2022/08/12

🇧🇾胸膜炎

胸膜炎とは、肺臓を包んでいる二枚の膜である胸膜に炎症が起こり、胸水の量が増えて胸腔(きょうこう)にたまった状態です。別名、肋膜(ろくまく)炎。胸水がみられない乾性胸膜炎が起こる場合もありますが、胸水がみられる湿性胸膜炎の発症がほとんどを占めます。

二枚の胸膜は、左右の肺の表面を包む臓側(ぞうそく)胸膜と、胸壁、横隔膜、縦隔(じゅうかく)を包む壁側(へきそく)胸膜からなっています。臓側胸膜と壁側胸膜に囲まれた部分が、胸腔(胸膜腔)です。

健康な人でも、壁側胸膜から胸腔に向かって胸水が漏出しています。その量は1日に5~10リットルといわれ、主に臓側胸膜から再吸収されるため胸腔に胸水が貯留することはありませんが、わずかに数ミリリットル程度が存在するといわれます。

胸膜炎によって胸腔に胸水が貯留すると、ほとんどの人は胸痛、背部痛を感じ、量が多くなると呼吸困難を起こします。また、原因によって差がありますが、発熱することが多く、咳(せき)、痰(たん)、血痰(けったん)、体重減少なども起こります。

このような症状のある時、深呼吸や咳で増悪する胸痛を自覚する時には、速やかに呼吸器科、内科を受診してください。特に気を付けなければならないのは急性胸膜炎で、これは肺炎、肺がん、結核などが進行して、胸膜を侵すことによって発症します。喫煙者が症状を感じれば、肺がんなど悪性腫瘍(しゅよう)によるものの可能性が高まります。

胸膜炎の原因は多岐に渡りますが、感染症、悪性腫瘍が主なものであり、膠原(こうげん)病、肺梗塞(こうそく)、石綿肺(せきめんはい)、低蛋白(たんぱく)血症、うっ血性心不全、消化器疾患でも胸水がたまります。

感染症の中では結核や細菌感染によるものが多く、悪性腫瘍の中では肺がんによるものが多く、それぞれ、結核性胸膜炎、細菌性胸膜炎、がん性胸膜炎と呼ばれています。

胸膜炎の治療においては、医師の聴打診のみでも診断が得られることがあります。胸水のたまった部位が打診で濁音を示し、呼吸音が弱くなり、臓側胸膜と壁側胸膜が擦れ合う特徴的な胸膜摩擦音が聞かれる場合です。

胸部X線検査で、胸水がたまっているのが明らかにされます。胸水が少量の場合には、胸部CT検査で初めて診断が得られる場合もあります。

胸膜炎の原因を調べるために、胸水検査が行われます。肋骨(ろっこつ)と肋骨の間から細い針を刺し、胸水を採取します。採取した胸水が血性であれば、結核や悪性腫瘍を疑います。次いで、胸水の比重や蛋白濃度を調べたり、白血球分類、培養などによる細菌学的検査を行います。

胸水の検査だけで診断が得られない場合には、胸腔鏡を用いて胸腔内を肉眼的に観察し、病変と思われる部位を生検して、確定診断をする場合もあります。

こうして突き止めた原因に応じた治療が行われますが、細菌や結核による胸膜炎の予後は一般的には良好なのに対して、悪性腫瘍によるものでは極めて不良です。

🇧🇾強膜炎、上強膜炎

眼球の外側の白い壁である強膜に、炎症が起こる疾患

強膜炎、上強膜炎とは、眼球の外側の白い壁である強膜に、炎症が起こる疾患。強膜の深い部分に炎症が起こるのが強膜炎で、強膜の表面に炎症が起こるのが上強膜炎です。

この強膜という組織は、白目の部分を覆う眼球壁です。つまり、眼球壁のいちばん前の5分の1の部分が透明な角膜で、眼球壁の後ろ5分の4の部分が白い不透明な強膜であり、角膜の周囲の強膜の上には半透明の結膜が張っています。

