2022/08/15

🇹🇴特発性骨髄線維症

骨髄の中に線維が増え、骨髄での造血が低下する状態

特発性骨髄線維症とは、骨髄の中に線維が増え、骨髄での造血が低下する状態。原発性骨髄線維症とも呼ばれます。

この特発性骨髄線維症は、慢性骨髄増殖性疾患というグループに属する血液腫瘍(しゅよう)で、同じグループには慢性骨髄性白血病、真性多血症、本態性血小板血症が属しています。

血球である赤血球、白血球、血小板の産生、すなわち造血は、成人では骨髄で行われます。しかし、胎児の時期には、肝臓や脾臓(ひぞう)で造血が行われています。特発性骨髄線維症では、腫瘍細胞によって骨髄に線維化という変化が起こるため、造血が肝臓や脾臓で行われるようになり、その結果、肝臓や脾臓が次第に大きくなって、肝脾腫といわれます。特に、脾臓は非常に巨大になり、腹腔(ふくくう)の半分以上を占めるほどになることもあります。

脾臓や肝臓で赤血球や白血球が作られた場合、骨髄で作られたものと少し違って、若い細胞が血液に出てきたり、普通はみられない変形したものがみられたりします。初期では白血球数が増加し、慢性骨髄性白血病と同じように若い細胞から成熟した細胞まで、すべての段階の白血球が認められるのが特徴です。さらに、若い赤血球系の細胞や変形した赤血球も認められます。

特発性骨髄線維症の症状としては、貧血や白血球数の増加のほか、初期には血小板数も増加する傾向があります。一般的に進行は緩慢ですが、進行すると逆に貧血や血小板数の低下が著しくなります。一部の例では、急性白血病と類似した症状を示す急性期へと進展することがあります。

脾臓のはれによる腹部の圧迫感、膨満感が、比較的多く現れます。一方、無症状の段階で健康診断などにより、血液検査のデータの異常を指摘されて発見されることも、しばしばあります。貧血が進行すると、倦怠(けんたい)感、動悸(どうき)、息切れなどの症状が目立つようになります。血小板数が低下すると、皮下出血、鼻血、歯肉出血などの出血症状を認めます。

骨髄に線維化を起こす腫瘍細胞が発生する原因については、詳しくはわかっていません。しかし、約半数の例では真性多血症と同じJAK2遺伝子の異常が認められており、この異常が発症にかかわっていると考えられています。慢性骨髄性白血病と異なり、フィラデルフィア染色体の形成は認められません。また、いわゆる遺伝性疾患ではなく、子孫への影響はありません。

特発性骨髄線維症の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、骨髄の組織の一部を採取して調べる生検により骨髄の線維化を証明することで、特発性骨髄線維症と確定します。骨髄の線維化は、白血病や悪性リンパ腫などのほかの血液腫瘍、あるいはがんの骨髄転移によっても起こり、膠原(こうげん)病や結核などが原因になる場合もあるので、これらの疾患を除外する必要があります。

骨髄穿刺(せんし)によって骨髄液を採ろうとしても、線維が増えているために骨髄液を十分に採ることができません。

一方、特発性骨髄線維症の初期段階では、若い細胞が血液に出てきたり、普通はみられない変形したものがみられたりするため、慢性骨髄性白血病と血液検査のデータが類似し、判別が難しいことがあります。慢性骨髄性白血病と判別するためには、骨髄生検の結果のほかに、フィラデルフィア染色体およびBCR/ABL遺伝子を認めないこと、一般的に好中球アルカリフォスファターゼ活性が低下しないことが重要になります。

内科の医師による治療では、根本的な治療法はまだ確立されていないため、専ら対症的に治療を行うことになります。症状に応じて、経口抗がん薬の投与や輸血療法などが選択され、条件が整えば、治癒を目的として行われる唯一の方法である造血幹細胞移植も考慮されます。

白血球や血小板の増加が著しく、脾臓のはれが目立つ場合に、メルファラン(アルケラン)、ハイドロキシウレア(ハイドレア)などの経口抗がん薬が使用されます。脾臓のはれのための圧迫感や痛みがある場合には、手術による脾臓の摘出や脾臓への放射線治療なども考慮されます。貧血や血小板減少が進行した場合には、輸血療法が行われます。

