2022/08/14

🇬🇩慢性腸炎

腸の粘膜に慢性的な炎症が生じ、便通異常を起こす疾患

慢性腸炎とは、腸の粘膜が長期間に渡って炎症を起こしている疾患。主に大腸が侵されることが多く、小腸炎はまれです。

この慢性腸炎になると、飲食物の栄養分の腸での吸収が十分に行われないで、便に出てしまいます。そのため、腸内での発酵が起こったり、腐敗が起こったりします。

主な症状は、急性腸炎と同様に下痢です。主に朝、または夜に下痢があり、日中には何ら異常が起きない場合もあります。下痢と便秘が交互に起こることもあります。下腹部に軽い腹痛が起こり、腹がよく鳴ったり、おならがよく出ることもあります。

排便には1日数回行くことが多く、軟便もあれば水様便もあるというように、便の状態がいろいろで、粘液や血液が混じることもあります。時には、肉眼で見られるような血液が混じっていることもあります。小腸下部から盲腸に炎症が限局している時は、出始めの便は硬く、終わりになるにつれて軟らかくなることがあります。

また、毎食後必ず便意を催すような人もあります。食後まもなく、へその回りや左下腹部に短時間の痛みが起こり、便が出ると一時的に楽になりますが、排便後に衰弱感、脱力感、倦怠(けんたい)感があります。

こういった症状が長く続くと、不安を抱いたり、神経質となって頭重、めまい、動悸(どうき)、不眠などを起こし、無気力になることもあります。栄養状態は比較的侵されないものの、子供や老人では衰弱してしまうことがあります。

慢性腸炎の原因としては、まず感染症が挙げられ、腸結核、かびの一種の放線菌によって起こる化膿(かのう)性の放線菌症、病原性アメーバの感染によって起こるアメーバ赤痢、胆管や腸内に寄生するランブル鞭毛(べんもう)虫によって起こるランブリア症などがあります。

感染症以外では、急性腸炎にかかった時の治療が不十分で、不摂生や精神的ストレス加わって起こります。時には、胃や肝臓、膵(すい)臓、心臓などの疾患から直接、間接に腸が刺激されて起こることもあります。そのほか、薬剤性腸炎によるもの、化学物質によるもの、放射線障害などによるものもあります。

原因がまだわかっていないものも多く、非特異性炎症性腸炎と呼ばれ、潰瘍(かいよう)性大腸炎やクローン病などがそれに相当します。

そのほか、薬剤性腸炎、化学物質によるもの、放射線障害などによるものもあります。

慢性腸炎の合併症として、しばしばビタミン欠乏症が起きます。生野菜や果物を食べると下痢を起こし、ビタミンの吸収が悪くなります。ことにビタミンB2、ビタミンCの欠乏のために、舌や口の中に変化を起こしたり、口角炎なども起こしやすくなり、重症では体重が急激に減少することがあります。ビタミン以外の栄養障害で、貧血を起こしたり、リウマチ様関節炎を合併することもあります。

慢性腸炎の検査と診断と治療

慢性腸炎の症状が長く続くと、不安を抱いたり、神経質となって頭痛やめまいまで起こす場合もありますので、早いうちに内科の専門医を受診します。

医師による診断では、便の検査が最も重視されます。色調、形、内容物の状態、血液が混じっているかどうかなどを調べ、さらに顕微鏡で、不消化の状態、寄生虫や原虫の有無などを調べます。細菌については培養して確定診断をしますが、培養に日数を要するものもあります。

そのほか、腸のX線検査、大腸内視鏡検査が行われることもあります。

ほかに似たような症状が現れる疾患として、過敏性腸症候群や吸収不良症候群などがあります。

原因によって、治療法が異なります。感染症の場合は、それに適応する抗生物質が用いられます。副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)も用いられます。

慢性腸炎を防ぐには、規則正しい食生活やストレスをためない生活習慣を心掛けることが基本となります。

食事時間を規則正しくし、刺激の少ない、消化のよい食品を選びます。脂肪の多い豚肉や牛肉、それに繊維の多い果物や生野菜は避けるようにします。冷たい物、アルコール、濃い茶、コーヒ ー、刺激物なども避け、食品の調理では熱すぎず、冷たすぎず、味付けも濃すぎず、辛すぎず、酸っぱすぎずを基本とします。

