2022/08/12

🇳🇱外因性真菌性眼内炎

けがや手術により目にできた傷口から直接、真菌が侵入して起こる目の感染症

外因性真菌性眼内炎とは、真菌が手術の切開部や眼球のけがから直接、目に侵入し、眼球の内部が炎症を起こす感染症。

真菌は、カビ、酵母(イースト)、キノコなどからなる微生物の総称であり、菌類に含まれる一部門で、細菌と変形菌を除くものに相当します。葉緑素を持たない真核生物で、単細胞あるいは連なって糸状体をなし、胞子で増えます。

目の手術による外因性真菌性眼内炎のほとんどは、手術後2日から3日ほどで発症します。原因となる真菌によっては、手術後半年から1年以上経過してから発症する場合もあります。

原因となる真菌は、皮膚や腸管に普通に存在しているカンジダが多く、次いでアスペルギルス、クリプトコックス、フサリウムなどが続きます。

外因性真菌性眼内炎の初期症状としては、 目の前に蚊など小さい物が飛んでいるように見える飛蚊(ひぶん)症や、視界に霧がかかっているように見える霧視などが出ます。

眼内の炎症が悪化すると、ひどい目の痛み、明るい光の非常なまぶしさ、充血、目やに、視力低下を自覚するようになり、さらに進行すると、視力の部分的な欠損があり、視力の完全な欠損によって失明を起こすこともあります。

飛蚊症が出た時期に眼科を受診し、適切な治療を受ければ、ほとんどのケースで治癒します。しかし、数日から数週間の単位で進行し、重症になった場合は、最大限の治療を施しても目を救えないこともあります。

外因性真菌性眼内炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、目のけががある場合や、眼科の外科手術を受けた経験がある場合は、そこから目に原因となる真菌が入った可能性が強いとして、外因性真菌性眼内炎と判断します。

確定するためには、目の表面を拡大して見る細隙灯(さいげきとう)顕微鏡を用いて眼球を丹念に調べ、瞳孔(どうこう)を開いた散瞳下の精密眼底検査を行います。続いて、分泌液の培養検査を行います。場合によっては、抗体検査やDNA検査も行います。

分泌液の培養検査では、眼球内の前方にある液体である房水や、眼球後部の内部にあるゼリー状の組織である硝子体(しょうしたい)から採取し、感染の原因となっている真菌を早急に特定するとともに、どの薬剤が最も有効かを調べます。

また、同じような症状が出る外因性細菌性眼内炎や、悪性リンパ腫(しゅ)などと慎重に区別していきます。

眼科の医師による治療では通常、視力を守るために、抗真菌剤による治療を直ちに開始します。極端な場合、数時間の遅れが、回復不可能な視力の低下につながることがあります。

原因となる真菌はカンジダがほとんどですので、第1選択の抗真菌剤としてトリアゾール系薬剤のジフルカンを用います。

後に、感染の原因であると判明した真菌に応じて、抗真菌剤の選択を調整することがあります。ジフルカンが無効な場合は、ほかのファンギゾン、アンコチル、フロリード、イトリゾールなどの抗真菌剤を選択します。

抗真菌剤は、眼内注射、あるいは静脈内注射、または経口で投与します。抗真菌剤を眼内に注射した後、数日間にわたって痛みを和らげるコルチコステロイド剤を経口で投与することもあります。

感染を食い止める確率を上げるため、眼球内部の感染組織を取り除く手術を行うこともあります。

🇫🇷回外筋症候群

肘関節周辺で後骨間神経が圧迫され、神経まひが引き起こされる疾患

回外筋(かいがいきん)症候群とは、前腕の親指側にある橈骨(とうこつ)と小指側にある尺骨(しゃくこつ)、この2つの細長い骨の間をつなぐ骨間膜の前後を走る後骨間(こうこつかん)神経が圧迫され、引き起こされる神経まひ。後骨間神経まひとも呼ばれます。

