたぶんを巻き込まなくてはなりません。これは、皮膚の下にヘビがとぐろを巻いているように見えます。

こういった静脈瘤は妊娠中に起こりやすいものですが、出産すればいつの間にか消えてしまいます。ただし、下肢の皮膚表面にある静脈の壁の弱さは、遺伝してしまうともいわれています。

静脈の拡張は延長よりも重大な問題で、血液の逆流を防ぐために心臓に向かって付着する静脈弁を引き離す原因となります。静脈弁が引き離された状態では、きちんと閉じることができず、起立時に重力の作用によって起こる血液の逆流を止めることができなくなります。その結果、血液が逆流して静脈内に急速にたまります。血液の逆流は、壁が薄くなって蛇行している静脈をさらに拡張させます。

正常なら表在静脈から深部静脈へ血液を送る連結静脈の一部も、拡張することがあります。連結静脈が拡張すればその弁も引き離され、筋肉が深部静脈を圧迫するたびに血液が逆に表在静脈内へ噴出して、表在静脈はさらに伸びてしまいます。

静脈瘤がある女性の多くには、毛細血管が拡張するくも状静脈もみられます。くも状静脈は静脈瘤内の血液による圧迫が原因となっている可能性もありますが、一般にまだ解明されていないホルモンが原因と考えられます。

静脈瘤は残念ながら、完治することはありません。一晩寝て翌日には消える程度のものならば様子をみてもかまいませんが、翌朝もむくみがとれない場合は、全身の疾患のチェックも含めて一度、内科あるいは外科、血管外科の医師の診察を受けることが必要です。

下肢静脈瘤の検査と診断と治療

内科、あるいは外科、血管外科の医師による診断では、立位での下肢の静脈瘤の悪化と挙上による改善で、一次性静脈瘤が確定されます。すなわち、静脈瘤が立位により著しくなり、足の挙上によって消える場合には一次性静脈瘤と考えられます。

なお、下肢静脈瘤は普通、皮膚の下の膨らみとして見えますが、症状は静脈が見えるようになる前から現れます。静脈瘤が肉眼で見えなくても、熟練した医師は足を触診して、静脈の拡張範囲を確認できます。

最近では、超音波断層法や静脈造影によって、より詳しい下肢静脈瘤の部位と程度の診断が可能です。通常、このような検査が必要となるのは、皮膚の変化や足首のむくみによって深部静脈の機能不全が疑われる場合に限られます。足首のむくみは皮膚の下の組織に体液がたまるのが原因で、浮腫と呼ばれています。静脈瘤だけでは、浮腫は起こりません。

初期の軽度のものでは、長時間の立位を避けて、弾性ストッキングを着用し、夜間に下肢を高く挙げおくことによって、症状は改善します。弾性ストッキングは静脈を圧迫することにより、静脈が伸びたり傷付いたりするのを防ぎます。妊娠中に出現する静脈瘤は、出産後2〜3週間で消えるのが普通で、この時期には治療する必要はありません。

症状が強く大きな静脈瘤があるもの、うっ血が著しくて下肢を高く挙げておいても改善しないもの、慢性の静脈血行不全があるもの、血栓性静脈炎を繰り返すものなどに対しては、表在静脈の皮下抜去(ストリッピング)、流入静脈の高位結紮(けっさつ)、局所の静脈瘤の切除、硬化薬注入による治療などが行われます。

しかしながら、手術や硬化薬注入によって、静脈瘤を切除したりすべて排除しても、この疾患は治りません。治療は主に症状を軽減して外観を改善し、合併症を防ぐために行います。どの治療法においても再発や、別の静脈瘤が出てくる場合がありますが、不適切な治療では6カ月から1年以内に再発します。

また、現在ではレーザーやパルスレーザーによる静脈内膜の焼却も行われています。レーザー療法は、高度に集束した強い光を連続的に使用して、組織を切除したり破壊するものです。パルスレーザー療法は、くも状静脈の治療に適用できます。光の当て方が瞬間的であることを除けば、レーザー療法とほとんど変わりません。

🇲🇲下肢静止不能症候群

下肢を中心に不快な感覚、むずむずする運動が発生

下肢静止不能症候群とは、夜間の睡眠時などに下肢を中心に不快な感覚が起こり、むずむずする不穏な運動を生じて、慢性的に寝付けない病状。むずむず脚症候群とも、レストレス・レッグス症候群(Restless legs syndrome:RLS)とも呼ばれています。

