2022/08/18

🇲🇭腟閉鎖症

女性性管の膣が閉鎖、あるいは狭窄を来した状態

膣(ちつ)閉鎖症とは、先天性あるいは炎症や外傷などによって、女性性管の膣が閉鎖あるいは狭窄(きょうさく)を来した状態。

先天性のものは、胎児期における腟の発生段階の形成異常で、一部が損なわれた状態です。軽度の処女膜閉鎖症から、腟閉鎖症(腟横隔)、膣狭窄症まで、程度はさまざまです。

処女膜閉鎖症は、腟口部を取り囲むヒダ状のもので通常、中央部は開いている処女膜が、完全にふさがっている状態。そのために閉鎖した腟内や子宮、卵管に月経血、分泌物などがたまり、下腹部痛を起こしたり、しこりを生じたり、腰痛を起こしたりします。また、膀胱(ぼうこう)刺激症状や排便痛を起こすこともあります。

腟閉鎖症(腟横隔)は、ほとんどが膣の上部3分の1と膣の下部3分の2との境界部に好発し、腎臓(じんぞう)の奇形を合併することもあります。処女膜閉鎖症と同様に、月経が起こっても、流出路が閉鎖しているために月経血が排出されずに腟内や子宮、卵管にたまり、月1回、定期的にかなり強い下腹部痛を起こします。

月経血の貯留が高度となると、下腹部にしこりを感じ、排尿障害、排便障害、持続的な腹痛が起こることもあります。大量の貯留が長期間放置されると、子宮や膣が過伸展、変形して、後に不妊症の原因となることもあります。

膣狭窄症は、胎児期におけるミュラー管という組織の発生障害によって生じる先天性のものと、小児期のジフテリアや、はしか(麻疹〔ましん〕)などによる膣炎の後遺症として生じた癒着による後天性のものとがあります。狭窄の程度によって全く症状を欠く場合もありますが、高度の場合は月経血の排出障害、分泌物の貯留を起こしたり、膣炎が起きたり、異常な下り物があることもあります。膣が狭いために、性交渉に問題を抱えます。

いずれも思春期に初経がこないため婦人科を受診し、発見される例がほとんどです。

腟閉鎖症の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科、あるいは小児科の医師による診断は、内診を中心に、超音波検査やCT検査で腟や子宮に液体がたまっていないかどうかを検査します。血液中ホルモン検査、腎臓と尿管の検査などを行うこともあります。

医師による処女膜閉鎖症、腟閉鎖症(腟横隔)の治療は簡単で、閉鎖部位を切開して、月経血や分泌物などの通り道を作れば解決し、後遺症もなく治ります。軽度の処女膜閉鎖症では、簡単な十字切開手術ですみます。膣閉鎖症では、膜様閉鎖では切開のみで問題ありませんが、閉鎖部が厚い場合には輪状切開を行います。この輪状切開を行った場合には、手術後の瘢痕(はんこん)性委縮に注意する必要があります。

処女膜閉鎖症、膣閉鎖症の場合には、閉鎖している部分を切開して完治するので性交渉も可能になります。卵巣および子宮は正常なので、その後の月経も含めて問題はなくなり、正常な妊娠、出産も可能になります。ただし、長期間放置して診断が遅れた場合には、卵管卵巣の壊死(えし)や破裂による腹膜炎を来すことがあります。

膣狭窄症の治療は、程度に応じて頸管(けいかん)拡張器による膣腔(ちつくう)の拡大、狭窄部の小切開、さらに全体的膣形成までさまざまな手術が行われます。

🇲🇭腟壁裂傷

性交時や分娩時に、腟壁の裂傷を生じて出血する状態

腟壁(ちつへき)裂傷とは、無理な力が加わった時に女性の腟壁が裂けて出血する状態。性交による腟壁裂傷と、分娩(ぶんべん)時に発生する腟壁裂傷とがあります。

女性生殖器系の器官である腟は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。腟の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。腟壁は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