睡眠を十分にとること、タバコをやめること、おなかを温めること、寝冷えを防ぐことも大切で、スポーツやレクリエーション、趣味などによるストレス解消法を考えることも大切です。

ただし、完全に治るまでには長期間を要しますので、あまり神経質にならないようにします。

🇧🇧慢性白血病

緩やかに進行する白血病

慢性白血病とは、血液のがんともいわれる白血病が緩やかに進行する疾患。白血病とは、未熟な細胞である白血病細胞が骨髄の中で異常に増殖するため、正常な血液細胞の増殖が抑えられてしまう疾患で、血液が白く見えます。

慢性と急性に大別される白血病の原因は不明ですが、放射線被曝(ひばく)やある種の染色体異常、免疫不全症がある場合に、発症頻度が高いことが知られています。慢性白血病は、その増殖している白血病細胞の種類が骨髄系の細胞か、リンパ球系の細胞かによって、慢性骨髄性白血病と慢性リンパ性白血病に分類されます。

白血病全体のうち、慢性白血病が約4分の1を占め、4分の3が急性白血病です。慢性白血病のほとんどは慢性骨髄性白血病で、慢性リンパ性白血病はわずか数パーセントといわれています。慢性白血病は、主として成人に発症します。

ここでは、慢性骨髄性白血病について解説します。慢性骨髄性白血病は、いつ発症したのかはっきりしないことが多く、また、ゆっくりと進行します。貧血、体のだるさ、脾臓(ひぞう)あるいは肝臓部のしこりを訴えて、医療機関を受診する人もいますが、定期検診や、ほかの疾患の検査で偶然に発見されることも少なくありません。

慢性白血病の検査と診断と治療

慢性骨髄性白血病は、血液検査、骨髄検査で診断します。正常なら骨髄の中だけにある未熟な白血球が、骨髄だけでなく血液の中でも多数認められ、血小板も増加しています。また、骨髄では未熟な赤血球が極端に減少し、対照的に白血球が充満しています。

染色体を検査すると、フィラデルフィア染色体という特殊な染色体が大部分の症例で見付かり、診断の決め手となります。

慢性骨髄性白血病の治療では、急性白血病のように強力な化学療法は行わず、外来で経口投与する抗がん剤によって、血液中の白血球数を抑えて、コントロールします。化学療法の進歩によって、ほぼ100パーセントの症例で寛解(かんかい)させることができますが、最後は急性白血病に変わっていくことが少なくありません。

慢性骨髄性白血病には近年、画期的な分子標的薬剤のグリベックが開発されました。グリベックはフィラデルフィア染色体上にある、この疾患の原因遺伝子のBCRーABLが産生するチロシンキナーゼの働きを特異的に阻害する薬剤。

グリベックは、インターフェロンに耐性化した発症者での第1ー2相研究で著効を示し、次いで行われた現在の標準的治療のインターフェロンとキロサイドの併用療法との比較研究で、これより優れた成績を示しました。このため、インターフェロンに耐性のある症例だけでなく、慢性期の症例への第1選択の薬剤となりました。

加えて、グリベックは増悪期、急性転化症例にも有効です。経口で投与でき、副作用が比較的軽度なので、外来で治療可能です。

しかし、ドナーのある場合は、骨髄移植が依然として治癒を狙う第1選択の治療戦略です。

🇧🇧慢性鼻炎

慢性鼻炎とは、鼻粘膜が炎症を起こした状態が長引いている病気のことです。普通、急性鼻炎を繰り返しているうちに慢性化すると見なされますが、はっきりと急性鼻炎の症状がないのに、いつの間にか慢性鼻炎になるケースもあります。

慢性鼻炎には、粘膜が赤く腫(は)れている状態が続く単純性鼻炎(鼻カタル)と、炎症が長引いて粘膜が厚く、硬くなった肥厚(ひこう)性鼻炎があります。アレルギー性のものや、副鼻腔(ふくびくう)炎を伴うものは、含みません。

局所的な原因としては、機械的刺激の反復、細菌の感染、副鼻腔炎、アデノイド(増殖性扁桃肥大症)などと関係があるとされています。全身的な原因としては、風邪のほか、糖尿病、肝臓病などの病気、アレルギー体質が指摘されています。