運動神経である後骨間神経は、鎖骨の下から手首、手指まで走る知覚神経である橈骨神経から、肘(ひじ)の辺りで分岐して、手の甲を顔に向ける回外筋の浅層と深層の間に潜り込み、指を伸ばすいくつかの筋肉を支配しています。

後骨間神経が肘の下で、回外筋の浅層で形成されたフローゼのアーケードと呼ばれる骨間膜の部位を通る際に、何らかの原因で圧迫(絞扼〔こうやく〕)されると、回外筋症候群が引き起こされます。

上腕骨や上腕骨顆上(かじょう)の骨折などの外傷が原因で引き起こされるものの、一般には使いすぎが原因で引き起こされるため、手や腕を内側に回す回内、外側に回す回外を多く繰り返す、指揮者やギター奏者、あるいはテニスやバドミントンなどのスポーツ選手に起こることがあります。

発症すると、肘周辺や前腕部が痛み、肘が伸ばしにくい日が続きますが、3~7日で痛みは消えます。その後、まひが生じて、下垂指(ドロップフィンガー)になります。

下垂指になると、手首の関節の背屈は可能なものの、手指の付け根の関節の背屈が不可能になり、指のみが下がった状態になります。重度の場合は、手指を付け根から全く伸ばせなくなり、親指を広げられなくなります。まひの状態が長く続くと、筋肉の委縮が起こり、腕の筋肉がやせ細ってきます。

後骨間神経は運動神経であるため、手の甲から前腕の皮膚を触った感覚には異常はありませんが、まれに知覚異常を認めることもあります。

回外筋症候群に気付いた場合には、整形外科、ないし神経内科を受診することが勧められます。

回外筋症候群の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、下垂指と皮膚の感覚障害のないことで判断します。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)、超音波(エコー)検査などを必要に応じて行います。

回外筋症候群の初期では、上腕骨外側上顆炎(テニス肘、バックハンドテニス肘)との鑑別が大切となります。

整形外科、神経内科の医師による治療では、回復の可能性のあるものや原因が明らかでないものに対しては、局所の安静、薬剤内服、必要に応じ装具、運動療法などの保存療法を行います。薬剤内服では、 ビタミンB12 、消炎鎮痛剤などを服用することが有用です。

ほとんどは保存療法で回復しますが、数パーセントは回復しないこともあります。中にはフローゼのアーケードの部位の前後で後骨間神経の砂時計様のくびれが存在することもありますので、3~6カ月ほど様子をみて全く回復しないもの、まひが進行するもの、骨折などの外傷で手術が必要なもの、腫瘤(しゅりゅう)のあるものでは、手術を行います。

神経損傷のあるものでは、神経剥離(はくり)、神経縫合、神経移植などの手術を行います。神経の手術で回復の望みの少ないものでは、ほかの筋肉で動かすようにする腱(けん)移行手術を行います。

🇹🇯回帰熱

野生のダニやシラミが媒介する細菌感染症

回帰熱とは、野生のダニやシラミに媒介されることで発症する細菌感染症。再帰熱とも呼ばれます。

回帰熱を発症すると、発熱期と無熱期を数回繰り返すことから、この疾患名が付けられました。回帰熱を引き起こす病原体は、スピロヘータ科ボレリア属のボレリア・レカレンチス、ボレリア・ミヤモトイ、ボレリア・ヘルムシーなどの細菌で、回帰熱ボレリアとも呼ばれます。

回帰熱には、ダニが媒介してボレリア・レカレンチスやボレリア・ミヤモトイを病原体とするものと、シラミが媒介してボレリア・ミヤモトイやボレリア・ヘルムシーなどを病原体とするものがあります。

ダニ媒介回帰熱は、アフリカ大陸、イベリア半島(特に地中海地域)、中央アジア、中東の一部、インド、中国、アメリカ大陸など非常に広い範囲で分布します。シラミ媒介回帰熱は、エチオピア、スーダン、南スーダン、ソマリアなどアフリカ大陸の高地、インド、南米アンデス山地などでみられます。