通常では50歳以下の年齢であること、白血球の型が一致したドナーがいることなどの条件が整えば、造血幹細胞移植が選択肢の一つとなります。しかし、移植に伴う合併症の危険についても十分に考慮する必要があり、その適応は慎重に検討されなければなりません。発症者には比較的高齢者が多いため、移植時に行う前処置の治療毒性を軽減した非破壊性造血幹細胞移植も試みられています。

経過はさまざまなものの、約15〜20パーセントの発症者では、急激に悪化して急性白血病などに移行します。この場合は治療が極めて難しく、予後不良です。

食事、運動、旅行など日常生活全般についての制限はほとんどありませんが、定期的に血液検査を受けることが必要です。脾臓のはれがある場合には、腹部の圧迫などに注意します。また、薬剤の副作用が疑われるような症状が現れた場合には、速やかに医療機関を受診する必要があります。

🇹🇴特発性色素性紫斑

下肢に点状の紫斑ができ、慢性化して褐色調の色素斑ができる皮膚疾患

特発性色素性紫斑(しはん)とは、点状の紫斑が主に下肢にたくさんでき、慢性化するうち、次第に褐色調の色素斑をみるようになる皮膚疾患。慢性色素性紫斑とも呼ばれます。

中年以降の人に好発し、やや男性に多くみられます。時に小児、若年者にもみられます。皮膚に出血がみられますが、血液学的に異常はなく、内臓などの全身臓器からの出血はありません。予後も心配ありません。

いくつかの型があります。不規則な斑(まだら)ができるシャンバーグ病、環状の斑ができる血管拡張性環状紫斑(マヨッキー紫斑)、丘疹(きゅうしん)状の皮疹をみる紫斑性色素性苔癬(たいせん)状皮膚炎、かゆみの強い瘙痒(そうよう)性紫斑などです。

いずれも真の原因は不明ながら、微小循環障害と血管壁の弱さが関係するものと考えられます。症状の違いが何によるのかは、今後の解明を待たねばなりません。シャンバーグ病の原因については、うっ血による静脈内圧の高進や毛細血管を脆弱(ぜいじゃく)化する要因が存在するという説などがあります。また、何らかの遅延型過敏反応であるという説もあり、衣類の接触、扁桃(へんとう)炎などからの病巣感染、ある種の薬剤の関与などを指摘する報告などがあります。

特発性色素性紫斑は基本的に下肢、特に下腿(かたい)の裏側が好発部位で、おおかたは両脚に発症します。点状の紫斑で始まり、毛細血管が拡張し、次第に進行して大小の紅褐色の斑となります。大きくなると、辺縁は不規則な形になりますが、境界は明白です。色はやがて薄れてゆきますが、しばしば新生を繰り返して慢性化し、数年に渡ることもあります。紅褐色の斑が大腿、腰臀(ようでん)部へと拡大することもあります。

表面は平滑ですが、時にはカサカサしている場合もあり、かゆみを伴うこともあります。シャンバーグ病では、斑と斑の間に拡張した静脈あるいは静脈瘤(りゅう)の存在が認められることがあります。

特発性色素性紫斑に気付いたら、疾患を正しく把握するためにも、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の医師に相談してみることが勧められます。

特発性色素性紫斑の検査と診断と治療

皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の医師による診断では、出血傾向の一般検査を行ない、血液学的に異常をみないことを確認します。組織を病理検査すると、慢性的な出血性の炎症がみられます。病変部は明らかな色素の沈着を残すので、診断は比較的容易です。

積極的な治療の必要はありません。症状の程度によって、血管強化剤、止血剤、抗炎症剤などが使用されます。病因を絶つ根本治療ではなく、対症的治療にとどまります。副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の外用が有効なことがあります。静脈瘤を伴う例には、弾力包帯、弾力ストッキングを使用します。

慢性かつ進行性で一進一退を繰り返し難治性ですが、自然軽快もあり得ます。

衣類の接触とともに、使用中の薬剤などが疾患を悪化させているかどうかを観察し、日常生活の中で関係していると思われるものがあれば、それを避けるようにします。下肢の血液の循環に負担をかけないように心掛けることが大切で、長時間の歩行、立ち仕事などは避けるようにします。

🇹🇴特発性視神経炎

視神経の髄鞘が脱落し、視神経機能に障害が起こる眼疾

特発性視神経炎とは、片目または両目に急性の視カ低下がみられ、視神経の脱髄が起こる眼疾。特発性とは原因が不明という意味で、ほかの原因が除外されますが、多発性硬化症の初発もしくは部分症としてみられることがあります。

