2022/08/11

🇮🇩鵞足炎

膝の内側で、脛骨の上部に付着している鵞足部分に起こる炎症

鵞足(がそく)炎とは、膝(ひざ)の内側で、脛骨(けいこつ)の上部に3つの腱(けん)が付着している鵞足部分に起こる炎症。鵞足滑液包炎とも呼ばれます。

3つの腱は、半腱様筋腱、薄筋腱、縫工筋腱で、腱がまとまっている状態を後ろ側から見ると、鵞鳥の足のような形をしているところから、この部分を鵞足と呼んでいます。

鵞足炎は、3つの腱や、鵞足部分と内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)の間にある滑液包が炎症を起こしている状態です。発症すると、膝の内側の鵞足部分から、膝を曲げる時に使う筋肉で大腿(だいたい)部の後ろにある大腿屈筋群にかけて痛みが生じます。

鵞足部分の3つの腱は、膝の曲げ伸ばしをする際に、膝が内側に入る外反動作や、膝から下を外側にひねる外旋動作をした際に、腱と骨、腱同士、または腱と内側側副靱帯がこすれ合います。特に、走りながら方向転換をする際には、これらの動作が行われるので、鵞足部分に炎症が起こりやすくなります。

ランニング動作で脚を後ろにけり出す際や、サッカーのキックでけり出した脚を減速させる際、バスケットボールやラグビーで急な方向転換を行う際などに、特に過度の負担がかかります。急に長い距離を走ったり、使いすぎたりなど、これらの動作を繰り返すと、炎症が起こりやすくなります。

方向転換を伴わないランニングでも、膝を真っすぐにそろえて立つと足首の内側に透き間ができるX脚や、踵(かかと)の骨が内側に傾いているために着地時に足が外返しになる回内足などの骨格異常があると、外反動作と外旋動作が繰り返されることになります。

また、水泳の平泳ぎのキックでも、同様の外反動作と外旋動作が繰り返されるため、平泳ぎは鵞足炎を起こす典型的な動作といわれています。

そのほかにも、足の内側に重心が片寄るような間違った靴選び、衝撃を吸収できないアスファルトのような硬い地面の走行、重心が片寄る坂道の走行なども、痛みの原因となります。

ふだん、スポーツをしていない人が急にランニングなどのスポーツを始めた場合や、成長期の子供の成長軟骨(骨端線)閉鎖前の筋緊張の強い時期などに、鵞足炎の症状が強く出やすいともされています。

通常は運動後に鵞足炎を発症することが多く、初期には膝の曲げ伸ばしをした際や運動を再開した際に痛むのみですが、徐々に進行すると歩行や階段の昇り降りに伴っての痛みが現れます。ひどくなると、じっとして安静にしている時にも痛みを感じるようになり、日常生活にも支障を来します。

鵞足炎の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、運動時に膝下内側の鵞足部分から大腿屈筋群にかけて痛みがあり、鵞足部を押さえると痛みを生じるなどの特徴的な症状がみられる場合に、鵞足炎と見なします。基本的に痛みやはれといった症状だけですので、膝の不安定性があったり、X線検査で膝関節の他の組織に損傷が認められる場合は、膝蓋靱帯炎、腸脛靱帯炎など別の障害の可能性も疑います。

整形外科の医師による治療では、軽症の場合、膝を使う運動を控えて安静を保つことで、炎症が治まり数週間で自然に治ります。

痛みが強い場合は、安静を保ちつつ患部を冷やすアイシングを行ったり、シップなどの消炎鎮痛剤を使って炎症を抑え、テーピングで固定します。痛みが治まってきたら、鵞足部の筋肉のストレッチングやマッサージをして、筋肉をほぐすのも効果的です。比較的短期間の安静で症状は軽快しますが、再燃のリスクが高いので、安静期間は長めにとることが必要です。

急に痛みが発生した直後は患部を冷やすアイシングを行い、テーピングで固定しますが、症状が長く続いて痛みが慢性化している場合は、患部を冷やしたり、固定・圧迫することは、血行が悪くなり逆効果なので、患部を温めたり、積極的に動かして血行を促進します。

重症時は、痛み止めの注射や電気治療なども行います。

鵞足炎の根本的な原因は、膝の使いすぎ(オーバーユース)と、姿勢や動作フォームの不整です。これらを改善することで、鵞足炎の予防と再発防止に役立ちます。

スポーツ時には急に練習量、運動量を増やさず、自分のレベルに合ったトレーニングを行い、疲労の蓄積を感じたら十分に休養することを心掛けます。

膝への負担を軽減するために、運動前後のウォームアップ、クールダウンをしっかり行います。ふだんから鵞足部やその周辺の大腿屈筋群、膝屈筋群(ハムストリングス)、股(こ)関節内転筋群の筋力トレーニング、ストレッチングを行い、筋力と柔軟性のアップを図ります。

ジョギングやランニングは、できるだけ軟らかい土の地面や平らな道で行います。また、走行時に膝が内側に入っていないか、踵が外を向いていないか確認し、正しいフォーム作りをします。

