2022/08/14

🇬🇹細菌性急性胃腸炎

消化管への細菌感染により、腹痛、発熱、血便などが現れる疾患の総称

細菌性急性胃腸炎とは、消化管への細菌感染により、腹痛、発熱、血便などが現れる疾患の総称。

いわゆる食中毒の形をとることも多く、犬や猫などのペットからの感染もあります。カンピロバクター菌、サルモネラ菌、病原性大腸菌、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌などの細菌感染が、細菌性急性胃腸炎の原因になります。

いずれも、食べ物が十分に調理されていない時や、料理人の手洗いがきちんとなされていない際に、細菌が感染します。すると、細菌が腸粘膜に付着、侵入したり、細菌が出す毒素の影響などで、腸粘膜に炎症が起きます。

成人の場合、細菌が感染しても、多くは細菌性急性胃腸炎を発症しません。発症するのは、成人とほぼ同じ内容の食事をした子供、あるいは高齢者がほとんどです。大人が知らないうちに感染して、子供に移してしまうと重症化したりするので、注意が必要です。家庭で作った離乳食を食べている乳児や、母乳だけを飲んでいる赤ん坊には起こりにくい疾患です。

カンピロバクター菌による細菌性急性胃腸炎は、最も多い鶏肉を始めとして、豚肉、牛肉、馬肉などを食べることが原因となって発症します。とりわけ、生あるいは加熱があまりなされていないユッケ、鳥わさ、レバ刺しなどは、発症する可能性が高いことで知られています。鶏肉の場合、加熱不十分なバーベキュー、鶏鍋(なべ)、焼き鳥などが原因となることもあります。

井戸水や湧水(ゆうすい)、簡易水道水など消毒不十分な飲用水が原因となって、発症することもあります。犬、猫などのペットの腸管内にもカンピロバクター菌が存在するため、小児ではペットとの接触によって直接感染することもあります。

サルモネラ菌による細菌性急性胃腸炎は、鶏肉、豚肉、牛肉や、鶏卵などをよく火を通さないで食用にしたもののほか、納豆、氷小豆、乳製品などが原因となって発症します。特に近年では、鶏卵に含まれるエンテリティディスという血清型の菌によって、生卵を始めとして、卵焼き、オムレツ、手作りケーキやマヨネーズなどから発症しています。

また、ペットから感染したサルモネラ菌が原因となって発症することもあります。

病原性大腸菌には4つの種類があり、腸管出血性大腸菌O(オー)157による細菌性急性胃腸炎は、牛、羊などの生肉、生レバーを食べることが原因となって発症します。消毒不十分な飲用水が原因となって、発症することもあります。

腸炎ビブリオによる細菌性急性胃腸炎は、魚介類、あるいはその加工品を食べることが原因となって発症します。とりわけ、刺身など生の魚介類は、発症する可能性が高いことで知られています。

黄色ブドウ球菌よる細菌性急性胃腸炎は、牛乳、クリーム、バター、チーズ、かまぼこ、おにぎり、折詰弁当、すし、サンドイッチ、ケーキなどを食べることが原因となって発症します。

潜伏期は感染する細菌によって異なり、早いものでは数時間から、多くは5日間程度までの潜伏期の後、腹痛、発熱、嘔吐(おうと)、水様便または粘血便の下痢などがみられます。

細菌性急性胃腸炎は細菌の繁殖しやすい夏季に多く、アデノウイルスやノロウイルス、ロタウイルスなどによるウイルス性胃腸炎と比較すると、発熱、腹痛の程度が激しく、しばしば血便を認めます。

嘔吐、下痢などの回数が多くなると、特に乳幼児や高齢者では、脱水症状が強くなることがしばしばあります。脱水症状とは、体内の水分が不足するために全身のバランスが崩れ、心臓などの循環器、腎臓(じんぞう)、肝臓の働きが悪くなることで、ひどくなったまま放置すればショック状態となり、死に至ることもあります。

