2022/08/14

👣足底腱膜炎

加齢や使いすぎにより、足の裏の縦アーチを支えている足底腱膜に炎症が起こる疾患

足底腱膜(そくていけんまく)炎とは、足の裏の縦アーチを支えている足底腱膜に炎症が起こる疾患。足底筋膜炎とも呼ばれます。

足の土踏まずの部分は、縦のアーチと横のアーチによって作られており、その2つのアーチがクッション役となって、体重を支えたり歩いたりしています。縦のアーチを支える重要な役割を果たしているのが足底腱膜で、足の5本の指の付け根から踵(かかと)まで、足の裏に膜のように張っている腱組織です。

足底腱膜炎を発症すると、その足底腱膜に炎症が起き、小さな断裂を起こして痛みを生じます。X線(レントゲン)写真を撮ると、踵の骨の前の部分に、踵骨棘(しょうこつきょく)という棘(とげ)状の骨が見られることが多く、ひどくなると踵骨付着部での剥離(はくり)骨折を起こすこともあります。

初期は朝の起床時、歩き始めの数歩で、踵の骨の内側前方が痛んでうまく歩けないものの、少しすると痛みは軽くなって普通に歩けるようになります。日中はあまり痛みを感じません。

立ったり歩いたりしている時には足のアーチはいつも緊張していますが、眠っている間は足のアーチの負担がなくなり、その間に足底腱膜の断裂した部分が、少し修復されていきます。しかし、朝起きて立ち上がると、再び負担がかかって足底腱膜に小さな断裂が起こり、痛みを発するのです。

進行すると、1時間ぐらい座った後の歩き始めなどでも痛くなり、重症になると踵の痛みのため、歩行困難になります。

40~50歳代の男性に多く、5人に1人は一生に1度は経験するといわれます。加齢に伴って、足底腱膜の柔軟性が失われ、組織が弱くなるために、足底腱膜に負担がかかり、引き伸ばされて、炎症、断裂を起こしやすくなります。足のアーチを支えるのに役立っている、ふくらはぎの筋肉などが弱まることも、足底腱膜への負担を増し、炎症を起こしやすくします。

若い世代では、ランニングや歩きすぎ、立ち仕事などによる足の使いすぎや、外傷によって起こることがあります。体重の増加によって足にかかる負担が大きくなり、起こることもあります。

3週間以上も痛みが続いたり、強くなったりして日常生活に支障を来す場合は、整形外科を受診することが勧められます。

足底腱膜炎の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、足底腱膜に沿った痛み、特に踵の下に圧痛があれば見当は付きますが、念のためX線(レントゲン)検査を行います。X線写真で、踵の骨の下に踵骨棘が認められることもあります。

整形外科の医師による治療は、通常、痛みを和らげる湿布が基本となります。日常の歩行時に痛むようなケースでは、ヒールカップというクッション材や、アーチサポート、足底板を靴の踵や土踏まずの部分に敷いて、痛みを和らげます。ヒールカップは市販されていますが、アーチサポート、足底板は医師の処方により義肢装具士が足に合わせて作製する装具です。

さらに痛みがひどい場合は、局所にステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)と麻酔剤を注射しますが、この注射は数週間おきに数回にとどめます。炎症が取れれば、痛みはなくなります。痛みが消えても、一度できた踵骨棘はなくならず、その後の大きさにも変化はありません。

こうした治療とともに、日常生活では足底腱膜を伸ばすストレッチを行うと効果的。ストレッチは、立った姿勢で踵を少し上げ、足先にゆっくり体重をかけていきます。この時、足の指を曲げて足首を反らし、足の裏を5~10秒、十分に伸ばすようにします。左右交互に行い、少なくとも1日各30回、できれば100回行うと理想的です。

まれに、内視鏡下で足底腱膜を切り離す手術を行うこともあります。この手術は、保存的な治療を受けてから数年経過しても、歩行に比例して痛みがひどくなり、日常生活に支障を来す場合に行われます。

また、近年では一部の医療機関で、尿管結石を破砕するために広く使われている体外衝撃波結石破砕装置を、足底腱膜炎の治療に応用しています。主な対象は、保存的な治療を6カ月以上受けても効果を示さない難治性の足底腱膜炎で、低出力の衝撃波を患部に集中的に照射することで痛みを取り去ります。