日本では、海外で感染し帰国後に発症した数例を除き、過去数十年間、国内で回帰熱の患者の報告はありませんでしたが、近年の逆上り調査の結果、2011年以降に、北海道でボレリア・ミヤモトイ感染による回帰熱の患者2名が発生していたことが明らかになりました。

日本では、回帰熱は感染症法で全数把握対象の4類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに保健所に届け出ることになっています。

回帰熱は、基本的にダニやシラミに刺されることを原因として発症します。人から人に直接感染することはありません。

刺されてから約1〜2週間の潜伏期間をへて、病原体が血液中に存在して40℃以上の高熱が1週間ぐらい続き、その後一時的に細菌が減少して約1週間は熱がなく、再び発熱するといった発熱期と無熱期を複数回繰り返します。

発熱期には、発熱以外に頭痛や筋肉痛、関節痛、悪寒、吐き気、結膜炎、点状出血、黄疸(おうだん)、肝臓や脾臓(ひぞう)の腫大(しゅだい)などが生じます。無熱期には、発汗、倦怠(けんたい)感がみられ、時に低血圧症や赤いぶつぶつとした発疹(はっしん)が発生することもあります。

一般的には2回目以降の発熱期は短く、熱の程度も軽くなります。これを繰り返した後、最終的に解熱します。

ただし、発熱期には、中枢神経障害として髄膜炎や脳出血、心筋炎、肺炎などを起こすこともあり、症状が重い場合には死に至ることもあります。妊婦が感染した場合は、低出生体重児や早産、自然流産のリスクが高まります。

ダニ媒介回帰熱とシラミ媒介回帰熱の症状は似ていますが、一般にシラミ媒介回帰熱のほうがより重篤な症状を示します。致死率は、ダニ媒介回帰熱では10%以下ですが、シラミ媒介回帰熱では50%にまで達することがあります。

回帰熱の検査と診断と治療

内科、皮膚科、感染症科、感染症内科などの医師による診断では、その特殊な熱型と、血液中の病原体ボレリア属の顕微鏡による検出によって、容易に回帰熱と確定できます。

血液検査では、血液中の細菌量が比較的多い発熱期に採血し、血液を染色して顕微鏡で観察して病原体の特徴的な形態が見られるか調べます。ほかにも、抗原や遺伝子などを検出する蛍光抗体法(免疫蛍光法)やPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法など別の方法を選択することもあります。

内科、皮膚科、感染症科、感染症内科などの医師による治療では、抗生物質を使用します。テトラサイクリン系の抗生物質が最も有効で、ストレプトマイシン、ペニシリンも効果がありますので、年齢などに応じて使用する抗生物質を決定します。

ただし、抗生物質の初回投与後数時間以内に悪寒や震えが生じ、その後ショックから死亡に至ることもあるので、注意が必要です。この反応は、ダニ媒介回帰熱の場合は30〜40%、シラミ媒介回帰熱の場合は80〜90%の症例で生じるといわれています。

回帰熱はワクチンによる予防対策を講じることができない疾患のため、病原体を保有するダニやシラミに刺されない対策を講じることが重要です。

そのポイントは、森林作業や農作業、レジャーなどで、草むらややぶなどダニやシラミが多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖(ながそで)、長ズボン、帽子、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。

衣類にダニがついていることがあるので、森林や野山などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。

万が一ダニ類に刺され、皮膚に吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、入浴して体をよく洗って注意深く取り除くか、医療機関で処理してもらうことです。

シラミが移ることを防ぐために、衣類や寝具、ヘアブラシなどの共有を避けます。

🇹🇯外脛骨障害

足関節の内くるぶし前下方にある外脛骨に痛みを感じる障害

外脛骨(がいけいこつ)障害とは、足関節の内くるぶし前下方にある、舟状(しゅうじょう)骨という骨の内側に存在する外脛骨に痛みを感じる障害。有痛性外脛骨とも呼ばれます。