性交による腟壁裂傷は、まだ経験の浅い女性に多く、特に粗暴な行為や器具を使用した場合に多くみられます。腟入口部から最深部の腟円蓋(えんがい)まで幅広い腟壁の裂傷の形をとりますが、その多くは腟壁内の縦に走る裂傷として認められており、特に腟の前壁と後壁のひだの薄い粘膜に裂傷が起こりやすい傾向があります。

症状は、性交時の痛みと出血。出血は、鮮血で多量の場合が多くみられます。膣の入口部にある処女膜が裂傷を起こして出血する場合もありますが、こちらはすぐに止血する場合がほとんどなのに対して、膣壁が男性の陰茎などによって機械的に刺激を受けて裂傷を招いた場合には、生々しい血が流れ出し、出血の量も多くなる傾向があります。

止血しにくい際は縫合が必要ですので、すぐに婦人科、産婦人科で治療を受ける必要があります。恥ずかしさのため、受診をためらっていると危険な場合もあります。

性交経験の長い経産婦でも、不自然な体位や粗暴な行為により、腟壁に裂傷を起こすことがあります。また、更年期や閉経以降の女性は、女性のホルモンの1つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の消退とともに、腟壁の委縮が起こって伸縮性が乏しくなるため、性交渉によって腟壁に裂傷を生じることがあります。

一方、分娩時に発生する腟壁裂傷は、胎児が産道である膣を通って出てくる際に、会陰(えいん)裂傷とともに生じることがあります。腟は厚くて伸展性に優れていますが、胎児の頭の大きさと産婦の腟や外陰部の伸び具合のアンバランスで一般的に起こります。

ほかに、急速な分娩進行、胎児の姿勢の異常、大きな児頭などでも起こります。特に、高年初産の産婦では産道の伸展が悪くなっていることが多いため、腟壁裂傷、会陰裂傷を生じやすくなります。

腟壁裂傷は膣の下3分の1に生じやすく、かすり傷程度から、時には肛門(こうもん)から直腸の裂傷を伴う重症な場合もあります。分娩直後から、腟壁裂傷を生じた部位からの持続的な出血があり、時には急速出血、多量出血となり、極端に血圧が下がるなどのショックとなる場合もあります。

産婦人科の医師の管理の下で分娩する場合には、直ちに縫合、止血などの適切な処置が講じられます。

腟壁裂傷の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、腟鏡を用いた視診によって腟壁の裂傷の部位、裂傷の程度を確認します。分娩時に発生する腟壁裂傷に対しては、直腸診によって直腸の裂傷の有無も確認します。

医師による治療では、裂傷の程度にもよりますが、出血が断続的に起こり止まらない場合は縫合、止血処置を行います。局所麻酔でも可能ですが、裂傷が広範な場合は全身麻酔にて、吸収糸という抜糸しなくても自然に吸収される糸で、裂傷の部位を縫い合わせます。処置後は、抗菌薬の投与を数日間行います。

縫合処置ができない場合は、ガーゼで裂傷の部位を圧迫したり、裂傷の部位にドレーン(誘導管)という合成樹脂性のゴムを留置し、貯留する血液や浸出液を体外へ排出することもあります。

🇫🇲知的障害

出生時や乳幼児期に知的能力が低下した状態

知的障害とは、知的能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態で、発達障害の1つ。かつては、精神薄弱とか精神遅滞という言葉が使われていましたが、日本の法律用語、行政用語では、知的障害という表現で統一されるようになっています。

知的能力とは、実際の日常生活において自分で物事を判断したり、必要に応じて適切な行動を行う能力であるといえます。一般的には、金銭の管理、読み書き、計算など、頭脳を使う知的行動を指します。臨床的には、知能検査、ないし幼児では発達検査を行って、知能指数が70以下の場合には、知的障害としてさまざまな援助の対象とされます。