O157による場合には、特に腹痛が強く、血液そのもののような血便が出ることもあります。重い合併症として、O157が出すベロ毒素が起こす溶血性尿毒症症候群(HUS)が、小児では6〜7パーセントにみられます。この場合は、下痢発症後平均5〜6日で、顔色不良、黄疸(おうだん)、出血斑(はん)、浮腫(ふしゅ)、血尿、尿量減少、頭痛、不眠などの症状が現れます。

腹痛、発熱、下痢があり、便に血液らしきものが混じっていたら細菌性急性胃腸炎の可能性が強いことから、内科、消化器科、胃腸科、小児科の専門医を受診して、便の細菌検査を受ける必要があります。周囲に同様の症状の人がいる場合には、食中毒を考える必要があります。

細菌性急性胃腸炎の検査と診断と治療

内科、消化器科、胃腸科、小児科の医師による診断では、急性の中毒症状から細菌感染を疑いますが、どんな細菌に感染したかを確定するには、O157や黄色ブドウ球菌など毒素だけで判断できる一部の細菌を除いて、実際に糞便(ふんべん)などから原因となっている菌を分離することが必要です。

感染初期や軽症の場合は、ブドウ糖液やリンゲル液などの電解質液の点滴、吐き気や嘔吐を止める鎮吐剤の投与、あるいは整腸剤の投与による対症療法を行います。ただし、下痢止めは基本的に使用しません。症状を慢性化させたり、悪化させたりすることがあるからです。

多くの場合は点滴などで自然軽快しますが、重症化した場合は、エリスロマイシン、ホスホマイシンなどのマクロライド系抗菌剤の投与による治療を行います。抗菌剤は原因菌に有効な種類を使用することが原則ですが、原因菌の分離には24〜48時間かかるので、急を要する場合には症状、原因食、季節、年齢などから推定して治療を始めます。

ほとんどの場合は点滴や抗菌剤などで治りますが、サルモネラ菌による場合は下痢の症状が消えても長期間、排菌される傾向があるので、検査を続ける必要があります。

細菌性急性胃腸炎を予防するためには、以下のことを心掛けます。食肉や卵は、十分に加熱する。まな板、包丁、ふきんなどはよく洗い、熱湯や漂白剤で殺菌する。調理後は、早めに食べる。食品の長期間の保存は、できる限り避ける。

また、野生動物の糞便などで汚染される可能性のある井戸水や湧水、簡易水道水など消毒不十分な飲用水を飲まない、小児では犬や猫などのペットの糞便に触らないなどの注意も必要です。

🇬🇹細菌性結膜炎

白目の一番表面の粘膜である結膜に、細菌が原因で炎症が起こる疾患

細菌性結膜炎とは、白目の一番表面の粘膜である結膜に、細菌が原因で炎症が起こる疾患。

結膜は、上下のまぶたの裏側と、眼球の表面から黒目の周囲までを覆っている、薄い粘膜の部分を指します。まぶたの裏側を覆っている部分は眼瞼(がんけん)結膜、白目の表面を覆っている部分は眼球結膜と呼ばれています。一方、黒目の部分を覆っている粘膜は角膜と呼ばれています。

その結膜の働きは、直接、外界に接している目を異物の侵入から守ること。そこで、結膜には抗菌作用のある粘液や涙液が分泌され、常に作られている涙で目の表面を潤して防御しているのですが、多くの細菌にさらされたり、睡眠不足、過労などで抵抗力が落ちている時には、炎症を起こすことがあります。

細菌性結膜炎の原因となる細菌には多くの種類が存在しますが、代表的なものはインフルエンザ菌、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、クラミジア菌、淋(りん)菌。

通常よくみられる細菌性結膜炎は乳幼児や学童期に多く、原因菌はインフルエンザ菌が最も多いようです。発症時期は冬期が多く、風邪にかかった時に起こりやすいといわれています。

肺炎球菌の場合は、インフルエンザ菌に比べて罹患(りかん)年齢がやや高い傾向にあります。

黄色ブドウ球菌による細菌性結膜炎は、高齢者の慢性細菌性結膜炎の代表的な疾患です。黄色ブドウ球菌は、健康な人ののどや鼻、皮膚、手指、毛髪、腸管などにも分布しています。感染力が弱いため、感染の危険は大きくありませんが、目にけがをした時、病気などで体の抵抗力が落ちた時は、高齢者や子供が感染しやすくなります。