X脚や回内足などの障害がある人や足の形が悪い人は、シューズの調整や足底板の使用によって重心のバランスを正常に保ちます。障害のない人も、靴のサイズは合っているか、十分な衝撃吸収力はあるか、足底が斜めになっていないか確認しておきます。

🇮🇩家族性アミロイド・ポリニュ-ロパチ-

成人期になってから、感覚障害や自律神経障害、筋力低下が現れる先天性神経変性疾患

家族性アミロイド・ポリニュ-ロパチ-とは、手足のしびれや、その他の感覚障害、筋力低下など、多くの神経症状がある疾患。遺伝性ニューロパチーの一種です。

世界的に注目されている神経難病の一つで、日本でも難病として治療費は公費負担になっています。病型は4つに分類されていますが、日本では1型が圧倒的に多く、この型はポルトガル人、日本人、スウェーデン人に多くみられるタイプです。

主に、肝臓で作られるアミロイドが神経や臓器に沈着するために、引き起こされるとされています。アミロイドは特殊な線維たんぱくからなるガラス様物質であり、このアミロイドが作られるのは、同じく肝臓で合成されるトランスサイレチン(プレアルブミン)という物質の遺伝子に点変異(DNAの1塩基の欠失、置換、挿入のこと)があるのが主因とされています。

発症様式や、アミロイドが神経や臓器に沈着する仕組みは、まだ不明です。両親のどちらかが素因を持つ常染色体優性遺伝形式をとります。

主に30歳代で発症しますが、年齢には個人差があり、発症するまでは健康な人と何ら変わりません。遺伝子を持っていても、生涯に渡って発症しない人もいます。

家族性アミロイド・ポリニュ-ロパチーの1型を発症すると、下肢末端にアリが刺すようなチクリとした痛みを感じるようになり、次第に温痛覚が強く侵されます。深部感覚の振動覚、位置覚は侵されません。

時には、先行して胃腸症状が現れて便秘と下痢が交互に出現したり、男性は勃起不全(インポテンツ)が起こり、次第に激しい自律神経障害が現れて、起立性低血圧、大小便失禁などが出現してきます。

特に筋肉の委縮が広範に現れて筋力が低下し、運動障害のために歩行困難と四肢末端の皮膚栄養障害、難治性潰瘍(かいよう)を伴い、約10年前後で重症感染症、心不全、尿毒症などで死亡するのが一般的です。

近年の疫学調査では、高齢者が発症する家族性アミロイド・ポリニュ-ロパチーの存在が注目され、心不全、運動障害が前面に出て、自律神経障害が軽度であることが指摘されています。

家族性アミロイド・ポリニュ-ロパチ-の検査と診断と治療

内科、神経内科の医師による診断では、感覚障害、自律神経障害、筋力低下などの症状や、家族歴から疾患が示唆されますが、質量分析装置を用いた血清診断を行い、微量の血清から短時間でトランスサイレチン(プレアルブミン)の異常を検出することで、確定できます。

また、遺伝子診断でトランスサイレチンの遺伝子における点変異の存在を検出することでも、確定できます。症状を自覚した状態での確定診断のため遺伝子診断もありますが、全く症状がない状態での発症前遺伝子診断もあり、将来、発症する可能性があるかどうかわかります。

家族性アミロイドポリニュ-ロパチ-を治したり、症状の悪化を防ぐような根本的な治療法はありませんが、早期であれば、平成5年より、肝臓で生成される異型のトランスサイレチンを止めるために肝臓移植が行われ、効果を上げ始めています。肝臓移植には、脳死した人から肝臓の提供を受ける脳死肝臓移殖と、家族などから肝臓の一部を受ける部分生体肝臓移植があります。

家族性アミロイドポリニュ-ロパチ-の症状にある低血圧や下痢、不整脈などには、薬で症状を軽減させることができます。心臓ペースメーカーを埋め込んで、不整脈を抑えることもあります。緑内障など目にも異常が起こることがありますので、定期的に眼科で検査することが必要になります。

🇮🇩家族性角膜変性

角膜混濁が徐々に両眼性に生じてくる遺伝性の疾患の総称

家族性角膜変性とは、黒目の表面を覆う透明な薄い膜である角膜内に、本来は存在しない脂肪や石灰などの成分が沈着して混濁が両眼性に生じてくる遺伝性の疾患。角膜ジストロフィーとも呼ばれます。

角膜の表面の上皮だけでなく、その奥の実質にも濁ったり、薄くなったりといった影響が出ます。さまざまなタイプが知られており、角膜上皮、実質、内皮のそれぞれに家族性角膜変性があります。

角膜にみられる混濁の形から顆粒(かりゅう)状角膜変性、斑(はん)状角膜変性、格子状角膜変性、膠様滴(こうようてき)状角膜変性などに分類されているほか、日本人ではまれで欧米に多いフックス角膜内皮変性もあります。