👣足底多汗症

足の裏に異常なほどに大量の汗をかく症状

足底多汗症とは、足の裏に異常なほど大量の汗をかく症状。多汗症の一種で、足蹠(そくせき)多汗症とも呼ばれます。

多汗症は、体温の調節に必要な範囲を超えて、汗が異常に分泌する症状。全身性の多汗症と、手のひら、足の裏、腋(わき)の下、頭、鼻の頭などにみられる局所性の多汗症があります。

人間は意外と多くの場面で汗をかいており、発汗は体温調節の役割を担う大切な生理機能の一つでもあります。そのため、どのくらいの汗の量で多汗症と呼べるのか分類は難しいのですが、多汗症の場合は気温の変化や運動などとは関係なしに汗をかくことが多いので、心当たりがある人は少し振り返ってみるといいでしょう。特に疾患と考える必要はないにしろ、汗をかくということは日常の生活と密接に関係していることですので、さまざまな悩みや問題を抱えている人が多いのも事実です。

局所性の多汗症は、汗をかきやすいという体質に、生活環境や精神的な影響が加わったものが大部分です。肥満、過度なダイエット、生活リズムの乱れ、性格的に神経質だったり、緊張しがちなタイプだったりと、ストレスをためやすい状況下に身を置いていることが原因となっています。

これらの原因の背後には、交感神経の働きが大きく関係しています。交感神経とは、副交感神経とうまくバランスを取り合いながら、人間が日々健康で過ごせるように作用しているものです。この交感神経がストレスなどさまざまな原因により過敏になってしまうと、体温上昇とは関係なく汗を大量にかくようになり、汗をかくことでさらなるストレスを作り出す悪循環に陥ってしまいます。

全身性の多汗症も、多くは体質的なものです。比較的急激に生じた場合には、代謝機能や自律神経などが障害される、いろいろな疾患が潜んでいる可能性があります。

局所性の多汗症の一種である足底多汗症が起こる原因は、汗をかきやすいという体質に、生活環境や精神的な影響が加わり、発汗を促す交感神経が通常よりも過敏になって起こるものが大部分です。

夏場などに革靴を履いたままで過ごしていれば、足に汗をかいて蒸れてしまうことは、誰にでもあることなのですが、これにとらわれてしまった状態が足底多汗症だといってよいでしょう。

また、足に合っていない靴を履いていることが、足底多汗症の原因の一つになっていることもあります。合っていない靴を使用するために、不快な刺激が反復して足に加えられ、交感神経が活性化するために発汗が起こるのです。

足の裏に大量の汗をかくため、革靴を履かなければならない会社員などは、靴下や靴の中が非常に蒸れた状態になります。細菌などが繁殖しやすく、周囲にわかるほどの不快な足の臭(にお)いを発することもあります。

特に、毎日同じ革靴を履いていると、足の臭いが強くなったり、その臭いが革靴に移り、革靴自体が強い臭いを発するようになることもあります。革靴や靴下、ストッキングを脱ぐと、足の臭いがものすごく強くなります。

足の臭いの一番の原因は、足裏の皮膚に存在するエクリン汗腺(かんせん)からの汗が過剰に出ることにより、足裏の皮膚の角質がふやけ、足に住む皮膚常在菌が角質の蛋白(たんぱく)質や皮脂を栄養素として分解した産物です。エクリン汗腺から出る汗自体は、99パーセントが水で、残り1パーセントもほとんどは塩分であるため、ほぼ無色透明であり、ほぼ無臭です。

症状が強い時は、足の裏の汗で靴下がぬれていて他人の家に上がれない、自宅のフローリングが汗でベタベタになる、サンダルを履くと足裏が滑ってうまく歩けないという状態にまでなります。また、水虫になることも少なくありません。

足底多汗症のセルフケア

足底多汗症の原因は、汗をかきやすい体質の人が革靴や熱がこもりやすいような靴を履かなければならないことにあるといってもよいでしょう。素足で生活している人は、足が蒸れることがないので、足底多汗症による足の臭いが発生する率がとても低くなります。

