2022/08/12

🇪🇪牛乳不耐症

小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素の欠損などにより、乳糖を含む牛乳を摂取すると下痢を生じる状態

牛乳不耐症とは、小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素(ラクターゼ)が欠損していたり、少量しか産生されないために、牛乳や乳製品などの乳糖を含む食物を摂取すると、腹痛、腹鳴、腹部膨満感、水様性下痢を生じる状態。乳糖不耐症、選択的二糖類分解酵素欠損症とも呼ばれます。

乳糖(ラクトース)は、単糖のガラクトース(脳糖)とグルコース(ブドウ糖)が結合した二糖類で、牛乳や乳製品、母乳などに含まれる栄養素。口から摂取された乳糖は、小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素によって分解されて、小腸粘膜より吸収されます。

牛乳不耐症では、乳糖分解酵素が生まれ付き欠損したり、少量しか産生されないために、酵素活性が低くて小腸での乳糖の分解がうまくいかずに、不消化の状態で腸内に残ります。分解されなかった乳糖は、大腸の中で腸内細菌によって発酵し、脂肪酸と炭酸ガスと水になります。

この脂肪酸や炭酸ガスは、腸を刺激して蠕動(ぜんどう)という自発運動蠕を高進させます。また、不消化の食物の残りかすにより大腸の中の浸透圧が高くなるために、腸管の粘膜を通して体の中から水分が腸管の中に移動し、水様性下痢を引き起こします。

生まれ付き遺伝的に乳糖分解酵素を持たない場合は、先天性牛乳不耐症といいます。乳糖分解酵素は小腸粘膜の先端部位にあるため、小腸粘膜が傷害される多くの疾患で二次的に酵素活性が低下する場合は、後天性(二次性)牛乳不耐症といいます。

先天性牛乳不耐症では、乳児が水様便を頻回に排出するようになります。続いて嘔吐(おうと)も出現し、ほうっておくと脱水症状や発育障害、慢性栄養障害を起こす原因になります。

乳児に多いのは後天性牛乳不耐症で、ウイルスや細菌による腸炎の後で腸粘膜が傷害されて、酵素活性が低下し、牛乳不耐症の症状が一過性に出現することがよくあります。小腸を休ませて粘膜が回復すれば、また乳糖を分解することができるようになります。

ミルクが主食の乳児期には乳糖分解酵素は十分に作られますが、成長するに従って特別な疾患がなくても、次第に乳糖分解酵素の活性が低下します。乳糖分解酵素の活性は、白人では高く、黄色人種、黒色人種ではあまり高くありません。従って、日本人の成人の約40パーセントで乳糖分解酵素の活性が低いといわれています。

また、成人になるにつれて乳糖分解酵素の活性が低下してくるので、子供のころは症状がなくても成人になってから症状が出現することがあります。これは、牛乳を多く摂取する食習慣を持たなかったためと推測されます。

このような状況で乳糖を多く含む牛乳や乳製品を摂取すると、腹痛、腹鳴、腹部膨満感を生じ、腸の蠕動が高進して、酸っぱいにおいのするガス成分に富んだ水様性下痢を生じます。

成人の牛乳不耐症の場合、牛乳や乳製品を摂取しなければ、症状は治まります。自覚がないことも少なくなく、長い間下痢に悩んでいた人が、牛乳を飲むのをやめたら症状が治まったということもあります。

牛乳不耐症は緊張や不安などのストレスが原因で起こる過敏性腸症候群と似ていますが、牛乳を温めて飲んでも、それを分解する酵素がないか少ないために、栄養素が吸収されず、下痢などを生じます。

牛乳不耐症の検査と診断と治療

小児科、あるいは消化器内科の医師による牛乳不耐症の診断では、牛乳を飲ませて血糖値が上がらないこと、便中に糖が排出されることで判断できます。小腸粘膜を採取して乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性を調べると確実ですが、乳児などで後天性(二次性)牛乳不耐症が疑われる場合は、経過や病歴、乳糖除去ミルクの使用で症状が改善するかどうかで判断できます。

小児科、消化器内科の医師による牛乳不耐症の治療としては、乳糖を含む牛乳、乳製品などの食物を除去、制限します。乳製品でもあらかじめ乳糖を分解してある食品は、摂取可能です。

