2022/08/14

🇭🇳肛門周囲膿瘍

肛門腺に炎症が及んで、肛門の回りに膿がたまる疾患

肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)とは、肛門の回りに膿(うみ)がたまる痔疾。肛門がはれて痛みを生じ、発熱します。

肛門上皮の出口である肛門縁から約2センチ奥にあって、肛門上皮と直腸粘膜の境界部分に相当する歯状線のくぼみ部分、すなわち肛門小窩(しょうか)が深い人に、軟らかすぎる下痢便などで傷が付くと、大腸菌などの細菌が入り、肛門腺(せん)に炎症が及んで、そこに発生する細菌感染で膿を作ります。この膿が直腸の周囲から肛門周囲の組織の間を潜って広がり、いろいろな場所にたまることになります。

この膿の集まりである膿瘍が、運よく皮膚に近くて、皮膚を破って外に出たり、または一時的に小切開手術が行われると、慢性の瘻孔(ろうこう)として残ります。この慢性瘻孔があな痔(痔瘻)です。

一方、膿の集まりである膿瘍が、組織の間の奥深い場所にあると、皮膚に通じる出口がないため、大きな深部膿瘍を作ったり、そこからいくつも瘻孔の枝道を作って皮膚を破ったり、さらに直腸へ破れたり、肛門周囲の皮膚に破れて、いろいろと複雑化します。

肛門周囲膿瘍には、膿瘍がたまる場所によりいろいろな型があり、粘膜下や皮下にたまるもの、内外肛門括約筋の間にたまるもの、外肛門括約筋の外側の座骨直腸窩にたまるもの、骨盤直腸窩にたまるものがあります。

肛門周囲膿瘍の症状としては、肛門周囲の一部に、しこり、焼けるような感じ、はれ、痛み、寒け、発熱、吐き気などがあります。出血することはまれなものの、時に血膿が出ます。一晩で急速にひどくなる場合もあります。

膿瘍が深部にある場合は、初めははっきりした症状がなかったり、熱と肛門の奥の違和感だけがあったりしますが、次第に症状が出てきます。進行すれば、排便や歩行が困難となります。

連日アルコールを飲む、暴飲暴食、それに伴う睡眠不足などで無理が続くと、肛門周囲膿瘍が起こりやすくなります。

肛門周囲膿瘍の検査と診断と治療

ほとんどの肛門周囲膿瘍は、切開して膿を出さないと治りません。できるだけ早期に小切開を行って膿を排出させて、周囲への炎症の波及を防止し、同時に抗生物質や鎮痛剤を用います。急性炎症がとれてから、二次的に根治的な切開をします。

膿瘍を小切開後も膿が出続けると、慢性の瘻孔、すなわちあな痔(痔瘻)となりますので、その後にあな痔になることも考えて、医師の側は適切な切開をすることが重要となります。

特に、座骨直腸窩膿瘍は肛門周囲の左右に深く広がることが多いので、腰椎(ようつい)麻酔の一種であるサドルブロック麻酔を行った上で大きめに切開し、軟らかい管を入れて、膿を排出します。局所麻酔で中途半端な切開をすると、あな痔になる可能性がさらに高くなります。あな痔に進展した場合は入院の上、根治手術をする必要があります。

日常生活では、下痢や便秘をしないように、ふだんから注意します。体力が落ちて、体の免疫力が落ちた時にかかりやすいので、適度の運動と規則正しい食事、睡眠も必要です。アルコールや香辛料は控えめにします。

🇭🇳肛門神経症

肛門には病変がないのに、肛門に対して思い悩む疾患

肛門(こうもん)神経症とは、いかなる検査をしても肛門には何も病変がないのに、肛門に対して異常な感覚や関心を持ち、思い悩み、精神的に不安定な状態になる疾患。自己臭妄想症とも呼ばれます。

清潔志向の強い20〜30歳代の若い世代に多く、性別は問いません。原因ははっきりしません。神経症的素質のある人が、他人に肉体的なことで嫌なことをいわれたことが切っ掛けになって、発症することがあります。

症状としては、肛門から大便の臭いがする、自分の肛門の臭いが他人を不快にさせている、肛門に締まりがない感じがしてガスや便が漏れる気がする、肛門に不潔感を抱いて何度ふいても気がすまぬ、などと思い悩んでいます。重症になると、外出もできなくなり社会生活に支障を来します。

肛門神経症の検査と診断と治療

基本的に肛門神経症の治療を行う科は心療内科、神経内科になりますが、まず器質的疾患がないかどうかを確認するために肛門科を受診します。ただし、肛門科をもうけている医療機関は少ないため、消化器外科、外科を受診してもよいでしょう。

医師は肛門の診察や胃腸の精密検査をして、本当に悪い部位がないかを調べます。しかし、まず病変は見付かりません。

肛門科などの医師は、心療内科、神経内科、精神科を紹介して、カウンセリングを受けるように勧めます。

心療内科などの医師による治療では、心身の衛生を心掛け、便通を整え、バランスのよい食事と睡眠を十分に取ることが基本となります。腹部ガスの発生を抑えるような消化管機能改善剤を始め、ベンゾジアゼピン系などの抗不安剤、フルボキサンに代表されるSSRIなどの抗うつ剤などで反応をみます。ベンゾジアゼピン系の抗不安剤は長期間服用した場合、精神的依存や眠気などの副作用があります。