20歳代から50歳代に多く、男性より女性のほうに好発します。視力低下が生じる数日前から、あるいはほぼ同時に眼球を動かすと痛みを感じたり、眼球の後ろに種々の程度の痛みを感じたりします。見ようとするところが見えない中心暗点型の症状が多く、全体に霧がかかったように見えたり、視野の周辺の一部からだんだん見えにくくなることもあります。

この特発性視神経炎は、視神経の眼球壁内に起こる視神経乳頭炎と、これより後方に起こる球後視神経炎の2種類に分けられます。視神経乳頭炎は、眼底の視神経の先端部分に当たる乳頭や、これに近い部分の視神経に赤いはれを示します。 球後視神経炎は、眼球の後方に炎症があってはれが見えず、乳頭が正常に見えます。

視神経乳頭炎は、比較的改善率がよいものです。球後視神経炎は、視神経以外の脊髄(せきずい)や、大脳の白質という神経線維の集まりにも病変が及び、しばしば軽快と悪化を繰り返す多発性硬化症の一部になることもあります。多発性硬化症では、目の障害だけでなく、手足のまひなどの運動失調、感覚障害、認知症などが出現することがあります。

特発性視神経炎の真の原因は不明ながら、神経の炎症によって、視神経の回りを取り囲む髄鞘(ずいしょう)が脱落し、視神経機能に障害が起こると推定されています。一部は何らかのウイルス感染が契機となって、髄鞘の構成蛋白(たんぱく)や脂質に対する自己免疫反応が関与すると考えられています。

特発性視神経炎の検査と診断と治療

医師による診断では、瞳孔(どうこう)の反応検査と、検眼鏡による眼底検査、及び視野検査を行って診断を確定した後、視神経の病変を直接見ることができる眼窩(がんか)部や頭部のMRI検査が行われます。

片眼性の特発性視神経炎の場合は、瞳孔の対光反応に左右差があることが特徴的で、瞳孔の反応検査は診断上重要です。急性期の視神経炎では、眼底検査で視神経乳頭のはれが認められることが多いのですが、炎症が眼球より後方の視神経に限られている場合には、眼底は全く正常の所見を示しますが、慢性期の視神経炎では視神経委縮を示します。

また、周辺視野検査により、周辺部の視野欠損が発見されることがあります。

特発性視神経炎には自然回復傾向の強いものもあって、特に治療しなくても数カ月のうちに改善されるものもあります。病状によっては、副じん皮質ステロイド剤の点滴治療と、その後の内服により治癒が早まり、再発が防止できることがあります。副腎皮質ステロイド剤以外では、神経保護のビタミンB12製剤の内服を行います。

多発性硬化症による視神経炎、高度の視力障害を起こす難治性再発性の視神経炎の場合には、副じん皮質ステロイド剤の反応も悪く、長期間の投与により副作用も懸念されることがありますので、インターフェロンβ(ベータ)―1b治療が悪化の抑制、再発防止に有効です。

治療により視力がいったん回復しても、原因によっては再発を繰り返し、徐々に視力が悪化することもありますし、片目だけに現れた症状が両目に現れることもありますので、定期的な経過観察は必要です。予後の比較的よい視神経炎では、10年後にも視力が1.0以上を維持します。

🇹🇴手足口病

手足口(てあしくち)病は、腸管系ウイルスによって起こる感染症で、手のひらや足の裏に小さな水ぶくれ、口の中の粘膜に小さな発疹(はっしん)がたくさんできます。軽い病気ながら、感染力はかなり強く、夏を中心に5月から9月にかけて、乳幼児の間で流行します。

代表的な原因ウイルスはコクサッキーA16、あるいはエンテロ71という名前のウイルスですが、原因となるウイルスがそれ以外にも何種類もあるため、以前にかかったことがある乳幼児でも、またかかることがあります。

潜伏期は2~7日で、多くの乳幼児はほとんど前駆症状なしに発症します。発熱も約半数にみられますが、高熱になることはあまりなく、3日以内に解熱します。

手足の水ぶくれは、痛くありません。ひざやおしりなどにも、多数の水ぶくれが現れることもあります。おしりだけの場合もあり、おむつかぶれと間違えられることも。これらの水ぶくれは、一週間ほどで消失します。