療育手帳が交付され、各種料金の免除などの特典が与えられ、障害年金や特別障害者手当などの制度も利用できます。

知的能力の低下した状態には、痴呆(ちほう)もあります。こちらは、いったん知的能力が正常に発達した後に、何らかの理由で二次的に低下するもので、老年痴呆はその代表例です。知的障害は痴呆と違って、生まれた時点、あるいは早期の乳幼児期に知的能力の発達そのものがあまり進まない状態です。

知的障害とはどのような障害なのか、日本の法律では定義はされていませんが、厚生労働省の平成17年調査によると、知的障害のある人は54万7000人で、そのうち施設で暮らしている人が12万8000人、地域で暮らしている人は41万9000人です。現在、日本国内で運営されている施設は、3600を数えています。

知的障害を起こす要因は、おおまかに3つに分けて考えられています。

1つは生理的要因で、体には特別の異常が見られませんが、脳の発達障害によって知能が低い水準に偏ったと考えられるものです。生理的要因の知的障害がある親からの遺伝や、知的障害がない親から偶然に、知能指数が低くなる遺伝子の組み合わせで生まれたことなどが原因。

知的障害者の大部分はこのタイプで、合併症はないことが多く、健康状態はおおむね良好です。本人、家族などの周囲とも、障害にはっきりと気付かずに社会生活を営んでいて、障害の自認がない場合も多く見受けられます。

次は病理的要因で、脳に何らかの病気あるいは損傷があって、知能の発達が妨げられるものです。例えば、乳幼児期の脳外傷、髄膜炎や脳炎などの感染症、フェニールケトン尿症などの代謝異常症、ダウン症などの染色体異常などがあり、出産の際の障害も重要なものです。胎児の時期に母親が風疹(ふうしん)、梅毒などに感染することや、有機水銀など体外から入った物質の中毒によるものもあります。

この病理的要因で知的障害を起こす場合、脳性麻痺(まひ)やてんかんなどの脳の障害や、心臓病などの内部障害を合併していることも多く、身体的にも健康ではないことが多くなります。

第3は心理的、社会的要因で、知的発達に著しく不適切な環境に置かれている場合であり、養育者の虐待や会話の不足がその典型例です。リハビリによって知能が回復することが可能。

症状の現れ方については、ダウン症などの 染色体異常による場合は、身体奇形を伴うことが多く、出産直後に判明するものも少なくありません。身体発達に異常がない場合には、乳幼児の発達課題を乗り越えることができず、少しずつ明らかになってくることが多く認められます。

言葉の遅れ、遊びの不得手、体の動きの不器用さなどから判明してきます。知的能力の遅れだけではなく、社会生活への適応にも難のあることがみえてきます。

読み書き、計算など限定された部分の発達障害や、全体としての発達が水準以下だけれど部分的にずば抜けた能力を発揮する子供は、療育の上では別に考えるのがよいでしょう。

また、かつての日本では知的障害を3段階に分けて、重度知的障害を白痴、中度知的障害を痴愚、軽度知的障害を軽愚と呼んでいましたが、現在では国際疾病分類に合わせて、最重度、重度、中度、軽度の4段階に分けています。

最重度は、知能指数ないし発達指数が20以下。重度は、知能指数ないし発達指数が20~35程度。中度は、知能指数ないし発達指数が35~50程度。軽度は、知能指数ないし発達指数が50~70程度。

知的障害の検査と診断と治療

兄弟姉妹と比べて、あるいは近所の子供と比べて、自分の子供は発達が遅いのではないかという心配があれば、成長障害や身体的な病気の有無も含めて、小児科医、児童精神科医、小児神経専門医を始めとした医師の診察を受ける必要があります。

医師による診断では、面接や診察、質問用紙、知的水準を測る知能検査、ないし幼児では発達検査などを行って、症状を調べます。これらの検査は、発達の遅れている点を明らかにするだけでなく、子供の優れた能力を見いだすことにもなります。