治療には、周囲の共感的理解も必要となります。

🇭🇳肛門掻痒症

肛門周辺に強いかゆみが出てくる疾患の総称

肛門瘙痒(こうもんそうよう)症 とは、肛門周辺を中心に強いかゆみが出てくる疾患の総称。原因がわからない特発性肛門掻痒症と、何らかの原因が存在する続発性肛門掻痒症とがあります。

続発性肛門掻痒症の原因には、まず排便によって分泌された粘液が挙げられ、粘液によって肛門周辺の皮膚に炎症が起こり、強いかゆみが起きます。痔核(じかく)、痔瘻(じろう)、裂肛、肛門ポリープ、直腸脱などの疾患、下痢や便秘などによっても、肛門周辺の皮膚に炎症が起こり、かゆみが起こります。

そのほか、最近では少なくなった蟯虫(ぎょうちゅう)などの寄生虫の影響、女性では膣(ちつ)炎の影響、薬品によるかぶれの影響、糖尿病や肝硬変、まれに肛門に発生した皮膚がんで、かゆみが起こることもあります。 精神的な問題が原因となることもあります。

かゆみが強い場合は、かくことでさらに炎症が強くなり、雑菌や真菌(かび)、カンジダ菌、糸状菌などの細菌などの感染により症状が悪化します。

最近では、排便後にトイレットペーパーで強くふきすぎたり、温水トイレの使用で肛門の奥まで洗いすぎたり、入浴時に石けんで肛門を洗いすぎたりすることで発生するケースも増えています。洗いすぎるなどの行為で、皮膚は乾燥し、かゆみはさらにひどくなります。

初期のころは入浴後から就寝後、体が温まるとかゆみが増強するケースが多いのですが、 ひどくなると寝ている間に無意識にかくようになったり、 夜だけではなく一日中かゆみを感じるようになります。急性期では、肛門周囲のただれ、発赤やはれが強く、べとべとして出血することもあります。慢性期では、皮膚が厚く硬くなり、色素沈着で黒ずんできます。

肛門掻痒症の検査と診断と治療

1カ月以上たっても肛門周辺の炎症、かゆみが治まらなかったり、 症状が悪化するようでしたら一度、肛門科の専門医か皮膚科の専門医を受診します。

医師はまず肛門を診察し、痔核、痔瘻、裂肛、肛門ポリープ、直腸脱、過敏性腸症候群など、大腸肛門病の有無を検査します。真菌類の検索は治療法の選択の上で重要なため、肛門部から分泌物を取って培養します。女性の場合、腟から肛門にかけて垂れたようにただれている時は腟炎が考えられます。幼児、学童では蟯虫症を疑い、セロファンテープ法で検査します。

治療においては、局所の病変と原因となる疾患を同時に治療します。局所の病変に対しては、肛門周辺を清潔に保ち、ステロイド軟こう、抗真菌薬軟こう、抗生剤入り軟こう、抗ヒスタミン軟こう、亜鉛華軟こうなどの塗布と内服薬を用います。

原因となる痔核、痔瘻、裂肛、肛門ポリープ、直腸脱、過敏性腸症候群などに対しては、薬物療法や手術療法で治療します。

日常生活では、香辛料やコーヒー、アルコールなどの刺激物を避けて、安静を保ち、睡眠を十分にとります。肛門部の清潔保持は重要ですが、排便後の過度な肛門洗浄、石けんの使用は控えます。炎症が起きている時は、消毒薬、薬局で売っている肛門のスプレー、 ウエットティッシュなどの使用も一切控えます。

🇲🇽肛門粘膜脱

肛門管の上皮や直腸の下部粘膜が、肛門外に脱出する疾患

肛門(こうもん)粘膜脱とは、肛門管の上皮や直腸の下部粘膜が肛門外に脱出する疾患。脱肛ともいいます。

肛門粘膜脱を生じる原因には、さまざまなものがあります。最も多いのは、直腸の一番下にいぼ状のこぶができる内痔核(ないじかく)の程度が進んで、肛門外に脱出するようになるものです。加齢で肛門括約筋が弱くなり、肛門や直腸粘膜を支えている組織も弱くなって、粘膜が脱出することもあります。また、肛門の手術を受けた後遺症や、出産による肛門括約筋の機能不全で、脱出することもあります。

肛門粘膜脱の症状としては、粘膜が肛門外に脱出することで粘膜部分が刺激を受け、分泌液が増加します。下着が汚れたり、肛門周囲に粘膜の分泌液が付着することで湿疹(しっしん)が生じ、かゆくなったり、ジメジメとべと付いたりします。また、粘膜部分は弱いので肛門外に脱出すると、こすられて傷付き、そのために出血や痛みがみられます。

内痔核の脱出による肛門粘膜脱では、時に、脱出部が肛門の括約筋で締められて、静脈に血栓を形成し、はれ上がって元に戻らなくなる嵌頓(かんとん)痔核という状態になります。

嵌頓痔核は激しく強い痛みを伴うことが特徴で、放っておくと、さらにはれが大きくなり、痛みもさらに強まります。嵌頓部分からは、出血したり分泌液が出て下着を汚すようになります。脱出部を押し込もうとして、かえって刺激し症状を悪化させてしまうこともあります。はれがひどくなると、歩行も正座も困難となります。

入浴したり、温湿布で温めると、はれがひきますし、放置しても2週間程度で痛みはひきます。

しかし、血栓が肛門周囲にたまって、はれてくる血栓性外痔核を合併している場合は、肛門の入り口の変形がひどくなり、肛門の出口の伸展が悪くなって裂肛の原因にもなりますので、肛門科の医師を受診し治療を受けたほうがよいでしょう。