強膜炎、上強膜炎の症状としては、目の痛みが強いことが特徴で、睡眠や食欲が妨げられます。まぶしい、涙が出るといった症状が出ることもあります。充血してくるため、白目の部分が鮮紅色になり、はれてきます。この部分の充血は、強膜炎によるのか、結膜炎によるのか見分けるのは困難なものの、結膜炎による充血は血管収縮薬を点眼すると消えるのに対して、強膜炎による充血は消えないことで区別できます。はれた部分を押すと、痛みます。

上強膜炎では、充血が強いものの、それ以外の症状は軽度です。強膜炎では、上強膜炎より強い充血を示し、痛みも強く、範囲も広くなります。目の後ろ側の強膜にも炎症が及ぶと、後部強膜炎となり、視力もかなり低下します。

強膜が溶ける壊死(えし)性強膜炎では、強膜の組織が薄くなって、中のぶどう膜という濃い茶色の部分が透けて見えるようになるため、白目に黒いところが出てきたように見えます。

また、角膜が濁り、虹彩(こうさい)炎を合併することもあります。

症状は片目だけに現れる場合も、両目に現れる場合もあります。比較的まれな疾患ですが、30歳〜50歳の女性に最も好発し、再発しやすい特徴もあります。

多くは原因不明で、目の疾患の中で最もその実態がわかっていない一つです。結核アレルギーやリウマチ、ハンセン病、梅毒、サルコイドーシス、痛風などの全身性の炎症性疾患、免疫反応が自己の組織を攻撃する自己免疫疾患、局所の感染症などが、原因として挙げられています。

強膜炎、上強膜炎の検査と診断と治療

強膜炎、上強膜炎は睡眠や食欲が妨げられ、速やかな治療を要する疾患ですので、目に強い痛みを覚えた時はすぐに眼科を受診します。

医師による診断は、まず臨床的に細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査で行われます。原因となる疾患を検索するために、血液検査や胸部X線検査も行われます。また、局所の感染が疑われる場合は、炎症を起こしている部分や涙の中に、細菌や真菌(かび)、ヘルペスウイルスなどがいないかどうか検査する場合もあります。

目の後ろ側まで炎症が広がっていることが疑われる場合は、目の超音波断層撮影を行って奥の後部強膜がはれていないか、また、眼底検査を行って網膜剥離(はくり)を伴っていないかを調べます。

治療としては、局所の感染による場合は、その原因微生物に対する薬物を投与します。局所の感染でない場合は、重症度に応じて炎症剤、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)、抗生物質などの点眼や結膜下注射を行います。

上強膜炎の場合は、点眼で比較的容易に軽快します。強膜炎の場合は、多くは全身投与が必要です。もちろん、原因となる疾患が判明した場合は、その全身性の炎症性疾患などに対する治療を並行して行います。

壊死性強膜炎と、その原因となるリウマチなどの全身性の炎症疾患とを有する場合は、免疫抑制薬の全身投与を行います。眼球穿孔(せんこう)の危険に対し、強膜移植が行われることもあります。壊死性強膜炎の重症例では、眼球摘出に至ることがあり、10年以内の死亡率も50パーセントにも上ります。

🇺🇦局面状類乾癬

皮膚に赤く、ガサガサする円形や楕円形の発疹ができる慢性の皮膚疾患

局面状類乾癬(るいかんせん)とは、皮膚に赤く、ガサガサする円形や楕円形の発疹(はっしん)ができる非感染性の慢性炎症性皮膚疾患。

一見、乾癬という皮膚疾患、すなわち表皮の細胞の新陳代謝が異常に早くなり、皮膚の細胞が垢(あか)になる角化が早く進む皮膚疾患に、よく似ていることから類乾癬の一種とされていますが、かゆみは乾癬より少ないのが一般的です。

乾癬との大きな違いは、発疹部に集まっている白血球のタイプの違いで、発疹を表面から見ただけではなかなか区別はつきません。

この局面状類乾癬は中高年に多くみられますが、原因は乾癬と同じくいまだ不明で、疾患の分類も明確な解釈が定まっておらず、はっきりしない部分の多い疾患です。

発疹の大きさから、小局面状類乾癬と大局面状類乾癬の2つに分類されます。

小局面状類乾癬は、直径5センチ以下で赤く、円形の発疹が腹部や背中、尻(しり)などの体幹や大腿(だいたい)部といった日光の当たりにくい部位にできるもの。表面はガサガサとして、細かいしわが見られることがあります。やがて、発疹の表面は垢のような銀白色の鱗屑(りんせつ)となり、その一部がポロポロとはがれ落ちます。