乳児に対しては、乳糖を含まないラクトレス、ボンラクトなどの特殊なミルクを使用します。一過性に生じる後天性牛乳不耐症の場合は、治療薬剤として乳糖分解酵素(ラクターゼ)製剤があり、その粉薬をミルクなどに混ぜるという方法もあります。

🇱🇻境界性人格障害(境界性パーソナリティー障害)

対人関係や情緒の不安定、衝動性に特徴を持つ人格障害

境界性人格障害とは、思春期または成人期に生じる人格障害。境界型人格障害、境界性パーソナリティー障害、境界例、ボーダーラインなどと呼称されることもあります。

もともとは精神分析治療の場から生まれてきた概念で、当初は神経症と精神病の中間領域にある病態を指していましたが、次第に概念が明確になり、1980年代に入ってから一般的な診断の対象として普及してきた障害です。

疫学調査では人口の1~2パーセント程度に境界性人格障害が存在するといわれ、最近は増加傾向にあります。ほかの人格障害と比べても発症者が多く、決して珍しい障害ではありません。男性よりも女性に多く、年齢は20~30歳代がピークになります。これには、女性ホルモンの影響による気分変動の起こりやすさが関係していると考えられています。なお、年齢を重ねると、状態は落ち着いていく傾向が認められます。

原因としては、遺伝的要因と環境的要因の相互作用により現れてくると推定されています。遺伝的要因には先天的な脳の脆弱(ぜいじゃく)性、環境的な要因には幼少期の身体的虐待、性的虐待、過干渉、機能不全家庭などの経験があります。

境界性人格障害の人の特徴として、慢性的抑うつ感、空虚感、情緒不安定性、対人関係の不安定さ、衝動性などが挙げられ、現れる症状はさまざまです。一定の感情を保持することが難しいため、元気でいたかと思うと急に落ち込みます。怒りに対する耐性が低いこともあって、対人関係は非常に不安定で、衝動に駆られて激しい怒りを身近な人にぶつけたり、ほめていた相手を急にこき下ろしたりします。

また、愛する人や大事な人に見捨てられるという不安を絶えず抱えていて、 不安感を解決させるために、自我の内部で自己の評価を上げることもあります。対人関係の不安定さを回避しようと、引きこもりのような状態になることもあります。窃盗や万引き、過度の買い物などで、不安感を消そうとする行動に出る場合もあります。手首を切る、大量服薬するなどの自殺企図も、多々みられます。

アメリカ精神医学会による診断基準DSM−IV(「精神障害のための診断と統計のマニュアル」第4版)の診断基準では、境界性人格障害は以下9項目のうち5つ以上を満たすこととなっています。

1、見捨てられ不安。2、理想化とこき下ろしに特徴付けられる不安定な対人関係。3、不安定な自己像または自己感にみられる同一性の障害。4、自己を傷付ける可能性のある衝動性。5、自殺企図。6、感情不安定。7、慢性的な空虚感。8、怒りの制御の困難。9、一過性の妄想様観念または解離性症状。

境界性人格障害の検査と診断と治療

境界性人格障害の症状が自分に該当する場合は、早めに信頼できる治療者を見付け、治療を継続していくことが大切となります。まずは、治りたいという気持ちを持つことが必要で、自分自身が変わりたいと思わないと治療はうまくいきません。周囲の人が無理やり受診させても治療がうまくいかないことが多く、通院も続きません。

医師による診断では、発症者の状態、成長過程での変化などをみていきます。家族に立ち会ってもらったり、心理テストを行ったりすることもあります。また、発症者自身が障害とその治療について勉強することも大切です。医師や薬への依存だけでは根本的に回復しないということを理解し、しっかりと治療への動機付けを行う、治療目標を設定する、最低限のルールを決めるといったことが必要になります。対人関係の面で医療スタッフと衝突することもあり、あらかじめルールを決めることで、できないことをはっきりさせ、発症者の欲求のままの行動や治療の混乱を防ぎます。不適切な行動がみられた場合は、やむなく治療の中断や入院治療へ切り替わることなどがあります。