痛いからといって便を出さないようにすると、余計に痛みが強くなりますので、可能な限り便は普段と同じように出してしまうのがよいでしょう。

加齢による直腸粘膜の肛門粘膜脱の場合は、小児や若い成人でもみられますが、ほとんどが高齢で出産経験のある女性に起こります。

直腸を骨盤に固定している筋肉や靭帯(じんたい)が生まれ付き弱かったり、年を取って緩んできたため、直腸の下部粘膜や筋層が肛門の外に脱出するために起こります。そのほか、肛門括約筋が弱い、腹腔(ふくくう)内の直腸子宮間のポケットが深い、直腸が短いなども原因となり得ます。直腸のポリープや内痔核の肛門粘膜脱など、肛門から脱出する疾患を放置することも原因の一つです。

初期には肛門から3センチ程度の直腸粘膜のみの脱出が起こり、ひどい場合には10~20センチもの長さの直腸全層がひっくり返って飛び出すこともあります。初期には排便時の脱出のみにとどまりまるものの、進行すると歩行時にも脱出が認められ、肛門括約筋の障害、女性では子宮脱を伴うこともあります。直腸を手で押し込まないといつまでも肛門のはれや痛みが続き、下着に触れて出血するようになります。便秘や排便障害も起こります。

小児にみられる直腸粘膜の肛門粘膜脱の場合は、成長するにつれて自然と治ることが多いので、息まないようにします。原因は、便秘による硬い便です。

肛門粘膜脱に気付いたら、肛門の周囲の衛生に留意します。入浴時や排便後は、温湯で肛門周囲を十分に洗い、洗った後は乾燥させておくようにして、清潔に保つように努力します。通気性のよい下着を身に着けるようにし、刺激物の摂取、アルコールなどは控えます。意識的に括約筋を締める運動をして肛門の締まりをよくすることも、粘膜の脱出の防止に効果的なことがあります。

以上の注意をしていても粘膜の脱出による湿疹、出血、痛みがひどくなるようならば、座薬、軟こうなどを使い、肛門周囲の粘膜脱による炎症を抑えるようにします。それでもよくならなければ、肛門科の専門医を受診し、外来処置、手術などを受けることが勧められます。

肛門粘膜脱の検査と診断と治療

肛門科の医師による内痔核の肛門粘膜脱の診断では、肛門部に指を挿入して触れる直腸肛門指診と、肉眼で観察する視診を行います。内痔核は通常指診では触れることが難しいので、肛門鏡を使用して直接観察することでより正確に診断できます。

肛門科の医師による直腸粘膜の肛門粘膜脱の診断は、脱出している直腸粘膜を確認することで行われ、脱出していない場合は腹圧をかけて脱出させます。詳しくは、原因になる脆弱(ぜいじゃく)な骨盤底と直腸の固定の異常の有無を調べるために、肛門内圧検査や排便造影検査が必要になります。それにより治療法が決定されます。鑑別診断としては、直腸がんの有無が重要で、内視鏡検査が必要になります。

肛門科の医師による内痔核の肛門粘膜脱の治療では、まず保存的療法を行い、肛門部を温めたり、きれいにしながら座薬、軟こうを使い、抗炎症薬、消炎酵素薬、消炎鎮痛薬を内服します。普通は保存的療法によって1週間以内に痛みはとれ、嵌頓痔核の嵌頓部も1カ月以内に元に戻ります。

ただし、脱出するようになった痔核は治るわけではないので、嵌頓状態のままで手術をすることもあります。普通は保存的に治療し、嵌頓部を戻るようにさせてから手術を行うかどうかを検討します。

血栓が大きくて痛みが強い場合、薬を使っても治らない場合、何回も同じところがはれる場合、表面が破れて多量の出血が起こっている場合には、痛みを除き皮膚の変形を防止するためにも、局所麻酔で嵌頓痔核の部分を舟型に切開し、血栓を摘出(てきしゅつ)する結紮(けっさつ)切除法という簡単な処置を行います。この血栓切除は、外来で3分くらいでできます。

血栓を切除すれば、すぐに痛みが消失します。切除後1週間くらいは無理せず、運動や旅行などを控える必要があります。血栓を切除した後は1~2週間ほど、傷口から少しずつ出血が続くことがありますが、血栓が吸収されてなくなれば、自然にしぼんで消えてなくなります。

こぶが非常に大きく、痛みが非常に強い時は、手術が必要です。内痔核結紮切除法を組み合わせて、嵌頓痔核を取ります。大きな痔核が吸収されるのは時間がかかりますし、局所麻酔で血栓だけ取る方法では術後に肛門周囲に皮垂(ひすい)ができ、痔核は治っても肛門周囲が不潔になりやすく、余病を招く恐れがあるからです。

治療後も、再発の可能性は残っています。治ったと安心しすぎて無理をしたり、生活習慣が乱れて便通がコントロールできなくなったりすると、再発の可能性は高まります。便秘や下痢をしないような日常生活の習慣や食事に気を付けることが、大切です。

さらに、入浴を十分に行い、温めることが、痛みを取り、早く治すのに大切です。入浴時だけでなく、簡易カイロのようなものを下着の上から当てて温めるのも効果的です。

肛門部をきれいにしておくことも必要で、入浴の際だけでなく、排便後も肛門を紙でふくだけでなく温湯できれいに洗うようにします。 肛門部に負担をかけないよう、力仕事、スポーツ、長時間のドライブは控え、アルコール、刺激物なども控えます。