症状としては、鼻詰まり、嗅覚(きゅうかく)障害、鼻漏(びろう)、前頭部の頭痛などがみられるほかに、鼻部の不快感、イライラ感、鼻出血なども生じることがあります。

単純性鼻炎の場合の鼻詰まりは、片側のみ、あるいは左右交代に起こります。肥厚性鼻炎の場合の鼻詰まりは、常に両側に起こります。鼻漏は粘性が多く、鼻がかみきれないこともあります。また、鼻漏がのどに落ちる、すなわち後鼻漏(こうびろう)もよく起こります。

単純性鼻炎の治療では、薬物療法が中心で、鼻にネブライザーなどで薬を入れたり、薬を内服したりします。局所に血管収縮薬を用いると、鼻の粘膜の腫れがひき、鼻詰まりは改善されます。

肥厚性鼻炎になると、血管収縮薬でも改善しなくなるため、症状が強いケースでは手術療法も行われます。肥厚した粘膜を電気やレーザーで焼いて取り除いたり、鼻甲介(びこうかい)の切除が行われます。

🇧🇧ボックダレック孔ヘルニア

横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔の臓器が胸腔へ脱出

ボックダレック孔ヘルニアとは、横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔(ふくくう)内の臓器が胸腔内に入り込んだ状態。先天性の横隔膜ヘルニアの一つで、胸腹裂孔ヘルニア、後外側ヘルニア、後外側裂孔ヘルニアなどとも呼ばれます。

先天性の横隔膜ヘルニアの中でも、穴の位置や大きさによってはほとんど症状や障害を起こさないものがありますが、ボックダレック孔ヘルニアは横隔膜の後ろ外側に穴があるタイプで、多くは生まれた直後から呼吸困難など生命にかかわる重大な症状を来します。新生児2000〜3000人に1人の割合で、認められています。

横隔膜は、肺の下に位置していて胸腔と腹腔を区切る膜で、上のほうは胸膜、下のほうは腹膜で覆われています。この筋肉層の丈夫なドーム状の膜である横隔膜が上下することによって、呼吸ができます。

胎児が母胎にいる時、次第に横隔膜が形成されてきて、妊娠2カ月半ころにはしっかりと横隔膜が胸腔と腹腔を区切るのですが、何らかの原因で横隔膜の後外側孔(ボックダレック孔:解剖学者の名前)がきっちりと閉じ切らないことがあります。このころは、腹腔の外に一度出ていた腸などの臓器が腹腔の中に戻って来る時期で、穴があると臓器が胸腔に入り込むことになり、横隔膜が閉じようとしても脱出した臓器がじゃまをして閉じられなくなってしまいます。

小腸、大腸、胃、脾(ひ)臓,肝臓などたくさんの臓器が胸腔に入り込むと、穴の開いていない側の肺も圧迫され、肺の発達が両側とも障害され、生まれてからひどい呼吸困難を来すこととなります。横隔膜にできる穴はどちらの側にも発生しますが、左側が75パーセントと多く、時には片側の横隔膜がほとんどできていないこともあります。

症状の程度は、発症の時期により異なります。胎児の場合はへその緒から酸素をもらっているので平気なのですが、出生後は自分で呼吸しなければならないため、多くの場合は重症の呼吸不全、高度のチアノーゼを伴った多呼吸が認められます。胸部は膨らんで盛り上がり、逆に、うまく空気が回らない腹部はへこんでいるのも特徴です。呼吸障害が強く、出生直後から人工呼吸管理が必要になります。

特殊な例としては、出生直後には呼吸器症状は示さず、年長になってから、風邪をひいて強いせきをした時や腹部を打撲した時に発症する場合があります。これを遅発性といい、速やかに手当てを受ければほぼ助かります。

ボックダレック孔ヘルニアの検査と診断と治療

先天性でボックダレック孔ヘルニアを持って生まれてくる場合、大抵は胎児が母胎の中にいるうちに医師が胎児超音波検査で気付き、早期に帝王切開で出産することになります。

成長すればするほど脱出した臓器が胎児の肺を押しつぶし、危険な状態になっていくからで、出生直後から人工呼吸管理を行った上で、体の血液循環を安定させ、できるだけ早期に、手術に耐えられるようになった時点で速やかに、生育時に閉じ切れなかった横隔膜を閉じる手術が行われます。

すべての医療機関で可能な方法ではないものの、人工肺(ECMO)という特殊装置を用いて新生児の血液循環を改善させてから、手術が行われることもあります。横隔膜の欠損が大きい場合は、人工膜を使用して横隔膜の形成手術が行われます。