疾患の原因として、代謝の異常が関与していることがわかっており、多くのタイプの家族性角膜変性では原因となる遺伝子が特定されています。遺伝形式は常染色体劣性遺伝のものが多く、顆粒状角膜変性や格子状角膜変性の一部など優性遺伝するものもあります。従って、家族の間に起こることが多くみられます。

混濁が軽いうちは、光がまぶしい、時々ぼやけて見えるなどの症状のことが多く、混濁が進行すると視力低下の原因となります。ただし、若年から壮年にかけて視力が低下するものや、老年になってもほとんど自覚症状のないものまで、発症の時期や程度はさまざまです。

最も頻度が高い顆粒状角膜変性は、角膜の混濁が部分的であるため、軽度であれば全く無症状ですが、年齢とともに視力の低下やまぶしさを訴えるようになります。格子状角膜変性は、顆粒状角膜変性よりも視力低下が強く、また角膜の上皮の接着が不良なため、異物感や疼痛(とうつう)を生じる発作を繰り返す再発性上皮びらんを起こすこともあります。

斑状角膜変性とフックス角膜内皮変性は、年齢とともに強い視力障害を起こしてきます。膠様滴状角膜変性は、かなり若いころから、アミロイドという物質が角膜の表面近くに沈着して表面がでこぼこになるため、視力障害やまぶしさが強いのが特徴で、再発性角膜びらんも起こします。

家族性角膜変性と一口にいっても、さまざまなタイプが含まれていますので、まず眼科の医師の診察を受けて、その性質や程度を判断してもらうことが大切です。

家族性角膜変性の検査と診断と治療

眼科の医師による診断としては、一部の専門病院では、血液から白血球を採取し、そこに含まれているDNAを解析し、原因遺伝子を検索することがありますが、まだ一般的な検査とはなっていません。遺伝子診断は保険適応外であり、多くの場合では行われません。ほとんどは、問診(家族歴)や、体の疾患、そして診察所見で診断が可能です。

原因の遺伝子は最近わかりましたが、まだそれによる原因治療は開発されていません。眼科の医師による治療としては、一般に薬物で治療できることはなく、角膜の表層部分までの混濁であれば、メスを使って混濁を除去するか、エキシマレーザーを使って紫外線を角膜に当てることにより、混濁を除去します。

従来からのメスを使って行う手術よりも、エキシマレーザーを使う手術は精密に行えるため、良好な結果が期待できます。このエキシマレーザーは、近視矯正手術でも使われているものです。

角膜の深部まで混濁が起こっている場合には、角膜移植手術が行われます。この手術では、濁った角膜を円形にくり抜いて除去し、アイバンクに登録された透明な角膜を移植し、特殊なナイロン糸で縫い付けます。角膜以外に目の疾患がなく、拒絶反応の少ない家族性角膜変性であれば、移植後に1.0以上の視力が得られることも珍しくはありません。

エキシマレーザーや角膜移植の成績は一般に良好ですが、原因が内因性であるため、このような治療を行っても再発してくる可能性があり、それが現在の課題となっています。タイプによっては再発率が高いものがあり、繰り返し角膜移植を行うことになる場合もあります。

🇧🇳家族性高コレステロール血症

遺伝によって高コレステロール血症を発症する疾患

家族性高コレステロール血症とは、遺伝によって、血液の中を流れる脂質成分であるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が異常に増え、高コレステロール血症を発症する疾患。

本来、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は、肝臓の細胞表面にあるLDL受容体と呼ばれる蛋白(たんぱく)によって細胞の中に取り込まれ、壊されます。しかし、家族性高コレステロール血症では、LDL受容体の遺伝子やこれを働かせる遺伝子に異常があるため、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が細胞の中に取り込まれないで、血液の中にたまります。

人間の遺伝子は、父親由来と母親由来の2つが 一組となってできています。LDL受容体やこれを働かせる遺伝子の両方に異常がある場合をホモ接合体と呼び、いずれか一方のみに異常が認められる場合をヘテロ接合体と呼びます。ホモ接合体のみならずヘテロ接合体も、高コレステロール血症を示します。

家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の発症者は500人に1人以上、家族性高コレステロール血症ホモ接合体の発症者は100万人に1人以上の頻度で認められ、家族性高コレステロール血症の発症者総数は25万人以上と推定されています。さまざまな遺伝性代謝疾患の中でも、最も頻度が高い疾患といえます。

家族性高コレステロール血症ホモ接合体の発症者は、血清総コレステロール値が生まれつき非常に高く、平均で713mg/dl程度とされています。家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の発症者は、平均で338mg/dl程度とされています。健常人は、120~220mg/dlです。

このため、家族性高コレステロール血症ホモ接合体の発症者は、10歳までに、肘(ひじ)や膝(ひざ)などの皮膚に黄色腫(おうしょくしゅ)と呼ばれる黄色いいぼ状の塊が見られます。成長とともに、結節状に盛り上がった黄色腫が肘や膝、手首、尻(しり)、アキレス腱(けん)、手の甲などに多く認められます。

また、幼い時から動脈硬化が進行して、大動脈弁や冠動脈に動脈硬化が進行すると、階段を上がると胸が痛い、苦しいという症状が出ることがあります。小児期に狭心症、心筋梗塞(こうそく)などの命にかかわる疾患を発症することもあります。