口の中はひどく痛くなることがあるので、酸っぱい物、辛い物など刺激性の食べ物は避け、乳児では脱水を起こさないように水分を与えましょう。口内痛が強くて、全く飲んだり食べたりできない時や、高熱が続いて、頭痛を訴えたり、嘔吐(おうと)を繰り返す時は、早めに診察を受けましょう。無菌性髄膜炎を合併して起こすこともあります。

🇹🇴手汗

手のひらに汗が異常に分泌する症状

手汗とは、日常生活をする上でいろいろな障害をもたらすほど、手のひらに発汗する症状。多汗症の一種で、手掌(しゅしょう)多汗症とも呼ばれます。

多汗症は、体温の調節に必要な範囲を超えて、汗が異常に分泌する症状。全身性の多汗症と、手のひら、足の裏、腋(わき)の下、頭、鼻の頭などにみられる局所性の多汗症があります。

人間は意外と多くの場面で汗をかいており、発汗は体温調節の役割を担う大切な生理機能の一つでもあります。そのため、どのくらいの汗の量で多汗症と呼べるのか分類は難しいのですが、多汗症の場合は気温の変化や運動などとは関係なしに汗をかくことが多いので、心当たりがある人は少し振り返ってみるといいでしょう。特に疾患と考える必要はないにしろ、汗をかくということは日常の生活と密接に関係していることなので、さまざまな悩みや問題を抱えている人が多いのも事実です。

局所性の多汗症は、汗をかきやすいという体質に、生活環境や精神的な影響が加わったものが大部分です。肥満、過度なダイエット、生活リズムの乱れ、性格的に神経質だったり、緊張しがちなタイプだったりと、ストレスをためやすい状況下に身を置いていることが原因となっています。

これらの原因の背後には、交感神経の働きが大きく関係しています。交感神経は、副交感神経とうまくバランスを取り合いながら、人間が日々健康で過ごせるように作用しているものです。この交感神経がストレスなどさまざまな原因により過敏になってしまうと、体温上昇とは無関係に汗を大量にかくようになり、汗をかくことでさらなるストレスを作り出す悪循環に陥ってしまいます。

全身性の多汗症も、多くは体質的なものです。比較的急激に生じた場合には、代謝機能や自律神経などが障害される、いろいろな疾患が潜んでいる可能性があります。

局所性の多汗症の一種である手汗が起こる原因は、汗をかきやすいという体質に、生活環境や精神的な影響が加わり、発汗を促す交感神経が通常よりも過敏になって起こるものが大部分です。

本人には意識できない幼少期から発症することが多いものの、10歳代から30歳代になって治療を受け始める人が多く認められます。足の裏に異常なほど大量の汗をかく足蹠(そくせき)多汗症(足底多汗症)を伴うことも、しばしばあります。発症に男女差は認められていません。

同じ手汗でも、人によって汗の出る量が異なります。同じ人でも、汗の出る量(発汗量)は時間帯やその日の気温、緊張の度合いによっても違いますが、レベルは3段階に分けられています。

レベル1は、手が湿っている程度。見た目にはわかりにくいものの、触ると汗ばんでいることがわかります。光を反射して汗がキラキラと光ります。

レベル2は、手に水滴ができてぬれており、見た目でも汗をかいていることがわかります。

レベル3は、盛んに水滴ができ、汗が滴り落ちます。

手のひらから汗が滴り落ちるように出る場合は、「手を動かすと汗が飛び散る」「教科書やノート、書類がぬれてしまう」「握手ができない」「手が滑って物を落としやすい」など、さまざまな支障が生じます。

本人にとっては非常につらい状態なので親や周囲の人に相談するのですが、汗っかきの体質ということで片付けられてしまい、治療を受けることなく悩みながら成長していくケースが多いようです。

そのため、性格が消極的になる、集中力が低下するなどの精神的な負担も、背負い込むことになります。その結果、学業成績の低下やいじめの原因となり、不登校や引きこもりに至るケースも認められます。

手汗による支障が改善しない場合は、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診し、本人に合った治療を受けることが勧められます。

手汗の治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、皮膚に塗ると汗腺(かんせん)をふさいで一時的に汗を抑える効果がある局所制汗剤として、20パーセントの塩化アルミニウム液や、5パーセントのホルマリン・アルコール液を手のひらの汗が多い部分に塗布します。1日1〜2回塗り、乾いてからパウダーを振り掛けておきます。