クラミジア菌、淋菌は主に性感染症(STD)で知られる細菌ですが、感染者の手などが感染源となり、接触感染を通じて細菌性結膜炎を発症することがあります。

細菌性結膜炎の主な症状は、目の充血や眼球の痛み、大量の目やにが出ること。放置しておくと、結膜だけではなく角膜にまで感染し、角膜が混濁して、永久に視力が低下したままになる危険性も伴います。

原因となる細菌により症状に多少の差があり、インフルエンザ菌や肺炎球菌の場合は、結膜の充血と粘液膿性(のうせい)の目やにが現れます。肺炎球菌の場合は、時に小点状の出血斑(はん)や軽度の結膜のむくみも現れます。黄色ブドウ球菌の場合は、成人では眼瞼結膜炎の形で慢性的にみられることが多く、角膜にも病変が存在することもあります。

細菌性結膜炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡で結膜を観察します。症状からほぼ類推することができますが、確定診断のために、目やにの培養を行い、原因菌の検索と、どのような抗菌剤が有効かを調べることもあります。

眼科の医師による治療では、原因菌に対する感受性の高い抗菌剤を配合した点眼薬による症状の改善が基本となります。細菌の種類によっては、抗菌剤を配合した眼軟こうや、抗菌剤の内服も必要となります。治療が適切な場合は、約1~2週間で完治します。

細菌性結膜炎の症状が治まってきたころに、黒目の部分を覆っている角膜の表面に、小さな点状の濁りが出てくることがあります。この時に治療をやめると、角膜が混濁して視力が低下することがありますので、眼科医の指示に従って点眼などの治療を続けることが必要となります。

感染の拡大予防には、手をこまめに洗い、顔をふくタオルを家族と共有しないようにし、風呂は最後に入るかシャワーですませるなどの注意が必要です。

🇬🇹細菌性下痢症

消化管に感染する細菌によって、下痢を生じる疾患の総称

細菌性下痢症とは、胃、小腸、大腸などの消化管に感染する細菌によって、下痢を生じる疾患の総称。細菌性腸炎、細菌性胃腸炎とも呼ばれます。

いわゆる食中毒の形をとることも多く、犬や猫などのペットからの感染もあります。腸管出血性大腸菌O(オー)157のように、大規模な集団発生をみることもあります。コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の三類感染症であり、すべての医師による届け出が必要で、かつ学校伝染病に指定されており、出席停止の措置がとられます。

サルモネラ菌、病原大腸菌(O157を含む)、カンピロバクター菌の3つの菌が重要で、これらではしばしば血便がみられます。そのほか、腸炎ビブリオ、ブドウ球菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌、セレウス菌、エルシニア菌、エロモナス菌、プレシオモナス菌なども原因になります。コレラ菌、赤痢菌は、主に海外においての感染です。

赤痢菌、病原大腸菌は、少量の菌量でも感染が起こるため、人から人への感染を来します。ブドウ球菌による食中毒は、産生された毒素により、嘔吐(おうと)、腹痛、下痢が生じます。

そのほか、抗菌剤の使用時に生じる特殊な腸炎として、クロストリジウム・ディフィシルによる偽膜性大腸炎、クレブシエラ・オキシトカによる出血性腸炎、MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)による腸炎があり、抗菌剤関連下痢症と総称されます。

潜伏期は菌によって異なり、早いものでは数時間から、多くは5日間程度までの潜伏期の後、腹痛、嘔吐、発熱、水様便または粘血便の下痢などがみられます。

細菌性下痢症は細菌の繁殖しやすい夏季に多く、アデノウイルスやノロウイルス、ロタウイルスなどによるウイルス性胃腸炎と比較すると、発熱、腹痛の程度が激しく、しばしば血便を認めます。