家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の発症者では、重症例で皮膚の黄色腫が見られることがありますが、多くは10歳以後に起きます。

家族性高コレステロール血症は、常染色体優性遺伝性の形で遺伝する可能性があります。父親と母親がともに家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の場合、4分の1確率でホモ接合体の子供が生まれます。両親のいずれか片方がヘテロ接合体である場合、2分の1の確率でヘテロ接合体の子供が生まれます。

家族性高コレステロール血症は、小児期に皮膚の黄色腫で気付かれ、血液検査で明らかな高コレステロール血症が判明することで診断されます。動脈硬化性疾患の予防を目的としたLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させるための治療が必要となります。

家族性高コレステロール血症の治療

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法に加えて、薬物療法を行ないます。

食餌療法では、脂肪やコレステロールの少ない食事を摂取します。運動療法では、軽い有酸素運動を行ないます。

薬物療法では、スタチンを始めとする脂質低下剤を使用します。薬剤の効果が十分でない場合が多く、効果が足りなければエゼチミブなどのコレステロール吸収阻害剤、プロブコールなどのコレステロール異化促進剤を使用します。

それでも効果が足りない場合に、LDLアフェレシスという体外循環を用いてLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を取り除くことができる治療法を行ないます。これは、機械装置を使って血液からLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を直接除去する方法で、動脈硬化の進行を遅くすることができます。1~2週間に1回の頻度で、一生、続ける必要があります。

家族性高コレステロール血症ホモ接合体の発症者に対して、LDLアフェレシスの導入が遅れると心筋梗塞で死亡する場合もあり、ベッド上で治療の時間中、安静にできるようになる4歳~6歳には治療を始めることが望まれます。治療法の一つとして、 生体肝移植が選択される場合もあります。

適切な治療を行わない場合、予後は極めて不良です。

🇧🇳家族性Ⅲ型高脂血症

遺伝子異常が原因で、脂質異常症を発症する疾患

家族性Ⅲ型高脂血症とは、遺伝によって、血液に含まれるコレステロールとトリグリセライド(中性脂肪)が高くなる脂質異常症(高脂血症)の一つ。Ⅲ型高リポ蛋白(たんぱく)血症、アポリポ蛋白質E欠乏症、アポリポ蛋白質E欠損症、ブロードβ病とも呼ばれます。

まれな疾患で、1万人に2〜3人くらいと発症する頻度は低いものの、女性よりも男性に発症する傾向があり、男性は比較的若い年代に発症します。

常染色体劣性遺伝により家族性Ⅲ型高脂血症を受け継いだ人は、生活習慣とは関係なく、脂質異常症になりやすいと考えられています。脂質異常症に伴って、若年期にアテローム性動脈硬化症を発症するリスクが高くなります。

一般に、20歳以下では症状が起こらないとされるものの、若年で冠状動脈硬化症や末梢(まっしょう)動脈硬化症を発症しやすく、進行すると狭心症や心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞、下肢の動脈が狭くなる末梢血管疾患、間欠性跛行(はこう)、下肢の壊疽(えそ)に対するリスクも高くなります。そのほか、肥満、糖尿病を合併するリスクも高くなります。

肘(ひじ)や膝(ひざ)、手の甲、手首、尻(しり)などの皮膚に、黄色腫(おうしょくしゅ)と呼ばれる黄色いいぼ状の塊が見られることもあります。黄色腫は、血液中のリポ蛋白(たんぱく)という脂質成分と蛋白の結合物を取り込んで、脂肪分をためたマクロファージ由来の泡沫(ほうまつ)細胞が集合したものです。

両親のうちのどちらかに家族性Ⅲ型高脂血症がある場合、子供に50パーセントの確率で遺伝します。両親とも家族性Ⅲ型高脂血症を持っている場合、子供には75パーセントの確率で遺伝します。ただし、家族性Ⅲ型高脂血症を持つすべての人が、親が同じ問題を持っているとわかっている訳ではありません。狭心症、心筋梗塞などの冠状動脈疾患の家族歴があるとだけ考えている可能性があります。

コレステロールもトリグリセライド(中性脂肪)も水に溶けないので、アポ蛋白という特殊な蛋白質に付着して血液中を運ばれています。このコレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)とアポ蛋白の結合物をリポ蛋白といいます。

リポ蛋白にはいくつかの種類があり、比重によりカイロミクロン(キロミクロン)、VLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中間比重リポ蛋白)、LDL(低比重リポ蛋白)、HDL(高比重リポ蛋白)、VHDL(超高比重リポ蛋白)などがあります。