境界性人格障害の治療には数年、あるいはそれ以上の長期間を必要としますが、今日では外来通院や、デイケアなどの中間施設の利用、および短期の入院が治療の主流で、長期の入院治療は重篤な症例を除き行われなくなってきています。一般に、30歳を過ぎると社会適応は改善する場合が少なくなく、この年齢まで自殺を予防し、生存を確保することが、治療上重要とされます。

境界性人格障害の実際の治療では、精神分析的精神療法、認知行動療法などの精神療法を主体とし、薬物療法が併用されます。不眠や不安、急激な怒りなどを薬によってある程度抑えることはできますが、向精神病薬はあまり効きません。あくまでも、精神療法が治療の柱となります。

精神療法では、心の内面を探り、問題の在りかと解決策を探ります。自分の気持ちをコントロールし、もっと楽に人間関係を築けるようにすることが目的です。まずは、治療の具体的な目標を定めます。ここでは、学校に行く、仕事に就くといった具体的な行動を定めることが大切です。

そして、なぜ問題行動が起こるのか、問題行動によって不安や恐怖から逃れることができたのかどうか、を本人に考えてもらいます。その時の気持ちを自分の言葉で表すことで結果を振り返り、問題行動が何も解決しないということを認識します。また、よい自分、悪い自分、大人の自分、幼い自分など、どんな自分も本人の大切な一部であると考えられるようにします。そのことで、ほどほどの感覚が身に着き、自分を受け入れられるようになります。

病院での精神療法は、週1回程度、1回につき30分~1時間程度かけるのが一般的です。精神分析的精神療法は性格の育て直しや自己洞察のために、行動療法やリミット・セッティングは行動を変えていくために、認知療法は物の考え方を変えるために、グループ精神療法は人間関係の改善のために行われ、人によっては大変有効ながら、有効でない人も少なくありません。最近では、認知行動療法を修正した弁証法的行動療法(DBT)が、自殺や衝動行為の制御に有効性が高いという報告もあります。

うつ、感情のコントロールの悪さ、気分の変動、不安、衝動の強さ、不眠といった症状を和らげるために、対症的に薬物療法が用いられることは少なくありません。実際、9割以上の人は、薬による治療を受けているといわれています。薬の種類や量は、発症者の状態によって異なります。薬には副作用がありますので、必ず医師の指示どおりに服用します。

抗精神病薬は、 焦燥感や怒りの感情を静める効果があり、衝動性を抑えるのに役立ちます。代表的なものにリスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ペロスピロンなどがあります。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)は、シナプス内のセロトニン濃度を選択的に上げる薬で、うつがある時に使用されます。代表的なものにフルボキサミン、パロキセチン、セルトラリンなどがあります。抗けいれん薬も、衝動性の抑制のためにしばしば使用されます。

生活の仕切り直しを目的に、短期の入院治療も行われます。自傷行為や自殺企図などの問題行動が激しい時、うつなどがひどくて治療に通えない時、暴力などで家族の負担が重い時、発症者自身に休息が必要な時などに入院治療が適応になります。病院に押し込めるというイメージがありますが、発症者だけでなく家族にとっても入院が望ましいこともあるので、肯定的に捕らえるようにします。入院生活では、定期的に医師の診察を受け、薬の調整などを行って生活します。状態がよくなれば、医師や本人、家族と相談して退院を考えます。退院後のことも、入院中にしっかりと話しておきます。

家族が積極的に治療に関わることで、治療の結果も異なります。発症者と家族が一緒に面接を受ける、発症者と家族がそれぞれ面接を受ける、数家族が集まって行うグループミーティングに参加するなど、家族が治療に関わることでよい結果が生まれやすくなります。家族も現状を理解し、対応を見直すことで、発症者と程よい距離を保ち、発症者本人にとって良い環境を作ってあげることが大切です。

発症者が社会復帰を図るためには、病院やクリニックなどで行われるデイケアなどの社会療法も、有効な手段と考えられています。発症者が対人関係でトラブルを抱えるのは、適切な社会的行動が取れていないからです。発症者が集い、一緒にさまざまな活動をすることによって、実社会に戻る練習ができます。ある程度落ち着いてきたら、デイケアの利用も考えられます。