しかし、最高の環境で早期に手術が行われても、生存率は芳しくないのが実情です。出生後24時間以内の発症例は予後が悪く、救命率は約50パーセント程度と見なされています。出生後1日以上を経過してから呼吸障害などでボックダレック孔ヘルニアが見付かっ場合や、生後たまたま他の疾患の検査時に見付かった場合は、肺の発育が良好なため、治療成績は格段に良好です。

年長になってから発症する遅発性ボックダレック孔ヘルニアでは、100パーセント救命されます。

🇹🇹発作性上室性頻拍

突然に脈拍が速くなり、突然に元に戻るのを特徴として、動悸を感じる不整脈

発作性上室性頻拍とは、突然に脈拍が速くなり、しばらく続いた後に突然止まる不整脈。

正常な状態では、右心房の上部にあって、心臓が鼓動するリズムを作っている洞結節から発生した電気信号は一方通行で、心臓の隅々まで伝わって消えてゆきます。次の脈は、新たに洞結節から発生した電気信号によって生じます。

ところが、何らかの原因で異常な電気回路ができたり、先天的に余分な電気回路があったりすると、突発的に電気信号の旋回(空回り)が始まることがあります。

原因となる電気回路がある場所は、大きく分けて3つあります。心房と心室をつなぐ結び目に当たる房室結節付近に電気回路がある房室結節回帰性頻拍が、最も多いものです。

また、正常な状態では、心房と心室をつなぐ電気回路は1本だけですが、それ以外に先天的に電気回路が別にできている場合があります。頻脈発作が出ていない時に特徴的な心電図の波形が出るWPW症候群と呼ばれるものも、その1つです。この場合、正常な電気回路と異常な電気回路を使って、心房と心室の間を電気信号が大きく回る房室回帰性頻拍というものが起こります。これが、2番目に多いものです。

それ以外の部位で電気信号が小さく回るものや、異常な電気信号を一部の心筋細胞が発生させる心房頻拍というものがありますが、発作性上室性頻拍の1割程度を占めるのみです。

発作性上室性頻拍が起こると、動悸(どうき)がして息苦しくなります。脈拍数は大抵1分間に150回以上になり、タッタッタッと規則的な動悸が起こります。

多くの病的な頻脈は、徐々に脈が速くなるのではなく、頻脈発作の開始と同時に一瞬で脈が速くなり、止まる際も一瞬のうちに止まるという特徴があります。発作が起こると、急に激しい勢いで心臓が動き始めるため、血流に十分な圧力をかけられなくなって血圧が下がります。そして、冷や汗やめまい、息切れ、失神を起こしたりします。動悸は、めまいの後で自覚することが多いようです。

発作性上室性頻拍は、普段規則正しく打っている脈が不規則なリズムになる期外収縮を切っ掛けにして、電気信号の旋回が始まります。そのため、期外収縮の少ない若年者には頻脈発作が起こりにくいのですが、中年以降になると頻脈発作が起こりやすくなります。

重症な心臓の病気がなく、頻脈発作の頻度が多くない場合には、息をこらえて強く胸と腹に力を入れる、冷たい水を飲む、冷たい水に顔をつける、くしゃみやあくびを繰り返すなどの迷走神経の刺激で頻脈発作を止める処置が、自宅で可能で安全に行えるものです。

繰り返し症状が現れる場合や、生活に支障が出るほど強い動悸や不快感が現れる場合は、循環器科、循環器内科、もしくは不整脈専門の不整脈科、不整脈内科を受診することが勧められます。

発作性上室性頻拍の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による診断では、頻脈発作時の心電図検査で発作性上室性頻拍と確定できます。頻脈発作時の心電図がない場合は、24時間ホルター心電図で検査することがあります。

いずれの場合も、検査中に頻脈発作が起こってないと診断できません。そこで、症状が非常に疑わしい場合は、電気生理検査を行うことがあります。鼠径(そけい)部などから細いカテーテルと呼ばれる電極を心臓に挿入し、電気の通り道を調べるもので、発作性上室性頻拍の原因を探索できます。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による治療では、あまり発作が起こらず、発作時の症状も軽い人の場合、抗不整脈薬で予防します。

いったん発作が起こり始めると、内服剤では発作を停止できず、発作が長く続く場合は、注射による治療を行います。

よく発作が起こり、発作時間が長く、発作時の症状も強い人の場合、経皮的カテーテル心筋焼灼(しょうしゃく)術(カテーテル・アブレーション法)を行い、病気そのものを根本的に治療することもあります。鼠径部などから体内に挿入した細いカテーテルの先端から高周波電流を流し、心筋の原因組織を焼き切って正常化します。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。