外脛骨は、普通には退化して存在しない余分な骨である過剰骨に相当します。過剰骨である外脛骨は、日本人の15〜20パーセントに認められるものの、多くは足部中央の内側に骨の出っ張りがみられるだけです。

しかし、スポーツ活動が盛んになる小学校高学年から中学生になると、スポーツによる使いすぎや、シューズによる圧迫、さらには捻挫(ねんざ)などの外傷を契機に、外脛骨に痛みを感じる外脛骨障害を生じることがあります。

原因の多くは、比較的大きな外脛骨と舟状骨とを結合している薄い線維軟骨が損傷されるためで、外脛骨がわずかに動くことにより痛みを生じます。

圧倒的に女子に多く発症し、土踏まずが低く縦アーチのない足、いわゆる扁平足(へんぺいそく)の傾向のある人も、体重がより内側にかかるために発症しやすくなります。

症状は、足の内側に骨性の隆起があり、ここを押した時の圧痛や、シューズを履いた時の痛み、スポーツをした時の痛みがあり、足全体のだるさを覚えることもあります。激しい痛みではありませんが、痛みを避けるために、外側に体重をかけて歩いていることがあります。

外脛骨障害は若年性のスポーツ障害として数多くみられる疾患の一つですが、成人になって痛みが発症することも少なくありません。多くは捻挫を契機として足部中央の内側に痛みが出現しますが、時には明らかな誘因がなく痛みが生じることもあります。

外脛骨障害の検査と診断と治療

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による診断では、足の内側に骨性の隆起と同部位の圧痛があり、単純X線(レントゲン)検査で外脛骨が確認されると、比較的容易に外脛骨障害と確定できます。

区別すべき他の障害としては、外脛骨の存在しない外反扁平足、後脛骨筋腱(けん)炎、シンスプリント、膝蓋骨亜脱臼(しつがいこつあだっきゅう)症候群があります。

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による治療では、まず局所の安静を行い、鎮痛剤、温熱療法などの保存療法で痛みの改善を図ります。症状が長引くケースや、繰り返し痛みが出現するようなケースでは、ギプス固定を行ったり、土踏まずの部位を持ち上げる足底板(アーチサポート)を装着する方法が有効なこともあります。

4カ月以上適切な保存療法を行っても一向に症状の改善がないケースや、何度も再発を繰り返し、日常生活やスポーツ活動に支障を来すようなケースでは、手術的に外脛骨の摘出術や接合術を行うこともあります。

外脛骨障害を発症した少年少女は、骨の成長とともに症状が改善することが多いので、焦らずに痛みを生じない程度のものだけに運動を制限して回復するのを待ちましょう。ジャンプやダッシュなど足部に負担のかかるスポーツ活動を3週間程度中止し、筋力トレーニングなど局所に負荷のかからないものに限るようにします。

スポーツ活動における練習量と練習メニューの見直しや、シューズが適しているかどうかをチェックすることも必要です。特に野球やサッカーなどで使用するスパイクシューズは、靴の足底部が堅く衝撃吸収に劣ることが多く、さらに土踏まずの部分の盛り上がりがほとんどないため、足にかなりのストレスがかかります。

そこで、ランニングや筋力トレーニングなど本来の競技特性に関係のない練習では、なるべく通常のジョギングシューズに履き替えるようにするだけでも、症状を和らげることができます。

🇸🇦壊血病

ビタミンCの不足で起こる、出血性の障害

壊血病とは、ビタミンCの欠乏によって、出血性の障害が体内の各器官で生じる疾患。ビタミンC欠乏症とも呼ばれます。

水溶性ビタミンであるビタミンCは、血管壁を強くしたり、血液が凝固するのを助けたりする作用を持っています。また、生体内の酸化還元反応に関係し、コラーゲンの生成や骨芽細胞の増殖など、さまざまな作用も持っています。