肛門科の医師による小児の直腸粘膜の肛門粘膜脱の治療では、なるべく手術せずに処置されます。緩下剤を用いて便秘を予防し、排便の時に息むことをやめさせることにより、症状は自然と治ってきます。

青壮年の直腸粘膜の肛門粘膜脱では、仕事やスポーツで腹部に力が入ることが多いので、外科的治療法が最もよいとされています。開腹手術によって、直腸をおなかの中に引き上げて、しっかり固定します。いろいろな方法がありますが、どれも約90パーセントは有効です。

高齢者の直腸粘膜の肛門粘膜脱、または軽い直腸粘膜の肛門粘膜脱では、肛門から直腸をナイロン糸で縫い縮めるか、薬を注入固定する方法が行われています。縫い縮める手術は比較的容易で、麻酔法の工夫で日帰りや一泊入院での対応も可能です。ただし、手術後の安静と排便のコントロールは重要です。

🇲🇽肛門皮垂

肛門の周囲にできる皮膚のたるみ、しわ

肛門皮垂(こうもんひすい)とは、肛門の周囲にできる皮膚のたるみ、しわのこと。皮垂、肛門スキンタッグとも呼ばれます。

多くは、進行した内痔核(ないじかく)が脱出した際に、脱出部が肛門の括約筋で締められて血栓を形成し、はれ上がって元に戻らなくなった嵌頓(かんとん)痔核や、血栓が肛門の周囲にたまって、はれてくる血栓性外痔核、さらに肛門部の皮膚が切れたり裂けたりした外傷で、ひりひりとした強い痛みがある裂肛(切れ痔)、あるいは肛門周囲の湿疹(しっしん)などにより、一時的に肛門部がはれ、その後、はれが委縮した後に、余った皮がたるみ、しわとなって残ったものです。

中でも肛門前方にできる肛門皮垂は女性に特有で、出産の時に肛門がうっ血してできたり、裂肛が長期間存在した時にできます。

皮垂は皮膚の突起ですから、症状がなければ特に気にすることはありません。しかし、裂肛や肛門周囲の湿疹などに併発することが多いため、肛門部の違和感やべとつき、かゆみなどの症状を生じることもあります。徐々に大きくなるので本人は気が付かないのですが、大きくはれたり、便秘でむくむと痛みを伴います。

肛門皮垂があるために排便後、肛門をきれいにふき切れないことで頻回にふいて、痛みやかゆみを生じることもあります。そのようなことを繰り返している結果として、皮膚の突起はますます大きくなります。

さらに、肛門皮垂があるために排便時に肛門が外方に引き寄せられ、裂肛が慢性化してさらに皮垂が増大し、肛門ポリープが発生することもあります。

肛門皮垂の検査と診断と治療

肛門科の医師による診断では、肛門を診察し、嵌頓痔核、血栓性外痔核、裂肛、肛門周囲の湿疹など併存している病変の有無を調べます。

肛門科の医師による治療では、肛門の周囲の皮膚の清潔を保ち、便通を整え、併存している病変の保存的治療を行うことにより、多くは症状が改善します。炎症性に肥大している場合は、皮膚の突起を少なくするために、炎症を抑えるための座薬、軟こうなどの外用薬や、内服薬を使用します。

しかし、肛門皮垂は消失しません。保存的治療でも症状が消失しない場合や、 本人が肛門皮垂を完全になくしたいと望む場合には、排便の時に毎日使う肛門の機能を損なわないように配慮しつつ、肛門皮垂を局所麻酔下で切除します。

内痔核を伴う肛門皮垂は根治性からも、通常の内外痔核の根治術同様、結紮(けっさつ)切除術などを併用して、肛門皮垂の症状を強めていると考えられる脱出性の痔核も治療します。結紮切除術は、痔核につながる皮膚を剥離(はくり)して痔核を露出させ、根元を縛った上で切除する方法です。切除した後の傷口は、一般的には半分だけ縫い合わせて閉鎖します。手術で使用する糸は、術後3~6週間ほどで自然に溶けるので、抜糸の必要がありません。

肛門皮垂を大きくしないためには、肛門部を清潔にすることが大切です。排便後は、紙でふくだけでなく、お湯で洗い、よく乾燥させておくようにします。温水によって肛門を洗浄する機能を持った温水洗浄便座を使用すれば、簡便にできます。

せっけんけで洗う時は注意が必要で、せっけん成分が残るとかえって刺激し、かゆみを増強します。刺激の少ないせっけんで洗った後、十分に洗い流しておくようにします。

🇲🇽絞扼性神経障害

末梢神経が周りの組織に圧迫されて異常を生じ、しびれや痛みなどの神経障害を招く疾患

絞扼(こうやく)性神経障害とは、脳や脊髄(せきずい)から分かれた後の、体中に分布する末梢(まっしょう)神経が、手足に至る部位で周りの組織に絞扼、すなわち圧迫されて異常を生じ、しびれや痛み、筋力低下などの神経障害を招く疾患。機械的神経障害、あるいは捕捉(ほそく)性ニューロパチーとも呼ばれます。