しかし、現代では、通勤、通学のために靴を履かないで生活することはほぼ難しいため、うまく対策をとる必要があります。まず、靴を選ぶ際には見た目だけでなく、自分の足に合った靴を選択しましょう。また、靴は3つ以上など複数持つようにしましょう。

同じ靴を連日履き続けると、汗がどんどん染み込んでしまい靴自体が臭くなると同時に、履いてすぐ足が臭くなることになります。それを防ぐためにも、1日履いた靴は次の日には履かず、湿った靴の中を日陰干しして乾燥させてから、別の日に履くようにしましょう。足裏の皮膚で繁殖している細菌は乾燥に弱いので、乾燥させることで細菌を死滅させ、臭いの悪化を防ぐことができます。

消臭スプレーや、消臭効果のある靴の中敷きを複数用意して使うというのも、お勧めの対策です。

汗をかいたら服を着替えるように、足の汗をタオルやウェットティッシュなどでしっかりふき取ってから、靴下を小まめに履き替えるようにすると、すっきりした状態になれ、臭いもかなり減ります。臭いを分解消臭する靴下、消臭ソックスを履くのもよいでしょう。

足の指同士が接触することで、細菌が繁殖するともされているため、普通の靴下ではなく、5本指ソックスを履くのもよいでしょう。

足を洗う際には、殺菌効果のあるせっけんなどできれいに洗うこと。ボディーソープでは保湿効果があるので、逆に足の臭いの発生を悪化させてしまいます。そして、軽石を使って、足の裏や足指の間、側面の古い角質や垢(あか)をこすり落とすことです。

以上の対策を試みても、足底多汗症による支障が改善しない場合は、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診し、自分に合った治療を受けることをお勧めします。

足底多汗症の治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、原因となる疾患がある場合は、これを取り除くことが先決です。

足底多汗症に対しては、皮膚に塗ると汗腺をふさいで一時的に汗を抑える効果がある局所制汗剤として、20パーセントの塩化アルミニウム液や、5パーセントのホルマリン・アルコール液を足裏の汗が多い部分に塗布します。1日1〜2回塗り、乾いてからパウダーを振り掛けておきます。精神的な緊張が強くて汗をかくような場合には、精神安定剤を内服することも有効です。

イオン浸透療法(イオントフォレーシス療法)を行うこともあります。水道水に浸した足の裏の部位に、弱い電流を20分ほど流して発汗を抑制するもので、個人差がありますが効果が出るまで数週間の集中的な治療が必要です。治療を止めると再発の可能性が高く、副作用として湿疹(しっしん)、かゆみ、皮むけ、水疱(すいほう)などが生じることがあります。

このイオン浸透療法は皮膚科、皮膚泌尿器科で行う治療法ですが、同様の療法が行えるドライオニックと呼ばれる家庭用機器もあります。

局所制汗剤の外用、イオン浸透療法で十分な効果が得られなかった場合は、必要に応じてボトックス注射を行うこともあります。発汗は交感神経の末端から放出されるアセチルコリンという神経伝達物質により、汗腺が刺激されることで促されるため、汗が出やすい部分にボツリヌス注射を打つと、このアセチルコリンの放出が阻害されるため、汗を減らすことができます。

1回の注射による効果は、約半年間持続するとされています。ただし、副作用などのリスクもあります。

交感神経ブロック手術を行って、胸の辺りにある汗の分泌を調節する交感神経を切除することもあります。手術は基本的に、まず片方の交感神経を切除し、その後の体調の経過をみてから、もう一方の交感神経も切除するかどうかを決定します。

手術のメリットは成功率が高く効果に永続性があるということ、デメリットは神経を一度切除してしまうと元には戻らないということと、副作用として代償性発汗になる場合がほとんどであることです。代償性発汗とは、足の裏から汗が出なくなった代わりに、背中や下半身などこれまでと違った部位から大量の発汗が起こるものです。

🇵🇪先天性停止性夜盲

夜間や暗い場所で目がよく見えなくなる先天性夜盲のうち、進行しないタイプの総称

先天性停止性夜盲とは、夜間や暗い場所での視力、視野が著しく衰え、目がよく見えなくなる先天性夜盲のうち、発症しても生涯進行しないタイプの総称。小口(おぐち)病、眼底白点症(白点状眼底)、狭義先天停止性夜盲症などを含みます。