🇹🇹ホットフラッシュ

ホットフラッシュとは、女性の更年期障害の代表的な症状の一つで、のぼせ、ほてりのこと。突然、顔や体がカーッと熱くなり、ほおが赤くなったり胸がドキドキしたり、顔などに大量の汗をかくこともあります。

症状は気温、昼夜を問わず、何の前触れもなく、1日に何度も起こったり、数日に1回だったりと予測ができません。

自律神経のバランスが乱れて、血管を収縮させたり拡張させる働きがうまくいかなくなることで起こると考えられています。

このホットフラッシュは更年期の初期にみられることが多く、閉経女性の40~80パーセントに認められ、1~数年間続き、長期に渡る場合もあります。しかし、そのうち治療を要するものは25パーセントとされています。

医師による治療では、エストロゲンによるホルモン補充療法(HRT)により、自律神経性の更年期障害は約1カ月で症状の改善をみることができます。

🇹🇹ヘルペス脳炎

 

単純ヘルペスウイルスの感染によって起こる脳炎

ヘルペス脳炎とは、単純ヘルペスウイルスの感染によって起こる重い急性脳炎。単純ヘルペス脳炎とも呼ばれます。

小児、成人、高齢者とすべての年代に起こり、とりわけ成人での発症頻度が高い疾患です。日本では年に約400例という発症頻度で、時期的な集中はみられません。

主として単純ヘルペスウイルス1型(口唇ヘルペス)の感染によって、ヘルペス脳炎は起こります。単純ヘルペスウイルス2型(性器ヘルペス)の感染では、良性の脊髄(せきずい)炎、髄膜炎が起こるのが一般的です。

有り触れて共存的なヘルペスウイルスが重いヘルペス脳炎を起こす原因は、よくわかっていません。ヘルペスウイルスの上気道感染に続いて嗅(きゅう)神経を経由し、あるいは血液に運ばれて、好発部位である側頭葉・大脳辺縁系に侵入し、出血性壊死(えし)の傾向を示しながら脳を破壊すると推定されています。

成人と高齢者のヘルペス脳炎の発症については、三叉(さんさ)神経節などの中枢神経系に潜伏していたヘルペスウイルスが、風邪や疲れなどで体の抵抗力が落ちた際に突然、出てきて暴れ出すとも推定されています。

風邪の症状で始まり、40℃以上の発熱、頭痛、けいれん発作、意識障害、異常行動、性格の変化、知能障害、言語障害、運動まひなどが現れます。重症になると、ものが飲み込めなくなる嚥下(えんげ)障害や呼吸障害が現れ、昏睡(こんすい)に陥り、生命にかかわります。

死亡率は20〜30パーセント、治療せずに放置した場合の死亡率は60~70パーセントとされています。発症早期の治療が極めて重要なので、おかしいと思ったらすぐに神経内科、内科、小児科などを受診し入院すべきです

ヘルペス脳炎の検査と診断と治療

神経内科、内科、小児科の医師による診断では、血液や脳脊髄液を調べ、単純ヘルペスウイルス1型の感染の証拠が得られれば判断できます。実際には、検査結果が出るまでに日数がかかるので、症状のほか、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、脳波検査などの結果から判断します。

神経内科、内科、小児科の医師による治療では、急性期における単純ヘルペスウイルス1型の増殖を抑えるため、抗ウイルス剤のアシクロビル、ビダラビン、バラシクロビルなどを投与します。

二次感染を予防する意味でペニシリン系、セフェム系の抗生剤を投与し、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤を併用することもあります。その他は対症療法を適切に行います。

脳の破壊が進む以前の早期に抗ウイルス剤を使用すれば、記憶障害、行動異常、症候性てんかんなどの後遺症を残さずに治すことが可能です。単純ヘルペスウイルスに対する特効薬である抗ウイルス剤の導入以後、死亡率は10パーセント以下に減り、約半数の社会復帰例がみられています。

🟥「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルス、国内でも確認

 海外で拡大している「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルスが国内でも確認されたことが、国立健康危機管理研究機構の解析でわかった。専門家は「免疫を持っている人が少なく、感染が広がりやすい可能性がある」として注意を呼び掛けている。  季節性インフルエンザとして流行する「H3」...