調査によると、日本では人口の3~5パーセントにみられ、およそ130万人の発症者がいます。症状の軽い人も含めると、200万人近くになります。年代別と性別でいえば、40歳以上の中高年に多く、特に40~60歳の女性に多くみられます。不眠症の発症者の10人に1人の割合で、下肢静止不能症候群の人がいるともいわれています。

正確な原因は不明ですが、神経伝達物質であるドーパミンの機能低下、中枢神経における鉄分の不足による代謝の異常、脊髄(せきずい)や末梢(まっしょう)神経の異常、遺伝的な要素などが考えられています。 鉄欠乏性貧血、パーキンソン病、尿毒症、妊娠、糖尿病、痛風、結核、肝炎、肺炎、関節リウマチ、胃切除後の下肢静脈血栓などの状態にある人や、慢性腎(じん)不全で人工透析をしている人、抗うつ薬や抗精神病薬を服用している人などに多くみられます。

症状としては、足の裏、ふくらはぎ、太ももに、虫がはっているような感覚や、むずむず感、ほてり感などの不快な感覚が起こるために、じっとしていられません。横になっている時や座っている時などに起こり、多くは夕方から夜にかけて強くなります。立って歩いたり、脚を動かすと症状が治まったりして楽になるものの、じっとしていると再び症状が現れます。

症状が最も現れやすいのが、夜、寝床に入っている時です。最初は時々起こる程度ですが、悪化すると毎日起こるようになり、不眠症や日中の眠気の原因となります。次第に、夜だけでなく昼間でも、テレビを見ている時、会議の最中、電車での移動中など、座ってじっとしていると症状が起こるようになり、日常生活のあらゆる場面で支障を来すようになります。また、不快感が下肢だけでなく、腰から背中、腕、手など全身にまで広がることもあります。

この下肢静止不能症候群の診断は、国際RLS研究班が考案した診断基準に従って行います。以下の4つが、その必須項目です。

1、脚を動かしたいという強い欲求が、かゆみや痛みなどの不快な下肢の異常感覚に伴って生じる。2、 その症状は、安静にして静かに横になったり座ったりしている状態で始まる、あるいはひどくなる 。3、その症状は、歩いたり脚を伸ばすなどの運動を続けている間は改善する、または治る。4、 その症状は、日中より夕方から夜間にかけて強まる、または夕方から夜間のみに起こる。

なお、下肢静止不能症候群は、皮膚の乾燥によってかゆみを感じる乾皮症との区別が必要です。高齢になると、皮膚が乾燥してかゆみが起こりやすくなります。特に、空気が乾燥しやすい冬は、かゆみに悩まされる人が多くなります。こういう乾皮症によるかゆみは、皮膚の表面に起こるものです。通常、保湿剤を塗ってスキンケアしたり、室内の乾燥を防ぐなど、日常生活の中で注意することで改善します。

一方、下肢静止不能症候群でのむずむず感は、皮膚の表面ではなく、脚の内部に起こります。症状が重い場合には、脚の中に手を入れてかき回したいと表現されるほどです。

また、下肢静止不能症候群では多くの場合、周期性四肢運動障害を伴います。睡眠中に、片側または両側の足首から先が何かをける時のようにピクッと動き、この不随意な動きを1時間に15回以上繰り返すために眠れなくなる疾患です。

通常、20~30秒周期で脚の動きを繰り返します。悪化すると回数が増え、多い人では1時間に100回以上起こる場合もあります。脚が動いても、多くの場合本人は気付きませんが、脚がピクッと動くと、脳は目覚めてしまうので眠りが妨げられます。熟睡感が得られず、昼間に眠気が起こるようになります。

下肢静止不能症候群の検査と診断と治療

下肢静止不能症候群や周期性四肢運動障害で起こる不眠は、睡眠薬を服用しても解消されません。下肢静止不能症候群の場合は、睡眠障害を専門にしている医療機関を受診し、適切な治療を受ける必要があります。

一番の問題点は、医師による身体所見や検査で異常が認められず、下肢静止不能症候群と診断できずに、無駄な投薬治療と時間を費やすことがある点です。ドクターショッピングをする発症者がいることも、まれではありません。もし、近くに睡眠障害の専門医療機関がない場合は、精神科もしくは神経内科に相談してみましょう。