絞扼性神経障害は普通、1本の神経にだけに起こる単神経炎の形をとり、上肢では正中(せいちゅう)神経まひ、尺骨(しゃくこつ)神経まひ、橈骨(とうこつ)神経まひ、下肢では腓骨(ひこつ)神経まひがよく起こります。

手にとって最も重要な神経が障害を受け、しびれや痛み、運動障害を起こす正中神経まひ

正中神経まひは、手にとって最も重要な神経である正中神経が障害を受け、しびれや痛み、運動障害を起こす疾患。その傷害は、鋭敏な感覚と巧緻(こうち)性を要求される手にとって致命的なダメージになります。

正中神経は、親指から薬指の親指側2分の1までの手のひら側の感覚を支配し、前腕部では前腕を内側にひねるように回す運動である回内や、手首の屈曲、手指の屈曲を支配しています。さらに、手部では親指の付け根の母指球筋という筋肉などを支配していて、親指を手の平と垂直に立てる運動である外転、親指と小指をつける運動である母指対立などを支配しています。

正中神経の傷害がどこで生じているかによって、正中神経まひの症状は異なります。

正中神経は手首部にある手根管という狭いトンネルを通り抜ける構造になっており、周囲三方向を手根骨の壁、残りの一方は強靭(きょうじん)な横手根靱帯(じんたい)によって囲まれています。そのため、この部分で正中神経が圧迫されやすい構造になっており、容易に正中神経が損われて正中神経まひを起こします。これを手根管症候群といいます。

手根管症候群の初期には人差し指、中指がしびれ、痛みが出ますが、最終的には親指から薬指にかけての親指側にしびれ、痛みが出ます。

このしびれ、痛みは明け方に強く、目を覚ますと指がしびれ、痛みます。ひどい時は夜間の睡眠中に、痛みやしびれで目が覚めます。この際に手を振ったり、指を曲げ伸ばしすると、楽になります。手のこわばり感もあります。

進行すると親指の付け根の母指球筋がやせてきて、親指と人差し指できれいな丸(OKサイン)ができなくなります。細かい作業が困難になり、縫い物がしづらくなったり、細かい物がつまめなくなります。

手根管症候群は原因が見いだせない特発性というものが多く、原因不明とされています。妊娠期や出産期、更年期の女性に多く生じるのが特徴で、骨折や脱臼(だっきゅう)などのけが、仕事やスポーツでの手の使いすぎ、腎不全のために人工透析をしている人などにも生じます。腫瘍(しゅよう)や腫瘤(しゅりゅう)などの出来物でも、生じることがあります。

妊産婦と中年の女性にはっきりした原因もなく発症する特発性の手根管症候群は、女性のホルモンの乱れによって、正中神経とともに手根管を通っている滑膜性の腱鞘(けんしょう)がむくむのが誘因と考えられ、手根管の内圧が上がり、圧迫に弱い正中神経が偏平化して症状を示すと見なされています。けがによるむくみや、手の使いすぎによる腱鞘炎などでも、同様に正中神経が圧迫されて症状を示すと見なされています。

前腕から手首までの間の正中神経の傷害では、手根管症候群と同様に、親指から薬指にかけての親指側のしびれと痛み、親指の付け根の母指球筋の障害を示します。肘(ひじ)より上のレベルの外傷による正中神経の傷害では、まひの程度はさまざまです。

指にしびれ、痛みがあり、朝起きた時にひどかったり、夜間睡眠中に目が覚めるようなら、整形外科、ないし神経内科を受診することが勧められます。

肘の皮膚の表面近くを通る尺骨神経が損傷して、手指のしびれや感覚障害、運動障害が起こる尺骨神経まひ

尺骨神経まひは、肘の皮膚の表面近くを通る尺骨神経が損傷して、まひを生じ、手指のしびれや感覚障害、運動障害が起こる疾患。

尺骨神経の働きは、手首の屈曲、小指と薬指の屈曲、親指を人差し指の根元にピッタリつける内転、親指以外の4本の指を外に開く外転、4本の指を互いにくっつける内転です。 知覚神経は、小指、薬指の小指側半分、手のひらの小指側半分を支配します。

尺骨神経には2カ所、圧迫を受けやすい部位があります。最も多いのは肘関節部で、机の上で肘をついていて手がビリビリした経験は多くの人が持っているはずですが、その部位を長時間に渡って圧迫したり、無理に肘を曲げる姿勢をとることで症状が現れ、肘部管(ちゅうぶかん)症候群と呼ばれます。

リウマチや肘の骨折、腫瘍、腫瘤などで肘関節に変形のある場合には、特に誘因がなくても圧迫症状が起こり得ます。

次に多い圧迫部位は小指側の手のひらで、長距離自転車選手、繰り返す腕立て伏せ、タイル張りなど長時間の床仕事などで、手のひらを圧迫することにより症状が現れ、ギヨン管症候群(尺骨神経管症候群)と呼ばれます。

尺骨神経が侵されると、親指の付け根の母指球筋以外の手内筋がまひし、細かい動きがうまくできない巧緻運動障害が生じます。また、小指と薬指が伸びにくくなったり、親指以外の4本の指での内外転と、親指の内転ができなくなります。

日常生活で気付くことには、小指の内転困難によってポケットに手を入れようとすると小指が引っ掛かってしまうこと、親指の内転困難によって親指と人差し指で新聞紙などを挟む力が弱くなることなどがあります。また、小指と薬指にしびれや感覚障害を起こします。