家族性III型高脂血症は、肝臓の受容体への結合能を欠くアポ蛋白E2の遺伝子を両親から受け継いでいることを基盤として、まれにアポ蛋白Eの欠損によって発症します。

肝臓へのカイロミクロン(キロミクロン)やVLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中間比重リポ蛋白)の取り込みが阻害された結果、血液中を流れ続ける状態が継続します。カイロミクロンやVLDL(超低比重リポ蛋白)などに含まれるトリグリセライド(中性脂肪)は、血液中を流れ続けている内に、脂肪組織や筋肉の毛細血管内皮細胞表面に存在するリポ蛋白リパーゼにより分解され、粒子サイズが小さくなってレムナントリポ蛋白の蓄積が起こり、高レムナントリポ蛋白血症を発症します。また、高IDL血症を発症します。

家族性Ⅲ型高脂血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。

トリグリセライド(中性脂肪)、 総コレステロールの両方が高値にかかわらず、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が低値、かつRLPコレステロール(レムナント様リポ蛋白コレステロール)が異常高値であることを確認すると、家族性III型高脂血症が疑われます。また、リポ蛋白の電気泳動で、VLDL(超低比重リポ蛋白)からLDL(低比重リポ蛋白)への連続性のブロードβパターンを示すことを確認し、アポ蛋白の等電点電気泳動で、アポ蛋白Eの異常、アポ蛋白Eの欠損などを確認することで、家族性III型高脂血症と確定します。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法、薬物療法を行ないます。家族性III型高脂血症は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため、根治療法はなく長期の治療が必要ながら、治療によく反応することから早期診断と早期治療が重要です。

食餌療法では、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

運動療法では、積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、改善法として効果的です。

薬物療法では、RLPコレステロール(レムナント様リポ蛋白コレステロール)の低下作用が最も強力なフィブラート系薬剤(中性脂肪合成阻害薬)を第一選択として使用します。スタチン系薬剤やエゼチミブも有効です。

🇧🇳家族性脂質異常症

体質の遺伝による脂質異常症の総称

家族性脂質異常症とは、体質の遺伝による脂質異常症(高脂血症)で、いわゆる生まれ付きの疾患。遺伝性脂質異常症、家族性高脂血症とも呼ばれます。

若い時から脂質異常症といわれた人、血縁者に脂質異常症や狭心症、心筋梗塞(こうそく)の発症の多い人は、遺伝性の可能性が高い傾向にあります。一般に、血液に含まれるコレステロールは250mg/dl以上、時には300mg/dl以上と非常に高いことが多く、動脈硬化の進行が早い傾向にあります。

家族性脂質異常症には、家族性高コレステロール血症、家族性複合型脂質異常症、家族性III型脂質異常症などがあります。

家族性高コレステロール血症は、遺伝によって高コレステロール血症を発症する疾患

家族性高コレステロール血症は、遺伝によって、血液の中を流れる脂質成分であるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が異常に増え、高コレステロール血症を発症する疾患。

本来、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は、肝臓の細胞表面にあるLDL受容体と呼ばれる蛋白(たんぱく)によって細胞の中に取り込まれ、壊されます。しかし、家族性高コレステロール血症では、LDL受容体の遺伝子やこれを働かせる遺伝子に異常があるため、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が細胞の中に取り込まれないで、血液の中にたまります。

人間の遺伝子は、父親由来と母親由来の2つが 一組となってできています。LDL受容体やこれを働かせる遺伝子の両方に異常がある場合をホモ接合体と呼び、いずれか一方のみに異常が認められる場合をヘテロ接合体と呼びます。ホモ接合体のみならずヘテロ接合体も、高コレステロール血症を示します。

家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の発症者は500人に1人以上、家族性高コレステロール血症ホモ接合体の発症者は100万人に1人以上の頻度で認められ、家族性高コレステロール血症の発症者総数は25万人以上と推定されています。

家族性高コレステロール血症ホモ接合体の発症者は、血清総コレステロール値が生まれ付き非常に高く、平均で713mg/dl程度とされています。家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の発症者は、平均で338mg/dl程度とされています。健常人は、120~220mg/dlです。

このため、家族性高コレステロール血症ホモ接合体の発症者は、10歳までに、肘(ひじ)や膝(ひざ)などの皮膚に黄色腫(おうしょくしゅ)と呼ばれる黄色いいぼ状の塊が見られます。成長とともに、結節状に盛り上がった黄色腫が肘や膝、手首、尻(しり)、アキレス腱(けん)、手の甲などに多く認められます。

また、幼い時から動脈硬化が進行して、大動脈弁や冠動脈に動脈硬化が進行すると、階段を上がると胸が痛い、苦しいという症状が出ることがあります。小児期に狭心症、心筋梗塞などの命にかかわる疾患を発症することもあります。

家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の発症者では、重症例で皮膚の黄色腫が見られることがありますが、多くは10歳以後に起きます。

家族性高コレステロール血症は、常染色体優性遺伝性の形で遺伝する可能性があります。父親と母親がともに家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の場合、4分の1確率でホモ接合体の子供が生まれます。両親のいずれか片方がヘテロ接合体である場合、2分の1の確率でヘテロ接合体の子供が生まれます。

家族性高コレステロール血症は、小児期に皮膚の黄色腫で気付かれ、血液検査で明らかな高コレステロール血症が判明することで診断されます。動脈硬化性疾患の予防を目的としたLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させるための治療が必要となります。