専門医であっても、一度の診察や検査で長期的な発達の予測をすることは困難です。時間を空けて診察し、発達の経過も併せて判断することが必要です。

しかしながら、フェニールケトン尿症や被虐待児など、ごく一部の場合を除けば、知的障害に対する医学的治療はありません。元来が知的機能の遅れであり、その基礎は大脳皮質に存在する神経細胞の働きの弱さにあるため、薬物によって治したり、知能段階を高めることは不可能とされています。

合併する身体の病気が予想される場合には、必要な検査を定期的に行うことがあります。例えば、てんかんの合併が考えられる場合には、脳波検査を行います。もちろん、合併症の症状を改善させる治療も行います。

知的障害に対する医学的治療はないため、治療の目標は一人ひとりの子供に応じた教育と訓練に置かれます。つまり、現在の知能に沿った生活能力を訓練して、その知能段階で生きていける能力を開発することが、目標となります。身体機能訓練、言語訓練、作業療法、心理カウンセリングなどを開始し、現実的で達成可能な目標を定め、教育と訓練を行うことにより、子供の持つ発達の可能性を最大限に発揮させることができます。

心理的な問題、自傷行為などの行動の問題に対しては、カウンセリングや環境の調整を行います。十分に行き届いた指導やサポートのためには、個別や少人数集団における特別な教育環境が必要になります。

長期的には、身の回りのことが一人でできるようになること、将来の職業につながるような技能を身に着け、社会に適応していくことが目標となります。

知的障害の子供の抱える問題点は、年齢や発達段階によって変化します。周囲の人にとって大切なことは、年齢や発達の段階によって直面するハンディキャップを理解し、子供の能力に見合った教育手段を選ぶことです。小児科医などの医師、発達相談、地域の発達支援プログラムなどを利用して、情報を得るとよいでしょう。

ある程度の障害のある子供には、療育手帳を交付してもらい、特別児童扶養手当の受給手続きを取ることも大切です。公的援助の内容と手続きについては、児童相談所に相談してください。

🇫🇲遅発月経

一般的な年齢より遅く、15歳以上18歳未満で初めての月経を迎える状態

遅発(ちぱつ)月経とは、一般的な開始年齢より遅れて、15歳以上18歳未満で初めての月経である初潮を迎える状態。晩発(ばんぱつ)月経とも呼ばれます。

月経は、ホルモン分泌の調整をする脳の視床下部と脳下垂体が卵巣を刺激し、それによって卵巣から分泌される女性ホルモンが子宮に働き掛けて起こる出血です。

女児が初めての月経である初潮を迎える時期にはそれぞれ個人差がありますが、一般的には、12歳が平均的な年齢とされ、14歳までにはほとんどの女児が月経を経験しています。

しかし、遅発月経の場合は、その平均的な年齢よりも遅れて月経が始まることになります。そして、18歳になっても月経が始まらない場合は、原発性無月経と呼ばれます。

15歳以上になっても初潮が起きないという場合は、乳房の発育に加えて恥毛や腋毛(えきもう)の発毛など、ほかの二次性徴も遅いのが普通です。12〜13歳になっても乳房の発育が始まらない、14歳になっても恥毛が発毛しない、そして遅発月経であるという場合は、遅発思春期(思春期遅発症)と呼ばれます。

遅発月経の原因には、さまざまなものが考えられます。体質が関係しているために、明白な原因がなく、ただ初潮が遅れているだけというような場合は、特に大きな問題はないといえるでしょう。

治療が必要になる原因には、視床下部や脳下垂体など中枢性の異常があり、刺激が弱いために卵巣からの女性ホルモンの分泌が年齢に応じて増加しないために、月経が起こりません。

また、生まれ付きの遺伝的なものとして、形態異常や染色体異常があると、月経が起こりません。

このうち形態異常には、膣(ちつ)閉鎖または処女膜閉鎖があります。膣や膣の入り口が閉鎖しているために、実際には月経があるのに、外へ流れ出てこないために、遅発月経と思われているものです。この場合は、脳下垂体や卵巣機能は正常のことが多く、女性ホルモン分泌は正常で二次性徴も認められて乳房などは発達しており、周期的な下腹部痛が繰り返されるのが特徴です。