成人におけるビタミンCの適正摂取量は、1日に100mgとされています。日本人はもともとビタミンCの摂取量が多く欠乏症になりにくいのですが、3~12カ月に渡る長期、高度のビタミンC欠乏があると、壊血病が生じます。妊娠や授乳時では、ビタミンCの必要量も増えます。

ビタミンCが欠乏すると、毛細血管が脆弱(ぜいじゃく)となって、全身の皮下に点状の出血を起こしたり、歯肉に潰瘍(かいよう)ができたり、関節内に出血を起こしたりします。また、消化管や尿路から出血することもあります。一般症状として、全身の倦怠感(けんたいかん)や関節痛、体重減少が現れます。

小児においても、壊血病は生じます。特に生後6~12カ月間の人工栄養の乳児に発生し、モラー・バーロー病とも呼ばれています。現れる症状は、骨組織の形成不全、骨折や骨の変形、出血や壊死(えし)、軟骨や骨境界部での出血と血腫(けっしゅ)、歯の発生障害などです。

壊血病の検査と診断と治療

乳児では1日100mg、成人では1日1000mgのビタミンCを投与すると、症状の改善が認められます。ただ、長期に投与すると尿路結石(シュウ酸カルシウム結石)が生じることがあり、注意が必要です。

予防としては、新鮮な果物や野菜を十分に取ります。また、煮すぎない、ゆですぎない、ミキサーに長時間かけないなど、調理によるビタミンCの破壊に気を付ければ、まず壊血病の心配はありません。

🇺🇿介護うつ

家族を在宅介護する人に、ストレスが原因で起こる、うつ病

介護うつとは、家族を在宅介護するストレスが原因で起こる、うつ病。介護従事者の多数は40歳代から60歳代の女性であり、この年代の女性にとって、在宅介護は大きなストレス因子となっています。

厚生労働省の研究班が2005年、在宅介護者を対象に実施したアンケートによると、在宅介護者の23パーセント、およそ4人に1人が軽度以上のうつ状態にあるといいます。うつ病の発症率はおよそ7パーセントですから、介護に当たる人はそうでない人の約3倍、うつ病になりやすい状況下にあるといえます。

また、「死んでしまいたいと思うことがあるか」と聞いた質問に対して、65歳以上の介護者の3割以上が「ある」「少しある」と回答。さらに、介護者の約5割が介護について相談できる仲間がほしいと感じており、介護者の支えとなる存在の必要性が浮き彫りとなっています。

在宅介護は、その物理的な負担のみならず、先の見えなさ、拘束感、完璧な介護への捕らわれなど、いくつもの特徴があります。閉塞(へいそく)した家庭内で、一日中被介護者と向き合って生活している在宅介護者は、外との接点が極端に少なくなってしまう場合があり、うつ病や慢性疲労などへの注意が必要といえます。

うつ病はきちょうめんで、きまじめな性格の人がなりやすいといわれていますが、はっきりしたことはわかっていません。人間は期間が限定されているストレスには耐えることができますが、介護のように先が見えないストレスには弱いものです。加えて、一生懸命介護をしたとしても、決して高齢者の状態が大きく改善するわけではなく、むしろ徐々に弱っていくことが多いと思われる状況では、成果として目に見えて結果が出ないので、自分の目標を見失ってしまいます。そのような状況下で周囲や職場の理解が得られないなど、別のストレスも加わることで、精神的にも肉体的にも限界になり、うつ病を発症するケースが多いのではないかと推測されます。

介護うつの原因ともなっている介護負担は、各世代に大きくのしかかっています。具体的には、介護者も被介護者も高齢であることからくる介護力不足が問題となる老老介護や、一つの家庭に複数の要介護者が同時に存在する多重介護、あるいは、祖父母の介護を孫の世代が担う隔世介護など、介護の様式が複雑化したことや、医療技術の進歩で寿命が延長したことよる介護期間の長期化などが、負担増の原因と考えられます。