医師による診断では、1週間における脚の不快な感覚の程度や動き回りたい欲求の程度、睡眠の障害や日中の疲労感、眠気を聞くことにより重症度がわかり、治療効果の判定に活用されます。睡眠ポリグラフ検査を行うと、周期性四肢運動障害の合併が50〜80パーセントで認められます。その他、MRI(機能性磁気共鳴画像装置)を利用した検査を行い、診断します。

下肢静止不能症候群の治療は、原因となる疾患がある場合にはその治療と、症状を抑えて不眠を改善することが基本になります。軽症の場合、多くは日常生活の改善で解消されます。症状が強い場合は、薬による治療を行います。

薬で主に使われるのは、パーキンソン病の治療薬であるカルビドパ/レボドパ合剤(メネシット)。脳神経に指令を伝えるドーパミンの働きを改善する薬で、パーキンソン病の治療で使うよりも少ない量を服用します。

十分な効果が得られない場合は、抗てんかん薬であるクロナゼパム(リボトリール、ランドセン)やバルプロ酸をさらに用いることもあります。また、鉄分不足が原因となっていると考えられる場合には、鉄分を補充するための鉄剤を使います。これらの薬物療法で、9割以上の人に症状の改善がみられます。

睡眠導入剤や抗うつ薬を用いると、むずむず感が解消されないまま眠気だけがどんどん増し、かえって症状を悪化させる可能性があるため、一般には処方されません。

日常生活の改善としては、カフェインは脚の不快感を強くしたり、眠りを浅くすることがあるので、コーヒーや紅茶などの摂取を制限します。たばこに含まれるニコチン、アルコールも同様ですので、特に症状が現れやすくなる夕方以降は摂取を控えるようにします。

起床時と就寝前に、ストレッチやヨガなどの軽い運動やマッサージをすれば、症状が治まります。ただし、体を激しく動かすスポーツなどを行うと、その反動が夜寝てから現れて、かえって症状が悪化してしまいますので、注意が必要となります。症状の軽い人なら、ウォーキング程度で十分で、自転車やエアロバイクも太ももやふくらはぎの筋肉を使うので同様の効果が期待できます。

🇲🇲下肢長不等

さまざまな原因により、左右の下肢の長さに差がある状態

下肢長不等とは、左右の下肢の長さに差がある状態。脚長不等、下肢長差、脚長差とも呼ばれます。

もともと、人間の体は完全な左右対照ではなく、左右の上肢、すなわち腕などは通常よく使うほうが若干長くなっているのが普通で、左右の下肢、すなわち脚の長さも正確にいえば、個々人の状態で若干の差はあります。また、足の裏のアーチの低下などによって生じる見掛けの下肢長不等もあり、左右の下肢の骨自体の長さが違う真の下肢長不等もあります。

下肢長不等にはさまざまな原因があり、短いほうの下肢に問題がある場合も、長いほうの下肢に問題がある場合もあります。新生児の時にすでに下肢長不等がはっきりしている場合もあれば、成長過程で目立ってくる場合もあります。

原因となる疾患としては、先天性脛骨(けいこつ)欠損、先天性腓骨(ひこつ)欠損、先天性大腿骨(だいたいこつ)短縮、先天性股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)、片側肥大症、片側委縮症、半肢症、プロテウス症候群、神経繊維腫症(レックリングハウゼン病)、骨髄炎による成長軟骨障害、ペルテス病、成長軟骨損傷、股関節炎、ポリオ、脳性片まひ、二分脊椎(せきつい)、さまざまな良性骨腫瘍(しゅよう)、血管腫、リンパ管腫、変形性関節症、関節リウマチ、大腿骨骨折の後遺症、人工関節や自骨の手術後の後遺症、足部の変形、放射線障害などがあります。

下肢長不等が3センチ以下では、歩行中に骨盤、体幹、下肢全体の代償運動により、外見的な異常歩行が認められないこともあります。短いほうの下肢が地面に接地している立脚時(立脚相)では、立脚側の骨盤が下降傾斜して外見上の下肢長不等を補い、その骨盤の下降傾斜を脊椎の側屈により代償しているためです。