夜盲症とも呼ばれ、俗に鳥目とも呼ばれる夜盲には、先天性夜盲と後天性夜盲があります。

先天性夜盲は遺伝性で、小口病のほか、眼底白点症(白点状眼底)、狭義先天停止性夜盲症、白点状網膜炎、網膜色素変性症などがあります。これらの先天性夜盲にはさらに、幼児期より徐々に発症して病状が進行する進行性夜盲と、発症しても生涯進行しない停止性夜盲とがあります。

一方、後天性夜盲は、ビタミンAの欠乏によって発症します。網膜にあって、夜間の視覚を担当するロドプシン(視紅)という物質が、ビタミンAと補体から形成されているため、ビタミンA不足は夜間視力の低下につながるのです。

後天性夜盲の場合は夜間や暗い場所で見づらくなることで気付きますが、先天性夜盲の場合は物心がつくころに気付くことが多く、生まれ付き視力障害が強い場合は、家族が気付いて眼科を受診することが多いようです。

先天性夜盲の一疾患であり、先天性停止性夜盲の一疾患でもある小口病は、小口氏病とも呼ばれ、1905年(明治38年)に、日本の眼科医である小口忠太が初めて報告しました。網膜のうちの弱い光を感ずる視細胞である杆体(かんたい)の機能不全による生まれ付きの夜盲のみが症状で、夜盲の程度は生涯進行しないとされており、明るい場所では視力、視野、色覚は通常正常といわれています。

遺伝形式は、常染色体劣性遺伝をとります。比較的まれな疾患ですが、日本では比較的多くみられ、夜間でも十分な明かりのある現代社会では、気付かずに生活していることもしばしばあります。

ただし、停止性と考えられていますが、50歳代以降で、ドーナツ状に見えない部分が生じる輪状暗点という視野障害を来す場合もみられます。

特徴は、はげかかった金箔(きんぱく)様と表現される特徴的な眼底の色調。眼科の医師が検眼鏡で調べると、眼底は汚い金箔様の色調を帯び、血管は赤黒く細く周辺部まで見えます。しかし、暗所に3〜4時間いると眼底の色調はすっかり消え、正常な色調に戻り、光覚もかなりよくなりますが、再び外に出ると、すぐに元通りになります。

眼底白点症(白点状眼底)は、網膜のうちの錐体杆体機能不全による夜盲で、眼底に無数の白点が散らばっているのが認められます。ほとんどは原因遺伝子RDH5の異常によって起こり、常染色体劣性遺伝形式をとります。

一般には、ある程度まで進むと停止するもので、夜盲の程度は生涯変わりませが、最近の研究では50歳を過ぎると錐体機能に影響する場合もあることがわかりました。

狭義先天停止性夜盲症は、網膜のうちの杆体のある部分の機能の欠落による夜盲で、極めてまれな疾患です。視野、色覚には異常がみられません。

生まれ付きの夜盲があるものの、進行しないため自分で気が付くことはまれで、5歳~10歳位で視力低下により眼科の医師に気付かれることがあります。眼底に異常は認めないため、全視野刺激網膜電図検査によってのみ診断可能となります。

遺伝形式は、X連鎖劣性遺伝を示すことが特に男児に多く、常染色体劣性遺伝を示すこともあります。

先天性停止性夜盲の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、視力検査、視野検査、暗順応検査(暗い場所で、どれだけ対応できるかを調べる検査)、網膜電位検査、眼底検査などを行い、どのタイプの夜盲であるのかを判定します。

小口病では、特異的な眼底所見、正常な視力、視野、色覚、網膜電位検査で正常な錐体細胞の反応と杆体細胞の反応低下を認めることで確定します。

現在のところ、小口病の有効な治療法はなく、暗順応を改善させる薬を内服したり、光刺激を防ぐ遮光眼鏡を使用したりといった程度にとどまります。しかし、視力低下、視野障害、色覚障害などは通常みられないため、予後は良好です。眼底白点症(白点状眼底)、狭義先天停止性夜盲症の場合も、同様です。