精神的な緊張が強くて汗をかくような場合には、精神安定剤を内服することも有効です。

イオン浸透療法(イオントフォレーシス療法)を行うこともあります。水道水に浸した手のひらの部位に、弱い電流を20分ほど流して発汗を抑制するもので、個人差はあっても効果が出るまで数週間の集中的な治療が必要です。治療をやめると再発の可能性が高く、副作用として湿疹(しっしん)、かゆみ、皮むけ、水疱(すいほう)などが生じることがあります。

このイオン浸透療法は皮膚科、皮膚泌尿器科で行う治療法ですが、同様の療法が行えるドライオニックと呼ばれる家庭用機器もあります。

局所制汗剤の外用、イオン浸透療法で十分な効果が得られなかった場合は、必要に応じてボトックス注射を行うこともあります。発汗は交感神経の末端から放出されるアセチルコリンという神経伝達物質により、汗腺が刺激されることで促されるため、汗が出やすい部分にボツリヌス注射を打つと、このアセチルコリンの放出が阻害されるため、汗を減らすことができます。

1回の注射による効果は、約半年間持続するとされています。ただし、副作用などのリスクもあります。

交感神経ブロック手術を行って、胸の辺りにある汗の分泌を調節する交感神経を切除することもあります。手術は基本的に、まず片方の交感神経を切除し、その後の体調の経過をみてから、もう一方の交感神経も切除するかどうかを決定します。

p>手術のメリットは成功率が高く効果に永続性があるということ、デメリットは交感神経を一度切除してしまうと元には戻らないということと、副作用として代償性発汗になる場合がほとんどであることです。代償性発汗とは、手のひらから汗が出なくなった代わりに、背中や下半身などこれまでと違った部位から大量の発汗が起こるものです。

近年では、内視鏡手術(ETS手術)を行うこともあります。腋の下の皮膚を2~4ミリほど切って、小さなカメラを胸腔(きょうくう)に入れ、モニター画面で胸の中を見ながら、胸の辺りにある汗の分泌を調節する交感神経を見付けて切断します。左右両方の交感神経の切断が必要です。

🇼🇸低HDLコレステロール血症

血液中の脂質成分であるHDLコレステロールが低い状態が継続する疾患

低HDLコレステロール血症とは、血液の中を流れる脂質成分であるHDL(高比重リポ蛋白〔たんぱく〕)コレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl未満と、低い状態が継続する疾患。脂質異常症の一つです。

血液の中には、コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)のほか、リン脂質、遊離脂肪酸といった脂質成分が流れています。コレステロールは細胞膜やホルモンの材料となり、中性脂肪はエネルギーの貯蔵庫などとなり、体の機能を保持するために大切な働きを持っています。これらの脂質は肝臓で作られたり、食事から体に摂取され、血液中の脂質成分の量は保たれ調整されています。

このような調整機能が低下したり、食事からの摂取量が多量になっている状態が脂質異常症で、脂質異常症の一つである低HDLコレステロール血症では、動脈硬化を防ぐ働きを持つHDLコレステロール(善玉コレステロール)の低い状態が継続します。

低HDLコレステロール血症を引き起こす原因として、高糖質(炭水化物)食、多価不飽和脂肪酸食、喫煙、肥満、運動不足などの生活習慣が考えられています。糖尿病、肝臓疾患、腎臓(じんぞう)疾患や、遺伝的な要因が、原因となることもあります。

HDLコレステロール(善玉コレステロール)は、血管や組織に蓄積した余剰なコレステロールを引き抜いて運び、肝臓に戻すというコレステロール逆転送系の中心的役割を担っています。

低HDLコレステロール血症により、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の低い状態が継続すると、血液の清浄化機能が低下することにより、血液の中を流れる脂質成分であるLDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)が増加し、LDLは血管壁に取り込まれて蓄積し、やがて動脈硬化を起こします。

動脈硬化が徐々に進行すると、心肺機能が低下することにより、心筋梗塞(こうそく)など生命にかかわる疾患へ進展することがあります。また、脳梗塞に進展することもあり、深刻な後遺症が残ることもあります。

低HDLコレステロール血症は多くの場合、初期の段階では体の自覚症状は全くないので、血液検査で初めてわかることがほとんどです。無症状であっても、動脈硬化を予防する正しい治療が必要なので、自己判断せずに医療機関に相談して下さい。内科、ないし内分泌・代謝科が、担当の診療科です。