このような社会現象に照らして、従来家族のものであった介護を社会全体で担うために、介護保険法の制定、施行、度重なる改正が行われていますが、なお社会的介護力は質的にも量的にも介護者および被介護者の生活の質(QOL)を維持するためには十分とはいえません。

特に在宅介護においては、どうしても家族に負担がかかり、介護うつや慢性疲労など介護者の心身への負担が問題視されています。介護力の不足から介護従事者が心理的に追い詰められることが誘因となる高齢者虐待の事例が頻発したことから、2006年には介護支援法として高齢者虐待防止法が制定されましたが、高齢者を保護する目的にはかなっても、介護者のストレス緩和には役に立っていないのが実情です。

働く女性にとっては、育児とともに、高齢化した両親、あるいは配偶者の介護が大きな問題となっています。総務省が2007年に実施した就業構造基本調査では介護を理由に離職した介護離職者は年間14万4800人と前年から4万人増の過去最高となり、このうち女性の離職者は全体の82・3パーセントを占めています。もちろん男性の介護離職者も9年前との比較では2倍近くに増え、男女ともに介護が就業世代に大きな影響を与えていることは確かですが、女性に介護離職者が多いことは、女性が介護を担うものという従来の家族観が働く女性の動向に大きく関与していると推定されています。

育児離職とは異なり、介護離職の場合には、「離職期間がどのくらい続くかわからない」ことや「再雇用時の年齢が高い」など、介護を終えてからの再就職には不利な条件が多くあります。

現在の介護保険制度は介護者の負担減および在宅療養支援のため数々のサービスが利用可能ではありますが、介護支援の必要度や種類は介護者の年齢、経済的状況、ケアに対する意欲、介護者以外の援助者の存在、介護従事者の性格、家族関係など多様な因子によりさまざまです。

例えば、プライバシー重視の考え方が強い介護者は本人の肉体的、時間的介護負担が大きくても訪問ヘルパー制度を利用せず、家族のみでの介護を希望するケースや、被介護者本人が強く家族介護を希望し、援助制度を利用しないケースもあり、プライバシー維持と介護負担を天秤(てんびん)にかけるといったストレスを強いられています。

あるいは、介護度が高くても定期的に介護を代行する援助者がいる場合や、被介護者からのねぎらいの言葉、24時間の医療支援システムなどにより、良好なストレスマネジメントが確保できるというケースもあります。

逆に、介護者がもともと依存度が高く、家族の病態を受容できず介護不安が増強するケースや、介護者が過剰な責任感のためにパニックや不安に陥るケースなどもあり、被介護者の性格も介護者のストレスマネジメントの重要な因子と考えられます。

介護うつの自己治療と医師による治療

一人で介護を抱え込んで疲弊し、精神的に孤立した時に、うつ病に陥りやすくなります。よく眠れない、どうしても元気が出ない、御飯が食べられない、落ち込んだ気分が続く、死や自殺について考えることがある、といった症状が出ていると要注意です。早めに精神科や神経科の医師に相談するなど、メンタルケアにも気を配りましょう。

介護うつも通常のうつ病も、基本的には同じ性格傾向であったり、同じ素因があったり、ストレスでなるものです。しかし、介護うつの場合は理由がはっきりしているわけですから、ある程度医師による治療の余地は増えるのではないかと思われます。

予防のためには、介護のみではなく、自分の時間を作る、愚痴をいったり、相談できる環境を作るなど、セルフケアを心掛けることが重要です。

現在の制度では在宅介護のすべてを介護保険の範囲で賄うことは困難ですが、経済的な事情が許す限り民間のサービスなども併用して、自分の負担を減らすことも考えましょう。介護の大変さは経験した人にしかわからないものです。周囲の目など気にすることはありません。