そのほか、卵巣や子宮が先天的になかったり、発育が不完全の場合には、月経が起こりません。

染色体異常としては、ターナー症候群、精巣性女性化症候群、副腎(ふくじん)性器症候群などがあり、甲状腺(せん)機能低下症など疾患が原因のこともあります。

卵巣形成障害や染色体異常が原因の場合は、乳房の発育、恥毛や腋毛の発毛など、思春期に起こる二次性徴の出現がみられないことが特徴的です。

そのほか、無理なダイエットによるホルモンバランスの乱れ、激しいスポーツによるホルモンバランスの乱れが原因のこともあります。

遅発月経の場合は、結局18歳までに初潮を迎えることがなく、18歳を超えても月経の経験がない原発性無月経へと移行してしまうということが、少なくありません。そのために、遅発月経になる原因は、必然的に原発性無月経の原因と同じになります。

いずれにしても、15歳過ぎても初潮がない場合は、原発性無月経になる可能性がありますから、早めに婦人科、産婦人科、思春期外来を受診することが勧められます。

遅発月経の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科、思春期外来の医師による診断では、まずは問診によって、無月経や遺伝的疾患の家族歴、内科的疾患の有無、薬剤服用の有無を確認します。また、基礎体温を測り、排卵の有無も確認します。

問診、視診、内診などで、子宮や腟の存在の有無、二次性徴の発現の有無を調べた後、血液検査、超音波(エコー)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、腹腔(ふくくう)鏡検査、場合により染色体検査や慢性疾患の検査などを行い、遅発月経の原因を探ります。

婦人科、産婦人科、思春期外来の医師による治療では、原因が体質による単なる遅れだという診断がなされた場合、経過観察のみで特に治療は行いません。

染色体の異常や卵巣の異常が原因の場合は、性ホルモン補充療法により二次性徴の促進と維持を図ります。染色体に異常がない場合は、排卵誘発剤の投与などを行います。

また、膣や処女膜などの閉鎖が原因の場合は、手術療法で閉鎖部の切開を行います。内科的疾患が原因の場合は、その改善を図ります。ダイエットなどが原因の場合は、食生活の見直しやカウンセリングなどを行います。

🇫🇲遅発性尺骨神経まひ

原因となった損傷があってから、かなり遅れて尺骨神経まひを起こす疾患

遅発性尺骨神経まひとは、肘(ちゅう)関節周辺の損傷などの原因となった損傷があってから、かなり遅れて尺骨(しゃくこつ)神経まひを起こす疾患。

骨折、関節炎、先天的奇形、職業上で繰り返す外傷や脱臼(だっきゅう)、腫瘍(しゅよう)などによる肘関節周辺の損傷や変形により、肘(ひじ)の皮膚の表面近くを通る尺骨神経が、肘の屈曲に際して引き伸ばされたり、圧迫されたり、摩擦されることによって、徐々にまひが起こり、手指のしびれや感覚障害、運動障害、筋力低下を生じます。

も多い原因は骨折で半数以上を占め、しかもその4分の3が上腕骨の骨折、中でも手首を甲側に曲げる筋肉が付いている上腕骨外側上顆(がいそくじょうか)の骨折によることが多く見受けられます。

肘関節周辺の損傷後、遅発性尺骨神経まひを発症するまでの期間は、数カ月後、数年後から数十年後にもおよびます。幼児期、小児期に原因となる損傷を受け、中年期、老年期に至ってようやく発症することも少なからず見受けられます。