低HDLコレステロール血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値は、これらから計算することもできますが、直接、測定する方法もあります。

脂質異常症の診断基準では、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl以下を低HDLコレステロール血症とするほか、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上を高LDLコレステロール血症、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が120〜139mg/dl以上を境界域高LDLコレステロール血症、中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上を高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)とします。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法と運動療法を行ないます。

食餌療法では、野菜や果物を豊富に摂取し、蛋白質は青魚や大豆製品などから摂取するといった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。症状が軽い場合は、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の数値を正常にすることができます。

運動療法では、積極的に運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、睡眠不足など生活習慣全般を改善することでも、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の減少を抑えて症状の進行を止めることが可能になります。

半年ほど経過しても数値が改善されず、高LDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)を伴う場合は、薬物療法を併用します。

高LDLコレステロール血症が優位な場合は、スタチン薬、レジン薬、ニコチン酸誘導体を使用します。高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)が優位な場合は、フィブラート系薬剤、ニコチン酸誘導体を使用します。

一方、糖尿病に伴う低HDLコレステロール血症では、肝臓や筋肉、脂肪細胞などでインスリンが正常に働かなくなった状態であるインスリン抵抗性の是正や、必要に応じたインスリン投与で改善することもあります。

🇼🇸低LDLコレステロール血症

血液中のLDLコレステロールの濃度が低い値を示す状態

低LDLコレステロール血症とは、血液に含まれるLDL(低比重リポ蛋白〔たんぱく〕)コレステロールの値が低い状態。

明らかな基準の定義はないものの、緩い基準では80mg/dl未満、厳しい基準では25mg/dl未満となっています。

低LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール血症を示す疾患は、原発性(一次性)と続発性(二次性)に分類されます。

続発性(二次性)に LDL(低比重リポ蛋白)コレステロールが低値となる疾患としては、バセドウ病や甲状腺(せん)炎を原因とする甲状腺機能高進症、肝硬変、吸収不良症候群、悪性腫瘍(しゅよう)、低栄養が代表的です。

原発性(一次性)に LDL(低比重リポ蛋白)コレステロールが低値となる疾患には、無βリポ蛋白血症、低βリポ蛋白血症、カイロミクロン停滞病があります。

無βリポ蛋白血症は深刻な結果を招くほど脂質濃度が低下する遺伝性疾患

無βリポ蛋白血症は、血液に含まれる脂質濃度が低下して著しい低脂血症を示す、まれな常染色体劣性遺伝疾患。バッセン・コルンツヴァイク症候群、MTP(ミクロソームトリグリセライド〔中性脂肪〕転送蛋白)欠損症とも呼ばれます。

アポB含有リポ蛋白であるカイロミクロン、VLDL(超低比重リポ蛋白)、LDL(低比重リポ蛋白)が血液中に欠損しており、乳児期から著しい低コレステロール血症、および低トリグリセライド(中性脂肪)血症を来します。

原因は、MTP(ミクロソームトリグリセライド〔中性脂肪〕転送蛋白)遺伝子の変異です。

MTPは、肝臓と小腸で合成されたアポ B 蛋白にトリグリセライド(中性脂肪)が転送され、VLDL(超低比重リポ蛋白)とカイロミクロン粒子が形成される過程に不可欠。肝臓での VLDL(超低比重リポ蛋白)の産生により末梢(まっしょう)組織に必要なコレステロールの輸送がなされ、小腸でのカイロミクロンの形成により脂肪が吸収されます。MTPの欠損により、トリグリセライド(中性脂肪)と結合しないアポ B蛋白は速やかに分解されて、血液中に分泌されません。

本来なら、トリグリセライド(中性脂肪)と結合したアポB蛋白は、LDL(低比重リポ蛋白)と略されるβリポ蛋白、VLDL(超低比重リポ蛋白)と略されるプレβリポ蛋白として血液中に分泌され、脂溶性の物質を吸収したり、運搬したりします。従って、血液中にβリポ蛋白、プレβリポ蛋白がないと、脂肪やビタミンEを始めとした脂溶性ビタミンなど多くの栄養素が臓器や組織に運ばれず、さまざまな症状が起こってきます。

無βリポ蛋白血症の症状はまず乳児期に現れ、発育不全がみられます。脂肪吸収の障害により、授乳開始とともに便に過度の脂肪が含まれる脂肪便という状態になり、便は脂っぽく、悪臭があり、水に浮かびやすくなります。慢性下痢、嘔吐(おうと)も生じます。