🇱🇻胸郭出口症候群

神経や血管が圧迫され首、肩、腕に症状

胸郭(きょうかく)出口症候群とは、神経や血管が胸郭の出口から出る近辺で圧迫され、首や肩、腕などにさまざまな症状が出る疾患。

神経や血管が圧迫されるケースとしては、斜角筋症候群、肋鎖(ろくさ)症候群、過外転症候群などがあります。斜角筋症候群は、首の付け根の前斜角筋、中斜角筋という斜めに走っている筋肉の付着部で、2本の筋腱(きんけん)の間で、神経や血管が圧迫されて起こります。第7頸椎(けいつい)に、小さな肋骨が余計についていると、なお起こりやすくなります。

肋鎖(ろくさ)症候群は、鎖骨と第1肋骨の間で、神経や血管が圧迫されて起こります。過外転症候群は、胸のほうからついている小胸筋の付け根と、烏口(うこう)突起という肩甲骨(けんこうこつ)の突起部の間で、神経や血管が圧迫されて起こります。

いずれのケースも首、肩、腕、手指のしびれ、痛み、凝り、だるさを引き起こし、時には血行障害を来します。血行障害によって、腕を上げていると手が冷たくなってきたり、腕や手指の色が青白くなってくる場合もあります。

このような胸郭出口症候群は、先天的な素因があるところへ、不適当な姿勢や動作が加わると、発症することが多くなります。長時間デスクワークを続けた時など、肩凝りがひどくなることはよく経験することで、首や肩の筋肉の緊張が長く続いたためです。

特に、やせた、なで肩の女性は、もともと胸郭の出口の透き間が狭い上、首や肩を支える筋肉が弱いことから、胸郭出口症候群によるさまざまな症状が出やすい傾向にあります。

胸郭出口症候群の検査と診断と治療

胸郭出口症候群の症状を改善するためには、神経と血管の通り道を広げる必要があります。それには、胸郭、肩甲骨などの位置関係や動きを改善する運動を行います。整形外科やリハビリテーション科で指導を受けるとよいでしょう。

治療の中心となる運動療法では、肩甲骨を上げて筋肉群を強化するトレーニングをして、正しい姿勢を絶えずとるように習慣付けます。例えば、10キロから15キロぐらいのリュックサックを背負い、肩の上げ下げをします。

また、ひじを曲げたまま腕を大きく回す運動をします。ひじを体の前に突き出し、腕を大きく回してひじを外へ開きます。そのまま、ひじを下のほうへ回して、再び元の位置に戻します。これを5回、反対回しを5回、毎日仕事の合い間などに行います。この時、肩甲骨をゆっくり大きく動かすようにすると、肩周辺の筋肉に刺激が伝わってストレッチ効果も大きくなり、胸郭や肩甲骨などの動きの改善につながります。

このほか、首をゆっくり前、右、後ろ、前、左、後ろと半円に回す運動を、頭の重みで首の筋肉を伸ばすような感覚で行います。この運動は仕事中でもできますし、入浴時に肩周辺を温めながら行うとより効果的で、血行が改善されて、筋肉の凝りがほぐれます。

逆に、無理な姿勢や悪い動作を避けることが必要です。例えば、天井のペンキ塗りのような作業や、不適当な姿勢による長時間のデスクワークです。デスクワークを続ける場合は座る姿勢に注意が必要で、あごだけが前に突き出て重心が前に偏らないように、いすに座る時には猫背にならないように、あごを引いた姿勢を心掛けます。

運動療法と日常生活の配慮で効果の現れない時は、手術が必要になることもあります。腕や手指のしびれや痛み、手指の色の変化などは、脊椎(せきつい)の疾患や肺の腫瘍(しゅよう)などで現れることもあります。

🇱🇻強剛母趾

足の親指の付け根が痛くなり、関節の骨が出っ張る疾患

強剛母趾(きょうごうぼし)とは、外反(がいはん)母趾と同じように足の親指の付け根が痛くなる疾患。

足の変形はそれほどみられないものの、親指の付け根を足の甲のほうへ反らすと強い痛みが走り、さらに親指の付け根の中足指節(ちゅうそくしせつ)関節(MP関節)の骨に、骨棘(こつきょく)と呼ばれる小さなトゲのような突起ができて出っ張るという特徴を持っています。親指の付け根の中足指節関節を触ると、骨が出っ張っているのがわかります。