腕に走る大きな神経の1つである尺骨神経は、肘の内側にある上腕骨内側上顆(ないそくじょうか)という骨の出っ張りの後ろを通り、その先にある骨と靭帯(じんたい)などで形成された肘部管という狭いトンネルをくぐって、手に伸びていきます。トンネル内は狭くゆとりがないため、慢性的な引き伸ばしや圧迫などが加わると、容易に尺骨神経まひを生じます。一般に、まひは利き手側に起こり、両手に同時に発症することはめったにありません。

尺骨神経の働きは、手首の屈曲、小指と薬指の屈曲、親指を人差し指の根元にピッタリつける内転、親指以外の4本の指を外に開く外転、4本の指を互いにくっつける内転です。知覚神経は、小指、薬指の小指側半分、手のひらの小指側半分を支配します。

尺骨神経が引き伸ばされたり、圧迫されて遅発性尺骨神経まひを発症すると、ほとんどの場合は最初、小指と薬指の小指側半分のしびれや痛み、感覚障害が起こってきます。また、尺骨神経は手のひら側と甲側の両方を支配しているので、指全体がしびれるのが特徴です。寝て起きた際にしびれていることが、しばしばあります。肘周辺のだるさ、前腕内側の痛みやしびれが出現することもあります。

尺骨神経の障害が進むと、親指の付け根の母指球筋以外の手内筋が委縮して、やせてきます。特に、手の骨と骨との間の筋肉がやせるので、指を開いたり閉じたりする力が弱くなったり、親指の内転困難によって親指と人指し指で物をつまむ力が弱くなったり、はしが使いづらくなったりなど、細かい動きがうまくできない巧緻(こうち)運動障害が生じます。顔を洗うために手で水をすくったりする動作も、難しくなってきます。

そのほか、重症で慢性の尺骨神経まひでは、手の筋肉が固まって指が曲がったままになる鉤爪(かぎづめ)変形(鷲手〔わして〕変形)と呼ばれる独特の現象が起こることもあります。

小指や薬指にしびれや痛みがあり、肘の内側にある上腕骨内側上顆の後ろをたたくとしびれや痛みが走ったら、整形外科を受診して下さい。一般に、症状が軽いほど、早い回復が見込めます。手指の筋肉にやせ細りがあれば、急を要します。

遅発性尺骨神経まひの検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、損傷した神経の位置を特定するために、神経伝導試験を行います。親指の付け根の母指球筋以外の手内筋の筋委縮や鉤爪変形、両手の親指と人差し指で紙をつまみ、紙を引く時に親指の第1関節が曲がるフローマンサインがあれば、診断がつきます。

感覚の障害がある時は、皮膚の感覚障害が尺骨神経の支

配に一致していて、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢(まっしょう)神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査などを必要に応じて行います。

変形性頸椎(けいつい)症、前斜角筋症候群などの筋委縮性疾患による神経の圧迫や、糖尿病性神経障害などとの鑑別が必要で、問診で首の痛みや肩凝りがあるかなどを聞くこともあります。

整形外科の医師による治療は通常、筋肉の硬直を防ぐために理学療法で治療します。超音波治療、電気治療、ストレッチング、アイスマッサージ、アイシングを主に行い、夜間に肘が過度に曲がるのを避けるために添え木で固定したり、肘の負担を避ける肘用のパッドを着用したりします。

肘の圧迫や長時間の肘の屈曲など、明らかな誘因がある場合には、生活習慣の改善と局所の安静で軽快することが多い傾向にあります。ビタミン剤の内服も有効と考えられます。障害を受けている神経の周囲にブロック注射を行うこともあります。

小児期の骨折によって生じ、肘を伸展させると過剰に外側に反る外反肘など、肘関節周辺の骨折や腫瘍などにより肘関節に変形を起こしている場合や、筋委縮を起こしている場合では、手術が必要になります。手術方法には、腫瘍の切除、腱弓(けんきゅう、オズボーンバンド)の切開、内側上顆の切除、神経の前方移行術などがあります。