一方、大局面状類乾癬は、直径5~10セント以上で赤く、やや角ばった輪郭の楕円(だえん)形の発疹が腹部や背中、尻などの体幹や大腿部といった日光の当たりにくい部位にできるもの。表面はガサガサとして、細かいしわが見られます。やがて、発疹の表面は垢のような銀白色の鱗屑(りんせつ)となり、その一部がポロポロとはがれ落ちます。

徐々に発疹の数が増えて皮膚の委縮が進んだ場合は、網目状の色素沈着を生じるようになり、多形皮膚委縮(ポイキロデルマ)と呼ばれる状態になります。

多形皮膚委縮を生じたり、かゆみが強くなった大局面状類乾癬が進行すると、菌状息肉症(皮膚悪性T細胞リンパ腫〔しゅ〕)に移行する場合もまれにあります。

菌状息肉症は、リンパ球のT細胞が悪性化し、皮膚に現れてくるものです。悪性度は低いのですが、発疹が出る状態が長く続き、中には10~20年経過して硬く盛り上がって腫瘍(しゅよう)になったり、リンパ節や内臓に転移することもあります。

悪性化の可能性もあるので、局面状類乾癬の症状に気付いたら、早めに皮膚科、皮膚泌尿器科を受診しておくと安心です。

局面状類乾癬の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、乾癬の場合と同じように、特徴的な発疹とその分布、経過から判断します。悪性化しているかどうかを判断するために、発疹の一部を切って顕微鏡で調べる組織検査も行います。

乾癬やジベルばら色粃糠疹(ひこうしん)との区別が、必要です。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、原因が不明で、根本的に治す方法が今のところはっきりしていないため、経過をみながらの対症療法を行います。

対症療法としては、主に炎症を抑制するステロイド(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の外用薬を用います。そのほか、皮膚の細胞が増殖するのを阻害する活性型ビタミンD3外用薬も、ステロイド外用薬ほどの速効性はありませんが、副作用が軽微なので併せて使用します。

内服薬としては、ビタミンA類似物質であるエトレチナート(チガソン)や、免疫抑制薬であるシクロスポリン(ネオーラル)が用いられ、一定の効果が得られています。

外用薬で大きな改善がみられない場合は、PUVA(プーバ)療法という光線療法を用い、紫外線の増感剤であるメトキサレン(オクソラレン)を発疹部に塗り、長波長紫外線UVAを当てることもあります。PUVA療法に代わる光線療法として、特定の紫外線波長を利用したナローバンドUVB療法を用いることもあります。

🇺🇦虚血肢

足や手の動脈に慢性的に動脈硬化が起こっている状態

虚血肢とは、足や手の動脈が動脈硬化になって細くなったり、詰まったりして、慢性的に血の巡りが悪くなっている状態。閉塞(へいそく)性動脈硬化症、もしくは慢性動脈閉塞症と呼ばれている疾患が、末梢(まっしょう)動脈、すなわち足や手の動脈に起きている状態で、症状は主に足に現れます。

動脈に脂肪分が沈着して粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム硬化)が起こると、血管の内膜が肥厚して内腔(ないくう)が狭くなったり、潰瘍(かいよう)ができたりします。結果として、血流に障害が起き、血液が固まって血栓を生じ、詰まりやすい状態になります。

虚血肢を起こした場合、足や手の動脈だけでなく、全身の血管にも動脈硬化を来している場合が少なくありません。3割の人で冠動脈疾患の合併、2割の人で脳血管障害の合併が認められます。

発症しやすいのは、糖尿病、高血圧、高脂血症、喫煙などの動脈硬化の危険因子を持っている人。食生活やライフスタイルの欧米化により、動脈硬化を基盤とする虚血肢が急速に増えています。

初期の症状は、足の冷感やしびれです。進行すると、短い距離を歩いただけで、ふくらはぎや太ももの裏側が重くなってきたり、痛みを感じるようになります。2〜3分休むとよくなり、再び歩くことができます。この間欠性跛行(はこう)や足のしびれなどの症状が神経痛の症状と似ているために、勘違いされて見逃されることも多く見受けられます。