重症で慢性の尺骨神経まひでは、親指の付け根の母指球筋以外の手内筋の筋委縮が生じ、筋肉が固まって指が曲がったままになる鉤(かぎ)爪変形(鷲手〔わして〕変形)と呼ばれる現象が起こります。

腕に走る橈骨神経が圧迫されて、腕がしびれたり、動かなくなる橈骨神経まひ

橈骨神経まひは、腕の骨を巻くように、鎖骨の下から手首、手指まで走っている神経が、外から圧迫されることで起こる障害。腕がしびれたり、手首や手指が動かなくなったりします。

橈骨神経は腕に走る大きな神経の1つで、主に肘関節を伸ばしたり縮めたり、手首や手指を伸ばしたりするなどの動きを支配している神経です。感覚領域は手の背部で、親指、人差し指とそれらの間の水かき部を支配しています。

腕に走る大きな神経はほかに、正中神経、尺骨神経がありますが、橈骨神経は障害を受けやすく、腕の神経まひのほとんどを占めます。

この橈骨神経は鎖骨の下からわきの下を通り、上腕の外側に出てきて上腕中央部で上腕骨のすぐ上を走り、肘のあたりで腕の内側を走り、手首の近くでまた表面に出てきます。このようにいろいろな方向に走っていますので、いろいろな部位で圧迫を受ける可能性があります。中でも、橈骨神経が障害されやすい部位は2カ所あります。

1カ所はわきの下での圧迫、もう1カ所は上腕の外側での圧迫です。特に上腕の外側、いわゆる二の腕の部位は、上腕骨に接するように橈骨神経が走行し、筋肉が薄い部位であるために、上腕骨に橈骨神経が圧迫されやすい状況にあり、最も障害を受けやすい部位です。

橈骨神経まひの原因は、大きく分けて2つあります。一番多いのが、腕の橈骨神経を体外から強く圧迫したことで起こる末梢性の神経まひです。

典型的には、前夜から腕枕をして寝ていた、ベンチの背もたれにわきの下を挟むような姿勢を続けていた、電車で座席の横のポールに腕を当てて寝ていた、飛行機で肘掛けに寄り掛かるように寝ていた、浴槽でわきの下を圧迫するようにうたた寝していたなど、わきの下や上腕の外側を強く圧迫するような姿勢を一定時間続けると、気付いた時には腕はしびれ、動かなくなっていたというように発症するケースが多く認められます。飲酒後、寝て起きたら、橈骨神経まひになっていたというケースも多く認められます。

何らかの思い当たる原因があって手が動かなくなったのであれば、まず末梢性のもので一時的な神経まひと考えられます。逆に、全く何の覚えもなく発症した時は、腫瘤などほかの原因から起きている場合もありますので、要注意です。

橈骨神経まひのもう1つの原因は、骨折、脱臼などの外傷による外傷性の神経まひで、外からの圧迫で神経を傷付けたり、骨折した骨が神経を傷付けたりといったケースです。

橈骨神経が上腕の中央部で傷害されると、手首と手指の付け根の関節に力が入らず伸ばしにくくなり、手首と手指がダランと垂れる下垂手になります。親指、人差し指、中指の伸ばす側を含む手の甲から、前腕の親指側の感覚の障害も生じます。

橈骨神経が肘関節の屈側で傷害されると、手首を伸ばすことは可能ですが、手指の付け根の関節を伸ばすことができなくなり、指のみが下がった状態になる下垂指になります。手の甲から前腕の感覚の障害がありません。

橈骨神経が前腕から手首にかけての親指側で傷害を受けると、障害の部位によりいろいろな感覚の障害が起こりますが、下垂手にはなりません。

共通する症状は、グーが握れなくなる、パーに開けなくなる、しびれです。まひの程度が重いほど、パーに開けなくなる症状が顕著です。手首の筋力が著しく弱くなるため、ちょっとした物でも持ち上げられなくなります。また、感覚の鈍さが現れ、親ペンなどをうまく持てず、字もうまく書けません。親指と人差し指の水かき部分のしびれ、腕のだるさや痛み、腕や手のひらのむくみなどがよくみられる症状です。

まひの状態が長く続くと、筋肉の委縮が起こり、腕の筋肉がやせ細ってきます。

手がしびれ、動かなくなった場合のほとんどは、末梢性のもので一時的な神経まひと考えられますが、中には重症の場合があるので、念のために整形外科、ないし神経内科を受診することが勧められます。

自力で足首、足指を上げることができなくなり、感覚の障害、しびれが生じる腓骨神経まひ

腓骨神経まひは、足関節と足指、下腿(かたい)外側に支配領域を持っている腓骨神経がまひし、自力で足首や足指を上げることができなくなる疾患。

腓骨神経は、下腿を走行する神経であり、膝(ひざ、しつ)関節の後方で坐骨(ざこつ)神経から分岐し、膝の外側を通り、腓骨の側面を下降して、足関節を通り足指に達します。

腓骨神経まひの原因として最も多いのは、膝の外側(腓骨頭部)への外部からの圧迫により生じるものです。車に同乗中、交差点で出合い頭の衝突事故が起こり、膝の外側をダッシュボードに打ちつけるといった形での腓骨頭骨折や、その他の膝の外傷、開放創や挫傷(ざしょう)などによって生じます。下肢の牽引(けんいん)などで仰向けに寝た姿勢が続いたり、ギプス固定をしている時に、膝の外側が後ろから圧迫されて生じることもあります。