🇨🇴先天性銅代謝異常症

脳、肝臓、腎臓、目に銅が沈着してくる遺伝性疾患

先天性銅代謝異常症とは、体内に銅が沈着することにより、脳、肝臓、腎(じん)臓、目などが侵される疾患。ウイルソン病、進行性レンズ核変性症、肝レンズ核変性症とも呼ばれます。

常染色体劣性遺伝に基づく遺伝性代謝疾患であり、その発症の原因は、日常の食事で摂取された銅が肝臓から胆汁中へと、正常に排出されないことによります。

銅は微量元素の一つで、必須栄養素であり、過剰に摂取した場合、急性や慢性の銅中毒になります。その慢性銅中毒に、先天性銅代謝異常症はよく似ています。

食物中の銅は、十二指腸や小腸上部で吸収されて、肝臓に運ばれます。肝臓において、銅はセルロプラスミンと結合して銅結合蛋白(たんぱく)質となり、血液中に流れてゆきます。また、脳や骨髄など全身の諸臓器に必要量が分布し、過剰な銅は肝臓から胆汁中、腸管中に排出され、平衡を保っているのです。

しかし、先天性銅代謝異常症においては、この肝臓での銅代謝が障害されています。肝臓中に取り込まれた銅がセルロプラスミンと結合できないために、胆汁中へ銅が排出されず、肝臓にたまっていきます。そして、肝臓からあふれて血液中へ流れ出た銅が、脳、腎臓、目の角膜などへ蓄積します。

近年、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、先天性銅代謝異常症の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝臓に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれます。

先天性銅代謝異常症の発症率は、3~4万人に1人と見なされ、日本全国で1500人の患者がいるといわれています。発症率は、欧米諸国より高くなっています。年齢的には、3~15歳の小児期を中心に発症し、30~40歳で発症することもあります。

肝臓の症状は、疲れやすかったり、白目や皮膚が黄色くなったりして気付かれます。多くの場合は無症状で、血中GOT、GPTなど肝機能の異常を指摘され、発見されます。しかし、原因不明の急性肝炎とか慢性肝炎などと診断されることもあり、急激な肝不全状態となって、黄疸(おうだん)や意識障害などを生じ、急に死亡してしまうこともあります。肝障害は徐々に進行し、思春期過ぎには肝硬変になる場合が多くみられます。

脳の症状の多くは、思春期ごろから現れます。初期においては、言葉が不明瞭(めいりょう)になり、何かをしようとすると手指が震えたりして、字を書くことや細かい作業が下手になります。

さらに進行すると、表情が硬くなり、次第に歩くことができなくなり、ついには寝たきりになってしまいます。記憶力や計算力も鈍り、精神状態も不安定、無気力、うつ状態、統合失調症(精神分裂病)様の反応を示すようになります。

目の症状としては、黒目の周りに銅が沈着し、青緑色や黒緑褐色に見える角膜輪(カイザー・フライシャー輪)が現れます。この角膜輪が肉眼的にはっきり見えるのは、思春期過ぎです。

これらの多彩な症状は、すべての罹病(りびょう)者に出るのではなく、無症状期の発症前型、10歳以下の小児期に多い肝型、10歳以降に多くて年齢とともに増加する神経型、 神経型と同様の傾向を示す肝神経型に分かれます。治療しなければ進行し、ついには、死亡したり、荒廃したりします。

先天性銅代謝異常症の検査と診断と治療

先天性銅代謝異常症は、遺伝性代謝疾患のうちでは数少ない、治療可能あるいは発症予防可能な疾患です。遺伝性代謝疾患は、いわゆる難病とされ、治療が不可能なものが多いのです。幸い、常染色体劣性遺伝性の疾患である先天性銅代謝異常症は治療ができ、早期発見により発症を予防することもできるのです。

早期発見ためには、同じ疾患を持つ血族の有無も重要になります。兄弟姉妹を検査すると、25パーセントの確率で先天性銅代謝異常症であったりします。しかし、約30パーセントは突然変異で先天性銅代謝異常症が発症するため、家族や血族発生のないこともあります。

家族内検索により発見された小児の場合、発症前型に分類され、治療することにより日常生活や学校生活、就職などすべての面に渡って、正常者と同じ生活を維持することができます。

小児科、あるいは内科の医師による先天性銅代謝異常症の診断は、問診や臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量やセルロプラスミン濃度の低下、尿中排出量の増加、眼の角膜輪(カイザー・フライシャー輪)の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。