この状態でヒールの高い靴を履いて歩いたり、つま先立ちをしたり、つま先に力を入れたりすると、親指の付け根の出っ張りが中足指節関節とぶつかって、激しい痛みが出てきます。炎症を起こして関節がはれると、靴も履けなくなるほどになります。

そのまま放置する、親指を上に向けるのが制限されるようになり、重度になると、関節がほとんど動かなくなります。

ハイヒールなどの踵(かかと)の高い靴を履いたり、長時間の立ち仕事に従事するなどで、歩く際の踏み返しや、つま先立ちのような姿勢が繰り返されると、中足指節関節に強いストレスがかかり続け、さらに先天的な足の指の形や、足の甲の部分に位置する長い骨である中足骨の形状などによってストレスが増大されて、強剛母趾が起こると考えられます。

片足だけに症状が現れる人が多いので、足を硬いものにぶつけるなどの、軽いけがが切っ掛けで起きてくるのではないかとも考えられています。

繰り返し中足指節関節部分にストレスがかかり続けると、関節の軟骨が破壊されて変性を起こし、増殖して骨棘が生じます。さらに骨棘が増殖を続けると、関節の透き間が減ってきて、互いにぶつかり合って関節の動きが悪くなります。 最終的には、大きくなった骨棘によって関節の透き間がなくなり、関節がほとんど動かなくなると考えられています。

この強剛母趾は、柔道やテニスなど、足の親指の付け根の中足指節関節に繰り返し負荷が加わるスポーツをしてきた人や、ハイヒールを履いて運動する社交ダンスの愛好者にも多くみられます。

足の親指の付け根が痛むため、外反母趾や痛風を疑う人もおり、尿酸値が高い場合は医師に痛風と誤診されることもあります。欧米の足の整形外科医療に比べると、日本は遅れているため、強剛母趾の症状に長年悩まされながらも、効果的な治療を受けられず、病院や接骨院を転々とする発症者もいます。

現在、強剛母趾の診療を行える医療機関は限られており、「日本足の外科学会」ではホームページで、全国の整形外科を始めとした「足の外科」の病院や医師を紹介しています。

強剛母趾の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、親指の付け根の中足指節関節に軟骨が変性した骨棘ができていないか、また、中足指節関節の透き間が狭くなっていないかを調べます。

出っ張ってくる骨棘は軟骨のためX線写真にはっきりと映ることはありませんが、左右の足のX線写真を比較することで、骨棘を明らかに見付けたり、関節にはれが生じていることを見付けたりできます。

親指がくの字型に変形している外反母趾とは、X線写真の外見上からも区別が付きますが、外反母趾の初期では慎重な鑑別が必要になります。

整形外科の医師による治療では、強剛母趾が軽い場合は、靴に足底板(中敷き)を入れたり、靴を変えることで対処します。足底板は発症者の足に合わせて作るのが効果的で、義肢装具士が足の形を調べて製作し、健康保険が利用できます。

靴の場合は、つま先の幅が広く、歩行時の踏み返しの時の反り返しが小さくなるような靴底が硬めのものや、靴底に丸みがあり体重移動がしやすいものに変えることで、親指の屈伸による負担を軽くして、関節の動きを抑えることができて症状がかなり改善します。同時に、極力長歩きを控えたり、つま先立ちのような動作を控えます。

足の甲側への棘骨の出っ張りが大きい時や、親指の付け根の中足指節関節が完全に壊れてしまったような場合には、手術が必要になります。

手術では、関節軟骨が残っている場合には、骨の一部を取り除いて関節を作り直す関節唇切除術、関節軟骨が残っていないほどの重症な場合には、関節を動かないように固定する関節固定術が行われます。