下肢長不等が3センチ以上では、歩行中に伴う代償運動で補いきれずに、外見的な異常歩行が認められます。長いほうの下肢が地面から離れている遊脚期 (遊脚相)では、股関節と膝(しつ)関節で過度の屈曲、足関節で過度の背屈が生じ、肩が短いほうの下肢側に下がり、短いほうの足がつま先立ちとなります。歩行速度を早くすると、肩が左右に揺れる異常歩行が明らかになります。

また、長いほうの下肢には、短いほうの下肢よりも荷重が大きくかかるため、股関節、膝関節、筋肉の痛みを生じることがあります。骨盤が左右に傾くため、脊椎が変形して腰痛を生じることもあります。

下肢長不等の検査と診断と治療

整形外科、あるいは形成外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、左右の下肢の骨長や変形の程度を計測します。X線検査では肢位やX線照射角による誤差が生じるため、CT(コンピュータ断層撮影)検査による計測を行うこともあります。

整形外科、あるいは形成外科の医師による治療では、一般的に1センチ未満の下肢長不等は放置します。1〜3センチの下肢長不等に対しては、靴の中に入れる中敷き(足挿板)で高さの補正を行う補高、あるいは靴の底で高さの補正を行う補高などを行います。3センチを超える下肢長不等に対しては、手術による下肢長補正を行います。

もちろん原因となっている疾患、発症者の希望により、対応はケースバイケースです。

中敷きや靴による補高では、左右の下肢の差分を単純に補高すればよいというものではなく、調整には工夫を必要とします。補高した状態で左右の骨盤の高さが同じになるのが望ましい状態ですが、 下肢長不等がありすぎる場合にいきなり同じ高さにするとバランスを崩しやすくなるため、徐々に高さを合わせるようにします。

また、4~5センチの下肢長不等を靴によって補高する場合は、その高くなったぶん不安定になり捻挫(ねんざ)や転倒の原因になりやすいため、踵(かかと)部分をフレアースカートのように着地面に向かって広げていくフレアーヒール加工を用いるなど、安定性を考慮した構造の靴加工を行います。ふだんの靴のほかに、スポーツシューズ、サンダル、下駄(げた)なども補高できます。

手術による下肢長補正には、主に長いほうの下肢に問題がある場合に行う骨短縮術、あるいは成長軟骨抑制術(成長軟骨固定術)と、主に短いほうの下肢に問題がある場合に行う骨延長術(脚延長術)があります。

骨短縮術は、骨をそのまま切除する方法です。成長軟骨抑制術(成長軟骨固定術)は、成長期の子供の骨に存在する成長軟骨をステープルという金属で一時的に抑制したり、完全に停止したりする方法です。将来の下肢長不等を計算して予測し、どのタイミングで手術を行うかがポイントとなります。

骨延長術(脚延長術)は、リング型(イリザロフ)、あるいは単支柱型(オルソフィクス)の創外固定器を用いて、骨を延長する方法です。原理としては、手術的に骨を切り、その部位にできた仮骨と呼ばれる軟らかい骨を創外固定器により、徐々に引っ張っていきます。

下肢短縮を伴う先天奇形などの疾患に対し有効であり、変形を伴う場合でもこれを矯正しながら、骨を延長を行うことも可能です。欠点としては、延長に時間がかかること、創外固定器のワイヤーが皮膚の外に出ているために感染を起こしやすいことなどが挙げられます。

🇲🇲過食症

神経性の摂食障害の一つで、必要以上に食べる疾患

過食症とは、神経性の摂食障害の一つで、食欲が異常に増し必要以上に食べる疾患。神経性過食症、神経性大食症とも呼びます。

過食は気晴らし食いから発展し、過食症のみを呈することもあります。多くはやせるためのダイエットの反動から発展し、神経性食欲不振症(拒食症)の部分症状としてみられる過食症です。

過食してしまった自分に強い嫌悪感を覚え、翌日からまた厳しい食事制限をしますが、朝食、昼食は何とかコントロールできても、夜になると食欲に抵抗できず過食してしまうという、悪循環に陥る傾向が認められます。

拒食と過食、嘔吐(おうと)を繰り返すケースもあります。一度に大量を食べ、ほとんどの場合、自分の指を喉(のど)に入れて自己嘔吐をします。頻繁に行うと、手の甲の歯が当たる個所に吐きだこができます。

人格障害が背景にあるケースもあり、難治性なので、入院治療が原則となります。精神療法、行動療法を気長に行い、人間的な成熟を図ったり、悩みを解決したり、食に関する片寄った習慣や考え方を徐々に是正していくことが大切です。