長時間に渡って足を組む姿勢をとることや、草むしりのような膝を曲げた姿勢をとること、硬い床の上で横向きに寝ることで生じることもあります。関節リウマチによる関節の変形、ガングリオン(結節腫)などの腫瘤、腫瘍によっても生じます。

腓骨神経まひが生じると、足首や足指が下に垂れたままの状態となり、自力で背屈ができなくなります。これを下垂足(垂れ足)といいます。下腿の外側から足背(足の甲)ならびに小指を除いた足指背側にかけて感覚が障害されて、しびれたり、触った感じが鈍くなります。

具体的には、下垂足が明らかでない時でも、障子の敷居で足を引っ掛けたり、スリッパやサンダルが歩いているうちに脱げやすいといった症状がみられることがあります。

下垂足が明らかになると足首と足指が下に垂れた状態となるため、靴下や靴を履く際には、その都度座って片手で足を支えないと、うまく履くことができません。車の運転でも、右足にまひが起こればアクセルやブレーキを踏むことはできません。

重症になると、正座、和式トイレの使用はできず、下腿をしっかり保持できないので、杖(つえ)の使用が常時必要となります。深刻なのは、下腿部の疼痛(とうつう)と筋拘縮(こうしゅく)です。下腿部には常にしびれたような疼痛が持続して、血流障害が発生し、下腿全体の筋肉が拘縮、委縮を示します。放置すれば、下腿は廃用性委縮となり、スカートを身に着けることができなくなります。

絞扼性神経障害の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による正中神経まひの診断では、神経伝導検査と筋電図検査を行うことで、正中神経の障害の程度や正確な障害部位が評価できます。

手根管症候群による正中神経まひの場合は、手首の手のひら側を打腱器などでたたくとしびれ、痛みが指先に響きます。これをティネル様サイン陽性といいます。手首を手のひら側に最大に曲げて保持し、1分間以内にしびれ、痛みが悪化するかどうかをみる誘発テストを行い、症状が悪化する場合はファレンテスト陽性といいます。母指球筋の筋力低下や筋委縮も診ます。

神経伝導検査と筋電図検査を行い、手根管を挟んだ正中神経の伝導速度を測定します。正中神経を電気で刺激してから筋肉が反応するまでの時間が、手根管症候群では長くなります。知覚テスターという機器で感覚を調べると、手根管症候群では感覚が鈍くなっています。腫瘤が疑われるものでは、エコーやMRIなどの検査を行います。

首の病気による神経の圧迫や、糖尿病性神経障害、手指のほかの腱鞘炎との鑑別も行います。

整形外科、神経内科の医師による治療では、消炎鎮痛剤やビタミンB12などの内服薬、塗布薬、運動や仕事の軽減、手首を安静に保つための装具を使用した局所の安静、腱鞘炎を治めるための手根管内腱鞘内へのステロイド剤注射など、保存的療法が行われます。

保存的療法が効かない難治性のものや、母指球筋のやせたもの、骨折や脱臼などの外傷や腫瘤によるものなどは、手術が必要になります。以前は手のひらから前腕にかけての大きな皮膚切開を用いた手術が行われていましたが、現在はその必要性は低く、靭帯を切って手根管を開放し、神経の圧迫を取り除きます。手根管の上を4~5cm切って行う場合と、手根管の入り口と出口付近でそれぞれ1~2cm切って内視鏡を入れて行う場合とがあります。

とりわけ母指球筋のやせたものは、手術を含めた早急な治療が必要となります。母指球筋のやせた状態が長く続くと、手根管を開放する手術だけでは回復せず、腱移行術という健康な筋肉の腱を移動する手術が必要になります。

整形外科、神経内科の医師による尺骨神経まひの診断では、損傷した神経の位置の特定するために、神経伝導試験を行います。親指の付け根の母指球筋以外の手内筋の筋委縮や鉤爪変形、両手の親指と人差し指で紙をつまみ、紙を引く時に親指の第1関節が曲がるフローマンサインがあれば、診断がつきます。

感覚の障害がある時は、皮膚の感覚障害が尺骨神経の支配に一致していて、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI検査、超音波検査など必要に応じて行われます。

整形外科、神経内科の医師による治療は通常、筋肉の硬直を防ぐために理学療法で治療します。肘の圧迫や長時間の肘の屈曲など、明らかな誘因がある場合には、生活習慣の改善と局所の安静で軽快することが多い傾向にあります。ビタミン剤の内服も有効と考えられます。

筋委縮を起こしている場合や、骨折や腫瘤などよって肘関節に変形を起こしている場合では、手術が必要になります。神経損傷のあるものでは、神経剥離(はくり)、神経縫合、神経移植などの手術が行われます。神経の手術で回復の望みの少ないものは、ほかの筋肉で動かすようにする腱(けん)移行手術が行われます。

整形外科、神経内科の医師による橈骨神経まひの診断では、上腕の中央部の傷害で下垂手を示して感覚障害があり、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。

知覚神経が傷害されていれば、チネルサインと感覚障害の範囲で、傷害部位の診断が可能です。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI検査、超音波検査など必要に応じて行われます。

整形外科、神経内科の医師による治療では、回復の可能性のあるものや原因が明らかでないものに対しては、局所の安静、薬剤内服、必要に応じ装具、運動療法などの保存療法を行います。薬剤内服では、発症早期にメチルコバラミンや副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤などを服用することが有用です。予後はおおむね良好で、多くの場合1~3カ月で完治します。