一人で抱え込まないために、友人や知人に相談してみるのもよいと思われますが、介護経験のない人に相談しても、相談される人も困ってしまうというのが実情でしょう。周りに介護経験者がいない場合は、市区町村で行っている介護者の交流会に出て、同じ悩みを持つ人達と情報交換するのもいいと思われます。もっと大勢の意見を聞きたい場合には、インターネットの利用も有効です。最近は悩みを相談できる掲示板やコミュニティサイトも増えているので、うまく活用して悩みをため込まないようにするとよいでしょう。

同時に、バランスのよい食事を取る、十分な睡眠を取る、軽い運動などを心掛ける、定期的に健康診断を受けるなど、自らの体をケアすることも介護の一部と考えて下さい。根を詰めすぎるのではなく、ちょっといい加減なぐらいが、ちょうどよい。そんな気持ちで、無理のない介護を実践していきましょう。

🇵🇰外痔核

肛門周囲の静脈が膨らんで、直腸と肛門を隔てる歯状線よりも外側にこぶができる痔疾

外痔核(がいじかく)とは、直腸と肛門(こうもん)を隔てる歯状線(しじょうせん)よりも外側にできる痔核。痔核は、肛門周囲の静脈が膨らんで、いぼ状のこぶになったものです。一般には、いぼ痔と呼ばれます。

痔核には、歯状線を境にして、外側の肛門部にできる外痔核と、内側の直腸にできる内痔核とがあります。内痔核は、肛門の内側にいぼがあるため、普通の状態では見ることも触ることもできません。外痔核は、外からいぼが見え、自分で触ることができます。

痔核の原因はさまざま考えられますが、直腸や肛門付近の静脈がうっ血したために、静脈が膨らんで、いぼ状のこぶができることが大きな原因です。

外痔核は、排便時の強い息みで突然、出現します。また、内痔核を長期間患っていたり、内痔核の再発を繰り返している場合に、外痔核の症状として現れることもあります。

外痔核の周囲には、多数の神経が集まっているので、激しく痛みます。排便時だけでなく通常時でも激しい痛みを伴うことが多いものの、出血を伴うことはあまりありません。

この外痔核がある時に、下痢のために頻繁に排便したり、便秘のために力んで便を出したりすると、静脈叢(そう)のうっ血が急にひどくなり、よどんでいる血液の中に血液の固まりである血栓ができ、強い痛みを伴った青黒いはれ物となります。一種の血豆のようなもので、これを血栓性外痔核といいます。

血栓性外痔核は、2~3日で痛みのピークとなります。しかし、血栓性外痔核が小さなうちは、軟こうや座薬などを使用するだけで、血栓はすぐに溶けてきます。溶け始めると、完全に詰まっていた血管が流れ出します。そうすると、はれもひいてきて、痛みも次第に少なくなってきます。はれがひくのに1カ月くらいかかりますが、完全に治ります。

しかしながら、肛門に負担をかけるようなことをしていると、何度でも血栓性外痔核になります。どこに血栓ができるかによってはれる個所が決まりますので、いつも同じところがはれるとは限らず、はれる個所はその時々によって違います。

この血栓性外痔核は、肛門に一時的に急激に負担がかかった時にできます。多い原因としては、便秘、下痢のほか、冷え、飲酒が挙げられます

血栓性外痔核が大きくなってしまうと、痔核を保護している皮膚が圧迫されて潰瘍(かいよう)ができ、出血を起こしますし、血栓が吸収されても皮膚の盛り上がりは残って、皮垂(ひすい)というこぶのような高まりが肛門の入り口にできます。

痔の場合、どんなに不快な症状があっても医療機関へ行かず、自己療法で我慢している人が少なくありません。「恥ずかしいから」、「命にかかわる疾患ではないから」、「手術はしたくないから」などの理由で受診が遅れるのが一般的ですが、ほとんどの外痔核は早く治療を始めれば、手術しないで治すことができます。