関節唇切除術は、足の甲側から切開し、衝突がなくなるまで骨棘を切除し、関節面の切除は最小限にとどめます。

関節固定術は、2本のネジを使って関節を固定する方法で、しばらくギプス固定し、骨がしっかりとくっついたことを確認してネジを抜きます。関節を固定すること踏み返しの運動の範囲は狭くなりますが、動きがなくなることで痛みは消失します。

強剛母趾の初期の場合の運動処方としては、足の指を握ったり開いたりして、特に親指と小指をしっかりと開き、足の指全体に力をつけ、親指と小指が使えるようにトレーニングすることが大切です。

🇱🇹狭窄性腱鞘炎

手首の親指側にある腱鞘と、そこを通過する2つ伸筋腱に生じる炎症

狭窄(きょうさく)性腱鞘(けんしょう)炎とは、手首の親指側にある腱鞘と、そこを通過する長母指外転筋腱と短母指伸筋腱に生じる炎症。ドケルバン病、橈骨(とうこつ)茎状突起痛とも呼ばれます。

親指を広げると手首の親指側の部分に腱が張って、皮下に浮かび上がる2本の線があり、下側の線が長母指外転筋腱、上側の線が短母指伸筋腱に相当します。長母指外転筋腱は主に親指を広げる働きをする伸筋腱の1本で、短母指伸筋腱は主に母指を伸ばす働きをする伸筋腱の1本です。

親指の使いすぎによる負荷のために、2本の伸筋腱が通るトンネルである腱鞘が炎症を起こして肥厚すると狭窄が生じ、2本の伸筋腱の表面が傷んだり、癒着したりして、狭窄性腱鞘炎となります。この手首の親指側にある腱鞘には、2本の伸筋腱を分けて通過させる隔壁が存在するために、狭窄が生じやすいという特徴があります。

狭窄性腱鞘炎を発症すると、腱鞘の部分で2本の伸筋腱の動きがスムーズでなくなり、親指の付け根や手首の親指側が痛み、はれます。親指を広げたり、動かしたりすると、強い痛みが走ります。 タオルを絞ったりすると、手首の親指側が痛むこともあります。

また、2本の伸筋腱の周囲の組織が骨のように硬くなったり、手首の親指側の関節にある橈骨茎状突起部の周囲がはれ、押すと痛むという症状もみられます。

仕事やスポーツで手や指を酷使している人のほか、女性の場合、妊娠や出産、更年期が切っ掛けとなって、狭窄性腱鞘炎を発症するケースもあります。中には、腱の変性により老人に発症する場合や、外傷で発症する場合、ガングリオン(結節腫)などの腫瘍(しゅよう)によって伸筋腱が圧迫されて発症する場合もあります。

狭窄性腱鞘炎の検査と診断と治療

整形外科、ないし外科の医師による診断では、針を刺して関節液を採取する穿刺(せんし)検査を行います。

親指を使用した時の手首の親指側の痛み、また橈骨茎状突起部にはれや圧痛があれば、診断を確定できます。誘発試験として、医師が患者の母指を握って、手関節を小指側に曲げるフィンケルスタインテストを行い、痛みが増強するか否かで判定します。

区別する必要がある疾患として、母指CM関節症、月状骨(げつじょうこつ)軟化症、舟状骨(しゅうじょうこつ)骨折などがあり、単純X線撮影を行います。狭窄性腱鞘炎は単純X線写真では異常が認められないことから、区別が可能です。

整形外科、ないし外科の医師による治療では、まず手をなるべく使わないよう指導します。また、湿布剤、軟こうなどの使用、非ステロイド性鎮痛消炎剤の投与を行います。時には、副木(ふくぼく)やバンドを当てて固定することもあります。

症状が強い時には、局所麻酔薬入りステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)を発症している腱鞘に直接注射するのが有効です。3回以上の直接注射は、腱の損傷を起こすことがあるので避けます。

これらの保存療法を3カ月程度行って症状が改善しない場合、腱鞘を切開する手術を行います。手術は局所麻酔を用い、橈骨茎状突起部に2cmほどの皮膚切開を入れて、まず橈骨神経浅枝という神経をよけ、長母指外転筋腱鞘と短母指伸筋腱鞘を出して、隔壁を含めて全長にわたり切離し、腱の滑りをよくします。手術成績は良好です。