腱弓の切開は、尺骨神経を圧迫している膜状の組織を切る手術です。ほかの手術に比べて簡単ですが、再発する場合があります。手術後は、1週間ほど肘を固定します。

内側上顆の切除は、肘を曲げた時に内側上額で尺骨神経が引っ張られ、圧迫されないように、内側上顆を切除します。手術後は、1週間程度の肘の固定が必要です。

神経の前方移行術は、尺骨神経を内側上顆の後ろから前側に移す手術です。手術方法には、前側の皮膚の下に神経を移す皮下前方移行術と、指を握る筋肉の下に移す筋層下前方移行術があります。皮下前方移行術では3週間程度、筋層下前方移行術では1カ月程度、それぞれ肘を固定します。

神経の手術で回復の望みの少ないものは、ほかの筋肉で動かすようにする腱(けん)移行手術が行われます。

手術後は、神経の回復を促すために、ビタミンB12剤を服用したり、低周波療法などを行うこともあります。回復の早さは、神経の障害の程度によって異なります。

🇼🇸遅発性内リンパ水腫

片方の耳に重度の感音難聴が起こった後、長い年月を経てから回転性めまい発作や聴力低下を起こす疾患

遅発性内リンパ水腫(すいしゅ)とは、片方の耳に重度の感音難聴が起こった後、数年〜数十年以上の長い年月を経てから回転性めまい発作や聴力低下を起こし、症状を繰り返す疾患。

原因はよくわかっていませんが、外界の音を感じ取ったり、自らの体の傾きや回転を感知したりする内耳において、その感覚細胞の周りを満たす内リンパ液が過剰に増えることによると考えられています。

先行する重度感音難聴を起こす原因疾患としては、流行性耳下腺(じかせん)炎、外傷、上気道感染、ジフテリア、ウイルス感染、内耳炎、先天性一側聾(いっそくろう)、若年性一側聾などが主なものです。流行性耳下腺炎による片方の耳の重度感音難聴に、遅発性内リンパ水腫が合併して発症する頻度は、15~20パーセントといわれています。

遅発性内リンパ水腫は、先行する重度感音難聴側の耳が原因で起こる同側型と、聞こえのよい側の耳が原因で起こる対側型とに分類されます。まれに、両側型もあります。

同側型の場合は、すでに難聴になっているため、メニエール病によく似た回転性めまい発作の繰り返しが主な症状です。めまいがひどい時には、吐き気、嘔吐(おうと)も伴います。

対側型の場合は、回転性めまい発作の繰り返しと、聞こえのよい側の耳に新たな難聴や耳鳴りが起こります。難聴や耳鳴りも繰り返し、軽くなったり消失したりします。

昔から難聴があってめまいを繰り返すようになったり、聞こえがよいほうの耳の聴力が悪化した場合には、早めに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが重要です。遅発性内リンパ水腫の診断は、専門医でも難しい場合が少なくありません。

遅発性内リンパ水腫の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、聴力検査を行って片耳または両耳に高度難聴ないし全聾を認め、平衡機能検査を行って機能低下を認めることで、遅発性内リンパ水腫と判断します。また、補助検査として内リンパ水腫を調べる検査を行います。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、同様の病態を示すメニエール病に準じて行います。根本的な治療法は見付かっていないため、回転性めまい発作時にその症状を抑えるための薬物による対症療法が基本になります。

回転性めまい発作を起こしている時には、まず、めまいを止める薬を点滴します。落ち着いたら、内リンパ液を減らす薬を点滴。それで聴力が回復したなら、ステロド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)中心の薬による治療が行われます。

具体的には、循環改善剤、血管拡張剤、ビタミン剤、利尿剤などが使われ、末梢(まっしょう)血管の血行をよくしたり、体内の余分な水分を排出することで、内リンパ水腫の状態を緩和します。また、発作時には、鎮痛剤を使用することもあります。