さらに進行して重症虚血肢になると、じっとしている安静時にも足に痛みが現れるようになったり、靴擦れや深爪(ふかづめ)といったちょっとしたけがが治らず、足先に潰瘍ができてただれ、傷口が治りにくくなったりします。病変がある動脈で、急に血液が固まって急性閉塞が起きた場合には、24時間を経過した後で、筋肉に壊死(えし)が起こることもあります。

重症虚血肢は自然によくなることはなく、個人差はありますが次第に進行してゆきます。重症虚血肢をほうっておくと、最終的には末期重症虚血肢となって全く血が通わない虚血のために足が腐敗し、切断しなければならない可能性が高くなります。

虚血肢の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科などの医師による診断では、血管が閉塞した部位より先の動脈は、拍動が触れなくなります。四肢の血圧から足関節/上腕血圧比を測ることにより、さらに詳しく下肢の虚血を診断できます。確定診断には、血管造影検査が必要になります。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科などの医師による治療では、初期の足の冷感やしびれに対しては、血管を広げる血管拡張薬や、血液を固まりにくくする抗血小板薬を中心に治療を行います。手足の痛みが強く、肘(ひじ)や膝(ひざ)から上の比較的狭い範囲で慢性の動脈閉塞が起きている場合には、カテーテル治療、レーザー血管形成術、バイパス手術、血管新生療法などを行います。

カテーテル治療は、狭心症や心筋梗塞(こうそく)の治療で行われるバルーン療法と同じ血管内治療。閉塞した部位にカテーテルを通し、そこで風船を膨らませて閉塞を治した後、再閉塞を防ぐためにコイルを留置します。レーザー血管形成術は、閉塞部近くまでカテーテルを挿入し、レーザー光を発して血栓や肥厚した内膜を霧状に散らす療法。

バイパス手術は、閉塞した動脈の代わりに人工血管や自家静脈、自家動脈を使ってバイパス(側副血行路)を作り、動脈の血行を再建する治療。腹部から太ももにある太い動脈の再建には、ダクロンやゴアテックスなどの素材でできた人工血管が用いられることが多く、膝下から足先にある細い動脈の再建には、自家静脈が適しています。自家静脈としては、足の表面近くにある大伏在静脈や小伏在静脈が用いられます。

血管新生療法は、肝細胞を増殖させる物質の遺伝子が血管を新しく作ることがわかったため、それを使って行う新しい治療。血管を新生する因子(HGF)を産生する遺伝子を含む医薬を筋肉に注射し、新しい血管を誕生させて血流をよみがえらせます。

治療方法は数多くあるものの、虚血肢が進行して重症虚血肢、末期重症虚血肢になり、壊死が進行した場合は、足の切断が必要になることがあります。日本では毎年、1万人程度が足の切断を余儀なくされていると推定されます。しかし、血液の流れを改善して壊死に陥った足指を切断すれば、脛(すね)や太ももで切断する大切断を避けられる可能性があります。

この虚血肢は、糖尿病や高血圧、高脂血症がある人に起こりやすいので、このような既往症のある人は、食生活を正して食べすぎを避け、減塩を守ること、ストレスを解消すること、禁煙をすることが必要です。

また、足の症状が出るまでは、休みながらも繰り返し歩くように心掛けます。歩くことにより、バイパス(側副血行路)が発達し血行が改善します。靴下、毛布などを使って、足の保温にも努めます。寒冷刺激は足の血管をさらに収縮させ、血液の循環を悪くさせるからで、入浴も血行の改善に役立ちます。

足はいつも清潔にしておき、爪を切る時は深爪をしないようにし、靴も足先のきつくないものを選ぶようにします。

🇺🇦虚血性視神経症

視神経に栄養を送る血管の循環障害によって、視機能が低下

虚血性視神経症とは、視神経へ栄養を送る血管の循環障害により、視機能の低下が生じる疾患。非動脈炎性と動脈炎性の2つのタイプがあります。

視神経へ栄養を送る血管の循環障害、すなわち虚血によって、視神経への血液供給が妨げられると、視神経細胞が死んだり機能しなくなって、慢性かつ進行性の視機能の障害が生じます。視神経は網膜に映った物の形や色、光などの情報を脳神経細胞に伝達するという役割を担っていますので、視神経細胞が損傷すると物を見る働きも損なわれてしまうわけです。