🇲🇲下垂体機能低下症

下垂体が分泌するホルモンが低下するために起こる疾患

下垂体機能低下症とは、下垂体が分泌する6つのホルモンが低下するために起こる疾患。下垂体は脳下垂体ともいわれ、脳の下にある小さな分泌腺(せん)に相当します。

6つのホルモンは、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)。これらの下垂体ホルモンはさまざまな臓器に作用しますので、その分泌が低下した状態である下垂体機能低下症では、全身の至る所にさまざまな症状が出現します。6つのホルモンすべてが減少する場合は、汎(はん)下垂体機能低下症といいます。

多くの場合、下垂体にいく動脈が詰まって下垂体の組織が死んだり、下垂体付近の腫瘍(しゅよう)によって下垂体の正常な組織が押しつぶされることで発症します。さらに、下垂体ホルモンの分泌を調節している視床下部の異常により発症することもあります。

分娩(ぶんべん)時の大量出血の結果、分娩後の女性に起こることもありますが、その頻度は以前に比べて少なくなってきています。出生時の異常や障害によって起こることもあります。原因のはっきりしないものもあります。

ほとんどの場合、遺伝とは無関係。ごくまれに、下垂体ができ上がる際に必要なたんぱくの異常により生じることがあり、この場合は、遺伝することがあります。

原因によらず、一般に下垂体機能低下症は成長ホルモン、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンの分泌低下をまず起こしやすく、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンがこれに続きます。

それぞれのホルモンの分泌低下を反映する症状が出現し、副腎皮質刺激ホルモンが不足した場合、副腎皮質ホルモンが十分合成できなくなる結果、倦怠(けんたい)感、低血圧、低血糖、食欲不振、意識障害などが出現します。

甲状腺刺激ホルモンが不足した場合、甲状腺ホルモンの合成分泌が低下し、甲状腺機能低下症が発症し、倦怠感、寒け、皮膚の乾燥、脱毛、集中力と記憶力低下などが出現します。黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンの不足では、性ホルモンが不足し、体形が変化したり、性機能が低下したりします。また、不妊の原因となります。

成長ホルモンが不足した場合、小児では成長の遅れが生じます。成人では、体脂肪の増加、筋肉量や骨塩量の低下、気力、活動性の低下がみられます。プロラクチンの不足の場合、授乳中の女性では乳汁分泌の低下が生じます。

下垂体機能低下症の検査と診断と治療

内科、外科、脳神経外科、内分泌代謝内科の医師による診断では、下垂体ホルモンとその下垂体ホルモンが作用する組織の内分泌ホルモンを測定し、両者が低値であればその下垂体ホルモンの分泌不全を考慮します。次に、下垂体ホルモン分泌刺激試験を行い、下垂体ホルモンが低値から無反応である場合に、下垂体機能低下症と診断します。下垂体およびその周囲の腫瘍を検索するために、頭部MRIや頭部CTなどを行います。

医師による治療では、原因となっている脳の腫瘍、炎症、外傷などがある場合には、それに対する治療が行われます。原因が除去できない場合は、欠乏している下垂体ホルモンの補充が一般的な治療方法となります。

副腎皮質刺激ホルモンが不足している場合には通常、副腎皮質ホルモンの経口投与を行います。甲状腺刺激ホルモンが不足している場合には、甲状腺ホルモンの経口投与を行います。黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンが不足している場合は、必要に応じて性ホルモンの補充を行い、妊娠を希望する女性の場合や男性不妊の場合、排卵誘発療法や、精子形成を進める治療を行います。

成長ホルモンが不足している場合、小児では成長の遅れが生じますので、その補充療法を行います。成人では身長には影響しませんが、成長ホルモンの補充を行うことが身体組成の改善、骨密度の増加に有益であることがわかり、最近補充療法が行われています。プロラクチンに関して、補充療法は行われていません。

原因となっている疾患が治療されている場合、不足しているホルモンを補充している限り、健常な人と同様の生活を送ることができます。ホルモンの必要量は、体の状況に応じて変動しますので、それに合わせて調整することが重要です。

特に、副腎皮質刺激ホルモンが不足している場合、副腎皮質ホルモンの補充が必要となりますが、発熱や感染時には通常より多く服用するなど、自分で服用量を調整する必要があります。これらのことができている限り、日常生活に特に制限はありません。