1カ月以上たってもはれがひかない、あるいはどんどんはれてくる、排便時に痛みや出血があるといった気になる症状があれば、自己判断せずに、肛門科を受診するのがよいでしょう。

外痔核の検査と診断と治療

肛門科の医師による診断では、肛門を診察し、内痔核、脱肛、直腸脱、肛門周囲膿瘍(のうよう)、肛門がんなど大腸肛門病の有無を検査し、外痔核との鑑別を行います。

肛門科の医師による治療では、外痔核が小さなもので、ほとんど痛みもなく肛門周囲のこぶだけが症状の場合は、座薬や軟こうを処方します。日常生活に注意をして、自身で座薬や軟こうを塗っていれば、徐々にはれが引いていきます。手術はまず必要ありません。

血栓が大きくて痛みが強い場合、薬を3~4週間使っても治らない場合、何回も同じところがはれる場合、表面が破れて多量の出血が起こっている場合には、痛みを除き皮膚の変形を防止するためにも、局所麻酔で血痔核の部分を舟型に切開し、血栓を摘出(てきしゅつ)する結紮(けっさつ)切除法という簡単な処置を行います。この血栓切除は、外来で3分くらいでできます。

血栓を切除すれば、すぐに痛みが消失します。切除後1週間くらいは無理せず、運動や旅行などを控える必要があります。血栓を切除した後は1~2週間ほど、傷口から少しずつ出血が続くことがありますが、血栓が吸収されてなくなれば、自然にしぼんで消えてなくなります。

こぶが非常に大きく、痛みが非常に強く、また内痔核も同時にある重症の時は、手術が必要です。内痔核結紮切除法を組み合わせて、外痔核も取ります。大きな外痔核が吸収されるのは時間がかかりますし、局所麻酔で血栓だけ取る方法では術後に肛門周囲に皮垂ができ、外痔核は治っても肛門周囲が不潔になりやすく、余病を招く恐れがあるからです。

また、外痔核に限らず痔核は肛門周辺の静脈の流れが悪くなり、うっ血していることが大きな原因ですので、肛門周辺を温めることも効果的になってきます。ただし、外痔核がすでに化膿(かのう)している場合には、温めすぎるとかえって逆効果になることもありますので、注意が必要です。

どのような痔も、当人の生活習慣が大きな原因となっていますから、日常生活でのセルフケアで悪化させない生活習慣が大切。引き起こす原因となるのは、便秘、肉体疲労、ストレス、冷え、飲酒、喫煙といった生活習慣です。

中でも、便秘は最大要因となります。便秘に際して、硬い便を息んで排便すると、外痔核を招くもとになります。便意がなければトイレは3分で切り上げるのも、心掛けたい習慣です。便秘を解消し、軟らかい便が出るように食物繊維を多く取り、辛い刺激物の摂取を控えるなど、食事を見直すことも大切。

また、肉体疲労は筋肉に疲労物質をため、免疫力を低下させますので、肛門に炎症が起こりやすくなります。ストレスも、免疫力を低下させるとともに自律神経を乱し、便通の異常を生じる原因になります。休養と睡眠を十分に確保し、映画やスポーツ、散歩、旅行など自分に合った趣味を楽しむことで、リラックスを図るようにします。

さらに最近では、夏の冷房で体が冷えすぎて、痔になる人が増えています。体が冷えた場合、肛門括約筋が緊張したり、末梢(まっしょう)血管が収縮して、血液の循環が悪くなるために、痔を誘発することになります。特に電車の中やデパート、スーパーマーケットなどは夏の冷房が効いているので、カーディガンを羽織るなどして体を冷やさない工夫をします。入浴や座浴で、肛門周辺の血液の流れをよくするのも効果的。

過度の飲酒も、アルコールが血管を拡張しますので、肛門の炎症や便通の乱れにつながります。酒を断つ必要はありませんが、ほろ酔い程度の適量を心掛けます。たばこはやめるようにします。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...