また、ビタミンEを始めとした脂溶性ビタミンの吸収障害により、思春期までに網膜色素変性による夜盲、視野狭窄(きょうさく)、視力低下などの目の症状が生じ、失明する可能性もあります。中枢神経系の損傷による運動失調症や精神遅滞、末梢神経系の損傷による知覚低下や腱(けん)反射消失などが起きる可能性もあります。

未治療のケースでは、30歳前後までに中枢神経系の損傷により、歩行など通常の日常生活に必要な基本的な活動が著しく障害されることもあります。

低βリポ蛋白血症は低LDLコレステロール血症を示す遺伝性疾患

低βリポ蛋白血症は、低LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール血症を示す常染色体優性遺伝疾患。家族性低βリポ蛋白血症とも呼ばれます。

その原因遺伝子として、アポBとPCSK9(プロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)が知られています。アポB変異の大部分は、短縮アポBを生成し、VLDL(超低比重リポ蛋白)の分泌障害と異化促進の結果、血液中のアポB濃度が低下します。

人間の遺伝子は、父親由来と母親由来の2つが一組となってできています。LDL(低比重リポ蛋白)受容体やこれを働かせる遺伝子の両方に異常がある場合をホモ接合体と呼び、いずれか一方のみに異常が認められる場合をヘテロ接合体と呼びます。ホモ接合体のみならずヘテロ接合体も、低LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール血症を示します。

低βリポ蛋白血症ヘテロ接合体の発症者では、短縮アポBを生成して、血液中の脂質であるコレステロールの濃度が軽度に低下し、一般に、総コレステロール120mg/dl未満、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール80mg/dl未満を示します。同じ血液中の脂質である中性脂肪(トリグリセライド)の濃度は、正常の値を示します。

低コレステロール血症を示すことを除いて、自覚症状がないことが多いものの、肝臓からのVLDL(超低比重リポ蛋白)の分泌不全のために、脂肪肝や胆石症の合併が増加することもあります。なお、自覚症状がないケースでは、発育も正常であり、かつ心血管病にかかるリスクが低いため、通常人より長生きするという報告もあります。

低βリポ蛋白血症ホモ接合体の発症者では、より短い短縮アポBを生成して、血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)の濃度が低下し、一般に、総コレステロール80mg/dl未満、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール20mg/dl未満を示すか、非常に短い短縮アポBを生成してアポB合成が欠損し、無βリポ蛋白血症と類似した症状を示します。

アポB合成が欠損した場合の症状は、まず乳児期に現れ、発育不全がみられます。脂肪吸収の障害により、授乳開始とともに便に過度の脂肪が含まれる脂肪便という状態になり、便は脂っぽく、悪臭があり、水に浮かびやすくなります。慢性下痢、嘔吐も生じます。

また、ビタミンEを始めとした脂溶性ビタミンの吸収障害により、思春期までに網膜色素変性による夜盲、視野狭窄、視力低下などの目の症状が生じ、失明する可能性もあります。中枢神経系の損傷による運動失調症や精神遅滞、末梢神経系の損傷による知覚低下や腱反射消失などが起きる可能性もあります。

また、末梢細胞へのコレステロール供給が低下するために、赤血球は有棘(ゆうきょく)赤血球となります。肝臓からのVLDL(超低比重リポ蛋白)の分泌不全のため、脂肪肝を示すこともあります。

未治療のケースでは、30歳前後までに中枢神経系の損傷により、歩行など通常の日常生活に必要な基本的な活動が著しく障害されることもあります。

アポB合成が欠損した場合は通常、小児期に発見されますが、まれに成人期になって偶然発見されるケースもあります。

カイロミクロン停滞病は遺伝子の異常により、体内でカイロミクロンを合成できなくなる疾患

カイロミクロン停滞病は、小腸でカイロミクロンを合成することができないために、脂肪吸収不良が生じる遺伝性疾患。アンダーソン病とも呼ばれます。

SARA2遺伝子の異常による非常にまれな疾患であり、常染色体劣性遺伝形式をとると考えられています。

小腸粘膜細胞内の細胞小器官である小胞体では、中性脂肪を分解する酵素のリポ蛋白であるカイロミクロンの分泌は正常に行われるものの、SARA2遺伝子の異常により、カイロミクロンの合成を行う細胞小器官であるゴルジ体へと、カイロミクロンを輸送することができないために、カイロミクロンが合成できず小腸粘膜細胞内で停滞します。