🇹🇭下垂体性巨人症

発育期に、下垂体から成長ホルモンが過剰分泌されて起こる疾患

下垂体性巨人症とは、骨の末端部分の骨端線が閉鎖する前の発育期に、下垂体(脳下垂体)から成長ホルモンが過剰に分泌されるために起こる疾患。

骨の末端部分の骨端線が閉鎖して骨の発育が止まった後、すなわち思春期が終了した後に、下垂体から成長ホルモンが過剰に分泌されると、末端肥大症(先端巨大症)が起こります。下垂体性巨人症、末端肥大症とも大部分は、下垂体に腫瘍(しゅよう)ができ、そこから成長ホルモンが過剰に分泌された場合に起こります。

下垂体に成長ホルモンを作る腫瘍が生じる原因ははっきりわかってはいませんが、もともと成長ホルモンを作っている細胞が腫瘍化して、成長ホルモンを過剰に産生、分泌するようになるとの考えがあります。膵臓(すいぞう)や肺に、まれに発生する特定の腫瘍でもホルモンが産生され、下垂体を刺激して過剰な成長ホルモンが作られこともあります。

下垂体性巨人症を発症すると、急に身長が伸び、同年齢の子供の平均身長に比べて格段に高くなります。小児では最初の急激な成長は異常にみえないことがありますが、やがて、極端な成長による異常がはっきりしてきます。例えば、10歳男子では150センチ以上、15歳男子では185センチ以上になったような場合には、注意を要します。治療をしないでいると、身長が2メートルを超えることもあります。身長ばかりでなく、手足も長くなります。

腫瘍の増大により、周囲の視神経が圧迫されたり、性腺(せいせん)刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモンなどほかのホルモンを分泌する下垂体の細胞が圧迫されたりすると、視野が障害されたり、思春期の遅れ、性器の発育障害、甲状腺機能低下がみられることがあります。

成人してくると、いくぶん末端肥大症の特徴を伴ってきて、手足が大きくなり、特有な顔や体形を示すこともあります。

発症する確率は、100万人当たり10人はいないといわれています。下垂体性巨人症自体は命にかかわる疾患ではないものの、治療をせずに放っておくと、普通の人に比べて寿命が10年前後短くなるともいわれています。

 ちなみに、身長が2メートルを超えたすべての人が、下垂体性巨人症というわけではありません。ほとんどが体質が関係して、身長が伸びた人です。

極端に身長が伸びた場合は、念のため内科ないし内分泌科、内分泌内科の専門医を受診したほうがよいでしょう。

下垂体性巨人症の検査と診断と治療

内科、内分泌科、内分泌内科の医師による診断は、症状、血中ホルモンの測定、および画像検査により行われます。

検査では、まず血中の成長ホルモンを測ります。ブドウ糖液を飲んで、血中の成長ホルモンを測定する検査も行われます。血中の成長ホルモンは正常者ではブドウ糖により低下しますが、下垂体性巨人症では低下が認められません。また、血中の成長ホルモンは分泌が不規則なために、最近は、成長ホルモンにより作られるインスリン様成長因子(IGF―I)というホルモンの信頼性が高いといわれており、診断のために測定されています。

画像検査として、下垂体の異常成長を調べるためにMRI検査やCT検査が行われます。

内科、内分泌科、内分泌内科の医師による治療は、第一に手術が考慮されます。鼻腔(びくう)から下垂体と接している骨を削り、下垂体の腫瘍を摘出する方法が一般的に行われています。腫瘍が小さいと完治させることも可能ですが、大きい場合や周囲に広がっている場合は、完全に取り除くことは難しくなります。

その場合は、放射線や薬による追加治療が行われます。コバルトやリニアックを照射する放射線治療では、効果が出るまでに数年かかり、ほかの下垂体ホルモンの分泌が低下することがあります。多くの場合、定位手術的照射という直接的照射治療が、治療効果を早く得るため、そして正常な下垂体組織を残すために行われています。

薬による治療でも、時にはブロモクリプチンなどのドーパミン作用薬が有効で、錠剤を服用することで成長ホルモンの量を減らせます。最も有効なのは、成長ホルモンの産生と分泌を正常に遮断するソマトスタチン系のホルモンの皮下注射です。注射薬にはオクトレオチドや、持続型インスリンアナログもあり、1カ月に1回程度の投与ですみます。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...