3カ月ほど様子を見て全く回復しないもの、まひが進行するもの、骨折などの外傷で手術が必要なもの、腫瘤のあるものでは、手術が必要になります。神経損傷のあるものでは、神経剥離、神経縫合、神経移植などの手術が行われます。神経の手術で回復の望みの少ないものは、ほかの筋肉で動かすようにする腱移行手術が行われます。

整形外科、神経内科の医師による腓骨神経まひの診断では、下垂足を示して感覚障害があり、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。

腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアや坐骨神経障害との鑑別診断が、必要なこともあります。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI検査、超音波検査など必要に応じて行います。

整形外科、神経内科の医師による治療では、回復の可能性のあるものや原因が明らかでないものは、保存療法を行います。保存療法には、圧迫の回避・除去、局所の安静、薬剤内服、運動療法などがあります。症状が軽く、足を組むなどの明らかな誘因がある場合には、生活習慣の改善で軽快することがほとんどです。

3カ月ほど様子を見て回復しないもの、まひが進行するものでは、手術が必要になります。骨折などの外傷や腫瘤によるものは、早期に手術が必要です。

神経損傷のあるものでは、神経剥離、神経縫合、神経移植などの手術が行われます。神経の手術で回復の望みの少ないものは、ほかの筋肉で動かすようにする腱移行手術が行われます。下垂足のままだと、歩くことも困難で日常生活を送るのにも非常に不便ですから、足首を固定する距腿(きょたい)関節固定術が行われることもあります。

🇨🇦抗リン脂質抗体症候群

自己抗体ができることによって全身の血液が固まりやすくなり、血栓症を繰り返す疾患

抗リン脂質抗体症候群とは、血液中に抗リン脂質抗体という自己抗体ができることによって、全身の血液が固まりやすくなり、血栓症を繰り返す自己免疫疾患。APS(Anti-phospholipid antibody syndrome)とも呼ばれます。

血栓症とは、動脈あるいは静脈で、血液の塊である血栓が血管の内腔(ないくう)をふさぐ結果、血液の流れが途絶えるために生じる臓器の障害です。この抗リン脂質抗体症候群の特徴として、血栓症は動脈、静脈ともに見いだされ、再発することがあります。

血栓ができる部位により、動脈では脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞など、静脈では下肢に生じる深部静脈血栓症、肺梗塞などを生じます。また、妊娠可能な年齢の女性では胎盤梗塞も生じます。

通常、脳梗塞などは動脈硬化症に由来し、高齢者にみられます。しかし、抗リン脂質抗体症候群では、動脈硬化症の危険因子が認められない40歳代以下の若年者で、脳梗塞や一過性脳虚血発作などの血栓症がみられます。また、女性では、胎盤に血栓ができ、胎児への血流が不良になる胎盤梗塞が一因となって、妊娠早期(10週以前)の習慣性流産、子宮内胎児死亡、胎児発育遅延、妊娠中毒症などがみられます。

抗リン脂質抗体症候群では、動脈血栓症の中では脳梗塞が約25パーセントを占め、静脈血栓症の中では深部静脈血栓症が約75パーセントと高頻度にみられ、下肢のはれと痛みが繰り返し起こります。

このような全身の血栓症によって、てんかん、片頭痛、知能障害、意識障害、皮膚の壊死(えし)、手足のまひ、視力低下、失明などさまざまな症状が起きることがあります。

血液検査上で血小板が減少するというような所見も来します。しかし、血小板減少に関しては軽度であることが多く、皮膚に紫斑(しはん)ができたり、脳出血や、消化管出血による吐血や下血は少ないとされています。

抗リン脂質抗体症候群の原因は、いまだ不明です。

若くて特に動脈硬化がないと思われるのに脳梗塞などの血栓症を起こした人や、流産を繰り返す習慣性流産の女性は、この疾患である可能性があります。リウマチ内科、血液内科の専門医、妊娠可能な年齢の女性の場合は産婦人科の受診が勧められます。

抗リン脂質抗体症候群の検査と診断と治療

リウマチ内科、血液内科、産婦人科の医師による診断では、動脈あるいは静脈の血栓症、習慣流産など産科的疾患のいずれかが認められ、血液検査所見として、抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなど)が6週間以上の間隔で2回以上陽性になることで、抗リン脂質抗体症候群と確定されます。

そのほかの血液検査所見として、血小板減少、活性化部分トロンボプラスチン時間(PTT)とプロトロンビン時間(PT)の延長などの凝固能異常などがみられます。

医師による治療では、急性期の動静脈血栓症の症状に対して、通常の血栓症の治療に準じて、ウロキナーゼやヘパリンを使った抗凝固療法が行われます。慢性期には、血栓症の再発を防ぐ二次予防として、アスピリン内服などの抗血小板療法、あるいはワーファリン内服による抗凝固療法が行われます。

習慣性流産、子宮内胎児死亡の予防としては、アスピリン内服とヘパリン製剤の皮下注射による抗凝固療法が行われます。

抗リン脂質抗体が陽性の場合でも、血栓症の既往や症状がない場合には積極的な治療の必要性はなく、通常経過観察のみを行います。高齢者や血栓症のリスクが高いと思われる患者には、少量アスピリンを予防的に投与することもあります。

血小板減少があり出血症状が認められるような患者に対しては、副腎(ふくじん)皮質ステロイド薬や免疫抑制剤が使用されますが、出血症状がなければ通常は経過観察のみを行います。

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