家族性複合型脂質異常症は、体質の遺伝により、思春期以降に脂質異常症が出現しやすい疾患

家族性複合型脂質異常症は、血液中の総コレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)の両方が高値となる疾患。家族性複合型高脂血症とも呼ばれます。

常染色体優性遺伝の形式を示すとされているものの、疾患を起こす遺伝子は特定されておらず、リポ蛋白リパーゼ(LPL)やアポ蛋白など複数の遺伝子異常がかかわっていると見なされています。

その頻度は高く、人口1000人に10人の割合で、つまり人口の約1パーセントにみられます。血液中の脂質を増やす遺伝性疾患の中では、最も多くみられる疾患に相当します。

若年で心筋梗塞を発症することがあり、65歳以下の心筋梗塞患者の基礎疾患として約30パーセントを占めるとされます。

思春期以降に脂質異常症が出現することが多く、過栄養、運動不足などの後天的要因によっても、脂質異常症が誘発されます。LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の上昇は、同じ遺伝性疾患である家族性高コレステロール血症に比べると、比較的軽度。

VLDL(超低比重リポ蛋白)コレステロールとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値が上昇するⅡb型脂質異常症を基盤としますが、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値が上昇するⅡa型脂質異常症や、VLDL(超低比重リポ蛋白)コレステロールの値が上昇するⅠⅤ型脂質異常症を示す時があります。

同一家系内に高コレステロール血症、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)および両者合併型の脂質異常症が混在し、さらに同一者が高コレステロール血症を示したり、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)を示したりするという特徴があります。

通常、小児期には症状はありません。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の上昇が、家族性高コレステロール血症に比べると、比較的軽度のためです。

脂質異常症はそれ自身自覚症状はありませんが、将来、心筋梗塞などの動脈硬化症を引き起こす疾患であることを十分認識し、もし検診などで指摘されたら、放置せずに内科、内分泌・代謝科を受診し、適切な治療を受けることが勧められます。

家族性Ⅲ型脂質異常症は、遺伝子異常が原因で脂質異常症を発症する疾患

家族性Ⅲ型脂質異常症は、遺伝によって、血液に含まれるコレステロールとトリグリセライド(中性脂肪)が高くなる脂質異常症(高脂血症)の一つ。家族性Ⅲ型高脂血症、Ⅲ型高リポ蛋白血症、アポリポ蛋白質E欠乏症、アポリポ蛋白質E欠損症、ブロードβ病とも呼ばれます。

まれな疾患で、1万人に2〜3人くらいと発症する頻度は低いものの、女性よりも男性に発症する傾向があり、男性は比較的若い年代に発症します。

常染色体劣性遺伝により家族性Ⅲ型脂質異常症を受け継いだ人は、生活習慣とは関係なく、脂質異常症になりやすいと考えられています。脂質異常症に伴って、若年期にアテローム性動脈硬化症を発症するリスクが高くなります。

一般に、20歳以下では症状が起こらないとされるものの、若年で冠状動脈硬化症や末梢(まっしょう)動脈硬化症を発症しやすく、進行すると狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、下肢の動脈が狭くなる末梢血管疾患、間欠性跛行(はこう)、下肢の壊疽(えそ)に対するリスクも高くなります。そのほか、肥満、糖尿病を合併するリスクも高くなります。

肘や膝、手の甲、手首、などの皮膚に、黄色腫と呼ばれる黄色いいぼ状の塊が見られることもあります。黄色腫は、血液中のリポ蛋白という脂質成分と蛋白の結合物を取り込んで、脂肪分をためたマクロファージ由来の泡沫(ほうまつ)細胞が集合したものです。

両親のうちのどちらかに家族性Ⅲ型脂質異常症がある場合、子供に50パーセントの確率で遺伝します。両親とも家族性Ⅲ型脂質異常症を持っている場合、子供には75パーセントの確率で遺伝します。ただし、家族性Ⅲ型脂質異常症を持つすべての人が、親が同じ問題を持っているとわかっている訳ではありません。狭心症、心筋梗塞などの冠状動脈疾患の家族歴があるとだけ考えている可能性があります。

コレステロールもトリグリセライド(中性脂肪)も水に溶けないので、アポ蛋白という特殊な蛋白質に付着して血液中を運ばれています。このコレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)とアポ蛋白の結合物をリポ蛋白といいます。

リポ蛋白にはいくつかの種類があり、比重によりカイロミクロン(キロミクロン)、VLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中間比重リポ蛋白)、LDL(低比重リポ蛋白)、HDL(高比重リポ蛋白)、VHDL(超高比重リポ蛋白)などがあります。

家族性III型脂質異常症は、肝臓の受容体への結合能を欠くアポ蛋白E2の遺伝子を両親から受け継いでいることを基盤として、まれにアポ蛋白Eの欠損によって発症します。

肝臓へのカイロミクロン(キロミクロン)やVLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中間比重リポ蛋白)の取り込みが阻害された結果、血液中を流れ続ける状態が継続します。カイロミクロンやVLDL(超低比重リポ蛋白)などに含まれるトリグリセライド(中性脂肪)は、血液中を流れ続けている内に、脂肪組織や筋肉の毛細血管内皮細胞表面に存在するリポ蛋白リパーゼにより分解され、粒子サイズが小さくなってレムナントリポ蛋白の蓄積が起こり、高レムナントリポ蛋白血症を発症します。また、高IDL血症を発症します。