嘔吐、下痢などの回数が多くなると、特に乳幼児や高齢者では、脱水症状が強くなることがしばしばあります。脱水症状とは、体内の水分が不足するために全身のバランスが崩れ、心臓などの循環器、腎臓(じんぞう)、肝臓の働きが悪くなることで、ひどくなったまま放置すればショック状態となり、死に至ることもあります。

O157による場合には、特に腹痛が強く、血液そのもののような血便が出ることもあります。重い合併症として、O157が出すベロ毒素が起こす溶血性尿毒症症候群(HUS)が、小児では6〜7パーセントにみられます。この場合は、下痢発症後平均5〜6日で、顔色不良、黄疸(おうだん)、出血斑(はん)、浮腫(ふしゅ)、血尿、尿量減少、頭痛、不眠などの症状が現れます。

発熱、腹痛、下痢があり、便に血液らしきものが混じっていたら細菌性下痢の可能性が強いことから、内科、消化器科、胃腸科、小児科の専門医を受診して、便の細菌検査を受ける必要があります。周囲に同様の症状の人がいる場合には、食中毒を考える必要があります。

細菌性下痢症の検査と診断と治療

内科、消化器科、胃腸科、小児科の医師による診断では、急性の中毒症状から細菌感染を疑いますが、どんな細菌に感染したかを確定するには、O157やブドウ球菌など毒素だけで判断できる一部の細菌を除いて、実際に糞便(ふんべん)などから原因となっている菌を分離することが必要です。

感染初期や軽症の場合は、ブドウ糖液やリンゲル液などの電解質液の点滴、吐き気や嘔吐を止める鎮吐剤の投与、あるいは整腸剤の投与による対症療法を行います。ただし、下痢止めは基本的に使用しません。症状を慢性化させたり、悪化させたりすることがあるからです。

多くの場合は点滴などで自然軽快しますが、重症化した場合は、エリスロマイシン、ホスホマイシンなどのマクロライド系抗菌剤の投与による治療を行います。抗菌剤は原因菌に有効な種類を使用することが原則ですが、原因菌の分離には24〜48時間かかるので、急を要する場合には症状、原因食、季節、年齢などから推定して治療を始めます。

ほとんどの場合は点滴や抗菌剤などで治りますが、サルモネラ菌による場合は下痢の症状が消えても長期間、排菌される傾向があるので、検査を続ける必要があります。

細菌性下痢症を予防するためには、以下のことを心掛けます。食肉や卵は、十分に加熱する。まな板、包丁、ふきんなどはよく洗い、熱湯や漂白剤で殺菌する。調理後は、早めに食べる。食品の長期間の保存は、できる限り避ける。

また、野生動物の糞便などで汚染される可能性のある井戸水や湧水、簡易水道水など消毒不十分な飲用水を飲まない、小児では犬や猫などのペットの糞便に触らないなどの注意も必要です。

🇸🇻細菌性赤痢

赤痢菌によって起こり、血便を生じる感染症

細菌性赤痢とは、赤痢菌によって引き起こされ、血便を生じる急性の感染症。世界中に広く分布する細菌感染症です。

赤痢菌には、志賀赤痢菌(ディゼンテリー菌)、フレキシネリ菌、ゾンネ菌、ボイド菌の4種があります。志賀赤痢菌は、志賀潔によって発見され、志賀毒素という腸管出血性大腸菌O—157の産生する毒素の一つとほとんど同じものを産生し、4種の中で最も病原性が強いものです。フレキシネリ菌も、典型的な赤痢の症状を示します。ゾンネ菌は、日本で70〜80パーセントを占めて最も多いものの、病原性が弱く軽症です。ボイド菌は、日本では非常にまれ。

赤痢菌に汚染された食品や水、氷などを介して感染しますが、感染に必要な赤痢菌の菌量は10〜100個と極めて少なく、食器やはしなどを介して人から人に直接感染することもあります。家庭内2次感染の危険性が高く、約40パーセントでみられます。特に、小児や老人に対しての注意が必要です。