背景に自律神経失調やストレスがある場合は、自律神経調節薬や抗不安剤などを用います。

薬で症状が改善せず、頻繁に再発を繰り返す場合は、内耳の過剰なリンパ液を取り除くなどの手術も行われます。

対側型では、聞こえのよい側の耳の聴力変動や、その悪化が問題になり、めまいに加えて日常生活に大きな影響を及ぼすため、予後は決してよいとはいえません。薬で治らない場合には、長期的にみると両耳の高度難聴になることも考えられます。

遅発性内リンパ水腫の確立された予防方法はありませんが、体調やストレスなどが発症の誘因となりやすいため、普段から規則正しい生活をして、ストレスをためないように心掛けることが重要です。

🇼🇸遅発性扁平母斑

思春期前後になってから肩などに生じる褐色調のあざで、発毛を伴うことも

遅発性扁平母斑(へんぺいぼはん)とは、思春期前後になってから、肩や胸などに生じる比較的大きな褐色調のあざ。 ベッカー母斑とも呼ばれます。

いわゆる茶あざの一種で、先天的もしくは後天的に、顔面および四肢、体幹の体表面に生じる淡褐色から褐色の平らなあざである扁平母斑に類似しており、色素細胞の機能高進により、表皮基底層でメラニン色素が増加するために、遅発性扁平母斑が生じます。

多くは、体の片側に10~20セント前後の大きさで出現します。周囲の正常な皮膚との境界がはっきりしており、表面はザラザラとしています。好発部位は、肩、胸、背中、上腕など体幹と四肢の境界部。

女性よりもやや男性に多く、過半数に少し濃い発毛を伴うという点が特徴といえます。あざの部分に、髪の毛くらいの太さの毛が密に生えることもあります。皮膚から盛り上がることはありません。

発毛を伴う場合は、毛包という毛を包んでいる組織に、メラニン色素を作る色素細胞も入っています。

海水浴や強い日光にさらされた後などに、遅発性扁平母斑が現れることもあります。通常、悪性化することはありません。

遅発性扁平母斑は、多少の色の変化はありますが、自然に消えるあざではありません。色が淡褐色で、肌と違和感が少ないため気にならなければ、強いて治療する必要はありません。気になる場合は、皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科を受診することが勧められます。

遅発性扁平母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による診断は、特徴的な母斑なので、ほとんどは見ただけでつきます。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療は、医療レーザーによる治療が第一選択とされます。レーザー治療の長所は、治療を行った部位に傷跡ができにくいことです。

Qスイッチルビーレーザー、Qスイッチヤグレーザー、炭酸ガスレーザーなどを照射すると、メラニン色素に選択的に吸収され、多くのケースで遅発性扁平母斑(ベッカー母斑)が消失したり軽快します。

有毛性の遅発性扁平母斑では、レーザー治療の前に脱毛するなどの処理できれいにすることが、重要になります。

有毛性の遅発性扁平母斑に対して、脱毛処理を行わずにレーザー治療を行うと、最初は周囲の正常な皮膚と同じ肌色になりますが、時間が経つにつれて、ポツンポツンと毛穴に一致して色素沈着が出てきます。毛包の中のメラニン色素を作る色素細胞が、過剰に反応してしまうためです。

医療機関によっては、剛毛が生えていたり、多毛である際には、Qスイッチヤグレーザーなどと医療脱毛用のレーザーを併用することもあります。

レーザー治療が無効で遅発性扁平母斑が再発する場合には、ドライアイスや液体窒素を使用した治療や、グラインダーで皮膚を削る皮膚剥削(はくさく)術という手術、植皮術などが行われます。傷跡を残すことがあるので、第一選択ではありません。

🟥アフリカ連合、エムポックス緊急宣言終了 新規感染者数減少で拡大抑止

 アフリカ連合(AU)の疾病対策センター(CDC)は23日までに、エムポックス(サル痘)の拡大を受けて2024年8月に出した緊急事態宣言を終了した。22日付。2025年前半から後半にかけて新規感染者数の減少傾向が続き、拡大を抑止できたためとしている。  アフリカでは2024年に...