さらに、肝生検による組織診断、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などにより、診断が確定します。

小児科、内科の医師による治療法としては、銅を多く含む食事の制限を行う食事療法と、Dーペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン、メタライトといった銅排出促進藥(キレート薬)を服用する薬物療法が基本となります。

食事療法としては、生涯に渡って銅含有量の多い食物の摂取を制限して、1日1・5ミリグラム以下の低銅食を指導します。銅含有量の多い食物として挙げられるのは、貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など。

薬物療法としては、体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排出促進薬による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。この薬剤には副作用がありますし、生涯に渡って服用しなければなりません。

また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。

🇨🇴先天性トキソプラズマ症

動物の肉やネコの便を介して、原虫のトキソプラズマが妊婦に感染し、新生児に先天的な障害を招く疾患

先天性トキソプラズマ症とは、ほ乳類や鳥類に広く寄生するトキソプラズマが妊娠中の女性に感染して、胎盤を通じて胎児に移り、流産や死産、新生児の先天的な障害を招く疾患。トキソプラズマは単細胞の原虫の一種で、世界中に存在します。

トキソプラズマの妊娠中の女性への感染は、感染動物の肉を十分に加熱しないで食べたり、感染ネコのふんで汚染された土に触れ、その中に含まれるトキソプラズマが口に入ったりして起こります。

このトキソプラズマはさまざまな動物の組織で成長しますが、卵を産み付けるのはネコ科動物の腸の内皮細胞のみ。卵はネコなどの便に混じって排出され、土の中で最長18カ月間生き続けます。トキソプラズマの卵が入っている土に触った人が手を口に入れて感染する場合もあれば、卵がついている食べ物を介して感染する場合もあります。

時には、ブタなどの動物が土からトキソプラズマ症に感染することもあり、その感染した動物の肉を生や加熱調理が不十分な状態で人が食べて感染する場合もあります。冷凍するか、よく加熱すれば、トキソプラズマは死滅します。

女性が妊娠中に初めて感染した場合には、血液中に流入したトキソプラズマが胎盤を通して、胎児に感染することがあります。その結果、流産や死産の原因になるほか、生まれた新生児が水頭症や脳内石灰化、脈絡網膜炎といった視力障害、精神運動機能障害などを伴う先天性トキソプラズマ症になる可能性があります。特に妊娠初期は、胎児への感染率は比較的低いものの、障害の程度は重くなります。

先天性トキソプラズマ症の新生児は、重症で生後まもなく死亡することもあれば、何カ月もたってから症状が出ることもあります。場合によっては何年も症状が現れなかったり、一生発病しないこともあります。妊娠前に感染した場合は、寄生虫が胎児に感染することはありません。

先天性トキソプラズマ症は以前、日本ではまれな疾患と思われていました。しかし、日本小児感染症学会の調査により、全国の小児科施設で2006年から2008年の3年間に16人発生したことがわかりました。調査でのアンケート回収率が約45パーセントと低い上、流産や死産は含まれていないため、実際にはさらに多くの発生が存在するとみられます。

近年、レバ刺しやユッケといった肉の生食ブームなどを背景とした発生の増加も指摘されています。

免疫機能が低下している人、特にエイズやがんの人や、臓器移植を受けて拒絶反応を抑える薬剤を使用している人は、トキソプラズマ症を発症するリスクが高くなります。このような人たちの症状は、通常は過去に感染したトキソプラズマが再び活動を始めたことによるものです。

感染部位によってさまざまな症状が現れ、脳のトキソプラズマ症になると、半身の脱力感、言語障害、頭痛、錯乱、けいれん発作などが起こります。急性散在性トキソプラズマ症は、発疹(はっしん)、高熱、悪寒、呼吸困難、疲労を起こします。髄膜脳炎、肝炎、肺炎、心筋炎を起こす人もいます。治療しなければ、ほぼ100パーセント死亡します。

健康な人が後天的にトキソプラズマ症にかかった場合は、不顕性感染が多く、ほとんど症状は現れません。顕性感染となって症状が出ても普通は軽症で、痛みのないリンパ節のはれ、間欠性の微熱、はっきりしない体調の悪さなどです。脈絡網膜炎が単独で起こり、視力障害、目の痛み、光過敏性を伴うこともあります。