虚血性視神経症の視力障害は、数分から数時間で急速に進むこともあれば、2~7日かけて徐々に進行することもあります。多くは中心視力が低下しますが、視野狭窄(きょうさく)のみで視力は低下しないこともあります。視野の異常も中心が見えにくくなる中心暗点から、耳側もしくは鼻側半分が見えにくくなる半盲性障害までさまざま。視機能障害が片目に生じるか両目に生じるかは、原因によって異なります。

非動脈炎性虚血性視神経症は、50歳以上の人に起こることが多い疾患。眼底にある視神経乳頭の梗塞(こうそく)によって、乳頭の蒼白浮腫(そうはくふしゅ)が生じ、視力低下と視野障害が出ます。

 この疾患にかかりやすくなる要因としては、高血圧、動脈硬化、糖尿病、心疾患、血液疾患があります。まれに、小乳頭などの乳頭異形成や、ひどい片頭痛を持つ若い人にもみられます。この非動脈炎性は、動脈炎性の10倍以上多くみられます。

動脈炎性虚血性視神経症のほうは、70歳以上の人に起こることが多い疾患。動脈が炎症を起こし、視神経への血液供給が妨げられて視神経症が起こるもので、特に多いのは頸(けい)動脈と、こめかみの後ろあたりを走っている側頭動脈の炎症です。側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)が原因の視神経症は、頭部の皮下を走っている浅側頭動脈に沿った痛みがあり、視力障害の程度がより重くなる傾向があります。

頭痛、視力障害、視野障害のほか、発熱、体重減少などの全身症状、筋肉痛と関節痛などがみられ、うつ病、不安感、聴力障害などがみられることもあります。

虚血性視神経症の検査と診断と治療

虚血性視神経症は、難治性の眼疾であり、中途視覚障害の重要な原因となっています。急激に発症した場合はもちろん、たまたま片目を閉じてみたら見えにくいことに気付いたなど、視力低下がゆっくりではあるものの慢性進行性であれば、早く眼科で精密検査を受ける必要があります。

医師による診察では、主に検眼鏡で目の後部を観察することで診断されます。この眼底検査のほか、視力検査、瞳孔(どうこう)の反応検査、視野検査、MRI検査、血液検査、髄液(ずいえき)検査などが必要に応じ行われます。

片眼性の虚血性視神経症の場合は、瞳孔の対光反応に左右差があることが特徴的で、瞳孔の反応検査は診断上重要です。動脈瘤(りゅう)など血管性病変が疑われる場合は、MRA検査や脳血管造影が必要になります。

同時に、虚血性視神経症のリスク要因となるその他の疾患にかかっていないかどうかについて、慎重に問診が行われます。側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)が疑われる場合は、診断を確定するために、側頭動脈の生検、すなわち組織のサンプルを採取して、顕微鏡で観察する検査が行われることもあります。

虚血性視神経症の治療では、基本的には原因となる疾患の治療が原則となり、脳外科や耳鼻科などと連携した治療が必要です。

非動脈炎性虚血性視神経症の治療では、高血圧、糖尿病、コレステロール値など、視神経への血液供給に影響を与える要因をコントロールしていきます。多少の自然回復傾向を示すケースもありますが、多くのケースでは視力低下と視野障害を残します。

側頭動脈炎が原因の動脈炎性虚血性視神経症の場合は、正常な反対側の目に視力障害が起こるのを防ぐため、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤、血管拡張剤、ビタミン剤などの内服や点滴が行われます。早期にステロイド剤を用いることによって、ある程度失明は予防できるものの、減量したり中止すると再発しやすくなります。

🇷🇺虚血性心疾患

心臓の筋肉への血液の供給が減ったり、途絶えるために引き起こされる疾患

虚血性心疾患とは、心臓を動かす心筋に栄養分や酸素を運ぶ冠(状)動脈が動脈硬化などで狭くなったり、閉塞(へいそく)して、心臓の機能が低下したり、心筋に壊死(えし)が起こる疾患で、狭心症と心筋梗塞(こうそく)を総称したもの。心筋への血液の供給が減ることや、途絶えることを虚血ということから、こう呼ばれます。