家族性脂質異常症の検査と診断と治療

家族性高コレステロール血症の治療

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法に加えて、薬物療法を行ないます。

食餌療法では、脂肪やコレステロールの少ない食事を摂取します。運動療法では、軽い有酸素運動を行ないます。

薬物療法では、スタチンを始めとする脂質低下剤を使用します。薬剤の効果が十分でない場合が多く、効果が足りなければエゼチミブなどのコレステロール吸収阻害剤、プロブコールなどのコレステロール異化促進剤を使用します。

それでも効果が足りない場合に、LDLアフェレシスという体外循環を用いてLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を取り除くことができる治療法を行ないます。これは、機械装置を使って血液からLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を直接除去する方法で、動脈硬化の進行を遅くすることができます。1~2週間に1回の頻度で、一生、続ける必要があります。

家族性高コレステロール血症ホモ接合体の発症者に対して、LDLアフェレシスの導入が遅れると心筋梗塞で死亡する場合もあり、ベッド上で治療の時間中、安静にできるようになる4歳~6歳には治療を始めることが望まれます。治療法の一つとして、 生体肝移植が選択される場合もあります。

適切な治療を行わない場合、予後は極めて不良です。

家族性複合型脂質異常症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、まず身体診察を行い、家族歴について質問します。次に血液検査を行ない、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、またHDLコレステロール(善玉コレステロール)の値を測定するとともに、中性脂肪(トリグリセライド)、小型LDLコレステロール(超悪玉コレステロール)、アポ蛋白Bの測定を行ないます。食後9時間から12時間の空腹時に採血します。

大抵の場合、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)と中性脂肪(トリグリセライド)の値が上昇しており、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値は平均値よりも低下しています。また、小型LDLコレステロール(超悪玉コレステロール)の存在により、アポ蛋白Bの値が上昇しています。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌療法、運動療法、薬物療法を行ないます。家族性複合型脂質異常症は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため、治療の目的は疾患を完治させることではなく、心臓疾患のリスクを軽減させることです。

食餌療法では、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

運動療法では、積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、改善法として効果的です。

薬物療法では、一般にスタチン系薬剤と呼ばれているHMG‐CoA還元酵素阻害薬を使います。この種類の薬は、コレステロールの合成を抑制するもので、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値を低下させます。

症状に応じて、フィブラート系薬剤のベザフィブラートやフェノフィブラートを使います。この種類の薬は、中性脂肪の合成を阻害するものです。オメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)製剤やドコサヘキサンエン酸(DHA)製剤を使うこともあります。

そのほか、ニコチン酸、胆汁酸陰イオン交換樹脂を使うこともあります。胆汁酸陰イオン交換樹脂は、特に食事療法と併用した場合に、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値を効果的に低下させます。

血液中の脂質レベルが高すぎるため、医療的な治療を施しても心臓発作の可能性を大幅に低めることはできない場合があります。こういった場合、治療を行ってもリスクは高いままです。

家族性Ⅲ型脂質異常症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。

トリグリセライド(中性脂肪)、 総コレステロールの両方が高値にかかわらず、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が低値、かつRLPコレステロール(レムナント様リポ蛋白コレステロール)が異常高値であることを確認すると、家族性III型脂質異常症が疑われます。また、リポ蛋白の電気泳動で、VLDL(超低比重リポ蛋白)からLDL(低比重リポ蛋白)への連続性のブロードβパターンを示すことを確認し、アポ蛋白の等電点電気泳動で、アポ蛋白Eの異常、アポ蛋白Eの欠損などを確認することで、家族性III型脂質異常症と確定します。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌療法、運動療法、薬物療法を行ないます。家族性III型脂質異常症は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため、根治療法はなく長期の治療が必要ながら、治療によく反応することから早期診断と早期治療が重要です。

食餌療法では、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

運動療法では、積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、改善法として効果的です。

薬物療法では、RLPコレステロール(レムナント様リポ蛋白コレステロール)の低下作用が最も強力なフィブラート系薬剤(中性脂肪合成阻害薬)を第一選択として使用します。スタチン系薬剤やエゼチミブも有効です。

🇲🇾家族性腎性尿崩症

先天的な遺伝が原因で、抗利尿ホルモンに腎臓が反応しないために多尿を示す疾患

家族性腎性(じんせい)尿崩症とは、先天的な遺伝が原因で、抗利尿ホルモン(バソプレシン)に腎臓が反応しなくなることで、薄い尿が大量に排出される疾患。先天性腎性尿崩症、遺伝性腎性尿崩症とも呼ばれます。