先天性トキソプラズマ症の検査と診断と治療

内科、小児科、産婦人科の医師による診断では通常、血液検査でトキソプラズマに対する抗体を調べます。ただし、エイズで免疫機能が低下している人は、血液検査で偽陰性が出ることがあるので、医師は脳のCT検査とMRI検査に基づいて診断します。まれに、トキソプラズマの感染部位の組織片を採取し、顕微鏡で調べて診断する生検を行うこともあります。

内科、小児科、産婦人科の医師による診断では、妊娠中の女性の感染が疑われた場合には、胎児への感染を防ぐ抗生物質のアセチルスピラマイシンを早期投与すると、重症の新生児を減らせます。

感染していても、症状がなくて免疫機能が正常な成人の場合には、治療の必要はありません。症状がある場合は、抗寄生虫薬のスルファジアジンとピリメタミンの併用で治療し、ピリメタミンの副作用から骨髄を保護するために抗がん薬の補助剤であるロイコボリンを追加します。脈絡網膜炎の治療には、抗生物質のクリンダマイシンと併用して、炎症を鎮めるためにプレドニゾロンなどのステロイド剤を使います。

エイズ患者の場合、トキソプラズマ症は再発する傾向があるので、投薬は期限を決めずに行うことが多くなります。トキソプラズマ症を予防するため、トリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST合剤)の予防投与を行うこともあります。

予防としては、ネコはしばしば庭や砂場をトイレにすることがあるため、妊娠中に庭いじりをしたり、土や砂に触れるような時には、手袋やマスクの着用します。土や砂に触れた後、食事や料理の前には、水とせっけんでよく手を洗い流します。また、ネコのトイレを屋内に設置している場合には、その掃除をするのはやめるか、掃除をする際には手袋やマスクを着けるなどの注意が必要です。

ブタ、ウシ、トリ、ヒツジなどの肉は、中心が67度になるまで十分に加熱調理したものだけを食べるようにします。とりわけ未感染の妊婦は、レバ刺しや馬刺し、ユッケ、レアステーキ、生ハムなど、加熱不十分の肉を口にしてはいけません。

🇨🇴新生児落屑

新生児の皮膚がポロポロと剥がれ落ちる状態

新生児落屑(らくせつ)とは、新生児の皮膚の表面がカサカサになってむけ、はがれ落ちる状態。新生児皮膚落屑とも呼ばれます。

まるで脱皮のように古い皮膚がポロポロと落ちて、その下から新しい皮膚が現れます。体のいろいろなところから始まり、全身の皮がむけるまで続きます。

これは新生児にみられる生理現象なので、心配する必要はありません。生後1~2日から生後1カ月のうちに起こり、はがれ始めたら1~2週間程度ですべてはがれ落ちるのが、一般的です。

新生児落屑の原因は、母親の胎内の中から外の世界に出てきたことによる環境の変化だと考えられています。胎児の時は母親の胎内の中で温かな羊水に包まれているため、皮膚は常に潤っている状態ですが、外の世界に出た瞬間から空気や光に触れて皮膚が急激に乾燥していきます。

生まれた当初は、胎脂(たいし)と呼ばれる保湿機能を持つ成分が体の表面を覆っているため、急激な乾燥から皮膚を守ってくれます。生後、日数が経つにつれて胎脂の水分は蒸発し目立たなくなっていきますが、その保湿機能はもう少し長く働いてくれます。

やがて胎脂の付着が減ってゆくと、皮膚が乾燥していき、顔や手の皮膚までがポロポロと落ちる新生児落屑が起こります。

中には新生児落屑が現れない新生児もいますが、それは母親の胎内にいる時から胎脂が落ちて、皮膚もむけてしまっているからだと考えられるので、心配はいりません。

新生児落屑に対しては、特別なケアは必要ありません。一見すると乾燥しているようなので、ベビーローションなどで保湿したくなりますが、こらえて様子をみましょう。新生児が母親の胎内から出て、外界への環境変化に対応している途中なので、まずは何も塗らないことです。

