■目が見えにくいのはなぜ■
物がはっきり見えなくなる原因は、加齢のせいばかりとは限りません。目の怖い病気が潜んでいる場合も、あり得るのです。
人間の目には120万から130万本もの視神経があり、膨大な量の情報を処理していますが、この視神経は年を加えるとともに年間、約5000本が失われていきます。同時に、目の組織自体も活性酸素などによる老化現象によって年々、感度が悪くなっていきます。年とともに、レンズの働きを担う水晶体の弾力性も失われていきますので、物がはっきり見えにくくなっていくのは、ある程度、仕方のないことです。
しかしながら、見えにくさの背後に、失明の危険がある病気が隠れている可能性も、あります。「私も年だから」と放っておくと、病気が進行して取り返しのつかないことになりかねません。
最近の傾向としては、パソコンやゲームの画面に視線を集中して、まばたきが減るために角膜が乾燥するドライアイが、確実に増えています。目の病気に直接つながることはありませんが、注意が必要でしょう。
●自覚症状がある障害
《老眼》
●近くだけが見えにくい
40代くらいから、水晶体の弾力性が失われ、ピントを合わせることができなくなります。そのために、30~35センチの読書距離に焦点を合わせることが、むずかしくなります。
《白内障》
●霧の中にいるようにぼやける ●まぶしく感じる
水晶体を形成する蛋白質が白く濁る病気。水晶体の周りから濁っていくケースが多く、初期には視野の中心は正常に見えるために、気が付かないこともあります。60代で60パーセント、80代ではほとんどの人が、発症しています。
《飛蚊(ひぶん)症》
●黒い点や糸くずなどがちらつく
硝子体(しょうしたい)という眼球を満たすゼリー状の組織の中に濁りが出て、眼球の動きとともに、濁りの影が網膜に落ちて、ちらつきが起こります。加齢による硝子体の変性が原因であれば、それほど心配はありません。
注意が必要なのは、稲妻のような光が見えた後、飛蚊症が生じた場合です。網膜に穴が開いた可能性があり、早急な治療を要します。
●意識的に自分でチェックすべき障害
《網膜剥離(はくり)》
●見えにくい部分がある ●像がゆがむ
網膜に穴が開き、液体が網膜の下に入って網膜が浮き上がり、はがれてしまうもの。どんどんはがれてしまうため、早期発見が大切となります。
発症には二つのピークがあり、30代と50~60代。
《黄斑(おうはん)変性症》
●視野の中心が見えない ●ゆがんで見える ●視力が非常に落ちる
年齢を加えるのにつれて、網膜の中心部にある黄斑部の働きが悪くなって、発症するもので、欧米では失明原因のトップです。日本でも増加傾向にあり、高齢化や食生活の欧米化が原因と見られています。
●自覚症状がなく危険な障害
《緑内障》
眼球内部を満たす液体は、常に入れ替わっています。その出口がふさがれて眼圧が高くなるなどが原因となって、視神経が傷付き、視野が狭くなるもので、徐々に進行します。自分では気付かないことが多いので、眼科での眼圧、眼底、視野の検査が必要です。
潜在的な患者は、40代以降で17人に1人と推定されています。
《糖尿病網膜症》
日本人の失明原因で最も多いのが、実は糖尿病の合併症です。糖尿病は血管に大きな負担がかかるせいで、網膜に張り巡らされた細い血管がもろくなり、破れて出血すると視力障害を引き起こします。
糖尿病の人は白内障、緑内障にもなりやすく、注意が必要です。
■対策へのアドバイス■
●毎日、片目ずつチェック
通常のように両目で見ると、片目の視野が欠けていても、もう一方の目で補ってしまいます。手で片目を隠し、視野が欠けていないか、物がゆがんで見えないか、二重に見えないか、見え方が左右で違わないかなど、チェックを行いましょう。
毎朝、窓の外や鏡などを見て調べる習慣をつけましょう。
●定期検査を受ける
緑内障では、眼圧が正常の範囲内に収まっているケースが6割を占めているため、内科の定期検診では見逃される場合もあります。眼圧に加えて、眼底と視野の検査をすればわかりますので、心配な人は眼科で検診を受けましょう。
また、網膜には痛みの神経がないために、穴が開いたり、出血したりしても、痛みを感じません。とりわけ糖尿病や高血圧、動脈硬化がある人は、眼底の異常を起こしやすいので、年に2回の眼底検査を受けましょう。
●紫外線を避ける
紫外線は化学作用が強く、目の老化を早めます。眼鏡をかけている人は、UV カットのものにし、白内障で光がまぶしく感じられる人は、波長の短い光をカットする黄色やオレンジ、赤系統のサングラスをかけるのがお勧めです。
●パソコンを使いすぎない
人間は通常、1分間に15~20回のまばたきをして、目の乾燥を防いでいます。ところが、パソコンやゲームの画面を見ている際には、極端に減り、5回以下になってしまいます。目は乾燥すれば自然に涙が出て潤いますが、高齢になると涙の分泌が減るために、角膜が乾いてトラブルも起こりやすくなります。
「目が疲れたな」と自覚したら、目薬を差すなどして注意しましょう。目薬の中でも、防腐剤の入っていない人工涙液の使用がお勧めです。
●緑黄色野菜をたっぷりと
目の老化を予防する栄養素を含む食材としては、抗酸化作用のあるビタミンを含む緑色野菜と黄色野菜、いわゆる緑黄色野菜がお勧めです。
また、ビタミンとともに最近、注目されているのがルテインで、ホウレンソウやブロッコリーなどに豊富に含まれています。ルテインは目の水晶体や黄斑部に分布していますが、人間の体内では作ることができないため、食物から摂取しなければなりません。
ルテインが不足すると、白内障や黄斑変性症のリスクが高まると見なされています。