日本でのここ数年の発症者数は年間700〜800人で、20歳代に年齢のピークがあり、14歳までの発症者は全体の約10パーセント程度。国外感染例が70パーセント程度で、国内では保育園、学校、ホテルなどでの集団発生や、牡蠣(かき)を介した全国規模での感染がありました。

典型的な赤痢では、1〜3日の潜伏期間の後、下痢、悪寒、発熱、腹痛、倦怠(けんたい)感が現れます。赤痢菌の種類によって症状の程度に差があり、最も病原性の強い志賀赤痢菌では、1〜2日間発熱があって、腸内からの出血によって粘血便がみられ、トイレにいった後でもすっきりせず、また行きたくなる渋り腹が現れることがあります。

他の3種の赤痢菌では、粘血便をみることはほとんどありません。特に、日本で多いゾンネ菌によるものは重症例が少なく、軽い下痢と軽度の発熱で経過することが多く、菌を持っていても症状のない健康保菌者もいます。

細菌性赤痢の検査と診断と治療

海外旅行中や旅行後に血便を伴う下痢の症状が現れたら、赤痢を含む細菌性腸炎の可能性があります。検疫所あるいは培養検査のできる医療機関を受診し、便の細菌検査を受けることが必要です。

日本では、細菌性赤痢は感染症法で2類感染症に指定されており、発症者は原則として2類感染症指定医療機関に入院となりますが、無症状者は入院の対象とはならず外来治療も可能です。

医師による診断では、便の細菌培養を行い、赤痢菌が検出されれば確定します。他の細菌による下痢症との区別も、培養結果によります。迅速検査として、赤痢菌の遺伝子を検出する方法も開発されています。細菌性赤痢もしくは病原体保有者であると診断した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出ます。

治療では、成人にはニューキノロン系の抗菌剤、小児には抗菌剤のホスホマイシンを投与します。生菌整腸薬を併用し、下痢や発熱による脱水があれば点滴や経口輸液による補液を行います。強力な下痢止めは使いません。治療後に再度、便培養を行い、除菌を確認します。最近は、分離される赤痢菌の多くがアンピシリン、テトラサイクリン、ST合剤に耐性があるとされています。

赤痢は世界中どこでもみられる感染症で、特に衛生状態の悪い国に多くみられます。海外旅行中は、生水、氷、生ものは避けることが、重要な予防方法となります。屋台のヨーグルト飲料や氷で感染した例も報告されていますので、不衛生な飲食店、屋台などでの飲食も避けます。

🇸🇻細菌性膣炎

女性生殖器系の器官である腟に、一般的な細菌が増殖して炎症が起こる疾患

細菌性膣炎(ちつえん)とは、女性生殖器系の器官である腟に、一般的な細菌が増殖して炎症が起こる疾患。非特異性膣炎とも呼ばれます。

腟は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。腟の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。腟壁は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

この腟の中は、温かく湿っていて有機物が豊富にある状態で、細菌の繁殖に適しています。しかし、腟には自浄作用という働きがあります。腟壁上皮は卵巣から分泌される女性ホルモンであるエストロゲンの作用により、表皮細胞への分化が促され、細胞質の内にグリコーゲンが蓄積されます。剥離(はくり)した細胞内のグリコーゲンは、ブドウ糖に分解されて、腟内のデーデルライン桿菌(かんきん)という乳酸桿菌によって乳酸菌に換えられます。これにより腟内は酸性となり、酸性環境に弱い細菌の増殖が抑制されます。

しかし、疲労や体力の低下、生理周期や妊娠などによるホルモンバランスの変化、過度なセックスや膣洗浄のしすぎ、薬の服用などが原因で、自浄作用の働きが低下すると、ふだんから腟の中に常在しているような一般的な細菌が通常以上に増殖して、膣に炎症が起こり、細菌性膣炎を発症します。

増殖によって細菌性膣炎を起こす一般的な細菌の代表は、大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、ガードネレラ菌、B群溶連菌で、これらの菌が10~100倍に増殖します。

ふだんから腟の中に常在している細菌が多いのですが、腸の中にいる大腸菌の場合、排便した時に出てきた菌が何らかの理由により腟内に入り込み、細菌性腟炎を引き起こします。