落屑の量が多くて気になるようなら、沐浴(もくよく)時にガーゼで軽く洗って落としてあげましょう。ただし、自然にはがれてくるものなので、強くこすったり、手でつまんだり、無理やり引っ張ってはがすのは禁物です。下から現れる新しい皮膚はとても薄いので、新しい皮膚まではがれてしまうこともあります。

新生児落屑であれば、わざわざ産科、または小児科か皮膚科に行く必要はありません。生理的な現象なので、治療する必要もないからです。

ただ、新生児落屑を無理にはがしてしまって、新しい皮膚までむけてしまったような時は、皮膚炎を起こす可能性もあるので、一度、産科、または小児科か皮膚科を受診しましょう。

また、新生児落屑が長く続くような場合は、注意が必要です。本来であれば新生児落屑は1~2週間程度で終わるので、2週間以上続くような場合はなんらかの皮膚の疾患を発症している可能性があるからです。

極めてまれですが、全身の皮膚がうろこ状になってしまう先天性魚鱗癬(ぎょりんせん)のような疾患は、新生児落屑に似ていることがあるため注意が必要です。

>新生児の皮膚はまだ完成されたものではないので判断がつきにくいですが、少しでも違和感があるようなら産科、または小児科か皮膚科を受診すれば安心です。

🇻🇪新生児涙嚢炎

生まれ付き涙の排出がうまくいかないために、涙が集まる涙嚢に炎症が起きる疾患

新生児涙嚢(るいのう)炎とは、生まれ付き涙の排出がうまくいかないため、目の内側と鼻の間で、下まぶたに近い部分にある涙嚢という袋に炎症が起きる疾患。

涙は目じりの側の上まぶたの外方にある涙腺(るいせん)で作られ、それが常に結膜や黒目の表面を潤して、上まぶたと下まぶたの内側の縁に各1個ずつある涙点から涙小管と呼ばれる細い管に入って、涙嚢に集まります。さらに、鼻涙管を通って鼻腔(びこう)に抜けて出ます。

ところが、新生児によっては、鼻涙管から鼻腔に通じる部分に膜のようなものが残っていることがあります。これを先天性鼻涙管閉塞(へいそく)と呼び、涙が鼻に流れることができないため、目にたまり、外にこぼれます。

涙嚢にいつも涙がたまるようになると、細菌が繁殖しやすくなるため、炎症を起こすことがあります。これが新生児涙嚢炎です。新生児はもともと鼻涙管が細いため、鼻涙管閉塞を起こしていない正常な新生児が新生児涙嚢炎になることも、よくあります。

新生児涙嚢炎が進むと、涙嚢の部分がはれて、触ると痛がり、目やにが多く出ます。涙嚢を圧迫すると、膿(うみ)が出てくることもあります。

新生児が生まれて間もなくから目やにが多く、いつも涙を浮かべているような状態が認められた時は、お湯に浸した清潔なガーゼでこまめに目やにふき取り、様子を見守ります。こうしたケアで治まれば心配いりません。

しかし、目がはれたり、赤くなったり、目頭を圧迫すると膿が出てくるようなら、眼科を受診することが勧められます。

新生児涙嚢炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断ではまず、目頭にある涙点から生理食塩水を注入する涙管通水検査を行います。正常であれば、生理食塩水が鼻の奥に通過してゆくことが確認できますが、生理食塩水が涙点から逆流する場合は、先天性鼻涙管閉塞であると診断することができます。

さらに、逆流した生理食塩水の中に膿が多く含まれている場合は、涙嚢炎まで合併していると判断できます。

眼科の医師による治療では、抗生物質の点眼や内服を行います。点眼した薬をよくゆき渡らせるためと、たまった膿を排出する目的で、涙嚢のマッサージも同時に行うと効果的です。

炎症がある程度治まっも、点眼は続けて行い、再発を予防します。

根本的に治療するためには、鼻涙管閉塞を解消します。自然治癒も期待できますが、もし自然に開通しない場合には、ブジーという細い針金のようなものを涙点から挿入し、涙嚢から鼻涙管に通して、膜様の閉塞部分を突き破るようにします。

この処置で鼻涙管が開通できないことがごくまれにあり、この場合は涙嚢から鼻腔へ涙の道を作る手術を行うこともあります。

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