狭心症と心筋梗塞の大きな違いは、心筋が回復するかどうかで、狭心症では心筋が死なず回復するのに対して、心筋梗塞では心筋が死んでしまい回復しません。いずれの疾患も重症化すると、心臓のポンプ機能が低下する心不全や、虚血による重症の不整脈を合併して生命への危険が高まります。

狭心症は、心筋に生じた一過性の酸欠状態

狭心症とは、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈の狭窄(きょうさく)などによって、心臓の筋肉である心筋に十分な血液が送られなくなり、心筋が一時的な酸素欠乏になった状態のことです。 虚血性心疾患の一つで、突然死を招くことにもなる急性冠症候群の一つにも数えられています。

人間の心臓は、筋肉でできた袋のような臓器で、1日に約10万回収縮し、全身に血液を循環させて、栄養分や酸素を送り届けています。もちろん、心臓の拍動にも多くの栄養分や酸素が必要ですが、心臓自身は心臓の中を通る血液からではなく、表面を取り巻く冠動脈から、血液を受け取っているのです。

この冠動脈に、動脈硬化などによってプラークという固まりができて、血液の通り道が狭くなったり、詰まったりすると、心筋が酸欠状態に陥ってしまい、狭心症や心筋梗塞を招くのです。心筋梗塞のほうは、冠動脈が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死してしまった状態です。

狭心症にはいろいろなタイプがありますが、よく知られているタイプは、労作(性)狭心症と安静(自発)狭心症の二つです。

労作狭心症は、動脈硬化などで冠動脈が狭くなっている際に、過度のストレス、精神的興奮、坂道や階段の昇降運動といった一定の強さの運動や動作が誘因となり、心臓の負担が増すことで起こるものです。安静狭心症は、就寝中や早朝など、比較的安静にしている際に起こるものです。心不全などを合併することも多く、労作狭心症よりも重症です。

40歳以上の男性に狭心症は多く、女性では閉経期以後や卵巣摘出術を受けた人に多くみられます。誘因として考えられるのは、高血圧、高脂血症、肥満、高尿酸血症、ストレス、性格など。

発作時の自覚症状は狭心痛

狭心症の症状としては、狭心痛という発作を繰り返す特徴があります。典型的な狭心痛は突然、胸の中央部に締め付けられるような痛みが起こり、痛みは左肩、左手に広がります。まれに、下あご、のどに痛みが出ることもあります。発作の時間は数分から数十分で治まりますが、発作中は顔面蒼白(そうはく)、胸部圧迫感、息苦しさ、冷汗、動悸(どうき)、頻脈、血圧上昇、頭痛、嘔吐(おうと)のみられるものもあります。

初めての発作は見過ごしがちですが、症状を放置した場合、一週間以内に心筋梗塞、心室細動などを引き起こす可能性もあります。治まったことで安心せずに、病院へ行くべきです。特に高齢者や、発作が頻発に起きる人は、注意が必要となります。

病院では、心電図 、運動負荷心電図、冠動脈造影などで検査し、すべてのタイプに共通して、血栓ができるのを防ぐために、アスピリンなどの抗血小板剤の投与による治療が行われます。発作を止めるために、ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなどの硝酸薬、発作を予防するために、硝酸薬、 β遮断薬、カルシウム拮抗(きっこう)薬が投与されるほか、 経皮的冠動脈形成術、冠動脈大動脈バイパス移植術などの外科的治療も行われます。

狭心症の予防、対策のための心掛け

発作が起きた時には、安静が原則です。直ちに動作を中止し、歩行中ならば立ち止まって休みます。横になると、下半身の血液が大量に心臓に戻ってきて、心臓に負担をかけます。立っている場合は、何かにつかまって前かがみの姿勢で休むようにします。寝ている場合は、上体を起こして座り、布団などにもたれるようにします。そして、なるべく早く病院へ行くことです。

狭心症などの心臓病は、男性は40歳代、女性は閉経後の50歳代から増加し始めますので、年一回は定期検診を受けましょう。心電図や心拍数の変動、連続心電図などで、潜在的な心臓病の有無を調べられます。