利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンは、大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って下垂体(脳下垂体)後葉に運ばれて貯蔵された後、血液中に放出されて腎臓に作用し尿の量を調節します。家族性腎性尿崩症では、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌は正常でも、腎尿細管における作用障害に由来して腎臓が反応しなくなり、体内への水分の再吸収が低下するために、尿の濃縮障害が引き起こされ、水分が過剰に尿として排出されます。

一方、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌量の低下で、体内への水分の再吸収が低下するために、水分が過剰に尿として排出される疾患は、家族性(先天性、原発性)ないし続発性(後天性)の中枢性尿崩症です。

腎性尿崩症にも家族性(先天性、遺伝性)と続発性(後天性)があり、家族性腎性尿崩症が先天的な遺伝が原因で、ある家族や家系に集中して、出生直後から症状が出現することが多いのに対して、続発性腎性尿崩症は薬剤の副作用や腎臓障害などが原因となって、あらゆる年代において徐々にあるいは突然、症状が出現します。

家族性腎性尿崩症は、腎臓の腎尿細管の抗利尿ホルモン2型受容体の遺伝子異常で90パーセント以上が出現するとされ、性染色体であるX染色体の劣性遺伝のため、男性にのみに発症します。X染色体を2本持つ女性は、発症しないものの保因者になるため、妊娠した場合、家族性腎性尿崩症を受け継ぐ男子が生まれる可能性があります。

また、まれに尿細管の抗利尿ホルモン感受性アクアポリン(水チャンネル)の遺伝子異常によっても出現します。この遺伝子異常は、常染色体の劣性遺伝によって約9パーセントで発症し、常染色体の優性遺伝によって1パーセントで発症します。

家族性腎性尿崩症を胎児期に発症した場合は、母胎の中で大量に尿を排出するため羊水が多くなります。

生後数日からの新生児期に発症した場合は、1日2・5リットルから3リットル以上の著しい多尿、のどの渇きによる多飲を示し、夜間尿の増加などが起こります。

大多数の新生児は生後1年以内に診断されますが、未治療の新生児では、のどの渇きを訴えることができないため、保護者が水の補給を控えた場合や高温環境にさらされた場合には、激しい脱水による発熱と嘔吐(おうと)、けいれんを起こし、血液中のナトリウム値が上昇します。この高ナトリウム血症が起こると、脳が障害され、発達障害や精神遅滞を起こしてしまう可能性があります。

通常、低身長がみられ、慢性的で過大な多尿に伴い、水腎症や水尿管症、巨大膀胱(ぼうこう)など尿路系の拡張が発生し、その結果、逆流性腎症さらに腎不全に至る例もあります。

しかし、一部の軽症型(部分型)の家族性腎性尿崩症の新生児では、これらの症状は気付かれない程度か、軽度です。明らかな脱水の症状を示さずに、嘔吐、吐き気、授乳力低下、便秘もしくは下痢、発育不全、原因不明の発熱、不活発、興奮性といった症状を現します。低身長や発達障害はみられず、小児期の後期に診断される傾向があります。

常染色体優性遺伝によって家族性腎性尿崩症を発症した新生児では、症状の出現は遅く、成人初期まで現れない場合もあります。

早期に診断された場合も、家族性腎性尿崩症を根治できる治療法がないため、長期にわたって飲水とトイレの使用が自由にできる状況を用意することが必要になります。乳児では自分ののどの渇きに従って水を求めることができないので、通常の食事のほかに水を摂取させることが必要です。

自分で水を求めることができる小児期になっても、こまめな水分補給を常に行いながらの生活となります。そのぶん尿量も増えますので、トイレに行く回数もほかの人よりも圧倒的に増え、生活は大きく影響を受け、幼稚園生活、学校生活や、成人後の社会活動、グループ活動も障害されます。

家族性腎性尿崩症の検査と診断と治療

内科、内分泌科の医師による診断では、下垂体(脳下垂体)に由来する抗利尿ホルモンが存在するにもかかわらず、血漿(けっしょう)抗利尿ホルモン濃度が高く、かつ利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤やデスモプレシン剤を投与しても尿の濃縮ができないことによって、家族性腎性尿崩症と確定します。

内科、内分泌科の医師による治療では、家族性腎性尿崩症を根治できる治療法がないため、経験的に対症療法として、尿量を減らす目的で、抗利尿ホルモンの産生を刺激するサイアザイド系(チアジド系)利尿薬、それに加えてインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬を使用しますが、十分な効果は得られていません。

サイアザイド系(チアジド系)利尿薬を使用すると、カリウム喪失を招くため、血清カリウム濃度を測定し、必要に応じて食事や薬剤の形で補充します。水腎症、水尿管症、巨大膀胱に対しては、尿量を減らす治療を行い、残尿が多量の場合には周期的もしくは持続的な膀胱カテーテル留置を行います。

また、長期の療養が必要なため、腎臓障害、高度脱水、高ナトリウム血症を起こさないように長期的な経過観察を続けます。

軽症型(部分型)の家族性腎性尿崩症では、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤や、デスモプレシン剤を使用した治療によって、ある程度尿量を減少させることが可能です。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...