細菌性腟炎を発症すると、灰色または黄色の水っぽい下り物があります。魚のような生臭い悪臭を伴うこともあります。臭いが発生するかどうかは増殖した細菌の種類により、ガードネレラ菌が増殖すると悪臭のもとになります。生理後やセックスの後では、細菌が増えるため特に臭いが強くなります。

腟内の炎症が強い場合には、排尿時に尿が染みて痛みが出たり、尿道周辺の違和感を感じることもあります。また、膣入口部が発赤し、灼熱(しゃくねつ)感、掻痒(そうよう)感などが起こることもあります。

ただし、一般的な細菌は病原性が弱いため、増殖しても腟内に炎症が起きず、半数異常の人は症状を感じません。このため、正確には細菌性腟炎ではなく細菌性腟症と呼ばれます。

腟炎にはカンジダ腟炎やトリコモナス腟炎、委縮性膣炎などいろいろな種類がありますが、割合としてはこの細菌性腟炎になる女性が最も多く、若い女性の1割以上が発症していると見なされています。妊娠期のホルモンの影響などで妊婦では特に細菌性腟炎になりやすく、2割から3割の妊婦は細菌性腟炎を発症していると見なされています。また、トリコモナス腟炎では、細菌性腟炎を同時に発症することが多くみられます。

細菌性腟炎は自然治癒することもありますが、治療しなければずっと続くこともあります。

細菌性膣炎の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、腟の分泌物を顕微鏡で観察し、炎症反応やその原因となった病原体を検出したり、時には培養したりして特定します。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、膣錠を使っての治療が一般的です。薬が効けば通常、2~3日で症状は消えます。しかし、いろいろな細菌が原因となって起こるため、薬を投与しても増えている菌によっては効果がないこともあり、なかなか治らないような場合には、さまざまな薬を試していくこともあります。

一番よく使われる薬は、保険が効くクロロマイセチン(クロマイ、ハイセチン)の膣錠で、臭いのもととなるガードネレラ菌に効果はありますが、同時に乳酸桿菌も殺してしまうという欠点があります。

効果的な薬は、トリコモナス膣炎の治療薬であるメトロニダゾール(フラジール)の膣錠で、乳酸菌を殺すことなく、ガードネレラ菌を退治します。値段の高い薬ではありませんが、細菌性膣炎の場合には保険が効かないという欠点もあります。

最初の治療の前には、膣洗浄を行って増えた細菌を洗い流して症状を抑えます。この膣洗浄を行うのは、普通は初回の治療だけで、治療のたびに膣洗浄を行うと、せっかく増えた乳酸桿菌が消えてしまうためです。

細菌性膣炎は再発が多いため、治療が長期間に及ぶこともあります。

🇸🇻細菌性尿路感染症

小児の尿路に細菌が感染して、膀胱炎、腎盂腎炎などを起こす疾患

細菌性尿路感染症とは、小児の尿路の中に細菌が入り込んで感染し、炎症を起こす疾患。小児尿路感染症とも呼ばれます。

尿路は、腎盂(じんう)から尿管、膀胱(ぼうこう)へと続く尿の通り道です。細菌は例外的に血液の中を回って腎盂に直接入ることもありますが、尿の通る方向とは反対に、尿の出る尿道口から侵入した大腸菌が原因になることがほとんどです。

女児のほうが尿道が短いために細菌が入りやすいものの、まだ陰茎(ペニス)の先の亀頭部が包皮に包まれたままである男児の場合も、亀頭と包皮の間に垢(あか)がたまって細菌が入りやすい状態になっています。

何らかの理由で尿が逆流したり、停滞した状態が続くと、細菌が侵入したり繁殖しやすくなって感染を起こします。尿路に先天的な奇形があるために、尿路感染症を繰り返す場合もあります。