狭窄性腱鞘炎を予防するには、手、特に親指の酷使を避けることが一番大切です。

🇱🇹狭心症

■心筋に生じた一過性の酸欠状態

狭心症とは、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈の狭窄(きょうさく)などによって、心臓の筋肉である心筋に十分な血液が送られなくなり、心筋が一時的な酸素欠乏になった状態のことです。 虚血性心疾患の一つで、突然死を招くことにもなる急性冠症候群の一つにも数えられています。

人間の心臓は、筋肉でできた袋のような臓器で、1日に約10万回収縮し、全身に血液を循環させて、酸素や栄養を送り届けています。もちろん、心臓の拍動にも多くの酸素や栄養が必要ですが、心臓自身は心臓の中を通る血液からではなく、表面を取り巻く冠動脈から、血液を受け取っているのです。

この冠動脈に、動脈硬化などによってプラークという固まりができて、血液の通り道が狭くなったり、詰まったりすると、心筋が酸欠状態に陥ってしまい、狭心症や心筋梗塞(こうそく)を招くのです。心筋梗塞のほうは、冠動脈が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死してしまった状態です。

狭心症にはいろいろなタイプがありますが、よく知られているタイプは、労作(性)狭心症と安静(自発)狭心症の二つです。

労作狭心症は、動脈硬化などで冠動脈が狭くなっている際に、過度のストレス、精神的興奮、坂道や階段の昇降運動といった一定の強さの運動や動作が誘因となり、心臓の負担が増すことで起こるものです。安静狭心症は、就寝中や早朝など、比較的安静にしている際に起こるものです。心不全などを合併することも多く、労作狭心症よりも重症です。

40歳以上の男性に狭心症は多く、女性では閉経期以後や卵巣摘出術を受けた人に多くみられます。誘因として考えられるのは、高血圧、高脂血症、肥満、高尿酸血症、ストレス、性格など。

■発作時の自覚症状は狭心痛

症状としては、狭心痛という発作を繰り返す特徴があります。典型的な狭心痛は突然、胸の中央部に締め付けられるような痛みが起こり、痛みは左肩、左手に広がります。まれに、下あご、のどに痛みが出ることもあります。発作の時間は数分から数十分で治まりますが、発作中は顔面蒼白(そうはく)、胸部圧迫感、息苦しさ、冷汗、動悸(どうき)、頻脈、血圧上昇、頭痛、嘔吐(おうと)のみられるものもあります。

初めての発作は見過ごしがちですが、症状を放置した場合、一週間以内に心筋梗塞、心室細動などを引き起こす可能性もあります。治まったことで安心せずに、病院へ行くべきです。特に高齢者や、発作が頻発に起きる人は、注意が必要となります。

病院では、心電図、運動負荷心電図、冠動脈造影などで検査し、すべてのタイプに共通して、血栓ができるのを防ぐために、アスピリンなどの抗血小板剤の投与による治療が行われます。発作を止めるために、ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなどの硝酸薬、発作を予防するために、硝酸薬、β遮断薬、カルシウム拮抗(きっこう)薬が投与されるほか、 経皮的冠動脈形成術、冠動脈大動脈バイパス移植術などの外科的治療も行われます。

■予防、対策のための心掛け

発作が起きた時には、安静が原則です。直ちに動作を中止し、歩行中ならば立ち止まって休みます。横になると、下半身の血液が大量に心臓に戻ってきて、心臓に負担をかけます。立っている場合は、何かにつかまって前かがみの姿勢で休むようにします。寝ている場合は、上体を起こして座り、布団などにもたれるようにします。そして、なるべく早く病院へ行くことです。

狭心症などの心臓病は、男性は40代、女性は閉経後の50代から増加し始めますので、年一回は定期検診を受けましょう。心電図や心拍数の変動、連続心電図などで、潜在的な心臓病の有無を調べられます。

高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が心臓病のリスクを高めるため、生活習慣病にかからないように留意し、もしかかってしまった場合には、そちらの治療をすることが先決となります。

腹囲の大きい人も、要注意です。肥満は生活習慣病の危険因子であり、動脈硬化の原因にもなるからです。まず、身長(センチ)マイナス100(キロ)までの減量を心掛けて下さい。