高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が心臓病のリスクを高めるため、生活習慣病にかからないように留意し、もしかかってしまった場合には、そちらの治療をすることが先決となります。

腹囲の大きい人も、要注意です。肥満は生活習慣病の危険因子であり、動脈硬化の原因にもなるからです。まず、身長(センチ)マイナス100(キロ)までの減量を心掛けて下さい。

また、たばこの煙を吸うと、血管が収縮して血圧が上昇、心拍数も増えて、心臓が急激に酸素を要求します。喫煙者が狭心症や心筋梗塞で死亡する危険度は、非喫煙者の1.7~3倍ともいわれています。心臓に不安を抱えている人は、必ず禁煙の実行を。他人のたばこの煙を吸う受動喫煙も、心臓病のリスクを高めてしまいます。

心臓病のリスクを低めるには、食事が役立ちます。青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という成分は、血栓を溶かす作用があり、動脈硬化を予防します。タマネギに含まれる硫化アリルも、血液をサラサラにする作用があります。

血管の弾力性を保つ蛋白(たんぱく)質、抗酸化作用のある緑黄色野菜と大豆製品も、必要不可欠です。

心筋梗塞は、冠動脈の途絶で心筋が壊死

同じ虚血性心疾患の一つである心筋梗塞とは、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈に動脈硬化が起こり、血が固まった血栓などで、冠動脈のある部分の血管が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死してしまう疾患です。

壊死とは、体の組織の一部が破壊されて生命力を失うことで、心臓の筋肉である心筋を養っている冠動脈の血流が途絶えて、栄養不足、酸素不足に陥るために起こります。

60歳以上の男性に多くみられ、発病の前兆として狭心症発作が起こるケースもあれば、何の前触れもなく突然、起こるケースもあります。起きやすいのは、朝、活動して一息ついた際や、一日の活動を終えて、くつろいだ際など。朝方に、胸が苦しくて目が覚めた時も、要注意です。

心筋梗塞の症状としては、前胸部の中央に突然、激しい痛みが起こり、悪心、吐き気、冷汗が現れ、ショック状態に陥ることもあります。痛みを感じる場所は前胸部の中央がほとんどですが、左胸部や前胸部全体、あるいは、みぞおちなどが痛むことがあり、左肩や左腕、首や下あご、右肩などに痛みが放散する場合もあります。

この発作は数十分から数時間続いて、いったん治まっても断続的に繰り返すこともあり、数時間から数日間で死亡するケースが、しばしばみられます。激しい胸痛があったら、一刻も早く病院へ行き、CCU(心臓疾患集中治療室)ですぐ治療を受ければ、助かる可能性が高まります。

ただし、高齢者ではこのような痛みのほとんどない無痛性心筋梗塞が多くなり、呼吸困難、ショック状態、意識障害などで見付かるケースが増えますので、十分な注意が必要です。

CCUのある病院での集中治療

心筋梗塞が起こった時はもちろん、心筋梗塞の疑いがある時も、我慢したり、自宅で家庭療法をしたりしてはいけません。ためらうことなく直ちに、心臓病専門の集中監視と治療体制を備えたCCUのある病院に入院することが、大切です。

早ければ早いほど、集中治療を受けることによる急性心筋梗塞の救命率は、ずっと上がります。最初の1週間が非常に危険な時期で、特に数時間から3日以内に致命的な事態が起こって死亡することが多いため、専門施設での集中管理による適切な処置や看護が初期に必要なのです。

心筋梗塞急性期の治療として、入院後すぐに冠動脈造影が行われ、その状態によって、経皮的冠動脈形成術、経皮的冠動脈拡張術というカテーテル的治療か、血栓溶解療法が行われます。病院によっては、冠動脈バイパスグラフト術という外科的治療も行われます。

一般に、発症してから1週間以内の急性期は、心身ともに安静にすることが必要で、特に最初の数日間は絶対安静が必要です。痛みや苦痛に対しては、モルヒネなどの鎮痛剤や鎮静剤が用いられます。同時に、致命的となる危険な不整脈や心不全、心原性ショックなどの合併症の予防、治療も行われます。