炎症が起きている尿路の部位によって、症状や経過が異なります。下部に炎症が起きている時は膀胱炎や尿道炎、上部に炎症が起きている時は腎盂腎炎が起こります。

膀胱炎では、尿が黄色くなる、においがする、尿の回数が増える、排尿時に痛みがある、残尿感があるなどの症状が起こります。発熱はほとんどみられません。

尿道炎では、排尿時に軽い痛みがありますが、多くは排尿不快感程度です。白みがかった粘液性のうみの混じった尿が出ることもあります。

腎盂腎炎では、風邪の症状がないのに突然38・5℃以上の発熱がみられ、嘔吐(おうと)や下痢を伴うこともあります。腰痛、腎部痛を伴うこともあります。

風邪の症状がないのに発熱したり、排尿痛、頻尿、腰痛といった症状がある時は、細菌性尿路感染症が疑われますので、小児科を受診します。小児では無症状のことも多いのですが、夜間のおねしょ(夜尿症)や、昼間のお漏らし(昼間遺尿)によって気付くこともあります。

細菌性尿路感染症の検査と診断と治療

小児科の医師による診断では、尿検査を行い、細菌の有無、炎症の時に現れる細胞の有無を確認します。発熱がある場合は、血液検査で炎症の程度を調べ、腎盂腎炎か膀胱炎かを区別します。

尿路感染を繰り返す場合は、尿路で尿が停滞あるいは逆流するような構造的異常があることも考え、超音波検査、腎盂造影、排泄(はいせつ)性膀胱尿道造影などの画像検査を行います。

最近では、全く症状がなく、尿路に異常がないにもかかわらず、尿から常に細菌や白血球が見付かることがあり、無症候性細菌尿あるいは無症候性膿尿(のうにょう)と呼ばれています。これらは、学校健診時の検尿などで偶然発見されることがあります。

小児科の医師による治療では、原因となっている細菌に感受性を示す抗菌剤の内服、あるいは点滴静脈注射による使用を基本とします。一般に、膀胱炎なら抗菌剤の5~7日間の内服で治りますが、腎盂腎炎の場合には入院の上、抗菌剤の14日間の点滴を行います。

腎盂腎炎を繰り返すと、腎臓が障害されて、最終的に腎機能低下を来すため、早期発見、早期治療が重要となります。

尿路のどこかが狭い先天性水腎症や、膀胱の尿が尿管や腎盂に逆流する膀胱尿管逆流現象が原因で、尿路感染を繰り返す小児には、それらの先天的な奇形に対する手術を行うこともあります。

細菌性尿路感染症の再発予防としては、乳児のほとんどは便に含まれる大腸菌が尿路を逆上って発症しているので、大便が出たら早めにおむつを交換する、女児のおしりをふく時は前から後ろにふくように心掛けるなどに注意します。

また、尿の流れが滞ると細菌も繁殖しやすくなりますので、膀胱炎や腎盂腎炎にかかったら、十分に水分を補給してあげます。尿量が増えて尿がたくさん出ると、細菌も一緒に排出される効果があります。尿路感染症にかかっていなくても、水分を多めに与えると感染予防になります。

🇳🇮細菌性肺炎

さまざまな細菌が肺に入り、肺の奥の領域に炎症が起きる疾患

細菌性肺炎とは、一般細菌が肺に入り、酸素と炭酸ガスの交換を行う肺胞や肺間質など、肺の奥の領域に炎症が起きる疾患。実に多種類の細菌が関与します。

普通はまず、ウイルス感染が起きて、気道粘膜が障害を受けたのに乗じた形で、細菌による二次感染が起きるという過程をとります。

細菌性肺炎の代表的なもので、ふだん健康な人がかかる市中肺炎を引き起こす主な原因となるのは、肺炎球菌によるものです。人間の右肺は上中下3つ、左肺は上下2つの大きな袋である肺葉に分かれていますが、この肺葉全体を侵す大葉性肺炎を起こすことで、肺炎球菌はかつては有名でした。抗生物質の発達した現在では、大葉性肺炎は珍しくなり、気管支肺炎にとどまるもののほうが多くなりました。

黄色ブドウ球菌も、肺炎を起こします。この菌のうち、ほとんどすべての抗生物質に耐性を示す耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が近年、重症の疾患で入院している人がかかる院内肺炎の原因となり、大きな問題となっています。