また、たばこの煙を吸うと、血管が収縮して血圧が上昇、心拍数も増えて、心臓が急激に酸素を要求します。喫煙者が狭心症や心筋梗塞で死亡する危険度は、非喫煙者の1.7~3倍ともいわれています。心臓に不安を抱えている人は、必ず禁煙の実行を。他人のたばこの煙を吸う受動喫煙も、心臓病のリスクを高めてしまいます。

心臓病のリスクを低めるには、食事が役立ちます。青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という成分は、血栓を溶かす作用があり、動脈硬化を予防します。タマネギに含まれる硫化アリルも、血液をサラサラにする作用があります。

血管の弾力性を保つ蛋白(たんぱく)質、抗酸化作用のある緑黄色野菜と大豆製品も、必要不可欠です。

🇱🇹蟯虫症

蟯虫が盲腸付近に寄生することで引き起こされる寄生虫病

蟯虫(ぎょうちゅう)症とは、線虫類に属する蟯虫が盲腸付近に寄生することで、引き起こされる寄生虫病。日本で最も多い寄生虫病です。

小児に多くみられますが、大人も感染します。小児では幼児期から学童期にかけて多く、約5~20パーセントぐらいの感染率があると見なされています。人から人への感染が起こるために、家族内や保育所内、幼稚園内などで集団感染することがあります。

口から入った蟯虫の卵は、6~8時間で孵化(ふか)して幼虫になり、人の盲腸およびその周辺に寄生します。その後、幼虫は約45日程度で成熟します。成虫は紡錘形で乳白色をしており、体長はオスが2.5センチほど、メスが1センチ前後、寿命はオスが2週間、メスが2カ月程度。交尾をしたメスの体内で卵が十分に発育してくると、メスは人が夜寝ている間に肛門(こうもん)付近に下りてきて、1時間に6000~10000個の卵を産みつけます。卵は1カ所に産むのではなく、卵を産み尽くすまで、産んでは進み産んでは進みを繰り返し、メスは力尽きて死にます。

その卵は産卵されて数時間以内に感染可能なまでに発育して、手指や衣類、寝具、家具、建具に付着しますので、再び口から人体に入って寄生することになります。人は蟯虫に対しては免疫ができずに何度でも感染しますので、小児がおしりをかいて卵の付着した手指をそのまましゃぶると感染がひどくなります。また、同じ布団で寝たり、密接な接触のある集団内では感染が広がっていきます。

寄生している蟯虫の数が少ない時は症状のないことも多いのですが、数が多くなると腹痛、リンパ節の炎症が生じたり、メスが下りてくると肛門の周囲のかゆみ、湿疹(しっしん)が生じ、それに伴う睡眠障害がみられることになります。盲腸に寄生しているために、虫垂炎の原因になることもあります。

蟯虫症の検査と診断と治療

幼稚園や学校の検査で偶然、見付かることもけっこうありますが、蟯虫症の症状に気付いたら、内科を受診します。同様に感染している可能性がある同居の家族も内科を受診、検査して感染の有無を確かめることが必要です。

肛門周囲に産みつけられた卵を検出するには、セロハンテープ法という方法が行われます。朝起きてすぐ、布団を出る前に肛門に粘着性のセロハンテープをつけて卵を付着させ、顕微鏡で卵を見付けます。蟯虫は毎日産卵するわけではないので、日を変えて2回、あるいは3日連続して検査します。時々、便の中に長さ1センチ前後の乳白色の蟯虫が見付けられることもあります。

治療では、駆虫剤のコンバントリン(成分はパモ酸ピランテル)を内服します。駆虫剤は成虫には効くものの、卵には効きませんので1度飲んでから、2週間後、すなわち残った卵が成虫になって卵を生む前に、もう1度飲むほうがよいでしょう。

蟯虫は病害性の低い寄生虫ですが、見付けたら家族いっせいに駆虫することが、予防の基本です。ふだんから、つめを短く切る、手洗いをよくする、毎日入浴し、できれば朝も入浴して下着を取り替える、寝具や室内を清潔に保つなどの注意が必要です。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...