急性期を乗り越えれば、回復期から慢性期のかなり安定した状態になります。病状にもよりますが、経過が順調ならば2~4週で退院できます。

🇷🇺虚血性大腸炎

大腸に届く血液が不十分なために、大腸粘膜に炎症や潰瘍が生じる疾患

虚血性大腸炎とは、大腸に届く動脈の血液が十分でなくなって、必要な酸素や栄養分が供給されないために大腸粘膜が虚血となり、炎症や潰瘍(かいよう)を生じる疾患。

発症には、血管と腸管の両方が関係します。動脈硬化や血栓などのために血管の血流が滞ってしまうほか、便秘が続いて大腸の壁が内側から圧迫され、血管も狭くなって血液が流れにくくなって起こると考えられています。発症者には高齢者が多いのですが、便秘がちな若い女性にも時にみられます。

胃腸の動脈は外側から内側に向かって流れますので、大腸の内側が最も動脈血の末端になり、粘膜が炎症を起こして真っ赤になり、腸に沿って縦に走る潰瘍(かいよう)ができます。幸い、大腸は心臓や脳と違い、周囲との血管の交通が豊富なので、ある領域の動脈がいっとき詰まっても、時間がたつと周囲から血が回ってきて、多く場合は後遺症も残さずに治ります。

この虚血性大腸炎は大腸のどの部位にも起き得ますが、特に多いのが下行結腸です。次に多いのがS状結腸と直腸の境目です。これらの場所は、下腹部の左側で縦に通る大腸に相当し、大腸に酸素や栄養分を供給する主な動脈のつなぎ目に当たり、血流が乏しいためとされています。

突然の激しい腹痛、下血、下痢で発症します。典型的には左下腹部の腹痛が起こり、赤黒い便が出ます。悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、発熱が認められることもあります。直前に便秘をしていることが多いようです。

多くは一過性型であり、数日で下血が治まり、腹痛も消えます。非常にまれに、治る過程で腸が狭くなったり、潰瘍部で腸に穴が開いたりします。前者を狭窄(きょうさく)型といい、腹痛や下痢が続くことがあります。後者を壊疽(えそ)型といい、激しい腹痛から症状が急速に悪化します。敗血症やショック状態を合併して、死に至る場合もあります。

突然の腹痛、下血がみられたら、できるだけ早く内科、ないし消化器科の専門医を受診し、適切な治療を受けるようにします。再発は少ないといわれています。

虚血性大腸炎の検査と診断と治療

内科、ないし消化器科の医師による診断は、症状だけで容易に推定できますが、確定するために大腸内視鏡検査を行います。多くの場合、下行結腸やS状結腸に発赤、出血、浮腫(ふしゅ)、縦に走る細長い潰瘍などがみられ、潰瘍の最も変化が強いところで全周性に真っ赤になっていれば、虚血性大腸と確定します。

なお、痛み止めや抗生物質の副作用で起きる薬剤性大腸炎も、虚血性大腸炎と内視鏡像が似ており、区別するために内服薬の有無を問診で聞きます。

注腸造影検査でも、粘膜の浮腫による変化や縦に走る潰瘍が認められますが、大腸の穿孔(せんこう)の危険性があることから、今ではあまり行われていません。

軽症の虚血性大腸炎では、入院の必要はありません。出血が多かったり潰瘍が広く深い時には、入院して大腸の安静を目的に3~4日間絶食し、その間は点滴で水分や栄養を補い、二次感染防止のための抗生物質の投与などを行います。腹痛に対しては対症療法として、鎮痙(ちんけい)薬や鎮痛薬を投与します。症状が改善したら、食事を開始します。

ただし、ほとんどは一過性型の虚血性大腸炎であり、積極的治療を必要とせず、腸の安静を保てば1〜2週間で自然に治ります。

まれですが、狭窄型、壊疽型では手術を要します。狭窄型では、出血した付近の腸管が狭くなって腹痛の原因となっている場合に、内視鏡を使って狭くなった場所を広げたり、手術で切除したりします。壊疽型では、症状が急速に進み、もともと高齢で他の疾患を持っている発症者が多いので、緊急で手術して壊死した大腸を切除します。

虚血性大腸炎の再発を防ぐためには、便秘を起こさないようにすることが大切です。規則的な生活や野菜類の多い食事、適度の運動を心掛けてください。医師の側でも、症状などに応じて便秘薬を処方します。

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