インフルエンザ桿菌(かんきん)も、肺炎を起こします。この菌の場合には、気管支拡張症、慢性気管支炎などの呼吸器疾患を持っている人に、繰り返し急性の気道感染を起こすのが、問題となっています。

同じように、緑膿菌(りょくのうきん)という厄介で、院内肺炎の原因となる菌があり、気管支拡張症、びまん性汎細(はんさい)気管支炎などの疾患を持つ人の気道に住み付いて、治療をしてもなかなか取り除くことができません。

レジオネラ菌も、肺炎を起こします。1976年にアメリカで集団発生したことにより発見された菌で、建物の屋上などに設置されている冷却塔であるクーリングタワー、エアコンディショナーなど、空調設備や給湯系を介した感染や、土壌、河川などの自然環境からの感染が知られるところ。日本での特徴としては、温泉、特に消毒が不十分な沸かし湯を用いた風呂(ふろ)での感染が多いことです。

また、高齢者に多い嚥下(えんげ)性肺炎も、細菌性肺炎。唾液(だえき)や物を飲み込みにくいために誤飲して、さらに誤飲した物を吐き出す力が弱いために、細菌感染が起こることが原因です。

細菌性肺炎の症状は、発熱と激しい寒け、せき、たんなどが主な症状。発熱は39度以上と、高熱になることがしばしば。

せきが激しい時は、それに伴って胸が痛くなります。肺炎が胸壁を覆う胸膜にまで達して胸膜炎を合併した時は、激しい胸痛が起こることがあります。頻度はあまり多くないものの、たんに血が混じることがあり、気管支拡張症などの既往症がある時は、血たんがしばしば認められます。

しかし、体の反応の弱い高齢者では、あまり激しい症状が出ないことも少なくなく、気が付いた時にはかなり悪化していることもあります。風邪を引いた後、いつまでもだるそうにして元気がなく、食欲も回復しない時は、肺炎を疑う必要があります。

肺結核などの呼吸器疾患の既往症がある人や、肺の疾患で手術を受けた人が肺炎にかかると、劇症になりやすくなります。肺から取り込む酸素が不足し、速く浅い呼吸になり、時には呼吸困難に陥ることもあります。

細菌性肺炎の検査と診断と治療

肺炎が劇症になると、時には呼吸困難に陥ることもありますので、なるべく早期のうちに呼吸器内科、呼吸器科の専門医を受診します。

医師は、胸部X線撮影を行います。炎症が起こると肺の末梢(まっしょう)血管から水分が染み出して、肺胞にたまりますが、これがX線で撮影すると影になって見えます。

ほかに、血液検査を行って白血球の増加、CRP値(C反応たんぱく)の増加、赤血球沈降速度の高進など、炎症反応を調べます。有効な抗生物質を探るために、たんを培養して原因菌も調べます。

細菌性肺炎の治療の基本は、原因となっている細菌の排除を目的に、抗生物質を投与すること。通常、市中肺炎で原因となる細菌は肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ桿菌であるため、ペニシリン系やセフェム系の抗生物質、ニューキノロン系の抗菌剤が用いられます。

院内肺炎の場合は、セフェム系やマクロライド系、ペニシリン系の抗生物質がよく用いられます。

対症療法として、たんをサラサラにして出しやすくするために去たん剤、せき込みによる体力の消耗を防ぐために鎮咳(ちんがい)剤が用いられます。

いろいろのタイプがある肺炎は、かつては非常に怖い疾患の一つでしたが、現在は胸部X線検査の進歩で早期に診断できるようになり、ペニシリン系、セフェム系などの抗生物質の開発で、完治しやすくなりました。しかしながら、抵抗力の弱い乳幼児や高齢者、体の衰弱した疾患の人などの肺炎による死亡率は依然として高く、油断できない疾患だといえます。

日常生活においては、風邪を引かないように注意する、 うがいや歯磨きでいつも口の中を清潔にする、 室内の換気をよくし空気を清潔に保つ、禁煙するなどの予防対策を施したいものです。

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