一方、肝臓における、中性脂肪を分解する酵素のリポ蛋白であるVLDL(超低比重リポ蛋白)の分泌、合成は損なわれません。

小腸でカイロミクロンが合成できない結果、食事由来の脂肪と脂溶性ビタミンの小腸における吸収が大きく損なわれます。動物性蛋白の摂取不足に伴って、低LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール血症を生じることもあります。

カイロミクロン停滞病の症状はまず乳児期に現れ、発育不全がみられます。便に過度の脂肪が含まれる脂肪便という状態になり、便は脂っぽく、悪臭があり、水に浮かびやすくなります。

中枢神経系が損傷し、運動失調症と精神遅滞が起きる可能性もあります。未治療の多くのケースでは、30歳前後までに中枢神経系の障害により、通常の日常生活に必要な基本的な活動が著しく障害されます。

低LDLコレステロール血症の検査と診断と治療

無βリポ蛋白血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。

血中の総コレステロールの値が50mg/dl未満、血中のトリグリセライド(中性脂肪)の値が15mg/dl 未満で、特徴的な脂肪便、神経症状、目の症状が認められる場合に、無βリポ蛋白血症と確定します。

鑑別する疾患には、家族性低βリポ蛋白血症、カイロミクロン停滞病(アンダーソン病)、甲状腺機能高進症があります。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、脂溶性ビタミン、特にビタミンEのサプリメントを使用し、多量に補充します。

無βリポ蛋白血症は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するために治癒しませんが、幼児には1日1000〜2000mg、成人には5000〜10000mgの脂溶性ビタミンを長期にわたって大量に補充することによって、中枢神経系の損傷の発生と進行を遅らせることができます。

消化器症状に対しては、脂肪の摂取、特に長鎖脂肪酸の摂取を制限します。栄養障害に対しては、カイロミクロンを経ずに吸収される中鎖脂肪酸を補充することもあります。

低βリポ蛋白血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のLDL(低比重リポ蛋白)コレステロールの低値を確認し、リポ蛋白の電気泳動で短縮アポBを検出することで、低βリポ蛋白血症と確定します。

低βリポ蛋白血症ホモ接合体の発症者で、アポB合成が欠損している場合は、血中の総コレステロール値は25〜45 mg/dlで、そのほとんどはHDL(高比重リポ蛋白)コレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)10 mg/dl未満であることが多く、アポBは検出感度以下、脂溶性ビタミンA・E・Kも低値を示します。

低βリポ蛋白血症と無βリポ蛋白血症は、家族歴によって鑑別します。低βリポ蛋白血症が常染色体優性遺伝であるのに対し、無βリポ蛋白血症は常染色体劣性遺伝疾患であるので、家族調査で無βリポ蛋白血症との鑑別が可能となります。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、低βリポ蛋白血症ヘテロ接合体の発症者、および低値であるが検出可能なLDL(低比重リポ蛋白)を有する低βリポ蛋白血症ホモ接合体の発症者の場合、一般的に何も行ないません。

LDL(低比重リポ蛋白)の欠損する低βリポ蛋白血症ホモ接合体の発症者の場合、無βリポ蛋白血症に対する治療と同様、脂溶性ビタミン、特にビタミンEのサプリメントを使用し、多量に補充します。

幼児には1日1000〜2000mg、成人には5000〜10000mgの脂溶性ビタミンを長期にわたって大量に補充することによって、中枢神経系の損傷の発生と進行を遅らせることができます。

消化器症状に対しては、脂肪の摂取、特に長鎖脂肪酸の摂取を制限します。栄養障害に対しては、カイロミクロンを経ずに吸収される中鎖脂肪酸を補充することもあります。

カイロミクロン停滞病の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液に含まれるコレステロール濃度が低く、食後カイロミクロンの欠損する場合に、腸の粘膜を一部採って特殊な染色を行った上で顕微鏡で調べる腸生検を実施します。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、脂肪と脂溶性ビタミン(A、D、E、K)のサプリメントを使用し、補充します。

カイロミクロン停滞病は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するために治癒しませんが、脂肪と脂溶性ビタミンを補充することにより、中枢神経系に対する損傷の発生と進行を遅らせることができます。

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